説明

電磁波吸収性熱伝導シート、及び、電子機器

【課題】熱伝導特性と電磁波吸収特性の両者の機能が良好な電磁波吸収性熱伝導シートを提供する。
【解決手段】電子機器1内部の高周波信号が伝送する高周波信号伝送基板17の近傍に配置される電磁波吸収性熱伝導シート11において、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器内部の高周波信号が伝送する信号伝送部の近傍、例えば、半導体パッケージなどの電子部品から、放熱板や、ヒートパイプ、ヒートシンク等といった放熱部品へ効率よく熱を伝え、かつ電磁波を吸収することが可能な電磁波吸収性熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は、小型化の傾向をたどる一方、アプリケーションが多様化しているため電力消費量をそれほど変化させることができず、機器内における放熱対策がより一層重要視されている。
【0003】
上述した電子機器における放熱対策として、銅やアルミなどといった熱伝導率の高い金属材料で作製された放熱板やヒートパイプ、あるいはヒートシンクなどが広く利用されている。これらの熱伝導性に優れた放熱部品は、放熱効果または機器内の温度緩和を図るため、電子機器内における発熱部である半導体パッケージなどの電子部品に近接するようにして配置される。また、これらの熱伝導性に優れた放熱部品は、発熱部である電子部品から低温場所へ亘って配置される。また、電子部品と金属放熱部品とを接着させたときに生じる空間を埋めるため、可撓性を有する熱伝導性シートが、電子部品と金属放熱部品との間に配置される。
【0004】
これらのような熱伝導性に優れた放熱部品は、金属であるが故にその副作用として電気信号の高調波成分を受けることによって生じる電磁誘導により、結果的に不要電磁波の輻射の原因となってしまうことがしばしばある。
【0005】
また、電子機器内における発熱部は、電流密度が高い半導体素子などの電子部品である。電流密度が高いということは、不要輻射の原因となりうる電界強度または磁界強度が大きい。このため金属で作製された放熱部品を電子部品の近傍に配置すると、熱とともに電子部品内を流れる電気信号の高調波成分を受けるケースがしばしば見られる。
【0006】
具体的には、放熱部品は、金属材料で作製されているため、それ自体が高調波成分のアンテナとして機能してしまうことや、高調波ノイズ成分の伝達経路として機能してしまうという現象が生じる。
【0007】
このような背景により、熱伝導性シートは、放熱部品がアンテナとして機能してしまうのを抑制するため、すなわち磁界のカップリングを断ち切るために、磁性材料を含有するものがある(特許文献1)。このような熱伝導性シートは、例えばフェライトなどの高透磁率を有する磁性材料を、シリコーン系やアクリル系などの高分子材に含有させることにより、熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−310812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した熱伝導特性と電磁波抑制特性の両者の機能を有する熱伝導性シートは、母材となる高分子材に含まれる目的粉末の充填量に応じて大きく特性が変化する。
【0010】
例えば、熱伝導率は、Bruggemanの式によると以下のような関係がある。(参考:“電子機器部品用放熱材料の高熱伝導化および熱伝導性の測定・評価技術”,技術情報協会,2003年出版)
【0011】
【数1】

【0012】
ここで、λはシート全体の熱伝導率、λは熱伝導性材料の熱伝導率、λは母材の高分子材の熱伝導率、φは熱伝導性材料のシートに占める体積分率である。
【0013】
また、電磁波抑制特性の指標として、一般的には複素比透磁率(μ’−jμ”)の虚部μ”が用いられる。この磁性特性についても、例えばLichteneckerの式によると以下のような関係がある。(参考:“低損失高誘電率磁性体に関する研究”,電子情報通信学会論文誌 C, Vol. J86-C, No. 4, pp. 450-456, 2003)
【0014】
【数2】

【0015】
ここで、μはシート全体の複素比透磁率、μr1は磁性材料の複素比透磁率、μr2は母材の複素比透磁率、νは磁性材料の体積分率、νは母材の体積分率である。
【0016】
上述のように、熱伝導特性と、電磁波抑制特性とは、それぞれシートに充填される磁性材料と熱伝導性材料との充填量に応じて大きく変化する。
【0017】
しかしながら、このような電磁波吸収性熱伝導シートの作製にあたり、任意の磁性粉末と樹脂をただ混ぜるだけでは、粉末の充填量に限界がある。
【0018】
同一サイズの球状の磁性粉末を最密充填した場合、その最大の充填率が74vol%である。これよりも多くの磁性粉末を充填する場合、先に充填した球状の磁性粉末の隙間に小径の球状の磁性粉末を順次詰め込んでいくようにする。
【0019】
このようにして、樹脂の中に物質を充填していく場合は、樹脂とのなじみが問題となり充填物質の比表面積が小さいほうが高充填でき、一般的に、粒子径の大きなものは体積当りの比表面積が小さいことから高充填し易い。
【0020】
しかし、充填物質として粒子径の大きい金属磁性粒子を用いると表皮効果の影響により高い周波数帯では透磁率が低下して、良好な磁気吸収特性を実現できない。このような表皮効果を軽減させるために電気抵抗率の高い金属材料を用いると、一般に熱伝導率が小さくなり、熱伝導性が損なわれるという問題が生じる。
【0021】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、熱伝導特性と電磁波吸収特性の両者の機能が良好な電磁波吸収性熱伝導シート、及び、この電磁波吸収性熱伝導シートが実装された電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した課題を解決するため、本発明は、電子機器内部の高周波信号が伝送する信号伝送部の近傍に配置される電磁波吸収性熱伝導シートにおいて、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とを含有することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る電子機器は、高周波信号が伝送する信号伝送部と、信号伝送部の近傍に配置される電磁波吸収性熱伝導シートとを備え、電磁波吸収性熱伝導シートは、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、該第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく該第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とが含有しているので、熱伝導特性と電磁波抑制特性との両者の機能が良好な熱伝導性シートを提供することができる。さらに、高い熱伝導性と高い電磁波抑制効果を有していながら、かつフレキシブル性も兼ね備えた電磁波抑制放熱シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(A)は、本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導シートが実装される電子機器の構成を示し、図1(B)は、その変形例を示す図である。
【図2】本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導性シートの電磁波吸収特性について説明するための図である。
【図3】本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導性シートの電磁波吸収特性に関する周波数特性について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0027】
本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導シートは、電子機器内部の高周波信号が伝送する信号伝送部の近傍に配置されるものである。この電磁波吸収性熱伝導シートは、例えば、半導体パッケージなどの電子部品から、放熱板や、ヒートパイプ、ヒートシンク等といった放熱部品へ効率よく熱を伝え、かつ電磁波を吸収する。
【0028】
<熱伝導性シートが貼着される回路基板>
本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導シートは、例えば図1(A)に示すような、電子機器1内部の回路基板1aに貼着される。すなわち、図1(A)に示すような電磁波吸収性と熱伝導性とを有するシート11は、高周波信号が伝送する高周波信号伝送基板17と、高周波信号伝送基板17が発熱する熱を放熱させる放熱金属板12との間に配置される。具体的に、シート11は、一方の面11aが高周波信号伝送基板17を構成する半導体パッケージを封止する樹脂モールド13と、他方の面11bが放熱金属板12とそれぞれ密着するように、回路基板1aに貼着される。
【0029】
高周波信号伝送基板17は、電子機器1内部の高周波信号が伝送する信号伝送部の具体例であって、誘電体基板16の一方の面にGND電極となる銅箔15と、もう一方の面にパターニングにより構成された銅の信号線14からなるものでマイクロストリップラインを構成している。
【0030】
高周波信号伝送基板17は、不要輻射の影響が生じないようにするため、それ自体が動作した際の遠方電界強度が所定の値以下に抑制するように設計されている。このような高周波信号伝送基板17を有する回路基板1では、放熱金属板12が、シート11を介して対向する高周波信号伝送基板17の信号線14内を流れる電気信号の高調波成分を受けてしまい、高調波成分のアンテナとして機能し、結果的に遠方電界強度を増大させてしまう。シート11には、放熱金属板12がアンテナとして作用するのを抑制するとともに、良好な熱伝導特性を実現するため、シートに占める体積分率が所定の値以上になるように、磁性金属粒子が含有されている。
【0031】
なお、本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導の機能を有するシート11は、例えば図1(B)に示すように、放熱金属板12に密着させないようにしてもよい。すなわち、図1(B)に示すような使用をすることで、シート11は、高周波信号伝送基板17で発生する熱の放熱効率を悪化させることなく、高周波信号伝送基板17から放出される電磁波を吸収することができる。
【0032】
次に本発明が適用されたシート11の具体的な構成について説明する。シート11は、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とが含有されたものである。
【0033】
このような構成からなるシート11は、後述する性能評価から明らかなように、良好な熱伝導特性と良好な電磁波抑制特性とを両立することができる。
【0034】
次に、熱伝導性シート11の実施例として、次のような条件で作成したシートを用いて、熱伝導特性と電磁波抑制効果について評価した。
【0035】
まず、可撓性樹脂材料にシリコーン樹脂を、第1の磁性金属粒子に平均粒径が6μmの球状磁性アモルファス合金を、第2の磁性金属粒子に平均粒径が1.5μmの球状鉄粉を用いた。本実施の形態における「平均粒径」とは、具体的には、粉体を、ある粒子径から2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量となるメディアン径(D50ともいう。)によって定義される値であって、例えば当該実施例においては、レーザー回折・散乱法によって算出することができる。
【0036】
100gのシリコーン樹脂に、カップリング剤を10g、球状磁性アモルファス合金を50vol%、及び、球状鉄粉を24vol%加え、真空攪拌機にて攪拌した後に、1.5mm厚のシート形状にし、100℃、30分の環境下で硬化させて、電磁波吸収性熱伝導シートを作製した。
【0037】
ここで、実施例に係るシートでは、高周波信号から放出される電磁波の吸収性、例えば1GHz帯以上での電磁波吸収性を実現するため、第1の磁性金属粒子として、電気抵抗率が0.5μΩm以上の材料を用いているが、平均粒径を大きくして充填性を高めるという観点から、特に電気抵抗率が0.8μΩm以上の材料を用いるのが好ましい。また、実施例に係るシートでは、第2の磁性金属粒子の電気抵抗率が、第1の磁性金属粒子よりも小さい0.5μΩmを下回ればよいが、特に良好な熱伝導性を実現するためには0.3μΩm以下が好ましい。
【0038】
磁性金属粒子としては、電気抵抗率の高い磁性金属アモルファス粒子が適している。磁性金属アモルファス粒子は、例えば、Fe−Si−B系、Fe−Si−B−C系、Co−Si−B系、Co−Zr系、Co−Nb系、Co−Ta系などがあげられるが、これらに限るものではない。
【0039】
なお、磁性金属アモルファスのみに限らず、結晶系、微結晶系の磁性材料を用いることもできる。結晶系の磁性金属としては、Fe系、Co系、Ni系、あるいはFe−Ni系、Fe−Co系、Fe−Al系、Fe−Si系、Fe−Si−Al系、Fe−Ni−Si−Al系などがあげられる。微結晶系の磁性金属としては、これら結晶系材料にN、C、O、B等を微量加えて微細結晶化させた材料である。
【0040】
実施例に係るシートでは、これらの複数の材料のうち、電気抵抗率が0.5μΩm以上で、球、多面体などの略球状の磁性粒子の少なくとも一種類以上を第1の球状磁性金属粒子とし、第1の球状磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく、電気抵抗率が0.5μΩmよりも小さい磁性粒子の少なくとも一種類以上を第2の磁性金属粒子として用いる。
【0041】
また、第2の磁性金属粒子の平均粒径は、第1の磁性金属粒子径に対して粒径比率が5〜50%の範囲内であれば複数設定することができる。すなわち、第2の磁性金属粒子としては複数の材料、組成、粒径のものを組み合わせて使用することができる。
【0042】
また、実施例に係るシートでは、熱伝導率をあげるために、第2の磁性金属粉以外にアルミナ、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミ、炭化珪素などの熱伝導粒子を加えることもできる。このような熱伝導粒子は、第1の球状磁性金属粒子よりも小さい粒径のもので、形状も球形に近いものが望ましい。
【0043】
また、可撓性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル等の樹脂や、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレンブロピレンゴム等のゴムが挙げられるが、これらに限定されない。また、実施例に係るシートでは、更に、難燃剤、反応調整剤、架橋剤、シランカップリング剤などの表面処理剤を適量加えて使うことができる。
【0044】
このようにして作成したシートの性能を調べるために、複素比透磁率と熱伝導率を測定した。
【0045】
まず、複素比透磁率の測定は、次のようにして行った。作製したシートを外径20mm、内径6mmのリング形状に打ち抜いて測定用のサンプルを作製した。この測定用のサンプルを、アジレントテクノロジー社製の測定器「Agilent 4291B RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ」を使用して複素比透磁率を測定した。
【0046】
また、熱伝導率の測定は、次のようにしておこなった。作製したシートを1cm角程度の大きさに切り出し、この切り出したサンプルを金属性ヒートシンクと金属製ヒーターケースの間に挟んで、1kgfの力で加圧して接触させた状態で、金属製ヒータケースに電力をかけて加熱する。金属製ヒータケースと金属性ヒートシンクの温度が一定になったところで、この間の温度差を計測した。熱伝導率は下記の式より算出した。
【0047】
熱伝導率=(電力×サンプル厚み)/(温度差×測定面積)
上記のような測定により、図2に示すような複素比透磁率の測定結果が得られた。すなわち、図2は、複素比透磁率の虚数部の測定結果を示すものである。複素比透磁率の虚数部は、透磁率の磁気損失項であるため、磁気吸収特性の評価指標として用いることができる。図2から明らかなように、2GHzを中心に大きな磁気損失がみられる。
【0048】
このような、磁性金属材料の高周波での磁気損失は、主に渦電流損失と強磁性共鳴による損失がある。
【0049】
このうち、強磁性共鳴は、磁性材料の飽和磁化が高いほど、そのピーク周波数が高周波側にずれる。これは、初透磁率をμ、共鳴周波数をfr、及び飽和磁化をIsとしたとき、(μ−1)frとIsとが比例関係にあるからである。このように磁性粒子を高充填したシート状の成型品では、磁性粒子間の磁気的結合により反磁界の影響が激減し、透磁率が高くなり、共鳴周波数が低い周波数側へずれるが、磁性体の飽和磁化が100A・m/kg以上では、共鳴周波数をGHz帯域にもっていくことができる。このため、この共鳴周波数よりも低い周波数帯では渦電流損失が磁気損失の主体となる。参考文献としては、久村、久保、加藤:「電磁ノイズ抑制熱伝導シート」、第33回日本磁気学会学術講演会概要集、14pF−14、(2009))が挙げられる。
【0050】
また、球状磁性金属粒子での渦電流損失による透磁率の劣化は、ミーの散乱をベースにした複素渦電流ファクター(R.Ramprasad and et al: J.Appl.Phus,96519(2004))を評価指標として用いることができる。
【0051】
図3は、球状磁性金属粒子での渦電流損失による透磁率の劣化を評価するため、球状磁性金属粒子の平均粒径6μm、初透磁率μを40として、電気抵抗率を変えた場合の複素比透磁率の虚部μ”の周波数特性を計算したものである。
【0052】
ここでは、複素比透磁率の虚部μ”は初透磁率μで規格化して示している。図3から明らかなように、電気抵抗率が低いと磁気損失が低周波側に大きくずれていく。平均粒径が6μmの球状磁性金属粒子を用いたシートでは、磁気損失のピークをGHz帯にもっていくために、電気抵抗率が0.5μΩm以上でなければならない。
【0053】
また、電気抵抗率が0.5μΩm、平均粒径が6μm、初透磁率μが40の磁性金属粒子を用いたシートと同等な周波数特性を得るためには、電気抵抗率が1.1μΩm、0.9μΩm、0.1μΩmの磁性金属粒子を用いたシートでは、それぞれ平均粒径を9μm、8μm、2.8μmにする必要がある。このように、電気抵抗率の高い材料であれば、粒径を大きくしても良好な高周波帯域の電磁波を吸収する周波数特性を得ることができ、電気抵抗率の低い材料であれば、粒径を小さくしなければ、良好な高周波帯域の電磁波を吸収する周波数特性を得ることができない。
【0054】
実施例に係るシートでは、上記のような高周波帯域の電磁波を吸収する周波数特性を実現するため、次の点を考慮して、平均粒径の異なる磁性金属粒子を可撓性樹脂材料に高充填させる。
【0055】
まず、磁性金属粒子の作製によく使われている方法としてアトマイズ法があるが、作製できる粒子径は一般的に数μm〜数十μmであり、商業的にラインナップされている材料の最小粒径は約5〜6μmである。
【0056】
したがって、GHz帯での電磁波吸収を目的とした電磁波吸収性シートの磁性金属粒子として、例えば平均粒径5〜6μmの粒子を使う場合、電気抵抗率0.5μΩm以上の材料を用いる必要がある。
【0057】
このようなGHz帯での電磁波吸収を目的とした材料を第1の球状磁性金属材料として、さらに平均粒径の小さい磁性金属粒子を第2の磁性金属材料として、第1の球状磁性金属材料の間に充填するように配置すると、粒子全体の充填率を向上させることができる。
【0058】
特に、第2の磁性金属粒子の粒径は、第1の磁性金属粒子の平均粒径に対して、5〜50%の大きさを用い、また第1の球状磁性金属粒子に対し第2の磁性金属粒子の混合比率が10〜60vol%にすることで、可撓性樹脂に占める磁性金属粒子の充填を高くすることができる。
【0059】
ここで、第2の磁性金属粒子は、粒径が小さいため渦電流損失の影響を受けにくいので電気抵抗率を高くする必要はなく、熱伝導率を高くするという観点から電気抵抗率の小さなものが選択される。これは、金属における自由電子の移動が熱伝導率に影響するため、電気伝導度の高い、つまり電気抵抗率の小さい金属材料の方が熱伝導率を高くできるからである。
【0060】
良好な高周波数帯域での電磁波吸収性と熱伝導性とを両立するため、上記の実施例では、電気抵抗率が1.1μΩm、平均粒径が6μmの球状磁性アモルファス合金を第1の球状磁性金属粒子として選択し、電気抵抗率が0.15μΩm、平均粒径が1.5μmの球状鉄粉を第2の磁性金属粒子として選択している。このため、実施例に係るシートでは、図3に示されるようなGHz帯域で大きな磁気損失が得られ、良好な電磁ノイズ抑制効果が実現できる。
【0061】
また、実施例に係るシートでは、熱伝導率も2.0W/m・Kと高く、優れた熱伝導特性を併せ持つことができる。
【0062】
ここで、比較対象として実施例と同組成のアモルファス粉を磁性金属粒子に用いて、平均粒径が10μm、3μmの粒子を、それぞれ実施例と同様に50vol%、24vol%配合して作製したシートの熱伝導率について評価する。比較対象に係るシートの熱伝導率は、1.71W/m・Kであった。このような比較対象に係るシートと比べて、実施例に係るシート11は、第2の磁性金属粒子として、アモルファス粉より電気抵抗率の低い鉄粉を使うことで、18%程度、熱伝導率を向上させることができた。
【0063】
このように、実施例に係るシートでは、高周波数帯域での電磁波吸収性を実現する観点から表皮効果を抑制するために、第1の磁性金属粒子に電気抵抗率の高い材料を用いても、第2の磁性金属粒子に電気抵抗率の低い材料を用いることで、完成品シートの熱伝導率を大きく向上させることができる。
【0064】
以上のようにして、本発明が適用された電磁波吸収性熱伝導シートは、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく第1の金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とが含有しているので、熱伝導特性と電磁波抑制特性との両者の機能が良好な熱伝導性シートを提供することができる。さらに、高い熱伝導性と高い電磁波抑制効果を有していながら、かつフレキシブル性も兼ね備えた電磁波抑制放熱シートを提供することができる。
【0065】
特に、電磁波吸収性熱伝導シートは、第1の磁性金属粒子の電気抵抗率が0.5μΩm以上の材料を選択し、第2の磁性金属粒子の電気抵抗率が0.5μΩmより小さい材料を選択することで、GHz帯域が伝送される信号伝送部から放射される電磁波を効率よく吸収しつつ、良好な熱伝導性を得ることがことができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電子機器、1a 回路基板、11 シート、12 放熱金属板、13 樹脂モールド、14 信号線、15 銅箔、16 誘電体基板、17 高周波信号伝送基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器内部の高周波信号が伝送する信号伝送部の近傍に配置される電磁波吸収性熱伝導シートにおいて、
可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、該第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく該第1の磁性金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とを含有することを特徴とする電磁波吸収性熱伝導シート。
【請求項2】
上記信号伝送部は、1GHzより高い高周波信号が伝送し、
上記第1の磁性金属粒子は、その電気抵抗率が0.5μΩm以上で、
上記第2の磁性金属粒子は、その電気抵抗率が0.5μΩmより小さいことを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収性熱伝導シート。
【請求項3】
上記第1の磁性金属粒子は、球状の粒子であることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収性熱伝導シート。
【請求項4】
上記第1の磁性金属粒子に対する上記第2の磁性金属粒子の混合比率が、10〜60vol%であり、かつ、該第1の磁性金属粒子に対する該第2の磁性金属粒子の粒径比率が5〜50%であることを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収性熱伝導シート。
【請求項5】
高周波信号が伝送する信号伝送部と、
上記信号伝送部の近傍に配置される電磁波吸収性熱伝導シートとを備え、
上記電磁波吸収性熱伝導シートは、可撓性樹脂材料に、第1の磁性金属粒子と、該第1の磁性金属粒子よりも平均粒径が小さく該第1の磁性金属粒子よりも電気抵抗率が小さい第2の磁性金属粒子とを含有することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−42026(P2013−42026A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178854(P2011−178854)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】