説明

電磁波遮蔽シート、及び電磁波遮蔽シートの製造方法

【課題】導電層の表面上に設けられた絶縁部材を効率良くきれいに除去することができ、且つ、当該絶縁部材を除去した後の当該導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性に優れた電磁波遮蔽シート、及び当該電磁波遮蔽シートの製造方法を提供する。
【解決手段】透明基材の一方の面に導電層を備えた電磁波遮蔽シートにおいて、当該導電層の周縁部の接地用領域の当該透明基材とは反対側の面上に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率が50%以上である電磁波遮蔽シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDP(プラズマディスプレイパネル)などのディスプレイから発生する電磁波を遮蔽(シールド)する電磁波遮蔽シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子機器の機能高度化と利用増加に伴い、電磁気的なノイズ妨害(Electro Magnetic Interference;EMI)が増え、陰極線管(CRTという)、プラズマディスプレイパネル(PDPという)などのディスプレイでも電磁波が発生する。特に、プラズマディスプレイパネルは、データ電極と蛍光層を有するガラスと透明電極を有するガラスとの組合体であり、作動すると電磁波、及び近赤外線が大量に発生する。
【0003】
通常、電磁波を遮蔽するためにプラズマディスプレイパネルの前面に、電磁波遮蔽用シートと硝子板との積層体が前面板として設けられる。ディスプレイ前面から発生する電磁波の遮蔽性は、日本では30MHz〜1GHzにおいてVCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協議会)が規定する家庭環境、住宅環境で使用する情報処理装置に適用される規格(クラスB)を達成することが必要である。なお、本発明において単に電磁波と言った場合は、周波数が上記範囲を中心とするMHz〜GHz帯近辺の電磁波のことを言い、赤外線、可視光線、紫外線、X線等は含まないものとする(例えば、赤外線帯域の周波数の電磁波は赤外線と呼称する)。
【0004】
特許文献1には、反射防止層又は防眩層を形成して成る第1フィルムと電磁波シールド機能層を形成して成る第2フィルムとを透明粘着剤で貼り合わせた光学フィルタが記載されている。
このような光学フィルタにおいては、電磁波遮蔽性を良好なものとするため、電磁波シールド機能層(導電層)を接地(アース)する必要がある。そのために通常、導電層は、その周縁部に囲むように設けられた額縁状の接地用領域を有し、この額縁状の導電層から接地することが一般的である。
上記特許文献1では、反射防止層又は防眩層を形成して成る第1フィルムの所定位置に、当該第1フィルムの厚みに一致させた切れ目を入れ、電磁波シールド機能層(導電層)を形成して成る第2フィルムの縁部上の当該第1フィルムを取り除くことにより、当該導電層の縁を露呈させ、アースを接地する為の領域(導通部)を形成している。
しかしながら、上記の方法では、切れ目の位置が安定しない、第1フィルムと第2フィルムとを貼り合せるために用いた透明粘着剤が、第2フィルムの露呈部分に残ってしまうといった問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、プラスチックフィルムに接着剤層を介して構成される導電性金属付きプラスチックフィルムにおいて、導電性金属で描かれた幾何学図形を有し、かつ、導電性金属で描かれた幾何学図形の外周に前記幾何学図形と電気的に接続した導電性の額縁部を有する電磁波シールド性接着フィルムが記載されている。
上記電磁波シールド性接着フィルムでは、レーザー光により導電性の額縁部を支持する接着剤層とプラスチックフィルムを除去し少なくともその額縁部の一部を露出させ、アースを接地する為の領域(導通部)を形成している。
しかしながら、炭酸ガスレーザー光の様な連続発振型のレーザー光で所望の領域を走査することにより接着剤層及びプラスチックフィルムを除去した後の、導電性金属表面は平坦なため、当該導電性金属と、当該導電性金属から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性が低いという問題があった。
【0006】
特許文献3には、透明なベース基材の観察者側の面に第1の反射防止フィルムを粘着剤層を介して設け、ベース基材の観察者側の面とは反対側の面には、順に、近赤外線カットないし電磁波シールド用のフィルターフィルムと、第2の反射防止フィルムとをそれぞれ粘着剤層を介して配設したディスプレイ用前面板が記載されている。
上記ディスプレイ用前面板では、第1の反射防止フィルムとフィルターフィルムの大きさを同じとし、第2の反射防止フィルムの大きさを、当該フィルターフィルムよりもひとまわり小さくしたものを予め用意して、これを貼着することで、当該フィルターフィルムの電磁波シールド層の周辺部を露出させ、アースを接地する為の領域(導通部)を形成している。
しかしながら、電磁波シールド層のベース基材側とは反対側の面上に黒化層を設けた形態では、当該電磁波シールド層の周辺部を露出させても、当該電磁波シールド層上に絶縁性の黒化層が設けられているため、当該黒化層を除去しなければ、アースを接地する為の領域(導通部)を確保することができない。この場合、当該黒化層を除去するためにカッターや鑢を用いると、電磁波シールド層まで傷つけてしまうといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−66854号公報
【特許文献2】特開平11−233992号公報
【特許文献3】特開平11−126024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、導電層の表面上に設けられた絶縁部材を効率良くきれいに除去することができ、且つ、当該絶縁部材を除去した後の当該導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性に優れた電磁波遮蔽シート、及び当該電磁波遮蔽シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、導電層の周縁部のアースを接地するための領域(接地用領域)において、当該接地用領域に対して特定の面積率で凹陥部を形成することにより、上記課題が解決されるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る電磁波遮蔽シートは、透明基材の一方の面に導電層を備えた電磁波遮蔽シートにおいて、当該導電層の周縁部の接地用領域の当該透明基材とは反対側の面上に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率が50%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の電磁波遮蔽シートは、導電層の周縁部の接地用領域の接地用の導通をとる部分の表面に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率を特定の範囲に規定することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる。従って、当該導電層の接地用領域において、接地のための導電性部材と良好な接続をとることができ、優れた電磁波遮蔽性能を発揮することができる。
【0011】
本発明に係る電磁波遮蔽シートにおいては、隣接する凹陥部が互いに接触することにより、当該凹陥部の積算表面積を大きくすることができ、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係る電磁波遮蔽シートにおいては、前記隣接する凹陥部が一定方向に重畳していることにより、当該凹陥部の積算表面積を更に大きくすることができ、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る電磁波遮蔽シートにおいては、前記導電層の透明基材側とは反対側の面上に、当該導電層の周縁部の凹陥部を形成した接地用領域の少なくとも一部が露出するように透明樹脂層が積層されていることが、当該透明樹脂層下の接地の導通上不要な部分の導電層表面を当該透明樹脂層により腐食や傷つきなどから保護できる点から好ましい。
【0014】
本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法は、(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び(iii)前記透明樹脂層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法によれば、導電層上に設けた透明樹脂層のうち接地の導通上必要な部分を効率良くきれいに除去することができ、更に、当該導電層の周縁部の一部表面に凹陥部が形成されることにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【0016】
本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法は、(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、黒化層を設ける工程、(iii)前記黒化層の導電層側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び(iv)前記透明樹脂層及び黒化層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法によれば、導電層の透明基材側の面とは反対側の面に黒化層を設けた場合においても、当該導電層上に設けた黒化層及び透明樹脂層のうち接地の導通上必要な部分を効率良くきれいに除去することができ、更に、当該導電層の周縁部の一部表面に凹陥部が形成され、当該導電層の表面が露出することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁波遮蔽シートによれば、導電層の周縁部の接地用領域の中で接地用の導通をとる部分の表面に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率を特定の範囲に規定することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる。従って、当該導電層の接地用領域において、接地のための導電性部材と良好な接続をとることができ、優れた電磁波遮蔽性能を発揮することができる。
本発明の電磁波遮蔽シートの製造方法によれば、導電層の中で接地用の導通をとる部分の表面上に設けられた絶縁部材を効率良くきれいに除去することができ、更に、当該導電層の周縁部の一部表面に凹陥部が形成され、当該導電層の表面が露出することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性に優れた電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、電磁波遮蔽シート、及びその製造方法を含むものである。以下、それぞれについて詳述する。
【0020】
I.電磁波遮蔽シート
本発明に係る電磁波遮蔽シートは、透明基材の一方の面に導電層を備えた電磁波遮蔽シートにおいて、当該導電層の周縁部の接地用領域の当該透明基材とは反対側の面上に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率が50%以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の電磁波遮蔽シートは、導電層の周縁部の接地用領域の中で接地用の導通をとる部分の表面に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率を特定の範囲に規定することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができる。従って、当該導電層の接地用領域において、接地のための導電性部材と良好な接続をとることができ、優れた電磁波遮蔽性能を発揮することができる。
【0022】
本発明に係る電磁波遮蔽シートの層構成を図面を用いて説明する。
本発明に係る電磁波遮蔽シートの一例の断面図を図1で概念的に示す。なお、図1及び図2に示す断面図において、説明の容易化のために、厚み方向(図の上下方向)の縮尺を面方向(図の左右方向)の縮尺よりも大幅に拡大誇張して図示してある。図1に示す電磁波遮蔽シート1は、本発明に係る電磁波遮蔽シートの好適な実施形態のうちの第一の実施形態であり、透明基材10の一方の面に、接着剤層11を介して、導電層12が積層されており、当該導電層12の透明基材10側とは反対側の面に、透明樹脂層20が積層されている。当該導電層12は、周縁部の一部(接地用領域)13が透明樹脂層20の外周部に露出している。また、当該導電層12の周縁部の一部(接地用領域)13には、複数の凹陥部14が形成されている。
図2は、本発明に係る電磁波遮蔽シート1の好適な実施形態のうちの第二の実施形態であり、透明基材10の一方の面に、接着剤層11を介して、導電層12が積層されている。当該導電層12は、中央部のディスプレイの画像表示領域に対峙する透視性導電層の一形態である導電性メッシュ層12と、その周縁部に位置するメッシュ非形成の導電層(接地用領域)から成る。当該導電性メッシュ層12の透明基材10側とは反対側の面に、透明樹脂層20が当該導電性メッシュ層12の凹凸を平坦化するように形成されている。また、当該導電性メッシュ層12は、周縁部の一部(接地用領域)13が透明樹脂層20の外周部に露出している。尚、図2に示すように、当該透明樹脂層20で埋められた導電性メッシュ層12の表面には、黒化層15が形成されていてもよい。
以下、本発明の電磁波遮蔽シートについて、透明基材から順に説明する。
【0023】
(1)透明基材
本発明で用いる透明基材は、電磁波遮蔽シートを構成する一部の層であり、接着剤層を介して導電層を積層するための基材となる層である。従って、透明基材としては、機械的強度、光透過性と共に、耐熱性等の性能を適宜勘案したものを用途に応じて選択すればよい。このような、透明基材の具体例としては、樹脂等の有機材料或は硝子等の無機材料からなるシート(乃至フィルム。以下同様。)又は板が挙げられる。透明基材の透明性は高いほどよいが、好ましくは可視光域380〜780nmにおける光線透過率が70%以上、より好ましくは80%以上となる光透過性が良い。なお、光透過率の測定は、分光光度計(例えば、(株)島津製作所製 UV−3100PC)を用い、室温、大気中で測定した値を用いることができる。
【0024】
透明基材の材料として用いる樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール共重合体などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0025】
なお、これらの樹脂は、単独、又は複数種類の混合樹脂(ポリマーアロイを含む)として用いられ、透明樹脂基材の層構成は、単層、又は2層以上の積層体として用いられる。また、樹脂フィルムの場合、1軸延伸や2軸延伸した延伸フィルムが機械的強度の点でより好ましい。また、これら樹脂中には、必要に応じて適宜、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤などの添加剤を加えても良い。又、硝子としては、ソーダ硝子、カリ硝子、硼珪酸硝子、石英硝子等が挙げられる。通常、硝子の場合は、厚みの有る板状で用いられる。
【0026】
透明基材の厚さは、基本的には用途に応じ選定すればよく、特に制限はないが、通常は12〜5000μm、好ましくはフィルムの場合は50〜500μm、より好ましくは50〜200μm、板の場合は500〜3000μmである。このような厚み範囲ならば、機械的強度が十分で、反り、弛み、破断などを防ぎ、連続帯状で供給して加工する事も容易である。
なお、本発明では、透明基材としては、特に、可撓性の有る樹脂フィルム或は板から成るものが、製造加工適性が良好で、重量、価格も低減できる点で好ましい。特に、これら樹脂から成る基材を透明樹脂基材と称呼する。
【0027】
透明樹脂基材の形態としては樹脂板よりは透明樹脂フィルムが好ましい。当該樹脂フィルムのなかでも特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂フィルムが、透明性、耐熱性、コスト等の点で好ましく、より好ましくは2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが最適である。
【0028】
また、樹脂フィルム等の透明基材は、適宜その表面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、アルカリ処理、などの公知の易接着処理を行ってもよい。
【0029】
(2)導電層
本発明で用いる導電層は、中央部のディスプレイの画像表示領域に対峙する透視性導電層と、その周縁部に位置する接地用領域(こちらは透視性、不透視性何れでも可能)から成る。
ここで、透視性導電層とは、当該透視性導電層を通して、ディスプレイパネルの表示画像を観賞できる可視光線透過性を有し、且つ、ディスプレイパネルから発生する電磁波を遮蔽できる導電性を有する層のことを意味する。透視性導電層としては、通常、後述の銅等の金属材料等の不透明性の導電性材料を用いてメッシュ等の微細なメッシュパターン状に形成して、其の開口部から画像光を透過させる様にした導電性パターン層が用いられる。特に、当該パターンとしてメッシュを採用する場合は導電性メッシュ層と呼称する。但し、ITO等の透明導電性材料を用いて非パターン状(開口部無しで全面被覆、ソリッド状)に形成した薄膜を用いることもできる。導電性メッシュ層を用いる場合には、外光反射を抑制するために、導電性メッシュ層の視聴者側の面を黒化処理することが好ましい。以下の説明においては、透視性導電層として導電性メッシュ層を用いた例を説明する。
【0030】
(導電性メッシュ層)
導電性メッシュ層は、導電性を有することで電磁波遮蔽機能を担える層であり、またそれ自体は不透明性材料からなるが、多数の開口部が存在するメッシュ状の形状に加工することにより、電磁波遮蔽性能と光透過性を両立させている層である。
また、導電性メッシュ層は、一般的には金属箔のエッチングで形成した物が代表的であるが、これ以外のものでも、電磁波シールド性能に於いては意義を有する。従って、本発明では、導電性メッシュ層の材料及び形成方法は特に限定されるものでは無く、従来公知の光透過性の電磁波遮蔽シートに於ける各種導電性メッシュ層を適宜採用できるものである。例えば、印刷法やめっき法等を利用して透明基材上に最初からメッシュ状の形状で導電性メッシュ層を形成したもの、或いは、最初は透明基材上に全面に、無電解めっき等の化学的形成手法を用いて非パターン状の透視性導電層を形成後、エッチング加工等でメッシュ状の形状にして導電性メッシュ層としたもの、或いは導電性組成物からなるインキ乃至ペーストをメッシュ状に印刷したもの等でも構わない。
【0031】
導電性メッシュ層は、電磁波遮蔽性能を発現するに足る導電性を有する物質であれば、特に制限は無いが、通常は、導電性が良い点で金属層が好ましく、金属層は上記のように、めっき、金属箔ラミネート等により形成することができる。金属層の金属材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、錫、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム等の高導電率金属が挙げられる。また、金属層の金属は合金でも良く、金属層は単層でも多層でも良い。例えば、鉄の場合には、低炭素リムド鋼や低炭素アルミキルド鋼などの低炭素鋼、Ni−Fe合金、インバー合金等が好ましい。一方、金属が銅の場合は、金属材料は銅や銅合金となり、銅箔としては圧延銅箔や電解銅箔があるが、薄さ及びその均一性、黒化層との密着性等の点からは、電解銅箔が好ましい。
【0032】
なお、金属層による導電性メッシュ層の厚さは、10〜30μm程度、好ましくは10〜11μmである。厚さがこれより薄くなり過ぎると電気抵抗上昇により十分な電磁波遮蔽性能を得難くなり、また、後述する金属層の接地用領域に凹陥部を形成する際に、当該金属層が貫通する恐れがある。一方、厚さがこれより厚くなり過ぎると高精細なメッシュ形状が得難くなり、メッシュ形状の均一性が低下する。導電性メッシュ層の平坦化を行いやすく、平坦化を行った際に気泡の混入が少なく、透明性及び電磁波遮蔽性能に優れた電磁波遮蔽シートを得やすい点からは、導電性メッシュ層の厚さは10〜11μm程度であることが好ましい。
【0033】
[メッシュの形状]
なお、導電性メッシュ層のメッシュ状としての形状は、任意で特に限定されないが、そのメッシュの開口部の形状として、正方形が代表的である。開口部の平面視形状は、例えば、正三角形等の三角形、正方形、長方形、菱形、台形等の四角形、六角形等の多角形、或いは、円形、楕円形等である。メッシュはこれら形状からなる複数の開口部を有し、開口部間は通常幅均一のライン状のライン部となり、通常は、開口部及びライン部は全面で同一形状同一サイズである。具体的サイズを例示すれば、開口率及びメッシュの非視認性の点で、開口部間のライン部の幅は5〜30μmが良い。また、開口部サイズは〔ライン間隔或いはラインピッチ〕−〔ライン幅〕であるが、この〔ライン間隔或いはラインピッチ〕で言うと100μm〜500μm、且つ開口率(開口部の面積の合計/メッシュ部の全面積)を50〜97%とするのが、光透過性と電磁波遮蔽性との両立性の点で好ましい。また、ラインピッチは100μm〜500μmの間でランダムでもかまわない。
なお、バイアス角度(メッシュのライン部と電磁波遮蔽シートの外周辺との成す角度)は、ディスプレイの画素ピッチや発光特性を考慮して、モアレが出難い角度に適宜設定すれば良い。
【0034】
[接地用領域とメッシュ領域]
また、接地をとり易い点から、導電性メッシュ層12は、図3の平面図で概念的に例示する導電性メッシュ層12のように、その平面方向に於いて、中央部のメッシュ領域121以外に周縁部に接地用領域122を備えた層とする。当該接地用領域は画像表示を阻害しない為に、画像表示領域周縁部の一部又は全周に形成する。当該メッシュ領域とは電磁波遮蔽シートを適用するディスプレイの画像表示領域を全て覆うことが出来る領域である。当該接地用領域とは接地をとる為の領域である。当該画像表示領域とは、ディスプレイが実質的に画像を表示する領域(実質的画像表示領域)を少なくとも意味するが、ディスプレイを視聴者から見た場合にディスプレイの外枠体による枠の内側全体の領域も便宜上含めた意味としても良い。その理由は、当該枠の内側で且つ実質的画像表示領域の外側に黒い領域(縁取り)が存在する場合、そこは本来画像表示領域外だが、目に触れる以上は外観が実質的画像表示領域と異なるのは違和感が生じるからである。
【0035】
本発明においては、上記接地用領域に於いて、当該導電層の当該透明基材とは反対側表面上の、少なくとも導電性接着剤等により接地用の導通をとる部分に、凹陥部が設けられており、当該凹陥部の面積率は当該接地用領域に対して50%以上である。斯かる凹陥部に於いては、導電層の導電性表面が露出している。
当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率が上記範囲であれば、図4(a)に示すように、上記接地用領域122内の一部13に於いて各凹陥部14が接触せずに設けられていてもよく、或いは、図4(b)に示すように、隣接する凹陥部14同士が接触して線状に連なり、且つ、当該凹陥部が上記接地用領域の一側縁の両端と接触するように設けられていてもよく、或いは、図4(c)に示すように、当該凹陥部14同士が接触してクラスターを形成していてもよく、或いはこれらが混在していてもよい。
また、図4(d)に示すように、接地用領域内に、隣接する凹陥部14同士が接触し、当該凹陥部が正方格子状に設けられている場合や、図4(e)に示すように、隣接する凹陥部14同士が接触し、当該凹陥部が最密充填構造を形成するように設けられている場合には、当該凹陥部の積算(合計)表面積を大きくすることができ、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができ、好ましい。このように、当該凹陥部が正方格子状、又は最密充填構造を形成して配列している場合、接地用領域に対する当該凹陥部の面積率は70〜90%の範囲内となる。
また、図4(f)に示すように、接地用領域内に、隣接する凹陥部14が一定方向に重畳して設けられている場合(此の図の場合では、左右方向については右側の凹陥部が左側の隣接凹陥部上に重畳し、上下方向については下側の凹陥部が上側の隣接凹陥部上に重畳する)には、更に、当該凹陥部の積算表面積を大きくすることができ、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性を向上させることができ、好ましい。このように、当該凹陥部が一定方向に重畳して配列している場合、接地用領域に対する当該凹陥部の面積率は80〜100%の範囲内となる。加えて、一般に、図4(f)の如き形態は、図4(a)〜図4(e)の如き形態に比べて、其の上に形成される接着剤層との投錨効果も大きくなる。
【0036】
上記凹陥部14の幅(D)は、1〜60μmの範囲内であることが好ましく、40〜50μmの範囲内であることが、更に好ましい。また、当該凹陥部14の深さ(H)は、0.5〜3μmの範囲内であることが好ましく、0.5〜1.0μmの範囲内であることが、更に好ましい。
尚、上記凹陥部は、後述するパルスレーザー光を導電層に照射することにより形成することができる。上記凹陥部の幅(D)は、レーザービーム径の大きさにより適宜調節することができ、上記凹陥部の深さ(H)は、導電層の厚みと、パルスレーザー光の強度尖頭値と照射時間(1パルス当りのエネルギー)により適宜調節することができる。
【0037】
[黒化処理]
黒化処理は上記導電性メッシュ層の面の光反射を防ぐためのものであり、黒化処理で形成された黒化処理面により、導電性メッシュ層面での外光反射による透視画像の黒レベルの低下を防ぎ、また、透視画像の明室コントラストを向上させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するものである。黒化処理面は、導電性メッシュ層のライン部(線状部分)の全ての面に設けることが好ましいが、本発明では表裏両面のうち少なくとも視聴者側であると共に外光入射側の面を黒化処理面とすることが好ましい。表裏両面や、側面(両側或いは片側)が更に黒化処理されていても良い。黒化層は、少なくとも視聴者側に設ければ良いが、ディスプレイ面側にも設ける場合には、ディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、さらに、画像の視認性が向上する。
黒化処理としては、導電性メッシュ層の視聴者側表面を粗化するか、全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与する(黒化する)か、或いは両者を併用するかの何れかにより行なうことができる。
【0038】
本発明において黒化層は、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。
従って、黒化層としては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。なかでも、メッキ法による黒化処理は密着性、均一性、容易性等で好ましい。メッキ法の材料は、例えば、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、クロム等の金属や金属化合物等を用いる。
【0039】
黒化処理として好ましいめっき法には、銅からなる導電層を、硫酸、硫酸銅及び硫酸コバルト等からなる電解液中で、陰極電解処理を行いカチオン性粒子を付着させるカソーディック電着メッキ法がある。この方法によれば、カチオン性粒子の付着で黒色と同時に粗面も得られる。カチオン性粒子としては、銅粒子、銅と他の金属との合金粒子が適用できるが、好ましくは銅−コバルト合金の粒子である。カチオン性粒子の粒径は、黒濃度の点から、平均粒径0.1〜1μm程度が好ましい。その他、黒化層形成法として、ニッケル−亜鉛合金、硫化ニッケル、或いはこれらの複合体からなる黒化ニッケルメッキ、並びに酸化銅も好適に使用できる。
【0040】
黒化層の厚みは、0.1〜0.5μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜0.2μmの範囲内であることが、更に好ましい。
黒化層の黒濃度は0.6以上であることが好ましい。なお、黒濃度の測定方法は、COLOR・CONTROL・SYSTEMのGRETAG・SPM100−11(キモト社製、商品名)を用いて、観察視野角10度、観察光源D50、照明タイプとして濃度標準ANSITに設定し、白色キャリブレイション後に、試験片を測定する。また、黒化層の光線反射率(単に反射率とも称される)としては5%以下が好ましい。光線反射率は、JIS−K7105に準拠して、ヘイズメーターHM150(村上色彩社製、商品名)を用いて測定する。また、反射率の測定に換えて、色差計により反射のY値で表わしてもよく、この際にはY値として10以下が好ましい。
【0041】
(3)接着剤層
接着剤層は、導電層(導電性メッシュ層)と透明基材とを接着することが可能な層であれば、その種類等は特に限定されるものではないが、本発明においては、上記導電性メッシュ層を構成する金属層と透明基材とを接着剤層を介して貼り合わせた後、金属層をエッチングによりメッシュ状とすることから、接着剤層も耐エッチング性を有することが好ましい。具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンエステル樹脂等が挙げられる。また、本発明に用いられる接着剤層は、紫外線硬化型であってもよく、また熱硬化型乃至2液硬化型であってもよい。特に、透明基材との密着性などの観点からポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、特に、2液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
【0042】
接着剤層を介してドライラミネーション法等により透明基材と導電性メッシュ層を形成するための金属箔とを接着することができる。また、この接着剤層の膜厚が0.5μm〜50μmの範囲内、中でも1μm〜20μmであることが好ましい。これにより、透明基材と導電性メッシュ層とを強固に接着することができ、また、導電性メッシュ層を形成するエッチングの際に透明基材が塩化鉄等のエッチング液の影響を受けること等を防ぐことができるからである。
【0043】
(4)透明樹脂層
透明樹脂層は、電磁波遮蔽シートの導電層表面を保護すると共にメッシュ層凹凸の平坦化機能、光学フィルタ機能発現、或いは他の機能層を導電層上に積層する為の接着剤としての機能等を有する層である。
また、上記導電層の透視性導電層を導電性メッシュ層とした場合、当該透明樹脂層は、導電性メッシュ層による表面凹凸を埋めて導電性メッシュ層側の表面を平坦化することにより、導電性メッシュ層側で被着体と接着剤等で積層する場合に気泡の噛み込み等を防ぐ機能を有する。
透明樹脂層は、擦り傷、表面汚染に対する耐性の点で好ましくは硬化性樹脂が硬化してなる樹脂硬化層として形成する。また、このような樹脂硬化層はいわゆるハードコート層〔HC(Hard Coat)層とも略称〕として形成できる。また、透明樹脂層は単層の他、多層として形成してもよい。
ハードコート層としても適用可能な透明樹脂層を形成する場合、用いる硬化性樹脂とし
ては、電離放射線硬化性樹脂、その他公知の硬化性樹脂などを要求性能などに応じて適宜採用すればよい。電離放射線硬化性樹脂としては、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系などが挙げられる。例えば、アクリレート系の電離放射線硬化性樹脂は、単官能(メタ)アクリレートモノマー、2官能(メタ)アクリレートモノマー、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー乃至は(メタ)アクリル酸エステルプレポリマーなどからなる。さらに3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーを例示すれば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等がある。
【0044】
このような電離放射線硬化性樹脂などの硬化樹脂からなる樹脂組成物を、透明基材上に積層した導電性メッシュ層表面に対して、塗布して当該樹脂を硬化させて、透明樹脂層を形成する。なお、電離放射線硬化性樹脂を硬化させる電離放射線としては、紫外線、電子線などが代表的である。
又、透明樹脂層を接着剤層として利用し、更に其の上に他の機能層を積層する場合は、透明樹脂層(接着剤層)には、必ずしも、硬度、耐擦傷性は要求されない。此の場合には、電離放射線硬化性樹脂の他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いる事もできる。或いはまた透明樹脂層を接着剤層として利用する場合には、所謂粘着剤の形態のものを用いても良い。これら接着剤用の樹脂としては、公知の各種樹脂が使用できる。
又、以上の透明樹脂層中に、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、着色色素等を添加したり、或いは当該透明樹脂層表面に反射防止層、又は防眩層を積層することによって、当該透明樹脂層自体に光学フィルタ層としての機能を付与できる。
【0045】
透明樹脂層の厚みは、8〜150μmの範囲内であることが好ましく、10〜11μmの範囲内であることが、更に好ましい。
【0046】
II.電磁波遮蔽シートの製造方法
本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法の一つは、
(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、
(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び
(iii)前記透明樹脂層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする。
【0047】
また、本発明に係る電磁波遮蔽シートの製造方法のもう一つは、
(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、
(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、黒化層を設ける工程、
(iii)前記黒化層の導電層側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び
(iv)前記透明樹脂層及び黒化層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする。
【0048】
本発明の電磁波遮蔽シートの製造方法によれば、導電層の中で接地用の導通をとる部分の表面上に設けられた絶縁部材を効率良くきれいに除去することができ、更に、当該導電層の周縁部の一部表面に凹陥部が形成され、当該導電層の表面が露出することにより、当該凹陥部が形成された導電層と、当該導電層から導通をとるための部材とを貼り合せるために用いる導電性接着剤層との密着性に優れた電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【0049】
以下、透視性導電層が導電性メッシュ層である導電層を例に挙げ、各工程についてそれぞれ説明する。
(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程
本工程においては、先ず透明基材を用意し、この透明基材の一方の面に金属層(箔)を積層する。
上記透明基材は、「I.電磁波遮蔽シート」において説明したものを用いることができる。
電磁波遮蔽シートを連続的に製造し生産性を向上できる点では、透明基材が樹脂基材である場合、後述するメッシュ層形成等の少なくとも製造初期の段階においては、連続帯状のシートの形態で取り扱うのが好ましい。
尚、透明基材は、適宜その表面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、アルカリ処理、などの公知の易接着処理を行ってもよい。
【0050】
上記金属層(箔)に対するメッシュの形成方法としては、特に限定されない。例えば、次の3つの方法が挙げられる。
(1)透明基材へ導電インキをパターン状に印刷し、形成された導電インキ層の上へ金属メッキする方法(例えば、特開2000−13088号公報)。
(2)透明基材へ、導電インキ又は化学メッキ触媒含有感光性塗布液を全面に塗布し、形成された塗布層をフォトリソグラフィー法でメッシュ状とした後に、当該メッシュの上へ金属メッキする方法(例えば、住友大阪セメント株式会社新材料事業部新規材料研究所新材料研究グループ、“光解像性化学メッキ触媒”、[online]、掲載年月日記載なし、住友大阪セメント株式会社、[平成15年1月7日検索]、インターネット〈URL:http://www.socnb.com/product/hproduct/display.html〉)。
(3)透明基材と金属箔とを透明接着剤等で積層した後に、当該金属箔をフォトリソグラフィー法でメッシュ状とする方法(例えば、特開平11−145678号公報)。
【0051】
以下、(3)の方法によって、透明基材上に積層された金属層を、フォトリソグラフィー法でメッシュ状とする工程の一例を挙げて説明する。
まず、上記のように準備した透明基材上に、上述した接着剤層を形成する。層形成法としては、公知の層形成法、例えば、ロールコート、コンマコート、グラビアコート等の塗工法、或いは、任意形状での部分形成が容易なスクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法を適宜採用することが出来る。
次に、上記透明基材の接着剤層の表面に、金属層を積層する。金属層としては、上記導電性メッシュ層の説明で述べた材料を適宜選択して用いることができる。
【0052】
次に、積層された金属層面へ、レジスト層をメッシュパターン状に設け、レジスト層で覆われていない部分の金属層をエッチングにより除去した後に、レジスト層を除去する所謂リソグラフィー法で、メッシュ状の金属層とする。なお、その際、金属層以外に、その他の導電性を有しない層も積層されている場合は、開口部に対応する領域においては、その他の層も金属層と共にエッチング除去する。
この工程も、帯状で連続して巻き取られたロール状の積層体を巻き出して加工し、加工後再度巻き取っていく(巻取り加工、ロールツーロール加工という)ことが好ましい。当該積層体を連続的又は間歇的に搬送しながら、緩みなく伸張した状態で、マスキング、エッチング、レジスト剥離する。透明基材としてガラスを用いる場合には、1枚毎に加工する(枚葉加工、枚葉工程という)。
【0053】
以下、レジスト層のパターン形成をパターン露光にて行う所謂フォトリソグラフィー法について説明する。
まず、マスキングを行う。例えば、金属層側の最表面へ感光性レジストを塗布し、乾燥した後に、所定のパターンを有するフォトマスクにて密着露光し、水現像し、硬膜処理などを施し、ベーキングすることにより、所望のパターンのレジスト層を形成する。尚、感光性レジストのネガ型、ポジ型の何れも使用可能である。感光性レジストがネガ型の場合は、フォトマスクのメッシュパターンはライン部が透明なものを用いる。また、感光性レジストがポジ型の場合は、フォトマスクのメッシュパターンは開口部が透明なものを用いる。又、露光パターンとしては、電磁波遮蔽シートとして所望のパターンであり、最低限メッシュ状領域のパターンから構成される。尚、本発明においては、メッシュパターン周辺(周縁)部の少なくとも一部に額縁状の接地用領域を設ける。
【0054】
上記感光性レジストの塗布は、巻取り加工では、帯状の積層体を連続又は間歇で搬送させながら、金属層面へ、カゼイン、PVA、ゼラチンなどから成るレジストをディッピング(浸漬)、カーテンコート、掛け流しなどの方法で行う。また、レジストは塗布ではなく、ドライフィルムレジストを用いてもよく、作業性を向上できる。
【0055】
マスキング後にエッチングを行う。当該エッチングに用いるエッチング液としては、エッチングを連続して行う本発明には循環使用が容易にできる塩化第二鉄、又は塩化第二銅の水溶液が好ましい。また、当該エッチングは、帯状で連続する鋼材、特に厚さ20〜80μmの薄板をエッチングするカラーTVのブラウン管用のシャドウマスクを製造する設備、工程と基本的に同様である。透明基材としてガラスを用いる場合の枚葉加工もより古くから行われている。エッチング後は、水洗、アルカリ液によるレジスト剥離、洗浄を行ってから乾燥すればよい。
【0056】
(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、黒化層を設ける工程
本工程においては、上記導電層(メッシュ状金属層)の透明基材側の面とは反対側の面に、黒化処理を行い、黒化層を設ける。
黒化処理としては、メッシュ状金属層の表面を粗化するか、全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与するか、或いは両者を併用するか、何れかの公知の各種黒化処理法により行う。黒化処理は、メッシュ状金属層と透明基材とを接着剤層で積層する前の金属層に対し実施しても良い。
【0057】
(iii)前記黒化層の導電層側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程
本工程においては、まず上記黒化層が積層されたメッシュ状金属層の凹凸面に、透明樹脂層用塗工液を塗工して、透明樹脂層を形成する。此の場合、該透明樹脂層によって当該メッシュ凹凸面を平坦化することになる為、斯かる透明樹脂層形成は所謂平坦化処理に相当する。この様な平坦化処理は、透明基材上に積層したメッシュ状金属層による凹凸表面に対して、透明樹脂を含む透明液状組成物を塗布し、開口部(凹部)を充填し塗膜の当該表面を実質上平坦面とすることにより行う。そして、上記塗工液を加熱又は紫外線照射等で硬化させて、透明樹脂層を形成する。尚、上記透明樹脂層用塗工液としては、上記「(4)透明樹脂層」の項において説明したものを用いることができる。
【0058】
(iv)前記透明樹脂層及び黒化層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程
本工程においては、上記透明樹脂層及び黒化層の周縁部にパルス光を照射し、当該透明樹脂層及び黒化層を除去し、前記導電層の周縁部の一部表面を露出させるとともに、当該露出表面に凹陥部を設ける。
上記パルス光照射加工に用いる光は、透明樹脂層を蒸発、或いは化学的分解により除去し得るエネルギーを有し、所望の凹陥部の直径に収束できるものであれば、特に制限は無い。但し、通常は、十分な可干渉性(コヒーレンス)が有って、ビームを最小1μm程度の直径に収束でき、エネルギー密度も十分収束可能なレーザー光を利用する事が好ましい。斯かるレーザーとしては、十分な大出力のパルス発振が出来る公知のレーザーを適宜選択して用いることができる。例えば、YAG(Nd−YAG)レーザー、Nd−硝子レーザー、ルビーレーザー、、TEA炭酸ガスレーザー等の炭酸ガスレーザー、アルゴンイオンレーザー、エキシマレーザー等が挙げられ、中でも、凹陥部を好適な形状として形成することができる点から、YAGレーザーが好ましく、特に、YAGレーザーの第2高調波が好ましい。ここで、第2高調波とは、レーザー基本波の2倍の周波数(1/2の波長)の総称であり、YAGレーザーの場合、1064nmの基本波長の1/2で、532nmとなる。第2高調波の発生は、非線形光学結晶を用いた公知の手段を用いる。レーザーのパルス幅としては、10ns〜1s程度、尖頭値出力としては、1W〜1kW程度の範囲から、透明樹脂層の材料と厚み、導電層の材料と厚み、凹陥部の直径及び深さ等の条件に応じて適宜選択、調整する。
また、レーザー装置としては、レーザー発振器と、電磁波遮蔽シートを載置、固定シート基台(ステージ)と、当該レーザー発振器からの出力レーザー光ビームを当該基台上に載置された電磁波遮蔽シートに対して、相対的に走査して、所定の2次元領域内を縦横2方向に走査する為の走査機構とを含む構成のものが使用できる。走査機構としては、回転鏡、回転プリズム等からなるレーザー光ビーム自体を走査する方式のものか、或いは、固定のレーザー光ビームに対して当該基台の方を縦横に駆動、制御する方式のものの何れも使用可能で有る。例えば、レーザーマーカとガントリー型ステージからなるレーザー加工機、レーザヘッド移動式のステージ固定型装置、ステージ移動型の装置等が挙げられる。例えば、連続帯状の上記積層体のメッシュが形成されていない接地用領域の所定位置に、レーザーマーカとガントリー型ステージからなるレーザー加工機を配置し、描画位置、描画、描画終了のプロセスを繰り返す。これにより、パルスレーザー光が照射された部分の透明樹脂層及び黒化層が除去され、更に、除去された当該透明樹脂層及び黒化層下の導電層に所望の形状の凹陥部が形成される。
【0059】
レーザー描画装置は、キーエンス社製のMD−S9900(Nd−YAGレーザーの第2高調波使用。発振波長:532nm)を選定した。第2波長であれば特にメーカーを規定する物ではないが、本品はパルスレーザーであり、ドット単位での描画(凹陥部)が容易に可能であるのと、パルスレーザーの利点として連続波のレーザーに比べ立ち上がり、立下りが早く形状的に凹陥部を作りやすく、重畳についても設定がより容易に行える点が挙げられる。
ステージ(シート基台)については、特に規定しない。固定ステージ上へ設けられた水平方向であるXY(鉛直方向であるZ含む場合もある)方向へ可動するガントリー(門)型ステージでも、ステージ自体がXY方向へ可動する(このタイプの装置ではガントリーにZ軸可動を含める場合が多い)物でもよい。
上記キーエンス社製のレーザーマーカーを用いると、この装置に規定される一定範囲内(150mm〜300mm、装置グレードにより異なる)での焦点範囲においては精密位置決めが可能であり、この範囲内において所望の凹陥部を自由な形状で容易に得られる。そして、一定範囲内での描画を終えたら、上記150mm〜300mmにて際まで移動させ、描画のプロセスを繰り返す事で、つながった描画形状が得られる。用途上、つなぎの部分については高精度を要しないので本装置の構成で十分な描画精度が得られる。逆に、通常、描画装置としてあるようなレーザー描画装置では、形状精度において過剰性能であり、装置が非常に高くなり、コストパフォーマンス(性能と価格との比)の面で不適切な物となるか(ガントリー型で顕著に現れる)、描画形状の大きさにおいて製作不可能となるか(ステージ移動型で顕著に現れる)いずれかの可能性が高い。よって、上記レーザーマーカーを使用する事で高精度を必要としないステージ構成とする事で安価で必要な可動範囲を有する大面積のステージを製作することができる。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
【0062】
描画対象として既存品である電磁波遮蔽シートを載置、固定した。此の電磁波遮蔽シートは、厚さ100μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの透明基材の片面に、2液硬化型ウレタン樹脂の接着剤層を介して、銅箔の周縁部よりも内側には厚み10μm、線幅10μm、周期300μmの正方格子を形成して、導電性メッシュ層を形成し、当該導電性メッシュ層の周縁部4周は幅15mmのメッシュ非形成の接地用領域として成る導電層を積層し、当該導電層の当該透明基材の反対側面上全面に、厚さ0.2μmの銅―コバルト合金粒子から成る黒化層を形成し、更に、当該黒化層上全面(導電性メッシュ層及び接地用領域の両方に亘って)に、紫外線硬化したアクリル樹脂層をメッシュ開口部に於ける厚みが20μm厚、接地用領域上に於ける塗工厚が10μmになる様に塗工して成る透明樹脂層とから成る。この導電層の透明樹脂層で被覆された接地用領域への描画を行うにあたり、レーザー描画装置としてキーエンス社製のMD−S9900(レーザー波長532nm)を選定し、使用した。当該電磁波遮蔽シートをガントリー型ステージからなるXY座標移動装置上(位置決め精度は既存の類似機器に対し高精度を要求されない)へ当該透明樹脂層が表面に露出する向きで固定して乗せ、周縁部の接地用領域上の所定位置(幅10mm×長さ150mm、長さ範囲の規定については後述)への描画を行い、これを問題なく描画することができた。レーザーはパルスレーザーであり、描画条件としてレーザスポットは直径30μm、ピッチは25μmにて行い、平面視形状が図4(f)の如き凹陥部を得る事ができた。なお、描画後の凹陥部の大きさはアブレーションにより約直径40μm〜50μmであった。このレーザーマーカーを使用すると、焦点範囲内である150〜300mm(これは装置ラインナップにより異なる)においては精密位置決めが可能であり、この範囲内で装置出力40%、描画速度1500mm/sにて既述の通り凹陥部を形成する事ができた。そして、本機器の利点として上記の焦点範囲を超える領域の描画に関しては、座標移動装置にてレーザーマーカーを(150mm〜300mm以上、レーザーマーカー装置ラインナップにより異なる)大きく動かし、おおよその位置決めを行い、描画する事で当該銅箔の額縁上に連続的な描画を行う事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明に係る電磁波遮蔽シートの一例の断面模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る電磁波遮蔽シートの一例の断面模式図である。
【図3】図3は、本発明に用いられる導電性メッシュ層の一例の平面図である。
【図4】図4は、本発明の接地用領域に設けられる凹陥部を表す平面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 電磁波遮蔽シート
10 透明基材
11 接着剤層
12 導電層(導電性メッシュ層)
13 接地用領域の一部
14 凹陥部
15 黒化層
20 透明樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面に導電層を備えた電磁波遮蔽シートにおいて、当該導電層の周縁部の接地用領域の当該透明基材とは反対側の面上に凹陥部が形成され、且つ、当該接地用領域に対する当該凹陥部の面積率が50%以上である電磁波遮蔽シート。
【請求項2】
隣接する凹陥部が互いに接触する、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項3】
前記隣接する凹陥部が一定方向に重畳している、請求項2に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項4】
前記導電層の透明基材側とは反対側の面上に、当該導電層の周縁部の凹陥部を形成した接地用領域の少なくとも一部が露出するように透明樹脂層が積層されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項5】
電磁波遮蔽シートの製造方法であって、
(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、
(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び
(iii)前記透明樹脂層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする電磁波遮蔽シートの製造方法。
【請求項6】
電磁波遮蔽シートの製造方法であって、
(i)透明基材の一方の面に、導電層を設ける工程、
(ii)前記導電層の透明基材側の面とは反対側の面に、黒化層を設ける工程、
(iii)前記黒化層の導電層側の面とは反対側の面に、透明樹脂層を設ける工程、及び
(iv)前記透明樹脂層及び黒化層の周縁部をパルス光照射加工により除去し、前記導電層の周縁部の一部表面に凹陥部を設け、露出させる工程を含むことを特徴とする電磁波遮蔽シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−62454(P2010−62454A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228607(P2008−228607)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】