説明

電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物およびプラスチック成形品

電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品がここでは開示される。前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、100重量部のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂、1〜30重量部のステンレス製繊維、ならびに0.01〜10重量部のカーボンナノチューブを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品に関するものである。より具体的には、本発明は、より向上した電磁波遮蔽性能を有する電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物及び当該樹脂組成物から製造されるプラスチック成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化および可塑化し、冷却すると硬化するプラスチックをいう。このような熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂及びビニル系樹脂などの汎用プラスチックと、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂及びポリイミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックとに大別される。
【0003】
熱可塑性樹脂は、加工性及び成形性に優れているため、各種の生活用品、事務自動化機器、電気・電子機器などの、用途に広範囲に適用されている。また、このような熱可塑性樹脂が使用される製品の種類及び特性によって、優れた加工性及び成形性のみならず、特殊な性質を熱可塑性樹脂に付加することによって、高付加価値材料として熱可塑性樹脂を使用しようとする試みが継続的に行われている。特に、熱可塑性樹脂に電磁波遮蔽性能を付与し、この電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂を自動車、電気装置、電子組立体、電気ケーブルなどに使用しようとする様々な試みが行われている。
【0004】
このような電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂は、通常、熱可塑性樹脂を、金属粉末、金属コーティング無機粉末または金属繊維などの添加物と混合することによって得られた電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物から製造される。この電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂の電磁波遮蔽性能の所望のレベルを確保するために、前記添加物は、その比重が高いので、かなり多量に使用される必要がある。しかし、電磁波遮蔽性能を向上するために前記添加物を多量に使用すると、熱可塑性樹脂本来の特性(例えば、耐衝撃性)が低下し、これにより前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂を実際に使用することが不可能になる。
【発明の概要】
【0005】
[技術的解決手段]
本発明の目的は、より向上した電磁波遮蔽性能を表す電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物及びこれを用いて製造されるプラスチック成形品を提供することにある。
【0006】
本発明の一態様によると、100重量部のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂;1〜30重量部のステンレス製繊維;および0.01〜10重量部のカーボンナノチューブを含む電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0007】
前記熱可塑性樹脂は、ホスゲン、ハロゲンホルメートまたは炭酸ジエステルを、下記の式1:
【0008】
【化1】

【0009】
上記の式1で、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し;Xは、ハロゲンであり;およびnは、0、1または2を表す、
で表わされるジフェノール化合物と反応させて製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことができる。
【0010】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、15,000〜50,000g/molの重量平均分子量を有することができる。
【0011】
そして、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物において、前記ステンレス製繊維は、フェライト系またはオーステナイト系ステンレス製繊維を含むことができる。
【0012】
また、前記ステンレス製繊維は、4〜25μmの厚さ及び3〜15mmの長さを有することができる。
【0013】
そして、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物において、前記カーボンナノチューブは、単一壁カーボンナノチューブまたは多重壁カーボンナノチューブでありうる。
【0014】
また、前記カーボンナノチューブは、1〜50nmの厚さ及び1〜25μmの長さを有することができる。
【0015】
また、本発明の他の態様によると、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物から製造されるプラスチック成形品を提供する。
【0016】
また、本発明のさらなる他の態様によると、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される一種から作製される熱可塑性樹脂基材;ならびに前記熱可塑性樹脂基材内に分散されるステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを含むプラスチック成形品を提供する。
【0017】
本発明の他の態様および具体的な実施形態の詳細は、以下の詳細な説明に含まれている。
【0018】
[最良の形態]
以下、本発明を当業者が容易に実施できるように、下記実施例を参照しながらより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を詳細に説明するために提示されるものであり、本発明の範囲および概念を制限するものと解されるべきではない。
【0019】
本発明の一実施形態によると、100重量部のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂;1〜30重量部のステンレス製繊維;および0.01〜10重量部のカーボンナノチューブを含む電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0020】
上記したように、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂と一緒にステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを含む。前記ステンレス製繊維はカーボンナノチューブと相互作用して、相乗効果を奏する。その結果、これら構成成分が比較的少量であっても、電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂にかなり向上した電磁波遮蔽性能を付与することができる。加えて、これらの成分の含量を比較的低減することにより、前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂の本来の特性(例えば、耐衝撃性)の低下を抑制する。
【0021】
以下、本電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物の各構成成分を詳細に説明する。
【0022】
本電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂を含む。
【0023】
このような熱可塑性樹脂の例としては、ホスゲン、ハロゲンホルメートまたは炭酸ジエステルを、下記の式1で表わされるジフェノール化合物と反応させることにより製造される、芳香族ポリカーボネート樹脂がある。
【0024】
【化2】

【0025】
上記の式1中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し;Xは、ハロゲンであり;nは、0、1または2である。
【0026】
前記式1のジフェノール化合物の例としては、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、および2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンなどが挙げられる。これらのうち、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、および1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンが好ましい。「ビスフェノール−A(Bisphenol−A:BPA)」とも呼ばれる、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンがより好ましい。
【0027】
前記ポリカーボネート樹脂は、15,000〜50,000g/molの重量平均分子量を有する。
【0028】
前記ポリカーボネート樹脂の型は限定されない。より詳細には、ポリカーボネート樹脂は、線状若しくは分岐状のポリカーボネート樹脂、またはポリエステル−カーボネート共重合体樹脂であってもよい。このとき、前記分岐状ポリカーボネート樹脂は、ジフェノール化合物の全モル数に対して、0.05〜2モル%の3価またはそれ以上の官能基を有する(すなわち、多官能性)化合物、例えば、3価またはそれ以上の官能基を有するフェノール化合物を用いることによって、製造することができる。また、前記ポリエステル−カーボネート共重合体樹脂は、エステル前駆体、例えば、ジカルボン酸の存在下でポリカーボネートを重合することによって製造することができる。このようなポリエステル−カーボネート共重合体樹脂は、単独で使用しても、または他のポリカーボネート樹脂と組み合わせて使用することができる。
【0029】
また、前記エステル樹脂としては、以下に制限されるものではないが、ホモポリカーボネート樹脂若しくはコポリカーボネート樹脂、またはこれらの混合物を使用することができる。
【0030】
または、前記熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂を使用することもできる。
【0031】
このようなポリエステル樹脂は、重合体鎖にエステル結合を含むことができ、加熱によって溶融されうる。前記ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸及びジヒドロキシ化合物の重縮合によって得られる。ただし、ポリエステル樹脂の製造方法は、これに制限されない。したがって、当業者に既知のいずれの方法を用いることによって製造されたポリエステル樹脂を使用することもできる。また、前記ポリエステル樹脂としては、ホモポリエステル樹脂またはコポリエステル樹脂を、特に制限されることなしに、使用することができる。
【0032】
前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、ステンレス製繊維を含む。このようなステンレス製繊維は、カーボンナノチューブと相互作用して、相乗効果を奏する。その結果、電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂に、より向上した電磁波遮蔽性能を与えることができる。
【0033】
このようなステンレス製繊維は、鉄(Fe)をベース金属とし、相当量のクロム(Cr)またはニッケル(Ni)を主原料とする合金金属繊維である。ステンレス製繊維は、ダイスによりステンレス鋼から連続的なフィラメント繊維束を引き出して製造される。ステンレス製繊維は鉄(Fe)を主成分として含むが、公知のスチールから得られない優れた耐食性及び耐熱性のみならず、常温での強磁性を有するため、前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂に優れた電磁波遮蔽性能を与えることができる。
【0034】
前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物に含まれる前記ステンレス製繊維は、電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂の電磁波遮蔽性能を考慮すると、フェライト系またはオーステナイト系ステンレス製繊維であることが好ましい。
【0035】
また、前記ステンレス製繊維は、4〜25μmの厚さ及び3〜15mmの長さを有する。これによって、前記ステンレス製繊維が電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂内に均一に分散されるため、前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂は、均一な電磁波遮蔽性能を表すことができる。
【0036】
前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物を構成するステンレス製繊維は、前記ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜25重量部の量で使用される。前記ステンレス製繊維の含量が1重量部未満であると、前記樹脂組成物によって製造される電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂の十分な電磁波遮蔽性能を達成することが困難である可能性がある。一方、前記ステンレス製繊維の含量が30重量部を超えると、前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂の本来の特性(例えば、耐衝撃性)が低下するおそれがある。
【0037】
また、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブをさらに含む。このようなカーボンナノチューブは、上記ステンレス製繊維と相互作用して、相乗効果を奏する。その結果、電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂に、より向上した電磁波遮蔽性能を与えることができる。
【0038】
このようなカーボンナノチューブは、優れた機械的強度、高いヤング率(Young's modulus)、及び大きなアスペクト比を示す。加えて、カーボンナノチューブは、高い電気伝導性と熱安定性とを有する。これらの特性により、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂に混合することにより、熱可塑性樹脂に、優れた電磁波遮蔽性能を付与する。
【0039】
カーボンナノチューブは、アーク放電法(Arc−discharge)、熱分解法(pyrolysis)、レーザーアブレーション法、プラズマ化学気相蒸着法(PECVD)、熱化学気相蒸着法、電気分解法、または火炎合成法によって合成される。ただし、このようなカーボンナノチューブの合成法に制限されることない。したがって、任意の方法で合成されたカーボンナノチューブが、特に制限されることなく、電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物に使用できる。
【0040】
カーボンナノチューブは、これを構成する壁の個数によって、単一壁カーボンナノチューブ、二重壁カーボンナノチューブおよび多重壁カーボンナノチューブに分類される。いずれのカーボンナノチューブを、特に制限することなく、前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物に使用できる。
【0041】
また、前記カーボンナノチューブは、1〜50nmの厚さ、及び1〜25μmの長さを有する。これによって、前記カーボンナノチューブは、電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂中に均一に分散され、ゆえに前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂は均一な電磁波遮蔽性能を表すことができる。
【0042】
そして、前記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂組成物を構成するカーボンナノチューブは、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂 100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは、0.5〜5重量部の量で使用される。前記カーボンナノチューブの含量が0.01重量部未満であると、前記樹脂組成物から製造される電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂の電磁波遮蔽性能が充分でない。一方、前記カーボンナノチューブの含量が10重量部を超えると、熱可塑性樹脂の機械的物性が低下するおそれがある。
【0043】
前記電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、上述した構成成分に加えて、目的とする用途に合う添加剤をさらに含むことができる。添加剤の例としては、滑剤、離型剤、安定剤、無機添加剤、顔料および染料が挙げられる。このような添加剤は、前記熱可塑性樹脂 100重量部を基準にして、5重量部以下、好ましくは、0.1〜2重量部の量で使用される。
【0044】
本電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物は、各構成成分を混合して電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物を製造し;およびこのような樹脂組成物を押出機で溶融・押出することを有する公知の方法により製造する。上記電磁波遮蔽用熱可塑性樹脂から、プラスチック成形品を製造する。
【0045】
本発明の他の実施形態によると、上述した電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物から製造されるプラスチック成形品が提供される。より詳しくは、このようなプラスチック成形品は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂基材、ならびに前記熱可塑性樹脂基材内に分散されているステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを含むことができる。
【0046】
このようなプラスチック成形品は、前記熱可塑性樹脂基材内に分散されたステンレス製繊維及びカーボンナノチューブの相乗作用によって、これら成分が比較的少量に使用されているとしても、より向上した電磁波遮蔽性能を発揮することができる。また、前記ステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを少量使用することで、熱可塑性樹脂の機械的強度(例えば、耐衝撃性)の低下を低減する。
【0047】
前記プラスチック成形品は、例えば、60〜90dBの、優れた電磁波遮蔽性能を示す。加えて、ASTM D256によって測定されるプラスチック成形品のノッチアイゾット衝撃強度(1/8”)は、5〜30Kgf・cm/cmの範囲である。これから、プラスチック成形品が優れた耐衝撃性を有することが示される。
【0048】
本発明のさらなる他の実施形態によると、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂基材;および前記熱可塑性樹脂基材内に分散されているステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを含み、60〜90dBの電磁波遮蔽性能を有し、ASTM D256に従って測定されたノッチアイゾット衝撃強度(1/8”)が5〜30Kgf・cm/cmであるプラスチック成形品が提供される。
【0049】
このようなプラスチック成形品は、より向上した電磁波遮蔽性能に加えて、優れた耐衝撃性を有することで、様々な用途で、例えば、自動車、電気装置、電子組立体、電気ケーブルなどに電磁波遮蔽性を付与する際に、広範に使用される。
【0050】
[発明の形態]
本発明を、以下の実施例を通してより理解するであろう。ただし、これらの実施例は、本発明の範囲を制限するものと解されるべきではない。
【0051】
後述する実施例及び比較例で使用する(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ステンレス製繊維、及び(C)カーボンナノチューブのさらなる詳細は、次の通りである。
【0052】
(A)ポリカーボネート樹脂
ポリカーボネート樹脂として、重量平均分子量(Mw)が25,000g/molであるビスフェノール−A型ポリカーボネートを使用した。
【0053】
(B)ステンレス製繊維
ステンレス製繊維として、GR−75/C20(登録商標)(ベルギーのBekaert Fiber Technologies.製、厚さ:11μm、長さ:6mm)を使用した。
【0054】
(C)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブとして、多重壁カーボンナノチューブ(C−tube 100(登録商標)、CNT Co.,LTD.製、厚さ:10〜50nm、長さ:1〜25μm)を使用した。
【0055】
実施例1〜2及び比較例1〜5
下記実施例及び比較例で使用された各成分の組成を、下記の表1に示す。表1の組成によって、各成分を混合して、各電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物を製造する。この組成物を、二軸押出機(L/D=35、Φ=45mm)で押出した後、得られた押出物をペレットに製造した。そして、このペレットを、射出機(10oz)で300℃の射出し、物性及び電磁波遮蔽性能を測定するための試片を製造した。
【0056】
前記試片を23℃、相対湿度50%の雰囲気下で24時間、放置した。次に、network analyzer(E5071C(登録商標)、Agilent Technologies Inc.製)を使用して、3mm厚さの試片の電磁波遮蔽性能を測定した(電磁波遮蔽性能評価)。
【0057】
また、一定の重さの振り子を用いてプラスチックのアイゾット衝撃強度を測定する米国の標準的な試験方法である、ASTM D256に従って、前記試片のノッチアイゾット衝撃強度(1/8”)を測定した(耐衝撃性評価)。
【0058】
電磁波遮蔽性能及び耐衝撃性の測定結果を、下記の表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
上記の表1のデータから示されるように、ステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを含む実施例1及び2の試片は、カーボンナノチューブまたはステンレス製繊維のうち何れかを含む比較例2〜4の試片に比べて、著しく向上した電磁波遮蔽性能を発揮した。実施例1及び2では、耐衝撃性の低下がほとんどなかった。
【0061】
また、ステンレス製繊維及びカーボンナノチューブ双方を含む実施例1及び2の試片は、ステンレス製繊維及びカーボンナノチューブ双方を含まない比較例1の試片に比べて、著しく向上した電磁波遮蔽性能を発揮した。
【0062】
ステンレス製繊維及びカーボンナノチューブを好ましい含量で使用される、実施例1及び2の試片では、耐衝撃性の低下がほとんどなかった。他方、これらの2成分を上記含量範囲から逸脱して使用する、比較例5の試片では、耐衝撃性の急激な低下があり、ゆえにこれを実際に使用するには適さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される熱可塑性樹脂;
1〜30重量部のステンレス製繊維;ならびに
0.01〜10重量部のカーボンナノチューブ、
を含む電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ホスゲン、ハロゲンホルメートまたは炭酸ジエステルを、下記の式1:
【化1】

ただし、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し;Xは、ハロゲンを表し;およびnは、0、1または2である、
で表わされるジフェノール化合物と反応させることによって製造される、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂は、15,000〜50,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ステンレス製繊維は、フェライト系またはオーステナイト系ステンレス製繊維である、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ステンレス製繊維は、4〜25μmの厚さ及び3〜15mmの長さを有する、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、単一壁カーボンナノチューブまたは多重壁カーボンナノチューブである、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、1〜50nmの厚さ及び1〜25μmの長さを有する、請求項1に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうち何れか1項に記載の電磁波遮蔽性熱可塑性樹脂組成物から製造されるプラスチック成形品。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される一種から作製される熱可塑性樹脂基材;および
前記熱可塑性樹脂基材内に分散されるステンレス製繊維及びカーボンナノチューブ、
を含むプラスチック成形品。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらの混合物から選択される一種から作製される熱可塑性樹脂基材;および
前記熱可塑性樹脂基材内に分散されるステンレス製繊維及びカーボンナノチューブ、
を含み、
60〜90dBの電磁波遮蔽性能を有し、およびASTM D256に従って測定されたノッチアイゾット衝撃強度(1/8”)が5〜30Kgf・cm/cmである、プラスチック成形品。

【公表番号】特表2010−513653(P2010−513653A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542620(P2009−542620)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005852
【国際公開番号】WO2008/078847
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】