説明

電磁溶接用平板状ワンターンコイル

【課題】平板状ワンターンコイルの上面に重ね置かれた被溶接用金属薄板を溶接する電磁溶接法に関する。従来の方法では、溶接時、幅の狭いコイル中央部分に電磁反発力が一方向から働くため、コイルの耐久性能が低下する欠点があった。これを改良した構造のコイルを提供する。
【解決手段】コイル中央部分3Aの周囲を絶縁し、この側面および下側にコイル周辺部分3B、3C、3Dを配置する。このような構造のコイルを使用して金属薄板5A、5Bを溶接すると、中央部分3Aには2つの電磁反発力8が互いに逆向きに働く。これらの電磁反発力8は実質的に打ち消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接が比較的に困難なアルミニウム、銅などの金属薄板や箔を電磁力を使って溶接する電磁溶接(電磁圧接とも呼ばれる)装置で使用する平板状ワンターンコイルに関する。
【技術背景】
【0002】
アルミニウム、銅などの金属薄板を容易にシーム溶接する方法として、本発明者が考えた電磁溶接法がある(特許文献1)。この電磁溶接法は、例えば、一枚の金属板材に2本の溝を加えE字状の形態とした平板状ワンターンコイルを用い、板材の幅が狭く、細長い中央部分を行きの電流用、その両側の幅の広い周辺部分を帰りの電流用として、電源から大電流を往復して急激に流す。このコイル中央部分の上に被溶接用金属薄板を重ね置き、これら金属薄板に生じる渦電流加熱と電磁力による押圧でこれらをシーム溶接する方法である。
【特許文献1】特許第3751153号(図4)
【0003】
一般的に、電磁溶接装置の電源にはコンデンサ電源が使用される。コンデンサ電源の容量は10〜400μF、充電エネルギーは数kJである。コイルには最大値100kA以上の放電大電流が、100μs程度以下の短時間、パルス的に流れる。被溶接用金属薄板の厚さは2mm以下、シーム溶接される部分の長さは最大1mである。重ね置かれた被溶接用金属薄板の間に1mm程度の間隙を設けて溶接すると、これら金属薄板同士が高速で衝突し、金属ジェットが発生する。この結果、被溶接用金属薄板の表面がクリーニングされ、エネルギー効率よく溶接される(非特許文献1)。
【非特許文献1】溶接学会誌、77巻8号(2008)p.718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先ず、公知である一枚板から作られた平板状ワンターンコイルを用いた電磁溶接装置の概略を説明する。次に、この平板状ワンターンコイルの問題点を述べる。
【0005】
図5はこの平板状ワンターンコイルを用いた電磁溶接用放電装置の概略図であり、(A)は平面図、(B)はコイルの斜視図である。この放電装置の主な構成要素は、図5(A)、(B)に示すように、コンデンサ電源1、スイッチ2、磁束発生用の平板状ワンターンコイル3である。平板状ワンターンコイル3は電気的に絶縁された一枚の平板からなっている。このコイル3は、幅が狭く、細長い中央部分3A(行きの電流路)、その両側の幅の広い周辺部分3B,3C(帰りの電流路)およびこれらを片端側で接続する部分から構成されている。図5(B)に示された○の中に×印などの記号は、電流の流れる方向を表している。
【0006】
コンデンサ電源1を充電し、スイッチ2を閉じて放電させると、平板状ワンターンコイル3に放電大電流が往復して流れる。実際の装置では、電源1、スイッチ2およびコイル3を接続している部分(図5(A)に細い線で示されている)は、幅広い導体板で配線され、回路のインダクタンスおよび抵抗を少なくしている。
【0007】
図5に示す装置は、図6に示すように平板状ワンターンコイル3の上面に被溶接用金属薄板5A、5Bを重ね配置し、これらを溶接する。図6で、平板状ワンターンコイル3、金属薄板5A、5Bおよび固定具6は、締め付け器具(図示されていない)によって固定されている。
【0008】
スイッチ2を閉じて平板状ワンターンコイル3に大電流を急激に流すと、このコイル3の中央部分3Aの周りに高密度の磁束4が急激に発生する。この磁束4の一部は、下側の金属薄板5Aに交差する。この結果、電磁誘導作用によって下側の金属薄板5Aに渦電流と呼ばれる誘導電流が流れ、交差する磁束の浸入を防ぐ。同時に、金属薄板5Aは流れる渦電流で加熱される。
【0009】
下側の金属薄板5Aには上向きの電磁力7が働き、上側の金属薄板5Bへ衝突し、押圧する。この結果、金属薄板5A、5Bはコイルの中央部分3Aに沿って溶接される。
【0010】
下側金属薄板5Aに働く電磁力の反作用として、大電流の流れるコイル中央部分3Aにも同じ大きさの電磁力が下向きに働く。この電磁力を電磁反発力8と呼ぶことにする。
【0011】
前述した平板状ワンターンコイルに関する問題点を示す。
【0012】
この平板状コイルを使用した電磁溶接装置では、コイルに最大値100kA以上の放電大電流が、短時間流れる。コイル中央部分3Aには、大きな電磁反発力8が一方向に働く。コイル中央部分3Aは、電流を集中させるため幅が狭く、細長く、変形しやすい。この変形を防ぎ、コイルの耐久性能を向上させられるかが問題となっている。
【0013】
本発明者はこの問題を解決するためコイル構造を一部改良した特許を出願し(特許文献2)、実験を続けている。コイルの耐久性能は約30%向上した。
【特許文献2】特開2004−342535号
【0014】
さらに、発想を変え、コイル中央部分3Aに働く電磁反発力8が実質的に無くなるような電磁溶接法を提案した(特許文献3)。平板状ワンターンコイルの両面に、被溶接用金属薄板(2組、合計4枚)を対称的に配置、固定して溶接する方法である。この方法では、コイル中央部分3Aに働く電磁反発力8が2方向(2つ)になり、2つの電磁反発力同士が打ち消しあう。ただし、重ねた2組の被溶接用金属薄板を対称的に配置、固定する必要があり、配置、固定法が複雑になる欠点がある。
【特許文献3】特開2010−110814号
【0015】
本発明の目的は、コイルの中央部分3Aに働く電磁反発力8を無くすようにすると共に、被溶接金属薄板(1組、合計2枚)をコイル中央部分3Aの上面だけに配置、固定して溶接できる構造の平板状ワンターンコイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成できる平板状ワンターンコイルの構造例を以下に示す。
【0017】
(1)コイル中央部分3Aの断面形状を長方形とし、この側面および下面を絶縁材で絶縁する。中央部分3Aおよび絶縁材で囲まれた部分の全体の断面形状も長方形とする。
【0018】
(2)コイルの幅の広い周辺部分3B、3Cの板厚を十分厚くし、この中央部分に直線状の溝を設ける。溝の断面形状は長方形であり、その横幅および深さは、中央部分3Aおよび絶縁材で囲まれた部分の全体の横幅および高さに等しくする。
【0019】
(3)幅の広い周辺部分3B、3Cの溝部分に、中央部分3Aおよび絶縁材で囲まれた部分の全体を隙間がないように入れる。絶縁された中央部分3Aの上面は、幅の広い周辺部分3B、3Cの上面と一致する。
【0020】
(4)このようなコイル面上を絶縁し、面上に被溶接用金属薄板(1組、合計2枚)を配置、固定して溶接する。
【0021】
(5)コイル中央部分3Aの上面近くには被溶接用金属薄板が、下面近くにはコイルの溝部分(金属)が存在する。このため、溶接時、コイル中央部分3Aに働く電磁反発力8は2つになる。1つは被溶接用金属薄板から、他の1つはコイルの溝底部分(金属)から生じる。これら2つの電磁反発力同士が打ち消しあうようにすれば、コイル中央部分3Aの変形を防ぐことができる。
【0022】
本発明は、以上の手段を基に、重ねた被溶接用金属薄板(1組、合計2枚)をコイル面上に配置、固定して電磁溶接しても、幅が狭く、細長いコイル中央部分3Aが変形しにくい平板状ワンターンコイルを提供する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の発明による平板状ワンターンコイルを図5の平板状ワンターンコイル3に替えて使用しても、間隙を設けて重ねた被溶接用金属薄板を同様に電磁溶接できる。溶接時、コイル中央部分3Aが変形しにくいので、コイルの耐久性が向上する。コイルの寿命が伸びる。溶接できる回数が増加する。コイルを交換する頻度が少なくなる。
【0024】
溶接時、コイル中央部分3Aの周囲(上面,下面,側面)は絶縁され、金属材で囲まれるので、中央部分3Aの周囲に発生する磁束は金属材の外部へ漏れにくくなる。従来のコイルでは、下面から磁束が漏れていた。本発明のコイルでは、磁束が外部へ漏れにくく、コイルのインダクタンスが減少する。同じ電源エネルギーで溶接するとき、本発明のコイルには比較的に大きな電流が流れるので、エネルギー効率よく溶接できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に本発明の特徴を示す典型的な平板状ワンターンコイル3の断面図を示す。このコイル3は、幅が狭く、細長い中央部分3A(行きの電流路)、その両側および下側の幅の広い周辺部分3B、3C、3D(すべて帰りの電流路)およびこれらを片端側で接続する部分(図示されていない)から構成されている。図1に示された○の中に×印などの記号は、断面に垂直に流れる行きまたは帰りの電流の方向を表している。
【0027】
コイルの材質、寸法例を以下に示す。
【0028】
材質はクロム銅、幅の広い周辺部分3B、3Cの板厚は20mmである。溝9の断面は長方形で、横幅は15mm、深さ11mmである。中央部分3Aの長さは約120mm、断面は長方形で、横幅5mm、高さは10mmである。周辺部分3B、3C、3Dと中央部分3Aを絶縁する絶縁材10の材質は、ガラスエポキシ樹脂である。
【0029】
別の寸法例を示す。幅の広い周辺部分3B、3Cの板厚は20mmである。溝9の断面は長方形で、横幅は13mm、深さ7mmである。中央部分3Aの長さは約120mm、断面は長方形で、横幅3mm、高さは5mmである。周辺部分3B、3Cと中央部分3Aを絶縁する絶縁材10の材質は、ガラスエポキシ樹脂である。
【0030】
以上のように、コイル中央部分3Aの断面形状は、長方形とし、横幅に比べ高さを約2倍に選ぶ必要がある。この理由は、前記の特許文献3に示されているものと同様である。
【0031】
図1に示す平板状ワンターンコイル3の上面に被溶接用金属薄板5A、5Bを重ね配置し、これらを溶接する。溶接時、コイル中央部分3Aには、図2に示すように、2つの電磁反発力8が働く。1つは被溶接用金属薄板5Aから、他の1つはコイル周辺部分3D(溝底部分)に流れる電流から生じる。これら2つの電磁反発力8は、コイルの材質、構造などを選べば、互いに打ち消しあう。前記寸法のコイルを使用して溶接した結果、コイルの変形が減少し、その耐久性は2倍以上に向上した。
【実施例2】
【0032】
図3に本発明の平板状ワンターンコイル3に関する別の断面図を示す。図3のコイルは、幅が狭く、細長い中央部分3A(行きの電流路)、その両側および下側の幅の広い周辺部分3B、3C、3D(すべて帰りの電流路)およびこれらを片端側で接続する部分(図示されていない)から構成されている。コイルの材質は、下側の周辺部分3Dだけ、クロム銅から他の銅合金または他の金属に換えてある。
【0033】
このようにコイル周辺部分の一部の材質を換えて、実施例1と同様に溶接しても、コイル中央部分3Aに働く2つの電磁反発力8が互いに打ち消しあうように調整できる。コイル断面の構造上の選択肢が広がる。
【実施例3】
【0034】
図4に本発明の平板状ワンターンコイル3に関する別の断面図を示す。図4のコイルは、幅が狭く、細長い中央部分3A(行きの電流路)、その両側の幅の広い周辺部分3B、3C(帰りの電流路)および下側の絶縁された金属板11から構成されている。金属板11のコイル側表面には、薄い絶縁シート12(材質はポリイミドなど)が貼られている。金属板11にはコイル電流は流れない。金属板11の平面積はコイル全体の平面積と同じにすることが望ましい。絶縁シートの平面積は金属板11の平面積より大きくすることが望ましい。
【0035】
コイル下側の金属板11にコイル電流(帰りの電流)を流さない場合でも、実施例1と同様に溶接する時、金属板11には渦電流が流れる。金属板11には電磁力7が働く。コイル中央部分3Aには金属板11から電磁反発力8が働く。
【0036】
この結果、溶接時、中央部分3Aには金属板11および被溶接用金属薄板5Aから2つの電磁反発力8が互いに逆向きに働く。この場合も、2つの電磁反発力8が互いに打ち消しあうように調整できる。金属板11の板厚を厚くすれば、コイル下側の固定具6は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】 本発明の実施例1を示す平板状ワンターンコイルの断面概略図(1)である。
【図2】 本発明の実施例1を示す平板状ワンターンコイル中央部分3Aに働く、溶接時の電磁反発力を示す断面概略図である。
【図3】 本発明の実施例2を示す平板状ワンターンコイルの断面概略図(2)である。
【図4】 本発明の実施例3を示す平板状ワンターンコイルの断面概略図(3)である。
【図5】 従来の平板状ワンターンコイルを用いた電磁溶接装置の概略図である。(A)はコイル平面図および放電回路、(B)はコイルの斜視図である。
【図6】 図5に示すコイル上部に被溶接用金属薄板を配置し、電磁溶接する方法を示す概略図である。(A)は平面図、(B)は断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電源(コンデンサ電源)
2 スイッチ
3 平板状ワンターンコイル
3A 平板状ワンターンコイルの中央部分(電流集中部分)
3B,3C 平板状ワンターンコイルの周辺部分(3Aの横側)
3D 平板状ワンターンコイルの周辺部分(3Aの下側)
4 磁束
5A 被溶接用金属薄板(下側)
5B 被溶接用金属薄板(上側)
6 固定具
7 電磁力
8 電磁反発力
9 溝
10 絶縁材
11 金属板
12 絶縁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅板などを加工して電源からの行きの電流を流すための幅が狭く電流が集中して流れる中央部分を設け、帰りの電流を流すための幅の広い部分を残りの部分に設けた、電気的に絶縁された一枚の板から構成される平板状ワンターンコイルの上面に,一組の被溶接用金属薄板を重ねて置き、これらを固定具で固定し、電源からこのコイルに通電して電磁力を発生させ、この電磁力によって被溶接用金属薄板を溶接する電磁溶接法において、
行きの電流が流れる中央部分の周囲を絶縁し、この絶縁した中央部分の下側に帰りの電流を流す部分の一部分または別の金属板を配置することを特徴とする電磁溶接用平板状ワンターンコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152821(P2012−152821A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30206(P2011−30206)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(506057188)
【Fターム(参考)】