説明

電磁石装置及び磁気共鳴撮像装置

【課題】被検体の挿入方向に対し静磁場が垂直方向に発生される電磁石装置に関し、不必要な構成を極力排除することにより、小型化・軽量化した電磁石装置及び磁気共鳴撮像装置を提供する。
【解決手段】第1環状電流(J1)が順方向に循環する第1コイル(31)と、第2環状電流(J2)が逆方向に循環する第2コイル(32)と、複数の環状電流(J3-J6)が順方向及び逆方向が交互に循環するコイル群(30)と、を含み、第1コイル(31)、第2コイル(32)及びコイル群(30)は、この順番で仰角θが大きくなるように配置され(θ1<θ2<θ3)、仰角θ2と、仰角θ3と、を挟む角度領域には、第2コイル(32)及びコイル群(30)が含まれない空白領域(S)が存在し、中心軸(Z)と直交する面内に磁性材料を任意に分布させ均一磁場領域(U)における磁場分布を調整する磁場調整部(14)の最外側が、空白領域(S)に含まれるように配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状に循環する電流により誘導される静磁場を発生させる電磁石装置に関し、特に、被検体の挿入方向に対し前記静磁場が垂直方向に発生される電磁石装置及びこの電磁石装置を適用した磁気共鳴撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像装置(以下、MRI装置;Magnetic Resonance Imagingという)は、電磁石装置によって形成される均一磁場領域を撮像領域としてそこに被検体を挿入する。そして、この撮像領域に、方向が順次切り替わる傾斜磁場を重畳させるとともに、被検体に高周波パルスを照射する。このときに発生する核磁気共鳴現象(以下、NMR現象;Nuclear Magnetic Resonanceという)を利用し、被検体の、物理的・化学的性質を表す画像が撮像される。
【0003】
医療用のMRI装置は、被検体の挿入方向に対し、均一磁場を水平方向に発生させる水平磁場型と、均一磁場を垂直方向に発生させる垂直磁場型と、に大きく分類される。
一般に、後者の垂直磁場型のMRI装置は、前者に対比して、被検体を挿入する空間を広く確保でき、オペレーションの自由度が向上する点において優れている。
一方で、垂直磁場型のMRI装置は、環状に電流を循環させるコイル、均一磁場を高強度化・均一化させる強磁性体等を容器に収容し、高重量となった二つの容器を垂直方向に高い寸法精度で対向させるために機械的剛性が求められる。
また、医療用のMRI装置においては、より高度の医療診断を実践するために、撮像領域において形成される均一磁場が、広範囲に亘って高強度であることが要求されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−279394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、広範囲に亘って高強度な均一磁場を撮像領域に形成する垂直磁場型のMRI装置は、装置の大型化・重量化が避けられない。
すなわち、均一磁場の領域を広範囲に亘って形成するためには、環状に循環させる環状電流の口径を大型化することが避けられない。このため、環状電流の口径を大型化すれば今度は、均一磁場の強度を維持するために電流値を高める必要が生じ、コイルの巻線数が増え高重量化する。もしくは、均一磁場の強度や均一性を確保するため、強磁性体の配置を増やすとしても高重量化する。
そして、これら大型化・重量化したコイル、強磁性体等の主要構成品を垂直方向に寸法精度を維持させて支持する機構も大掛かりになり、さらに外部に漏洩する磁場を遮蔽する機構を考慮するとなるとMRI装置はますます大型化・高重量化することになる。
【0006】
本発明は、係る問題を解決することを課題とし、所定の大きさ及び磁場強度を示す均一磁場領域を形成するにあたり、不必要な構成を極力排除することにより、小型化・軽量化した電磁石装置及び磁気共鳴撮像装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために本発明は、撮像領域に均一磁場を発生させる一対の静磁場発生部を備える電磁石装置又は磁気共鳴撮像装置において、前記静磁場発生部は、第1環状電流が順方向に循環する第1コイルと、第2環状電流が逆方向に循環する第2コイルと、異径の複数の環状電流が順方向及び逆方向が交互となるように循環するコイル群と、を少なくとも含み、前記第1コイル、前記第2コイル及び前記コイル群は、この順番で前記撮像領域の中心から見込む仰角が大きくなるように配置され、前記第2コイルを見込む仰角と、前記コイル群を見込む仰角と、を挟む角度領域には、前記第2コイル及び前記コイル群が含まれない領域である空白領域が存在し、前記中心軸と直交する面内に磁性材料を任意に分布させ前記均一磁場領域における磁場分布を調整する磁場調整部の最外側が、前記空白領域に含まれるように配置されていることを特徴とする(請求項1)。
又は、前記した構成において、前記コイル群に替えて、前記第1環状電流に誘導される静磁場により磁化する第1磁化部材に置換した構成としてもよい(請求項2)。
【0008】
係る構成を本発明が有することにより、前記領域を起点として、撮像領域の中心から放射状に分布する磁束密度の粗密のゆらぎが、前記一対の静磁場発生部が対向する空間内に形成されるようになる。このように形成される磁束密度の粗密のゆらぎは、放射状の中心に近づくに従い小さくなるので、結果的に、撮像領域には均一磁場領域が形成されることになる。このようにして均一磁場領域を形成する構成によれば、磁石装置全体の大きさを左右する第1コイルの口径を小さく構成することを可能とし、また余分な強磁性体を配置する必要もない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定の範囲において所定の強度を示す均一磁場を形成するにあたり、不必要な構成を極力排除することにより、小型化・軽量化した電磁石装置及び磁気共鳴撮像装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る磁気共鳴撮像装置(MRI装置)の実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】本発明に係る電磁石装置の第1実施形態において、(a)は電磁石装置の水平面におけるコイルの配列を示し、(b)は電磁石装置のX−X縦断面を示している。
【図3】第1実施形態に係る電磁石装置(次数n=6)において(a)は撮像領域の周辺の磁束の分布を示す図であり、(b)はコイルの配列面に環状電流が循環する場合を仮想的に示す模式図であって、(c)は(b)に示す仮想的な環状電流に等価である磁化部材の配置を示す図であり、(d)はコイルの配列面を循環する仮想的な環状電流を示すとともに、複数のコイルのうち一部を磁化部材に置き換えて示した図である。
【図4】本発明に係る電磁石装置の第2実施形態において、(a)は電磁石装置の水平面におけるコイルの配列を示し、(b)は電磁石装置のX−X縦断面を示している。
【図5】本発明に係る電磁石装置の第3実施形態において、(a)は電磁石装置の水平面におけるコイルの配列を示し、(b)は電磁石装置のX−X縦断面を示している。
【図6】本発明に係る電磁石装置の第4実施形態において、(a)は次数n=5である場合の撮像領域の周辺の磁束の分布を示す図であり、(b)は次数n=7である場合の撮像領域の周辺の磁束の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態に係る磁気共鳴撮像装置(MRI装置)を説明する。
図1に全体斜視図が示されているようにMRI装置10は、電磁石装置11に撮像領域Uを挟むようにして一対の傾斜磁場発生部13,13及び磁場調整部14,14が配置され、この撮像領域Uに被検体(図示せず)を挿入するためのベッド台Dが設けられている。さらに、MRI装置10は、図示されない構成要素として、被検体にNMR現象を発現させる共鳴周波数(数MHz以上)の電磁波を撮像領域Uに向けて照射するRF発振部(RF;Radio Frequency)と、NMR現象が発現し水素原子核のスピンの状態が変化する際に放出される応答信号を受信する受信コイルと、これら構成要素を制御する制御装置、受信した信号を処理して解析を行う解析装置とを備えている。
【0012】
電磁石装置11は、中心軸Zを回転対称軸として、一対の対向する静磁場発生部15,15が、支持部材12によって、撮像領域Uを挟むように垂直方向に支持されている。
静磁場発生部15,15は、中心軸Zの周りを循環する環状電流により誘導される静磁場により撮像領域Uに均一磁場領域を形成する。この均一磁場領域における磁場の均一性は、磁場の変動(ゆらぎ)が百万分の1の程度(数ppm)の精度が要求される。この均一磁場領域は、時間的に変動しない定常な静磁場で、通常0.1から数テスラ以上の強度を有するものであり、通常、直径で30〜40cmの球状もしくは楕円状を示す。
【0013】
傾斜磁場発生部13,13は、撮像領域Uにおける磁場強度が傾斜するように前記均一磁場に対して傾斜磁場を重畳させる。この重畳される傾斜磁場は、MRI装置10の動作時に撮像領域Uの直交する三方向に対し、それぞれ順番に切り替えて、重畳される。このように撮像領域Uにおける磁場の強度が、直交する三方向に順番に切り替わって傾斜することにより、NMR現象が発現する三次元位置が特定される。
【0014】
磁場調整部14は、中心軸Zと直交する面内に磁性材料からなる無数の螺子部材を任意に分布させ撮像領域Uにおける磁場分布の均一性が向上するように調整する。つまり、電磁石装置11は、組み立て誤差や設置環境の影響により、撮像領域Uに形成される磁場の均一性に誤差が発生する。そこで、磁場調整部14により誤差成分を矯正(調整)する。
【0015】
このように構成されることによりMRI装置10は、撮像領域Uの関心領域(通常1mm厚のスライス面)だけにNMR現象を発現させて、被検体の断層を画像化する。
【0016】
静磁場発生部15は、図2に示されるように、複数のコイル(符号29−36)を内部に固定して収容する容器20が設けられている。ここで、図2(a)は電磁石装置11の水平面における複数コイル(符号29−36)の配列を示し、図2(b)は電磁石装置11のX−X縦断面を示している。
【0017】
容器20は、外端面21、側筒面22、円錐面23、内端面24及び窪み面25により周囲が構成される。
この容器20は、ステンレス材質などの非磁性体でかつ弾性率の高い材質で構成されており、支持部材12の一端に接続して、垂直方向に配置される静磁場発生部15,15を支持する基盤となる。また容器20の内部は、図示しない固定手段により前記した複数のコイル(符号29−36)が剛に固定され、コイルに電磁力が作用してもその位置が変位しないように構成されている。
【0018】
さらに容器20は、前記した複数のコイル(符号29−36)のうち少なくとも一つに超電導コイルが採用されていれば、この超電導コイルを冷却する冷媒とともに収容する冷媒容器(図示せず)も含む。
この場合、容器20は、内部の密閉空間が真空状態に保持される真空容器であって、熱が伝導および対流によりコイル及びその冷媒に伝達するのを防止する。
ここで、超電導コイルとは、冷媒(例えば、液体ヘリウム)によって、臨界温度よりも低温に冷却されると常電導状態から超電導状態に転移して電気抵抗がゼロとなるものであって、環状の電流が減衰することなく永久に循環するものである。
【0019】
窪み面25は、撮像領域Uに対向する部位において内端面24の延長面に対し段差するように、中心軸Zに対し略直交するように設けられている。
このように窪み面25が形成されたことは、後記するようにドーム状に配列する複数のコイル(符号30−32)に対し、何ら構成上の干渉を及ぼすものでない。さらに、窪み面25により形成される空間に傾斜磁場発生部13及び磁場調整部14を配置させることが可能になることにより、被検体が挿入される空間(静磁場発生部15,15に挟まれる空間)を広く確保できる。つまり、撮像領域Uの大きさに対比して電磁石装置11を小型化することに寄与することになる。
【0020】
円錐面23は、容器20の側筒面22から内端面24にわたる部分において形成されている。これにより、仮に、容器20の縁端部分を、円錐面23によらず、側筒面22及び内端面24のみで形成した場合よりも、重量削減に大きく貢献し、電磁石装置11の軽量化に寄与することになる。
【0021】
第1コイル31は、図2(b)に示されるように、半径R1の円環形状を有し、撮像領域Uの中心から中心軸Zの方向に高さH1の位置に配置されている。そして、この第1コイル31には、中心軸Zの周りを順方向に第1環状電流J1が循環している。この順方向に循環する第1環状電流J1は、撮像領域Uに、均一磁場と同一方向の磁場を形成するとともにこの均一磁場の形成に関与する。
なお、図中、環状電流の順方向を示す矢印を左回りに、逆方向を示す矢印を右回りに、示しているがその方向に限定されるものではない。
【0022】
第2コイル32は、半径R2(<R1)の円環形状を有し、撮像領域Uの中心から中心軸Zの方向に高さH2(>H1)の位置に配置されている。そして、この第2コイル32には、中心軸Zの周りを逆方向に第2環状電流J2が循環している。この逆方向に循環する第2環状電流J2は、撮像領域Uに、均一磁場と逆方向の磁場を形成するとともにこの均一磁場の形成に関与する。
【0023】
コイル群30は、第3コイル33、第4コイル34、第5コイル35及び第6コイル36が中心軸Zを共有して同心状に配列して構成されている。
第3コイル33は、コイル群30のうち最外郭に位置するものであって、半径R3(<R2)の円環形状を有し、撮像領域Uの中心から中心軸Zの方向に高さH3(>H2)の位置に配置されている。そして、この第3コイル33には、中心軸Zの周りを順方向に第3環状電流J3が循環している。この順方向に循環する第3環状電流J3は、撮像領域Uに、均一磁場と同一方向の磁場を形成するとともにこの均一磁場の形成に関与する。
【0024】
第4コイル34、第5コイル35及び第6コイル36は、この順番で、それぞれ半径が小さくなる円環形状を有し(R4>R5>R6)、撮像領域Uの中心から中心軸Zの方向に高さがそれぞれH4、H5、H6(≧H3)の位置に配置されている。そして、第4コイル34、第5コイル35及び第6コイル36には、それぞれ中心軸Zの周りを環状電流J4,J5,J6が、中心軸Zの周りを逆方向及び順方向が交互となるように循環している。それぞれ順方向又は逆方向に循環する環状電流J4,J5,J6は、均一磁場と同一方向又は逆方向の磁場を形成するとともにこの均一磁場の形成に関与する。
【0025】
前記したように第1コイル31、第2コイル32及びコイル群30が構成されることにより、均一磁場の形成に関与するコイル(符号31−36)は、半径Rが小さくなるに従い、撮像領域Uの中心から見込む仰角θm(m=1〜6;式(1)参照)が大きくなるように配置されるようになる(θ1<θ2<θ3)。
このように均一磁場の形成に関与するコイル(符号31−36)が配置されることにより、撮像領域Uの中心からその配置を見込むと、撮像領域Uに均一磁場領域を形成するのに関与する全ての部材が、ドーム状の面上に配列していることになる。
【0026】
θm=tan−1(Hm/Rm)…(1)
R6 < R5 < R4 < R3 < R2 < R1 …(2)
H6 ≧ H5 ≧ H4 ≧ H3 > H2 > H1 …(3)
【0027】
さらに、第2コイル32及びコイル群30の位置関係は、第2コイル32を見込む仰角θ2と、第3コイル33(コイル群30)を見込む仰角θ3と、を挟む角度領域に、第2コイル32及びコイル群30が含まれない領域(以下、空白領域Sという)が存在するようにする。
【0028】
遮蔽コイル29は、中心軸Zを共有するようにかつ第1コイル31よりも大径で構成されて、容器20に収容されている。そして、遮蔽コイル29は、環状電流が逆方向に循環することにより、均一磁場領域の生成に関与するコイル(符号31−36)により発生された静磁場のうち電磁石装置11の外部に漏洩する静磁場を遮蔽する。
【0029】
次に図3(a)を参照して、撮像領域Uに均一磁場領域を発生させる原理について説明を行う。
図中、撮像領域Uの中心から放射状に示される濃淡(点を打った領域と打たない領域)は、複数のコイル(符号29−36)により形成された静磁場の磁束の分布に対応している。すなわち、環状電流が順方向に循環するコイル(例えば第1コイル31)と撮像領域Uの中心(以下、原点という)とを結ぶ面と、これに隣接し環状電流が逆方向に循環するコイル(例えば第2コイル32)と原点とを結ぶ面と、に囲まれる領域は、コイルの配列面Pから撮像領域Uの中心に向かうに従い磁束の分布が密になる領域となっている。
【0030】
一方、この領域に隣接する部分には、相対的に磁束の分布が疎になっている領域が形成され、原点の周回方向において、交互に疎密が繰り返される磁束密度のゆらぎが形成される。この原点の周回方向における磁束密度の粗密のゆらぎは、コイルの配列面Pから原点に近づくに従い小さくなるので、そのゆらぎが数ppm程度未満となった領域を均一磁場領域とみなし撮像領域Uとなる。
【0031】
このように、コイルの配列面Pに、環状電流が、順方向・逆方向に交互に流れる複数のコイルを同心状に配列することにより、このコイル配列のピッチに対応した磁束密度の粗密のゆらぎが原点の周回方向に形成されることになる。
このような、原点の周回方向における磁束密度のゆらぎは、第2コイル32を見込む仰角θ2と、コイル群30を見込む仰角θ3と、を挟む角度領域に、第2コイル32及びコイル群30が含まれない空白領域Sが存在することがきっかけとなって発生する。
【0032】
なお、原点の周回方向における磁束密度のゆらぎのピッチを定義するものとして、そのようなゆらぎのピッチを実現する平面座標第1象限の配列面P上に配置されるコイルの数の対応させた次数nをもってすることとする。
但し、逆方向の電流が循環するコイルは省略できる場合もある。この場合、次数は磁場の揺らぎの強くなった領域(図中で点を打っている領域)の数と考える。さらにこの考えで中心軸が磁場の強い領域となった場合(次数が奇数の場合に相当)には上下合わせて1と数える。
図3で示される第1実施形態においては、次数n=6のものが例示されている。
一般に高い次数nにより実現される均一磁場領域は、環状電流の方向が相違するコイルが近接して配置されることになるので、同じ電流でも低い次数のものに比べて弱い磁場強度になる。一方、低い次数nにより実現される場合は、原点の周回方向における磁束密度のゆらぎのピッチが大きくなるので、同じ電流でも高い次数のものに比べて均一磁場領域が小さくなる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、図4を参照して本発明の第2実施形態に係る電磁石装置を説明する。
第2実施形態に係る電磁石装置11は、第1環状電流J1に誘導される静磁場により磁化する第1磁化部材41が、第1実施形態におけるコイル群30に替えて置換された構成となっている。
【0034】
ここで、第2実施形態に係る電磁石装置11の説明に先立って、図3に戻って補足説明を行う。
図3(b)は、仮想的に、コイルの配列面Pに環状電流Jが循環する場合を模式的に示す図であって、上向きの矢印は順方向に循環する環状電流Jを示し、下向きの矢印は逆方向に循環する環状電流Jを示している。また矢印の長さは電流値に対応している。
図3(c)は、図3(b)に示すように循環する仮想環状電流Jは、図示するように配置され中心軸方向に磁化している磁化部材40と等価であって置換可能であることを示している。
図3(d)は、図3(a)に示される複数のコイル(符号31−36)を配列面Pを循環する仮想的な環状電流Jに置き換えて示すとともに、複数のコイル(符号31−36)のうち一部を磁化部材41,42に置き換えて示した図である。
【0035】
この図3(d)に示されるように、磁化部材41は、配列面P上の周回方向の磁束密度の粗密のゆらぎ中、次数nに対応して磁束の分布が密になっている領域に重点配置すればよいことになっている。
この図3(d)の平面座標の第1象限(上側)に示される構成について、第2実施形態として、図4に戻って、説明を続ける。
なお、図4に示される構成のうち、すでに説明を行ったものについては、図2と同じ符号を付して、それに該当する説明を援用することとして、作用・効果に関連した記載を省略することとする。
【0036】
第1磁化部材41は、例えば、純鉄等の強磁性体から成り、第2コイル32よりも小径でかつ第1環状電流J1に誘導される静磁場と同じ方向に磁化する。
第1磁化部材41は、第1環状体43と第2環状体44とが、円板形状の連結板49により連結されている。そして、第1磁化部材41は、図示しない固定部材より容器20の内部に固定されている。
この連結板49は、存在することで、第1コイル31から誘導される磁束が増加して、撮像領域Uにおける磁場強度を向上させる効果が得られる。一方、連結板49を用いずに、第1環状体43及び第2環状体44はそれぞれ別個に容器20の内部に固定されていてもよい。
【0037】
第1環状体43、第2環状体44は、この順番で、それぞれ半径が小さくなる円環形状を有し(R4<R3)、撮像領域Uの中心から中心軸Zの方向に高さがそれぞれH3、H4(≧H2)の位置に配置されている。そして、第1環状体43、第2環状体44は、中心軸Z方向に磁化することにより、均一磁場と同一方向の磁場を形成するとともにこの均一磁場の形成に関与する。
【0038】
また第1コイル31、第2コイル32及び第1磁化部材41は、この順番で撮像領域Uの中心から見込む仰角θm(m=1〜3;前記式(1)参照)が大きくなるように配置されるようになる(θ1<θ2<θ3)。
さらに、第2コイル32及び第1磁化部材41の位置関係は、第2コイル32を見込む仰角θ2と、第1磁化部材41を見込む仰角θ3と、を挟む角度領域に、第2コイル32及び第1磁化部材41が含まれない空白領域Sが存在するようにする。
このように第1コイル31、第2コイル32及び第1磁化部材41が配置されることにより、撮像領域Uの中心からその配置を見込むと、撮像領域Uに均一磁場領域を形成するのに関与する全ての部材が、ドーム状の面上に配列していることになる。
【0039】
(第3実施形態)
次に、図5を参照して本発明の第3実施形態に係る電磁石装置を説明する。
第3実施形態に係る電磁石装置11は、第1環状電流J1に誘導される静磁場により磁化する第2磁化部材42が、第2実施形態における第2コイル32に替えて置換された構成となっている。
【0040】
ここで、第3実施形態に係る電磁石装置11の説明に先立って、図3(d)に戻って補足説明を行うと、この平面座標の第4象限(下側)に示される構成が、第3実施形態に該当する。
なお、図5に示される構成のうち、すでに説明を行ったものについては、図2又は図4と同じ符号を付して、それに該当する説明を援用することとして、作用・効果に関連した記載を省略することとする。
【0041】
第1磁化部材41は、例えば、純鉄等の強磁性体から成り、第1コイル31よりも小径でかつ第1環状電流J1に誘導される静磁場と同じ方向に磁化する。
第2磁化部材42は、第1コイル31よりも小径でかつ第1磁化部材41よりも大径でかつ第1環状電流J1に誘導される静磁場と同じ方向に磁化する。
【0042】
第2磁化部材42は、図示しない固定部材より容器20の内部に固定されている。そして第2磁化部材42は、第1コイル31と協同して、配列面Pから撮像領域Uの中心に向かう磁束密度が密である領域を形成し均一磁場の形成に関与する(図3(d)下側参照)。
【0043】
第1コイル31、第2磁化部材42及び第1磁化部材41は、この順番で撮像領域Uの中心から見込む仰角θm(m=1〜3;前記式(1)参照)が大きくなるように配置されている(θ1<θ2<θ3)。
【0044】
さらに、第1磁化部材41及び第2磁化部材42の位置関係は、第2磁化部材42を見込む仰角θ2と、第1磁化部材41を見込む仰角θ3と、を挟む角度領域に、第1磁化部材41及び第2磁化部材42が含まれない空白領域Sが存在するようにする。
このように第1コイル31、第1磁化部材41及び第2磁化部材42が配置されることにより、撮像領域Uの中心からその配置を見込むと、撮像領域Uに均一磁場領域を形成するのに関与する全ての部材が、ドーム状の面上に配列していることになる。
【0045】
(第4実施形態)
次に、図6を参照して本発明の第4実施形態に係る電磁石装置を説明する。
第4実施形態に係る電磁石装置は、次数nを可変して例示したものである。図6(a)にはn=5のものが示され、図6(b)にはn=7のものが示されている。そして、図6(a)(b)のそれぞれの平面座標第1象限(上側)には、第1実施形態に対応させた複数のコイル(符号30〜32)のみで実現したものを示し、平面座標第4象限(下側)には、第3実施形態に対応させた第1コイル31、磁化部材41,42で実現したものを示している。
実際に実用に供する磁石は、当然上下で同じ構造をとることは言うまでもないが、ここでは例示のために2種類の構成を一つの図に示している。
なお、図6に示される構成のうち、すでに説明を行ったものについては、図2,4,5と同じ符号を付して、それに該当する説明を援用することとして、作用・効果に関連した記載を省略することとする。
【0046】
図6(a)(b)中、複数のコイル(符号30〜32)のみで実現したもの(平面座標第1象限側)については、次数nに対応した数のコイルが配列面Pに配列されることになる。また、第1コイル31、磁化部材41,42で実現したもの(平面座標第4象限側)については、特に、次数nが奇数のものについては、第1磁化部材41の中心軸Zが貫通する部位には、環状ではなく、突起状の突起部材48が配置されることになる(次数nが偶数のものについては環状)。
【0047】
第4実施形態においても、撮像領域Uの中心から見込む角度領域において、コイル(符号30〜32)や磁化部材41,42が含まれない空白領域が存在する。これにより、この空白領域を起点として、撮像領域の中心から放射状に分布する磁束密度の粗密のゆらぎが形成されるようになる。このように形成される磁束密度の粗密のゆらぎは、放射状の中心に近づくに従い小さくなるので、結果的に、撮像領域には均一磁場が形成されることになる。
かかる作用・効果が得られるのは、以上の説明で例示された次数nが5,6,7の場合に限定されるものではなく、当然に、それより大きい又は小さい範囲の次数nにおいても次数の違いによる均一磁場領域の大きさが異なるが、同様に均一磁場の構成が構成される。
【0048】
このような、空白領域Sが設定される好ましい角度範囲は以下の通りである。
次数n=5で構成されている場合は、撮像領域Uの中心から見込む仰角θが40°を基準にして−12.5%から+37.5%の範囲(下限35°から上限55°)で設定されることが好ましい。
次数n=6で構成されている場合は、撮像領域Uの中心から見込む仰角θが35°を基準にして−12.5%から+37.5%の範囲(下限30.625°から上限48.125°)で設定されることが好ましい。
次数n=7で構成されている場合は、撮像領域Uの中心から見込む仰角θが30°を基準にして−12.5%から+37.5%の範囲(下限26.25°から上限41.25°)で設定されることが好ましい。
【0049】
また、複数のコイル(符号30〜32)や磁化部材41,42が配列されるドーム形状の配列面Pは、球面の一部のような面にした方が、同一の大きさの磁場強度の撮像領域Uを形成するうえで、やや均一度が良くなる傾向にある。しかし、その反面、配列面Pを球面に近づけるとMRI装置全体が大きくなる。その結果として、装置全体の大きさを限ると、被検体を挿入させる空間が狭くなるという関係がある。
従って、電磁石装置11は、その被検体が挿入される空間の広さと、全体の大きさ(要請される小型化・軽量化の程度)との兼ね合いにおいて、前記したような好ましく設定される空白領域Sの範囲に特に拘泥されることなく、配列面Pの形状が適宜決定されるべきである。
【0050】
また、磁場調整部14(図2(b)参照)は、その最外側に近い磁束密度の密な領域の磁場の強さに合わせて、その内側の磁場分布(磁束密度の粗密の分布)を調整する。従って、磁場調整部14は、空白領域Sよりも外側の領域(θm;m=1,2を含む領域で、角度の浅い領域)に配置する必要性がない。
これより、磁場調整部14は、その最外側が空白領域Sに含まれるように配置されこの空白領域Sから内側(θ3を含む領域で半径小の領域)にわたるように配置されることが、電磁石装置11の軽量化、被検体が挿入される有効空間の拡張の観点から好ましいといえる。
【0051】
また、図2に円錐面23として示した円錐台の面は、被検者には、装置を開放的に見せる効果がある。この円錐面23の配置及び水平面となす角度は、電磁石装置11の内部構造に依存して決定され、特に、第1コイル31及び遮蔽コイル29の配置に依存する。
本実施形態における円錐面23が水平面となす角度は、原点から領域Sを見込む仰角と同程度であることが望ましく、具体的には、26°から40°程度の範囲で設定されることが望ましい。
【符号の説明】
【0052】
10 MRI装置
11 電磁石装置
13 傾斜磁場発生部
14 磁場調整部
15 静磁場発生部
20 真空容器(容器)
22 側筒面
23 円錐面
24 内端面
25 窪み面
30 コイル群
31 第1コイル
32 第2コイル
41 第1磁化部材
42 第2磁化部材
43 第1環状体
44 第2環状体
J1 第1環状電流(環状電流)
J2 第2環状電流(環状電流)
J3 第3環状電流(環状電流)
J4 第4環状電流(環状電流)
J5 第5環状電流(環状電流)
J6 第6環状電流(環状電流)
P 配列面
S 空白領域(領域)
U 撮像領域(均一磁場領域)
Z 中心軸
n 次数
θ(θ1,θ2,θ3) 仰角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りを循環する環状電流により誘導される静磁場を発生する一対の静磁場発生部を備え、
この一対の静磁場発生部が対向する空間に均一磁場領域を形成する電磁石装置において、
前記静磁場発生部は、
第1環状電流が前記中心軸の周りを順方向に循環する第1コイルと、
前記第1環状電流よりも小径の第2環状電流が前記中心軸の周りを逆方向に循環する第2コイルと、
前記第2環状電流よりも小径の複数の環状電流が前記中心軸の周りを順方向及び逆方向が交互に配列するよう循環するコイル群と、を少なくとも含み、
前記第1コイル、前記第2コイル及び前記コイル群は、この順番で前記均一磁場領域の中心から見込む仰角が大きくなるように配置され、
前記第2コイルを見込む仰角と、前記コイル群を見込む仰角と、が挟む角度領域には、前記第2コイル及び前記コイル群が含まれない領域である空白領域が存在し、
前記中心軸と直交する面内に磁性材料を任意に分布させ前記均一磁場領域における磁場分布を調整する磁場調整部の最外側が、前記空白領域に含まれるように配置されている
ことを特徴とする電磁石装置。
【請求項2】
中心軸の周りを循環する環状電流により誘導される静磁場を発生する一対の静磁場発生部を備え、
この一対の静磁場発生部が対向する空間に均一磁場領域を形成する電磁石装置において、
前記静磁場発生部は、
第1環状電流が前記中心軸の周りを順方向に循環する第1コイルと、
前記第1環状電流よりも小径の第2環状電流が前記中心軸の周りを逆方向に循環する第2コイルと、
前記第2コイルよりも小径でかつ前記第1環状電流に誘導される静磁場により磁化する第1磁化部材と、を少なくとも含み、
前記第1コイル、前記第2コイル及び前記第1磁化部材は、この順番で前記均一磁場領域の中心から見込む仰角が大きくなるように配置され、
前記第2コイルを見込む仰角と、前記第1磁化部材を見込む仰角と、が挟む角度領域には、前記第2コイル及び前記第1磁化部材が含まれない領域である空白領域が存在し、
前記中心軸と直交する面内に磁性材料を任意に分布させ前記均一磁場領域における磁場分布を調整する磁場調整部の最外側が、前記空白領域に含まれるように配置されている
ことを特徴とする電磁石装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電磁石装置において、
前記静磁場発生部に含まれる構成品を収容する容器が設けられ、
前記容器の、前記均一磁場領域に対向する内端面には、前記中心軸に略直交する窪み面が設けられていることを特徴とする電磁石装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁石装置において、
前記容器には、外部に漏洩する静磁場を遮蔽するために、前記第1コイルよりも大径でかつ環状電流が逆方向に循環する遮蔽コイルがさらに収容され、
前記容器は、前記内端面から前記遮蔽コイルに隣接する側筒面にわたる部分において円錐面が形成されていることを特徴とする電磁石装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電磁石装置を適用し、
前記均一磁場領域に傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生部を備え、
前記均一磁場領域を撮像領域として磁気共鳴現象を利用した被検体の画像を撮像することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240182(P2011−240182A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193212(P2011−193212)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2006−315907(P2006−315907)の分割
【原出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】