電磁誘導式加熱調理器、電磁誘導式加熱調理システム、並びに電磁誘導式加熱調理器の換気装置及び換気方法
【課題】作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成を有する電磁誘導式加熱調理器における換気装置及び方法を提供する。
【解決手段】排気部3の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器2であって、電磁誘導式加熱調理器2のトップパネル20には、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部10が設けられ、その対となる各空気吹出部10a、10bは、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部10b、10a側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする。
【解決手段】排気部3の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器2であって、電磁誘導式加熱調理器2のトップパネル20には、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部10が設けられ、その対となる各空気吹出部10a、10bは、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部10b、10a側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導式加熱調理器、電磁誘導式加熱調理システム、並びに電磁誘導式加熱調理器の換気装置及び換気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、火を使わず安全であること、ガス中毒の危険がないこと、掃除が簡単であることなどから、台所にガス式コンロに代えて電磁誘導式加熱調理機器(IHクッキングヒータ)を導入した住宅が増加している。
【0003】
しかし、IHクッキングヒータは、火を用いずに加熱を行うので、使用時に生じる上昇気流が、ガス式コンロのものに比べて弱い。このため、調理時の煙や水蒸気、臭いなど(以下、「調理排気」という)を加熱調理機器の上部に設けられた排気吸込口において効率よく捕集・排出することが難しい。
【特許文献1】特開2002−168496号公報
【特許文献2】特開2003−207184号公報
【特許文献3】WO2004/072558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした問題に対して、特許文献1には、調理排気を排気吸込口に向けて誘導する気流を生成するべく、加熱調理機器の上方を取り囲むようにコ字型の空気吹出口を設けた構成が開示されている。しかし、この構成では、加熱調理機器を取り囲むように設けられたコ字型の空気吹出口が、台所の美観を損ねる上に、使用者にとっても邪魔になって作業性が悪い。
【0005】
また、特許文献2には、加熱調理機器のトップパネルの周縁部に空気の吹出口を設けてエアーカーテンを形成しつつ調理排気を排気吸込口に誘導する構成が開示されている。しかし、この構成でも、吹出口から吹出す空気が、使用者の作業の妨げとなって作業性が悪い。
【0006】
さらに、特許文献3には、加熱調理機器の近傍から上方に設けられた排気吸込口に向かって吹出す空気により調理排気を誘導し、また排気吸込口の周囲から下向きに吹出す空気でエアーカーテンを形成することにより調理排気が排気領域外に漏れないようにする構成が開示されている。しかし、この構成では、排気吸込口の周囲の吹出口から吹出す空気は、調理者の顔に当たるなど不快感を与え、また装置の構成が複雑になるとの問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に対して、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成を有する電磁誘導式加熱調理器における換気装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、排気部の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルには、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部が設けられ、各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記左右一対又は複数対の空気吹出部が空気を吹出す向きは、左右対称であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部の間の位置に、空気を吸込む空気吸込部が設けられたことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0011】
第4の発明は、第3の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部は、前記空気吸込部に関して左右対称の位置に設けられることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0012】
第5の発明は、第1〜4の発明の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記空気吹出部から空気の吹出す向きの、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0013】
第6の発明は、第1〜5の発明の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器と、該電磁誘導式加熱調理器の上方に設置される排気部とを備える電磁誘導式加熱調理システムである。
【0014】
第7の発明は、排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器に設けられる換気装置であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部を備え、
各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成を有する電磁誘導式加熱調理器における換気装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1及び図2は、それぞれ本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム(以下、「調理システム」という)1の全体構成を示す斜視図及び正面図である。図1及び図2に示すように、調理システム1は、電磁誘導式加熱調理器(以下、「調理器」という)2及び排気部3を備える。図3は、調理システム1が備える調理器2のトップパネル20の平面図であり、図4は、排気部3の構成を示す側面図である。
【0017】
図1及び図3に示すように、調理器2は、トップパネル20とトップパネル20に設けられた換気口4及び電磁誘導式ヒータ21等を備える。また、図4に示すように、排気部3は、レンジフード30、排気ダクト31及び排気ファン32を備える。調理器2は、台所に設置される。以下、調理者の立ち位置側を手前側とし、調理者の立ち位置から遠い側を奥側とする。
【0018】
電磁誘導式ヒータ21は、磁力線を発することで鍋やフライパン等の調理器具に誘導電流(うず電流)を生じさせ、これにより調理器具を加熱する。
【0019】
換気口4は空気吹出部10と空気吸込部11により構成される。空気吹出部10は、調理器2の奥側に左右一対の空気吹出部10a、10bとして設けられ、加熱調理によって生じる煙や臭い等を含んだ空気(すなわち、調理排気という)を排気部3に誘導するために、ファン等によって空気を吹出す。
【0020】
空気吹出部10aから空気の吹出す方向は、鉛直方向上向きから他方の空気吹出部10b側に傾いた向きであり、また、空気吹出部10bから空気の吹出す方向は、鉛直方向上向きから空気吹出部10aの側に傾いた向きである。例えば、空気吹出部10a、10bの大きさがそれぞれ縦約50mm横幅約100mmで、空気吹出部10aと10bの間隔が約400mm、空気吹出部10a、10bから排気部3までの高さが約850mmとした場合、空気吹出部10a、10bから空気の吹出す方向の、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下である。なお、空気吹出部10a、10bから空気は、吹出す方向が左右対称となるように吹出す。すなわち、空気吹出部10a、10bから空気の吹出す方向の、鉛直方向からの傾き角の絶対値が同じになるようにする。
【0021】
空気吸込部11は、トップパネル20の空気吹出部10aと10bの間の中央位置に設けられており、内蔵するファン等により空気を吸込む。なお、空気吸込部11で吸込んだ空気により、調理器2の内部を冷却した後、空気吹出部10a、10bから吹出すようにしてもよい。
【0022】
排気部3を構成するレンジフード30は、調理によって生じた調理排気を効率よく捕集できるように調理器2の上方に設けられる。排気部3には、排気ダクト31及び排気ファン32が設けられており、レンジフード30によって捕集された調理排気を排気ファン32によって吸込み、吸込んだ空気を排気ダクト31により外部へ排出させる。
【0023】
次に、換気口4の空気吹出部10a、10bから空気を吹出すことによる調理排気の捕集率の向上を確認するためシミュレーションを行ったので、その内容について説明する。このシミュレーションでは、空気の最適な吹出し方向についても検討した。
【0024】
本シミュレーションは、下記の条件設定のもと、株式会社アドバンスドナレッジ研究所が製造販売しているソフトウェア「Flow Designer(登録商標)」を用いて行った。このソフトウェアは、SIMPLE−C法をベースにした気流の流れ等を三次元的にシミュレーションすることのできる流体解析ソフトである。
【0025】
まず、シミュレーションの対象となる調理システム1のモデル化について説明する。
図5は、調理器2のトップパネル20のモデルを示す。同図に示すように、調理器2とレンジフード30の間に広がる空間(以下、「調理空間」という)は、左右幅1500mm、奥行650mm、高さ850mmとした。この奥行と高さは、家庭用のシステムキッチンにおいて一般的なものである。なお、調理者から見て、奥側の左右幅1500mm、高さ850mmの面を壁とした。
【0026】
調理空間の位置を示す座標は、同図に示すように、調理者から見てトップパネル20の手前左端を原点とし、左右方向をX軸(右向きが正)、奥行き方向をY軸(奥に向かう向きが正)とする。また、高さ方向(図5の紙面垂直方向)をZ軸(上向きが正)とする。なお、以下の記載では、空間内での座標位置を、単位をmmとして(X座標の値,Y座標の値,Z座標の値)と表示する。
【0027】
この調理器2のトップパネル20に、一辺の長さが180mmの正方形の形状の電磁誘導式ヒータ21が左右に1つずつ(左ヒータ21a、右ヒータ21b)設けられているものとした。また、空気吹出部10の左吹出部10aと右吹出部10bは、それぞれ縦30mm、横60mmの長方形とし、空気吸込部11は、縦30mm、横400mmの長方形の形状である。なお、電磁誘導式ヒータ21、空気吹出部10及び空気吸込部11の配置は、図5に示す通りである。一方、トップパネル20の上方に設けられている排気部3のレンジフード30の吸込口は、間口が縦550mm、横900mmの長方形とし、トップパネル20から850mmの高さに位置するものとした。
【0028】
以上のモデルを用いて、実際の調理器2の使用状況をシミュレーションした。このシミュレーションにおいては、水を十分に満たした180mm角で深さ100mmの正四角柱の鍋を右ヒータ21bにおいて2.5kWで加熱して沸騰させ、鍋から90℃の水蒸気を発生させる場合を条件として設定した。この水蒸気の流れの様子をシミュレーションすることにより、調理排気がレンジフード30でどの程度、捕集されるかについて検討した。
【0029】
なお、空気吹出部10a、10bから吹出す空気量は、それぞれ0.42m3/分、空気吸込部11から吸込む空気量は、0.84m3/分とした。また、空気吹出部10から空気を吹出す場合の吹出し方向は、XZ平面内にあり、その吹出し方向をZ軸からの傾き角の絶対値で表すものとした。また、台所において例えば人が移動したこと等による空気の揺らぎを再現するため、X軸の正方向(調理者から見て左から右の方向)に風速0.2m/秒の一様な気流が流れている状況を設定した。
【0030】
また、以下の図6〜図11において、(X)、(Y1)、(Y2)、(Y3)、(Z1)、(Z2)、(Z3)は、以下のシミュレーションにおいて定常状態となったときの水蒸気の濃度分布を示す図であり、色が濃いほど水蒸気の濃度が高いことを示す。なお、各図の(X)はX=1500mmであるYZ平面について、(Y1)、(Y2)、(Y3)は、順にY=6.5mm、Y=240.5mm、Y=513.5mmであるXZ平面について、(Z1)、(Z2)、(Z3)は、順にZ=10.2mm、Z=399.5mm、Z=850.0mmであるXY平面についての状況をそれぞれ示すものである。
【0031】
ここで、(X)、(Y1)、(Z3)は、調理空間の境界面を示すものである。すなわち、(X)は、調理空間の右側面に相当し、この(X)面に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で捕集されなかった水蒸気が調理空間の右側面から流出すると判断できる。また、(Y1)は、調理空間の前面に相当し、この(Y1)面に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で捕集されなかった水蒸気が調理空間の前面から流出すると判断できる。(Z3)は、レンジフード30の下面に相当し、この(Z3)面においてレンジフード30の吸込口の範囲に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で水蒸気が捕集されると判断できる。なお、本シミュレーションにおいては、上述の通り左から右への気流が流れているものとしているので、調理空間左側面から水蒸気が流出することはない。
【0032】
<シミュレーション1>
空気吸込部11での空気の吸込みはなく、空気吹出部10a、10bからの空気の吹出しもない場合についてシミュレーションを行った。図6は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図6(Z3)の図中右下に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図6(Y1)の図中中央右側に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図6(X)の図中左上に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかる。
以上より、空気吹出部10a、10bからの空気の吹出しがない場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。
【0033】
<シミュレーション2>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図7は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図7(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図7(Y1)の図中右上に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上端から水蒸気が流出していることがわかるが、図6(Y1)と比較すると水蒸気の面積が小さく濃度も低いことから、流出量はシミュレーション1の場合よりも少ないことがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図7(X)の図中上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。しかしながら、捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1よりも少ない。
【0034】
<シミュレーション3>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角15度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図8は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図8(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図8(Y1)の図中右上端に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上端から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図8(X)の図中上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかるが、図7(X)と比較すると水蒸気の面積が小さいことから、流出量はシミュレーション2の場合よりも少ないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角15度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。しかしながら、捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1及びシミュレーション2よりも少ない。
【0035】
<シミュレーション4>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図9は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図9(Z3)の図中中央右側に水蒸気が存在していることから、全ての水蒸気が排気部3に捕集されていることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図9(Y1)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の前面からは水蒸気が流出していないことがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図9(X)にも水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出している場合には、排気部3で捕集されずに流出する水蒸気はなく、鍋から発生した全ての水蒸気は排気部3によって捕集される。つまり、捕集できる水蒸気の量は、シミュレーション1〜3よりも多い。
【0036】
<シミュレーション5>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図10は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図10(Z3)の図中中央下側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図10(Y1)の図中中央上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面中央上側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図10(X)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面中央上側から流出していることがわかる。したがって、排気部3で捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1〜2よりも少ないものの、シミュレーション4より多い。
【0037】
<シミュレーション6>
空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出しているが、空気吸込部11での空気の吸込みがない場合についてシミュレーションを行った。図11は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図11(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の右下側(調理空間の前面右側)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図11(Y1)の図中右上に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図11(X)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右上側から流出していることがわかる。したがって、捕集できる水蒸気の量は、シミュレーション4より少ない。
【0038】
<考察1>
シミュレーション1とシミュレーション2の結果と比較することで、空気吹出部10からの空気の吹出しの効果を考察する。
シミュレーション1では空気吹出部10からの空気の吹出しを停止し、シミュレーション2では空気吹出部10から空気を吹出したところ、シミュレーション2ではシミュレーション1に比べて、排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができた。すなわち、空気吹出部10からの空気の吹出しは、排気部3での調理排気の捕集率の向上に効果があると言える。
【0039】
<考察2>
シミュレーション2〜5の結果と比較することで、空気吹出部10からの空気の吹出しの最適な傾き角を考察する。
シミュレーション2では空気吹出部10からの空気の吹出しの傾き角は0度(鉛直方向)であり、順に傾き角を大きくしていき、シミュレーション3では傾き角は15度、シミュレーション4では傾き角は22.5度、シミュレーション5では傾き角は30度としたところ、シミュレーション3ではシミュレーション2に比べて排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができ、シミュレーション4ではシミュレーション3に比べて排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができたが、シミュレーション5ではシミュレーション4に比べて排気部3での水蒸気の捕集率は低下した。すなわち、空気吹出部10からの空気の吹出しの鉛直方向からの傾き角を増加させると傾き角が22.5度までは排気部3での調理排気の捕集率を向上させることができるが、傾き角が22.5度を超えると逆に調理排気の捕集率は低下する。すなわち、シミュレーション2〜5によると、傾き角が15度から30度である場合には、高い捕集率を得られ、さらに傾き角が約22.5度のときに最も高い捕集率を得られた。
【0040】
<考察3>
シミュレーション4とシミュレーション6の結果と比較することで、空気吸込部11からの空気の吸込みの効果を考察する。
シミュレーション4とシミュレーション6では、空気吹出部10からの空気の吹出しの傾き角はいずれも22.5度としているが、シミュレーション4では空気吸込部11から空気を吸込み、シミュレーション6では空気吸込部11からの空気の吸込みを停止したところ、シミュレーション4ではシミュレーション6に比べて、排気部3での調理排気の捕集率を向上させることができた。すなわち、空気吸込部11からの空気の吸込みは、排気部3での水蒸気の捕集率の向上に効果があると言える。
【0041】
以上の通り、本実施形態の調理システム1によれば、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成で調理時に発生する調理排気を排気部3で効果的に捕集して排出することができる。
【0042】
特に、空気吹出部10aから鉛直方向上向きから空気吹出部10b側に傾いた向きに空気を吹出し、空気吹出部10bから鉛直方向上向きから空気吹出部10a側に傾いた向きに空気を吹出すことにより、調理排気をより効果的に排気部3に誘導することができ、もって排気部3において調理排気を効率的に捕集することができる。特に、上記シミュレーションによれば、空気の吹出し方向の傾き角を15度以上30度以下とするとより効率的に調理排気を捕集することができる。
【0043】
また、空気吸込部11から空気を吸込めば、調理排気を壁側に誘導することができ、もって調理空間の前面(Y=0であるXZ平面)からの調理排気の流出を防止しつつ、調理排気を排気部3で効率よく捕集することができる。
【0044】
さらに、上記シミュレーションでは調理空間において左から右への方向の気流があった場合を規定したが、空気吹出部10aと空気吹出部10bを左右対称に配置しているので、右から左への方向の気流があった場合でも、上記シミュレーションと同様の結果が得られる。すなわち、空気吹出部10aと空気吹出部10bを左右対称に配置することで、調理空間における気流の向きに拘らず効率よく調理排気を排気部3で捕集して排出することができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、1対の空気吹出部10a、10bが設けられるものとしたが、これに限らず2対以上の空気吹出部10を設けることとしてもよい。
【0046】
なお、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1の全体構成を示す斜視図であり、電磁誘導式加熱調理器2及び排気部3を含む。
【図2】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1の全体構成を示す正面図であり、電磁誘導式加熱調理器2及び排気部3を含む。
【図3】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1が備える電磁誘導式加熱調理器2のトップパネル20を示す平面図である。
【図4】排気部3の構成を示す側面図である。
【図5】シミュレーション1〜6におけるトップパネル20に係る設定条件を示す図である。
【図6】シミュレーション1の結果を示す図である。
【図7】シミュレーション2の結果を示す図である。
【図8】シミュレーション3の結果を示す図である。
【図9】シミュレーション4の結果を示す図である。
【図10】シミュレーション5の結果を示す図である。
【図11】シミュレーション6の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 電磁誘導式加熱調理システム(調理システム)
2 電磁誘導式加熱調理器(調理器)
3 排気部
4 換気口
10 空気吹出部
11 空気吸込部
20 トップパネル
21 電磁誘導式ヒータ(ヒータ)
30 レンジフード
31 排気ダクト
32 排気ファン
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導式加熱調理器、電磁誘導式加熱調理システム、並びに電磁誘導式加熱調理器の換気装置及び換気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、火を使わず安全であること、ガス中毒の危険がないこと、掃除が簡単であることなどから、台所にガス式コンロに代えて電磁誘導式加熱調理機器(IHクッキングヒータ)を導入した住宅が増加している。
【0003】
しかし、IHクッキングヒータは、火を用いずに加熱を行うので、使用時に生じる上昇気流が、ガス式コンロのものに比べて弱い。このため、調理時の煙や水蒸気、臭いなど(以下、「調理排気」という)を加熱調理機器の上部に設けられた排気吸込口において効率よく捕集・排出することが難しい。
【特許文献1】特開2002−168496号公報
【特許文献2】特開2003−207184号公報
【特許文献3】WO2004/072558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした問題に対して、特許文献1には、調理排気を排気吸込口に向けて誘導する気流を生成するべく、加熱調理機器の上方を取り囲むようにコ字型の空気吹出口を設けた構成が開示されている。しかし、この構成では、加熱調理機器を取り囲むように設けられたコ字型の空気吹出口が、台所の美観を損ねる上に、使用者にとっても邪魔になって作業性が悪い。
【0005】
また、特許文献2には、加熱調理機器のトップパネルの周縁部に空気の吹出口を設けてエアーカーテンを形成しつつ調理排気を排気吸込口に誘導する構成が開示されている。しかし、この構成でも、吹出口から吹出す空気が、使用者の作業の妨げとなって作業性が悪い。
【0006】
さらに、特許文献3には、加熱調理機器の近傍から上方に設けられた排気吸込口に向かって吹出す空気により調理排気を誘導し、また排気吸込口の周囲から下向きに吹出す空気でエアーカーテンを形成することにより調理排気が排気領域外に漏れないようにする構成が開示されている。しかし、この構成では、排気吸込口の周囲の吹出口から吹出す空気は、調理者の顔に当たるなど不快感を与え、また装置の構成が複雑になるとの問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に対して、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成を有する電磁誘導式加熱調理器における換気装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、排気部の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルには、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部が設けられ、各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記左右一対又は複数対の空気吹出部が空気を吹出す向きは、左右対称であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部の間の位置に、空気を吸込む空気吸込部が設けられたことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0011】
第4の発明は、第3の発明に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部は、前記空気吸込部に関して左右対称の位置に設けられることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0012】
第5の発明は、第1〜4の発明の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記空気吹出部から空気の吹出す向きの、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器である。
【0013】
第6の発明は、第1〜5の発明の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器と、該電磁誘導式加熱調理器の上方に設置される排気部とを備える電磁誘導式加熱調理システムである。
【0014】
第7の発明は、排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器に設けられる換気装置であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部を備え、
各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成を有する電磁誘導式加熱調理器における換気装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1及び図2は、それぞれ本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム(以下、「調理システム」という)1の全体構成を示す斜視図及び正面図である。図1及び図2に示すように、調理システム1は、電磁誘導式加熱調理器(以下、「調理器」という)2及び排気部3を備える。図3は、調理システム1が備える調理器2のトップパネル20の平面図であり、図4は、排気部3の構成を示す側面図である。
【0017】
図1及び図3に示すように、調理器2は、トップパネル20とトップパネル20に設けられた換気口4及び電磁誘導式ヒータ21等を備える。また、図4に示すように、排気部3は、レンジフード30、排気ダクト31及び排気ファン32を備える。調理器2は、台所に設置される。以下、調理者の立ち位置側を手前側とし、調理者の立ち位置から遠い側を奥側とする。
【0018】
電磁誘導式ヒータ21は、磁力線を発することで鍋やフライパン等の調理器具に誘導電流(うず電流)を生じさせ、これにより調理器具を加熱する。
【0019】
換気口4は空気吹出部10と空気吸込部11により構成される。空気吹出部10は、調理器2の奥側に左右一対の空気吹出部10a、10bとして設けられ、加熱調理によって生じる煙や臭い等を含んだ空気(すなわち、調理排気という)を排気部3に誘導するために、ファン等によって空気を吹出す。
【0020】
空気吹出部10aから空気の吹出す方向は、鉛直方向上向きから他方の空気吹出部10b側に傾いた向きであり、また、空気吹出部10bから空気の吹出す方向は、鉛直方向上向きから空気吹出部10aの側に傾いた向きである。例えば、空気吹出部10a、10bの大きさがそれぞれ縦約50mm横幅約100mmで、空気吹出部10aと10bの間隔が約400mm、空気吹出部10a、10bから排気部3までの高さが約850mmとした場合、空気吹出部10a、10bから空気の吹出す方向の、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下である。なお、空気吹出部10a、10bから空気は、吹出す方向が左右対称となるように吹出す。すなわち、空気吹出部10a、10bから空気の吹出す方向の、鉛直方向からの傾き角の絶対値が同じになるようにする。
【0021】
空気吸込部11は、トップパネル20の空気吹出部10aと10bの間の中央位置に設けられており、内蔵するファン等により空気を吸込む。なお、空気吸込部11で吸込んだ空気により、調理器2の内部を冷却した後、空気吹出部10a、10bから吹出すようにしてもよい。
【0022】
排気部3を構成するレンジフード30は、調理によって生じた調理排気を効率よく捕集できるように調理器2の上方に設けられる。排気部3には、排気ダクト31及び排気ファン32が設けられており、レンジフード30によって捕集された調理排気を排気ファン32によって吸込み、吸込んだ空気を排気ダクト31により外部へ排出させる。
【0023】
次に、換気口4の空気吹出部10a、10bから空気を吹出すことによる調理排気の捕集率の向上を確認するためシミュレーションを行ったので、その内容について説明する。このシミュレーションでは、空気の最適な吹出し方向についても検討した。
【0024】
本シミュレーションは、下記の条件設定のもと、株式会社アドバンスドナレッジ研究所が製造販売しているソフトウェア「Flow Designer(登録商標)」を用いて行った。このソフトウェアは、SIMPLE−C法をベースにした気流の流れ等を三次元的にシミュレーションすることのできる流体解析ソフトである。
【0025】
まず、シミュレーションの対象となる調理システム1のモデル化について説明する。
図5は、調理器2のトップパネル20のモデルを示す。同図に示すように、調理器2とレンジフード30の間に広がる空間(以下、「調理空間」という)は、左右幅1500mm、奥行650mm、高さ850mmとした。この奥行と高さは、家庭用のシステムキッチンにおいて一般的なものである。なお、調理者から見て、奥側の左右幅1500mm、高さ850mmの面を壁とした。
【0026】
調理空間の位置を示す座標は、同図に示すように、調理者から見てトップパネル20の手前左端を原点とし、左右方向をX軸(右向きが正)、奥行き方向をY軸(奥に向かう向きが正)とする。また、高さ方向(図5の紙面垂直方向)をZ軸(上向きが正)とする。なお、以下の記載では、空間内での座標位置を、単位をmmとして(X座標の値,Y座標の値,Z座標の値)と表示する。
【0027】
この調理器2のトップパネル20に、一辺の長さが180mmの正方形の形状の電磁誘導式ヒータ21が左右に1つずつ(左ヒータ21a、右ヒータ21b)設けられているものとした。また、空気吹出部10の左吹出部10aと右吹出部10bは、それぞれ縦30mm、横60mmの長方形とし、空気吸込部11は、縦30mm、横400mmの長方形の形状である。なお、電磁誘導式ヒータ21、空気吹出部10及び空気吸込部11の配置は、図5に示す通りである。一方、トップパネル20の上方に設けられている排気部3のレンジフード30の吸込口は、間口が縦550mm、横900mmの長方形とし、トップパネル20から850mmの高さに位置するものとした。
【0028】
以上のモデルを用いて、実際の調理器2の使用状況をシミュレーションした。このシミュレーションにおいては、水を十分に満たした180mm角で深さ100mmの正四角柱の鍋を右ヒータ21bにおいて2.5kWで加熱して沸騰させ、鍋から90℃の水蒸気を発生させる場合を条件として設定した。この水蒸気の流れの様子をシミュレーションすることにより、調理排気がレンジフード30でどの程度、捕集されるかについて検討した。
【0029】
なお、空気吹出部10a、10bから吹出す空気量は、それぞれ0.42m3/分、空気吸込部11から吸込む空気量は、0.84m3/分とした。また、空気吹出部10から空気を吹出す場合の吹出し方向は、XZ平面内にあり、その吹出し方向をZ軸からの傾き角の絶対値で表すものとした。また、台所において例えば人が移動したこと等による空気の揺らぎを再現するため、X軸の正方向(調理者から見て左から右の方向)に風速0.2m/秒の一様な気流が流れている状況を設定した。
【0030】
また、以下の図6〜図11において、(X)、(Y1)、(Y2)、(Y3)、(Z1)、(Z2)、(Z3)は、以下のシミュレーションにおいて定常状態となったときの水蒸気の濃度分布を示す図であり、色が濃いほど水蒸気の濃度が高いことを示す。なお、各図の(X)はX=1500mmであるYZ平面について、(Y1)、(Y2)、(Y3)は、順にY=6.5mm、Y=240.5mm、Y=513.5mmであるXZ平面について、(Z1)、(Z2)、(Z3)は、順にZ=10.2mm、Z=399.5mm、Z=850.0mmであるXY平面についての状況をそれぞれ示すものである。
【0031】
ここで、(X)、(Y1)、(Z3)は、調理空間の境界面を示すものである。すなわち、(X)は、調理空間の右側面に相当し、この(X)面に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で捕集されなかった水蒸気が調理空間の右側面から流出すると判断できる。また、(Y1)は、調理空間の前面に相当し、この(Y1)面に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で捕集されなかった水蒸気が調理空間の前面から流出すると判断できる。(Z3)は、レンジフード30の下面に相当し、この(Z3)面においてレンジフード30の吸込口の範囲に水蒸気が存在する場合には、レンジフード30で水蒸気が捕集されると判断できる。なお、本シミュレーションにおいては、上述の通り左から右への気流が流れているものとしているので、調理空間左側面から水蒸気が流出することはない。
【0032】
<シミュレーション1>
空気吸込部11での空気の吸込みはなく、空気吹出部10a、10bからの空気の吹出しもない場合についてシミュレーションを行った。図6は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図6(Z3)の図中右下に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図6(Y1)の図中中央右側に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図6(X)の図中左上に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかる。
以上より、空気吹出部10a、10bからの空気の吹出しがない場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。
【0033】
<シミュレーション2>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図7は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図7(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図7(Y1)の図中右上に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上端から水蒸気が流出していることがわかるが、図6(Y1)と比較すると水蒸気の面積が小さく濃度も低いことから、流出量はシミュレーション1の場合よりも少ないことがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図7(X)の図中上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。しかしながら、捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1よりも少ない。
【0034】
<シミュレーション3>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角15度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図8は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図8(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)及び右側(調理空間の右側面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図8(Y1)の図中右上端に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上端から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図8(X)の図中上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の右側面の上方から水蒸気が流出していることがわかるが、図7(X)と比較すると水蒸気の面積が小さいことから、流出量はシミュレーション2の場合よりも少ないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角15度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右側及び右側面から流出していることがわかる。しかしながら、捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1及びシミュレーション2よりも少ない。
【0035】
<シミュレーション4>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図9は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図9(Z3)の図中中央右側に水蒸気が存在していることから、全ての水蒸気が排気部3に捕集されていることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図9(Y1)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の前面からは水蒸気が流出していないことがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図9(X)にも水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出している場合には、排気部3で捕集されずに流出する水蒸気はなく、鍋から発生した全ての水蒸気は排気部3によって捕集される。つまり、捕集できる水蒸気の量は、シミュレーション1〜3よりも多い。
【0036】
<シミュレーション5>
空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合についてシミュレーションを行った。図10は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図10(Z3)の図中中央下側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の下側(調理空間の前面)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図10(Y1)の図中中央上側に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面中央上側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図10(X)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面中央上側から流出していることがわかる。したがって、排気部3で捕集できない水蒸気の量は、シミュレーション1〜2よりも少ないものの、シミュレーション4より多い。
【0037】
<シミュレーション6>
空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角22.5度の方向に吹出しているが、空気吸込部11での空気の吸込みがない場合についてシミュレーションを行った。図11は、この結果を示すものである。
XY平面に注目すると、図11(Z3)の図中右側に水蒸気が存在していることから、一部の水蒸気が排気部3に捕集されているものの、一部は図中の右下側(調理空間の前面右側)から流出していることがわかる。また、XZ平面に注目すると、図11(Y1)の図中右上に水蒸気が存在していることから、調理空間の前面右上側から水蒸気が流出していることがわかる。さらに、YZ平面に注目すると、図11(X)には水蒸気は存在していないことから、調理空間の右側面からは水蒸気が流出していないことがわかる。
以上より、空気吸込部11での空気の吸込みがあり、空気吹出部10a、10bから空気が鉛直方向上向きから傾き角30度の方向に吹出している場合には、水蒸気の一部は排気部3に捕集されるものの、他の水蒸気は調理空間の前面右上側から流出していることがわかる。したがって、捕集できる水蒸気の量は、シミュレーション4より少ない。
【0038】
<考察1>
シミュレーション1とシミュレーション2の結果と比較することで、空気吹出部10からの空気の吹出しの効果を考察する。
シミュレーション1では空気吹出部10からの空気の吹出しを停止し、シミュレーション2では空気吹出部10から空気を吹出したところ、シミュレーション2ではシミュレーション1に比べて、排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができた。すなわち、空気吹出部10からの空気の吹出しは、排気部3での調理排気の捕集率の向上に効果があると言える。
【0039】
<考察2>
シミュレーション2〜5の結果と比較することで、空気吹出部10からの空気の吹出しの最適な傾き角を考察する。
シミュレーション2では空気吹出部10からの空気の吹出しの傾き角は0度(鉛直方向)であり、順に傾き角を大きくしていき、シミュレーション3では傾き角は15度、シミュレーション4では傾き角は22.5度、シミュレーション5では傾き角は30度としたところ、シミュレーション3ではシミュレーション2に比べて排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができ、シミュレーション4ではシミュレーション3に比べて排気部3での水蒸気の捕集率を向上させることができたが、シミュレーション5ではシミュレーション4に比べて排気部3での水蒸気の捕集率は低下した。すなわち、空気吹出部10からの空気の吹出しの鉛直方向からの傾き角を増加させると傾き角が22.5度までは排気部3での調理排気の捕集率を向上させることができるが、傾き角が22.5度を超えると逆に調理排気の捕集率は低下する。すなわち、シミュレーション2〜5によると、傾き角が15度から30度である場合には、高い捕集率を得られ、さらに傾き角が約22.5度のときに最も高い捕集率を得られた。
【0040】
<考察3>
シミュレーション4とシミュレーション6の結果と比較することで、空気吸込部11からの空気の吸込みの効果を考察する。
シミュレーション4とシミュレーション6では、空気吹出部10からの空気の吹出しの傾き角はいずれも22.5度としているが、シミュレーション4では空気吸込部11から空気を吸込み、シミュレーション6では空気吸込部11からの空気の吸込みを停止したところ、シミュレーション4ではシミュレーション6に比べて、排気部3での調理排気の捕集率を向上させることができた。すなわち、空気吸込部11からの空気の吸込みは、排気部3での水蒸気の捕集率の向上に効果があると言える。
【0041】
以上の通り、本実施形態の調理システム1によれば、作業性及び美観性を損なわず、かつ簡易な構成で調理時に発生する調理排気を排気部3で効果的に捕集して排出することができる。
【0042】
特に、空気吹出部10aから鉛直方向上向きから空気吹出部10b側に傾いた向きに空気を吹出し、空気吹出部10bから鉛直方向上向きから空気吹出部10a側に傾いた向きに空気を吹出すことにより、調理排気をより効果的に排気部3に誘導することができ、もって排気部3において調理排気を効率的に捕集することができる。特に、上記シミュレーションによれば、空気の吹出し方向の傾き角を15度以上30度以下とするとより効率的に調理排気を捕集することができる。
【0043】
また、空気吸込部11から空気を吸込めば、調理排気を壁側に誘導することができ、もって調理空間の前面(Y=0であるXZ平面)からの調理排気の流出を防止しつつ、調理排気を排気部3で効率よく捕集することができる。
【0044】
さらに、上記シミュレーションでは調理空間において左から右への方向の気流があった場合を規定したが、空気吹出部10aと空気吹出部10bを左右対称に配置しているので、右から左への方向の気流があった場合でも、上記シミュレーションと同様の結果が得られる。すなわち、空気吹出部10aと空気吹出部10bを左右対称に配置することで、調理空間における気流の向きに拘らず効率よく調理排気を排気部3で捕集して排出することができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、1対の空気吹出部10a、10bが設けられるものとしたが、これに限らず2対以上の空気吹出部10を設けることとしてもよい。
【0046】
なお、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1の全体構成を示す斜視図であり、電磁誘導式加熱調理器2及び排気部3を含む。
【図2】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1の全体構成を示す正面図であり、電磁誘導式加熱調理器2及び排気部3を含む。
【図3】本発明の一実施形態である電磁誘導式加熱調理システム1が備える電磁誘導式加熱調理器2のトップパネル20を示す平面図である。
【図4】排気部3の構成を示す側面図である。
【図5】シミュレーション1〜6におけるトップパネル20に係る設定条件を示す図である。
【図6】シミュレーション1の結果を示す図である。
【図7】シミュレーション2の結果を示す図である。
【図8】シミュレーション3の結果を示す図である。
【図9】シミュレーション4の結果を示す図である。
【図10】シミュレーション5の結果を示す図である。
【図11】シミュレーション6の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 電磁誘導式加熱調理システム(調理システム)
2 電磁誘導式加熱調理器(調理器)
3 排気部
4 換気口
10 空気吹出部
11 空気吸込部
20 トップパネル
21 電磁誘導式ヒータ(ヒータ)
30 レンジフード
31 排気ダクト
32 排気ファン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気部の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルには、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部が設けられ、各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記左右一対又は複数対の空気吹出部が空気を吹出す向きは、左右対称であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部の間の位置に空気を吸込む空気吸込部が設けられたことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部は、前記空気吸込部に関して左右対称の位置に設けられることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記空気吹出部から空気の吹出す向きの、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器と、該電磁誘導式加熱調理器の上方に設置される排気部とを備える電磁誘導式加熱調理システム。
【請求項7】
排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器に設けられる換気装置であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部を備え、
各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気装置。
【請求項8】
排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器における換気方法であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部のそれぞれより、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気方法。
【請求項1】
排気部の下方に設置されて用いられる電磁誘導式加熱調理器であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルには、使用者から見て奥側に左右一対又は複数対の空気吹出部が設けられ、各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記左右一対又は複数対の空気吹出部が空気を吹出す向きは、左右対称であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部の間の位置に空気を吸込む空気吸込部が設けられたことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記トップパネルの、前記左右一対又は複数対の空気吹出部は、前記空気吸込部に関して左右対称の位置に設けられることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器であって、
前記空気吹出部から空気の吹出す向きの、鉛直方向からの傾き角は15度以上30度以下であることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の電磁誘導式加熱調理器と、該電磁誘導式加熱調理器の上方に設置される排気部とを備える電磁誘導式加熱調理システム。
【請求項7】
排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器に設けられる換気装置であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部を備え、
各空気吹出部は、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すように構成されていることを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気装置。
【請求項8】
排気部の下方に設置される電磁誘導式加熱調理器における換気方法であって、
前記電磁誘導式加熱調理器のトップパネルの、使用者から見て奥側に設けられた左右一対又は複数対の空気吹出部のそれぞれより、鉛直方向上向きから、それぞれの対となる空気吹出部側に傾いた向きに空気を吹出すことを特徴とする電磁誘導式加熱調理器の換気方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−251288(P2008−251288A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89521(P2007−89521)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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