説明

電磁誘導調理器の調理鍋

【課題】発熱性が高く、しかも、調理性能に優れた電磁調理器用の調理鍋を提供することを目的とする。
【解決手段】磁性金属層5の表面に粗面化処理8を施すとともに、その外面には熱伝導率が磁性金属材の5分の1以下の断熱層10を配置した。これにより、磁性金属層5での発熱性を向上することができるとともに、なお且つ調理鍋内の熱を逃し難くい構成とすることができる。断熱層としては、セラミックス、あるいは、セラミックスコートに熱伝導率が低くなる充填材を添加したものが考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導調理器に用いられる調理鍋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広く世間一般に市販されている調理用鍋は、アルミニウム、ステンレス、チタン、鉄、銅、あるいは、これらを組み合わせた複合材を基材として製造されている。
【0003】
特に、電磁誘導調理器に用いられる調理鍋においては、フェライト系ステンレス等の磁性金属を鍋基材の外層に配し、その内側にアルミニウムを積層する、あるいは、場合によってさらにその内面にステンレスを積層しているものなどがある。
【0004】
電磁誘導調理器の特性として磁性の高い材料の方が電磁誘導による発熱性に有利であることから、鍋の外層にはフェライト系ステンレス等の磁性金属がよく用いられており、また、調理鍋の内層には熱拡散を素早く行い調理物に均一に熱を加える目的により熱伝導率の高いアルミニウムなどがよく用いられる。
【0005】
さらに、これら金属製の調理鍋は、調理物が強く付着することを防止するために、その内面にフッ素樹脂コートが処理されることもあり、調理物に対する非粘着性を向上させている。
【0006】
調理鍋の内面に処理されるフッ素樹脂コートは、1層構造をとるものから2層、あるいは、3層以上となっているのが通常であるが、良好な非粘着性、高い耐久性および良好な外観を得る観点から2層以上のフッ素樹脂コートとすることが好ましい。
【0007】
電磁誘導調理器の調理鍋においてはその発熱性をさらに向上することが従来課題として挙げられ、調理鍋の材料面から発熱性を向上させる手段としては、比透磁率の高い材料を用いるか、固有抵抗値の高い材料を用いることが有効な手段である。
【0008】
これらの観点より、電磁誘導調理器の調理鍋の発熱層には磁性金属としてSUS430を代表とするフェライト系ステンレスなどが多く用いられてきた。
【0009】
その他、パーマロイ等の鉄系合金を使用した事例や磁性金属層の外面に銅メッキを処理した事例などもあった。
【0010】
しかしながら、これらの材料においては、電磁誘導発熱特性を決定する因子である固有抵抗値や比透磁率は成型加工時の変動因子ではあるものの、調理鍋への成型加工後は材料固有の因子として安定したものであり、材料面から発熱性を向上するには限界があった。
【0011】
また、調理鍋においては調理性能を改善することが大きな課題であり、従来、調理鍋においては、熱を均一に分布させるために基材の厚肉化を図ったり、基材を多層に積層させたりする事例があった。
【0012】
しかしながら、調理物の食味向上の面から論ずると、調理鍋を厚肉化したり、多層化したりして熱回りを均一にすることも重要な条件の一つではあるが、それとは別に、調理鍋の磁性金属層で発生し調理鍋内に伝わった熱を逃さずに調理鍋内に封じ込める構成をとることも食味向上面では重要な条件となる。
【0013】
これまでの事例としては、調理鍋外面に断熱層を設けたものがあるが、調理鍋外面にただ単に断熱層を設けただけでは食味の向上は難しい他、これら断熱層の形態では断熱層に中空の部材を含有するために、樹脂同士の密着が低くく、断熱層は脆く、耐摩耗性などの耐久性が低いものであった((例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−211091号公報
【特許文献2】特開平11−56599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明の目的は、これら従来の問題を解決することであり、電磁誘導調理器の調理鍋の発熱性を向上するために調理鍋材料の発熱性を向上する手段を提供し、また、調理された調理物の食味を向上するために、熱を逃しにくく、しかも、耐久性が高い調理鍋を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために、磁性金属層の表面に粗面化処理を施すとともに、その外面には熱伝導率が磁性金属材の5分の1以下の断熱層を配置したものである。
【0016】
これにより、磁性金属層での発熱性を向上することができるとともに、なお且つ調理鍋内の熱を逃し難くい構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電磁式誘導加熱用の調理鍋は、上述の手段により発熱性を高めることができるので、効率の良い電磁誘導加熱を実現できるとともに、調理時に発生する熱を逃し難い構成としているために調理物の食味を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
第1の発明は、磁性金属層の表面に粗面化処理を施すとともに、その外面には熱伝導率が磁性金属材の5分の1以下の断熱層を配置した電磁誘導調理器の調理鍋である。
【0019】
より具体的には、電磁誘導発熱特性に優れた磁性金属であるフェライト系ステンレス単体、あるいは、アルミニウムのごとき熱良導性の金属とフェライト系ステンレスを接合して得られたクラッド材のような多層金属を調理鍋の基材とし、これを成形加工して得られた磁性金属層の表面にアルミナ粒子などによるショットブラストにより表面粗度Raが0.5〜5μmとなるように粗面化処理を実施した。
【0020】
次いで、その粗面化した磁性金属層の表面に断熱層を形成するものであるが、好ましくは、熱伝導率が磁性金属層の5分の1以下に設定したものである。
【0021】
例えば、基材がアルミニウムとフェライト系ステンレスである場合、フェライト系ステンレスの熱伝導率は約26W/m・kであるため、5.2W/m・k以下の断熱性皮膜を設けるものであるが、その厚さに関しては、概ね100μm以上とすることが良く、好ましくは、調理鍋上部になるにつれて厚膜化を図ることが望ましい。
【0022】
また、断熱層を設ける部位は調理鍋側面部は必須であるが、底面部に関しては任意である。
【0023】
なお、調理鍋内面には非粘着性を向上するためのフッソ樹脂コートを処理しても良い。
【0024】
本構成によれば、磁性金属表面に粗面化処理が施されているため、調理器から発生する
磁力を受ける表面積を広げるとともに、電気抵抗を高める結果、磁性金属層の発熱性が向上する上に、磁性金属層表面に断熱層を設けているので粗面化による磁性金属層の耐食性劣化を防止することができ、耐久性の高い調理鍋とすることができる。
【0025】
また、磁性金属層の表面に熱伝導率の低い断熱層を設けた場合、磁性金属層で発生した熱を外部に逃し難く、調理結果に好影響をもたらすことができる。
【0026】
第2の発明は、上記第1の発明において、断熱層がセラミックスであることを特徴とした調理鍋であり、耐熱性等を初めとする各種耐久性に優れたセラミックス系の材料を粗面化処理した磁性金属層の外面に処理したものである。
【0027】
セラミックス材料を調理鍋外面に処理する手法としては、磁性金属層の表面を粗面化した後にセラミックス溶射を行う方法があり、そのセラミックスとしてはアルミナ、ジルコニア、クロミア等が代表的なものとして挙げられる。
【0028】
このとき、磁性金属層の粗面化表面に直接セラミックス層を溶射しても良いが、磁性金属層とセラミックス層との中間的な熱膨張率を有する金属層を熱膨張に対する緩衝層として数十μm程度溶射することが望ましい。
【0029】
この緩衝層により、磁性金属層の耐食性を確保できるとともに、調理時の加熱による熱膨張と収縮でセラミックス層が剥離してしまう現象を防止できる。
【0030】
本構成によれば、磁性金属表面に粗面化処理が施されているため、磁性金属の表面特性が変化する結果、磁性金属層の発熱性が向上するとともに、粗面化表面の外面に基材よりも熱伝導率の低い耐熱性の断熱層を設けているので、磁性金属層で発生した熱を外部に逃し難く、調理結果に好影響をもたらすことができる他、断熱層の耐熱性も高く調理による熱劣化も抑制することができる。
【0031】
また、セラミックス層の上にエポキシ系、シリコーン系、ポリエーテルサルホン、フッ素樹脂系などの耐熱塗装をすることによりセラミックス層への水分や腐食促進物質の浸入を抑制することが可能である。
【0032】
第3の発明は、断熱層はセラミックスコートであり、熱伝導率が低くなる充填材を添加したことを特徴としたものである。
【0033】
より具体的には、セラミックスコートには中空ガラスビーズ、あるいは、多孔質のカーボン粒子等、熱伝導率を減じさせる充填材を含有し、厚膜化することを特徴としたものである。
【0034】
中空ガラスビーズの場合、平均粒径が10〜80μm、カサ比重が0.05〜0.5g/mlのものを塗膜中に10〜50重量%含有するセラミックスコート層を粗面化した磁性金属表面に100μm以上設けることが望ましく、好ましくは、鍋上部になるにつれて厚膜化を図ることが望ましい。
【0035】
中空ガラスビーズが10重量%未満では鍋内に十分に熱を封じ込む性能が発揮されないし、50重量%を超えると塗膜が脆く皮膜としての機能を有しないので、10〜50重量%が望ましい。
【0036】
また、このセラミックスコートの上層には第2層目として保護コート層を設けることも可能であるが、保護コート層に添加する中空ガラスビーズなどの熱伝導率を減じさせる充
填材は10重量%以下とすることが望ましい。
【0037】
これは、第2層目よりも上層部では熱伝導率を下げる目的よりも、強度を向上して第1層目のセラミックスコートを摩耗や衝撃から保護する目的を有するからである。
【0038】
本構成によれば、磁性金属表面に粗面化処理が施されているため、磁性金属の表面特性が変化する結果、磁性金属層の発熱性が向上するとともに、粗面化表面の外面に基材よりも熱伝導率の低い耐熱性の断熱性皮膜を設けているので、磁性金属層で発生した熱を外部に逃し難く、調理結果に好影響をもたらすことができる。
【0039】
なお、熱伝導率を低下させる充填材を添加するセラミックスコート層と基材の密着性を向上する目的において、磁性金属層の粗面化表面との間に薄膜のプライマ層を設けてもよい。
【0040】
さらには、中空ガラスビーズ等、熱伝導率を減じるための充填材をセラミックスコート層に多量に添加した場合、塗膜中の樹脂成分が相対的に少なくなり、セラミックスコート層を摩耗や衝撃から保護する必要があるために強度確保が大きな問題となる。
【0041】
このため、炭化物粒子、セラミックス粒子、ガラス粒子、ダイヤモンド粒子などの微粒子をセラミックスコート層やその保護コート層に添加することによって耐摩耗性を向上させ、押し込みキズなどにも強くなる。
【0042】
第4の発明は、断熱層は調理鍋の上部になるに従いその厚さを大きくしたものである。
【0043】
断熱層の膜厚は、調理鍋底面部については、概ね100μm以下または、0μmとし、鍋側面の膜厚については上部になるほど徐々に厚くなることを特徴とするものであるが、側面下半分部位(以降、側面下部)の平均膜厚は少なくとも100μm以上であり、なお且つ、側面下部の平均膜厚に比べ側面上半分部位(以降、側面上部)の平均膜厚は2倍〜3倍の範囲であることが望ましい。
【0044】
鍋底面部については、電磁誘導加熱調理器の温度センサーによる温度検知が十分できなくなるので断熱層を厚くしないことが重要である。
【0045】
また、鍋のフランジ部に関しては、断熱性を設けるかどうかは全くの任意である。
【0046】
本構成によれば、調理鍋底面から側面上部になるにしたがい、断熱層の膜厚が順次厚くなるものであり、特に側面ではこの構成により熱伝導率が低く抑えられ、調理中に調理鍋内上部に貯められた熱が封じ込められることにより、調理物に均一に熱が伝わり食味の向上が可能となる。
【0047】
逆に、側面下部や底面になるほど断熱層の膜厚は薄くなるが、これらの部位は本体内部に配置される電磁誘導コイルに対向して調理鍋の磁性金属層が発熱する部位とその周辺部であり、この部位の表面にあまりに厚い断熱層が設けられることによって返って断熱層に熱が取られ、均一な加熱が阻害されるので、結果として食味に悪影響を及ぼす可能性が強く比較的薄膜にするものである。
【0048】
第5の発明は、多層の金属を基材とし、最外層の磁性金属層表面の粗面化処理により未処理時よりも表面積を1.05〜2.0倍に拡大し、表面部の電気抵抗を高めたものである。
【0049】
ブラスト処理によって粗面化処理を施すことにより磁性金属表面の面積を増大させるものであるが、これにより磁性金属表層の電気抵抗が上昇し、結果として磁性金属層の発熱性を向上することができる。
【0050】
表面積の増大が1.05倍未満では発熱性に特段の効果は見られず、2.0倍より大きくした場合は磁性金属表面の粗さが大きくなり過ぎ、表面に設けられる断熱性皮膜及び保護皮膜が表面粗れを生じるので、1.05〜2.0倍の範囲とすることが望ましい。
【0051】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0052】
図1,2において、電磁誘導調理器本体1は、その内部に電磁誘導コイル2を設けて、調理鍋3を電磁誘導発熱させるように構成している他、調理鍋底温度検知センサー4を備え、調理鍋の温度を検知することができる。
【0053】
ここで、調理鍋3は、厚さ0.5mmのフェライト系ステンレスを磁性金属層5として、これに厚さ1.0mmのアルミニウム6を接合したクラッド材を基材としたものであり、磁性金属層5側を外面にしてプレス加工して鍋形状にしたものである。
【0054】
調理鍋3の内面のアルミニウム6表面には2層構成のフッ素樹脂コート7を処理している。
【0055】
基材を調理鍋形状にプレス成形し洗浄した後、内面のアルミニウム6の表面にサンドブラストをかけ、表面粗さRaが3〜5μmとなるように調整し、その後、フッ素樹脂と接着成分、顔料、光輝材を塗膜構成成分とした液状のプライマ塗料を成膜後膜厚が約10μmとなるよう塗装し、100℃で20分間乾燥した。
【0056】
プライマの乾燥が終了し、十分に基材温度が下がったところでトップコート処理として顔料や光輝材等の添加物を含有しないフッ素樹脂の粉体塗料をプライマの上に成膜後膜厚35μmとなるように塗装した。
【0057】
一方、調理鍋基材の外層を構成する磁性金属層5の外表面にはサンドブラストにより表面粗さRaが0.5〜3μmとなるように調整して粗面化処理面8を形成し、その後、ニッケル/クロム合金を約50μmとなるように粗面化処理面に溶射処理した。
【0058】
ニッケル/クロム合金層9は基材のステンレスと上層のセラミックス層との熱膨張率の差を緩和し、セラミックス層が基材から剥離することを防止することが目的であるが、実使用での熱的な負荷を考慮して要不要を勘案するものとする。
【0059】
さらに、ニッケル/クロム合金溶射層9の上層に断熱層10としてセラミックスの1種であるアルミナを溶射した。このアルミナからなる断熱層10は、鍋底面3aで100〜200μm、側面上部3bで400〜600μm、側面下部3cで200〜300μmの平均膜厚となるように塗装した。
【0060】
この溶射アルミナからなる断熱層10は空隙を含んでいるために、通常の空隙を含まないアルミナよりも熱伝導率が低く、その熱伝導率は2.36W/m・kであった。
【0061】
アルミナ層を溶射した後、その上層には20μm程度の厚さでシリコーン系やエポキシ系、あるいは、ポリエーテルサルホンなどの耐熱塗装11を設けることが望ましいが、こ
れは、アルミナ溶射層からなる断熱層10の表面が幾分粗いので平滑化することと、断熱層10に存在する空孔を封孔し、耐食性を向上することが目的である。
【0062】
この耐熱塗料11には、添加材としてフェノール炭化物粒子、ガラス粒子、炭化珪素、アルミナなどのセラミックス粒子、ダイヤモンド粒子なども添加することが可能であり、これらモース硬度が高く、調理時の高温に耐え、各種薬品に対しても安定性が高い添加材を加えることによって耐摩耗性を向上することができる。
【0063】
ここで、本実施の形態の調理鍋と同一厚さのアルミニウムとフェライト系ステンレスの合わせ材を基材とし、その外面には何らの処理も施されていない同形状の鍋を比較例1として、本実施の形態における鍋との比較実験を実施した。
【0064】
本実施の形態の鍋と比較例1の鍋に水1Lを入れて電磁誘導加熱調理器上に載せ100Vで作動させたところ、(表1)に示すように発生電力が約5%向上したが、これは本実施の形態の鍋外面に処理されている粗面化処理により、磁力を受ける面積が増加し、磁性金属層の表面の電気抵抗が変化した結果得られた効果である。
【0065】
電磁誘導発熱の特性として磁性金属の表層部ほど発熱量が大きいため、特に表層を粗面化処理し、電流の流れる面積を増大化させることにより効率的な発熱を実現できるものであって、断熱層10としてのアルミナ層の断熱効果が加わることにより結果としてより早く水を沸かすことができた。
【0066】
【表1】

【0067】
次いで、本実施の形態における断熱層の膜厚構成を(表2)の鍋No.1〜8のように変化させた調理鍋で炊飯を実施したとき、比較例1と比較した食味結果を同様に(表2)に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2においては5.5合炊飯用の調理鍋を電磁誘導加熱調理器本体に載せ、3合の米を通常に炊飯したときのご飯の出来を示したものであり、比較例1を基準として食味判定の◎は基準よりも大幅に食味が向上したことを、○は基準よりも食味が向上したことを、△は基準と同一レベルの食味、×は基準を下回ったことを意味する。
【0070】
なお、食味は炊き上がったご飯の味、香り、粘り、硬さ、ふくらみ度合いなどを総合的に判断して決定したものである。
【0071】
表2に示す通り、本実施の形態と比べ、膜厚や膜厚のバランスを変更したものにおいてはいずれにおいても基準よりも良好な食味が得られていない。
【0072】
以上の結果より、良好な食味を得るためには熱伝導率の低い断熱性皮膜を鍋の部位によって適度な厚さにしなければならないことがわかり、良好な食味を得るためには、熱伝導率を低下させる充填材を含有する断熱性皮膜の膜厚は、調理鍋底面部については比較的薄膜とし、調理鍋の上部になるに従い膜厚を増し、調理鍋側面上部12においては、鍋底面あるいは側面下部3cの膜厚に比べて2倍以上厚膜であることが重要であるが、最大でも側面上部の膜厚は600μmを超えてはならない。
【0073】
(実施の形態2)
図3は断熱層がセラミックスコート12である場合を示し、熱伝導率が低くなる充填材13を添加したことを特徴としたものである。
【0074】
より具体的には、セラミックスコート12には中空ガラスビーズ、あるいは、多孔質のカーボン粒子等、熱伝導率を減じさせる充填材13を含有し、厚膜化することを特徴とし
たものである。
【0075】
中空ガラスビーズの場合、平均粒径が10〜80μm、カサ比重が0.05〜0.5g/mlのものを塗膜中に10〜50重量%含有するセラミックスコート層を粗面化した磁性金属表面に100μm以上設けることが望ましく、好ましくは、鍋上部になるにつれて厚膜化を図ることが望ましい。
【0076】
中空ガラスビーズが10重量%未満では鍋内に十分に熱を封じ込む性能が発揮されないし、50重量%を超えると塗膜が脆く皮膜としての機能を有しないので、10〜50重量%が望ましい。
【0077】
また、このセラミックスコート12の上層には第2層目として保護コート層14を設けることも可能であるが、保護コート層14に添加する中空ガラスビーズなどの熱伝導率を減じさせる充填材15は10重量%以下とすることが望ましい。
【0078】
これは、第2層目よりも上層部では熱伝導率を下げる目的よりも、強度を向上して第1層目のセラミックスコート12を摩耗や衝撃から保護する目的を有するからである。
【0079】
本構成によれば、磁性金属表面に粗面化処理が施されているため、磁性金属の表面特性が変化する結果、磁性金属層の発熱性が向上するとともに、粗面化表面の外面に基材よりも熱伝導率の低い耐熱性の断熱性皮膜を設けているので、磁性金属層で発生した熱を外部に逃し難く、調理結果に好影響をもたらすことができる。
【0080】
なお、熱伝導率を低下させる充填材を添加するセラミックスコートと基材の密着性を向上する目的において、磁性金属層の粗面化表面との間に薄膜のプライマ層を設けてもよい。
【0081】
さらには、中空ガラスビーズ等、熱伝導率を減じるための充填材をセラミックスコート層に多量に添加した場合、塗膜中の樹脂成分が相対的に少なくなり、セラミックスコート層を摩耗や衝撃から保護する必要があるために強度確保が大きな問題となる。
【0082】
このため、炭化物粒子、セラミックス粒子、ガラス粒子、ダイヤモンド粒子などの微粒子をセラミックスコート層やその保護コート層に添加することによって耐摩耗性を向上させ、押し込みキズなどにも強くなる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明にかかる電磁誘導調理器用の調理鍋は、調理鍋基材外層を構成する磁性金属層表面に粗面化処理を施し、その粗面化表面に断熱性の高い皮膜を処理しているので、効率的な発熱が可能である上、調理性能も向上し、なお且つ、高い耐久性をも有するため、各種電磁誘導調理用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態1における調理鍋の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における調理鍋の部分拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態2における調理鍋の部分拡大断面図
【符号の説明】
【0085】
3 調理鍋
3b 側面上部
3c 側面下部
5 磁性金属層
8 粗面化処理面
10 断熱層
12 セラミックスコート
13 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属層の表面に粗面化処理を施すとともに、その外面には熱伝導率が磁性金属材の5分の1以下の断熱層を配置した電磁誘導調理器の調理鍋。
【請求項2】
断熱層がセラミックスであることを特徴とした請求項1記載の電磁誘導調理器の調理鍋。
【請求項3】
断熱層はセラミックスコートであり、熱伝導率が低くなる充填材を添加したことを特徴とした請求項1記載の電磁誘導調理器の調理鍋。
【請求項4】
断熱層は上部になる程その厚さを大きくした請求項1〜3いずれか1項記載の電磁誘導調理器の調理鍋。
【請求項5】
多層の金属を基材とし、最外層の磁性金属層表面の粗面化処理により未処理時よりも表面積を1.05〜2.0倍に拡大し、表面部の電気抵抗を高めたことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の電磁誘導調理器の調理鍋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−22447(P2010−22447A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184429(P2008−184429)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】