説明

電線対導電性金属板のレーザ溶接構造

【課題】導電性金属板と電線の双方を溶融状態とするのに必要となる総熱エネルギーを抑える技術を提供する。
【解決手段】レーザ光線Lを局部的に照射することで、信号線3の撚り線5(電線)と溶接部10(導電性金属板)を溶融凝固させて接合することで形成されるレーザ溶接構造Fは、以下のように構成されている。即ち、信号線3の撚り線5の融点と、溶接部10の融点と、が異なっている。レーザ溶接構造Fは、図2〜5に示すように、信号線3の撚り線5又は溶接部10のうち融点が高い溶接部10にレーザ光線Lを照射して得られたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光線を局部的に照射することで、電線と導電性金属板を溶融凝固させて接合したレーザ溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、本願の図7に示すように、端子100と一体形成された導電性金属板101に対し溶接モードのレーザ光102を照射することで、電線103と導電性金属板101をレーザ溶接する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−8028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、導電性金属板101のみならず電線103をも確実に溶融させるべく、レーザ光102によって導電性金属板101に与える総熱エネルギーを、対象物の材料や大きさの組み合わせによってはマージンを見込んで多めに設定する必要があった。
【0005】
本願発明の目的は、導電性金属板と電線の双方を溶融状態とするのに必要となる総熱エネルギーを抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の観点によれば、レーザ光線を局部的に照射することで、電線と導電性金属板を溶融凝固させて接合することで形成されるレーザ溶接構造は、以下のように構成されている。即ち、前記電線の融点と、前記導電性金属板の融点と、が異なっている。前記レーザ溶接構造は、前記電線又は前記導電性金属板のうち融点が高い方に前記レーザ光線を照射して得られたものである。
好ましくは、前記導電性金属板の融点の方が前記電線の融点よりも高い。
好ましくは、溶融前において、前記導電性金属板は、前記レーザ光線の照射方向で見たときに前記電線が前記導電性金属板によって隠れるように幅広に形成されている。
好ましくは、溶融前において、前記導電性金属板の断面積は、前記電線の断面積よりも大きい。
好ましくは、前記電線は、単線である。
好ましくは、前記電線は、同軸ケーブルの中心導体である。
好ましくは、前記電線は、撚り線である。
また、上記のレーザ溶接構造を有するワイヤーハーネスが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、前記導電性金属板の融点の方が前記電線の融点よりも高い場合は、前記導電性金属板に前記レーザ光線が照射され、前記導電性金属板が先に溶融する。そして、前記導電性金属板の融点は前記電線の融点よりも高いから、前記導電性金属板さえ溶融していれば、前記電線は前記導電性金属板からの受熱によって確実に溶融することができる。それ故、溶接に必要な伝熱量を抑制できることからレーザ照射量の減少が図れるほか、それに伴ないスパッタの発生も抑制できて生産性向上に寄与できる。なお、前記電線の融点の方が前記導電性金属板の融点よりも高い場合についても同様の効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、ワイヤーハーネスの部分斜視図である。(第1実施形態)
【図2】図2は、レーザ溶接構造の正面図であって、レーザ溶接作業の第1説明図である。(第1実施形態)
【図3】図3は、レーザ溶接構造の正面図であって、レーザ溶接作業の第2説明図である。(第1実施形態)
【図4】図4は、レーザ溶接構造の正面図であって、レーザ溶接作業の第3説明図である。(第1実施形態)
【図5】図5は、レーザ溶接構造の正面図であって、レーザ溶接作業の第4説明図である。(第1実施形態)
【図6】図6は、図5に相当する図であって、比較例を示す図である。
【図7】図7は、特許文献1の図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図1〜6を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。
【0010】
図1には、作業台1の上に載せられたワイヤーハーネス2が示されている。以下、このワイヤーハーネス2が、昨今著しく小型化されつつある携帯電話機向けのものであるとして説明を行う。なお、図1において、符号W1はレーザ溶接前の様子を示しており、符号W2はレーザ溶接後の様子を示している。
【0011】
ワイヤーハーネス2は、束ねられた複数の信号線3と、プラグ側コネクタ4とによって構成されている。
【0012】
信号線3は、銅又は銅合金から成る撚り線5(電線)と、例えばポリエチレンや塩化ビニルなどから成り、撚り線5を被覆する被覆材6とによって構成されている。本実施形態において、信号線3の外径は400マイクロメートル程度であり、撚り線5の外径は250マイクロメートル程度である。
【0013】
プラグ側コネクタ4は、携帯電話機の基板に表面実装された相手側コネクタとしてのレセプタクル側コネクタ(不図示)に結合されるコネクタである。プラグ側コネクタ4は、プラスチック等の絶縁体であるハウジング7と、複数のコンタクト8とによって構成されている。
【0014】
ハウジング7は、複数のコンタクト8を保持するものである。
【0015】
各コンタクト8は、レセプタクル側コネクタが備えるコンタクトと接触することで、各信号線3の撚り線5を携帯電話機の基板に接続するためのものである。各コンタクト8は、各信号線3の撚り線5に沿って延びている。各コンタクト8は、被支持部9と、溶接部10(導電性金属板)とによって構成されている。各コンタクト8において被支持部9と溶接部10は一体形成されている。本実施形態において各コンタクト8は、鉄又は鉄合金によって形成されている。
【0016】
被支持部9は、ハウジング7によって支持されると共に、レセプタクル側コネクタのコンタクトに対する接点を有する部分である。
【0017】
溶接部10は、各信号線3の撚り線5に対してレーザ溶接される部分である。図2に示すように、溶接部10は、信号線3の撚り線5に対して対向する撚り線対向面11と、その反対の面であるレーザ照射面12とを有している。そして、本実施形態においてレーザ光線Lは、溶接部10のレーザ照射面12に照射される。詳しくは、レーザ光線Lは、溶接部10のレーザ照射面12のうち、図1において二点鎖線で示すレーザ光線照射領域LAに照射される。
【0018】
また、図2に示すように、溶接部10は、レーザ光線Lの照射方向で見たときに信号線3の撚り線5が溶接部10によって隠れるように十分幅広に形成されている。即ち、図2において、溶接部10の幅寸法D1と、信号線3の撚り線5の幅寸法D2との間には、D1>D2の関係が成立している。また、溶接部10の断面積は、信号線3の撚り線5の断面積よりも大きい。ここで、「信号線3の撚り線5の断面積」とは、信号線3の撚り線5を構成する各銅線pの断面積の合計の断面積に相当している。
【0019】
以上の構成で、信号線3の撚り線5と溶接部10を密着させた上で、図2に示すようにレーザ光線Lを溶接部10のレーザ照射面12のレーザ光線照射領域LA(図1も併せて参照)に局部的に照射することで、信号線3の撚り線5と溶接部10は、図3〜4に示すように溶融し、図5に示すように凝固することで互いに強固に接合される。図5には、図2〜4に示すようにレーザ光線Lを局部的に照射することで、信号線3の撚り線5と溶接部10を溶融凝固させて接合することで形成されるレーザ溶接構造Fが示されている。図5に示すように、レーザ溶接構造Fは、信号線3の撚り線5と溶接部10とが溶融し合った合金構造を成し、溶融時の表面張力によってある程度丸みを帯びた外観を呈している。図1に示すワイヤーハーネス2は、即ち、複数のレーザ溶接構造Fを有することになる。
【0020】
そして、図1に示すように、本実施形態において、レーザ溶接構造Fは、信号線3の末端に形成される。換言すれば、各コンタクト8には、各信号線3の撚り線5の末端がレーザ溶接により接続されている。
【0021】
ここで参考までに、純金属としての銅と鉄の物理的性質を紹介する。
(銅)
融点:1083℃
比熱:0.0096J/(g・K)
溶解潜熱:205J/g
固有抵抗:1.693Ω・m
(鉄)
融点:1536℃
比熱:0.456J/(g・K)
溶解潜熱:268J/g
固有抵抗:9.71Ω・m
(機械実用便覧改訂第6版、2005年4月15日、10刷、pp.174〜175、社団法人日本機械学会)
上記文献によれば、鉄の方が銅よりも融点が相当高い。従って、本実施形態において、溶接部10の融点は、信号線3の撚り線5の融点よりも高い、と言うことができる。
【0022】
以上に本願発明の好適な第1実施形態を説明したが、上記第1実施形態は、要するに、以下の特長を有している。
【0023】
レーザ光線Lを局部的に照射することで、信号線3の撚り線5(電線)と溶接部10(導電性金属板)を溶融凝固させて接合することで形成されるレーザ溶接構造Fは、以下のように構成されている。即ち、信号線3の撚り線5の融点と、溶接部10の融点と、が異なっている。レーザ溶接構造Fは、図2〜5に示すように、信号線3の撚り線5又は溶接部10のうち融点が高い溶接部10にレーザ光線Lを照射して得られたものである。以上の構成によれば、溶接部10にレーザ光線Lが照射され、溶接部10が先に溶融する。そして、溶接部10の融点は信号線3の撚り線5の融点よりも高いから、溶接部10さえ溶融していれば、信号線3の撚り線5は溶接部10からの受熱によって確実に溶融することができる。それ故、溶接部10のみならず信号線3の撚り線5をもしっかり溶融させるためにレーザ光線Lの照射時間等にマージンを見込む必要がなくなる。従って、溶接部10と信号線3の撚り線5の双方を溶融状態とするのに必要となる総熱エネルギーを抑えることができる。なお、信号線3の撚り線5の融点の方が溶接部10の融点よりも高い場合は、信号線3の撚り線5にレーザ光線Lを照射することになるが、この場合も同様の効果が発揮される。
【0024】
また、図2に示すように、溶融前において、溶接部10は、レーザ光線Lの照射方向で見たときに信号線3の撚り線5が溶接部10によって隠れるように幅広に形成されている。以上の構成によれば、溶接部10は、図3〜5に示すように、信号線3の撚り線5を包み込むように溶融するので、溶接部10から信号線3の撚り線5への熱の移動がスムーズに行われる。従って、信号線3の撚り線5が多少解れていても、レーザ溶接構造Fは、問題なく信号線3の撚り線5を包含することができる。この点、コンタクト8と信号線3の撚り線5との接続品質は向上され、この結果、歩留まりも良好となる。
【0025】
また、図2に示すように、溶融前において、溶接部10の断面積は、信号線3の撚り線5の断面積よりも大きい。以上の構成によれば、溶接部10の溶融量が十分に確保されるので、溶接部10は、信号線3の撚り線5を一層包み込むように溶融することができる。従って、信号線3の撚り線5が多少解れていても、レーザ溶接構造Fは、一層問題なく信号線3の撚り線5を包含することができる。
【0026】
ここでは、上記の技術的意義を補足すべく、図6の比較例を紹介する。図6の比較例では、溶接部10の融点が信号線3の撚り線5の融点よりも低いにも拘らず、溶接部10にレーザ光線Lを照射し、その上、レーザ光線Lによって溶接部10に供給された総熱エネルギーが過小であった場合が示されている。この場合、溶接部10が溶融し、溶融状態となった溶接部10の温度が信号線3の撚り線5の融点を超えていたとしても、撚り線5を構成する多数の銅線pのうち一部が溶融し切れない場合が生じ得ると考えられる。
【0027】
さて、上記のレーザ溶接構造の技術背景を更に若干補足する。即ち、信号線3の撚り線5や溶接部10の素材は、導電率やコストなどを総合的に勘案して決定される。その際、一般的には、信号線3の撚り線5の素材と溶接部10の素材は、同一の素材が採用される。なぜなら、異種金属同士をレーザ溶接するとそのレーザ溶接箇所が予期せぬ脆性を呈する場合があり、そのような脆性を最終製品から排除すべく新たな耐久試験が要求されることになって煩わしいからである。とりわけ上記のレーザ溶接構造を例えば携帯電話機に代表される携帯端末に採用する場合には、携帯端末には落下衝撃が不可避に生じ得るので、なおさらのことである。この意味で、信号線3の撚り線5と溶接部10を異種金属によって形成したことを前提とした上記のレーザ溶接構造は、本願出願時における技術常識と相容れない技術思想によって成り立っていると言うことができる。
【0028】
以上に、第1実施形態を説明したが、上記第1実施形態は以下のように変更できる。
【0029】
即ち、上記第1実施形態において溶接部10は、信号線3の撚り線5の末端にレーザ溶接することとした。しかし、これに代えて、溶接部10を信号線3の撚り線5の中途部分にレーザ溶接してもよい。
【0030】
(第2実施形態)
上記第1実施形態において信号線3は、撚り線5と被覆材6によって構成されているとした。しかし、撚り線5に代えて単線(電線)とすることができる。
【0031】
(第3実施形態)
上記第1実施形態において信号線3は、撚り線5と被覆材6によって構成されているとした。しかし、これに代えて、信号線3は、中心導体と、その外周側に配置される誘導体と、その外周側に配置される外部導体と、更にその外周側に配置される保護被覆と、から成る同軸ケーブルであってもよい。この場合、信号線3の中心導体(電線)が溶接部10とレーザ溶接されることになる。
【符号の説明】
【0032】
1 作業台
2 ワイヤーハーネス
3 信号線
4 プラグ側コネクタ
5 撚り線(電線)
6 被覆材
7 ハウジング
8 コンタクト
9 被支持部
10 溶接部(導電性金属板)
11 撚り線対向面
12 レーザ照射面
F レーザ溶接構造
L レーザ光線
LA レーザ光線照射領域
D1 幅寸法
D2 幅寸法
p 銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光線を局部的に照射することで、電線と導電性金属板を溶融凝固させて接合することで形成されるレーザ溶接構造であって、
前記電線の融点と、前記導電性金属板の融点と、が異なっており、
前記電線又は前記導電性金属板のうち融点が高い方に前記レーザ光線を照射して得られた、
レーザ溶接構造。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接構造であって、
前記導電性金属板の融点の方が前記電線の融点よりも高い、
レーザ溶接構造。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接構造であって、
溶融前において、
前記導電性金属板は、前記レーザ光線の照射方向で見たときに前記電線が前記導電性金属板によって隠れるように幅広に形成されている、
レーザ溶接構造。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ溶接構造であって、
溶融前において、
前記導電性金属板の断面積は、前記電線の断面積よりも大きい、
レーザ溶接構造。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のレーザ溶接構造であって、
前記電線は、単線である、
レーザ溶接構造。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載のレーザ溶接構造であって、
前記電線は、同軸ケーブルの中心導体である、
レーザ溶接構造。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載のレーザ溶接構造であって、
前記電線は、撚り線である、
レーザ溶接構造。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載のレーザ溶接構造を有するワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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