説明

電線導体及び絶縁電線

【課題】電線導体の細径化が可能であると共に、超音波溶接等により導体を溶接することが可能であり、溶接強度が十分得られる電線導体及び絶縁電線を提供する。
【解決手段】3本の金属素線2、2、2が撚り合わされた電線導体1であって、前記金属素線2は、引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金を用いて電線導体1を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線導体及び絶縁電線に関し、更に詳しくは、細径の自動車用電線に好適に用いられる電線導体及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用電線として、図4に示すように7本の軟銅素線101を用いた7芯同芯撚り円形圧縮構造の電線導体102を絶縁体103で被覆した絶縁電線104が一般に用いられている。
【0003】
自動車の軽量化にあたり、電線も軽くすることが要求されている。電線を軽量化する手段として、導体サイズダウンによる細径化が考えられる。しかしながら、単純に導体サイズダウンだけでは細径化に限界がある。
【0004】
そこで、細径化による強度低下を改良した電線導体として、例えば特許文献1には、図5に示すように、7本の素線径0.13mmの軟質銅素線201と、1本の素線径0.21mmの軟質ステンレス素線(SUS301)202を撚り合わせてなる、Cu−SUS構造の電線導体203が記載されている。また特許文献1には、上記電線導体を厚さ0.2mmのポリオレフィンで被覆した絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−159403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数本の電線を用いてワイヤーハーネスを構成する場合、ワイヤーハーネスでは回路の分岐点(スプライスということもある)を作る必要がある。スプライス作製にあたっては、例えば、超音波溶接を用いて、振動・及び加圧による電線導体の溶接が行われる。この場合、電線導体が細径化すると導体の強度不足により、溶接部の機械的特性を十分に満足させることが困難になるという問題があった。
【0007】
またCu−SUS構造の電線導体を溶接する場合、銅とステンレスの接合部分は、異種金属接合となる。この異種金属の接続は、現行の技術では溶接が不可能であるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、電線導体の細径化が可能であると共に、超音波溶接等により導体を溶接することが可能であり、溶接強度が十分得られる電線導体及び絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の電線導体は、3本の金属素線が撚り合わされた導体であって、前記金属素線は、引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金であることを要旨とするものである。
【0010】
上記電線導体において、前記金属素線の材質が、Cu−Sn合金、Cu−Mg合金、Cu−Ag合金、及びCu−Ni−Si合金からなる群から選ばれるいずれか1種であることが好ましい。
【0011】
上記電線導体において、前記3本の金属素線が、同一の材質、径、及び引張強さを有する金属素線からなることが好ましい。
【0012】
上記電線導体において、前記金属素線は、表面酸化膜の厚みが5nm以下であることが好ましい。
【0013】
上記電線導体において、導体断面積が0.05〜0.13mmの範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明の絶縁電線は、上記の電線導体を絶縁体で被覆してなることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、3本の金属素線が撚り合わされた導体であって、前記金属素線は、引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金である電線導体を用いたことにより、電線導体の細径化が可能であると共に、ワイヤーハーネスのスプライス作製の際に超音波溶接等により導体を溶接することが可能であり、十分な溶接強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電線導体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の電線導体の他の例を示す断面図である
【図3】本発明の絶縁電線の一例を示す断面図である。
【図4】従来の電線導体の一例を示す断面図である。
【図5】従来の電線導体の他の例を示す断面図である。
【図6】ピール力試験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の電線導体の一例を示す断面図である。図1に示すように本発明の電線導体1は、3本の金属素線2、2、2が撚り合わされて構成されている。3本の金属素線2は、同一の径、同一の材質、同一の引張強さを持つものである。
【0018】
電線導体を超音波溶接する場合、溶接部の機械的強度の指標として、ピール力を測定する方法がある。ピール力は、ほぼ溶接部の界面剥離強度に相関する。十分なピール力を得るためには、測定の際の平均値を上げることと、ばらつきを小さくすることが必要である。金属素線について様々な導体構成、材料等を検討したところ、ピール力の平均値を上げるには、電線導体を構成する各素線の1本当たりの強度を十分高めることが重要であることが判った。また、ピール力のばらつきを小さくするには、後述する金属素線の酸化膜の厚みを薄くすることが効果的であることが判った。
【0019】
本発明は、電線導体1を3本の金属素線により構成した。これは、従来の7本或いは8本の素線から構成していた電線導体と比較して、同じ導体断面積であれば、1本の金属素線の素線径を太くすることが可能である。素線径が太くなると、素線強度も向上する。素線強度が向上すると、上記したようにピール力の平均値を上げることができ、超音波溶接性が向上する。
【0020】
また、3本の金属素線から構成することで、2本、4〜6本の金属素線を用いた場合と比較して、断面を円形に撚ることが容易であるという利点がある。すなわち金属素線が2、4〜6本の場合は、断面が台形になりやすく、円形にするのが困難である。また、金属素線として単線を用いた場合には、端子の圧着や、ハーネス加工が困難である。これに対し金属素線が3本であれば、断面が円形に形成し易く、端子圧着やハーネス加工が容易である。
【0021】
金属素線2は、引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金が用いられる。金属素線2の引張強さが上記範囲であれば、十分な素線強度が得られ、十分なピール力が得られる。金属素線2の引張強さが400MPa未満では、導体を超音波溶接する際に十分なピール力を確保することができない。また、金属素線2の引張強さが1300MPaを超えると、銅合金材料の加工性が悪くなるため、電線製造が難しくなる。更に好ましい金属素線2の引張強さは、700〜1000MPaの範囲である。
【0022】
金属素線2の銅合金の具体的な材料として、Cu−Sn合金、Cu−Mg合金、Cu−Ag合金、及びCu−Ni−Si合金等が挙げられる。中でも、金属素線の材料としてCu−Sn合金は、引張強さ、耐屈曲性に優れる点から好ましい。金属素線2の引張強さは、銅合金材料の組成、調質の際の温度、雰囲気及び時間等を適宜調整することで、所望の引張強さとすることができる。
【0023】
金属素線2は、一般に表面に酸化膜が形成されている。この酸化膜の厚みは、5nm以下であるのが好ましい。上記したように、金属素線2の酸化膜を5nm以下とすることでピール力のばらつきを十分小さくすることができる。これは以下の理由からである。
【0024】
金属素線2表面の酸化膜は、超音波溶接の際の溶接部の機械的強度に大きな影響を与えている。すなわち、超音波溶接は金属素線2の清浄な活性化表面を露出させて、固相結合を行うものである。この場合、金属素線2の酸化膜が厚くなりすぎると、上記の作用を妨げるため、溶接部が不均一になり、ばらつきが大きくなるものと考えられる。これに対し金属素線2の酸化膜が5nm以下であると、素線同士の溶接状態が均一になり、機械的強度のばらつきが小さく、良好な超音波溶接を行うことができる。
【0025】
電線導体2の全体の断面積である導体断面積は、0.05〜0.13mmの範囲内であることが好ましい。この大きさは、電線導体の細径化により電線重量を軽量化する点から好ましく、自動車用細径電線として最適な電線のサイズである。このように電線導体2が細径化されても、スプライス形成の際の超音波溶接性を十分確保できる。
【0026】
図2は本発明の電線導体の他の例を示す断面図である。図2に示すように電線導体1は、3本に撚った素線2、2、2に対して円形圧縮されていてもよい。円形圧縮は、例えば金属素線2、2、2を撚り合わせた状態で圧縮ダイスを通過させる等の手段で行なうことができる。
【0027】
図3は本発明の絶縁電線の一例を示す断面図である。図3に示すように本発明の絶縁電線は、上記の引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金からなる金属素線2が、3本撚り合わされた電線導体1の外周を、絶縁体3で被覆したものである。
【0028】
絶縁体3としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、PFA樹脂、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)樹脂、FEP(フッ化エチレンプロピレン)樹脂等のフッ素樹脂が挙げられる。絶縁体3の被覆の厚さは、特に制限はないが、例えば電線重量を軽量化するには、0.2mm以下であるのが好ましい。
【0029】
絶縁体3には、必要に応じて、各種添加剤が配合されていても良い。このような添加剤としては、例えば、難燃剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)等が挙げられる。
【0030】
絶縁体3は、図3に示すように単層構造でも良いし、2層以上の積層構造(図示しない)としても良い。2層以上とする場合、各層は同種の材質であっても良いし、異種の材質であっても良い。
【0031】
絶縁電線4は、例えば、押出機(単軸、二軸)、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて絶縁体3を構成する材料を混練し、通常の押出成形機などを用いて電線導体1の外周に絶縁体3を押出被覆して製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
【0033】
実施例1 素線径(φ)0.240mmのCu−0.3wt%Sn合金の非調質材料(引張強さ762MPa)からなる金属素線を3本撚り合わせて(ピッチ12mm)電線導体を作製した。この電線導体の外周を厚さ0.3mmで、ポリ塩化ビニルからなる絶縁体により被覆して実施例1の絶縁電線を作製した。
【0034】
実施例2 金属素線として、Cu−0.3wt%Sn合金の調質材料(引張強さ493MPa)の素線からなる電線導体を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の絶縁電線を作製した。上記の調質は、軟化炉を用いて不活性ガス雰囲気下でバッチ軟化(350℃×2時間)を行った。
【0035】
比較例1 素線径(φ)0.160mmのCu−0.3wt%Sn合金の非調質材料(引張強さ790MPa)からなる金属素線を7本撚り合わせた(ピッチ12mm)電線導体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の絶縁電線を作製した。
【0036】
比較例2 素線径(φ)0.240mmのタフピッチ軟銅(引張強さ245MPa)からなる金属素線を3本撚り合わせた(ピッチ12mm)電線導体を用いた以外は実施例1と同様にして比較例2の絶縁電線を作製した。
【0037】
実施例1〜2、比較例1〜2の絶縁電線を用いて、導体の強度、素線の引張強さ・強度、超音波溶接を行った際のピール力等を測定した。測定結果を、導体の構成、金属素線の構成等と合わせて表1に示す。上記試験方法は、以下の通りである。また素線の表面酸化膜の厚みは、オージェ電子分光法による解析を行い、測定値は10箇所の平均値を採った。
【0038】
[導体の強度試験方法] 絶縁電線から絶縁体を剥ぎ取った撚線導体を用いて引張試験を行った。引張試験は、JIS C 3002に準拠して行った。すなわち、絶縁体を剥ぎ取った撚線導体を、23℃にて試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、標線間距離250mm、引張速度200mm/分で引張り、導体が破断した時の荷重を測定し、導体の強度とした。
【0039】
[素線の引張強さ・強度試験方法] 絶縁電線から絶縁体を剥ぎ取り、更に、撚線になっている導体の撚りを戻して素線とし、1本の素線を用いて引張試験を行った。引張試験は、導体の強度試験と同様にして行った。引張試験の結果、素線が破断した時の荷重を素線の強度とした。また、上記素線の強度を断面積当たりに換算したものを素線の引張り強さとした。
【0040】
[ピール力試験方法] 絶縁電線を150mmの長さに切断したものを3本用意し、図6に示すように、それぞれの絶縁電線4の片端の絶縁体3を端部から15mm剥ぎ取り電線導体1を露出させ、3本の絶縁電線4の導体露出部分の電線導体1を超音波溶接した。超音波溶接装置としてShunk社製「Minic4」を用いて行い、溶接条件は、圧力1.3bar、エネルギー130Ws、振幅75%、押さえ幅0.70mmとした。ピール力は、図6に示すように、絶縁電線4の溶接部12と反対側となる端部10、11を支持し、溶接部12を引き裂くように引張り(引張り速度:50mm/min)、溶接部12が破壊するまで引張試験を行った。このときの最大荷重をピール力とした。測定は30回行って、ピール力の平均値と標準偏差を求めた。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、本発明の実施例1、2はいずれも、ピール力の平均値が良好な値を示している。これに対し、径が細い金属編素を7本用いて電線導体を構成した比較例1は、実施例1、2と導体断面積が同じ0.13mmであるにも関わらず、ピール力の平均値は低い値になっていて十分なピール力が得られなかった。また、比較例2は実施例1と同じ径の金属素線を3本用いて電線導体を構成したものであるが、金属素線の引張強さが245MPaと、400MPa未満であるため、実施例1と比較してピール力の平均値が低い値になっていて十分なピール力が得られなかった。
【0043】
また表1において表面酸化膜の厚みとピール力のばらつきの関係を見ると、表面酸化膜の厚みが5nm以下である実施例1、比較例3、4は、標準偏差が4N未満である。これに対し実施例2は金属素線を調質して低温度・長時間の処理を施しているので、実施例1、比較例1、2と比べて表面酸化膜が9nmと厚くなっている。その結果、ピール力の標準偏差が4.8Nであり、ピール力のばらつきが大きくなっている。この結果は、表面酸化膜が薄い方が有利であることを示している。
【符号の説明】
【0044】
1 電線導体
2 素線
3 絶縁体
4 絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3本の金属素線が撚り合わされた導体であって、前記金属素線は、引張強さが400〜1300MPaの範囲内の銅合金であることを特徴とする電線導体。
【請求項2】
前記金属素線の材質が、Cu−Sn合金、Cu−Mg合金、Cu−Ag合金、及びCu−Ni−Si合金からなる群から選ばれるいずれか1種であることを特徴とする請求項1記載の電線導体。
【請求項3】
前記3本の金属素線が、同一の材質、径、及び引張強さを有する金属素線からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電線導体。
【請求項4】
前記金属素線は、表面酸化膜の厚みが5nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項5】
導体断面積が0.05〜0.13mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電線導体を絶縁体で被覆してなることを特徴とする絶縁電線。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−146431(P2012−146431A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2744(P2011−2744)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】