説明

電線用被覆テープ、被覆電線及び電気機器

【課題】絶縁性に優れた電線用被覆テープ、これを備えた被覆電線及び電気機器を提供する。
【解決手段】電線を被覆するための電線用被覆テープ10であって、絶縁層31と、体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下である半導電層32とを有する基材11を備えている電線用被覆テープ。前記基材における前記半導電層側の面に、粘弾性体層12をさらに備えている。また、前記絶縁層の体積抵抗率が1×1013(Ω・cm)以上であり、且つ、前記絶縁層と前記半導電層との体積抵抗率の差が、1×103(Ω・cm)以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線用被覆テープ、これを備えた被覆電線及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に使用される回転機器、磁石等のコイル機器には、平角電線等の電線を、絶縁性を有する粘着テープ等の電線用被覆テープで被覆した被覆電線が用いられている。かかる被覆電線に空隙が存在すると、電線に高電圧が印加された際、この空隙部分で部分放電(コロナ放電)が発生し易くなるため、局所的な温度上昇や、オゾンやイオンの発生が生じ易くなる。その結果、電線用被覆テープが劣化してその絶縁性が低下し、被覆電線の寿命が短くなる、という問題が生じている。
【0003】
このような部分放電を抑制するために、電線を被覆する電線用被覆テープの外側から熱融着樹脂を塗布して熱溶着させることにより、被覆電線内に形成された空隙を埋め、部分放電開始電圧を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−261321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる技術では、熱融着樹脂層の厚みの調整が難しいため、該熱融着樹脂層の厚みの薄い領域が局所的に形成されるおそれがあり、この場合、厚みの薄い領域に電荷が集中して、被覆電線の絶縁特性が低下するおそれがある。また、電線用被覆テープの外側から熱融着樹脂を塗布しても、電線と電線用被覆テープとの間や電線用被覆テープ間に入り込んだ気泡等の空隙を熱融着性樹脂で埋めることは困難であり、かかる気泡に起因する絶縁性の低下を十分に抑制することは困難である。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、絶縁性に優れた電線用被覆テープ、これを備えた被覆電線及び電気機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る電線用被覆テープは、電線を被覆するための電線用被覆テープであって、絶縁層と、体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下である半導電層とを有する基材を備えていることを特徴とする。
【0008】
かかる電線用被覆テープは、半導電層によって電界を緩和しつつ絶縁層で絶縁性能を発揮させることができるため、部分放電開始電圧を高めることができ、絶縁性に優れる。従って、かかる半導電層側を電線側に向けて配しつつ電線用被覆テープで電線を被覆することにより、被覆電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0009】
また、上記電線用被覆テープにおいては、前記基材における前記半導電層側の面に、粘弾性体層をさらに備えていることが好ましい。
【0010】
これにより、電線用被覆テープで電線を被覆する際、電線用被覆テープと電線との間、及び電線用被覆テープ同士の間の密着性を高めて気泡の入り込みを低減することができるため、部分放電の発生をより抑制することができる。従って、電線用被覆テープが、絶縁性により優れたものとなる。
【0011】
また、上記電線用被覆テープにおいては、前記絶縁層の体積抵抗率が1×1013(Ω・cm)以上であり、且つ、前記絶縁層と前記半導電層との体積抵抗率の差が、1×103(Ω・cm)以上であることが好ましい。
【0012】
これにより、半導電層による電界緩和作用をより確実に発揮させることができるため、電線用被覆テープが、絶縁性により優れたものとなる。
【0013】
本発明に係る被覆電線は、上記電線用被覆テープと、該電線用被覆テープで被覆された電線とを備えていることを特徴とする。
【0014】
これにより、部分放電等が発生しても絶縁性の低下を抑制することができる。従って、絶縁性の低下が抑制された被覆電線を提供することができる。
【0015】
本発明の電気機器は、上記被覆電線を用いて作製されていることを特徴とする。
【0016】
これにより、被覆電線の絶縁性低下に起因した電気機器の特性の低下を低減できる。従って、特性の低下が抑制された電気機器を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、絶縁性に優れた電線用被覆テープ、これを備えた被覆電線及び電気機器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における電線用被覆テープを概略的に示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における電線用被覆テープを概略的に示す断面図であり、図1における領域IIの拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態における被覆電線を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態における被覆電線を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における被覆電線を概略的に示す、図3及び図4におけるV−V線に沿った断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における被覆電線を概略的に示す、図4におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態における被覆電線を概略的に示す、図4におけるVII−VII線に沿った断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態における電気機器の一例であるコイルを概略的に示す斜視図である。
【図9】実施例において、部分放電開始電圧を測定するための測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る電線用被覆テープについて説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態では、電線用被覆テープ10として、平角電線を被覆するための電線用被覆テープを一例に挙げて説明する。なお、電線用被覆テープ10が用いられる電線は、平角電線に特に限定されるものではない。
【0021】
図1に示すように、電線用被覆テープ10は、例えば巻芯20にロール状に巻回されている。
【0022】
図2に示すように、電線用被覆テープ10は、表面11aと該表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11と、基材11の表面11a上に形成された粘弾性体層12とを備えている。また、基材11は、絶縁層31と半導電層32とを有しており、これら絶縁層31と半導電層32とは積層されており、半導電層32が上記基材11の表面11aを、絶縁層31が上記裏面11bを有している。なお、基材11と粘弾性体層12との間には、別の層がさらに形成されていてもよい。また、粘弾性体層12の表面12a上に、表面12aを保護するための剥離ライナー(図示せず)が形成されていてもよい。また、基材11の裏面11bには、粘弾性体層12が形成されていないことが好ましい。
【0023】
基材11に備えられた絶縁層31は、体積抵抗率が1×1013(Ω・cm)以上であることが好ましい。体積抵抗率が1×1013(Ω・cm)以上であることにより、十分な絶縁性を発揮することが可能となる。
絶縁層31は、このような絶縁性を有すれば特に限定されないが、耐放射性及び耐熱性を有し、また、適度な可撓性を有していることが好ましい。このような基材11として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンゴム(EPT)、天然ゴム(NR)、(ブチルゴム)IIR、ポリイソブチレンゴム(PIB)、クロロプレンゴム(CRなど)を挙が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの樹脂のうち、特にポリイミド樹脂を絶縁層31として用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性と共に、不燃性材料であるので、電気機器に使用する絶縁材料としては、優れた難燃性を有するという点で、基材11の絶縁層31として優れた特性を有する。
【0024】
上記ポリイミド樹脂は、公知または慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミドは有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることができる。
【0025】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらのジアミノ化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
なお、本実施形態において用いるポリイミド樹脂としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。このようなポリイミド樹脂は、「カプトン(登録商標)」(東レ・デュポン社製)、「ユーピレックス(登録商標)」(宇部興産社製)などの市販品を用いることもできる。
【0028】
絶縁層31は、5μm以上100μm以下の厚みを有することが好ましく、10μm以上50μm以下の厚みを有することがより好ましく、12.5μm以上30μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みがこの範囲内であると、十分な絶縁性を確保でき、電線を被覆したときに電線の機能を十分に発揮できる。
具体的には、絶縁層31の厚みが100μm以下であると、基材11の厚みが過度に大きくなることを抑制することができ、電線用被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線における電線の線占率を高めることができるので、被覆電線の特性の低下をより抑制できる。絶縁層31の厚みが50μm以下であると、被覆電線の特性の低下をより一層抑制できる。絶縁層31の厚みが30μm以下であると、被覆電線の特性の低下をさらに抑制できる。
一方、絶縁層31の厚みが5μm以上であると、電線用被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線の絶縁性を高めることができるので、作動中に絶縁破壊することを抑制できる。絶縁層31の厚みが10μm以上であると、絶縁破壊することをより抑制できる。絶縁層31の厚みが12.5μm以上であると、絶縁破壊することをより一層抑制できる。
【0029】
なお、本発明の電線用被覆テープ10は、複数の絶縁層を備えていてもよく、かかる複数の絶縁層のうちの少なくとも1層が、例えば接着性を有する絶縁層、すなわち接着層であってもよい。
【0030】
基材11に備えられた半導電層32は、体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下であるように構成されている。体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上であることにより、半導電層32が十分に電界を緩和させることができるため、基材11の部分放電開始電圧が低くなり過ぎることを抑制して、十分な絶縁性を発揮させることが可能となる。より十分に電界を緩和して、上記した絶縁性を発揮させるという観点から、体積抵抗率は、1×108(Ω・cm)以上であることが好ましい。
一方、体積抵抗率が1×1011(Ω・cm)以下であることにより、半導電層32が電界を緩和させ難くなることを抑制することができるため、基材11の部分放電開始電圧が低くなり過ぎることを抑制して、十分な絶縁性を発揮させることが可能となる。より十分に電界緩和を生じさせるという観点から、半導電層32の体積抵抗率は、1×1010(Ω・cm)以下であることが好ましい。
このような体積抵抗率を有する半導電層32は、絶縁層31の形成材料として用いられるような上記した絶縁材料と、カーボンや金属粉等の導電性を有する充填材とを有するような構成とすることができる。この場合、半導電層32は、上記絶縁材料と上記充填材とを混合することによって形成することができる。また、体積抵抗率は、上記絶縁材料中の上記充填材の添加量を変えることによって、適宜調整することができる。
【0031】
上記のうち、半導電体32が、上記した絶縁材料とカーボンブラックとから形成される場合には、上記した体積抵抗率を1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下とするために、カーボンブラック配合量が、ポリイミド樹脂100重量部に対し、20〜30重量部であることが好ましい。30重量部を超えると、引裂強度の低下につながる。一方、20重量部未満では、導電性の高いカーボンブラックが半導電層31中の分布が変動(偏析)するおそれが高くなり、この変動により電気抵抗値の変化幅が大きくなって、局所的に絶縁破壊電圧が低くなり過ぎるおそれがあるからである。
【0032】
このようなカーボンブラックとしては、例えばチャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独で用いることもでき、または複数種類のカーボンブラックを併用して用いてもよい。これらのカーボンブラックの種類は、目的とする半導電層の導電性に応じて適宜選択することができるが、特に、チャンネルブラックやファーネスブラックが好適であり、目的とする導電性の程度や製造条件等に応じて酸化処理を施したもの、グラフト処理等の酸化劣化防止処理を施したもの、溶媒への分散性を向上させる処理を施したもの等を用いると好ましい。
例えば、ポリイミド樹脂とカーボンブラックとを配合して半導電層を形成する場合には、例えばプラネタリーミキサー、ビーズミルや3本ロール等の適宜な分散機を用い、上記したポリアミド酸の溶液にカーボンブラックを混合分散した後、上記のようにポリアミド酸を脱水閉環重合処理することにより、カーボンブラックが配合されたポリイミド樹脂を得、得られたポリイミド樹脂をフィルム成形することによってテープ状とする方法等の適宜な方法を用いることができる。
なお、カーボンブラックを均一分散させることによって半導電層の電気特性のバラツキを防止できる点等を考慮すれば、先ず適宜な方法で有機極性溶媒等の溶媒にカーボンブラックを分散させてカーボンブラック分散液を調製し、次に該分散液に上記したテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミンとを溶解させて上記重合処理を行う方法を用いることが好ましい。有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が用いられる。また、カーボンブラックを上記溶媒中に均一に分散させる方法としては、プラネタリーミキサー、ビーズミル、ボールミル、超音波等を用いる方法が挙げられる。このように分散させる際、カーボンブラックと溶媒との親和性を高めるために、ポリ(N−ビニル−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアミド)等の分散剤を添加してもよい。
【0033】
また、絶縁層31と半導電層32との体積抵抗率の差は、1×103(Ω・cm)以上であることが好ましい。体積抵抗率の差が1×103(Ω・cm)以上であることが好ましいのは、かかる差が1×103(Ω・cm)未満であると、基材11に電界緩和が生じ難くなるため、電線用被覆テープ10に気泡等が噛み込んだとき、この部分に電界が集中し易くなり、部分放電開始電圧が低くなり過ぎて、絶縁性能の低下につながるからである。基材11により電界緩和を生じさせるという観点から、体積抵抗率の差は、1×104(Ω・cm)以上であることが好ましい。
【0034】
半導電層32は、1μm以上50μm以下の厚みを有することが好ましく、2μm以上25μm以下の厚みを有することがより好ましく、4μm以上20μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みがこの範囲内であると、十分に電界を緩和させることができるため、電線を被覆したときに絶縁性の低下を抑制することができ、電線の機能を十分に発揮させることができる。
具体的には、半導電層32の厚みが50μm以下であると、電線用被覆テープを電線に被覆した際に形成される被覆電線における電線の線占率を高めることができるので、被覆電線の特性の低下をより抑制できる。半導電層32の厚みが25μm以下であると、被覆電線の特性の低下をより一層抑制できる。半導電層32の厚みが20μm以下であると、被覆電線の特性の低下をさらに抑制できる。
一方、半導電層32の厚みが1μm以上であると、電線用被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線の絶縁性を高めることができるので、作動中に絶縁破壊が生じることを抑制できる。半導電層32の厚みが2μm以上であると、絶縁破壊をより抑制できる。半導電層32の厚みが4μm以上であると、絶縁破壊をより一層抑制できる。
【0035】
また、絶縁層31と半導電層32との間には、接着層33が配置されており、絶縁層31と半導電層32とは、接着層33を介して接着されることによって積層されている。接着層33は、例えばシリコーン粘着剤を有しており、絶縁層31の一面側に、シリコーン粘着剤と白金触媒とを混合して得られた混合液を塗布し、乾燥してシリコーン系粘着剤を架橋構造物とすることによって、形成することができる。
また、かかる接着層33の体積抵抗率は、通常、1×1013(Ω・cm)以上である。かかる接着層33の厚みは、5μm〜50μmであることが好ましい。
【0036】
上記した絶縁層31と半導電層32とは、絶縁層31に積層した接着層33と半導電層32とを貼り合わせることによって接着させて積層させることができるが、その積層方法は、従来公知の適宜な接着方法を用いることができ、特に限定されるものではない。また、絶縁層と半導電層の他に、別途、接着層を準備し、かかる接着層を介して絶縁層と半導電層を積層することもできる。さらに、その他、接着層を設けることなく絶縁層31と半導電層32を積層することもできる。
【0037】
上記した絶縁層31と半導電層32とを備えた基材11の全体としての厚みは、6μm以上200μm以下の厚みを有することが好ましく、10μm以上100μm以下の厚みを有することがより好ましく、15μm以上75μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みがこの範囲内であると、十分に電界を緩和させることができるため、電線を被覆したときに絶縁性の低下を抑制することができ、電線の機能を十分に発揮させることができる。
具体的には、基材11の厚みが200μm以下であると、電線用被覆テープを電線に被覆した際に形成される被覆電線における電線の線占率を高めることができるので、被覆電線の特性の低下をより抑制できる。基材11の厚みが100μm以下であると、被覆電線の特性の低下をより一層抑制できる。基材11の厚みが75μm以下であると、被覆電線の特性の低下をさらに抑制できる。
一方、基材11の厚みが6μm以上であると、電線用被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線の絶縁性を高めることができるので、作動中に絶縁破壊が生じることを抑制できる。基材11の厚みが10μm以上であると、絶縁破壊をより抑制できる。基材11の厚みが15μm以上であると、絶縁破壊をより一層抑制できる。
【0038】
なお、基材11の表面11a、すなわち半導電層32の表面11aは、後述する粘弾性体層12との投錨力を向上させるために、スパッタエッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理などの化学的処理がされていてもよく、下塗り剤などが塗布されていてもよい。
【0039】
また、本実施形態における基材11は、絶縁層31と半導電層32とを有していれば、上記した3層で構成されていても2層で構成されていてもよく、また、3層以上で構成されていてもよい。
【0040】
粘弾性体層12は、基材11及び電線と接着可能であれば、特に限定されるものではないが、例えば、粘弾性体を構成するベースポリマーを含む。このようなベースポリマーとしては、特に限定されず、公知のベースポリマーから適宜選択して用いることができ、例えばアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマーが挙げられる。
【0041】
ゴム系ポリマーとしては、例えば、ポリイソブチレン、ブチルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、各種ブタジエンゴム等が挙げられる。なお、ゴム系ポリマーを形成する際には、例えば添加剤として液状ポリエーテル、グリコールエステル、液状ポリテルペン等の比較的分子量の小さいものを添加することにより、被覆シートを電線に貼り付けた際の気泡の発生を少なくすることができる。
【0042】
アクリル系ポリマーとしては、例えば、粘着性を与え、ガラス転移点(Tg)が比較的低いポリマーを形成しうる主モノマー、接着性や凝集力を与えることが可能であり、Tgが比較的高いポリマーを形成し得るコモノマー、及び、架橋点の形成や接着性を改良し得る官能基含有モノマー等の、単量体成分を重合させたアクリル系共重合体からなるポリマーが挙げられる。
かかるアクリル系ポリマーを形成するための主モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、該(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができる。その他、コモノマーや官能基含有モノマーを用いることもでき、これらのモノマーは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、アクリル系ポリマーとしては、架橋型、非架橋型のいずれのものも用いることができる。
なお、アクリル系ポリマーを形成する際には、例えば添加剤として液状ポリアクリレート、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル等の比較的分子量の小さいものを添加することができる。これらを添加して粘弾性体層を形成することにより、被覆シートを電線に貼り付けた際の気泡の発生を少なくすることができる。
【0043】
上記の他、ベースポリマーとしては、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマー等が挙げられる。
【0044】
上記したベースポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのベールポリマーのうち、耐寒性、耐放射線性、耐熱性及び耐腐食性に優れる観点から、シリコーン系ポリマーを粘弾性体層12として用いることが好ましい。つまり、粘弾性体層12は、シリコーン系ポリマーを含有する粘弾性体組成物(シリコーン系粘弾性体組成物)を含むことが好ましく、シリコーン系粘弾性体組成物を主成分とし、残部が不可避的不純物からなることがより好ましい。
【0045】
ここで、上記シリコーン系粘弾性体組成物は、シリコーンガム及びシリコーンレジンを主成分とする配合物の架橋構造を含有している。
【0046】
シリコーンガムとしては、例えば、ジメチルシロキサンを主な構成単位とするオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。オルガノポリシロキサンには必要に応じてビニル基、または他の官能基が導入されてもよい。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は通常18万以上であるが、28万以上100万以下が好ましく、50万以上90万以下がより好ましい。これらのシリコーンガムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。重量平均分子量が低い場合には、架橋剤の量によりゲル分率を調整することができる。なお、シリコーンガムとして比較的分子量の小さいものを用いることにより、被覆シートを電線に貼り付けた際の気泡の発生を少なくすることができる。
【0047】
シリコーンレジンとしては、例えば、M単位(R3SiO1/2)、Q単位(SiO2)、T単位(RSiO3/2)及びD単位(R2SiO)から選ばれるいずれか少なくとも1種の単位(上記単位中、Rは一価炭化水素基または水酸基を示す)を有する共重合体からなるオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。この共重合体からなるオルガノポリシロキサンは、OH基を有する他に、必要に応じてビニル基等の種々の官能基が導入されていてもよい。導入する官能基は架橋反応を起こすものであってもよい。共重合体としては、M単位とQ単位とからなるMQレジンが好ましい。なお、シリコーンレジンとして比較的分子量の小さいものを用いることにより、被覆シートを電線に貼り付けた際の気泡の発生を少なくすることができる。
【0048】
シリコーンガムとシリコーンレジンとの配合割合(重量比)は特に限定されないが、シリコーンガム:シリコーンレジン=100:0〜20:80程度が好ましく、100:0〜30:70程度がより好ましい。シリコーンガム及びシリコーンレジンは、単にそれらを配合してもよく、それらの部分縮合物であってもよい。
【0049】
上記配合物には、それを架橋構造物とするために、通常、架橋剤を含む。架橋剤により、シリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率を調整することができる。
【0050】
粘弾性体層12のゲル分率は、シリコーン系粘弾性体組成物の種類によっても異なるが、概ね20%以上99%以下程度が好ましく、30%以上98%以下程度がより好ましい。ゲル分率がこの範囲内であると、接着力と保持力とのバランスがとりやすいという利点がある。具体的には、ゲル分率が99%以下の場合、初期接着力が低くなることを抑制できるので、貼り付きが良好になる。ゲル分率が20%以上の場合、十分な保持力が得られるので、電線用被覆テープ10のずれを抑制できる。
【0051】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率(重量%)は、シリコーン系粘弾性体組成物から乾燥重量W1(g)の試料を採取し、これをトルエンに浸漬した後、この試料の不溶分をトルエン中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100の式より求められる値である。
【0052】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物は、一般に用いられる、過酸化物系架橋剤による過酸化物硬化型架橋と、Si−H基を含有するシロキサン系架橋剤による付加反応型架橋を用いることができる。
【0053】
過酸化物系架橋剤の架橋反応はラジカル反応であるため、通常150℃以上220℃以下の高温下で架橋反応が進められる。一方、ビニル基含有のオルガノポリシロキサンとシロキサン系架橋剤との架橋反応は付加反応であるので、通常80℃以上150℃以下の低温で反応が進む。本実施形態においては、特に低温短時間で架橋を完了できる観点から、付加反応型架橋が好ましい。
【0054】
上記過酸化物系架橋剤としては、従来よりシリコーン系粘弾性体組成物に使用されている各種のものを特に制限なく使用でき、例えば過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3等が挙げられる。これらの過酸化物系架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。過酸化物系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンゴム100重量部に対して0.15重量部以上2重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上1.4重量部以下であることがより好ましい。
【0055】
シロキサン系架橋剤として、例えば、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも平均2個有するポリオルガノハイドロジエンシロキサンが用いられる。ケイ素原子に結合した有機基としてはアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられるが、合成及び取り扱いが容易である観点から、メチル基が好ましい。シロキサン骨格構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
【0056】
シロキサン系架橋剤の添加量は、シリコーンゴム及びシリコーンレジン中のビニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは4個以上17個以下になるように配合する。ケイ素原子に結合した水素原子が1個以上の場合には十分な凝集力が得られ、4個以上の場合にはより十分な凝集力が得られる。ケイ素原子に結合した水素原子が30個以下の場合には接着特性の低下を抑制でき、17個以下の場合には接着特性の低下をより抑制できる。
シロキサン系架橋剤を用いる場合には、通常、白金触媒が用いられるが、その他種々の触媒を使用することができる。
なお、シロキサン系架橋剤を用いる場合には、シリコーンゴムとしてビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用い、そのビニル基は0.0001モル/100g以上0.01モル/100g以下程度であることが好ましい。
【0057】
本実施形態の粘弾性体層には、上記ベースポリマーの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付加剤、可塑剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料、軟化剤、充填剤などの従来公知の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0058】
上記添加剤のうち例えば粘着付与剤としては、ロジン及びその誘導体、ポリテルペン、テルペンフェノール樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂、スチレン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0059】
粘弾性体層12は、5μm以上50μm以下の厚みを有することが好ましく、8μm以 上25μm以下の厚みを有することがより好ましい。粘弾性体層12の厚みがこの範囲 内であると、適度な接着性が得られるという利点がある。
具体的には、粘弾性体層12の厚みが50μm以下であると、電線用被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線における電線の線占率を高めることができるので、被覆電線の特性の低下をより抑制できる。粘弾性体層12の厚みが25μm以下であると、特性の低下をより一層抑制できる。
一方、粘弾性体層12の厚みが5μm以上であると、電線への密着度を高めることができ、電線と電線用被覆テープ10との間に形成される隙間をより抑制できる。粘弾性体層12の厚みが8μm以上であると、電線と電線用被覆テープ10との間に形成される隙間をより一層抑制できる。
【0060】
また、電線用被覆テープ10は、11μm以上250μm以下の厚みを有することが好ましく、20μm以上150μm以下の厚みを有することがより好ましく、27.5μm以上45μm以下の厚みを有することが一層好ましい。電線用被覆テープ10の厚みが13.0μm以上であると、強度が十分であり、取り扱い性に優れ、15.5μm以上であると、強度がより十分であり、取り扱い性により優れる。電線用被覆テープ10の厚みが40.0μm以下であると、電線被覆テープ10を電線に被覆した際に形成される被覆電線における電線の線占率を高めることができるので、被覆電線の特性の低下をより抑制できる。
【0061】
電線用被覆テープ10の幅は、被覆する電線の形状や幅等に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではない。例えば、電線として平角電線を用いる場合、螺旋状に平角電線を被覆する際にラップ幅を狭く、かつ裸平角電線の延在方向と絶縁フィルムテープの巻回する方向とのなす角度を小さくできる観点から、被覆する平角電線の幅の1倍以上2倍以下の幅を有することが好ましい。このような電線用被覆テープ10の幅は、例えば1mm以上80mm以下が好ましく、1.5mm以上60mm以下がより好ましく、2mm以上40mm以下がより一層好ましい。
【0062】
また、電線用被覆テープ10は、電線を被覆する際の接続部分であるつなぎ目を設けないことが好ましいので、長尺であることが好ましい。このような電線用被覆テープ10の長さは、例えば500mm以上が好ましく、1000mm以上がより好ましく、3000m以上がより一層好ましい。本実施形態の電線用被覆テープ10は巻芯20にロール状に巻回されて保持されているが、1つの巻芯20に複数列に亘って巻回する、いわゆるボビン巻きにより保持されていてもよい。
【0063】
また、電線用被覆テープ10の部分放電開始電圧は、400Vrms以上であることが好ましい。該部分放電開始電圧が400Vrms以上であることにより、電線を被覆した際の絶縁性の低下をより抑制することができる。
【0064】
続いて、図1及び図2を参照して、本実施形態における電線用被覆テープ10の製造方法について説明する。
【0065】
まず、上述したように、絶縁層31と半導電層32とを接着層33を介して貼り合わせて、表面11aと、この表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11を準備する。
【0066】
次に、基材11の表面11a上に、粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12の形成方法は特に限定されないが、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を基材11の表面11a上にコーティングする方法により、粘弾性体層12を形成することができる。
【0067】
具体的には、シリコーンゴム、シリコーンレジン、架橋剤、触媒等を含むシリコーン系粘弾性体組成物をトルエン等の溶剤に溶解した溶液を基材11の表面11aに塗布し、次いで上記配合物を加熱することで溶剤の留去と架橋とを行う。本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12の形成方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法などの方法が挙げられる。
【0068】
以上の工程を実施することにより、図2に示す電線用被覆テープ10を製造することができる。なお、電線用被覆テープ10の製造方法は、上述した方法に特に限定されない。電線用被覆テープ10が剥離ライナーを備えている場合には、例えば以下の方法で製造してもよい。
【0069】
具体的には、まず剥離ライナーを準備する。剥離ライナーとしては、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シート、金属箔、またはそれらのラミネート体等が挙げられる。
【0070】
次に、剥離ライナー上に、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12を形成する方法は特に限定されないが、トルエンを溶剤に用い、加熱により付加反応型架橋を行う場合には、加熱温度は、例えば80℃以上150℃以下が好ましく、100℃以上130℃以下がより好ましい。なお、加熱温度は、溶剤を留去でき、所定の架橋反応が進行できる温度であれば特に限定されない。
【0071】
次に、剥離ライナー上に形成された粘弾性体層12を、基材11に転写する。以上の工程を実施することにより、図2に示す電線用被覆テープ10を製造することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、図1に示すように、図2に示す電線用被覆テープ10を巻芯20に巻き付ける工程をさらに実施する。この工程は、電線用被覆テープ10の形状等により省略されてもよい。
【0073】
以上説明したように、本実施形態における電線用被覆テープ10は、絶縁層31と、体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下である半導電層32とを有する基材11を備える。
【0074】
本実施形態における電線用被覆テープ10によれば、半導電層32によって電界を緩和しつつ絶縁層31で絶縁性能を発揮させることができるため、部分放電開始電圧を高めることができ、絶縁性に優れる。従って、かかる半導電層32側を電線側に向けて配置しつつ電線用被覆テープ10で電線を被覆することにより、被覆電線の絶縁性を優れたものとすることができる。よって、その絶縁性を向上させることができる。従って、かかる電線用被覆テープ10で電線を被覆することにより、被覆電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0075】
(第2実施形態)
図3〜図7を参照して、本発明に係る第2実施形態における被覆電線100について説明する。本実施形態では、被覆電線100は、図3に示すように、第1実施形態の電線用被覆テープ10と、この電線用被覆テープ10により被覆された電線110とを備えている。
【0076】
電線110が電線用被覆テープ10に被覆される態様は特に限定されず、螺旋状に巻回されてもよく、被覆シート10の長さ方向に電線110を添わせるように(タテ添えされるように)巻回されてもよい。本実施形態における電線110は、図3〜図5に示すように、電線用被覆テープ10に螺旋状に巻回されるように被覆されている。
【0077】
また、図3〜図5に示すように、電線用被覆テープ10の一部を重ね合うハーフラップで螺旋状に巻回されている。図5及び図6に示すように、ラップ部120が形成されていない領域における電線110は、電線用被覆テープ10に一重で被覆され、図5及び図7に示すようにラップ部120が形成された領域における電線110は、電線用被覆テープ10に二重で被覆されている。このため、ラップ部120を設けることにより、電線110の絶縁性を高めることができる。
【0078】
次に、電線110について説明する。
電線110は、ここでは平角電線が用いられている。該平角電線は、テープ状の線材であり、各頂点は角張っていてもよく、湾曲していても(Rが設けられていても)よい。
【0079】
電線110は、特に限定されず、従来周知の物を使用でき、その素材としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの2種以上の金属の組み合わせからなる線材を用いることができる。また、電線110として、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系などの各種超伝導材料からなる電線を用いることもできる。
【0080】
電線110の具体的寸法の一例を示すと、電線110が平角電線である場合、厚みは例えば1mm以上10mm以下であり、幅は例えば1mm以上20mm以下であり、アスペクト比(断面形状における幅/厚みの比)は例えば1以上60以下程度である。
【0081】
続いて、本実施形態における被覆電線100の製造方法について説明する。
【0082】
まず、第1実施形態に従って電線用被覆テープ10を製造する。
【0083】
次に、電線110を準備して、図3〜図7に示すように、電線用被覆テープ10の一部が重なり合うハーフラップで螺旋状に巻回する。具体的には、電線110に粘弾性体層12の一部が接触するように、かつ電線用被覆テープ10の基材11の裏面11bの一部上に粘弾性体層12の残部が接触するように、電線用被覆テープ10を配置する。
【0084】
なお、電線用被覆テープ10が剥離ライナーを備えている場合には、電線110に巻回する際に、剥離ライナーと粘弾性体層12の表面12aとを剥離しながら、電線110を巻回する。
【0085】
上記工程を実施することにより、図3〜図7に示す本実施形態の被覆電線100を製造することができる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態における被覆電線100は、第1実施形態の電線用被覆テープ10と、この電線用被覆テープ10に被覆された電線110とを備えている。
【0087】
本実施形態における被覆電線100によれば、部分放電等が発生しても絶縁性の低下を抑制することができる。従って、絶縁性の低下が抑制された被覆電線100を実現することができる。
【0088】
(第3実施形態)
図8を参照して、本発明の第3実施形態における電気機器の一例であるコイル200を説明する。図8に示すように、本実施形態のコイル200は、巻枠210と、この巻枠210に巻きつけられた第2実施形態の被覆電線100とを備えている。
【0089】
巻枠210は、被覆電線100を巻装できれば特に限定されないが、例えば円筒型、レーストラック型等である。被覆電線100は、1本であってもよく、必要な長さに応じて、複数本が接続されていてもよい。コイルは、複数のコイル200が積層されていてもよい。
【0090】
本実施形態におけるコイル200の製造方法は、巻枠210を準備する工程と、この巻枠210に被覆電線100を巻きつける工程とを備えている。
【0091】
ここで、本実施形態では、電気機器の一例としてコイル200を例に挙げて説明したが、電気機器はコイル200に限定されない。電気機器は、例えば絶縁コイル、超伝導コイル、超伝導マグネット、超伝導ケーブル、電力貯蔵装置などである。
【0092】
以上説明したように、本実施形態の電気機器の一例であるコイル200は、第2実施形態の被覆電線100を用いて作製されている。
【0093】
本発明の電機機器の一例であるコイル200によれば、被覆電線の絶縁性低下に起因したコイル200の特性の低下を低減できる。従って、特性の低下が抑制された電気機器を提供することができる。
【実施例】
【0094】
実施例1
<基材の作成>
1674gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に61.73g(ポリイミド樹脂固形分100重量部に対し22重量部に相当)のカーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)を添加し、ボールミルで8時間攪拌することにより、NMP溶液にカーボンブラックを分散させた。この分散液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物294.2gと、p−フェニレンジアミン108.2gを溶解させ、窒素雰囲気中において、室温で4時間攪拌しながら反応させて、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を、1mmのBAステンレス板に、乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布した。
【0095】
次に、塗布されたポリアミド酸溶液を、60℃の熱風により30分間乾燥した後、150℃で60分間加熱し、その後300℃まで2℃/分の昇温速度で昇温させ、更に300℃で30分間加熱することにより、溶媒の除去、脱水閉環、閉環水の除去及びイミド転化を行って、体積抵抗率7×1010(Ω・cm)のポリイミド樹脂からなる半導電層を得た。
一方、絶縁層Aとして、25μmのポリイミド樹脂フィルム(カプトンH−100(東レ・デュポン製))を用いた。また、シリコーン粘着剤である「SD−4587」(固形分40%、東レ・ダウコーニング製)と、該SD−4587の固形分100重量部に対して0.6重量部の白金触媒「SRX−212」(固形分100%、東レ・ダウコーニング製)とを混合して混合液を得、得られた混合液を、上記ポリイミド樹脂フィルムに、ファウンテンロールで乾燥後の厚みが5μmになるよう塗布した後、乾燥温度200℃、乾燥時間5分の条件でキュアー・乾燥して、絶縁層A上に接着層を形成した。
そして、かかる接着層を上記した半導電層に貼り合わせることによって、絶縁層と半導電層とを接着層を介して積層し、電線用被覆テープ用の基材を得た。
【0096】
<粘弾性体層の作成>
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸2−エチルヘキシル(以下、「2EHA」という。)90重量部、アクリル酸10重量部、過酸化ベンゾイル0.2重量部及び酢酸エチル100重量部を入れ、窒素気流中で61℃にて6時間重合処理をして、アクリル系ポリマーを得た。
得られたアクリル系ポリマー100重量部と、トリメリト酸エステル「W−700」(
大日本インキ社製)を10重量部と、テトラッドCを1重量部(三菱ガス化学株式会社製)とを混合して、混合液を得た。得られた混合液を、上記した基材の半導電層側の表面上に乾燥後の厚みが10μmになるよう塗布し、乾燥温度130℃、乾燥時間5分の条件でキュアー・乾燥して、基材上に粘弾性体層を形成することによって、電線用被覆テープを得た。
【0097】
実施例2
カーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)の添加量を84.18(ポリイミド樹脂固形分100重量部に対し30重量部)とすること以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの半導電層を有する電線用被覆テープを得た。
【0098】
実施例3
カーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)の添加量を75.76(ポリイミド樹脂固形分100重量部に対し27重量部)とすること以外は実施例1と同様にして、厚さ5μmの半導電層を有する電線用被覆テープを得た。
【0099】
実施例4
接着層の厚さを10μm、半導電層の厚さを10μmとすること以外は実施例1と同にして、厚さ10μmの半導電層を有する電線用被覆テープを得た。
【0100】
比較例1
基材として、絶縁層Bたる25μmのポリイミドフィルム(カプトンH−100(東レデュポン製))1層のみからなるものを用いること以外は実施例1と同様にして、基材上に粘弾性体層を形成して、半導電層を有さない電線被覆用テープを得た。
【0101】
比較例2
カーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)の添加量を112.2g(ポリイミド樹脂固形分100重量部に対し40重量部)とすること以外は実施例1と同様にして、厚さ5μmの半導電層を有する電線用被覆テープを得た。
【0102】
比較例3
カーボンブラック(SPECIAL BLACK4、デグサ社製)の添加量を36.6g(ポリイミド樹脂固形分100重量部に対し13重量部)とすること以外は実施例1と同様にして、厚さ5μmの半導電層を有する電線用被覆テープを得た。
【0103】
<評価方法>
上記実施例1〜3、比較例1〜3で得られた各試料について、体積抵抗率及び部分放電開始電圧をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0104】
(体積抵抗率の測定)
ハイレスタUP、MCP−HTP16(三菱化学社製、プローブ:UR−100)を用いて100Vの電圧を10秒間印加した後、測定条件25℃、60%RHでの体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
(部分放電開始電圧の測定)
上記実施例1〜4、比較例1〜3で作成した電線用被覆テープ、幅5mmの試験片を作製して部分放電開始電圧測定の評価サンプルとし、図9に示す測定装置300により、液体窒素中での部分放電開始電圧を測定した。
具体的には、図9において、容器331内に、電極332及び支柱333で挟持する形で評価サンプル150を配置した。上部の電極332に部分放電測定器334を接続し、評価サンプル150の電線にアース335を接続した。その後、液体窒素336を、少なくとも評価サンプル150が浸漬するよう加え、温度が安定した状態(約15分後)で、部分放電開始電圧の測定を開始した。
なお、電極332のサイズは25mmφ、角部のR2.5mm、接触面積20mmφであり、昇圧速度200Vrms/秒で昇圧した際に、放電電荷量が100pC以上の放電が50PPS(単位時間当たりの放電電荷の発生数)以上確認された時の印加電圧を部分放電開始電圧とした。その結果を下記の表1に記載する。
【0106】
(評価結果)
【表1】

【0107】
表1に示すように、半導電層の体積抵抗率が、1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下である実施例1〜4は、体積抵抗率がこの数値範囲を外れる比較例1〜3と比較して、部分開放電圧が大きかった。この結果、実施例1〜4は、比較例1〜3よりも、絶縁耐性が向上しており、絶縁性に優れることがわかった。
【0108】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、各実施形態及び実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
10 電線用被覆テープ、11 基材、11a,12a 表面、11b 裏面、12 粘弾性体層、20 巻芯、31 絶縁層、32 半導電層、33 接着層、100 被覆電線、110 電線、120 ラップ部、150 評価サンプル、200 コイル、210 巻枠、300 測定装置、331 容器、332 電極、333 支柱、334 部分放電測定器、335 アース、336 液体窒素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を被覆するための電線用被覆テープであって、
絶縁層と、体積抵抗率が1×107(Ω・cm)以上1×1011(Ω・cm)以下である半導電層とを有する基材を備えていることを特徴とする電線用被覆テープ。
【請求項2】
前記基材における前記半導電層側の面に、粘弾性体層をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の電線用被覆テープ。
【請求項3】
前記絶縁層の体積抵抗率が1×1013(Ω・cm)以上であり、且つ、
前記絶縁層と前記半導電層との体積抵抗率の差が、1×103(Ω・cm)以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電線用被覆テープ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電線用被覆テープと、
前記電線用被覆テープで被覆された電線とを備えていることを特徴とする被覆電線。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆電線を用いて作製されていることを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−30421(P2013−30421A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167070(P2011−167070)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】