説明

電線端末の止水処理方法および止水処理装置

【課題】複数の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施すにあたり、止水材の無駄な消費を避け、かつ各被覆電線について止水材の十分な浸透を図る。
【解決手段】第1の被覆電線11と第2の被覆電線12とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、集合端末13に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、集合端末の周囲の圧力Paを第1および第2の被覆電線の各他端11B、12Bの周囲の圧力Pb,Pcよりも高くし、かつ各他端の周囲の圧力PcとPbを互いに相違させることによって、第1および第2の被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させる差圧浸透工程と、止水材を硬化させる止水材硬化工程とを有する電線端末の止水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線端末の止水処理方法およびその実施に用いられる止水処理装置に関し、特に、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施す方法と、その止水処理方法に使用される止水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電線などに使用される被覆電線では、端末から水などの液体が被覆材内側に浸透しないように、電線端末に止水処理を施すものがある。
例えば、一端がエンジンルーム内のボディアースに接続され、他端が自動車の電子制御装置などの発熱源に接続された被覆電線では、発熱源のヒートサイクルにより、ボディアース側の端末から被覆材内側に水などが吸い込まれてしまうことがある。したがって、このような被覆電線には、電線端末に確実に止水処理を施すことが望まれる。
【0003】
電線端末の止水処理方法としては、被覆電線の端末から、流動性を有する状態の止水材(未硬化のシリコーン樹脂など)を被覆材内側の隙間に浸透させ、その後、止水材を硬化させる手法が広く適用されている。
止水材を被覆材内側に浸透させるための具体的手法としては、例えば特許文献1に示される方法が知られている。
【0004】
特許文献1に示される技術では、圧着端子を取り付けた電線端末に、流動性を有する状態の止水材を滴下した後、その端末を加圧容器の室内にセットするとともに、他方の端末を大気圧下に置く。そして、加圧容器の室内を加圧することにより、被覆電線の両端間(一端と他端との間)に差圧を生じさせ、その差圧により、電線端末から止水材を被覆材内側に強制的に浸透させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/052693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車載用電線には、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に圧着端子などの端子部材を一括して取り付けるものがある。
そして、これら複数の被覆電線には、各被覆電線の他端に接続される機器の種類に応じて、種類(素線径など)が異なる被覆電線が含まれることがある。
【0007】
具体的には、例えば、ヘッドランプ用のアース電線と、電子制御装置用のアース電線とでは、種類が異なる被覆電線が使用されている。
そして、これらアース電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に一つの圧着端子(アース端子)を取り付け、エンジンルーム内のボディアースに一括して接続することがある。
【0008】
一般に、被覆電線の被覆材内側への止水材の浸透のしやすさの程度は、被覆電線の種類によって異なる。特に、素線間の隙間の大きさに依存し、素線径が小さい被覆電線は、素線間の隙間が小さいため、素線径が大きい被覆電線に比べて止水材が浸透しにくい。
したがって、同一条件(被覆電線の両端間に生じる差圧、時間、止水材の粘度)で、端末から被覆材内側に止水材を浸透させても、素線径が異なる2種の被覆電線では、素線径が大きい被覆電線よりも素線径が小さい被覆電線の方が、止水材の浸透距離が短い。
【0009】
ここで、被覆材内側への止水材の浸透のしやすさの程度を、以下本明細書では、浸透性と称することとする。
より具体的には、2種の被覆電線について、同一条件(被覆電線の両端間に生じる差圧、時間、止水材の粘度)で、端末から被覆材内側に止水材を浸透させたときに、相対的に止水材が浸透しやすく、止水材の浸透距離が長い方の被覆電線を、浸透性が大きい被覆電線と称する。また逆に、相対的に止水材が浸透しにくく、止水材の浸透距離が短い方の被覆電線を、浸透性が小さい被覆電線と称する。
【0010】
そして、浸透性が異なる複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に一つの端子部材を取り付けた集合端末について、上述の特許文献1の手法に従って止水処理を施した場合、集合端末から各被覆電線の被覆材内側にそれぞれ浸透する止水材の浸透距離は、各被覆電線の浸透性に応じて被覆電線ごとに異なり、止水材が無駄に消費されたり、止水効果が十分に得られなかったりするおそれがある。
【0011】
すなわち、互いに浸透性が異なる複数の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水材を供給し、この集合端末を加圧することにより各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させた場合、浸透性が大きい被覆電線には速やかに止水材が浸透するが、浸透性が小さい被覆電線には止水材の浸透が遅れる。
したがって、浸透性が小さい被覆電線にも止水材を十分に浸透させるためには、集合端末に多量の止水材を供給する必要がある。その場合、浸透性が大きい被覆電線には、止水効果を得るのに必要な浸透量よりも過剰に止水材が浸透し、止水材が無駄に消費され、コストアップの原因となってしまう。
【0012】
さらに、各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させるにあたって、浸透性が大きい被覆電線に早期に止水材が浸透してしまえば、浸透性が小さい被覆電線に対する止水処理量が不足して、浸透性が小さい被覆電線については十分な止水効果が得られなくなるおそれがある。
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、集合端末から各被覆電線の被覆材内側にそれぞれ適量の止水材を浸透させ、止水材の無駄な消費を避けると同時に、各被覆電線への止水材の十分な浸透を図る止水処理方法、およびその実施のために使用される止水処理装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上のような課題を解決するため、本発明においては、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、各被覆電線の両端間に異なる差圧が生じるように各端末の周囲の圧力を調整し、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させるようにした。
【0015】
すなわち、本発明の基本的な態様(第1の態様)による電線端末の止水処理方法は、
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、
前記集合端末に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、
前記集合端末の周囲の圧力(Pa)を前記第1および第2の被覆電線の各他端の周囲の圧力(Pb,Pc)よりも高くし、かつ前記各他端の周囲の圧力(PcとPb)を互いに相違させることによって、前記第1および第2の被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、前記集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる差圧浸透工程と、
前記被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる止水材硬化工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0016】
第1の態様の止水処理方法では、差圧浸透工程において、第1の被覆電線の両端間に生じる差圧(DP1=Pa−Pc)と、第2の被覆電線の両端間に生じる差圧(DP2=Pa−Pb)とが異なるように、集合端末の周囲の圧力と各他端の周囲の圧力を調整する。
すなわち、第1および第2の被覆電線の各浸透性に応じて、各被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に浸透させる。これによって、止水材の無駄な消費を抑制しつつ、確実な止水効果を得ることができる。
例えば、第1の被覆電線よりも第2の被覆電線の方が浸透性が大きい場合、第1の被覆電線の両端間に生じる差圧DP1よりも第2の被覆電線の両端間に生じる差圧DP2が小さくなるように各端末の周囲の圧力を調整すれば、浸透性が大きい第2の被覆電線に過剰に止水材が浸透して止水材が無駄に消費されることが抑制され、同時に浸透性が小さい第1の被覆電線に十分に止水材を浸透させることができる。
【0017】
また本発明の第2の態様による止水処理方法は、前記第1の態様の止水処理方法において、
前記差圧浸透工程は、
密閉可能な第1の容器の室内に前記集合端末を収容する工程と、
密閉可能な第2の容器の室内に前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
大気圧下に前記第1の被覆電線の他端を配置する工程と、
密閉した前記第1の容器の室内を加圧するともに、密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整することにより、前記集合端末と前記第1の被覆電線の他端との間に第1の差圧(DP1=Pa−Pc)を生じさせると同時に、前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端との間に前記第1の差圧とは異なる第2の差圧(DP2=Pb−Pa)を生じさせる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0018】
さらに本発明の第3の態様による止水処理方法は、前記第1の態様の止水処理方法において、
前記差圧浸透工程は、
密閉可能な第1の容器の室内に前記集合端末を収容する工程と、
密閉可能な第2の容器の室内に前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉可能な第3の容器の室内に前記第1の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉した前記第1の容器の室内の圧力(Pa)と、密閉した前記第2の容器の室内の圧力(Pb)と、密閉した前記第3の容器の室内の圧力(Pc)とをそれぞれ調整することにより、前記集合端末と前記第1の被覆電線の他端との間に第1の差圧(DP1=Pa−Pc)を生じさせると同時に、前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端との間に前記第1の差圧とは異なる第2の差圧(DP2=Pa−Pb)を生じさせる工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0019】
第2および第3の態様の止水処理方法によれば、第1および第2の被覆電線の各浸透性に応じて、第1の被覆電線の両端間に生じる第1の差圧DP1と、第2の被覆電線の両端間に生じる第2の差圧DP2とを、確実かつ容易に異ならしめ、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を適量(浸透距離)浸透させることができる。
【0020】
そして本発明の第4の態様による止水処理方法は、前記第2の態様または第3の態様の止水処理方法において、
密閉した各容器の室内に加圧用ガスを供給して加圧することにより、前記各室内の圧力を調整することを特徴とするものである。
【0021】
また本発明の第5の態様による止水処理方法は、前記第1から第4の態様のうちのいずれかの態様の止水処理方法において、
前記第1および第2の被覆電線は、互いに素線の径が異なる被覆電線であることを特徴とするものである。
【0022】
次に、本発明の第6の態様は、前記第2の態様の電線端末の止水処理方法に使用される止水処理装置に関する。
すなわち、第6の態様の止水処理装置は、
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末を収容する密閉可能な第1の容器と、
前記第2の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第2の容器と、
密閉した前記第1の容器の室内を加圧する第1の圧力調整手段と、
密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整する第2の圧力調整手段と、
を備えることを特徴とするものである。
【0023】
また本発明の第7の態様は、前記第3の態様の電線端末の止水処理方法に使用される止水処理装置に関する。
すなわち、第7の様態の止水処理装置は、
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末を収容する密閉可能な第1の容器と、
前記第2の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第2の容器と、
前記第1の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第3の容器と、
密閉した前記第1の容器の室内の圧力を調整する第1の圧力調整手段と、
密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整する第2の圧力調整手段と、
密閉した前記第3の容器の室内の圧力を調整する第3の圧力調整手段と、
を備えることを特徴とするものである。
【0024】
さらに本発明の第8の様態による電線端末の止水処理装置は、前記第6および第7の様態において、
前記各圧力調整手段は、
前記各容器の室内に加圧用ガスを供給し、その室内を加圧する加圧手段であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
複数の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施すにあたって、各被覆電線の浸透性に応じて各被覆電線の両端間に異なる差圧が生じるように、各端末の周囲の圧力を調整し、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させたことにより、止水材の無駄な消費を避けてコスト低減を図ることができると同時に、各被覆電線について十分な止水効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の被覆電線の各端末を示す平面図である。
【図2】図1に示される被覆電線の集合端末の正面図である。
【図3】集合端末に止水材を供給した状態を示す平面図である。
【図4】図3の正面図である。
【図5】止水処理装置の第1の実施形態を示す概略図である。
【図6】第1の容器の一例を示す部分切欠平面図である。
【図7】図6のX−X線における縦断正面図である。
【図8】第2の容器の一例を示す部分切欠平面図である。
【図9】図8のY−Y線における縦断側面図である。
【図10】止水処理装置の第2の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0028】
<被覆電線>
図1および図2に、本発明の止水処理方法が適用される被覆電線の一例を示す。
本実施形態は、種類の異なる2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aを一つに束ね、この束ねた部分に一つの端子部材(例えば、圧着端子4)を取り付けた集合端末13に止水処理を施すものである。そして、種類の異なる2本の被覆電線11,12のうち、第1の被覆電線11は浸透性が小さい被覆電線とし、第2の被覆電線12は浸透性が大きい被覆電線とする。
【0029】
2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aは、所定の長さにわたって被覆材3が剥がされ、導体2(複数の素線)が露出している。そして、これら各一端11A,12Aは一つに束ねられ、一つの圧着端子4が取り付けられている。このように、複数の被覆電線の各一端11A,12Aを一つに束ね、一つの圧着端子4を取り付けた部分全体を、本明細書では集合端末13と称している。
2本の被覆電線11,12の他端11B,12Bの構成は特に限定されず、圧着端子などの端子部材が取り付けられていても、あるいは端子部材が取り付けられていなくても構わない。本実施形態では、第1の被覆電線の他端11Bおよび第2の被覆電線の他端12Bは、いずれも端子部材を取り付けていない状態(但し、所定の長さにわたって被覆材3が剥がされ導体2が露出した状態)としている。
【0030】
圧着端子4は、銅板などの導電性板材によって作られたものであって、その具体的構成は特に限定されない。
本実施形態では、圧着端子4の先端側には、固定用の螺子などが挿通される取り付け用開口部4Aを有する平板状の着座面4Bが形成され、かつ基端側には、二対の舌片部(一対の被覆部かしめ用舌片部4Cと一対の導体かしめ用舌片部4D)が形成されている。
二対の舌片部のうち、一対の被覆部かしめ用舌片部4Cは、集合端末13において、各被覆電線の束を被覆材3の外側から“かしめ”により圧着固定する。また、一対の導体かしめ用舌片部4Dは、被覆部かしめ用舌片部4Cより若干先端側に近い位置に形成され、集合端末13において、各被覆電線の束を露出した導体2の外側から“かしめ”により圧着固定する。
【0031】
<止水処理装置>
本発明の止水処理装置は、上記の集合端末13に供給した流動性を有する状態の止水材6を被覆材内側に浸透させるための装置である。
集合端末13に止水材6を滴下、供給した状況を、図3および図4に示す。
本発明の止水処理装置は、流動性を有する状態の止水材6が供給されている集合端末13と各被覆電線の他端との間(各被覆電線の両端間)に差圧を生じさせ、その差圧によって、集合端末13から被覆材内側に止水材を強制的に浸透させるものであり、各被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせるものである。
【0032】
図5は、第1の実施形態の止水処理装置20を示す概略図である。
第1の実施形態の止水処理装置20は、流動性を有する状態の止水材6が供給されている集合端末13を収容する密閉可能な第1の容器21Aと、第2の被覆電線の他端12Bを収容する密閉可能な第2の容器21Bと、第1の容器の室内22Aを加圧する第1の圧力調整手段23Aと、第2の容器21Bの室内22Bの圧力を調整する第2の圧力調整手段23Bと、これら圧力調整手段23A,23Bの作動を制御する制御手段30とを備える。
圧力調整手段23A,23Bとしては、例えば、各容器の室内22A,22Bにそれぞれ加圧用ガス(例えば空気)を送り込むコンプレッサを使用することができる。
【0033】
第1の容器21Aの具体的構成の一例を、図6および図7に示す。
集合端末13を収容する密閉可能な第1の容器21Aは、上面を開放した箱型の容器本体24Aと、その容器本体24Aの上面開放部分を覆う蓋部25Aとにより構成されている。
第1の容器21Aは、容器本体24Aに対して蓋部25Aがヒンジ部26Aを中心として回動することによって開閉可能である。そして第1の容器21Aは、蓋部25Aを閉じたとき、容器本体24Aと蓋部25Aの間(境界)をシールする弾性シール部材27Aが設けられ、室内22Aが密閉可能な構成とされている。なお第1の容器21Aに、室内22Aを密閉状態に保つための任意のロック機構を設けておくことが望ましい(図示せず)。
また第1の容器21Aには、第1の圧力調整手段23A(図示せず)から室内22Aに加圧用ガスを導入するための圧力調整ガス導入口28Aと、集合端末13から延びる各被覆電線11,12が挿通する電線挿入口29Aが形成されている。
【0034】
さらに第1の容器21Aの室内22Aには、集合端末13を保持する第1の保持部31Aが設けられている。
この第1の保持部31Aは、集合端末13の圧着端子4の着座面4Bを受ける台座部32と、その台座部32から垂直に突出し、圧着端子4の開口部4A内に挿入される凸部33とにより構成されている。
第1の容器21Aの室内22Aに収容した集合端末13は、圧着端子4の開口部4A内に凸部33が挿入されるように台座部32に載置され、第1の保持部31Aに保持・固定される。
【0035】
第2の容器21Bの具体的構成の一例を、図8および図9に示す。
第2の被覆電線12の他端12Bを収容する密閉可能な第2の容器21Bは、図6および図7に示した第1の容器21Aと同様に、上面を開放した箱型の容器本体24Bと、その容器本体24Bの上面開放部分を覆う蓋部25Bとにより構成されている。
第2の容器21Bは、容器本体24Bに対して蓋部25Bがヒンジ部26Bを中心として回動することによって開閉可能である。そして第2の容器21Bは、蓋部25Bを閉じたとき、容器本体24Bと蓋部25Bの間(境界)をシールする弾性シール部材27Bが設けられ、室内22Bが密閉可能な構成とされている。なお第2の容器21Bに、室内22Bを密閉状態に保つための任意のロック機構を設けておくことが望ましい(図示せず)。
また第2の容器21Bには、第2の圧力調整手段23B(図示せず)から室内22Bに加圧用ガスを導入するための圧力調整ガス導入口28Bと、第2の被覆電線12が挿通する電線挿入口29Bが形成されている。
【0036】
さらに第2の容器21Bの室内22Bには、電線挿入口29Bの近傍に、第2の被覆電線12の他端12Bの電線部分を直接保持する第2の保持部31Bが設けられている。
第2の保持部31Bは、電線挿入口29Bを通って室内22Bに挿入された第2の被覆電線の他端12Bの電線部分を受けるための上面V字状の受台41と、他端12Bの電線部分を両側から挟んで保持するためのクランプ部材43A、43Bとからなる。これらのクランプ部材43A、43Bは、支軸45に回動可能に支持されている。そして支軸45を中心として回動させることにより、第2の被覆電線12を挟んでクランプする状態(図9の実線)と、第2の被覆電線12を解放する状態(図9の鎖線)とに切り替えられるように構成されている。なおクランプ部材43A,43Bには、被覆電線クランプ状態をロックするためのロック機構を付設しておくことが望ましい(図示せず)。
第2の容器21Bの室内22Bに収容した第2の被覆電線の他端12Bは、クランプ部材43A,43Bに電線部分が直接把持され、第2の保持部31Bに保持・固定される。
【0037】
なお、第2の保持部31Bを設置するスペースが室内22Bに無い場合、第2の容器21Bの室外の電線挿入口29Bの近傍に、電線部分を直接保持する第2の保持部31Bを設置してもよい。
また、第2の保持部31Bの構成は上記に限定されず、例えば、第2の被覆電線の他端12Bに開口部4Aを有する圧着端子4が取り付けられている場合には、第2の容器の室内22Bに、図6および図7に示す第1の保持部31Aと同一の構成の保持部を配置してもよい。
【0038】
そして止水処理装置20は、図5に示すように、密閉した第1の容器の室内22Aに加圧用ガス(空気)を送り込み、室内22Aを加圧する第1の圧力調整手段23Aと、密閉した第2の容器の室内22Bに加圧用ガス(空気)を送り込み、室内22Bを加圧する第2の圧力調整手段23Bと、これら各圧力調整手段23A,23Bの作動を制御する制御手段30とを備える。
【0039】
制御手段30によって制御された各圧力調整手段23A,23Bは、第1の容器の室内の圧力(集合端末13の周囲の圧力Pa)が、第2の容器の室内の圧力(他端12Bの周囲の圧力Pb)および大気圧(他端11Bの周囲の圧力Pc)よりも高くなり、かつ第2の容器の室内の圧力が大気圧よりも高くなるように、各容器の室内を加圧する。すなわち、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pc、となるように各容器の室内の圧力を調整する。
これによって、第1の被覆電線11の両端間(集合端末13と他端11Bとの間)に生じる第1の差圧DP1(DP1=Pa−Pc)が、第2の被覆電線12の両端間(集合端末13と他端12Bとの間)に生じる第2の差圧DP2(DP2=Pa−Pb)よりも大きくなる。
したがって、集合端末13に供給された止水材6は、浸透性が小さい第1の被覆電線11については、相対的に大きな第1の差圧DP1によって、集合端末13から被覆材内側に浸透し、浸透性が大きい第2の被覆電線12については、相対的に小さな第2の差圧DP2によって、集合端末13から被覆材内側に止水材が浸透する。
【0040】
なお本実施形態では、各圧力調整手段23A,23Bとして、各容器の室内に加圧用ガスを送り込むコンプレッサ(加圧手段)を用いたが、加圧用ガスとしては、空気のほかに、窒素ガスなどの不活性ガスなどが挙げられる。
また本実施形態では、各圧力調整手段23A,23Bとして、各容器の室内を加圧するコンプレッサ(加圧手段)を使用したが、第2の圧力調整手段23Bについて、コンプレッサ(加圧手段)の代わりに、第2の容器の室内22Bを減圧する減圧手段を用いてもよい。この場合、第1の被覆電線の他端11Bを第2の容器の室内22Bに収容するとともに、第2の被覆電線の他端12Bを大気圧下に配置することにより、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11B周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pc、となるように各容器の室内の圧力を調整する。
【0041】
次に、第2の実施形態の止水処理装置について説明する。
図10は、第2の実施形態の止水処理装置20´を示す概略図である。
第2の実施形態による止水処理装置20´は、図5に示す止水処理装置20と同様に、流動性を有する状態の止水材6が供給されている集合端末13を収容する密閉可能な第1の容器21Aと、第2の被覆電線の他端12Bを収容する密閉可能な第2の容器21Bと、これら容器の室内22A,22Bの圧力を調整する第1および第2の圧力調整手段(例えばコンプレッサ)23A,23Bと、これら各圧力調整手段23A,23Bの作動を制御する制御手段30とを備え、これらに加え、さらに第1の被覆電線の他端11Bを収容する密閉可能な第3の容器21Cと、第3の容器の室内22Cの圧力を調整する第3の圧力調整手段23Cを備えた構成とされている。
【0042】
本実施形態では、第3の容器22Cは第2の容器22Bと同一構成とし、容器本体24C、蓋部25C、ヒンジ部26Cおよび弾性シール部材27Cを備えるとともに、第3の圧力調整手段23Cから室内22Cに加圧用ガスを導入するための圧力調整ガス導入口28Cと、第1の被覆電線11が挿通する電線挿入口29Cと、第1の被覆電線11の電線部分を直接保持する第3の保持部31Cとを備える。
また第3の圧力調整手段23Cは、第2の圧力調整手段23Bと同様にコンプレッサを用い、第1および第2の圧力調整手段23A,23Bと同様に、制御手段30により制御される。
【0043】
制御手段30によって制御された各圧力調整手段23A,23B,23Cは、第1の容器の室内の圧力(集合端末13の周囲の圧力Pa)が、第2の容器の室内の圧力(他端12Bの周囲の圧力Pb)および第3の容器の室内の圧力(他端11Bの周囲の圧力Pc)よりも高くなり、かつ第2の容器の室内の圧力が第3の容器の室内の圧力よりも高くなるように、各容器の室内を加圧する。すなわち、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pc、となるように各容器の室内の圧力を調整する
これによって、第1の被覆電線11の両端間(集合端末13と他端11Bとの間)に生じる第1の差圧DP1(DP1=Pa−Pc)が、第2の被覆電線12の両端間(集合端末13と他端12Bとの間)に生じる第2の差圧DP2(DP2=Pa−Pb)よりも大きくなる。
したがって、集合端末13に供給された止水材6は、浸透性が小さい第1の被覆電線11については、相対的に大きな第1の差圧DP1によって、集合端末13から被覆材内側に浸透し、浸透性が大きい第2の被覆電線12については、相対的に小さな第2の差圧DP2によって、集合端末13から被覆材内側に止水材が浸透する。
【0044】
なお本実施形態では、各圧力調整手段23A,23B,23Cとして、各容器の室内に加圧用ガスを送り込むコンプレッサ(加圧手段)を用いたが、加圧用ガスとしては、空気のほかに、窒素ガスなどの不活性ガスなどが挙げられる。
また本実施形態では、各圧力調整手段23A,23B,23Cとして、各容器の室内を加圧するコンプレッサ(加圧手段)を使用したが、第2および第3の圧力調整手段23B,23Cの少なくとも一方、若しくは第1ないし第3の圧力調整手段23A,23B,23Cの全てについて、コンプレッサ(加圧手段)の代わりに、各容器の室内を減圧する減圧手段を用いてもよい。この場合、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11B周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pc、となるように各容器の室内の圧力を調整する。
【0045】
<電線端末の止水処理方法>
本実施形態では、種類の異なる2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aを一つに束ね、一つの圧着端子14を取り付けた集合端末13に、流動性を有する状態の止水材6を供給する止水材供給工程と、各被覆電線11,12の浸透性に応じて、各被覆電線の両端間にそれぞれ異なる差圧が生じるように各端末の周囲の圧力を調整し、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させる差圧浸透工程と、集合端末13から各被覆電線11,12の被覆材内側に浸透した止水材6を硬化させる止水材硬化工程とにより、集合端末13に止水処理を施す。
【0046】
止水材供給工程では、圧着端子4を取り付けた集合端末13に、流動性を有する状態の止水材6を供給する(図3、図4参照)。
この具体的手法は任意であり、例えば、スポイト状の滴下具を用いて集合端末13の所要の箇所に手作業で止水材を滴下させても、あるいは自動的に滴下させる滴下装置により集合端末13の所要の箇所に止水材を滴下させても良い。
止水材の供給位置は、被覆材3の端面(導体2の露出部分と被覆材3の被覆部分との境界)が止水材6で覆われるように、被覆部かしめ用舌片部4Cと導体かしめ用舌片部4Dとの間に供給すればよい。集合端末13に止水材6を滴下、供給した状況を、図3および図4に示す。
【0047】
止水材の種類は特に限定しないが、少なくとも、集合端末13への供給時および被覆材内側への浸透時には流動性を有し、その後の硬化処理(大気中放置による自然硬化処理を含む)により硬化し、かつ硬化状態で非透水性を示すタイプの材料、例えば、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、自然硬化型樹脂などの硬化性樹脂からなるものを用いればよい。
具体的には、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂が代表的であるが、これらに限定されないことはもちろんである。なお、圧着端子へ供給される際の止水材の粘度は、特に限定されるものではないが、400mPa・s〜60000mPa・sの範囲内が好ましく、より好ましくは600mPa・s〜1000mPa・sが適切である。
【0048】
差圧浸透工程では、集合端末13の周囲の圧力(Pa)を、第1および第2の被覆電線の各他端11B,12Bの周囲の圧力(Pb,Pc)より高くするとともに、第1の被覆線の他端11Bの周囲の圧力(Pc)を、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力(Pb)より小さくし、各被覆電線11,12の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、集合端末13から各被覆電線11,12の被覆材内側に止水材6を浸透させる。
すなわち、被覆電線の両端間に生じる差圧によって集合端末から被覆材内側に止水材を強制的に浸透させるにあたって、浸透性が小さい第1の被覆電線の両端間に生じる第1の差圧(DP1=Pa−Pc)が、浸透性が大きい第2の被覆電線12の両端間に生じる第2の差圧(DP2=Pa−Pb)よりも大きくなるように、各端末の周囲の圧力を調整する。
【0049】
具体的には、上記の第1の実施形態の止水処理装置20(図5参照)や、上記の第2の実施形態の止水処理装置20´(図10参照)を使用し、各被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、集合端末から各被覆電線の被覆材内側に止水材を浸透させる。
【0050】
第1の実施形態の止水処理装置20を使用した差圧浸透工程では、まず、第1の容器21Aの蓋部25Aを開放した状態で、集合端末13の圧着端子4を第1の保持部31Aに固定し、第1の容器の室内22Aに集合端末13を収容するとともに、第2の容器21Bの蓋部25Bを開放した状態で、第2の被覆電線12の他端12Bを第2の保持部31Bに固定し、第2の容器の室内22Bに他端12Bを収容し、さらに第1の被覆電線の他端11Bを大気圧下(各容器の室外)に配置する。
その後、各容器21A,21Bの蓋部25A,25Bをそれぞれ閉じ、各容器の室内22A,22Bを密閉する。
このとき、各容器の電線挿入口29A,29Bを介し、第1の容器の室内22Aに集合端末13を収容するとともに、第2の容器の室内22Bに第2の被覆電線の他端12Bを収容し、大気圧下に第1の被覆電線の他端11Bを配置する。
【0051】
各容器の室内22A,22Bを密閉した後、各圧力調整手段(例えば、コンプレッサ)23A,23Bにより各室内22A、22Bに加圧用ガス(空気)を送り込み、各室内の圧力を調整する。
このとき、制御手段29の制御によって第1の圧力調整手段23Aは、第1の容器の室内の圧力(集合端末13の周囲の圧力Pa)が、第2の容器の室内の圧力(他端12Bの周囲の圧力Pb)および大気圧(他端11Bの周囲の圧力Pc)よりも高くなるように、第1の容器の室内22Aを加圧する。
また、制御手段29の制御によって第2の圧力調整手段23Bは、第2の容器の室内の圧力(他端12Bの周囲の圧力Pb)が、大気圧(他端11Bの周囲の圧力Pc)よりも高くなるように、第2の容器の室内22Bを加圧する。
すなわち、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pcとなるように、各容器の室内の圧力を調整する。
【0052】
なお、第2の圧力調整手段23Bとして、第2の容器の室内22Bを減圧する減圧手段を使用してもよい。
その場合、第2の被覆電線の他端12Bの代わりに第1の被覆電線の他端11Bを第2の容器の室内22Bを収容するとともに、第2の被覆電線の他端12Bを大気圧下(各容器の室外)に配置する。
そして、制御手段29の制御によって第1の圧力調整手段23Aは、上記と同様に第1の容器の室内22Aを加圧すると同時に、制御手段29の制御によって第2の圧力調整手段23Bは、第2の容器の室内の圧力(他端11Bの周囲の圧力Pc)が、大気圧(他端12Bの周囲の圧力Pb)よりも低くなるように、第2の容器の室内22Bを減圧する。
すなわち、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pcとなるように、各容器の室内の圧力を調整する。
【0053】
次に、第2の実施形態による止水処理装置20´を使用した差圧浸透工程について説明する。
第2の実施形態による止水処理装置20´を使用した差圧浸透工程では、まず、第1の容器21Aの蓋部25Aを開放した状態で、集合端末13の圧着端子4を保持部31Aに固定し、第1の容器の室内22Aに集合端末13を収容するとともに、第2の容器21Bの蓋部25Bを開放した状態で、第2の被覆電線の他端12Bを第2の保持部31Bに固定し、第2の容器の室内22Bに他端12Bを収容し、さらに第3の容器21Cの蓋部25Cを開放した状態で、第1の被覆電線の他端11Bを第3の保持部31Cに固定し、第3の容器の室内22Cに他端11Bを収容する。
その後、各容器21A,21B,21Cの蓋部25A,25B,25Cをそれぞれ閉じて、各容器の室内22A,22B,22Cを密閉する。
このとき、各容器の電線挿入口29A,29B,29Cを介し、第1の容器の室内22Aに集合端末13を収容するとともに、第2の容器の室内22Bに第2の被覆電線の他端12Bを収容し、第3の容器の室内22Cに第1の被覆電線の他端11Bを収容する。
【0054】
各容器の室内22A,22B,22Cを密閉した後、各圧力調整手段(例えば、コンプレッサ)23A,23B,23Cにより各室内22A、22B,22Cに加圧用ガス(空気)を送り込み、各室内の圧力を調整する。
このとき、制御手段29の制御によって各圧力調整手段23A,23B,23Cは、第1の容器の室内の圧力(集合端末13の周囲の圧力Pa)が、第2の容器の室内の圧力(他端12Bの周囲の圧力Pb)および第3の容器の室内の圧力(他端11Bの周囲の圧力Pc)よりも高く、かつ第2の容器の室内の圧力が第3の室内の圧力よりも高くなるように、各容器の室内を加圧する。
すなわち、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pcとなるように、各容器の室内の圧力を調整する。
【0055】
なお、各圧力調整手段23A,23B,23Cとして、コンプレッサなどの加圧手段を用いて各容器の室内22A,22B,22Cをそれぞれ加圧したが、第2および第3の圧力調整手段23B,23Cの少なくとも一方、若しくは第1ないし第3の圧力調整手段23A,23B,23Cの全てについて、加圧手段の代わりに減圧手段を用いてもよい。
この場合も、上記と同様に、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pcとなるように、各容器の室内の圧力を調整する。
【0056】
上記のいずれの差圧浸透工程も、集合端末13の周囲の圧力Paと、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力Pbと、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力Pcとの関係が、Pa>Pc、およびPa>Pb、かつPb>Pcとなるように、各容器の室内の圧力を調整することができる。
これによって、集合端末13に供給された止水材6は、浸透性が小さい第1の被覆電線11については、両端間に生じた相対的に大きな第1の差圧DP1により、集合端末13から被覆材内側に浸透し、浸透性が大きい第2の被覆電線12については、両端間に生じた相対的に小さな第2の差圧DP2により、集合端末13から被覆材内側に止水材が浸透する。
このように、被覆電線の各端末(集合端末13、第2の被覆電線の他端12B、および第1の被覆電線の他端11B)の周囲の圧力を調整した状態で所定時間(例えば5秒〜1分程度)保持すれば、浸透性が大きい第2の被覆電線12への止水材の過剰な浸透を抑えつつ、浸透性が小さい第1の被覆電線11への止水材の浸透を促進し、各被覆電線の被覆材内側に十分に止水材を浸透させることができる。
【0057】
差圧浸透工程の後、加圧を停止させて各容器を開放し(各容器の蓋部を開け)、各容器の室内から各端末を取り出す。
【0058】
続いて、止水材硬化工程では、各被覆電線11,12の被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる。
止水材の硬化処理の具体的手法は、使用した止水材の硬化タイプに応じて適宜選択すればよい。自然硬化型シリコーン樹脂を使用した場合はそのまま放置し、また熱硬化型シリコーン樹脂や紫外線硬化型シリコーン樹脂を使用した場合には、加熱したり紫外線照射したりすればよい。なお硬化処理は、集合端末13および第2の被覆電線12の他端12Bを各圧力調整室22A、22Bから取り出した後に行なっても、第1の圧力調整室22A内に保持したまま、硬化処理を行うことも可能である。この場合、第1の圧力調整室22A内に硬化処理のための加熱源や紫外線照射源を設けておくことができる。
以上のようにして止水材を硬化させることにより、止水処理は終了する。
【0059】
なお、以上の説明では、2本の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施す場合について説明したが、3本以上の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施す場合にも適用できることはもちろんである。
すなわち、浸透性が異なる2種以上の被覆電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に圧着端子などの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施す場合には、すべて適用可能である。
【0060】
ここで、一般に毛管に、その一端側からある粘度の流体を圧力を加えて浸透させたときの浸透距離は、
L:浸透距離
r:毛管半径
P:圧力
t:時間
η:粘度
とすれば、毛管浸透理論(Lucas‐Washburn, Hagen‐Poiseulleの式)より、
L=√(r・P・t/4η)
と表すことができる。
【0061】
そして複数本の素線を撚り合わせてなる撚線導体を被覆した被覆電線について、その一端から被覆材内側の隙間(素線間の隙間)に止水材を浸透させる際には、その被覆材内側の各隙間が上記の毛管に相当するから、電線端末から止水材を浸透させる際の止水材の浸透距離についても、上記式を準用することができる。
本実施形態では、隙間(素線間の隙間)が小さくて浸透性が小さい第1の被覆電線11については、上記式のPを大きくし、隙間(素線間の隙間)が大きくて浸透性が大きい第2の被覆電線については、上記式のPを小さくする。つまり、各被覆電線の浸透性(上記式の毛細管半径rの値に相当)に応じて、各被覆電線の両端間に生じる差圧(上記式の圧力Pの値に相当)を相違させることにより、集合端末から各被覆電線に浸透する止水材の量(上記式の浸透距離Lに相当)を調整するため、異なる2種の被覆電線について、止水材の過剰な浸透を防止しつつ、止水材を十分に浸透させることができる。
【0062】
なお、浸透性が異なる複数の被覆電線を束ねた集合端末に止水処理を施すにあたって、上述の特許文献1に記載の止水処理方法を準用した場合(止水材を供給した集合端末の周囲の圧力のみを加圧し、各被覆電線の両端間に生じる差圧が同一の場合)、浸透性が小さい被覆電線にも止水材を十分に浸透させるためには、予め多量の止水材を集合端末13に供給しておかなければならない。しかしながら、図3および図4に示すように、止水材供給箇所は極めて狭く短い領域であり、止水材を過剰に供給すれば、止水材が垂れ落ちたり、圧着端子の先端まで止水材が流れ込んだりする虞がある。
しかるに本実施形態では、各被覆電線の浸透性に応じて各被覆電線の両端間に互いに異なる差圧が生じるようにしたので、浸透性が大きい被覆電線については止水材の浸透が抑制され、浸透性が小さい被覆電線については止水材の浸透が促進される。これによって、止水材の無駄な消費が抑えられ、集合端末に過剰な止水材を供給しなくても、各被覆電線に止水材を十分に浸透させることができ、十分な止水効果を確保できる。
【0063】
また、浸透性が異なる複数の被覆電線を束ねた集合端末に止水処理を施すにあたって、上述の特許文献1に記載の止水処理方法を準用した場合、浸透性が小さい被覆電線にも止水材を十分に浸透させるために、止水材の供給と加圧・浸透を、2回以上繰り返すことも考えられる。しかしながら、止水材の供給と加圧・浸透を繰り返す回数が増えれば、作業時間が増し、作業能率が著しく低下するとともに、作業管理も煩雑化する。
しかるに本実施形態では、各被覆電線の浸透性に応じて各被覆電線の両端間に互いに異なる差圧が生じるようにしたので、浸透性が大きい被覆電線については止水材の浸透が抑制され、浸透性が小さい被覆電線については止水材の浸透が促進される。これによって、止水材の供給と加圧・浸透を繰り返す回数を抑制しても、各被覆電線に止水材を十分に浸透させることができ、十分な止水効果を確保できる。
【0064】
以下に本発明の実施例を示す。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0065】
実施例1:
実施例1では、ポリ塩化ビニルによって軟銅撚り線を被覆してなるJASO D611準拠の自動車用薄肉低圧電線AVSS 0.5(仕上外径(標準):1.6mm、素線径:0.32mm、素線数:7本)と、ポリ塩化ビニルによって軟銅撚り線を被覆してなるJASO D611準拠の自動車用薄肉低圧電線AVSS 0.85(被覆電線外径:1.8mm、素線径:0.24mm、素線数:19本)とを用意した。これら2種の被覆電線のうち、前者の被覆電線(AVSS 0.5)よりも後者の被覆電線(AVSS 0.85)の方が浸透性が小さい。よって、前者の被覆電線(AVSS 0.5)を第2の被覆電線12とし、後者の被覆電線(AVSS0.85)を第1の被覆電線11と想定する。
そして、図1および図2に示すように、第1の被覆電線11の一端11Aと第2の被覆電線12の一端末12Aとを一つに束ね、一つの圧着端子4を取り付け集合端末13とした。
続いて、図3および図4に示すように、集合端末13の導体露出部分と被覆材被覆部分との境界部位を覆うように、粘度800mPa・sの自然硬化型シリコーン樹脂を、止水材6として15ml滴下した。
【0066】
そして実施例1では、第1の実施形態による止水処理装置20(図5参照)を用い、集合端末13に止水処理を施した。
まず、密閉可能な第1の容器21Aの室内22Aに集合端末13を収容するとともに、密閉可能な第2の容器21Bの室内22Bに第2の被覆電線の他端12Bを収容した後、各容器の室内を密閉した。なお第1の被覆電線の他端11Bは、大気圧下(各容器の室外)に配置した。
次に、制御手段30で制御しながら、各圧力調整手段(コンプレッサ)23A,23Bを作動させ、各容器の室内22A,22Bに加圧用ガス(空気)を送り込み、第1の容器の室内22Aを0.4MPaの圧力、第2の容器の室内22Bを0.2MPaの圧力にて、同時にそれぞれ15秒間加圧した。
その後、各容器21A,21Bを開放して各端末を取り出し、被覆電線を大気圧下に放置することにより、集合端末13から被覆材内側に浸透させた止水材6を硬化させた。
【0067】
実施例2:
実施例2では、実施例1と同一の被覆電線を用い、実施例1と同様に、集合端末13に粘度800mPa・sの自然硬化型シリコーン樹脂を、止水材6として15ml滴下した。
そして実施例2では、第2の実施形態による止水処理装置20´(図10参照)を用い、集合端末13に止水処理を施した。
まず、密閉可能な第1の容器21Aの室内22Aに集合端末13を収容するとともに、密閉可能な第2の容器21Bの室内22Bに第2の被覆電線の他端12Bを収容し、さらに密閉可能な第3の容器21Cの室内22Cに第1の被覆電線の他端11Bを収容した後、各容器の室内を密閉した。
次に、制御手段30で制御しながら、各圧力調整手段(コンプレッサ)23A,23B,23Cを作動させ、各容器の室内22A,22B,22Cに加圧用ガス(空気)を送り込み、第1の容器の室内22Aを0.5MPaの圧力、第2の容器の室内22Bを0.3MPaの圧力、第3の容器の室内22Cを0.1MPaの圧力にて、同時にそれぞれ15秒間加圧した。
その後、各容器21A,21B,21Cを開放して各端末を取り出し、被覆電線を大気圧下に放置することにより、集合端末13から被覆材内側に浸透した止水材6を硬化させた。
【0068】
止水材浸透距離測定:
上記の実施例1および実施例2について、集合端末13から各被覆電線11,12の被覆材内側に浸透した止水材の量(止水材が被覆材内側に浸透した距離)を調べた。
その結果、実施例1では、第1の被覆電線11に約30mm、第2の被覆電線12に約30mm、それぞれ集合端末から被覆材内側に止水材が浸透していた。また実施例2では、第1の被覆電線11に約30mm、第2の被覆電線に約30mm、それぞれ集合端末から被覆材内側に止水材が浸透していた。
このように、両実施例とも、止水材が各被覆電線にほぼ同じ距離だけ浸透していることが確認された。
【0069】
止水効果試験:
上記の実施例1および実施例2について、水中加圧試験により止水効果を調べた。
この水中加圧試験は、止水処理を施した集合端末を水中に入れ、各被覆電線の他端11B,12B(水中に浸漬してない端末)を加圧し、集合端末からの空気の漏れを調べる試験である。具体的には、集合端末13を水中に入れ、各被覆電線の他端11B,12Bを加圧容器の室内に収容し、この加圧容器の室内に10kPaの圧縮空気を送り込んで、水中に浸漬した集合端末13からの空気漏れの有無を確認した。さらに、10kPa毎に加圧容器の室内の圧力を上げ、最大200kPaまで上げた。
そして、水中の集合端末からの空気の漏れの有無を調べたところ、いずれの実施例でも、200kPaまで空気漏れが生じなかった。
このように、両実施例とも、各被覆電線11、12について十分に止水効果が得られたことが確認された。
【符号の説明】
【0070】
1・・・被覆電線、2・・・導体、3・・・被覆材、4・・・圧着端子、11・・・第1の被覆電線、11A・・・第1の被覆電線の一端、11B・・・第1の被覆電線の他端、12・・・第2の被覆電線、12A・・・第2の被覆電線の一端、12B・・・第2の被覆電線の他端、13・・・集合端末、20:20´・・・止水処理装置、21A・・・第1の容器、21B・・・第2の容器、21C・・・第3の容器、23A・・・第1の圧力調整手段、23B・・・第2の圧力調整手段、23C・・・第3の圧力調整手段、30・・・制御手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、
前記集合端末に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、
前記集合端末の周囲の圧力(Pa)を前記第1および第2の被覆電線の各他端の周囲の圧力(Pb,Pc)よりも高くし、かつ前記各他端の周囲の圧力(PcとPb)を互いに相違させることによって、前記第1および第2の被覆電線の両端間に互いに異なる差圧を生じさせ、前記集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる差圧浸透工程と、
前記被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる止水材硬化工程と、
を有することを特徴とする電線端末の止水処理方法。
【請求項2】
前記差圧浸透工程は、
密閉可能な第1の容器の室内に前記集合端末を収容する工程と、
密閉可能な第2の容器の室内に前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
大気圧下に前記第1の被覆電線の他端を配置する工程と、
密閉した前記第1の容器の室内を加圧するともに、密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整することにより、前記集合端末と前記第1の被覆電線の他端との間に第1の差圧(DP1=Pa−Pc)を生じさせると同時に、前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端との間に前記第1の差圧とは異なる第2の差圧(DP2=Pb−Pa)を生じさせる工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項3】
前記差圧浸透工程は、
密閉可能な第1の容器の室内に前記集合端末を収容する工程と、
密閉可能な第2の容器の室内に前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉可能な第3の容器の室内に前記第1の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉した前記第1の容器の室内の圧力(Pa)と、密閉した前記第2の容器の室内の圧力(Pb)と、密閉した前記第3の容器の室内の圧力(Pc)とをそれぞれ調整することにより、前記集合端末と前記第1の被覆電線の他端との間に第1の差圧(DP1=Pa−Pc)を生じさせると同時に、前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端との間に前記第1の差圧とは異なる第2の差圧(DP2=Pa−Pb)を生じさせる工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項4】
密閉した各容器の室内に加圧用ガスを供給して加圧することにより、前記各室内の圧力を調整することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項5】
前記第1および第2の被覆電線は、互いに素線の径が異なる被覆電線であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項6】
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末を収容する密閉可能な第1の容器と、
前記第2の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第2の容器と、
密閉した前記第1の容器の室内を加圧する第1の圧力調整手段と、
密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整する第2の圧力調整手段と、
を備えることを特徴とする止水処理装置。
【請求項7】
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末を収容する密閉可能な第1の容器と、
前記第2の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第2の容器と、
前記第1の被覆電線の他端を収容する密閉可能な第3の容器と、
密閉した前記第1の容器の室内の圧力を調整する第1の圧力調整手段と、
密閉した前記第2の容器の室内の圧力を調整する第2の圧力調整手段と、
密閉した前記第3の容器の室内の圧力を調整する第3の圧力調整手段と、
を備えることを特徴とする止水処理装置。
【請求項8】
前記各圧力調整手段は、
前記各容器の室内に加圧用ガスを供給し、その室内を加圧する加圧手段であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の止水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−59227(P2013−59227A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196853(P2011−196853)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】