説明

電線被覆剥離用工具

【課題】電線への取り付け時、あるいは電線からの取り外し時の落下を防止する。
【解決手段】電線被覆剥離用工具100は、支持体101と、押圧軸102と、刃体ホルダ103と、アーム104と、カバー105とを有する。カバー105は、コ字形状の支持体101の第3の支持領域101cに対向した開放領域側に、スライド方式により開閉自在に取り付けられている。カバー105は、コイルばね124により、常には、閉状態となるように付勢されている。電線被覆剥離用工具100を電線Wに取り付ける際、電線Wが傾斜部132に当接され、カバー105が下方向に押圧される。カバー105は下方向にスライド移動して開状態となり、電線Wは傾斜部132により導かれ、第1の支持領域101aの凹溝111に挿入される。電線Wが凹溝111に挿入された後、カバー105は、コイルばね124による付勢力により、自動的に閉状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電線の被覆を剥離する際に使用される電線被覆剥離用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送配電等のために架設されている電線の補修工事において、活線状態で、被覆(絶縁被覆)を剥離する作業がある。例えば、特許文献1等には、この被覆の剥離作業を、遠隔操作によって、安全かつ簡便に行い得る電線被覆剥離用工具が記載されている。
【0003】
図8、図9は、従来の電線被覆剥離用工具200の構成例を示している。この電線被覆剥離用工具200は、支持体201と、押圧軸202と、刃体ホルダ203と、アーム204とを有している。支持体201はコ字形状を有し、相対向する2辺に第1の支持領域201aおよび第2の支持領域201bが、残余の1辺に第3の支持領域201cが設定されている。
【0004】
第1の支持領域201aには、その第2の支持領域201b側の面に、電線支持用の凹溝211が設けられている。この凹溝211は、支持体201に直交する方向に延びており、その断面は半円形状とされている。第2の支持領域201bには、ほぼ中央に螺孔212が設けられている。
【0005】
押圧軸202は、ねじ部213およびこれに連なる係合用リング(係合部)214を外端に有している。この押圧軸202は、ねじ部213を、第2の支持領域201bの螺孔212に螺入させることによって、この第2の支持領域201bを進退自在に貫通している。この押圧軸202の内端は、刃体ホルダ203に、回転自在、軸方向移動可能に遊着されている。
【0006】
刃体ホルダ203は、第1の支持領域201aの凹溝211と押圧軸202との間に位置している。この刃体ホルダ203は、この刃体ホルダ203に連結されている押圧軸202の進退移動に伴って、第3の支持領域201cをガイドにして移動する。この刃体ホルダ203には、凹溝211に向けて突出した刃体215が搭載されている。この刃体215は、凹溝211の長さに対応した幅を持っている。
【0007】
この刃体ホルダ203には、上述の第1の支持領域201aの凹溝211に対向する凹溝216が設けられている。凹溝211および凹溝216により、電線を拘束して保持できるようにされている。また、この刃体ホルダ203には、刃体215の両端に対応した位置に、ガード217が設けられている。このガード217は、圧縮コイルバネ218により内側に付勢されている。このガード217は、電線から剥ぎ取られた被覆を、挟持するためのものである。
【0008】
アーム204は、支持体201の第3の支持領域201cから突出して形成された棒状部材である。このアーム204は、その突出端に、係合用リング(係合部)219を有している。この係合用リング219と上述の押圧軸202の外端の係合用リング214とは、ほぼ直角に開いた位置関係にある。
【0009】
上述した電線被覆剥離用工具200においては、係合用リング214を用いて押圧軸202を回転させることで、当該押圧軸202、従って刃体ホルダ203を、軸方向に移動させることができる。例えば、押圧軸202を右回り(時計回り)に回転させることで、刃体ホルダ203を第1の支持領域201aに近づけることができる。逆に、押圧軸202を左回り(反時計回り)に回転させることで、刃体ホルダ203を第1の支持領域201aから遠ざける方向に移動させることができる。
【0010】
図8、図9は、刃体ホルダ203を第1の支持領域201aから遠ざけた状態を示している。一方、図10は、刃体ホルダ203を第1の支持領域201aに近づけた状態を示している。
【0011】
第1の支持領域201aの凹溝211に電線Wを挿入した状態で、刃体ホルダ203を第1の支持領域201aに近づけていくことで、図11に示すように、電線Wは、第1の支持領域201aの凹溝211と刃体ホルダ203の凹溝216によって挟持された状態となる。このとき、刃体215(図11には図示せず)は電線Wの被覆sに食い込んだ状態となる。
【0012】
そのため、この状態で、押圧軸202の係合用リング214およびアーム204の係合用リング219を用いて、電線被覆剥離用工具200を電線Wの回りに回転させることで、図11に示すように、電線Wの被覆sを、刃体215の幅で剥ぎ取ることができる。この場合、剥ぎ取られた被覆sは、ガード217,217により挟持されて保持される。
【0013】
上述の電線被覆剥離用工具200を用いて、送配電等のために架設されている電線の補修工事において、活線状態で、被覆を剥離する作業を行う場合について説明する。この場合、作業者は、例えば、図12に示すように、間接活線工具である絶縁ヤットコ310と、バインド打ち器320を使用して、電線被覆剥離用工具200を、電線(図12には電線は図示せず)に取り付ける。
【0014】
すなわち、作業者は、例えば、左手の絶縁ヤットコ310でフレーム204の把持部を持ち、第1の支持領域201aの凹溝211に電線を挿入する。そして、その状態で、右手のバインド打ち器320の先端係合部を押圧軸202の係合用リング214に係合させ、電線が凹溝211から外れないように当該バインド打ち器320を下方に引きながら、押圧軸202を回転させて、刃体ホルダ203が凹溝211に近づくように締め付けていく。これにより、電線が第1の支持領域201aの凹溝211と刃体ホルダ203の凹溝216によって挟持された状態、つまり、電線被覆剥離用工具200が電線に取り付けられた状態となる。
【0015】
次に、作業者は、バインド打ち器320の先端係合部を、押圧軸202の係合用リング214およびフレーム204の係合用リング219に順次係合させて、電線被覆剥離用工具200を電線の回りに回転させる。これにより、電線被覆剥離用工具200によって、電線の被覆が剥ぎ取られる(図11参照)。
【0016】
次に、作業者は、取り付け時と同様に、左手の絶縁ヤットコ310でフレーム204の把持部を持ち、その状態で、右手のバインド打ち器320の先端係合部を押圧軸202の係合用リング214に係合させて押圧軸202を回転させ、刃体ホルダ203が凹溝211から遠ざかるように緩めていく。これにより、電線が第1の支持領域201aの凹溝211と刃体ホルダ203の凹溝216によって挟持された状態が解除され、電線被覆剥離用工具200が電線から取り外される。
【特許文献1】特開平6−261432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、送配電等のために架設されている電線の補修工事において、活線状態で、被覆を剥離する作業を行う場合、作業者は、絶縁ヤットコ310およびバインド打ち器320を用いて、電線に対して電線被覆剥離用工具200を取り付け、さらには、電線から電線被覆剥離用工具200を取り外す。
【0018】
この場合、上述した電線被覆剥離用工具200の構成では、取り付け時に締め付けを行う際、あるいは取り外し時に緩めを行う際に、作業者の手の疲れにより例えば絶縁ヤットコ310による把持状態が緩んだりすると、電線被覆剥離用工具200が電線から落下し、歩行者や車両に衝突するおそれがあった。
【0019】
図13は、電線被覆剥離用工具200を電線Wに取り付ける際の工程図を示している。なお、この図13には、絶縁ヤットコ310およびバインド打ち器320の図示を省略している。まず、図13(a)に示すように、作業者は、絶縁ヤットコ310でフレーム204の把持部を持ち、電線被覆剥離用工具200を電線Wに取り付けにいく。
【0020】
次に、図13(b)に示すように、作業者は、第1の支持領域201aの凹溝211に電線Wを挿入した状態で、右手のバインド打ち器320の先端係合部を押圧軸202の係合用リング214に係合させる。そして、作業者は、電線Wが凹溝211から外れないように当該バインド打ち器320を下方に引きながら、押圧軸202を回転させて、刃体ホルダ203が凹溝211に近づくように締め付けていく。
【0021】
この締め付けを行う前に、作業者の手の疲れにより絶縁ヤットコ310による把持状態が緩むと、図13(c)に示すように、電線被覆剥離用工具200が電線Wから落下する。
【0022】
また、上述した電線被覆剥離用工具200の構成では、刃体215は支持体201の開放領域側に存在することから、保管時、作業の合間等には、この刃体215による作業者等のけがを防止するため、刃体ホルダ203が凹溝211に近づけられた状態(締め付け状態)に置かれる。そのため、実際に電線被覆剥離用工具200を用いて電線の被覆を剥離する作業を行う場合、刃体ホルダ203を凹溝211から遠ざける緩め作業が必要となり、その分だけ作業時間が伸びるという問題があった。
【0023】
この発明の目的は、電線への取り付け時、あるいは電線からの取り外し時の落下防止、および電線から被覆を剥離する作業の時間短縮を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明の概念は、
コ字形状を有し、相対向する2辺に第1の支持領域および第2の支持領域が、残余の1辺に第3の支持領域が設定され、上記第1の支持領域の上記第2の支持領域側の面に電線支持用の凹溝が設けられている支持体と、
係合部を外端に有し、該係合部に連なるねじ部を上記第2の支持町域に設けた螺孔に螺入することによって上記第2の支持領域を進退自在に貫通している押圧軸と、
上記凹溝と上記押圧軸との間に位置して、上記押圧軸の移動に伴って移動し、上記凹溝に向けて突出した刃体が搭載されている刃体ホルダと、
上記支持体の上記第3の支持領域に対向した開放領域側に配置され、上記支持体に、開閉自在に取り付けられているカバーと
を備える電線被覆剥離用工具にある。
【0025】
この発明の電線被覆剥離用工具においては、支持体の開放領域側に、開閉自在に支持体に取り付けられているカバーが配置されている。この電線被覆剥離用工具を用いて電線の被覆を剥離する作業を行う場合、カバーが開かれて、第1の支持領域の凹溝に電線が挿入される。ここで、カバーの開閉方式としては、スライド方式、あるいはヒンジ機構を用いた回転方式等が考えられる。
【0026】
このように第1の支持領域の凹溝に電線が挿入された後に、カバーが手動で、あるいは自動的に閉じられることで、例えば、作業者の手の疲れにより絶縁ヤットコによる把持状態が緩んだとしても、カバーが電線にひっかかることから電線被覆剥離用工具の電線からの落下が防止される。
【0027】
また、この発明の電線被覆剥離用工具においては、支持体の開放領域側にカバーが配置されており、刃体ホルダに搭載されている刃体はカバーで覆われた状態に置かれ、この刃体による作業者等のけがが防止される。そのため、保管時、作業の合間等に刃体ホルダを凹溝に近づけた状態(締め付け状態)にしておかないで済む。したがって、この電線被覆剥離用工具を用いて電線の被覆を剥離する作業を行う場合、刃体ホルダを凹溝から遠ざける緩め作業が不要となり、その分だけ作業時間が短縮される。
【0028】
この発明において、例えば、カバーが閉じた状態となるように、このカバーを付勢する付勢部を備える、ようにされてもよい。例えば、カバーは押圧軸の軸方向にスライド可能に配置され、付勢部はコイルばねにより構成され、このコイルばねの一端は支持体に接続され、このコイルばねの他端はカバーに接続された構成とされる。
【0029】
このように、付勢部が備えられることで、カバーが開かれて第1の支持領域の凹溝に電線が挿入された後に、カバーは自動的に閉じられる。そのため、作業者は手動でカバーを閉じる必要がなく、作業者の手間が減り、作業性が向上する。
【0030】
また、この発明において、例えば、カバーは、支持体の第1の支持領域側の端部に、電線により押圧されると共に、この電線を第1の支持領域の凹溝に導くための傾斜部を有する、ようにされてもよい。この場合、電線被覆剥離用工具を電線に取り付ける際、電線を傾斜部に押しつけることで、カバーが開いて、電線は第1の支持領域の凹溝に導かれることから、作業性が向上する。
【0031】
また、この発明において、例えば、カバーは刃体ホルダとの間が所定の間隔となるように支持体に取り付けられ、カバーと刃体ホルダとの間に電線から剥ぎ取られた被覆を保持する被覆保持部が形成される、ようにされてもよい。この場合、カバーと刃体ホルダとの間に電線から剥ぎ取られた被覆が保持されることから、電線から剥ぎ取られた被覆の落下が確実に防止される。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、電線への取り付け時、あるいは電線からの取り外し時の落下を防止できる。また、この発明によれば、電線から被覆を剥離する作業の時間短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態について説明する。図1〜図3は、実施の形態としての電線被覆剥離用工具100の構成例を示している。この電線被覆剥離用工具100は、支持体101と、押圧軸102と、刃体ホルダ103と、アーム104と、カバー105とを有している。支持体101はコ字形状を有し、相対向する2辺に第1の支持領域101aおよび第2の支持領域101bが、残余の1辺に第3の支持領域101cが設定されている。この支持体101の材質は、例えば、アルミ合金とされている。
【0034】
第1の支持領域101aには、その第2の支持領域101b側の面に、電線支持用の凹溝111が設けられている。この凹溝111は、支持体101に直交する方向に延びており、その断面は半円形状とされている。第2の支持領域101bには、ほぼ中央に螺孔112が設けられている。
【0035】
押圧軸102は、ねじ部113およびこれに連なる係合用リング(係合部)114を外端に有している。この押圧軸102は、ねじ部113を、第2の支持領域101bの螺孔112に螺入させることによって、この第2の支持領域101bを進退自在に貫通している。この押圧軸102の内端は、刃体ホルダ103に、回転自在、軸方向移動可能に遊着されている。この押圧軸102のねじ部113の材質は、例えば、機械構造用鋼とされている。また、この押圧軸102の係合用リング114の材質は、例えば、アルミ合金とされている。
【0036】
刃体ホルダ103は、第1の支持領域101aの凹溝111と押圧軸102との間に位置している。この刃体ホルダ103は、この刃体ホルダ103に連結されている押圧軸102の進退移動に伴って、第3支持領域101cをガイドにして移動する。この刃体ホルダ103には、凹溝111に向けて突出した刃体115が搭載されている。この刃体115は、凹溝111の長さに対応した幅を持っている。この刃体115の材質は、例えば、ステンレス鋼とされている。
【0037】
この刃体ホルダ103には、上述の第1の支持領域101aの凹溝111に対向する凹溝116が設けられている。凹溝111および凹溝116により、電線を拘束して保持できるようにされている。また、この刃体ホルダ103には、刃体115の両端に対応した位置に、ガード117が設けられている。このガード117は、圧縮コイルバネ118により内側に付勢されている。このガード117は、電線から剥ぎ取られた被覆を、挟持するためのものである。
【0038】
アーム104は、支持体101の第3の支持領域101cから突出して形成された棒状部材である。このアーム104は、その突出端に、係合用リング(係合部)119を有している。この係合用リング119と上述の押圧軸102の外端の係合用リング114とは、ほぼ直角に開いた位置関係にある。
【0039】
また、カバー105は、支持体101の第3の支持領域101cに対向した開放領域側に配置されている。このカバー105は、支持体101に開閉自在に取り付けられている。すなわち、支持体101の第2の支持領域101bに、カバー取り付け部材121が、ビス122を用いて固定されている。
【0040】
このカバー取り付け部材121は、上述した刃体115の幅方向の両側にガイド溝123,123を備えている。カバー105は、その下端側、つまり第2の支持領域101b側の左右端がカバー取り付け部材121のガイド溝123,123に挿入されることで、スライド可能に配置されている。カバー105およびカバー取り付け部材121の材質は、例えば、アルミ合金とされている。
【0041】
カバー105は、閉じた状態となるように、付勢部により付勢されている。ここで、カバー105が閉じた状態とは、支持体101の第3の支持領域101cに対向した開放領域側が、カバー105により覆われた状態(図1〜図3参照)を意味する。この実施の形態において、付勢部は、コイルばね124により構成されている。このコイルばね124の一端は、カバー取り付け部材121に、接続部121aを利用して接続されている。また、このコイルばね124の他端は、カバー105に、接続部105aを利用して接続されている。
【0042】
ここで、カバー105を下方向に押圧することで、このカバー105は、図4に示すように、カバー取り付け部材121のガイド溝123,123に案内されて、下方向にスライド移動する。この場合、支持体101の第3の支持領域101cに対向した開放領域側が外部に露出した開状態となる。
【0043】
このようにカバー105が開状態となるとき、コイルばね124は伸びた状態となる。そのため、カバー105を下方向に押圧する力を解除した場合、コイルばね124のばね力により、カバー105は上方向にスライド移動していき、閉じた状態に自動的に戻る。
【0044】
また、カバー105の上端側、つまり支持体101の第1の支持領域101a側に、支持体101側に深く入り込んだくびれ部131が形成されている。この場合、くびれ部131の最深部は、カバー105が閉じた状態では、図1に示すように、支持体101の第1の支持領域101aに、ほぼ当接された状態となる。
【0045】
カバー105の上端側に上述したようにくびれ部131が形成されることで、カバー105はその上端部に傾斜部132を有するものとなる。この傾斜部132は、電線被覆剥離用工具100を電線に取り付ける際に、電線によりカバー105を下方向に押圧するために使用される。この押圧により、カバー105は下方向にスライド移動して開状態となる。そして、電線は、この傾斜部132により案内され、支持体101の第1の支持領域101aの凹溝111に導かれる。
【0046】
また、カバー105は、刃体ホルダ103との間が所定の間隔となるように、カバー取り付け部材121に、スライド可能に配置されている。ここで、所定の間隔とは、カバー105と刃体ホルダ103との間に、電線から剥ぎ取られた被覆を十分に保持し得るだけの間隔である。この場合、カバー105と刃体ホルダ103との間には、電線から剥ぎ取られた被覆を保持する被覆保持部133が形成される。
【0047】
上述した電線被覆剥離用工具100においては、係合用リング114を用いて押圧軸102を回転させることで、当該押圧軸102、従って刃体ホルダ103を、軸方向に移動させることができる。例えば、押圧軸102を右回り(時計回り)に回転させることで、図5に示すように、刃体ホルダ103を第1の支持領域101aに近づけることができる。逆に、押圧軸102を左回り(反時計回り)に回転させることで、刃体ホルダ103を第1の支持領域101aから遠ざける方向に移動させることができる。
【0048】
図1、図4は、刃体ホルダ103を第1の支持領域101aから遠ざけた状態を示している。一方、図2、図5は、刃体ホルダ103を第1の支持領域101aに近づけた状態を示している。
【0049】
第1の支持領域101aの凹溝111に電線Wを挿入した状態で、刃体ホルダ103を第1の支持領域101aに近づけていくことで、図6に示すように、電線Wは、第1の支持領域101aの凹溝111と刃体ホルダ103の凹溝116によって挟持された状態となる。このとき、刃体115(図6には図示せず)は電線Wの被覆sに食い込んだ状態となる。
【0050】
そのため、この状態で、押圧軸102の係合用リング114およびアーム104の係合用リング119を用いて、電線被覆剥離用工具100を電線Wの回りに回転させることで、図6に示すように、電線Wの被覆sを、刃体115の幅で剥ぎ取ることができる。この場合、剥ぎ取られた被覆sは、刃体ホルダ103とカバー105との間に形成された被覆保持部133に保持される。
【0051】
上述の電線被覆剥離用工具100を用いて、送配電等のために架設されている電線の補修工事において、活線状態で、被覆を剥離する作業を行う場合について説明する。この場合、作業者は、従来の電線被覆剥離用工具200を電線に取り付ける場合と同様に、間接活線工具である絶縁ヤットコ310と、バインド打ち器320を使用して、電線被覆剥離用工具100を電線に取り付ける(図12参照)。
【0052】
すなわち、作業者は、例えば、左手の絶縁ヤットコ310でフレーム104の把持部を持ち、第1の支持領域101aの凹溝111に電線を挿入する。図7は、この場合の工程を示している。なお、この図7には、絶縁ヤットコ310およびバインド打ち器320の図示は省略している。
【0053】
まず、図7(a)に示すように、作業者は、絶縁ヤットコ310でフレーム104の把持部を持ち、電線被覆剥離用工具100を電線Wに取り付けにいく。次に、図7(b)に示すように、作業者は、カバー105の上端部の傾斜部132に電線Wを当接させ、この電線Wによりカバー105が下方向に押圧される状態とする。この場合、カバー105は下方向にスライド移動して開状態となることから、電線Wは、傾斜部132により案内されて、支持体101の第1の支持領域101aの凹溝111に導かれる。
【0054】
このように電線Wが凹溝111に導かれた状態では、電線Wによるカバー105の下方向への押圧が解除されるので、図7(c)に示すように、コイルばね124のばね力により、カバー105は上方向にスライド移動していき、閉じた状態に自動的に戻る。
【0055】
作業者は、上述したように凹溝111に電線を挿入した状態で、右手のバインド打ち器320の先端係合部を押圧軸102の係合用リング114に係合させる。そして、作業者は、電線が凹溝111から外れないように当該バインド打ち器320を下方に引きながら、押圧軸102を回転させて、刃体ホルダ103が凹溝111に近づくように締め付けていく。これにより、電線が第1の支持領域101aの凹溝111と刃体ホルダ103の凹溝116によって挟持された状態、つまり、電線被覆剥離用工具100が電線に取り付けられた状態となる。
【0056】
次に、作業者は、バインド打ち器320の先端係合部を、押圧軸102の係合用リング114およびフレーム104の係合用リング119に順次係合させて、電線被覆剥離用工具100を電線の回りに回転させる。これにより、電線被覆剥離用工具100によって、電線の被覆が剥ぎ取られる(図6参照)。
【0057】
次に、作業者は、取り付け時と同様に、左手の絶縁ヤットコ310でフレーム104の把持部を持ち、その状態で、右手のバインド打ち器320の先端係合部を押圧軸102の係合用リング114に係合させて押圧軸102を回転させ、刃体ホルダ103が凹溝111から遠ざかるように緩めていく。これにより、電線が第1の支持領域101aの凹溝111と刃体ホルダ103の凹溝116によって挟持された状態が解除される。
【0058】
この状態で、作業者は、右手のバインド打ち器320の先端係合部をカバー105の傾斜部132に係合させて下方に引いてカバー105を開状態とし、電線被覆剥離用工具100を電線から取り外す。
【0059】
以上説明したように、図1〜図3に示す電線被覆剥離用工具100においては、支持体101の開放領域側にカバー105が開閉自在に取り付けられていると共に、このカバー105はコイルばね124により常には閉じた状態となるように付勢されている。そのため、この電線被覆剥離用工具100を電線に取り付けるために、支持体101の第1の支持領域101aの凹溝111に電線を挿入した状態では、カバー105により、支持体101の開放領域側は閉じられた状態となっている(図7(c)参照)。
【0060】
したがって、第1の支持領域101aの凹溝111に電線が挿入された後に、バインド打ち器を用いて締め付けを行う前に、例えば、作業者の手の疲れにより絶縁ヤットコによる把持状態が緩んだとしても、カバー105が電線にひっかかることから、電線被覆剥離用工具100が電線から落下することが防止される。このような電線被覆剥離用工具100の落下防止の機能は、電線被覆剥離用工具100を取り外すために締め付けを緩めた後においても、同様に発揮される。
【0061】
また、図1〜図3に示す電線被覆剥離用工具100においては、付勢部を構成するコイルばね124により、支持体101の第1の支持領域101aの凹溝111に電線が挿入された後には、カバー105は自動的に閉状態とされる。したがって、作業者は手動でカバー105を閉じる必要がなく、作業者の手間が減り、作業性が向上する。
【0062】
また、図1〜図3に示す電線被覆剥離用工具100においては、例えば、カバー105は、その上端部に傾斜部132を有するものとされている。したがって、電線被覆剥離用工具100を電線に取り付ける際、電線を傾斜部132に押しつけるだけで、カバー105を開状態として、当該電線を第1の支持領域101aの凹溝111に導くことができ、作業者性が向上する。
【0063】
また、図1〜図3に示す電線被覆剥離用工具100においては、カバー105と刃体ホルダ103との間に電線から剥ぎ取られた被覆を保持する被覆保持部133が形成されている。したがって、電線から剥ぎ取られた被覆は被覆保持部133に保持されるため、当該被覆の落下を確実に防止できる。
【0064】
また、図1〜図3に示す電線被覆剥離用工具100においては、支持体101の開放領域側にカバー105が配置されており、刃体ホルダ103に搭載されている刃体115はカバー105で覆われた状態に置かれ、この刃体115による作業者等のけがが防止される。そのため、保管時、作業の合間等に刃体ホルダ103を凹溝111に近づけた状態(締め付け状態)にしておかないで済む。したがって、この電線被覆剥離用工具100を用いて電線の被覆を剥離する作業を行う場合、刃体ホルダ103を凹溝111から遠ざける緩め作業が不要となり、その分だけ作業時間を短縮できる。
【0065】
なお、上述実施の形態において、カバー105はその開閉方式がスライド式のものを示したが、これに限定されるものではない。例えば、カバーの開閉方式は、ヒンジ機構を用いた回転方式等であってもよい。この場合、図示は省略するが、カバー105の下端側がヒンジ機構により支持体101に固定されると共に、このカバー105はコイルばね等で構成される付勢部により、常には、閉状態となるように付勢される。
【0066】
また、上述実施の形態においては、カバー105がコイルばね124で構成される付勢部により常には閉状態となるように付勢されており、下方向に押圧されて開状態となったカバー105は、その押圧が解除されるときには自動的に元の閉状態に戻るようにされている。しかし、このような付勢部を持たない構成とすることも考えられる。その場合には、開状態となったカバー105を閉状態とすることは、手動で行うことになる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明は、電線への取り付け時、あるいは電線からの取り外し時の落下防止、および電線から被覆を剥離する作業の時間短縮を図ることができるものであり、送配電等のために架設されている電線の補修工事において、活線状態で、被覆(絶縁被覆)を剥離する作業を行う電線被覆剥離用工具等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態としての電線被覆剥離用工具の構成例を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態としての電線被覆剥離用工具の構成例を示す正面図である。
【図3】この発明の実施の形態としての電線被覆剥離用工具の構成例を示す底面図である。
【図4】電線被覆剥離用工具においてカバーを開いた状態を示す斜視図である。
【図5】電線被覆剥離用工具において刃体ホルダを第1の支持領域に近づけた状態を示す斜視図である。
【図6】電線被覆剥離用工具において第1の支持領域の凹溝と刃体ホルダの凹溝によって電線を挟持して電線の被覆を剥ぎ取る動作を説明するための斜視図である。
【図7】電線被覆剥離用工具を電線に取り付ける場合の工程を説明するための図である。
【図8】従来の電線被覆剥離用工具の構成例を示す斜視図である。
【図9】従来の電線被覆剥離用工具の構成例を示す正面図である。
【図10】従来の電線被覆剥離用工具において刃体ホルダを第1の支持領域に近づけた状態を示す正面図である。
【図11】従来の電線被覆剥離用工具において第1の支持領域の凹溝と刃体ホルダの凹溝によって電線を挟持して電線の被覆を剥ぎ取る動作を説明するための斜視図である。
【図12】電線被覆剥離用工具を間接活線工具である絶縁ヤットコおよびバインド打ち器を用いて電線に取り付ける動作を説明するための図である。
【図13】従来の電線被覆剥離用工具を電線に取り付ける場合の工程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
100・・・電線被覆剥離用工具、101・・・支持体、101a・・・第1の支持領域、101b・・・第2の支持領域、101c・・・第3の支持領域、102・・・押圧軸、103・・・刃体ホルダ、104・・・アーム、105・・・カバー、105a・・・接続部、111・・・凹溝、112・・・螺孔、113・・・ねじ部、114・・・係合用リング、115・・・刃体、116・・・凹溝、117・・・ガード、118・・・圧縮コイルばね、119・・・係合用リング、121・・・カバー取り付け部材、121a・・・接続部、122・・・ビス、123・・・ガイド溝、124・・・コイルばね、131・・・くびれ部、132・・・傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コ字形状を有し、相対向する2辺に第1の支持領域および第2の支持領域が、残余の1辺に第3の支持領域が設定され、上記第1の支持領域の上記第2の支持領域側の面に電線支持用の凹溝が設けられている支持体と、
係合部を外端に有し、該係合部に連なるねじ部を上記第2の支持領域に設けた螺孔に螺入することによって上記第2の支持領域を進退自在に貫通している押圧軸と、
上記凹溝と上記押圧軸との間に位置して、上記押圧軸の移動に伴って移動し、上記凹溝に向けて突出した刃体が搭載されている刃体ホルダと、
上記支持体の上記第3の支持領域に対向した開放領域側に配置され、上記支持体に、開閉自在に取り付けられているカバーと
を備える電線被覆剥離用工具。
【請求項2】
上記カバーが閉じた状態となるように、該カバーを付勢する付勢部を備える
請求項1に記載の電線被覆剥離用工具。
【請求項3】
上記カバーは、上記押圧軸の軸方向にスライド可能に配置され、
上記付勢部はコイルばねにより構成され、該コイルばねの一端は上記支持体に接続され、該コイルばねの他端は上記カバーに接続されている
請求項2に記載の電線被覆剥離用工具。
【請求項4】
上記カバーは、上記支持体の上記第1の支持領域側の端部に、電線により押圧されると共に、該電線を上記第1の支持領域の凹溝に導くための傾斜部を有する
請求項2または請求項3に記載の電線被覆剥離用工具。
【請求項5】
上記カバーは上記刃体ホルダとの間が所定の間隔となるように上記支持体に取り付けられ、
上記カバーと上記刃体ホルダとの間に上記電線から剥ぎ取られた被覆を保持する被覆保持部が形成されている
請求項1に記載の電線被覆剥離用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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