説明

電線被覆剥離用工具

【課題】電線の被覆を剥離する際に、刃先から後退させたガードを、遠隔から操作して刃先をガードする位置に戻すとともに、剥離した被覆の落下を防止する。
【解決手段】電線Cの被覆C1に対して接離自在にかつ回動自在に構成される一対の当接体2,5の互いの対向面に、電線Cの被覆C1に当接する凹溝3,6を形成し、刃先10aが凹溝6の側壁6bから突出するように、一方の当接体5に切り込み刃10を固設し、凹溝6の側壁6bから突出する刃先10aから後退する後退位置R、及び刃先10aをガードする進出位置Fに移動するガード20を配置し、ガード20に、間接活線用把持具で把持できる大きさを有する把持部Aを形成し、剥離された被覆C1が挿通される隙間Hを切り込み刃10との間に形成するように、把持部Aに突出片22を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯線を被覆した電線の被覆を剥離するための切り込み刃と、該切り込み刃をガードするガードとを備えた電線被覆剥離用工具に関し、詳しくは、ガードを間接活線用工具で操作するとともに、剥離した被覆の落下を防止することのできる電線被覆剥離用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電柱間に架設される架設電線(以下、「電線」という。)において、分岐接続する場合は、電線の中途部において、電線の被覆を剥離することによって芯線を露出させ、この露出した芯線と他の電線の芯線とを接続している。前記被覆を剥離する際に、通電した状態、すなわち、活線の状態で作業するための電線被覆剥離用工具(以下、「剥離用工具」という。)が特許文献1に記載されている。
【0003】
この剥離用工具につき、図8(a),(b)を参照して、一部(後述するガードおよび該ガードの支持体)を除いて簡単に説明する。剥離用工具40は、電線の被覆に当接する第1凹溝42を有する固定側当接体41と、該第1凹溝42に対向する位置に第2凹溝44を有し、固定側当接体41に対して近接離間するように構成される移動側当接体43と、固定側当接体41に連設され、固定側当接体41に対する移動側当接体43の移動をガイドするガイド体45と、移動側当接体43の近接方向の移動に伴って、電線の芯線に対して接線方向および周方向に切り込めるように、刃先46aを第2凹溝44の側壁44aから突出させて、移動側当接体43に固設される切り込み刃46と、固定側当接体41および移動側当接体43にそれぞれ取り付けられ、電線の外周面に当接した固定側当接体41および移動側当接体43を周方向に回動させるための回動用部材46,47とを備えている。
【0004】
このような剥離用工具40を使用して、電線の被覆を剥離する場合、まず、固定側当接体41から移動側当接体43を離間させた状態にしておき、剥離しようとする箇所の電線Cの被覆C1に、固定側当接体41の第1凹溝42を当接させる。そして、移動側当接体43をガイド体44に沿って、固定側当接体41に近接する方向に移動させ、移動側当接体43の第2凹溝44を、第1凹溝42に対向する位置の電線の被覆に当接させる。
【0005】
この際、移動側当接体43の近接方向の移動に伴って、移動側当接体43に固設された切り込み刃46の刃先46aが、電線の芯線の外周面に対して接線方向および周方向に切り込まれる。この状態から、固定側当接体41に取り付けられた回動用部材47を、間接活線用把持具を用いて周方向に半回転させた後、移動側当接体43に取り付けられた回動用部材48を、間接活線用把持具を用いて残りの半周分回転させると、電線の被覆がきれいに剥離されるようになる。
【0006】
また、特許文献1に記載された剥離用工具40では、切り込み刃46の刃先46aが、移動側当接体43の第2凹溝44の側壁44aから突出していることから、刃先46aをガードするガード50と、該ガード50を移動自在に支持する支持体60とを備えた剥離用工具が提供されている。この剥離用工具について、ガード50および支持体60につき、図8〜図10を参照して詳細に説明する。
【0007】
ガード50は、図9に示すように、第2凹溝44の側壁の厚さ寸法よりも長い直方体状の本体51に、後述する支持体60の二股状部60bの一端部600bを嵌め込む凹部52を全幅に亘って形成し、この凹部52に長孔53を長さ方向に形成し、さらに凹部52の両側に隣接した奥側端部54と外側端部55とに奥側凸部54aと外側凸部55aを突設したものとされている。そして、支持体60は、移動側当接体43の両側面に配置されており、図8(a),(b)に示すように、移動側当接体(平板)43の両側端部の端面に固定される取付部60aと、該取付部60aから固定側当接体41に向かって延出されて、第2凹溝44の底壁および両側壁を形成する二股状部60bと、取付部60aからガイド体45を越えて延出されるとともに、ガイド体45の両側面に沿って移動する延出部60cとを備えている。そして、支持体60の二股状部60bの一端部600bに、圧縮バネ61が外挿されたボルト62が、ガード50の長孔53に挿通されて螺合している。すなわち、ガード50は、圧縮バネ61によって支持体60側に圧接されつつ、長孔53に沿って移動できるように構成されている。
【0008】
そして、剥離用工具40を使用しないときは、図10(a)に示すように、ガード50の奥側端部54が切り込み刃45の刃先45aをガードするように、二股状部60bの一端部600bの奥側端縁よりも突出している(以下、この位置を「進出位置」という。)。このとき、二股状部60bの一端部600bがガード50の凹部52に嵌め込まれ、奥側凸部54aと外側凸部55aが二股状部60bの一端部600bの各端縁に係止されることによって、ガード50が位置ずれしないようにされている。したがって、ガード50が進出位置にあるときは、作業者の指が切り込み刃45の刃先45aに触れることがなく、安全性が確保されている。
【0009】
また、剥離用工具40を使用するとき、すなわち電線の被覆を剥離するときは、図10(b)に示すように、作業者が、圧縮バネ61の付勢力に抗して、各ガード50を指で摘んで外向きに引っ張り出すと、ガード50の奥側凸部54aが二股状部60bの一端部600b上に乗り上げるようになり、ガード50の奥側凸部が切り込み刃45の刃先45aから後退するようになる。すなわち、移動側当接体43の第2凹溝44に電線が挿入されて、電線の被覆を剥離できる状態になる(以下、この位置を「後退位置」という。)。ところで、支持体60の二股状部60bの一端部600bに乗り上げたガード50の奥側凸部は、圧縮バネ61によって付勢されているため、後退位置で仮固定されることになる。また、ガード50は、奥側凸部54aが支持体60の二股状部60bの一端部600b上に乗り上げた状態となることにより、僅かに傾斜した姿勢となる。そして、前記と同様に、固定側当接体41および移動側当接体43を電線の被覆に当接するとともに回動すれば、電線の被覆を剥離することができる。
【0010】
また、作業後は、ガード50を、図10(a)に示す進出位置に戻すことにより、切り込み刃45がガード50の奥側端部54にガードされるようになる。この際も、ガード50は、圧縮バネ61のバネ力によって、支持体60側に付勢されて、進出位置で仮固定される。
【0011】
また、本願出願人は、剥離された電線の被覆を落下するのを防止できるように、剥離された電線の被覆の案内手段を移動側当接体に備えた剥離用工具を出願している(特許文献2参照)。この案内手段は、移動側当接体の両側端部に跨るように取り付けられた断面コ字形状の外枠体と、該外枠体の内面に平行するように装着されるとともに、該内面に対して離隔する方向に弾性付勢された押さえ板とから構成されている。
【0012】
そして、切り込み刃によって剥離された電線の被覆は、上述した案内手段の押さえ板と切り込み刃の表面との隙間に挿通される。この際、押さえ板が外枠体の内面から離隔する方向に弾性付勢されているので、剥離された電線の被覆は、押さえ板と切り込み刃の表面とで挟持され、落下するのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−261432号公報
【特許文献2】特開2010−22182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1の電線被覆剥離用工具の場合、後退位置に引き出されているガード50は、圧縮バネ61の押圧力によって、仮固定されているにすぎない。したがって、ガード50は、剥離用工具40が電線に衝突したり、間接活線用工具などが剥離用工具40に衝突したりするなど、少しの外力が加えられるだけで、進出位置に戻ってしまう。
【0015】
すると、切り込み刃45がガード50にガードされた状態となって、電線の被覆を剥離することができなくなるため、作業者は、ガード50を再度、後退位置に移動しなければならない。特に、固定側当接体41の第1凹溝42が電線の被覆に当接した状態で、移動側当接体43のガード50が何らかの要因で進出位置に戻ると、剥離用工具40を手元まで戻さなければ成らず、その操作が面倒で、作業効率が低下する。
【0016】
そこで、本発明は、前記問題を鑑み、電線の被覆を剥離する際に、切り込み刃の刃先から後退させたガードを、該刃先を遠隔から操作してガードする位置に戻すようにするとともに、剥離した被覆の落下を防止できる電線被覆剥離用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る電線被覆剥離用工具は、電線Cの被覆C1に対して接離自在にかつ回動自在に構成されるとともに、電線Cの被覆C1に当接する凹溝3,6が互いの対向面に形成される一対の当接体2,5と、刃先10aが凹溝6の側壁6bから突出するように、一方の当接体5に固設される切り込み刃10と、側壁6bから突出する刃先10aから後退する後退位置R、および側壁6bから突出する刃先10aをガードする進出位置Fに移動できるように、側壁6bに配置されるガード20とを備えた電線被覆剥離用工具において、前記ガード20に、間接活線用把持具で把持できる大きさを有する把持部Aが形成されるとともに、剥離された電線Cの被覆C1を挿通するための隙間Hを切り込み刃10との間に形成するように、該把持部Aに突出片22が配置されることを特徴とする。
【0018】
この場合、電線Cの被覆C1を剥離する際に、切り込み刃10の刃先10aから後退した後退位置Rにあるガード20に、何らかの要因で外力が加わって、刃先10aをカバーする進出位置Fに戻ったとしても、ガード20の把持部Aを間接活線用把持具によって把持できるので、該ガード20を遠隔から操作できるようになる。このため、作業が中断することなく、継続することができるので、作業効率が低下することがない。
【0019】
さらに、把持部Aには、剥離された電線Cの被覆C1を挿通するための隙間Hを形成するように、切り込み刃10との間に突出片22を配置しているので、剥離された電線Cの被覆C1が、切り込み刃10および突出片22によって挟持することができる。したがって、剥離された電線Cの被覆C1が作業者や下方に落下することがなく、作業性がよくなる。
【0020】
また、本発明によれば、前記突出片22は、切り込み刃10に対して直交するように配置される第1突出部22aと、切り込み刃22aに対して平行するように配置される第2突出部22bとを有するような構成を採用することもできる。
【0021】
この場合、把持部A、突出片22の第1および第2突出部22a,22bによって形成される空間に、剥離された電線Cの被覆C1を収容することができるので、剥離された電線Cの被覆C1の落下を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、電線の被覆に当接する一方の当接体の凹溝の側壁から突出する刃先をガードするガードに、間接活線用把持具で把持する把持部を形成するようにしたので、電線の被覆を剥離する際に、ガードが、何らかの要因で切り込み刃の刃先をガードする位置に戻ったとしても、ガードの把持部を間接活線用工具で把持して、切り込み刃から後退させることができる。すなわち、ガードの移動を遠隔から操作できるようになるので、剥離作業を効率よく行うことができる。
【0023】
また、剥離された電線の被覆が挿通される隙間を、切り込み刃との間に形成するように、突出片を配置するようにしたので、剥離された電線の被覆を、切り込み刃および突出片によって挟持することができるようになり、該被覆の落下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る電線被覆剥離用工具の平面図、(b)は、図1(a)の正面図。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る電線被覆剥離用工具のガードを示す斜視図、(b)は、ガードの突出片を折り曲げて突出させた状態を示す斜視図。
【図3】(a)は、作業準備状態を平面から見た断面図、(b)は、作業状態を平面から見た断面図。
【図4】電線の被覆を剥離作業する準備状態を示す斜視図。
【図5】電線の被覆を剥離作業する状態を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態に係る電線被覆剥離用工具を用いて電線の被覆を剥離する作業状態を示す図。
【図7】(a)は、ガードの変形例を示す斜視図、(b)は、ガードの突出片を折り曲げて突出させた状態を示す図。
【図8】(a)は、従来の電線被覆剥離用工具の平面図、(b)は、図2(a)の正面図。
【図9】従来の電線被覆剥離用工具のガードを示す斜視図。
【図10】(a)は、図8(a)の作業準備状態を平面から見た断面図、(b)は、図8(b)の作業状態を平面から見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る電線被覆剥離用工具(以下、「剥離用工具」という。)について図1〜図6を参照しながら説明する。
【0026】
本実施形態に係る剥離用工具1は、図1(a),(b)に示すように、電線Cの被覆C1に当接する第1凹溝3を有する固定側当接体2と、該第1凹溝3に対向する位置に第2凹溝6を有し、固定側当接体2に対して近接離間するように構成される移動側当接体5と、固定側当接体2に連設され、固定側当接体2に対する移動側当接体5の移動をガイドするガイド体15と、移動側当接体5の近接方向の移動に伴って、電線Cの芯線C2の外周面に対して接線方向および周方向に切り込めるように、刃先10a,11aを第2凹溝6の側壁6bから突出させて、移動側当接体5に固設される切り込み刃10,11と、固定側当接体2および移動側当接体5にそれぞれ取り付けられ、電線Cの外周面に当接した固定側当接体2および移動側当接体5を周方向に回動させるための回動用部材30,35とを備えている。
【0027】
固定側当接体2は、断面が略J字形状を呈しており、全長に亘って電線Cの被覆C1に当接される第1凹溝3が形成されている。そして、第1凹溝3の両側壁部3b、3bの幅寸法は、電線Cの外径よりもやや大きく、電線Cの外周面の一部(円弧面)が第1凹溝3の底壁3aから両側壁3b,3bにかけての円弧面に当接する。また、第1凹溝3の両側部に、後述する移動側当接体5の一対の位置決め凸部(支持体7の二股状部7bの他端部70b)が挿入される位置決め溝4,4が周方向にそれぞれ形成されている。
【0028】
移動側当接体5は、外形が矩形状の平板からなり、切り込み刃10の刃先10aが移動側当接体(平板)5の上端部から突出するように、移動側当接体(平板)5の前面に第1切り込み刃10が2本のボルトB1,B1によって固設されている。そして、移動側当接体(平板)5の両側端部の端面に、電線Cの被覆C1に当接する第2凹溝6が形成される一対の支持体7,7が取り付けられている。
【0029】
支持体7は、移動側当接体(平板)5の両側端部の端面に固定される取付部7aと、該取付部7aから固定側当接体2に向かって延出されて、第2凹溝6の底壁6aおよび両側壁6b,6bを形成する二股状部7bと、取付部7aからガイド体15を越えて延出されるとともに、ガイド体15の両側面に沿って移動する延出部7cとを備えている。
【0030】
二股状部7bの一端部に、圧縮バネ8が外挿されたボルトB2が、後述するガード20の長孔23に挿通されて、支持体7の二股状部7bの一端部70bに螺合している。ガード20は、ボルトB2に外挿された圧縮バネ8が圧接されることによって、支持体7側に付勢されて、略固定された状態になっている。また、二股状部7bによって形成される移動側当接体5の第2凹溝6は、固定側当接体2の第1凹溝3に対向する位置に形成され、第1凹溝3と同様に、電線Cの外径よりもやや大きく設定されている。すなわち、電線Cが第1凹溝3および第2凹溝6に挿入されるようになっている。また、第2凹溝6の底壁6aは、移動側当接体(平板)5の上端面と略面一で、かつ、該上端面と略同一の幅寸法に設定されている。そして、二股状部7bの一端部70bの高さは、第1切り込み刃10の刃先10aよりも高くなるように設定されている。また、二股状部7bの他端部70bは、上述した固定側当接体2の位置決め溝4に挿入される位置決め凸部となっている。そして、第1凹溝3および第2凹溝6に挿入された電線Cは、第1凹溝3および第2凹溝6の底壁3a,6aおよび両側壁3b,6bによって包持されるようになる。
【0031】
第1切り込み刃10は、その刃先10aが、電線Cの芯線C2の外周面に対して接線方向に切り込むように配置されている。また、第1切り込み刃10の両端部に、電線Cの被覆C1に対して周方向に切り込む第2切り込み刃11が配置されている。そして、第1切り込み刃10は、正面視矩形状の刃体10bを有しており、その先端部(刃先10a)が移動側当接体(平板)5の上端面よりも高くなる位置で移動側当接体(平板)5に固設されている。また、第1切り込み刃10は、先端部の長さ方向に沿って片刃が形成され、電線Cの被覆C1に対して長さ方向に沿って切り込む。また、第2切り込み刃11は、図2に示すように、円弧状の刃体11bの周縁部に沿うように片刃が形成されており、その刃先11aが、第1切り込み刃10に対して直角外向きとされている。このため、固定側当接体2および移動側当接体5を、電線Cに対して周方向に回動させると、刃先11aが、電線Cの被覆C1に対して周方向に切込む。したがって、電線Cの被覆C1は、第1および第2切り込み刃10,11によって所定幅に剥離されることになる。
【0032】
ガイド体15は、固定側当接体2の基端部から移動側当接体(平板)5の背面に沿うように延出されている。そして、延出された先端部に、後述する第2回動用部材35の雄ねじが螺合する雌ねじ16が配置されている。
【0033】
ガード20は、図2(a),(b)に示すように、外形が略四角形状を呈しており、全体の2/3程度の大きさを有するガード本体21と、全体の1/3程度の大きさを有する突出片22とを有している。そして、ガード本体21および突出片22が間接活線用把持具で把持される大きさを有する把持部Aとなっている。また、ガード20は、第1切り込み刃10に対して直交方向に移動できるように、移動側当接体(平板)5の両側端面に螺合したボルトB2が挿通される長孔23が形成されている。また、突出片22が、ガード本体21に並列する位置と、第1切り込み刃10に対して平行するように折り曲げられる折り曲げ位置とに回動するように、ガード本体21の一端部に支持されている。また、各ガード20,20の間隔は、剥離しようとする電線Cの被覆C1の長さと略同一であり、各ガード20,20によっても挟持できる構成になっている。
【0034】
そして、ガード20が切り込み刃10の取り付け位置Oを基準にして後退位置Rにある場合、すなわちガード20の端部が移動側当接体5の第2凹溝6の内側に位置する場合、第1および第2切り込み刃10,11は、ガード20の端部によってガードされており、電線Cの被覆C1を剥離することはできない状態になっている。そして、ガード20を、この後退位置Rから進出位置Fに移動させると、ガード20の端部が、移動側当接体5の第2凹溝6から外れた位置に移動することになり、第1および第2切り込み刃10,11のガードが解除されるようになって、電線Cの被覆C1を剥離する作業を行うことができるようになる。
【0035】
回動用部材30,35は、固定側当接体2の基端部に対して直交方向に取り付けられる第1回動用部材30と、移動側当接体5の基端部に連結される雄ねじからなる第2回動用部材35とを備えている。そして、第1及び第2回動用部材30,35の先端部に、間接活線用工具Tのフックfが係止される第1および第2係止リング31,36が配置されている。第2回動用部材35を時計方向に回転させると、第2回動用部材35がガイド体15の先端部側に移動するとともに、移動側当接体5が固定側当接体2に近接する方向に移動するようになり、第1および第2切り込み刃10,11の刃先10a,11aが電線Cの芯線C2の外周面に対して接線方向および周方向に切り込むようになる。
【0036】
つぎに本実施形態に係る剥離用工具の使用方法について図3〜図6を参照しながら説明する。まず、剥離用工具1を使用しないときは、図3(a)および図4に示すように、各ガード20の端部を後退位置R、すなわち移動側当接体5の第2凹溝6の内側に位置させる。この後退位置Rにあるガード20は、圧縮バネ8によって、支持体7の二股状部7bの一端部70b側に付勢されて、位置ずれしないようになっている。したがって、ガード20が後退位置Rにあるときは、作業者が無造作に剥離用工具1を保持しても、指が第1および第2切り込み刃10,11の刃先10a,11aに触れることがなく、安全性が確保されている。
【0037】
そして、電線Cの被覆C1を剥離する際は、図3(b)および図5に示すように、各ガード50を、間接活線用把持具を用いて把持して、外側に引き出す。すなわち、各ガード20を、第1および第2切り込み刃10,11の刃先10a,11aから離間する方向に移動させて、進出位置Fにさせる。つまり、予め支持体7の二股状部7(移動側当接体5の第2凹溝6)に電線Cを挿入することができる状態にしておく。
【0038】
この状態から、固定側当接体2から移動側当接体5を離間する方向に移動させて、固定側当接体2の第1凹溝3を電線Cの被覆C1に当接する。つぎに、移動側当接体5を固定側当接体2に近接する方向に移動させると、第2凹溝6の側壁6bから突出した第1切り込み刃10の刃先10a及び第2切込用刃11の刃先11aが電線Cの被覆C1に切り込むようになる。具体的には、電線Cの芯線C2の外周面に対して、第1切り込み刃10の刃先10a及び第2切込用刃11の刃先11aが接線方向および周方向に切り込むことになる。
【0039】
そして、図6に示すように、固定側当接体2の第1回動用部材30の第1係止リング31に、間接活線用工具Tのフックfを係止させて、固定側当接体2および移動側当接体5を略半周分だけ回動させる。この際、剥離された電線Cの被覆C1は、第1切り込み刃10とガード20の突出片22との隙間Hを通って、第1切り込み刃10の刃体10b側に導出されるようになる。
【0040】
その後、移動側当接体5の第2回動用部材35の第2係止リング36に、間接活線用工具Tのフックfを係止させて、固定側当接体2および移動側当接体5を残り半周分回動させると、所定幅の被覆C1が剥離されるようになる。
【0041】
そして、剥離された電線Cの被覆C1は、第1切り込み刃10とガード20の突出片22とによって挟持されるので、該被覆C1の落下を防止することができ、作業効率の低下を回避することができる。
【0042】
なお、剥離作業中、進出位置Fにあるガード20は、圧縮バネ8によって、支持体7側に付勢されているが、固定されるまで圧縮されていないので、何らかの外力が、各ガード20に加わった場合は、各ガード20は後退位置に移動してしまう。そうなった場合は、間接活線用把持具で各ガード20を把持して、後退位置Rから進出位置Fに移動させる。すなわち、各ガード20を遠隔から操作して、作業に支障がないようにする。
【0043】
また、電線Cの被覆C1をさらに長く剥離するときは、一方のガード20を進出位置Fのままとし、他方のガード20を後退位置Rとする。そして、進出位置Fの一方のガード20を電線Cの芯線C1に当接し、後退位置Rの他方のガード20を被覆C1に当接させることにより、切り込み刃10を被覆C1の外表面と平行になるようにする。そして、第1および第2切り込み刃10,11の刃先10a,11aを被覆C1に切り込ませて、剥離用工具を1周させることにより、被覆C1を剥離する。
【0044】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定することなく種々変更することができる。例えば、ガード20を支持体7側に付勢する部材として、圧縮バネ8を使用したが、これに替えて、皿バネその他のバネを使用することができる。さらに、ガード20を後退位置と進出位置とに移動させるために、各ガード20に長孔23を形成するようにしたが、支持体7の二股状部7bに角筒状部を設け、この角筒状部内でスライドするようにすることもできる。
【0045】
また、前記実施形態の場合、把持部Aに突出片22を折り曲げ自在に支持するようにしたが、図7(a),(b)に示すように、突出片22に、第1切り込み刃10に対して直交する第1突出部22aと、第1切り込み刃10に対して平行する第2突出部22bとを配置するようにしてもよい。この場合、剥離された電線Cの被覆C1が、ガード本体21、第1および第2突出部22a,22bによって形成された空間に収容されるようになり、剥離された電線Cの被覆C1がより一層落下しなくなる。
【0046】
また、前記実施形態の場合、一対の突出片22を切り込み刃10の両側に配置するようにしたが、切り込み刃10の刃先10aに沿うように配置してもよい。
【0047】
また、前記実施形態の場合、突出片22を、ガード本体21に折り曲げ自在に支持されるようにしたが、第1切り込み刃10との間に、剥離された電線Cの被覆C1が挿通される隙間Hを形成するように、突出片22を把持部Aに形成するようにしてもよい。
【0048】
また、前記実施形態の場合、移動側当接体5の両側部に配置された一対の支持体7にそれぞれガードを配置するようにしたが、第1切り込み刃10の刃先10aに沿うように配置されたガード20を、該刃先10aをガードする位置と、刃先10aから離間する位置に移動できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…電線被覆剥離用工具、2…固定側当接体、3,6…凹溝、3a,6a…底壁、3b…側壁、4…位置決め溝、5…移動側当接体、7…支持体、7a…取付部、7b…二股状部、7c…延出部、8…圧縮バネ、10,11…切り込み刃、10a,11a…刃先、10b,11b…刃体、15…ガイド体、16…雌ねじ、20…ガード、21…ガード本体、22…突出片、23…長孔、30,35…回動用部材、31,36…係止リング、A…把持部、B1,B2…ボルト、C…電線、C1…被覆、C2…芯線、f…フック、H…隙間、R…後退位置、F…進出位置、T…間接活線用工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線(C)の被覆(C1)に対して接離自在にかつ回動自在に構成されるとともに、電線(C)の被覆(C1)に当接する凹溝(3,6)が互いの対向面に形成される一対の当接体(2,5)と、刃先(10a)が凹溝(6)の側壁(6b)から突出するように、一方の当接体(5)に固設される切り込み刃(10)と、側壁(6b)から突出する刃先(10a)から後退する後退位置(R)、および側壁(6b)から突出する刃先(10a)をガードする進出位置(F)に移動できるように、側壁(6b)に配置されるガード(20)とを備えた電線被覆剥離用工具において、
前記ガード(20)に、間接活線用把持具で把持できる大きさを有する把持部(A)が形成されるとともに、剥離された被覆(C1)が挿通される隙間(H)を切り込み刃(10)との間に形成されるように、該把持部(A)に突出片(22)が配置されることを特徴とする電線被覆剥離用工具。
【請求項2】
前記突出片(22)は、切り込み刃(10)に対して直交するように配置される第1突出部(22a)と、切り込み刃(10)に対して平行するように配置される第2突出部(22b)とを有することを特徴とする請求項1に記載の電線被覆剥離用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−39750(P2012−39750A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177467(P2010−177467)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】