説明

電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いた電線

【解決手段】本発明は、電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物に関するものである。本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ベース樹脂としてポリエステル系樹脂を含む電線被覆材料用樹脂組成物であって、ベース樹脂であるポリエステル系樹脂100重量部に対して内部滑剤としてアミド系ワックス0.1ないし4重量部を含むことを特徴とする。
【効果】本発明によるポリエステル系樹脂組成物は、別途の設備投資なくL/D 30未
満の押出機と単一螺旋のスクリューなどの一般的な設備を使用しても均一で完全に溶融される特性を現わし、電線被覆層の形成のとき突起形成が最小化されるなど加工性が向上するのみならず、引張強度や伸び率のような機械的物性にも優れているという長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂をベース樹脂とする電線被覆材料組成物及びこれを用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、通常の電線の断面を示したものである。図1を参照すれば、一般的に電線10は、導体束1と導体束を囲んでいる一つ以上の被覆層3とからなっている。
最近、電線被覆材料のベース樹脂として強度と耐熱性など物性に優れているだけでなく、他のエンジニアリングプラスチックに比べて安価であるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのようなポリエステル系樹脂を用いようとする努力が続いている。
【0003】
しかし、一般的にポリエステル系樹脂は結晶化度が高いので溶融のとき多くの潜熱を要し、押出加工のとき均一で完全な溶融がなされないなど加工性が良くないという問題がある。また、フィルムや電線などを製作するとき樹脂の不均一な溶融のため製品の外観に不規則的に突起(gel,fish eye)が発生して製品の物性と品質が低下するとい
う問題がある。
【0004】
これを克服しようとポリエステル系樹脂を完全で均一に溶融させるために多くの試みがなされ、例えば、L/Dが30以上である長い押出機を用いるか、あるいは溶融特性を向上させたバリアスクリューを用いてきた。
【0005】
L/Dが30以上である長い押出機は、樹脂が熱を受ける時間を長くするだけでなく、樹脂とスクリューとの間に生ずる摩擦熱を極大化させ溶融を有効にしようとする設備である。また、バリアスクリューは、一般的なスクリューとは異なり二重螺旋構造を有するように設計されたものである。狭い一方の部分には溶融された樹脂のみ集まるようになり、反対側の広い部分には溶融されない樹脂のみ集まるようになり、溶融された部分と溶融されない部分とを分離することで溶融効率を極大化し均一な溶融ができるようにする。
【0006】
しかし、このような方法は既存の設備を用いずに新しい専用押出機やスクリューなど追加的な設備投資を要するので非経済的であるだけでなく、長い工程滞留時間のためポリエステル系樹脂が加水分解される恐れがあり、結局被覆材料の物性を低下させる原因として働くなど問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は上記のような問題点を解決しようと案出されたものであって、追加的な設備投資なく均一で完全に溶融されることができて電線被覆層の形成のとき突起形成が最小化されるなど加工性が向上するのみならず、引張強度や伸び率のような機械的物性が適宜に維持される電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物及びこれを用いた電線を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するために、本発明は、ベース樹脂としてポリエステル系樹脂を含む電線被覆材料用樹脂組成物であって、ベース樹脂であるポリエステル系樹脂100重量部に対して内部滑剤としてアミド系ワックス0.1ないし4重量部を含むことを特徴と
する電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【0009】
このとき、上記ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、これらの熱可塑性弾性共重合体(TPE‐E)などを用いることが望ましい。また、上記アミド系ワックスは、Strucktol社のTR‐016,TR‐065,Akzo社のArmoslip,Lion chemt
ec社のLC140などをそれぞれ単独で、またはこれらを混合して用いることができる。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物としては、フッ素系加工助剤0.1ないし4重量部をさらに
含むことが望ましく、ここでフッ素系加工助剤は、3M社のDynamar,Dupont‐Dow社のViton FreeFlowなどをそれぞれ単独で、またはこれらを混
合して用いることが望ましい。
【0011】
一方、本発明は、導体束;及び上記導体束を囲む被覆層を備える電線において、上記被覆層が前述したポリエステル系樹脂組成物から形成された電線を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明者らは電線の被覆材料のベース樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合に問題となってきた溶融特性などの物性を改善しようと鋭意研究を重ねた結果、内部滑剤としてアミド系ワックスの配合量を最適化すれば追加的な設備なく従来の設備を用いても均一で完全な溶融がなされ、これから形成された製品の外観に不規則的な突起の発生が最小化されるなど加工性が向上するのみならず、機械的な物性も適宜に維持されることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明による組成物のベース樹脂として、ポリエステル系樹脂が用いられる。このようなポリエステル系樹脂としては、電線の被覆材料として通常用いられるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、及びこれらからなる熱可塑性弾性共重合体(TPE‐E,Thermoplastic elastomer‐ester)などをそれぞれ単独で
、またはこれらを混合して用いることが望ましい。このようなポリエステル系樹脂は広い温度範囲で機械的強度に優れており、耐薬品性、耐候性、長期耐熱性などに優れており、絶縁性など電気的特性に優れている。
【0014】
本発明による絶縁性ポリエステル組成物には加工性を向上させるために内部滑剤としてアミド系ワックスがベース樹脂100重量部に対して0.1ないし4重量部含まれる。
通常、内部滑剤は樹脂に容易に溶解されて溶融物の粘度を減らす役割を果たし、ベース樹脂である高分子樹脂の内部に含浸されて作用する。このような滑剤は高分子樹脂との相溶性が重要であり、高分子樹脂の種類に応じてその使用量や最大効果を奏する濃度が異なる。例えば、ポリオレフィン樹脂の場合には内部滑剤としてポリエチレンワックスやステアリン酸亜鉛などが広く用いられているが、これらはポリエステル系樹脂との低い相溶性及び低い分解温度などの問題があって、ポリエステル系樹脂をベース樹脂とする場合においては内部滑剤として用いるのに限界がある。
【0015】
本発明において内部滑剤として用いられるアミド系ワックスは、ベース樹脂であるポリエステル系樹脂との相溶性に優れており、ポリエステル系樹脂内部の熱伝逹効率を極大化させてポリエステル系樹脂の高い溶融潜熱による不完全で不均一な溶融問題を克服させることで本発明の樹脂組成物の溶融特性を向上させる。
【0016】
本発明のポリエステル系樹脂組成物に含まれるアミド系ワックスの含量は、ベース樹脂
100重量部に対して0.1ないし4重量部であり、望ましくは、0.5ないし3重量部であり、より望ましくは、0.8ないし2.5重量部である。このような含量は0.1重量部
以下では突起減少の効果が現われなく、4重量部以上では常温引張強度が顕著に減少する点を考慮したものである。
【0017】
このようなアミド系ワックスとしては電線被覆材料に用いられているものであれば特に制限されるものではなく、例えば、Strucktol社のTR‐016,TR‐065,Akzo社のArmoslip,Lion chemtec社のLC140などをそれ
ぞれ単独で、またはこれらを混合して用いることができる。
【0018】
本発明によるポリエステル系樹脂組成物は、ベース樹脂100重量部に対してフッ素系加工助剤0.1ないし4重量部をさらに含むことが望ましい。押出機の供給部(feed
ing zone)に生ずる部分的な溶融は樹脂とスクリュー及びバレルとの熱伝逹効率
を低下させて不完全溶融の主な原因になり得るが、フッ素系加工助剤はこのような部分的な溶融を最小化させることで加工性を向上させることができる。
【0019】
本発明においてフッ素系加工助剤の含量は、ベース樹脂100重量部に対して0.1な
いし4重量部であり、望ましくは、0.2ないし3重量部であり、より望ましくは、0.3ないし2重量部である。このような含量は0.1重量部以下では部分的な溶融現象の発生
のとき突起減少の効果が現われなく、4重量部以上では常温引張強度が顕著に減少する点を考慮したものである。
【0020】
このようなフッ素系加工助剤としては電線被覆材料に用いられているものであれば特に制限されるものではなく、例えば、3M社のDynamar,Dupont‐Dow社のViton FreeFlowなどをそれぞれ単独で、またはこれらを混合して用いるこ
とができる。
【0021】
この他にも、本発明によるポリエステル系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で電線被覆材料に通常用いられる添加剤などをさらに含むことができる。例えば、酸化防止剤、加水分解防止剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、難燃助剤、スリップ防止剤、帯電防止剤などがあり、これに限定されるものではない。
【0022】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、ホスファイト系酸化防止剤だけでなく、熱安定剤、金属非活性化剤(metal deactivator)、UV安定剤などが
ある。このような酸化防止剤はベース樹脂100重量部に対して0.2ないし5重量部含
まれることが望ましい。
【0023】
加水分解防止剤としては、例えば、ジイミド系加水分解防止剤などがあり、その含量はベース樹脂100重量部に対して0.2ないし5重量部であることが望ましい。
本発明によるポリエステル系樹脂組成物は難燃性または非難燃性組成物として適用され得、難燃性を付与するための難燃剤としては、例えば、ブロム系難燃剤、三酸化アンチモン、燐、メラミンシアヌル酸、メラミンフォスフェイト、金属水酸化物などがあり、これに限定されるものではない。このような難燃剤の含量はベース樹脂100重量部に対して70重量部以下であることが望ましい。
【0024】
このような本発明のポリエステル系樹脂組成物は通常の電線の被覆層を形成するのに用いることができる。一般的に電線の被覆層は用途に応じて単一層または多数層に構成され得、本発明の樹脂組成物はこのような被覆層の一部または全層に対して適用することができる。また、本発明のポリエステル系樹脂組成物は必要に応じて架橋された形態で用いることもできる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は多様な形態に変更されることができるものである。本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は当業界において平均的な知識を持った者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0026】
実施例1ないし実施例4
下記表1に表された成分と含量とに従ってポリエステル系樹脂組成物を製造した。ベース樹脂としては、ポリブチレンテレフタレートまたは熱可塑性弾性共重合体を用いた。単位は、重量部である。
【0027】
【表1】

【0028】
上記表1において、アミド系ワックスとしては、Strucktol社のTR‐065を、フッ素系加工助剤としては、3M社のDynamar FX5920Aを、金属水
酸化物としては、Albemarle社のMagnifin H5を、ブロム系難燃剤と
しては、Albemarle社のSaytex 102Eを、酸化防止剤としては、Ci
ba社のIrganox1010を、加水分解防止剤としては、Reine chemi
e社のStabaxol Pを用いた。
【0029】
比較例1ないし比較例4
下記表2に表された成分と含量とに従ってポリエステル組成物を製造した。ベース樹脂としては、ポリブチレンテレフタレートまたは熱可塑性弾性共重合体を用いた。単位は、重量部である。
【0030】
【表2】

【0031】
上記表2において、ポリエチレンワックスとしては、Lione chemtec社
のLC102Nを、アミド系ワックスとしては、Strucktol社のTR‐065を、フッ素系加工助剤としては、3M社のDynamar FX5920Aを、金属水酸化
物としては、Albemarle社のMagnifin H5を、ブロム系難燃剤として
は、Albemarle社のSaytex 102Eを、酸化防止剤としては、Ciba
社のIrganox1010を、加水分解防止剤としては、Reine chemie社
のStabaxol Pを用いた。

上記実施例及び比較例に従って製造されたポリエステル系樹脂組成物に対して、以下のように機械的物性及び製品の外観に対して評価した。評価するために、上記組成物を用いて口径25mm、長さ(L/D)24の押出機と、圧縮比2.5:1である普通のスクリューとを使用して、内径2mm、厚さ0.1mmのチューブを押出した。
<機械的物性の評価>
機械的物性は、IEC 60811‐1‐1の方法により測定し、分当たり50mmの
速度で実験した。
<製品の外観の評価>
1.0kmの電線において任意で100mずつ6本を選択した後、突起の個数を数え平
均を求めた。
このような機械的物性の評価及び製品の外観の評価に対する結果を下記表3に表した。
【0032】
【表3】

【0033】
上記表3の結果を参照すれば、実施例の場合十分な機械的物性を示しながらも突起個数が非常に少ないことが分かる。また、内部滑剤であるアミド系ワックスと加工助剤であるフッ素系加工助剤を共に含んでいる場合(実施例2、3)が、何れか一つのみを含んでいる実施例1に比べてより優れた物性を示すことが分かる。
【0034】
また、比較例1と比較例2のように、内部滑剤としてステアリン酸亜鉛やポリエチレン系ワックスを用いた場合には、実施例より過量使用しても突起個数が多く発生することが分かる。
【0035】
一方、比較例3と比較例4においては、それぞれアミド系ワックスとフッ素系加工助剤を過量使用したが、この場合突起個数は減るが、機械的物性である引張強度は顕著に低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によるポリエステル組成物は、内部滑剤としてアミド系ワックスを用いることで、別途の設備投資なくL/D 30未満の押出機と単一螺旋のスクリューなどの一般的な
設備を使用しても均一で完全に溶融される特性を現わし、電線被覆層の形成のとき突起形成が最小化されるなど加工性が向上するのみならず、引張強度や伸び率のような機械的物性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、一般的な電線の構造を示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂としてポリエステル系樹脂を含む電線被覆材料用樹脂組成物であって、
ベース樹脂であるポリエステル系樹脂100重量部に対して、
内部滑剤としてアミド系ワックス0.1ないし4重量部を含むことを特徴とする電線被
覆材料用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
上記ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びこれらの熱可塑性弾性共重合体(TPE‐E)からなる群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
上記アミド系ワックスは、TR‐016,TR‐065(Strucktol社),Armoslip(Akzo社)及びLC140(Lion chemtec社)からなる
群より選択された何れか一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
ベース樹脂100重量部に対してフッ素系加工助剤0.1ないし4重量部をさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
上記フッ素系加工助剤は、Dynamar(3M社),Viton FreeFlow
(Dupont‐Dow社)及びこれらの混合物からなる群より選択された何れか一つであることを特徴とする請求項4に記載の電線被覆材料用ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
導体束;及び上記導体束を囲む被覆層を備える電線において、
上記被覆層が請求項1ないし請求項5のうち何れか一項の組成物から形成されたことを特徴とする電線。

【図1】
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【公表番号】特表2008−540816(P2008−540816A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513345(P2008−513345)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002099
【国際公開番号】WO2006/126755
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(502297933)エルエス ケーブル リミテッド (13)
【Fターム(参考)】