説明

電線被覆材料

【課題】耐寒性、耐摩耗性、および、耐外傷性のいずれにも優れるポリ塩化ビニル系の電線被覆材料を提供すること。
【解決手段】ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材料において、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、(A)トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上を15質量部以上含む可塑剤15〜30質量部、(B)塩素化ポリオレフィン2〜6質量部、(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン2〜8質量部、を含有し、かつ、前記(B)成分および前記(C)成分の合計量が4〜12質量部である組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材料に関し、さらに詳しくは、自動車等の車両に配索される電線の被覆材料に好適なポリ塩化ビニル系の電線被覆材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電線被覆材料としては、ポリ塩化ビニルを含有するポリ塩化ビニル含有組成物が知られている。ポリ塩化ビニル含有組成物中には、通常、可塑剤が配合される。この際、ポリ塩化ビニル含有組成物中に配合する可塑剤の量を多くすれば、電線被覆材料の耐寒性を向上できるが、これに伴い、電線被覆材料の柔軟性が大きくなるため、電線被覆材料の耐摩耗性などの機械特性が低下する。特に、近年では、自動車等の車両には軽量化が求められる傾向にあり、自動車等の車両に配策される電線においても、軽量化の一環から電線被覆の薄肉化が望まれている。電線被覆が薄肉化されれば、さらに耐摩耗性が低下しやすくなる。一方で、配合する可塑剤の量を減らせば、電線被覆材料の耐寒性が低下する。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、耐寒性および耐摩耗性の双方に優れる電線被覆材料を提供すべく、ポリ塩化ビニルに可塑剤とポリエステルエラストマーまたはメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂とを添加してなる電線被覆材料が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、被覆材の肉厚が薄い場合であってもスクレープ摩耗値が大きい電線被覆材料を提供すべく、ポリ塩化ビニルに塩素化ポリエチレンを配合してなる電線被覆材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−223630号公報
【特許文献2】特開平04−206312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車等の車両に配策される電線は、走行中の振動などの影響で、電線同士あるいは他の部材との接触により、電線被覆の表面が摩耗しやすいだけでなく、電線被覆の表面に引っ掻き傷も生じやすい。そのため、このような電線においては、摩耗による劣化だけでなく、外傷による劣化も懸念される。
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の電線被覆材料では、機械特性のうちの耐外傷性が十分ではなかった。そのため、ポリ塩化ビニル系の材料において、耐寒性、耐摩耗性、および、耐外傷性のいずれにも優れる新たな材料が求められる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐寒性、耐摩耗性、および、耐外傷性のいずれにも優れるポリ塩化ビニル系の電線被覆材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリ塩化ビニルを含む材料を用いる場合において、可塑剤に加えてメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを配合する場合には、ポリ塩化ビニル100質量部に対して8質量部を超えるメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを添加することで、耐外傷性の低下を引き起こすことが判明した。また、可塑剤に加えてメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを配合するだけ、あるいは、可塑剤に加えて塩素化ポリエチレンを配合するだけでは、これらのすべての特性を満足させることができないことも判明した。そして、本発明者らは、さらに改良を加えて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る電線被覆材料は、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材料において、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、(A)トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上を15質量部以上含む可塑剤15〜30質量部、(B)塩素化ポリオレフィン2〜6質量部、(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン2〜8質量部、を含有し、かつ、前記(B)成分および前記(C)成分の合計量が4〜12質量部であることを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記(A)成分は、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下の脂肪族系可塑剤を含んでいても良い。
【0012】
また、前記(A)成分は、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下の、フタル酸系可塑剤および脂肪族系可塑剤から選択された1種または2種以上を含んでいても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電線被覆材料によれば、ポリ塩化ビニルを含有する組成物中に、特定量の(A)〜(C)成分を含有し、かつ、(B)成分と(C)成分の合計量が特定範囲内にあることから、耐寒性、耐摩耗性、および、耐外傷性のいずれにも優れる。
【0014】
この際、(A)成分として脂肪族系可塑剤が特定量含まれていると、さらに耐寒性に優れる。
【0015】
本発明に係る電線被覆材料においては、(A)成分として、フタル酸系可塑剤および脂肪族系可塑剤から選択された1種または2種以上が特定量含まれていても、耐寒性、耐摩耗性、および、耐外傷性のいずれにも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】耐外傷性の評価方法を説明する模式図である。
【図2】耐外傷性の評価方法を説明する模式図である。
【図3】低温屈曲性の評価方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る電線被覆材料は、ポリ塩化ビニルに加えて、(A)可塑剤、(B)塩素化ポリエチレン、(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを含有するものからなる。本発明に係る電線被覆材料は、ポリ塩化ビニルおよび(A)成分を含む系において、(B)成分および(C)成分の両方が配合されるとともに、(A)〜(C)成分の配合量がそれぞれ特定範囲内にあり、かつ、(B)成分および(C)成分の合計量が特定範囲内にあるものである。
【0018】
ベース樹脂となるポリ塩化ビニルとしては、特に限定されるものではないが、(B)成分および(C)成分を特定量配合することによって耐外傷性を向上させる効果が低下するのを抑えるなどの観点から、重合度が800以上であることが好ましい。また、他の成分との混合性が低下するのを抑えるなどの観点から、重合度が2800以下であることが好ましい。より好ましくは、重合度が1300〜2500の範囲内である。
【0019】
(A)可塑剤は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して15〜30質量部の範囲内で配合する。可塑剤の配合量が15質量部未満では、耐寒性が満足されない。また、電線端末を加工する際に電線被覆を皮剥したときにヒゲが形成されるなど、電線加工性に劣る。一方、可塑剤の配合量が30質量部を超えると、耐外傷性および耐摩耗性が満足されない。なお、本発明においては、耐寒性とは、低温脆化性および低温屈曲性の双方をいう。
【0020】
(A)可塑剤は、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上を15質量部以上含むものである。これら特定の可塑剤の配合量が15質量部未満では、導体の通電などの加熱による電線被覆材料の発煙を抑制する発煙特性が低下する。また、長期にわたって優れた耐熱効果を発揮する長期耐熱性が低下する。
【0021】
(A)可塑剤は、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤以外の可塑剤を含んでいても良い。他の可塑剤としては、フタル酸系可塑剤、脂肪族系可塑剤などを挙げることができる。可塑剤全体の配合量が上記特定範囲内にあるとともにトリメリット酸系可塑剤などの上記特定種類の可塑剤の配合量が特定範囲内にあるならば、(A)可塑剤が他の可塑剤を含んでいても、耐外傷性、耐摩耗性、耐寒性に優れるという本願発明特有の効果を奏する。また、(A)可塑剤がトリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上のみからなる場合に比べて、(A)可塑剤がこれらの特定種類の可塑剤および他の可塑剤からなる場合は、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤は一般的に高価であることから、コスト低減できる場合が多い。
【0022】
他の可塑剤の配合量としては、ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。これらの可塑剤の配合量が10質量部を超えると、電線被覆材料の発煙特性が低下しやすい。一方、他の可塑剤の配合量の下限は特に限定されるものではないが、可塑剤のコスト低減効果が十分に期待できるなどの観点からいえば、他の可塑剤の配合量としては、ポリ塩化ビニル100質量部に対して少なくとも1質量部以上が好ましい。より好ましくは3質量部以上である。
【0023】
また、(A)可塑剤が他の可塑剤として脂肪族系可塑剤を含む場合には、さらに耐寒性が向上する。この際、脂肪族系可塑剤の配合量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。配合量が10質量部を超えると、電線被覆材料の発煙特性が低下しやすい。一方、脂肪族系可塑剤の配合量が少なすぎると、耐寒性改善効果が小さい。この観点から、脂肪族系可塑剤の配合量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して少なくとも1質量部以上が好ましい。より好ましくは3質量部以上である。
【0024】
(A)可塑剤は、より好ましくは、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上で構成され、その配合量がポリ塩化ビニル100質量部に対して20〜30質量部の範囲内にあると良い。または、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上と脂肪族系可塑剤とで構成され、その配合量がポリ塩化ビニル100質量部に対して20〜30質量部の範囲内にあると良い。これらの場合には、電線被覆材料の耐寒性がより一層向上する。
【0025】
(A)可塑剤は、さらに好ましくは、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上で構成され、その配合量がポリ塩化ビニル100質量部に対して20〜25質量部の範囲内にあると良い。この場合には、電線被覆材料の耐寒性および耐外傷性がより一層向上する。
【0026】
トリメリット酸系可塑剤としては、トリメリット酸エステルを挙げることができる。また、ピロメリット酸系可塑剤としては、ピロメリット酸エステルを挙げることができる。エステルを構成するアルコールとしては、炭素数8〜13の飽和脂肪族アルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは、1種または2種以上用いることができる。
【0027】
フタル酸系可塑剤としては、フタル酸エステルを挙げることができる。エステルを構成するアルコールとしては、炭素数8〜13の飽和脂肪族アルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは、1種または2種以上用いることができる。より具体的には、例えば、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシルなどを挙げることができる。
【0028】
脂肪族系可塑剤としては、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステルなどを挙げることができる。エステルを構成するアルコールとしては、炭素数3〜13の飽和脂肪族アルコールなどを挙げることができる。これらのアルコールは、1種または2種以上用いることができる。より具体的には、例えば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸イソノニル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジオクチルなどを挙げることができる。
【0029】
(B)塩素化ポリオレフィンとしては、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどを挙げることができる。塩素化ポリエチレンとしては、非結晶性塩素化ポリエチレン、半結晶性塩素化ポリエチレンなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0030】
(B)塩素化ポリオレフィンは、ポリ塩化ビニル100質量部に対して2〜6質量部の範囲内で配合する。(B)成分の配合量が2質量部未満では、耐寒性が満足されない。一方、(B)成分の配合量が6質量部超では、耐外傷性が満足されない。
【0031】
(B)成分の配合量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、より好ましくは2.5〜5質量部の範囲内、さらに好ましくは3〜4質量部の範囲内である。
【0032】
(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンは、ポリ塩化ビニル100質量部に対して2〜8質量部の範囲内で配合する。(C)成分の配合量が2質量部未満では、耐外傷性、耐摩耗性、耐寒性が満足されない。一方、(C)成分の配合量が8質量部超では、耐外傷性が満足されない。
【0033】
(C)成分の配合量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、より好ましくは3〜7質量部の範囲内、さらに好ましくは4〜6質量部の範囲内である。
【0034】
本発明に係る電線被覆材料は、ポリ塩化ビニルを含む系で、(B)成分および(C)成分の両方を配合している。この際、(B)成分および(C)成分の合計量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して4〜12質量部の範囲内である。合計量が4質量部未満では、耐摩耗性、耐寒性が満足されない。一方、合計量が12質量部超では、耐外傷性が満足されない。
【0035】
(B)成分および(C)成分の合計量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、より好ましくは6〜12質量部の範囲内、さらに好ましくは6〜8質量部の範囲内である。
【0036】
本発明に係る電線被覆材料においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、ポリ塩化ビニルおよび(A)〜(C)成分以外の他の成分を含有していても良い。他の成分としては、安定剤、顔料、酸化防止剤、増量剤などの通常、電線被覆材に用いられる添加剤を挙げることができる。
【0037】
本発明に係る電線被覆材料は、例えば、ベース樹脂となるポリ塩化ビニルに、(A)〜(C)成分、および、必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、加熱混練することにより調製できる。この際、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。加熱混練する前に、タンブラーなどで予めドライブレンドすることもできる。加熱混練後は、混練機から取り出して組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形しても良い。
【0038】
次いで、調製した電線被覆材料を導体の外周に押出被覆することにより、本発明に係る電線被覆材料を被覆材料として用いた絶縁電線が得られる。
【0039】
以上の構成の電線被覆材料によれば、(B)塩素化ポリオレフィンおよび(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを特定量配合することにより、(A)可塑剤を増量させることなく耐寒性を保持することができるため、耐外傷性、耐摩耗性が劣ることがない。したがって、上記電線被覆材料によれば、耐外傷性、耐摩耗性、耐寒性のいずれにも優れる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(電線被覆材料の調製)
表1に示すように、ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部、トリメリット酸エステル20質量部、塩素化ポリエチレン4質量部、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS樹脂)6質量部、非鉛系安定剤5質量部を、2軸押出機を用いて180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形して、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。
【0042】
(絶縁電線の作製)
調製したポリ塩化ビニル組成物を、断面積0.35mmの撚線導体の周囲に被覆厚0.2mmで押出成形することにより絶縁電線を作製した。
【0043】
(評価)
作製した絶縁電線について、下記評価方法に基づいて、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性を評価した。また、併せて、下記評価方法に基づいて、発煙特性、電線加工性を評価した。
【0044】
(実施例2〜23)
実施例1と同様、表1〜2に示す組成よりなる電線被覆材料を調製した後、調製したポリ塩化ビニル組成物を導体の周囲に押出成形することにより絶縁電線を作製した。作製した絶縁電線について、実施例1と同様、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性を評価した。また、併せて、発煙特性、電線加工性を評価した。
【0045】
(比較例1〜18)
実施例1と同様、表3〜4に示す組成よりなる電線被覆材料を調製した後、調製したポリ塩化ビニル組成物を導体の周囲に押出成形することにより絶縁電線を作製した。作製した絶縁電線について、実施例1と同様、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性を評価した。また、併せて、発煙特性、電線加工性を評価した。
【0046】
(参考例1〜2)
実施例1と同様、表2に示す組成よりなる電線被覆材料を調製した後、調製したポリ塩化ビニル組成物を導体の周囲に押出成形することにより絶縁電線を作製した。作製した絶縁電線について、実施例1と同様、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性を評価した。また、併せて、発煙特性、電線加工性を評価した。
【0047】
(使用材料)
・ポリ塩化ビニル(重合度1300):「新第一塩ビ(株)、ZEST1300Z」
・ポリ塩化ビニル(重合度800):「新第一塩ビ(株)、ZEST800Z」
・ポリ塩化ビニル(重合度2500):「新第一塩ビ(株)、ZEST2500Z」
・非結晶性塩素化ポリエチレン:「昭和電工(株)、エラスレン401A」
・半結晶性塩素化ポリエチレン:「昭和電工(株)、エラスレン404B」
・塩素化ポリプロピレン:「日本製紙ケミカル(株)、スーパークロンHP−215」
・メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS樹脂):「三菱レイヨン(株)、メタブレンC−223A」
・トリメリット酸エステル:「DIC(株)、W−750」
・ピロメリット酸エステル:「DIC(株)、W−7010」
・フタル酸エステル:「(株)ジェイ・プラス、DUP」
・アジピン酸エステル:「DIC(株)、W−242」
・セバシン酸エステル:「DIC(株)、W−280」
・非鉛系安定剤:「(株)ADEKA、RUP−100」
【0048】
(評価方法)
<耐外傷性評価>
作製した絶縁電線を300mmの長さに切り出して試験片とした。図1(a)(平面図)、図1(b)(側面図)に示すように、試験片1をプラスチック板2a,2b上に設置した。プラスチック板2aとプラスチック板2bの間隔は5mmとした。試験片1の左端をプラスチック板2bに固定し、電線1の右端に30Nの張力をかけて、試験片1をまっすぐにした。次いで、試験片1において、プラスチック板2aとプラスチック板2bの間に配置された部分の下部から1cm、電線1の径方向中央から外周側に0.8mm程度離した位置に、厚みが0.5mmの金属片3を配置した。
【0049】
次いで、図2(a)〜図2(c)に示すように、金属片3を50mm/minの速度で試験片1の被覆材4に接触させながら上方に移動させて、試験片1の金属片3にかかる荷重を測定する。このとき、試験片1の導体5が露出していない場合には、0.01mm単位で金属片3を試験片1の中央方向に近づけ、導体5が露出するまで測定を続ける。導体が露出しない上限荷重をその電線の耐外傷性能力とし、15N以上の荷重でも導体が露出しない場合に、耐外傷性を合格「○」とし、さらに、20N以上の荷重でも導体が露出しない場合に、耐外傷性により優れる「◎」とした。一方、15N以下の荷重で導体が露出した場合に、耐外傷性を不合格「×」とした。
【0050】
<耐摩耗性評価>
ISO6722に準拠して、ブレード往復法で行なった。ブレードにかかる荷重を7Nとし、試験回数4回の最小値が300回以上を合格「○」とした。一方、試験回数4回の最小値が300回未満を不合格「×」とした。
【0051】
<低温脆化性評価>
作製した絶縁電線を38mmの長さに切り出して試験片とした。低温脆化試験を行う試験機のつかみ具に取り付けた試験片を所定の試験温度に調整された液体媒体中に2.5±0.5分間浸漬した後、試験片の温度を記録し、打撃具によって試験片に打撃を加えた。この際、試験片が割れない最低温度を低温脆化温度とした。脆化温度が−10〜−20℃の場合を合格「○」とし、−20℃を下回る場合を特に優れる「◎」とした。
【0052】
<低温屈曲性評価>
作製した絶縁電線を350mmの長さに切り出して試験片とした。この試験片の両端20mmの被覆材を剥ぎ取った。次いで、図3に示すように、試験片11の一端を回動アームに固定し、その他端におもり12をつるし、試験片11の長手方向中間部を一対の円柱状部材13a、13b(半径r=12.5mm)で挟みこんだ状態で、試験片11が円柱状部材13a、13bの周面に沿うように、一方向に90度、他方向に90度、回動アームを回動させて、曲げ半径rで試験片11を繰返し屈曲させることにより行なった。試験片11にかかる荷重を400g、試験温度−30℃、屈曲動作の繰返し速度は1分間に30往復とした。屈曲試験によって試験片11が断線するまでの屈曲回数(往復回数)をもって屈曲性を評価した。屈曲回数1500回以上を合格「○」とし、2000回以上を特に優れる「◎」とした。
【0053】
<発煙特性評価>
電線導体に任意の電流を通じ、被覆材料より発煙が目視で確認できたときの導体温度を発煙温度とした。発煙温度が160℃以上を合格「○」とした。
【0054】
<電線加工性評価>
絶縁電線の端末部の被覆材料を皮剥した際に、ヒゲが形成されるか否かを確認し、ヒゲが形成されないものを合格「○」とし、ヒゲが形成されるものを不合格「×」とした。
【0055】
電線被覆材料の配合割合および評価結果を表1〜表4に示した。なお、表1〜表4に示す値は、質量部で表したものである。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
比較例1〜2、11は、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含む電線被覆材料において、塩素化ポリオレフィンおよびメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンのいずれも配合していないものである。比較例1では、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を30質量部配合しており、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてが満足できない。比較例11では、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を25質量部配合している。また、比較例2では、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15質量部配合している。比較例2、11では、耐外傷性、耐摩耗性は満足できるが、低温脆化性、低温屈曲性が満足できない。
【0061】
比較例3〜6に示すように、比較例2の配合において、さらに塩素化ポリオレフィンを配合した場合でも、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足させることはできない。また、比較例7に示すように、比較例1の配合において、さらに塩素化ポリオレフィンを配合した場合でも、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足させることはできない。
【0062】
また、比較例13〜16に示すように、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含む電線被覆材料において、さらにメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンを配合した場合でも、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足させることはできない。特に、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンの配合量が8質量部を超えると、耐外傷性の低下を引き起こすことが分かる。
【0063】
比較例8〜10、12、17〜18では、ポリ塩化ビニルおよび可塑剤を含む電線被覆材料において、塩素化ポリオレフィンおよびメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレンの双方を配合している。しかしながら、比較例8では、これらの合計量が12質量部を超えており、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足させることはできない。一方、比較例12では、これらの合計量が4質量部未満であり、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足させることはできない。比較例9では、可塑剤の配合量が15質量部未満であり、低温脆化性、低温屈曲性が満足できない。比較例10では、可塑剤の配合量が30質量部超であり、耐外傷性、耐摩耗性が満足できない。比較例17では、塩素化ポリエチレンの配合量が2質量部未満であり、低温脆化性、低温屈曲性が満足できない。一方、比較例18では、塩素化ポリエチレンの配合量が6質量部超であり、耐外傷性が満足できない。
【0064】
これらに対し、実施例では、耐外傷性、耐摩耗性、低温脆化性、低温屈曲性のすべてを満足できる。また、実施例同士を比較すると、可塑剤の配合量が20〜30質量部の範囲内にあれば、特に低温特性に優れる。さらに、可塑剤の配合量が20〜25質量部の範囲内にあれば、特に低温特性に加えて耐外傷性にも優れる。また、さらに、実施例23と実施例9、10とを比較すれば、トリメリット酸系可塑剤に加えて脂肪族系可塑剤を特定量配合することにより、耐寒性を向上できることが確認できた。
【0065】
なお、参考例1〜2に示すように、トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤のいずれでもない可塑剤である脂肪酸系可塑剤を10質量部超含む場合には、発煙特性に劣ることが分かった。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材料において、
前記ポリ塩化ビニル100質量部に対し、
(A)トリメリット酸系可塑剤およびピロメリット酸系可塑剤から選択された1種または2種以上を15質量部以上含む可塑剤15〜30質量部、
(B)塩素化ポリオレフィン2〜6質量部、
(C)メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン2〜8質量部、
を含有し、かつ、前記(B)成分および前記(C)成分の合計量が4〜12質量部であることを特徴とする電線被覆材料。
【請求項2】
前記(A)成分は、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下の脂肪族系可塑剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材料。
【請求項3】
前記(A)成分は、前記ポリ塩化ビニル100質量部に対して10質量部以下の、フタル酸系可塑剤および脂肪族系可塑剤から選択された1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−126980(P2011−126980A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285840(P2009−285840)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】