電荷結合素子検出器を有する発光分光計
【課題】超高純度用途で連続ガス分析を行うのに適した分析器。
【解決手段】この分析器は、低レベル発光源および検出器として電荷結合素子(CCD)ダイオードアレイを有するガス発光分光計(10)を含む。このCCD検出器は、一つ以上の光電子増倍管および分光計に典型的に使われる狭帯域通過フィルタに置き換わる。この分析器は、背景光レベルの影響、または暗スペクトルを評価し且つ除去するために種々の処理作業を行う。
【解決手段】この分析器は、低レベル発光源および検出器として電荷結合素子(CCD)ダイオードアレイを有するガス発光分光計(10)を含む。このCCD検出器は、一つ以上の光電子増倍管および分光計に典型的に使われる狭帯域通過フィルタに置き換わる。この分析器は、背景光レベルの影響、または暗スペクトルを評価し且つ除去するために種々の処理作業を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には超高純度ガス分析用の電荷結合素子を組込んだ発光分光計を有する分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
永年の間、ガス発光分光法がアルゴン中の窒素の分析に使われてきた(例えば、米国特許第3,032,654号参照)。この手法に一般的に用いられる発光源は、無声放電(SED)としても知られる、低エネルギー・アルゴンプラズマである。この技術は、長年に亘って進歩し、例えば、電気光学的変調を使うことによって(例えば、米国特許第5,412,467号参照)、検出限界(LOD)を一桁の千万分率(ppb)レベルにまで下げた。試料セル設計、電子装置、およびマイクロプロセッサ・プラットフォームの更なる改善が現代の分光分析器に導いた。複数の検出器および光学フィルタを使用するという現在の実務は、適当な発光波長を検出することができれば、複数の不純物の同時分析を可能にする。
【0003】
図1Aのブロック線図は、従来の発光分光法を実行する初期の分析器に接続して利用した発光および検出システムを示す。同様に、図1Bは、米国特許第5,412,467号に記載してあるような、電気光学的変調を使用する最新技術の分析器設計のブロック線図である。両タイプのシステムで、高圧変圧器1が分析すべきガス試料を入れる光源2に電力を供給する。これらのガスは、この試料の中に含まれるそれぞれのガス(不純物)の光学発光線(発光スペクトル特性を作るために電圧によって励起される。狭帯域通過光学フィルタ3が各不純物に対応する最強発光線を分離する。光電子増倍管(PMT)5が各不純物からの光出力を電流に変換し、それを周波数選択増幅器、図1Aに示される固定増幅器6aか図1Bに示される同調増幅器6b、及び読出し7によって増幅される。従来のシステムは、PMTへの光を遮断(または変調)するためにチョッパ輪4を使用する。ところが、電気光学的変調システムは、周波数二倍器8および可変周波数発振器9を使ってPMTへの光を変調する。
【0004】
これまでは、各世代の発光分光計が共通の検出方式を共用していた。関心のある不純物の発光線を狭帯域通過光学フィルタによって分離し、光電子増倍管の使用により電気信号に変換した。このPMTは、このPMTの使用によって可能となる固有の高電子ゲインのために、低光レベル分光法での多数の用途のためのえり抜きの検出器であった。感度に加えて、PMTは、頑丈で、信頼性があり、低コストで、長期間に亘って安定でもある。これらは、発光分光法のような、連続使用の用途に使うとき重要な属性である。しかし、PMTは、発光分光法用の検出器として使用するとき、幾つかの問題を引き起す。PMTは、特に単一分析器に幾つかのPMTを使わねばならないとき、今日の標準によれば比較的大きな装置である。PMTは低コストではあるが、高品質狭帯域通過フィルタは、特に幾つかのフィルタが必要なとき、低コストでない。更に、与えられた不純物に対して関心のある発光線を分離する、狭帯域通過フィルタは、分析用に選択された波長における背景光レベルの評価も妨げる。
【0005】
関心のある不純物発光波長での背景光レベルは、温度、試料ガス圧、励起条件、または放電に入る他の不純物の変化のような、多種多様な理由により変化することがある。関心のある波長での発光強度しか分っていないときに、関心のある不純物の濃度の変化から背景光レベルのシフトを識別することは、非常に困難である。背景光レベルのシフトは、長期基線変動、非線形較正曲線、および他の不純物に対する横感度に関する問題になることがある。これらは、千万分率の測定で不純物についての不純物分析を行おうとするとき、全て重要な問題である。
【0006】
図2は、PMTおよび光学フィルタアプローチを使う際に固有の問題を図解する。図2は、A〜Fと表示する六つの発光スペクトルを示し;それらは、それぞれ、アルゴン試料ガス中の水分(水蒸気)濃度86、56、38、25、9および0ppbに対応する。各スペクトルは、水分と窒素の両方が特有の発光線を有する、紫外(UV)スペクトルの領域を示す。特に窒素が特質上放射するスペクトル(333〜360nm)の領域で、水分の添加が、基線光レベルの上昇を生じること注目すべきである。もし、PMTと光学フィルタが使用される場合、この光レベルの上昇は、窒素不純物から来るものと解釈でき、窒素の間違った高濃度を報告する結果となる。しかし、もし、基線光レベルのシフトが適正に評価されるならば、窒素発光ピークが存在しないという事実を正しく判定することができ、従って、窒素濃度が実際にゼロとなる。同じ議論は、もし考慮に入れなければ分析結果にノイズおよびドリフトとして現れる、上に述べた他の要因による基線シフトに当てはまる。この基線光レベルの変化の問題を解決するために二つの方法が提案されている。
【0007】
第1の方法としては、別のPMT検出器を不純物の分析ではなく基線発光光レベルを決めるため専用とさせることができる。これは、関心のある不純物発光線に近いがそれを含まない試料ガス発光スペクトルの波長領域を分離する狭帯域通過フィルタを選択することによって行う。次に、この分析器は不純物発光を測定するPMTからの信号と基線を観測するPMTからの信号の比を使用する。この方法は、基線発光光レベルの問題の多くを解決する。しかし、この手法は、より複雑であり、追加のPMTおよび光学フィルタか、検出できる不純物の数の減少を要する。
【0008】
第2のアプローチでは、基線変動と、幾つかの分析器の較正曲線の非直線性が数学的に補正される。各不純物分析へのそのような補正の適用は、分析器の運転プログラムの一部として実施される。しかし、このアプローチは、非直線性が先の実験作業から十分に特性決定されているときにだけ可能である。
【0009】
関心のあるスペクトルの全領域を容易に評価する電荷結合素子(CCD)アレイの能力は、それらを多数の分光学的方法のための1つの魅力的な検出器の選択にする。CCDアレイは、PMTと狭帯域通過フィルターとの代わりに分光学的用途のため長年使用されており、小型で低コストの、市販の装置が利用可能である。最も良く知られる装置は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法に使われている。これらの用途は、よく理解されているが、非常に強力な発光源、典型的にはICPまたは極超短波源の使用を伴う。これらの発光源は、ガス発光分析器の低レベル発光源より遥かに強力で高エネルギーである。
【0010】
CCDアレイは、検出素子(画素)のアレイからなり、その各々はフォトダイオードである。しかし、CCDは、PMTの固有の高ゲイン性能を欠く。これに関して、画素は、写真フィルムのように作用する。弱光像は、従来のカメラで長い露光時間が採用されるのと大体同様に、長い積分時間を採用して捕えることができる。しかし、長時間積分は、CCDアレイに固有の問題;所謂暗または熱ノイズ、を悪化させる。もし、アレイを完全な暗闇に放置しても、それは、主として積分時間および温度の関数である、独特のノイズ特性を発生するだろう。低強度源を検出すべきときにこのノイズ特性変化を管理することはこの技術を使うために重要である。
【0011】
この暗ノイズ問題のために、CCDアレイ検出器から有効な信号を発生させるためには、関心のある不純物からのより明るい発光が必要である。従来、仮にCCD検出器を使うべきならガス発光分光法のような、PMT検出器と共に低光レベル発光源を通常使う用途は、より明るい発光源を要した。一般的に、この明るい発光を達成するためには、遥かに複雑な電源が必要である。これは、分析器のコスト、サイズ、複雑さを著しく増加させる。
【0012】
従って、無声放電のような、簡単な低光レベル発光源を使用するCCD検出器アレイを有する、ガス発光分光計のような、分析器が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第3032654号明細書
【特許文献2】米国特許第5412467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、改良したガス発光分光計を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、低レベル発光源およびCCD検出器アレイを使用したガス発光分光法を実施することである。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、ガス発光分光法を実施するための小型、低コストで頑丈な分析器を作ることである。
【0017】
この発明のその他の目的および利点は、一部明白であり、一部この明細書および図面から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、この発明は、ガス発光分光法を実施するための分析器を提供する。この分析器は、スペクトル分析用ガス試料を入れる分析セルを有する。この分析セルは、マイクロセルであるのが好ましい。変圧器がこの分析セルの中のガス試料にこのガス試料から低レベル発光源を作るのに十分な電圧を供給する。この低レベル発光源は、無声放電でもよい。分光計が次にこの低レベル発光源からの発光スペクトルを検出する。この分光計は、検出器として電荷結合素子アレイを使用する。コンピュータが使用されて分析器を制御し、分光計により検出した発光スペクトルを処理する。コンピュータは電荷結合素子からの熱ノイズを表す暗スペクトルをこの発光スペクトルから引く。コンピュータは、ガス試料中の種々の不純物についての不純物濃度を計算するために較正曲線も使用する。低レベル発光源から出た光を分光計に結合するために光ファイバーケーブルを使用する。この分析器は、分析セルに連続流で供給した超高純度ガス試料を分析するために使用することができる。
【0019】
この発明のもう一つの実施例は、分光計が初期暗スペクトルを発生し、コンピュータがこの初期暗スペクトルを各発光スペクトルから引く分析器である。
【0020】
この発明の更なる実施例は、コンピュータが分光計の温度を監視し、所定の温度変化が起きたとき、更新した暗スペクトルを発生させるためにこの分光計を制御する分析器である。このコンピュータは、次にこの更新した暗スペクトルを発光スペクトルから引く。
【0021】
この発明の更なる実施例は、コンピュータが電荷結合素子検出器中のホット画素を動的に決定し、且つマスクして、マスクしたホット画素をスペクトル分析で使わないようにする分析器である。
【0022】
上記目的を更に達成するために、この発明は、電荷結合素子アレイを組込んだガス発光分光計および低レベル発光源を有する分析器から発光スペクトルを処理する方法も提供する。この方法は、電荷結合素子アレイから最初に暗スペクトルを採取する。この暗スペクトルは電荷結合素子アレイからの熱ノイズを表す。暗スペクトルは、入射光なしの電荷結合素子アレイの出力を測定することによって採取される。電荷結合素子アレイを使って低レベル発光源から試料スペクトルが採取される。低レベル発光源は、分析セルの中のガス試料から作られる。補正された試料スペクトルを得るため暗スペクトルを試料スペクトルから引く。そこで、補正された試料スペクトルのための基線が決定される。次に、補正された試料スペクトルの発光ピーク領域のための発光ピークおよび基線面積を積分する。発光ピーク面積から基線面積を引いてピーク面積を得る。次に、このピーク面積は不純物濃度に変換される。この変換は、ガス試料中の種々の不純物についての不純物濃度を計算するために較正曲線を使用する。この低レベル発光源は無声放電であるのが好ましい。この分析セルはマイクロセルであるのが好ましい。低レベル発光源から出た光を分光計に結合するために、光ファイバーケーブルを使用する。この方法は、分析セルに連続流で供給した超高純度ガス試料を分析するために使用され得る。
【0023】
この発明のもう一つの実施例は、暗スペクトル採取工程が、分光計が暗スペクトルを最後に採取したときの温度から所定の温度変化を超えるとき、この暗スペクトルを採取する方法である。
【0024】
この発明の更なる実施例は、暗スペクトル減算工程が電荷結合素子アレイにおけるホット画素を決定しかつ動的にマスクして、マスクされたホット画素をスペクトル分析で使わない方法である。
【0025】
この発明を更に完全に理解するために、以下の説明および添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】従来の発光分光システムのシステム・ブロック線図である。
【図1B】電気光学的変調発光分光システムのシステム・ブロック線図である。
【図2】水分だけの発光スペクトルのグラフであり、窒素発光領域での基線シフトを示す。
【図3】本発明の好適実施例によるCCDを組込んだ発光分光計を使用する分析器のブロック線図である。
【図4】単一不純物用試料スペクトル分析のプロセスを示すフローチャートである。
【図5A】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図5B】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図5C】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図6】図4に示すプロセスによる基線評価の例を示すグラフである。
【図7】図4のステップS70による、発光ピーク面積を不純物濃度に変換する際に使用するための較正曲線である。
【図8】ホット画素領域を例示する、温度の関数としての暗スペクトルのグラフである。
【図9】ホット画素の基線評価への影響を示すブラフである。
【実施例】
【0027】
本発明による装置および方法の好適実施例を、添付の図面を参照して説明する。
【0028】
図3を参照すると、本発明の好適実施例である、CCDアレイを組込んだ発光分光計を使う例示的分析器のブロック線図が示してある。勿論、CCDアレイを組込んだ発光分光計を使用する要素の他の構成を使ってもよい。図3に示す分析器は、分光計10、搭載コンピュータ20、アナルグ・ディジタル・インタフェース30、分析セル40、変圧器50、変圧器1次入出力モジュール60、電力入口モジュール70、および直流電源80を含む。
【0029】
作動中、分析されるべきガス試料を分析セル40の中に置く。好ましい試料システムは、米国特許第6,043,881号に記載してあるプラクセア・マイクロセルであり、参考までにここに援用する。この簡単なマイクロセル試料システムの利点は、以下に議論する。変圧器50は、このガス試料から低エネルギー、低強度プラズマ放電を作るのに十分な電圧を分析セル40に供給する。光ファイバーケーブル90がこの発光源(即ち、ガス試料)からの光を分析セル40から分光計10へ伝達する。このCCDアレイを組込んだ分光計10は、このシステムの中心で、以下に更に詳しく説明する。分光計10は、放出光のスペクトルを測定する。この分光計10は、シリアルリンク100を介して搭載コンピュータ20と交信する小型内部コンピュータ(図示せず)を有する。この搭載コンピュータ20は、この分析器を制御する運転プログラムを実行する。分光計10で得られたスペクトルはシリアルリンク100を介して搭載コンピュータ20へ送られる。搭載コンピュータ20は、入力スペクトルを分析し、発光線を試料ガス中の一又は二以上の不純物に対応する濃度情報に変換する。搭載コンピュータ20は、種々のアナログで離散的な入出力を受け、これらの出力を介するか、または好ましくは直接シリアル接続方式(例えば、RS−232Cポート)を介してユーザと交信することができる。実際、図3に示すモジュールの殆どはシリアルポート接続を有する。勿論、ユニバーサル・シリアル・バス(USB)接続、またはバス構成の使用を含む、機器を接続するためのその他の方法を使ってもよい。この分光計のコンピュータは、所定の限られたセットの命令を受け且つ実行することもできる。この様にして、搭載コンピュータ20は、分光計10の詳細動作および内部タイミングを制御することなく、分光計10を制御し且つそれからデータを受けることができる。変圧器1次入出力モジュール60は、搭載コンピュータ20に変圧器50を制御させ、必要に応じて放電をオン・オフさせる。これは、後に議論する、暗スペクトルの管理に重要である。
【0030】
分光計10は、小型の手持式オプチカルベンチおよびCCD検出器を含む。発光源からの光がこのオプチカルベンチの入口スリットに至らせられる。二つのミラーおよび反射型回析格子で反射した後、この光はCCDアレイ上に分散される。このCCDは、2,048個のフォトダイオード検出器素子の線形アレイであるのが好ましい。各検出器素子は狭波長範囲(2nmのオーダ)に対応する光を受ける。各フォトダイオードへの入射波長は回析格子の分解能、オプチカルベンチの形状およびアレイ内の特定のフォトダイオードの位置によって決定される。勿論、望むなら他のCCDアレイ技術を使ってもよい。
【0031】
CCDを組込んだ分光計10は、市販されていて、軽量、コンパクトで頑丈である。この小型のオプチカルベンチと接続して、これらのCCDアレイは、200nmないし800nmの全スペクトルを取扱うことができる。この領域は、遠および近紫外、全可視、および電磁スペクトルの近赤外領域の小部分を包含する。
【0032】
入射光を電気信号に変換するために、このアレイの各ダイオードは、代りに画素と呼ばれ、小さい荷電コンデンサに並列に接続された半導体材料の小さい領域である。光子がこの半導体材料に当ると、コンデンサの対向するプレートへ移動する電子正孔対ができ、それをゆっくりと放電させる。所定の時間(即ち、積分時間)後、このCCD電子装置は、2,048個のコンデンサの各々を急速に再充電する。この再充電は、次の積分期間のためにCCDアレイをリセットする。各コンデンサを完全に再充電するために必要な電荷は、この積分時間中にフォトダイオードに入射する光子の数の関数である。積分期間中に各フォトダイオードに入射する電荷の量対波長のグラフがこの発光源のスペクトルを明らかにする。
【0033】
重要な要因は、積分時間中に各フォトダイオードに入射する光の総量である。これらのダイオードが積分装置であるので、これらの光子の到来パターンは重要でない。入射光子の総数だけが重要である。この点でアレイは写真用フィルムのような作用をする。弱光状態でもシャッタをより長い時間開け放しにすることによって写真をとることができる。同様に、低強度発光源を使うとき、積分時間を増すことによって分光計の感度を向上することができる。しかし、二つの要因がこの積分時間を制限するように作用する。
【0034】
第1に、積分時間は、一又は二以上のダイオードのコンデンサがこの積分時間中に完全に放電するようになるまで永くはできない。コンデンサが完全に放電されると、飽和状態に到達し、残りの積分期間中、更なる入射光子にダイオードが反応することができない。従って、飽和に達した画素に対して信号レベルの差を決めることは可能でない。
【0035】
より重要なことは、CCDアレイが発生する熱ノイズである。もし、アレイを全くの暗闇に放置しても、それはまだ固有のノイズ特性を発生するだろう。この熱ノイズは、時に暗スペクトルと呼ばれ、高温および長時間積分で悪化する。この温度依存暗スペクトルを管理することは、長時間積分を要する、低強度発光源でCCDアレイを使用するために重要である。本発明は、CCDを低強度発光源で実質的に使えるようにするために、この暗スペクトルを管理する際に固有の問題に対応する。
【0036】
図4を参照すると、この好適実施例によって構成した分析器がガス試料中の不純物のスペクトルを分析するプロセスを表すフローチャートが示してある。このプロセスは、CCDアレイと低レベル発光源の分析器の使用を補償するためにスペクトルデータを補正する。図4は、単一試料スペクトルから単一不純物についての濃度情報を作るために必要なステップを示す。第1ステップS10は、プラズマ放電を確立する前にアレイから暗スペクトルを採取することである。この暗スペクトルを後の試料スペクトルと厳密に同じ積分時間を使って採取することが重要で、さもなければ補正手順が機能しないだろう。上記のように、これは、暗スペクトルの特性が一部積分時間の関数だからである。先に議論したように、暗スペクトルは、アレイに光が全く入射しないときにCCDの出力を測定することによって得られる。例示的暗スペクトルを図5Aに示す。一旦この暗スペクトルが採取され且つ記憶されると、好ましくは搭載コンピュータ20で、プラズマ放電が起動され、試料スペクトルが採取される(ステップS20)。図5Bは、図5Aに示す暗スペクトルと同じ積分時間で採取された例示的試料スペクトルを示す。図5Bは、30ppbの水分不純物を含むアルゴンガス流の試料スペクトルである。ステップS30で、この暗スペクトルの値が今度は画素毎に試料スペクトルから引かれる。図5Cに示すように、暗スペクトルを補正した結果の試料スペクトルは、ノイズ特性が非常に減少している。この分析の残りのステップは、この補正したスペクトル(即ち、図5C)を使う。この補正したスペクトルで、308nmに30ppb水分ピークが今度ははっきり見えることに注目すべきである。
【0037】
次のステップS40は、発光線またはピークの下の最良基線を決めることである。このステップは、搭載コンピュータ20に試料ガスの光強度を不純物のそれから区別させる。第1にプロセスは発光ピーク周りの試料スペクトルを三つの領域に分ける。これを、アルゴンガス試料中の30ppbの水分ピークについて図6にグラフで示す。
【0038】
発光ピーク領域のいずれかの側の二つの基線領域、基線領域1および2、を使ってこの基線を決める。これらの領域のデータ点に1次回帰を適合してこれら二組のデータを通る最良適合直線を決める。一旦この線の勾配および切片を決めると、この発光ピーク領域の各画素に対する基線値を計算することができる。再び図6を参照すると、基線領域1および2のデータの基づいて計算した基線が最良適合基線として示してある。直線適合(線型回帰)は、計算上、最良適合関数を決めるために使用でき、且つ一般的に基線データによい適合をもたらす、最も速く且つ最も簡単なアルゴリズムである。しかし、もし発光ピークの周りの基線領域に劇的変化があれば、更に複雑な基線に適合するために異なる回帰アルゴリズムを使うことができる。
【0039】
次のステップS50は、関心のある発光ピークの下に作った基線で、発光ピークの下と発光ピーク領域に作った基線の下の両方の面積を決めることである。これらの面積計算は、多くの周知の数値計算手法のどれか一つ、例えば台形公式を使って実行することができる。
【0040】
一旦発光ピークおよび発光ピーク領域での基線の面積が計算されると、次のステップS60は、全発光ピーク面積から基線面積を引くことである。この結果の面積は、関心のある不純物による発光ピークの下の面積である。ここで重要な点は、基線面積はプラズマ放電からの背景光レベルによるものであり、一方発光線からのピーク面積は、関心のある不純物だけによる。仮に、背景レベルが何らかの理由でシフトする場合、それは基線の位置および基線面積の計算に反映されるだろう。一旦基線面積を引去ると、結果の発光ピーク面積は、所定の不純物濃度に対して一定のままである。
【0041】
最終ステップS70は、結果の発光ピーク面積を不純物濃度S70に関連付けることである。事前に、関心のある不純物についての一連の既知の濃度標準に対して発光ピーク面積を測定することによって較正曲線が作られる。そのような較正曲線を水分不純物について図7に示す。少なくとも較正曲線が包含する範囲に亘って、較正曲線から任意の測定した発光ピーク面積に対して、水分の濃度を与える式を決定し得る。この様にして、発光ピーク面積を関心のある不純物についての(ppbでの)濃度の数に変換する。
【0042】
このプロセスを関心のある不純物に対応するスペクトルの任意数の発光線について繰返され得る。そのような不純物の例は、上の例で使った水分の他に、窒素およびメタンである。
【0043】
暗スペクトルの減算によるノイズ減少の顕著な改善が図5Cで明らかにされている。暗スペクトル補正による残存ノイズは、基線評価アルゴリズムに影響し、計算した発光ピーク面積および結果としての報告される不純物濃度にノイズとして現れるだろう。これは、結局不純物の検知の限界を低下するだろう。必要な感度を得るために要求される長い積分時間(2〜10秒)において、暗スペクトルの管理は、以下の三つの相補のアプローチを使って付加的に対応することができる:1)各々の新しい試料スペクトルからの現暗スペクトルの減算;2)温度が或る値以上に変化するときに暗スペクトルを更新するために分光計の温度および温度の変化割合を監視すること;並びに3)温度感応性の“ホット”な画素をソフトウェアで動的にマスクして、それらを後の分析から削除するようにすること。これらの各々のアプローチは、CCDアレイの温度感度問題に対応しようとする。分光計が暖まりまたは冷えるにつれて、最初に採取した暗スペクトルは、現試料スペクトルになすべき補正の不良推定値になる。現温度と暗スペクトルを採ったときの温度との差が大きければ大きい程、推定値が悪くなり、補正した試料スペクトルに現れるノイズが大きくなる。1℃程の小さい温度差が、補正した試料スペクトルで許容できないノイズレベルになることがある。
【0044】
この第1のアプローチは、分析されるべき各々のガス試料について最初の暗スペクトルを引くことである。原則的に、このアプローチは、各試料に対して図4のステップS20ないしS70を単純に繰返す。
【0045】
第2アプローチは、分光計の温度および/または温度の変化割合を監視することによって温度感度に対応する。温度を監視するために、搭載コンピュータ20は、二つ以上の重複温度センサ(図示せず)を備える。このコンピュータは、2つのセンサーの作動を絶えず監視する。第1のセンサーが故障した場合このコンピュータは、副(予備)センサからの出力を使用する。センサは、重要な測定値である、検出器の温度を正確に表示するために、CCDアレイの近くに位置するのが好ましい。センサは、温度測定値を提供するために規則的に所定の間隔で読取られてもよい。
【0046】
搭載コンピュータ20は、現温度と暗スペクトルを最も新しく採ったときの温度との差、および温度の変化の割合も絶えず評価する。この変化の割合に依って、搭載コンピュータ20は、許容デルタ温度を設定する。変化割合が大きければ大きい程、許容されるデルタ温度が大きい。これは、以下の段落で説明するように、暗スペクトルを頻繁に更新し過ぎるのを防ぐためである。
【0047】
通常動作で、搭載コンピュータ20は、典型的には30〜40秒毎に試料スペクトルを収集し且つ分析する。分析中このデルタ温度を超えた場合、現試料を終え、以後の分析が中止される。搭載コンピュータ20は、高圧変圧器50への電力を切り、それによってプラズマ放電を消す。分光計10は、次に発光源が消えている間に新しい暗スペクトルを採取するように命令される。この新しい暗スペクトルは、先に記憶された暗スペクトルに取って代り、現温度(TDARK)が記録される。
【0048】
搭載コンピュータ20は、次に高圧変圧器50を付け、それによってプラズマ放電を再確立する。搭載コンピュータ20は、通常動作に戻り、試料スペクトルを再び採取し始める。コンピュータはまた現温度とTDARKを比較し続けることも行なうが、その場合、TDARKは最新の暗スペクトルを採取したときの値である。
【0049】
第3アプローチが対応する問題を図8に示す。図8は、それぞれ、27℃、30℃、33℃、および36℃での四つの暗スペクトル−K、J、H、G−のグラフである。図示のように、発光強度は、一般的に温度と共に増加する。幾つかのグループの画素、特にこの例では326nmおよび344nm付近が、それらの近隣より高い熱ノイズを示すだけでなく、温度変動も遥かに大きいことに注目すべきである。これらの画素を特定し且つ次に無視またはマスクすることによって、各アレイは、遥かに高品質の検出器として機能するようにすることができる。これは、個々の検出器素子を良および不良または所謂“ホット”画素に分類することによって行う。与えられたCCDアレイの約5%を一般的にホット画素として分類され得る。ホット画素の数および分布は、各CCDアレイによって異なる。ホット画素は、典型的に良画素より高い暗スペクトル値を有する。研究はホット画素の挙動の二つの他の興味深く且つ有用な側面を明らかにした。第1に、ホット画素は、単独よりも、小さい連続するグループで起こる傾向がある。および、ホット画素は、良画素より速く温度上昇に対応してノイズが多くなりがちである。これらの両挙動を図8で見ることができ、幾つかの温度での、水分および窒素分析のために関心のある領域からの暗スペクトルを示す。326nmおよび344nm付近のホット画素の二つの領域に注目すべきである。ホット画素のこれら2つのグループは、窒素分析についての基線領域で起り、基線評価アルゴリズムに問題を生じるかも知れない。
【0050】
このCCDアレイの、窒素用基線評価へのホット画素の影響が図9に示されている。図9に示したデータは、上に説明したホット画素の二つの領域を含む図8の領域の拡大図に対応している。それぞれ、324nmおよび344nm付近に位置するスペクトルデータ190の基線の二つの変動に注目すべきである。これらの変動は、図8で議論したホット画素の二つのノイズの多いグループに対応する。これらの変動は、基線評価アルゴリズムに図9に示される最良適合基線200を作らせる。基線200が発光ピーク領域で高いことは容易に明らかであることが分かる。実際、この基線は、積分アルゴリズムが期待されるゼロ面積ではなく、窒素ピーク発光線に対して負の面積を発生させる結果となる。もし、ホット画素(即ち、変動)がマスクされると、図9の第2基線210ができる。基線210は、統計的に遙かに良い適合である。この基線210を使って、この試料に期待される通りに、ピーク面積を、ゼロとして計算する。
【0051】
マスクは、アレイのための暗スペクトルを分析することによってソフトウェアで容易に作られる。実際には、特注生成ソフトウェア・マスクが作成され、アレイの上に設置される。良画素は影響をうけず、不良画素は無視される。発光線データ点か基線点に対する画素を使おうとする度毎に、運転プログラムは、生成マスクを実行する。それで、分析に使われるべき画素について、それは正しい波長領域になければならず且つ良画素でなければならない。
【0052】
本発明のもう一つの特徴は、プラクセアのマイクロセル・サンプリングシステムを使うことである。プラクセアのマイクロセル・サンプリングシステムは、米国特許第6,043,881号に記載されている。この試料セルは、体積が最小で且つ未掃引領域がなく、それが応答時間を改善するのを助ける。上述した基線評価アルゴリズムでは、試料セル圧力または流量の小さな変化は、分析結果に最少の影響しか与えない。このため、このサンプリングシステムは、非常に簡単で有り得て、それが再び応答時間を改善し、この分析器を使い易くする。このマイクロセルは、入口部品にそれがユーザが調整器を使わずにこの分析器をサンプリングポイントに接続できるようにするオリフィスを有する。サンプリングシステムで通常必要な調整器の除去は、分析器応答時間を最も遅くする単一部品を取り除く。
【0053】
本発明による分析器をここではアルゴンガス試料を使うものとして説明する。しかし、この分析器は、アルゴンを使うことに限定されるものではなく、ヘリウムおよびクリプトンのような、希ガスの使用に容易に適用できる。その上、水素および酸素試料ガスの分析を達成できる。分析できる幾つかの例示不純物は、窒素、水分およびメタンである。水分は、適当な膜を使えば、どのようなベースガスの中でも分析され得る。
【0054】
長い積分時間を使えるようにするもう一つのアプローチは、CCDアレイを熱電気的に冷却することである。熱電気式冷却器は、市販されているが、システムにかなりのコストを付加し(コストが殆ど2倍になる)、嵩高である。上に説明した温度補償アプローチは、冷却したアレイにも使われることができ、冷却だけを行うより検出限界をよくするだろう。
【0055】
この分析器は、種々の試料入口圧力範囲に亘って作動することができる。例示範囲は、低圧の0.03〜0.34MPa、標準圧の0.14〜1.03MPa、および高圧の0.34〜2.41MPaに亘る。単純に上述した入口部品の臨界流オリフィスの直径を変えるだけで異なる範囲が使用可能である。上記の各々の範囲は、試料セルを通る約400〜2000ml/minの試料流量に相当する。分析器の非常に低圧の場合でさえも、入口に関連する分析器排出口上の試料ポンプで高真空を引くことによって実行することができる。このマイクロセルは、真空条件下の動作に耐えることができる。
【0056】
本発明の好適実施例を特定の用語を使って説明したが、そのような説明は例示目的だけのためであり、添付の請求項の精神および範囲から逸脱することなく、変更や変形が行えることを理解すべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には超高純度ガス分析用の電荷結合素子を組込んだ発光分光計を有する分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
永年の間、ガス発光分光法がアルゴン中の窒素の分析に使われてきた(例えば、米国特許第3,032,654号参照)。この手法に一般的に用いられる発光源は、無声放電(SED)としても知られる、低エネルギー・アルゴンプラズマである。この技術は、長年に亘って進歩し、例えば、電気光学的変調を使うことによって(例えば、米国特許第5,412,467号参照)、検出限界(LOD)を一桁の千万分率(ppb)レベルにまで下げた。試料セル設計、電子装置、およびマイクロプロセッサ・プラットフォームの更なる改善が現代の分光分析器に導いた。複数の検出器および光学フィルタを使用するという現在の実務は、適当な発光波長を検出することができれば、複数の不純物の同時分析を可能にする。
【0003】
図1Aのブロック線図は、従来の発光分光法を実行する初期の分析器に接続して利用した発光および検出システムを示す。同様に、図1Bは、米国特許第5,412,467号に記載してあるような、電気光学的変調を使用する最新技術の分析器設計のブロック線図である。両タイプのシステムで、高圧変圧器1が分析すべきガス試料を入れる光源2に電力を供給する。これらのガスは、この試料の中に含まれるそれぞれのガス(不純物)の光学発光線(発光スペクトル特性を作るために電圧によって励起される。狭帯域通過光学フィルタ3が各不純物に対応する最強発光線を分離する。光電子増倍管(PMT)5が各不純物からの光出力を電流に変換し、それを周波数選択増幅器、図1Aに示される固定増幅器6aか図1Bに示される同調増幅器6b、及び読出し7によって増幅される。従来のシステムは、PMTへの光を遮断(または変調)するためにチョッパ輪4を使用する。ところが、電気光学的変調システムは、周波数二倍器8および可変周波数発振器9を使ってPMTへの光を変調する。
【0004】
これまでは、各世代の発光分光計が共通の検出方式を共用していた。関心のある不純物の発光線を狭帯域通過光学フィルタによって分離し、光電子増倍管の使用により電気信号に変換した。このPMTは、このPMTの使用によって可能となる固有の高電子ゲインのために、低光レベル分光法での多数の用途のためのえり抜きの検出器であった。感度に加えて、PMTは、頑丈で、信頼性があり、低コストで、長期間に亘って安定でもある。これらは、発光分光法のような、連続使用の用途に使うとき重要な属性である。しかし、PMTは、発光分光法用の検出器として使用するとき、幾つかの問題を引き起す。PMTは、特に単一分析器に幾つかのPMTを使わねばならないとき、今日の標準によれば比較的大きな装置である。PMTは低コストではあるが、高品質狭帯域通過フィルタは、特に幾つかのフィルタが必要なとき、低コストでない。更に、与えられた不純物に対して関心のある発光線を分離する、狭帯域通過フィルタは、分析用に選択された波長における背景光レベルの評価も妨げる。
【0005】
関心のある不純物発光波長での背景光レベルは、温度、試料ガス圧、励起条件、または放電に入る他の不純物の変化のような、多種多様な理由により変化することがある。関心のある波長での発光強度しか分っていないときに、関心のある不純物の濃度の変化から背景光レベルのシフトを識別することは、非常に困難である。背景光レベルのシフトは、長期基線変動、非線形較正曲線、および他の不純物に対する横感度に関する問題になることがある。これらは、千万分率の測定で不純物についての不純物分析を行おうとするとき、全て重要な問題である。
【0006】
図2は、PMTおよび光学フィルタアプローチを使う際に固有の問題を図解する。図2は、A〜Fと表示する六つの発光スペクトルを示し;それらは、それぞれ、アルゴン試料ガス中の水分(水蒸気)濃度86、56、38、25、9および0ppbに対応する。各スペクトルは、水分と窒素の両方が特有の発光線を有する、紫外(UV)スペクトルの領域を示す。特に窒素が特質上放射するスペクトル(333〜360nm)の領域で、水分の添加が、基線光レベルの上昇を生じること注目すべきである。もし、PMTと光学フィルタが使用される場合、この光レベルの上昇は、窒素不純物から来るものと解釈でき、窒素の間違った高濃度を報告する結果となる。しかし、もし、基線光レベルのシフトが適正に評価されるならば、窒素発光ピークが存在しないという事実を正しく判定することができ、従って、窒素濃度が実際にゼロとなる。同じ議論は、もし考慮に入れなければ分析結果にノイズおよびドリフトとして現れる、上に述べた他の要因による基線シフトに当てはまる。この基線光レベルの変化の問題を解決するために二つの方法が提案されている。
【0007】
第1の方法としては、別のPMT検出器を不純物の分析ではなく基線発光光レベルを決めるため専用とさせることができる。これは、関心のある不純物発光線に近いがそれを含まない試料ガス発光スペクトルの波長領域を分離する狭帯域通過フィルタを選択することによって行う。次に、この分析器は不純物発光を測定するPMTからの信号と基線を観測するPMTからの信号の比を使用する。この方法は、基線発光光レベルの問題の多くを解決する。しかし、この手法は、より複雑であり、追加のPMTおよび光学フィルタか、検出できる不純物の数の減少を要する。
【0008】
第2のアプローチでは、基線変動と、幾つかの分析器の較正曲線の非直線性が数学的に補正される。各不純物分析へのそのような補正の適用は、分析器の運転プログラムの一部として実施される。しかし、このアプローチは、非直線性が先の実験作業から十分に特性決定されているときにだけ可能である。
【0009】
関心のあるスペクトルの全領域を容易に評価する電荷結合素子(CCD)アレイの能力は、それらを多数の分光学的方法のための1つの魅力的な検出器の選択にする。CCDアレイは、PMTと狭帯域通過フィルターとの代わりに分光学的用途のため長年使用されており、小型で低コストの、市販の装置が利用可能である。最も良く知られる装置は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法に使われている。これらの用途は、よく理解されているが、非常に強力な発光源、典型的にはICPまたは極超短波源の使用を伴う。これらの発光源は、ガス発光分析器の低レベル発光源より遥かに強力で高エネルギーである。
【0010】
CCDアレイは、検出素子(画素)のアレイからなり、その各々はフォトダイオードである。しかし、CCDは、PMTの固有の高ゲイン性能を欠く。これに関して、画素は、写真フィルムのように作用する。弱光像は、従来のカメラで長い露光時間が採用されるのと大体同様に、長い積分時間を採用して捕えることができる。しかし、長時間積分は、CCDアレイに固有の問題;所謂暗または熱ノイズ、を悪化させる。もし、アレイを完全な暗闇に放置しても、それは、主として積分時間および温度の関数である、独特のノイズ特性を発生するだろう。低強度源を検出すべきときにこのノイズ特性変化を管理することはこの技術を使うために重要である。
【0011】
この暗ノイズ問題のために、CCDアレイ検出器から有効な信号を発生させるためには、関心のある不純物からのより明るい発光が必要である。従来、仮にCCD検出器を使うべきならガス発光分光法のような、PMT検出器と共に低光レベル発光源を通常使う用途は、より明るい発光源を要した。一般的に、この明るい発光を達成するためには、遥かに複雑な電源が必要である。これは、分析器のコスト、サイズ、複雑さを著しく増加させる。
【0012】
従って、無声放電のような、簡単な低光レベル発光源を使用するCCD検出器アレイを有する、ガス発光分光計のような、分析器が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第3032654号明細書
【特許文献2】米国特許第5412467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、改良したガス発光分光計を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、低レベル発光源およびCCD検出器アレイを使用したガス発光分光法を実施することである。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、ガス発光分光法を実施するための小型、低コストで頑丈な分析器を作ることである。
【0017】
この発明のその他の目的および利点は、一部明白であり、一部この明細書および図面から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、この発明は、ガス発光分光法を実施するための分析器を提供する。この分析器は、スペクトル分析用ガス試料を入れる分析セルを有する。この分析セルは、マイクロセルであるのが好ましい。変圧器がこの分析セルの中のガス試料にこのガス試料から低レベル発光源を作るのに十分な電圧を供給する。この低レベル発光源は、無声放電でもよい。分光計が次にこの低レベル発光源からの発光スペクトルを検出する。この分光計は、検出器として電荷結合素子アレイを使用する。コンピュータが使用されて分析器を制御し、分光計により検出した発光スペクトルを処理する。コンピュータは電荷結合素子からの熱ノイズを表す暗スペクトルをこの発光スペクトルから引く。コンピュータは、ガス試料中の種々の不純物についての不純物濃度を計算するために較正曲線も使用する。低レベル発光源から出た光を分光計に結合するために光ファイバーケーブルを使用する。この分析器は、分析セルに連続流で供給した超高純度ガス試料を分析するために使用することができる。
【0019】
この発明のもう一つの実施例は、分光計が初期暗スペクトルを発生し、コンピュータがこの初期暗スペクトルを各発光スペクトルから引く分析器である。
【0020】
この発明の更なる実施例は、コンピュータが分光計の温度を監視し、所定の温度変化が起きたとき、更新した暗スペクトルを発生させるためにこの分光計を制御する分析器である。このコンピュータは、次にこの更新した暗スペクトルを発光スペクトルから引く。
【0021】
この発明の更なる実施例は、コンピュータが電荷結合素子検出器中のホット画素を動的に決定し、且つマスクして、マスクしたホット画素をスペクトル分析で使わないようにする分析器である。
【0022】
上記目的を更に達成するために、この発明は、電荷結合素子アレイを組込んだガス発光分光計および低レベル発光源を有する分析器から発光スペクトルを処理する方法も提供する。この方法は、電荷結合素子アレイから最初に暗スペクトルを採取する。この暗スペクトルは電荷結合素子アレイからの熱ノイズを表す。暗スペクトルは、入射光なしの電荷結合素子アレイの出力を測定することによって採取される。電荷結合素子アレイを使って低レベル発光源から試料スペクトルが採取される。低レベル発光源は、分析セルの中のガス試料から作られる。補正された試料スペクトルを得るため暗スペクトルを試料スペクトルから引く。そこで、補正された試料スペクトルのための基線が決定される。次に、補正された試料スペクトルの発光ピーク領域のための発光ピークおよび基線面積を積分する。発光ピーク面積から基線面積を引いてピーク面積を得る。次に、このピーク面積は不純物濃度に変換される。この変換は、ガス試料中の種々の不純物についての不純物濃度を計算するために較正曲線を使用する。この低レベル発光源は無声放電であるのが好ましい。この分析セルはマイクロセルであるのが好ましい。低レベル発光源から出た光を分光計に結合するために、光ファイバーケーブルを使用する。この方法は、分析セルに連続流で供給した超高純度ガス試料を分析するために使用され得る。
【0023】
この発明のもう一つの実施例は、暗スペクトル採取工程が、分光計が暗スペクトルを最後に採取したときの温度から所定の温度変化を超えるとき、この暗スペクトルを採取する方法である。
【0024】
この発明の更なる実施例は、暗スペクトル減算工程が電荷結合素子アレイにおけるホット画素を決定しかつ動的にマスクして、マスクされたホット画素をスペクトル分析で使わない方法である。
【0025】
この発明を更に完全に理解するために、以下の説明および添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】従来の発光分光システムのシステム・ブロック線図である。
【図1B】電気光学的変調発光分光システムのシステム・ブロック線図である。
【図2】水分だけの発光スペクトルのグラフであり、窒素発光領域での基線シフトを示す。
【図3】本発明の好適実施例によるCCDを組込んだ発光分光計を使用する分析器のブロック線図である。
【図4】単一不純物用試料スペクトル分析のプロセスを示すフローチャートである。
【図5A】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図5B】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図5C】図4に示すプロセスによる暗スペクトル減算の例を示すグラフである。
【図6】図4に示すプロセスによる基線評価の例を示すグラフである。
【図7】図4のステップS70による、発光ピーク面積を不純物濃度に変換する際に使用するための較正曲線である。
【図8】ホット画素領域を例示する、温度の関数としての暗スペクトルのグラフである。
【図9】ホット画素の基線評価への影響を示すブラフである。
【実施例】
【0027】
本発明による装置および方法の好適実施例を、添付の図面を参照して説明する。
【0028】
図3を参照すると、本発明の好適実施例である、CCDアレイを組込んだ発光分光計を使う例示的分析器のブロック線図が示してある。勿論、CCDアレイを組込んだ発光分光計を使用する要素の他の構成を使ってもよい。図3に示す分析器は、分光計10、搭載コンピュータ20、アナルグ・ディジタル・インタフェース30、分析セル40、変圧器50、変圧器1次入出力モジュール60、電力入口モジュール70、および直流電源80を含む。
【0029】
作動中、分析されるべきガス試料を分析セル40の中に置く。好ましい試料システムは、米国特許第6,043,881号に記載してあるプラクセア・マイクロセルであり、参考までにここに援用する。この簡単なマイクロセル試料システムの利点は、以下に議論する。変圧器50は、このガス試料から低エネルギー、低強度プラズマ放電を作るのに十分な電圧を分析セル40に供給する。光ファイバーケーブル90がこの発光源(即ち、ガス試料)からの光を分析セル40から分光計10へ伝達する。このCCDアレイを組込んだ分光計10は、このシステムの中心で、以下に更に詳しく説明する。分光計10は、放出光のスペクトルを測定する。この分光計10は、シリアルリンク100を介して搭載コンピュータ20と交信する小型内部コンピュータ(図示せず)を有する。この搭載コンピュータ20は、この分析器を制御する運転プログラムを実行する。分光計10で得られたスペクトルはシリアルリンク100を介して搭載コンピュータ20へ送られる。搭載コンピュータ20は、入力スペクトルを分析し、発光線を試料ガス中の一又は二以上の不純物に対応する濃度情報に変換する。搭載コンピュータ20は、種々のアナログで離散的な入出力を受け、これらの出力を介するか、または好ましくは直接シリアル接続方式(例えば、RS−232Cポート)を介してユーザと交信することができる。実際、図3に示すモジュールの殆どはシリアルポート接続を有する。勿論、ユニバーサル・シリアル・バス(USB)接続、またはバス構成の使用を含む、機器を接続するためのその他の方法を使ってもよい。この分光計のコンピュータは、所定の限られたセットの命令を受け且つ実行することもできる。この様にして、搭載コンピュータ20は、分光計10の詳細動作および内部タイミングを制御することなく、分光計10を制御し且つそれからデータを受けることができる。変圧器1次入出力モジュール60は、搭載コンピュータ20に変圧器50を制御させ、必要に応じて放電をオン・オフさせる。これは、後に議論する、暗スペクトルの管理に重要である。
【0030】
分光計10は、小型の手持式オプチカルベンチおよびCCD検出器を含む。発光源からの光がこのオプチカルベンチの入口スリットに至らせられる。二つのミラーおよび反射型回析格子で反射した後、この光はCCDアレイ上に分散される。このCCDは、2,048個のフォトダイオード検出器素子の線形アレイであるのが好ましい。各検出器素子は狭波長範囲(2nmのオーダ)に対応する光を受ける。各フォトダイオードへの入射波長は回析格子の分解能、オプチカルベンチの形状およびアレイ内の特定のフォトダイオードの位置によって決定される。勿論、望むなら他のCCDアレイ技術を使ってもよい。
【0031】
CCDを組込んだ分光計10は、市販されていて、軽量、コンパクトで頑丈である。この小型のオプチカルベンチと接続して、これらのCCDアレイは、200nmないし800nmの全スペクトルを取扱うことができる。この領域は、遠および近紫外、全可視、および電磁スペクトルの近赤外領域の小部分を包含する。
【0032】
入射光を電気信号に変換するために、このアレイの各ダイオードは、代りに画素と呼ばれ、小さい荷電コンデンサに並列に接続された半導体材料の小さい領域である。光子がこの半導体材料に当ると、コンデンサの対向するプレートへ移動する電子正孔対ができ、それをゆっくりと放電させる。所定の時間(即ち、積分時間)後、このCCD電子装置は、2,048個のコンデンサの各々を急速に再充電する。この再充電は、次の積分期間のためにCCDアレイをリセットする。各コンデンサを完全に再充電するために必要な電荷は、この積分時間中にフォトダイオードに入射する光子の数の関数である。積分期間中に各フォトダイオードに入射する電荷の量対波長のグラフがこの発光源のスペクトルを明らかにする。
【0033】
重要な要因は、積分時間中に各フォトダイオードに入射する光の総量である。これらのダイオードが積分装置であるので、これらの光子の到来パターンは重要でない。入射光子の総数だけが重要である。この点でアレイは写真用フィルムのような作用をする。弱光状態でもシャッタをより長い時間開け放しにすることによって写真をとることができる。同様に、低強度発光源を使うとき、積分時間を増すことによって分光計の感度を向上することができる。しかし、二つの要因がこの積分時間を制限するように作用する。
【0034】
第1に、積分時間は、一又は二以上のダイオードのコンデンサがこの積分時間中に完全に放電するようになるまで永くはできない。コンデンサが完全に放電されると、飽和状態に到達し、残りの積分期間中、更なる入射光子にダイオードが反応することができない。従って、飽和に達した画素に対して信号レベルの差を決めることは可能でない。
【0035】
より重要なことは、CCDアレイが発生する熱ノイズである。もし、アレイを全くの暗闇に放置しても、それはまだ固有のノイズ特性を発生するだろう。この熱ノイズは、時に暗スペクトルと呼ばれ、高温および長時間積分で悪化する。この温度依存暗スペクトルを管理することは、長時間積分を要する、低強度発光源でCCDアレイを使用するために重要である。本発明は、CCDを低強度発光源で実質的に使えるようにするために、この暗スペクトルを管理する際に固有の問題に対応する。
【0036】
図4を参照すると、この好適実施例によって構成した分析器がガス試料中の不純物のスペクトルを分析するプロセスを表すフローチャートが示してある。このプロセスは、CCDアレイと低レベル発光源の分析器の使用を補償するためにスペクトルデータを補正する。図4は、単一試料スペクトルから単一不純物についての濃度情報を作るために必要なステップを示す。第1ステップS10は、プラズマ放電を確立する前にアレイから暗スペクトルを採取することである。この暗スペクトルを後の試料スペクトルと厳密に同じ積分時間を使って採取することが重要で、さもなければ補正手順が機能しないだろう。上記のように、これは、暗スペクトルの特性が一部積分時間の関数だからである。先に議論したように、暗スペクトルは、アレイに光が全く入射しないときにCCDの出力を測定することによって得られる。例示的暗スペクトルを図5Aに示す。一旦この暗スペクトルが採取され且つ記憶されると、好ましくは搭載コンピュータ20で、プラズマ放電が起動され、試料スペクトルが採取される(ステップS20)。図5Bは、図5Aに示す暗スペクトルと同じ積分時間で採取された例示的試料スペクトルを示す。図5Bは、30ppbの水分不純物を含むアルゴンガス流の試料スペクトルである。ステップS30で、この暗スペクトルの値が今度は画素毎に試料スペクトルから引かれる。図5Cに示すように、暗スペクトルを補正した結果の試料スペクトルは、ノイズ特性が非常に減少している。この分析の残りのステップは、この補正したスペクトル(即ち、図5C)を使う。この補正したスペクトルで、308nmに30ppb水分ピークが今度ははっきり見えることに注目すべきである。
【0037】
次のステップS40は、発光線またはピークの下の最良基線を決めることである。このステップは、搭載コンピュータ20に試料ガスの光強度を不純物のそれから区別させる。第1にプロセスは発光ピーク周りの試料スペクトルを三つの領域に分ける。これを、アルゴンガス試料中の30ppbの水分ピークについて図6にグラフで示す。
【0038】
発光ピーク領域のいずれかの側の二つの基線領域、基線領域1および2、を使ってこの基線を決める。これらの領域のデータ点に1次回帰を適合してこれら二組のデータを通る最良適合直線を決める。一旦この線の勾配および切片を決めると、この発光ピーク領域の各画素に対する基線値を計算することができる。再び図6を参照すると、基線領域1および2のデータの基づいて計算した基線が最良適合基線として示してある。直線適合(線型回帰)は、計算上、最良適合関数を決めるために使用でき、且つ一般的に基線データによい適合をもたらす、最も速く且つ最も簡単なアルゴリズムである。しかし、もし発光ピークの周りの基線領域に劇的変化があれば、更に複雑な基線に適合するために異なる回帰アルゴリズムを使うことができる。
【0039】
次のステップS50は、関心のある発光ピークの下に作った基線で、発光ピークの下と発光ピーク領域に作った基線の下の両方の面積を決めることである。これらの面積計算は、多くの周知の数値計算手法のどれか一つ、例えば台形公式を使って実行することができる。
【0040】
一旦発光ピークおよび発光ピーク領域での基線の面積が計算されると、次のステップS60は、全発光ピーク面積から基線面積を引くことである。この結果の面積は、関心のある不純物による発光ピークの下の面積である。ここで重要な点は、基線面積はプラズマ放電からの背景光レベルによるものであり、一方発光線からのピーク面積は、関心のある不純物だけによる。仮に、背景レベルが何らかの理由でシフトする場合、それは基線の位置および基線面積の計算に反映されるだろう。一旦基線面積を引去ると、結果の発光ピーク面積は、所定の不純物濃度に対して一定のままである。
【0041】
最終ステップS70は、結果の発光ピーク面積を不純物濃度S70に関連付けることである。事前に、関心のある不純物についての一連の既知の濃度標準に対して発光ピーク面積を測定することによって較正曲線が作られる。そのような較正曲線を水分不純物について図7に示す。少なくとも較正曲線が包含する範囲に亘って、較正曲線から任意の測定した発光ピーク面積に対して、水分の濃度を与える式を決定し得る。この様にして、発光ピーク面積を関心のある不純物についての(ppbでの)濃度の数に変換する。
【0042】
このプロセスを関心のある不純物に対応するスペクトルの任意数の発光線について繰返され得る。そのような不純物の例は、上の例で使った水分の他に、窒素およびメタンである。
【0043】
暗スペクトルの減算によるノイズ減少の顕著な改善が図5Cで明らかにされている。暗スペクトル補正による残存ノイズは、基線評価アルゴリズムに影響し、計算した発光ピーク面積および結果としての報告される不純物濃度にノイズとして現れるだろう。これは、結局不純物の検知の限界を低下するだろう。必要な感度を得るために要求される長い積分時間(2〜10秒)において、暗スペクトルの管理は、以下の三つの相補のアプローチを使って付加的に対応することができる:1)各々の新しい試料スペクトルからの現暗スペクトルの減算;2)温度が或る値以上に変化するときに暗スペクトルを更新するために分光計の温度および温度の変化割合を監視すること;並びに3)温度感応性の“ホット”な画素をソフトウェアで動的にマスクして、それらを後の分析から削除するようにすること。これらの各々のアプローチは、CCDアレイの温度感度問題に対応しようとする。分光計が暖まりまたは冷えるにつれて、最初に採取した暗スペクトルは、現試料スペクトルになすべき補正の不良推定値になる。現温度と暗スペクトルを採ったときの温度との差が大きければ大きい程、推定値が悪くなり、補正した試料スペクトルに現れるノイズが大きくなる。1℃程の小さい温度差が、補正した試料スペクトルで許容できないノイズレベルになることがある。
【0044】
この第1のアプローチは、分析されるべき各々のガス試料について最初の暗スペクトルを引くことである。原則的に、このアプローチは、各試料に対して図4のステップS20ないしS70を単純に繰返す。
【0045】
第2アプローチは、分光計の温度および/または温度の変化割合を監視することによって温度感度に対応する。温度を監視するために、搭載コンピュータ20は、二つ以上の重複温度センサ(図示せず)を備える。このコンピュータは、2つのセンサーの作動を絶えず監視する。第1のセンサーが故障した場合このコンピュータは、副(予備)センサからの出力を使用する。センサは、重要な測定値である、検出器の温度を正確に表示するために、CCDアレイの近くに位置するのが好ましい。センサは、温度測定値を提供するために規則的に所定の間隔で読取られてもよい。
【0046】
搭載コンピュータ20は、現温度と暗スペクトルを最も新しく採ったときの温度との差、および温度の変化の割合も絶えず評価する。この変化の割合に依って、搭載コンピュータ20は、許容デルタ温度を設定する。変化割合が大きければ大きい程、許容されるデルタ温度が大きい。これは、以下の段落で説明するように、暗スペクトルを頻繁に更新し過ぎるのを防ぐためである。
【0047】
通常動作で、搭載コンピュータ20は、典型的には30〜40秒毎に試料スペクトルを収集し且つ分析する。分析中このデルタ温度を超えた場合、現試料を終え、以後の分析が中止される。搭載コンピュータ20は、高圧変圧器50への電力を切り、それによってプラズマ放電を消す。分光計10は、次に発光源が消えている間に新しい暗スペクトルを採取するように命令される。この新しい暗スペクトルは、先に記憶された暗スペクトルに取って代り、現温度(TDARK)が記録される。
【0048】
搭載コンピュータ20は、次に高圧変圧器50を付け、それによってプラズマ放電を再確立する。搭載コンピュータ20は、通常動作に戻り、試料スペクトルを再び採取し始める。コンピュータはまた現温度とTDARKを比較し続けることも行なうが、その場合、TDARKは最新の暗スペクトルを採取したときの値である。
【0049】
第3アプローチが対応する問題を図8に示す。図8は、それぞれ、27℃、30℃、33℃、および36℃での四つの暗スペクトル−K、J、H、G−のグラフである。図示のように、発光強度は、一般的に温度と共に増加する。幾つかのグループの画素、特にこの例では326nmおよび344nm付近が、それらの近隣より高い熱ノイズを示すだけでなく、温度変動も遥かに大きいことに注目すべきである。これらの画素を特定し且つ次に無視またはマスクすることによって、各アレイは、遥かに高品質の検出器として機能するようにすることができる。これは、個々の検出器素子を良および不良または所謂“ホット”画素に分類することによって行う。与えられたCCDアレイの約5%を一般的にホット画素として分類され得る。ホット画素の数および分布は、各CCDアレイによって異なる。ホット画素は、典型的に良画素より高い暗スペクトル値を有する。研究はホット画素の挙動の二つの他の興味深く且つ有用な側面を明らかにした。第1に、ホット画素は、単独よりも、小さい連続するグループで起こる傾向がある。および、ホット画素は、良画素より速く温度上昇に対応してノイズが多くなりがちである。これらの両挙動を図8で見ることができ、幾つかの温度での、水分および窒素分析のために関心のある領域からの暗スペクトルを示す。326nmおよび344nm付近のホット画素の二つの領域に注目すべきである。ホット画素のこれら2つのグループは、窒素分析についての基線領域で起り、基線評価アルゴリズムに問題を生じるかも知れない。
【0050】
このCCDアレイの、窒素用基線評価へのホット画素の影響が図9に示されている。図9に示したデータは、上に説明したホット画素の二つの領域を含む図8の領域の拡大図に対応している。それぞれ、324nmおよび344nm付近に位置するスペクトルデータ190の基線の二つの変動に注目すべきである。これらの変動は、図8で議論したホット画素の二つのノイズの多いグループに対応する。これらの変動は、基線評価アルゴリズムに図9に示される最良適合基線200を作らせる。基線200が発光ピーク領域で高いことは容易に明らかであることが分かる。実際、この基線は、積分アルゴリズムが期待されるゼロ面積ではなく、窒素ピーク発光線に対して負の面積を発生させる結果となる。もし、ホット画素(即ち、変動)がマスクされると、図9の第2基線210ができる。基線210は、統計的に遙かに良い適合である。この基線210を使って、この試料に期待される通りに、ピーク面積を、ゼロとして計算する。
【0051】
マスクは、アレイのための暗スペクトルを分析することによってソフトウェアで容易に作られる。実際には、特注生成ソフトウェア・マスクが作成され、アレイの上に設置される。良画素は影響をうけず、不良画素は無視される。発光線データ点か基線点に対する画素を使おうとする度毎に、運転プログラムは、生成マスクを実行する。それで、分析に使われるべき画素について、それは正しい波長領域になければならず且つ良画素でなければならない。
【0052】
本発明のもう一つの特徴は、プラクセアのマイクロセル・サンプリングシステムを使うことである。プラクセアのマイクロセル・サンプリングシステムは、米国特許第6,043,881号に記載されている。この試料セルは、体積が最小で且つ未掃引領域がなく、それが応答時間を改善するのを助ける。上述した基線評価アルゴリズムでは、試料セル圧力または流量の小さな変化は、分析結果に最少の影響しか与えない。このため、このサンプリングシステムは、非常に簡単で有り得て、それが再び応答時間を改善し、この分析器を使い易くする。このマイクロセルは、入口部品にそれがユーザが調整器を使わずにこの分析器をサンプリングポイントに接続できるようにするオリフィスを有する。サンプリングシステムで通常必要な調整器の除去は、分析器応答時間を最も遅くする単一部品を取り除く。
【0053】
本発明による分析器をここではアルゴンガス試料を使うものとして説明する。しかし、この分析器は、アルゴンを使うことに限定されるものではなく、ヘリウムおよびクリプトンのような、希ガスの使用に容易に適用できる。その上、水素および酸素試料ガスの分析を達成できる。分析できる幾つかの例示不純物は、窒素、水分およびメタンである。水分は、適当な膜を使えば、どのようなベースガスの中でも分析され得る。
【0054】
長い積分時間を使えるようにするもう一つのアプローチは、CCDアレイを熱電気的に冷却することである。熱電気式冷却器は、市販されているが、システムにかなりのコストを付加し(コストが殆ど2倍になる)、嵩高である。上に説明した温度補償アプローチは、冷却したアレイにも使われることができ、冷却だけを行うより検出限界をよくするだろう。
【0055】
この分析器は、種々の試料入口圧力範囲に亘って作動することができる。例示範囲は、低圧の0.03〜0.34MPa、標準圧の0.14〜1.03MPa、および高圧の0.34〜2.41MPaに亘る。単純に上述した入口部品の臨界流オリフィスの直径を変えるだけで異なる範囲が使用可能である。上記の各々の範囲は、試料セルを通る約400〜2000ml/minの試料流量に相当する。分析器の非常に低圧の場合でさえも、入口に関連する分析器排出口上の試料ポンプで高真空を引くことによって実行することができる。このマイクロセルは、真空条件下の動作に耐えることができる。
【0056】
本発明の好適実施例を特定の用語を使って説明したが、そのような説明は例示目的だけのためであり、添付の請求項の精神および範囲から逸脱することなく、変更や変形が行えることを理解すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発光分光法を行うための分析器であって:
スペクトル分析用ガス試料を入れる分析セル(40);
前記分析セル(40)の中の前記ガス試料に、前記ガス試料から低レベル発光源を作るに十分な電圧を掛けるための変圧器(50);
検出器として電荷結合素子アレイを有する分光計(10)であって、前記電荷結合素子検出器からの熱ノイズを表す暗スペクトル及び前記低レベル発光源の発光スペクトルを検出する分光計(10);および
前記分析器を制御するための、及び暗スペクトルを使用して前記分光計(10)が検出した発光スペクトルを分析し、前記発光スペクトルのノイズ特性を減少させるためのコンピュータ(20)、を含み、
前記コンピュータが前記電荷結合素子検出器中のホット画素を動的に決め且つマスクして、これらのマスクしたホット画素をこのスペクトル分析で使わないようにした分析器。
【請求項1】
ガス発光分光法を行うための分析器であって:
スペクトル分析用ガス試料を入れる分析セル(40);
前記分析セル(40)の中の前記ガス試料に、前記ガス試料から低レベル発光源を作るに十分な電圧を掛けるための変圧器(50);
検出器として電荷結合素子アレイを有する分光計(10)であって、前記電荷結合素子検出器からの熱ノイズを表す暗スペクトル及び前記低レベル発光源の発光スペクトルを検出する分光計(10);および
前記分析器を制御するための、及び暗スペクトルを使用して前記分光計(10)が検出した発光スペクトルを分析し、前記発光スペクトルのノイズ特性を減少させるためのコンピュータ(20)、を含み、
前記コンピュータが前記電荷結合素子検出器中のホット画素を動的に決め且つマスクして、これらのマスクしたホット画素をこのスペクトル分析で使わないようにした分析器。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−186485(P2009−186485A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92565(P2009−92565)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【分割の表示】特願2003−510908(P2003−510908)の分割
【原出願日】平成14年7月1日(2002.7.1)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【分割の表示】特願2003−510908(P2003−510908)の分割
【原出願日】平成14年7月1日(2002.7.1)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】
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