説明

電解コンデンサ用アルミニウム電極箔の製造方法

【課題】電解によって発生する反応ガスによる影響が少なく、安定した電流密度制御ができ、静電容量大で、バラツキを小さくできる電解コンデンサ用アルミニウム電極箔の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔が電解液中の一対の電極板の間を通過することによりエッチングされ、かつアルミニウム箔と対向する電極板の間に、複数のスリット状開口部を有する電気遮蔽板を設置して、アルミニウム箔との間に流れる直流電流を制御しながらエッチングを行う電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
上記電気遮蔽板のスリット状開口部を、アルミニウム箔の幅方向中央部の一点から端部方向に、かつエッチング槽の上方向に均等幅で広がるV字形状とし、
上記の電気遮蔽板スリット状開口部のV字形状の角度が60〜120°であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学エッチング技術を利用した電解コンデンサ用アルミニウム電極箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電解コンデンサ用電極箔はコンデンサの小形化を図るために、電気化学的な電解工程によりアルミニウム箔のエッチングを行い、ピットと呼ばれる孔を多数形成させることにより、有効表面積を拡大してから使用されている。
上記電極箔のエッチングは、塩酸を含む水溶液中でアルミニウム箔に電流を印加することにより電気化学的に行われているが、高密度のピットをいかに効率よく均一に生成させるかが重要なポイントとなっている(非特許文献1参照)。
【0003】
上記エッチング工程は、図1に示すようなエッチング槽を複数槽用いて、アルミニウム箔を通過させて連続的にエッチングを行うのが一般的である。
電解コンデンサ用電極箔(エッチング箔)は、図1のように、アルミニウム箔1に、電流供給ローラ4aおよび4bから給電され、電解液中でアルミニウム箔1と対向する電極板2との間でエッチングされることにより、エッチングされたアルミニウム箔1を連続して得ることができる(直接給電法)。また、電極板2だけに給電してエッチングを行う方法もある(間接給電法)。
【0004】
高密度のピットを効率よく均一に生成させる一つの方法として、エッチング槽内での電流密度分布を制御する方法が提案されている。例えば、エッチング槽内での電流密度分布を制御する方法として、図2のようなアルミニウム箔と電極板の間に複数の孔やアルミニウム箔の進行方向に垂直な方向のスリット開口部を有する電気遮蔽板を設置する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、図2のような電気遮蔽板を設置する場合、電解によって発生する反応ガスが電気遮蔽板の孔やスリット開口部へ付着、停滞することにより、一定の開口面積を保つことができず、安定した電流密度制御が難しく、電極箔のさらなる高静電容量化やバラツキを小さくすることができない問題があった。さらに、電流密度分布制御の観点からは、電気遮蔽板に開ける個々の孔面積やスリット幅は小さい方が望ましいが、これらを小さくするほど、反応ガスが付着、停滞しやすくなり、上述した反応ガスによる影響が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−244153号公報
【非特許文献1】永田伊佐也、「電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ」、日本蓄電器工業株式会社、平成9年2月24日、第2版第1刷、P220〜241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような問題があったため、電解によって発生する反応ガスによる影響も少なく、安定した電流密度制御ができ、静電容量が高くバラつきが小さい電解コンデンサ用アルミニウム電極箔の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するもので、アルミニウム箔が電解液中の一対の電極板の間を通過することによりエッチングされ、かつアルミニウム箔と対向する電極板の間に、複数のスリット状開口部を有する電気遮蔽板を設置して、アルミニウム箔との間に流れる電流を制御しながらエッチングを行う電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
上記電気遮蔽板のスリット状開口部を、アルミニウム箔の幅方向中央部の一点から端部方向に、かつエッチング槽の上方向に広がるV字形状としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0009】
また、上記の電気遮蔽板のスリット状開口部の幅が均等であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0010】
さらに、上記の電気遮蔽板のスリット状開口部のV字形状の角度が60〜120°であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0011】
そして、上記の電気遮蔽板のスリット状開口部が電解液の液面から深くなるにつれて、スリット状開口部の幅を広くしたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0012】
また、上記の電気遮蔽板のスリット状開口部のV字形状部の最大幅を、電気遮蔽板と、アルミニウム箔との間隔の10.0〜100%としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0013】
さらに、上記の電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔を、電解液中の電極板の浸漬長さの5.0〜30.0%としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0014】
そして、上記の電気遮蔽板のスリット状開口部の断面が、アルミニウム箔に向かって広くなっていることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明による電解コンデンサ用のアルミニウム電極箔の製造方法によれば、エッチング槽内の電流密度分布を制御するための電気遮蔽板に反応ガスが付着、停滞するのを防ぎ、また効率よく反応ガスを逃がすことができるため、エッチング槽内の電流密度分布を精度良く安定して制御することができ、静電容量大で、バラつきの小さいアルミニウム電極箔を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
エッチング工程において、図3のようなアルミニウム箔の幅方向中央部の一点から端部方向に、かつ、エッチング槽の上方向に均等幅で広がるV字形状のスリット開口部を複数有する電気遮蔽板をアルミニウム箔とそれに対向する陰極板の間に設置する。
また、この電気遮蔽板のスリット開口部のV字形状部の角度は、60〜120°の範囲とし、電気遮蔽板のスリット開口部のV字形状部の最大幅(d)は、電気遮蔽板とエッチングされるアルミニウム箔との間隔(D)の10.0〜100%とする。
そして、電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)は、電解液中の陰極板の浸漬長さ(L)の5.0〜30.0%とする。また、図3に示すように、電解液の液面から深くなるにつれて電気遮蔽板のV字形スリット開口部の幅を広くすると、エッチング槽内の電流密度分布を均一にすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明によるアルミニウム電極箔の製造方法について具体的に説明する。
【0018】
[実施例1〜5]スリット状開口部のV字形状の角度比較
実施例1〜5において、純度99.98%で、高い立方組織を有する厚さ100μmの電解コンデンサ用の軟質アルミニウム原箔を使用し、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して前処理を行った。
【0019】
次に、図1のエッチング槽1槽において、幅50cm、浸漬長さ(L)150cmの陰極板2に、図3に示す電気遮蔽板6を設置し、硫酸3mol/L、塩酸1mol/Lの濃度で混合した、85℃の電解液中で、電流供給ローラ5を介してアルミニウム箔1に平均電流密度0.2A/cmの直流電流を印加し、100秒間電解することによりトンネル状のピットを発生させた(第1段エッチング)。
ここで、上記の電気遮蔽板6のスリット状開口部は、表1に示すV字形状の角度を有するものとし、各々、30°、60°、90°、120°、150°で比較した。
なお、スリット状開口部のV字形状部の最大スリット幅(d)は10cm、電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)は10cmとして固定した(d/D=100%、D/L≒7%)。
【0020】
続いて、図1のエッチング槽4槽に各々、上記と同じ電気遮蔽板6を設置した陰極板2を用い、上記と同じ構造にて、塩酸1mol/L、70℃の電解液中で、電流供給ローラ5を介してアルミニウム箔1に平均電流密度0.05A/cmの直流電流を印加し、1槽当たり100秒間電解することにより、ピット径の拡大を行った(第2段エッチング)。
【0021】
上記のエッチングされたアルミニウム箔について、洗浄後、EIAJ RC―2364A(1992)に従って200Vで化成を行い、陽極箔試料を作製した。
【0022】
[実施例3、6〜10]スリット状開口部のV字形状部の最大スリット幅(d)比較
実施例3、6〜10において、実施例1と同様のアルミニウム原箔を使用し、同様の前処理を行った後、図1のエッチング槽1槽において、実施例1と同様の条件で第1段エッチングを行った。
ここで、上記の電気遮蔽板6のスリット状開口部は、表1に示すV字形状の角度を90°で固定し、スリット状開口部のV字形状部の最大スリット幅(d)は各々、15、10、8、5、1、0.5cmで比較することとし、電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)は10cmとして固定した(d/D=110、100、80.0、50.0、10.0、5.0%)。
続いて、図1のエッチング槽4槽に各々、上記と同じ電気遮蔽板6を設置した陰極板2を用い、上記と同じ構造にて、実施例1と同様の条件で第2段エッチングを行った。
上記のエッチングされたアルミニウム箔について、洗浄後、EIAJ RC―2364A(1992)に従って200Vで化成を行い、陽極箔試料を作製した。
【0023】
[実施例3、11〜17]電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)比較
実施例3、11〜17において、実施例1と同様のアルミニウム原箔を使用し、同様の前処理を行った後、図1のエッチング槽1槽において、実施例1と同様の条件で第1段エッチングを行った。
ここで、上記の電気遮蔽板6のスリット状開口部は、表1に示すV字形状の角度を90°、スリット開口部のV字形状部の最大スリット幅(d)は10cmで固定し、電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)は各々、8、10、15、20、30、40、45、50cmで比較した(D/L=5.3、10.0、13.3、20.0、26.7、30.0、33.3%)。
続いて、図1のエッチング槽4槽に各々、上記と同じ電気遮蔽板6を設置した陰極板2を用い、上記と同じ構造にて、実施例1と同様の条件で第2段エッチングを行った。
上記のエッチングされたアルミニウム箔について、洗浄後、EIAJ RC―2364A(1992)に従って200Vで化成を行い、陽極箔試料を作製した。
また、D/Lの下限を見極めるため、d=0.5cm、D=5cm(実施例18)、d=0.5cm、D=4cm(実施例19)の陽極箔試料も上記と同様の条件にて作製した。
【0024】
(比較例)
実施例1と同様のアルミニウム原箔を使用し、同様の前処理を行った後、図1のエッチング槽1槽において、実施例1と同様の条件で第1段エッチングを行った。
ここで、上記の電気遮蔽板6は、図2のAに示すものを用い、開口部は円形で、最大径は10cmとした。
また、電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)は10cmで比較した(D/L≒6.7%)。
続いて、図1のエッチング槽4槽に各々、上記と同じ電気遮蔽板6を設置した陰極板2を用い、上記と同じ構造にて、実施例1と同様の条件で第2段エッチングを行った。
上記のエッチングされたアルミニウム箔について、洗浄後、EIAJ RC―2364A(1992)に従って200Vで化成を行い、陽極箔試料を作製した。
【0025】
上記実施例1〜19と比較例の各陽極箔試料について、20点の静電容量を測定した結果を表1に示す。なお、ここで静電容量バラツキとは、最大値と最小値の差を平均値で割った値を意味する。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例と比較例−スリット状開口部が円形とV字形状との比較]
表1より明らかなように、本発明の実施例2〜4による、スリット状開口部がV字形状の電気遮蔽板を使用したエッチング方法によれば、スリット開口部が円形の場合の比較例と比べて、電気遮蔽板に反応ガスが付着、停滞するのが防止され、効率よく反応ガスを逃がすことができるため、エッチング槽内の電流密度分布を精度良く、安定して制御でき、静電容量が高く、バラつきの小さいアルミニウム電極箔を製造することができる。
【0028】
[スリット状開口部のV字形状の角度比較(実施例1〜5)]
スリット開口部のV字形状の角度比較では、表1より明らかなように、60〜120°の範囲が適当である(実施例2〜4)。開口部の角度が30°ではアルミニウム箔の幅方向の電流密度変化が大きくなり、充分な静電容量が得られず、バラつき大となり(実施例1)、150°では電気遮蔽板への反応ガスの付着、停滞を十分に防止できず、静電容量が低下する(実施例5)。
【0029】
[スリット状開口部の最大スリット幅(d)/電気遮蔽板とAl箔との距離(D)比較(実施例3、6〜10)]
電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)に対するスリット状開口部の最大スリット幅(d)の比d/Dは、表1より明らかなように、10〜100%の範囲が適当である(実施例3、7〜9)。110%(d=11cm、D=10cm)では、アルミニウム箔の長さ方向での電流密度変化が大きくなり、充分な静電容量が得られず(実施例6)、5.0%(d=0.5cm、D=10cm)では、電気遮蔽板への反応ガスの付着、停滞を十分に防止できず、静電容量が低下する(実施例10)。
【0030】
[電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)/陰極板の浸漬長さ(L)比較(実施例3、11〜19)]
陰極板の浸漬長さ(L)に対する電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔(D)の比D/Lは、表1より明らかなように、5.0〜30.0%の範囲が適当である(実施例3、11〜16、18)。5.0%未満(D=4.0cm、L=100cm)では、アルミニウム箔の長さ方向での電流密度変化が大きくなり、充分な静電容量が得られず(実施例19)、33.3%(D=50cm、L=150cm)とすると、エッチング槽のサイズが大きくなり過ぎるので問題がある(実施例17)。
【0031】
上記実施例では電気遮蔽板の手段として板を用いたが、これの代わりに樹脂を電極に塗布し、上記電気遮蔽板と同様の形状としたものを用いても、上記と同様の効果が得られる。
なお、上記の実施の形態では、本発明の特徴および卓越した効果を具体的に示したが、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々変更できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例によるエッチング槽の模式断面図である。
【0033】
【図2】従来例による電気遮蔽板の模式図である。
【0034】
【図3】本発明の実施例による電気遮蔽板の模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 アルミニウム箔
2 電極板
3 電解液の液面
4a,4b 電流供給ローラ
5 槽内ローラ
6 電気遮蔽板
7 エッチング槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔が電解液中の一対の電極板の間を通過することによりエッチングされ、かつアルミニウム箔と対向する電極板の間に、複数のスリット状開口部を有する電気遮蔽板を設置して、電極とアルミニウム箔との間に流れる電流を制御しながらエッチングを行う電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
上記電気遮蔽板のスリット状開口部を、アルミニウム箔の幅方向中央部の一点から端部方向に、かつエッチング槽の上方向に広がるV字形状としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気遮蔽板のスリット状開口部の幅が均等であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気遮蔽板のスリット状開口部のV字形状の角度が60〜120°であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の電気遮蔽板のスリット状開口部が電解液の液面から深くなるにつれて、スリット状開口部の幅を広くしたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4記載の電気遮蔽板のスリット状開口部のV字形状部の最大幅を、電気遮蔽板と、アルミニウム箔との間隔の10.0〜100%としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の電気遮蔽板とアルミニウム箔との間隔を、電解液中の電極板の浸漬長さの5.0〜30.0%としたことを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載の電気遮蔽板のスリット状開口部の断面が、アルミニウム箔に向かって広くなっていることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−159922(P2008−159922A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348180(P2006−348180)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】