説明

電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法

【目的】酸化皮膜中の欠陥分布が均一で、ピットの分散性が良好であり、材料表面の無効溶解が少なく、改善された静電容量を得ることを可能とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔を提供する。
【構成】Pb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔であって、最終焼鈍後において、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oが1.5〜3.0であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増大した静電容量を有する電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化に伴い、電子部品に組み込まれる電解コンデンサの電極用アルミニウム箔についても静電容量の向上が要望されており、電解コンデンサ電極用アルミニウム箔をエッチング処理した後の表面積を拡大させるために多くの試みがなされている。
【0003】
エッチング処理後の表面積を拡大させるためには、ピット分散性の向上(合体して無効溶解となるピットの減少)、表面溶解の抑制、ピット長さの均一化などが有効であり、合金成分の最適化、結晶性酸化物の分散性向上、スパッタリングや印刷によるピット起点の付与など、数多くの試みが行われているが、技術面あるいはコスト面での問題のため、量産材への適用が進んでいないのが現状である。
【0004】
発明者らは、工業的に量産が可能であり、ピット分散性の向上、表面溶解の抑制が同時に達成できる手法として、最終焼鈍前の薬剤処理に注目して検討を行った。ピット分散性を向上させるためには、箔圧延後の材料表面の不均一な酸化皮膜を溶解除去すれば良いが、強アルカリなど表面溶解減量が多い薬剤を使用した場合、薬剤処理により、付加圧延で導入された (100)方位の優先成長を促す表面歪が除去されてしまい、最終焼鈍後に粗大な異方位結晶粒が生成するという問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、発明者らは、強アルカリ中にアルミニウムより貴な金属イオンを含有させ、金属イオンを優先的に材料表面に析出させることにより溶解形態を全面溶解から局所溶解に変化させる手法(特願2003-124800号)を見出したが、材料表面に析出した金属イオンを除去するための中和処理が必要となるため、コスト面で難点がある。
【0006】
また、冷間圧延後の汚染層や不均質な酸化膜を除去して、安定して均質な表面酸化層を形成し、エッチング特性に優れたアルミニウム箔を得るために、箔圧延後のアルミニウム箔を硫酸、塩酸、リン元素を含む酸の1種または2種以上の酸を含む酸溶液で処理し、その後焼鈍する方法が提案されている(特許文献1参照)が、エッチング特性の改善が十分ではない。
【特許文献1】特開2005−15916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、エッチング特性を向上させるための手法についてさらに試験、検討を重ねた結果、Pbを含有するアルミニウム箔を用い、リン酸溶液による酸処理を適用して、アルミニウム箔表面の不均一な酸化皮膜を除去するとともに、該表面に特定量のリン含有皮膜を生成させ、さらに焼鈍条件を特定することによって、確実に特性改善が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基いてなされたものであり、その目的は、酸化皮膜中の欠陥分布が均一で、ピットの分散性が良好であり、材料表面の無効溶解が少なく、改善された静電容量を得ることを可能とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1による電解コンデンサ電極用アルミニウム箔は、 Pb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔であって、最終焼鈍後において、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oが1.5〜3.0であることを特徴とする。
【0010】
請求項2による電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法は、箔圧延後のPb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔を濃度1〜5%のリン酸溶液に接触させて、アルミニウム箔の表面を溶解減量ΔWが0.03〜0.30g/m2となるよう処理した後、不活性ガス雰囲気中、510〜570℃の温度で焼鈍処理し、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oを1.5〜3.0とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3による電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法は、請求項2において、濃度1〜5%、温度20〜80℃のリン酸溶液に1〜30秒接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱間圧延→冷間圧延→中間焼鈍→付加圧延からなる諸工程により製造された硬質アルミニウム箔の表面を、最終焼鈍前に特定濃度のリン酸溶液と接触させることにより、前工程で生成した不均一な酸化皮膜を含む材料の表層部が溶解除去されて均一なリン含有皮膜が生成し、その後、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で最終焼鈍すると、(100)面が高密度に集積するとともに、材料中に添加された鉛が表面濃縮して酸化皮膜中に欠陥が均一に導入される。
【0013】
その結果、本発明に従って製造された電解コンデンサ電極用アルミニウム箔は、酸化皮膜中の欠陥分布が均一で、ピットの分散性が良好となり、また、材料表面に生成したリン含有皮膜がDCエッチング初期の表面溶解を抑制するため、材料表面の無効溶解が少なく、静電容量と折曲げ強度が同時に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、Pb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔を用いる。Pbが0.1ppm未満では最終焼鈍によるPbの表面濃縮が不均一となり、DCエッチング後に未エッチ部が生じて静電容量が低下する。Pbが2.0ppmを超えると、最終焼鈍によるPbの表面濃縮が多くなるため、DCエッチング初期に表面溶解が生じ、箔厚垂直方向に伸展するトンネルピットが減少するため静電容量が低下する。Pbのさらに好ましい含有範囲は0.3〜0.8ppmである。
【0015】
アルミニウム箔には、他の成分として、Si:5〜60ppm、Fe:5〜60ppmが含有されることができ、または、さらにCu:30〜80ppmが含有されることができる。Si、Feはアルミニウムの不可避不純物であるが、Si、Feが5ppm未満では粗大粒が発生するおそれがあり、60ppmを超えると異方位結晶粒が成長し、(100)面占有率が低下し易くなる。
【0016】
Cuは、ピット長さを増加させる効果を有するが、30ppm未満ではその効果が十分でなく、80ppmを超えると(100)面の集積を阻害する。Cuのさらに好ましい含有範囲は40〜60ppmである。
【0017】
本発明によるアルミニウム箔は、最終焼鈍後において、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oが1.5〜3.0であることを特徴とする。リン検出強度と酸素検出強度の比P/Oは、リン含有皮膜の生成度合いを示す指標となるもので、P/Oが1.5未満では、リン含有皮膜の生成量が少ないためDCエッチング初期の表面溶解を抑制する効果が不十分であり、P/Oが3.0を超えると、生成したリン含有皮膜が不均一となり、皮膜中の粗大欠陥が多くなるため、容量向上効果が得られなくなる。
【0018】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造は、所定の組成を有するアルミニウムの鋳塊を、常法に従って熱間圧延→冷間圧延→中間焼鈍→箔圧延した後、アルカリ脱脂し、続いて濃度1〜5%のリン酸溶液に接触させ、アルミニウム箔の表面を溶解減量ΔWが0.03〜0.30g/m2となるよう処理して、水洗、乾燥し、その後、不活性ガス雰囲気中、510〜570℃の温度で焼鈍処理することにより行われ、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oを1.5〜3.0とする。
【0019】
最終焼鈍前に行われるリン含有皮膜生成処理による溶解減量ΔWが0.03g/m2未満では、前工程で生成した不均一な酸化皮膜の除去が十分でなく、均一なピット分散性が得られないため、容量向上効果が小さい。また、ΔWが0.30g/m2を超えると、箔圧延で導入された(100)方位の優先成長を促す表面歪が除去されてしまい、最終焼鈍後に粗大な異方位結晶粒が生じるため、電解コンデンサ電極用として不適当となる。
【0020】
リン含有皮膜生成処理において、リン酸濃度が1%未満ではリン含有皮膜の生成量が少ないため効果が不十分となり、リン酸濃度が5%を超えると、生成したリン含有皮膜が不均一となって皮膜中の粗大欠陥が多くなるため、容量向上効果が得られなくなる。上記のP/Oの範囲においては、生成したリン含有皮膜が緻密となり、ピット分散性の向上、表面溶解の抑制の効果が同時に得られる。
【0021】
リン含有皮膜生成処理は、リン酸濃度1〜5%、液温20〜80℃のリン酸溶液に1〜30秒接触させるのが好ましい。前記アルカリ脱脂およびリン含有皮膜生成処理をスプレー処理とし、且つ、アルカリ脱脂→水洗→リン含有皮膜生成処理→水洗→乾燥からなる連続処理とすることにより、大幅なコストアップを伴うことなしに量産化することが可能となる。
【0022】
最終焼鈍条件については、不活性ガス雰囲気中、510〜570℃の温度域で1〜60時間行うのが好ましく、510℃未満または1時間未満ではPbの表面濃縮が少ないためにピット発生数が減少し、静電容量が低下する。また、570℃を超えた温度または60時間を超えた時間で処理すると、コイル状態で焼鈍する際に箔面のハリツキが強くなり、剥離する際に酸化皮膜が破壊してしまうために静電容量が低下する。
【0023】
本発明においては、リン含有皮膜生成処理によりピットの集中要因となる不均一な酸化皮膜を溶解除去し、アルミニウム箔表面にリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oを1.5〜3.0とする緻密なリン含有皮膜を生成させてDCエッチング時の表面溶解を抑制し、Pb濃縮によりピットの分散性を向上させ、これらの相乗効果によって静電容量の増大を達成するものである。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明するとともに、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例、比較例
表1に示す量のPbを含有するアルミニウムの鋳塊を用いて、常法に従って厚さ110μmの硬質箔とした後、連続式スプレー洗浄機(ノズル流量10L/min)を用い、アルカリ脱脂(液温65℃で5秒間)→水洗(室温で5秒間)→リン含有皮膜生成処理(条件は表1参照)→水洗(室温で5秒間)を行った。上記の工程中、リン含有皮膜生成処理後のアルミニウム箔表面の溶解減量ΔW(g/m2)を処理前後の重量差より測定した。なお、処理後の板はリン含有皮膜生成による増量もあるがこれも含めて処理後の重量とした。
【0026】
ついで、アルゴンガス雰囲気中、表1に示す温度、時間で最終焼鈍を実施し、得られた箔材について、塩酸1mol/Lと硫酸3mol/Lの混酸溶液を用いて、液温85℃、電流密度25A/dm2の条件で480秒間エッチング処理し、その後、ほう酸溶液中で200Vに化成し、静電容量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0027】
また、化成後の箔材について、蛍光X線発光分光分析により箔表面のP/Oを測定した。 蛍光X線発光分光分析は、RIGAKU製RIX−3100により、真空雰囲気中、Rh管球を用いて30kV−130mAの条件で測定した。測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1にみられるように、本発明に従う実施例1〜4はいずれも、リン含有皮膜生成処理無しの比較例1の静電容量を100%とした場合、100%を超える優れた静電容量値を示した。
【0030】
これに対して、本発明の条件を外れた比較例1〜11はいずれも、静電容量値が100%未満であった。比較例1はリン含有皮膜生成処理を行わないもので、静電容量比較の基準jとするものである。比較例2はPbの含有量が少ないため、エッチング時に未エッチング部分が生じ、比較例3はPbの含有量が多いため、エッチング時に表面溶解が生じ、いずれも静電容量に劣るものとなった。
【0031】
比較例4はリン含有皮膜処理においてリン酸濃度が低いため、溶解減量が少なく不均一な酸化皮膜の除去が十分でなく、また、P/Oの値も小さくリン含有皮膜の生成量も少なくなり、静電容量が劣る。比較例5はリン酸濃度が高いため、生成するリン含有皮膜が不均一となって皮膜中の粗大欠陥が多くなったため、静電容量が劣るものとなった。
【0032】
比較例6はリン含有皮膜生成処理における液温が低く、結果として溶解減量(ΔW)が少なくなったため、不均一な酸化皮膜の除去が十分に行われず、また、P/Oの値も小さくリン含有皮膜の生成量も少なくなり、静電容量が劣る。比較例7はリン含有皮膜生成処理における液温が高く、結果として溶解減量が多くなったため、生成するリン含有皮膜が不均一となって皮膜中の粗大欠陥が多くなり、静電容量が劣る。
【0033】
比較例8はリン含有皮膜生成処理における処理時間が短く、結果として溶解減量が少なくなり、また、比較例9はリン含有皮膜生成処理における処理時間が長く、結果として溶解減量が多くなり、上記と同様に静電容量が劣るものとなった。
【0034】
比較例10は最終焼鈍温度が低いため、Pbの表面濃縮が少なくピット発生数が減少して、静電容量が低下している。比較例11は最終焼鈍温度が高いため、箔面のハリツキが強くなり、剥離する際に酸化皮膜が破壊してしまい静電容量が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔であって、最終焼鈍後において、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oが1.5〜3.0であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔。
【請求項2】
箔圧延後のPb:0.1〜2.0ppmを含有するアルミニウム箔を濃度1〜5%のリン酸溶液に接触させて、アルミニウム箔の表面を溶解減量ΔWが0.03〜0.30g/m2となるよう処理した後、不活性ガス雰囲気中、510〜570℃の温度で焼鈍処理し、蛍光X線発光分光分析で測定したアルミニウム箔表面のリン検出強度と酸素検出強度の比P/Oを1.5〜3.0とすることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
濃度1〜5%、温度20〜80℃のリン酸溶液に1〜30秒接触させることを特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム箔の製造方法。

【公開番号】特開2006−332157(P2006−332157A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150581(P2005−150581)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】