説明

電解処理方法及び装置、並びに平版印刷版の製造方法及び装置

【課題】帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する際に、交流電解処理がアノード反応から開始された場合であっても、チャターマークの発生を効果的に抑制できる。
【解決手段】帯状のアルミニウムウェブWを酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する電解処理装置10において、酸性電解液を貯留し、内部を前記金属板が搬送される電解槽12Aと、電解槽12AにアルミニウムウェブWが導入される電解槽入口部に設けられ、金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させる水酸化物イオン発生手段として、アルミニウムウェブWに負の直流電圧を印加する直流電流部26を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解処理方法及び装置、並びに平版印刷版の製造方法及び装置に係り、特に、連続したアルミニウム板を電解粗面化する際のチャターマークの発生を効果的に抑制できる電解処理方法及び装置、並びに平版印刷版の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版の原版である平版印刷原版は、一般的に、純アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、「アルミニウム等」ということがある。)の板の表面を粗面化し、次いで前記表面を陽極酸化処理することにより平版印刷版用支持体を作成する。そして、この平版印刷版用支持体に感光性樹脂又は感熱性樹脂を塗布して感光性又は感熱性の製版層を形成するという手順に従って作製される。
【0003】
このような平版印刷版原版の製造工程において、長尺なアルミニム板であるアルミニウムウェブは、ブラシローラ又研磨ローラ等による機械的粗面化処理、アルカリで化学的に粗面化するエッチング処理、及びアルミニウムウェブを電極の一方として電解処理する電解粗面化処理等により粗面化される。
【0004】
電解粗面化処理は、通常、酸性電解液中でアルミニウムウェブに正弦波電流、矩形波電流、又は台形波電流等の交番波形電流を印加して行なうので、電解槽の入口において、アルミニウムウェブに正電圧及び負電圧が交互に印加される。
【0005】
アルミニウムウェブに正電圧が印加されるとアノード反応が起き、負電圧が印加されるとカソード反応が起きる。カソード反応時には、水酸化物イオンが生成し、液中のアルミイオンと反応して水酸化アルミニウムを主体とする析出物が生成し、アノード反応時には、酸化皮膜が形成され、皮膜欠陥部が溶解し、ピットと称する蜂の巣状の小孔が生じる。
【0006】
したがって、電解槽内を通過するアルミニウムウェブは、電解槽の入口において正電圧が印加されると先ずアノード反応をし、負電圧が印加されると先ずカソード反応をする。そして、蜂の巣状の小孔のうちでも、アノード反応から交流電解処理が開始するとアルミニウムウェブの表面に大きさの不均一な孔が形成されやすく、カソード反応から交流電解処理が開始すると大きさの均一な孔が形成され易い。
【0007】
これにより、電解槽の入口において印加される電流の極性によってアルミニウムウェブの表面状態が異なる。つまり、アノード反応から交流電解処理が開始した箇所とカソード反応から交流電解処理が開始した箇所では表面状態が異なるため、アルミニウムウェブの表面には、図5に示すうように、濃く見える部分1と薄く見える部分2とがアルミニウムウェブの搬送方向に1cm程度の間隔で順番に現れる縞状の濃淡ムラ、即ちチャターマークが生じることがある。なお、図5では、チャターマークを説明するために濃淡を誇張して示している。
【0008】
これらを解決するための手段として、例えば特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1では、電解槽の入口部に、電解槽内部において印加される交番波形の電流密度よりも低い電流密度で電解処理するソフトスタート部を備えた電解処理装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、アノード反応により金属板表面に予め酸化膜を形成してから交流電解処理することでチャターマークを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−003299号公報
【特許文献2】特開2007−270217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2では、チャターマークの抑制効果が不十分であるという問題がある。また、特許文献2の場合、金属板表面に形成する酸化膜の厚みは0.1〜1μmの範囲が好適であり、それ以上厚過ぎると、交流電解処理時のアノード反応で孔が形成されにくく、目的とする表面状態と大きく異なってしまう。したがって、好適な酸化膜の厚みにするには低電流密度にする必要があり制御が難しいという問題もある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する際に、チャターマークの発生を効果的に抑制できる電解処理方法及び装置、並びに平版印刷版の製造方法及び装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1の電解処理方法は前記目的を達成するために、帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する電解処理方法において、前記交流電解処理の工程を行う前に、前記金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH−)を分布させる前処理工程を行うことを特徴とする。
【0014】
本願請求項1の発明によれば、交流電解処理の工程を行う前に、金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH−)を分布させる前処理工程を行うようにした。これにより、金属板への交流電解処理がアノード反応から開始した箇所であっても、水酸化物イオンが金属表面に分布することでアノード反応を抑制することができる。これにより、金属板の表面に大きさの不均一な孔が形成されにくく、交流電解処理がカソード反応から開始した箇所と同程度になる。この結果、アルミニウムウェブの孔の大きさが均一化されるので、チャターマークの発生を十分に抑制することができる。
【0015】
本発明の電解処理方法において、前記水酸化物イオンは、前記交流電解処理工程を行う電解槽内において、前記金属板に5〜15mmの極間距離で負の直流電圧を印加してカソード反応を行うことにより形成することが好ましい。
【0016】
金属板に負の直流電圧を印加してカソード反応を行うことで水酸化物イオンを発生させることができるので、帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に電解処理する際に、交流電解処理の開始反応が異なっても、チャターマークの発生を効果的に抑制できる。
【0017】
この場合、前処理工程を交流電解処理工程の電解槽内で行うことが重要になる。これにより、金属板が大気中に露出することがないので、金属板表面にせっかく付着した水酸化物イオンが大気中に拡散してしまうことを防止できる。
【0018】
また、極間距離が15mmよりも長いと、発生した水酸化物イオンが電解液中で拡散されてしまい金属板表面に充分に水酸化物イオンを分布させることができない。これにより、金属板表面に付着する水酸化物イオンの量が少なくなるので、チャターマークを抑制する効果を十分に発揮できない。また、15mmよりも長い極間距離で金属板表面に充分に水酸化物イオンを分布させようとすれば、大きな電流密度を必要としエネルギーロスになる。 アルミニウムウェブに正電圧が印加されるとカソード反応が起き、負電圧が印加されるとアノード反応が起きる。カソード反応時には、水酸化アルミニウムを主体とする酸化皮膜が生成し、アノード反応時には、酸化膜が溶解してピットと称する蜂の巣状の小孔が生じる。
【0019】
一方、極間距離が5mmよりも短いと、負電圧を印加して直流電流を流す直流発生部が搬送される金属板に接触する虞がある。
【0020】
本発明は、金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させることができる方法であれば、どのような方法でもよい。しかし、金属板に負の直流電圧を印加して直流電流を流す方法であれば、既存装置の簡単な改良で対応することができる。
【0021】
本発明の電解処理方法においては、前記カソード反応の電流密度は−10A/dm以下であることが好ましい。より好ましい電流密度は−30A/dm以下であり、−50A/dm以下が特に好ましい。なお、負の直流電圧であることから、「−10A/dm以下」と表現したが、電流密度の絶対値は大きくなる方が好ましい。
【0022】
本発明の電解処理方法は、電流密度が−10A/dm以下においてチャターマークの発生の抑制効果が大きくなると共に、電流密度が−10A/dm以上の低電流密度では制御が不安定になる。
【0023】
本発明の電解処理方法においては、前記前処理工程から前記交流電解処理工程までの時間は、5秒以下であることが好ましい。これは、前処理工程が終了してから交流電解処理工程が開始されるまでの時間が長過ぎると、金属板の表面に存在する水酸化物イオンが拡散してしまい、アノード反応の反応抑制効果が失われるためである。より好ましい時間は1秒以下であり特に好ましい時間は0.1秒以下である。
【0024】
本願請求項5の電解処理装置は前記目的を達成するために、帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する電解処理装置において、前記酸性電解液を貯留し、内部を前記金属板が搬送される電解槽と、前記電解槽に前記金属板が導入される電解槽入口部に設けられ、前記金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させる水酸化物イオン発生手段と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
本願請求項5は、本発明の電解処理を装置として構成したものである。
【0026】
本発明の電解処理装置においては、前記水酸化物イオン分布手段は、前記電解槽内であって、前記金属板に対して5〜15mmの極間距離に設けられ、前記金属板に負の直流電圧を印加する直流電流部であることが好ましい。
【0027】
本願請求項7の平版印刷版の製造方法は前記目的を達成するために、アルミニウム板を電解粗面化する電解粗面化処理工程を有する平版印刷版の製造方法において、前記電解粗面化処理工程に、請求項1〜4の何れか1の電解処理方法を用いることを特徴とする。
【0028】
平版印刷版の製造方法における電解粗面化処理に本発明の電解処理方法を用いるようにしたので、チャターマークの発生を効果的に抑制できる。尚、アルミニウム板は、アルミニウム合金板も含まれる。
【0029】
本願請求項8の平版印刷版の製造装置は前記目的を達成するために、アルミニウム板を電解粗面化する電解粗面化処理装置を有する平版印刷版の製造装置において、前記電解粗面化処理工程に、請求項5又は6の電解処理装置を用いることを特徴とする。
【0030】
本願請求項8は、本発明の平版印刷版の製造を装置として構成したものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する際に、交流電解処理がアノード反応から開始した箇所において、大きさの均一な孔を形成することが可能となり、交流電解処理がカソード反応から開始した箇所と同程度になる。その結果、チャターマークの発生を効果的に抑制できる。
【0032】
したがって、本発明の電解処理方法及び装置を、平版印刷版の製造方法及び装置に適用すれば、良質な粗面化処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態におけるラジアル型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の一例を示す断面図
【図2】アルミニウム板表面に水酸化物イオンが分布している模式図
【図3】交流電解処理がアノード反応から開始された場合にアルミニウム板表面に形成される小孔の模式図
【図4】交流電解処理がカソード反応から開始された場合にアルミニウム板表面に形成される小孔の模式図
【図5】チャターマークの説明する模式図
【図6】実施例を説明する表図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面に従って本発明に係る電解処理方法及び装置、並びに平版印刷版の製造方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0035】
本実施形態では、連続した帯状のアルミニウム板であるアルミニウムウェブを交流電解して電解粗面化処理する電解粗面化処理装置のうち、ラジアル型のものに本発明を適用した一例につき、以下に説明する。
【0036】
図1は、本発明に好適に用いられるラジアル型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の一例の断面模式図を示す。
【0037】
図1に示されるように、電解粗面化処理装置10は、酸性電解液が貯留される電解槽12Aが内部に設けられた電解槽本体12と、電解槽12A内部に、水平方向に伸びる軸線の周りに回転可能に配設され、帯状に連続した薄板であるアルミニウムウェブWを矢印aの方向、即ち図1における右方から左方に向かって送る送りローラ14と、を備えている。
【0038】
電解槽12Aの内壁面は、送りローラ14を囲むように略円筒状に形成され、電解槽12Aの内壁面上には、半円筒状の電極16A及び16Bが送りローラ14を挟んで設けられている。電極16A及び16Bは、それぞれ円周方向に沿って複数の小電極18A及び18Bに分割され、各小電極18A及び18Bの間には、それぞれ絶縁層20A及び20Bが介装されている。小電極18A及び18Bは、例えば、グラファイトや金属等を用いて形成でき、絶縁層20A及び20Bは、例えば塩化ビニル樹脂等により形成できる。絶縁層20A及び20Bの厚さは、1〜10mmが好ましい。また、図1では省略されているが、電極16A及び16Bの何れにおいても、小電極18A及び18Bは、それぞれ電源ACに接続されている。小電極18A、18B、及び絶縁層20A、20Bは、何れも絶縁性の電極ホルダー20Cによって保持されて電極16A及び16Bを形成している。
【0039】
電源ACは、交番波形電流を電極16A及び16Bに供給する機能を有する。電源ACは、誘導電圧調整器及び変圧器を用いて商用交流を電流・電圧調整することにより正弦波を発生させる正弦波発生回路、商用交流を整流する等の手段により得られた直流から台形波電流又は矩形波電流を発生させるサイリスタ回路等が挙げられる。
【0040】
電解槽12Aの上部には、交流電解粗面化処理時において、本実施形態の金属板の一例であり、連続帯状のアルミニウム板であるアルミニウムウェブWが導入及び導出される開口部12Bが形成されている。開口部12Bにおける電極16Bの下流側末端近傍には、電解槽12Aに酸性電解液を補充する酸性電解液補充流路22が設けられている。このような酸性電解液としては、硝酸溶液及び塩酸溶液等が使用できる。
【0041】
電解槽12Aの上方における開口部12B近傍には、アルミニウムウェブWを電解槽12A内部に案内する一群の上流側案内ローラ24Aと、電解槽12A内で電解粗面化処理されたアルミニウムウェブWを電解槽12Aの外部に案内する下流側案内ローラ24Bとが配設されている。
【0042】
電解槽本体12における電解槽12Aの上流側には、溢流槽12Cが設けられている。溢流槽12Cは、電解槽12Aから溢流した酸性電解液を一時貯留し、電解槽12Aの液面高さを一定に保持する機能を有する。
【0043】
アルミニウムウェブWを電解槽12A内部に案内する入口部近傍の電解液中には、アルミニウムウェブWの表面に対して5〜15mmの位置に、アルミニウムウェブWに負の直流電圧を印加する直流電流部26が設けられる。直流電流部26は、電解槽12A内部の入口において、常時、アルミニウムウェブWに負の直流電圧を印加して、アルミニウムウェブWに直流電流を流す機能を有している。
【0044】
電解槽本体12における電解槽12Aの下流側には、補助電解槽28が設けられている。補助電解槽28は、電解槽12Aよりも浅く、底面28Aが平面状に形成されている。そして、底面28A上には、円柱状の補助電極29が複数本設けられている。
【0045】
補助電極29は、白金等の高耐食性の金属又はフェライト等から形成されたものが好ましく、また、板状であってもよい。
【0046】
補助電極29は、交流電源ACにおける電極16Aが接続される側に、電極16Aに対して並列に接続され、中間には、サイリスタTh1が、点弧時において交流電源ACにおける電極16Aに接続された側から補助電極29に向う方向に電流が流れるように接続されている。
【0047】
また、交流電源ACにおける電極16Bが接続された側にも、サイリスタTh2を介して補助電極29に接続されている。サイリスタTh2は、点弧時に交流電源ACにおける電極16Bに接続された側から補助電極29に向う方向に電流が流れるように接続されている。
【0048】
サイリスタTh1及びTh2の何れを点弧したときも、補助電極29にはアノード電流が流れる。従って、サイリスタTh1及びTh2を位相制御することにより、補助電極29に流れるアノード電流の電流値を制御でき、アルミニウムウェブWがカソードの時に流れる電気量Qcとアノードの時に流れる電気量Qaとの比率Qc/Qaも制御できる。
【0049】
また、補助電極29と直流電流部26とは、直流電源を介して接続されている。
【0050】
交流の周波数は、特に限定されないが、40〜120Hzであるのが好ましく、40〜80Hzであるのがより好ましく、50〜60Hzであるのが更に好ましい。
【0051】
また、アルミニウムウェブWに対して、アノード反応の時に流れる電気量Qaとカソード反応の時に流れる電気量Qcとの比Qc/Qaが0.9〜1であることが好ましく、0.95〜0.99であるよりことがより好ましい。これにより、アルミニウムウェブWの表面に均一なハニカムピットを形成することができる。
【0052】
交流のdutyは、特に限定されないが、アルミニウムウェブWの表面に均一に粗面化処理を施す点及び電源装置の製作の点からは、0.33〜0.66であるのが好ましく、0.4〜0.6であるのがより好ましく、0.5であるのが最も好ましい。尚、本実施形態において「duty」とは、交流の周期をT、アルミニウム合金板が陽極反応する時間(アノード反応時間)をtaとしたときのta/Tをいう。
【0053】
交流における電流値がゼロから正又は負のピークに達するまでの時間TPは、台形波電流である場合においては、0.5〜6msecであるのが好ましく、0.6〜5msecであるのがより好ましい。これにより、アルミニウムウェブWの表面に、より均一なクレーター状の凹部(ピット)を形成できる。
【0054】
電解粗面化処理における開始時から終了時までの電気量は、アルミニウムウェブWがアノードの時の総和で、10〜1000C/dmであるのが好ましく、10〜800C/dm2であるのがより好ましく、40〜500C/dmであるのが更に好ましい。
【0055】
交流におけるアノードサイクル側のピーク時の電流Iap、及びカソードサイクル側のピーク時の電流Icpは、それぞれ10〜100A/dmであるのが好ましく、20〜80A/dm2であるのがより好ましく、30〜60A/dmであるのが更に好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5であるのが好ましく、0.9〜1.0であるのがより好ましい。
【0056】
電解粗面化処理においては、1又は2以上の電解槽において、アルミニウムウェブWに交流が流れない休止期間を1回以上設け、休止期間の長さを0.001〜0.6秒とすると、ハニカムピットがアルミニウムウェブWの表面全体に均一に形成されるので好ましい。
【0057】
以下、本実施形態における電解粗面化処理装置10の作用について説明する。
【0058】
図1における右方から電解槽本体12Aに案内されたアルミニウムウェブWは、先ず、上流側案内ローラ24Aによって電解槽12Aの内部に案内される。
【0059】
電解槽12Aの内部に導入されたアルミニウムウェブWは、最初に、直流電流部26を通過する。このとき、直流電流部26により、アルミニウムウェブWに負の直流電圧が印加され、アルミニウムウェブWではカソード反応が起こる。これにより、図2に示すように、アルミニウムウェブWの直流電流部26に向いた側の面に水酸化物イオン(OH)が多数発生し、アルミニウムウェブWの表面に分布する。
【0060】
表面に水酸化物イオンが分布されたアルミニウムウェブWは、直流電流部26を通過したのち、電極16Aに沿って搬送され、電源ACから電極16Aに印加された交番波形電流により交流電解を行う。即ち、電極16Aに向いた側のアルミニウムウェブWの面がアノード反応又はカソード反応を交互に行う交流電解を行う。この交流電解処理は、アノード反応から開始されるか、カソード反応から開始されるかは決まっていない。
【0061】
交流電解におけるアノード反応は、下記の1式に記載するように、アルミニウムが溶けてアルミニウムイオン(Al3+)と電子(e)を生成する反応である。
【0062】
[アノード反応]Al→Al3++3e…1式
また、交流電解におけるカソード反応は、下記の2式に示すように、水素イオン(H)と電子(e)とにより水素ガスが発生する反応である。このため、アルミニウムウェブWの表面に水酸化物イオン(OH)が生成し、下記の3式に示すように、アルミニウムイオン(Al3+)と反応して水酸化物(Al(OH))が生成する。
【0063】
[カソード反応]2H+2e→H…2式
Al3++3OH→Al(OH)…3式
そして、図3は、アルミニウムウェブWの表面に水酸化物イオンが分布されていない状態でアノード反応から交流電解処理が開始した箇所のアルミニウムウェブWの表面状態である。図3から分かるように、孔の大きさは不均一である。一方、図4は、カソード反応から交流電解処理が開始した箇所、つまり、アルミニウムウェブWの表面に水酸化物イオンが分布した状態から交流電解処理が開始した箇所のアルミニウムウェブWの表面状態である。図4から分かるように、孔の大きさは均一である。これらの表面形状差により、光が当たったときに濃く見える部分と薄く見える部分とがアルミニウムウェブの搬送方向に交互に形成される、いわゆるチャターマークが発現する。
【0064】
しかし、本発明のように、交番波形電流により連続的に電解処理する前のアルミニウムウェブWの表面に水酸化物イオンを分布させておけば、アノード反応から交流電解処理が開始された場合であっても、水酸化物イオンによりアノード反応が抑制されるので、アルミニウムウェブWの表面に形成される孔の大きさを均一にすることができる。これにより、チャターマークの発現を効果的に抑制できる。
【0065】
このときに重要な点は、上記したように、交流電解する電解槽12Aの内部で水酸化物イオンを発生させることであり、更にはアルミニウムウェブWの表面と直流電流部26との極間距離Lを5〜15mmの範囲に設定することである。
【0066】
電解槽本体12Aの内部で水酸化物イオンを発生させることにより、アルミニウムウェブWが大気中に露出することがないので、アルミニウムウェブW表面にせっかく付着した水酸化物イオンが大気中に拡散してしまうことを防止できる。
【0067】
また、極間距離Lが15mmよりも長いと、発生した水酸化物イオンが電解液中で拡散されてしまいアルミニウムウェブWの表面に充分に水酸化物イオンを分布させることができない。これにより、アルミニウムウェブW表面に付着する水酸化物イオンの量が少なくなるので、チャターマークを抑制する効果を発揮できない。また、15mmよりも長い極間距離Lで金属板表面に充分に水酸化物イオンを分布させようとすれば、大きな電流密度を必要とし、エネルギーロスになる。
【0068】
一方、極間距離Lが5mmよりも短いと、負電圧を印加して直流電流を流す直流電流部26が搬送されるアルミニウムウェブWに接触する虞がある。
【0069】
また、直流電流部26からアルミニウムウェブWに流れる電流密度は−10A/dm以下であることが好ましく、より好ましい電流密度は−30A/dm以下であり、−50A/dm以下が特に好ましい。電流密度が−10A/dm以下であれば、チャターマークの抑制効果を発揮するが、電流密度を低く(絶対値は大きくする)するほうが、チャターマーク抑制効果が大きくなると共に、電流密度の制御も容易になる。
【0070】
以上のように、本実施形態の電解粗面化処理装置10においては、電解処理の工程を行う前に、アルミニウムウェブWの表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させる前処理工程を行うようにしたので、アルミニウムウェブWを酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に電解処理する際に、交流電解処理がアノード反応から開始した箇所において、大きさの均一な孔を形成することが可能となり、チャターマークの発生を効果的に抑制できる。
【0071】
また、本実施形態における電解粗面化処理装置10は、従来の電解粗面化装置に新たに付加する部品が少ないため、従来の電解粗面化装置から安価に改造できるという特徴も有する。
【0072】
なお、本実施の形態では、アルミニウムウェブWに対して負の直流電圧を印加する直流電流部26を設けることで水酸化物イオンを発生させるようにしたが、アルミニウムウェブWの表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させることができる方法であれば、どのような方法でもよい。例えば、別の装置で水を電気分解して水酸化物イオンを生成させ、水酸化物イオンを含む水を、交流電解処理する直前のアルミニウムウェブWの表面に接触させるようにしてもよい。
【0073】
以下に、本発明の電解処理方法及び装置を適用した例として、平版印刷版を製造する方法について説明する。
【0074】
<アルミニウムウェブ(圧延アルミ)>
本実施形態のアルミニウムウェブWとして使用されるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属である。アルミニウム板には、既述したように、アルミニウム合金板も含まれており、以下、これらを総称してアルミニウム板という。
【0075】
アルミニウム板としては、アルミニウム合金がラミネートされ又は蒸着されたプラスチックフィルム又は紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。また、アルミニウム板は、Bi、Ni等の元素や不可避不純物を含有することができる。
【0076】
アルミニウム板は、従来より公知公用の素材のもの、例えば、JIS A1050、JIS A1100、JIS A3003、JISA3004、JIS A3005、国際登録合金3103A等のアルミニウム板を適宜利用することができる。
【0077】
また、アルミニウム板の製造方法は、連続鋳造方式及びDC鋳造方式のいずれでもよく、DC鋳造方式の中間焼鈍や、均熱処理を省略したアルミニウム板も用いることができる。最終圧延においては、積層圧延や転写等により凹凸を付けたアルミニウム板を用いることもできる。また、アルミニウム板は、連続した帯状のシート材又は板材である、アルミニウムウェブであってもよく、製品として出荷される平版印刷版原版に対応する大きさ等に裁断された枚葉状シートであってもよい。
【0078】
また、アルミニウム板の厚さは、通常、0.05〜1mm程度であり、0.1mm〜0.5mmであるのが好ましい。この厚さは印刷機の大きさ、印刷版の大きさ及びユーザの希望により適宜変更することができる。
【0079】
本実施形態における平版印刷版原版の製造方法においては、上記アルミニウム板に、酸性水溶液の中での電解粗面化処理を含む各種表面処理を施して平版印刷版原版を得るが、この表面処理には、更に各種の処理が含まれていてもよい。
【0080】
電解粗面化処理の前には、アルカリエッチング処理又はデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理の後には、アルカリエッチング処理又はデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理後のアルカリエッチング処理は、省略することもできる。本発明においては、これらの処理の前に機械的粗面化処理を施すのも好ましい。また、電解粗面化処理を2回以上行ってもよい。また、これらの後に、陽極酸化処理、封孔処理、親水化処理等を施すのも好ましい。
【0081】
以下、機械的粗面化処理、第1アルカリエッチング処理、第1デスマット処理、電解粗面化処理、第2アルカリエッチング処理、第2デスマット処理、陽極酸化処理、封孔処理及び親水化処理のそれぞれについて、詳細に説明する。尚、本実施形態においては、電解粗面化処理の前に行う処理に「第1」という序数をつけて呼び、電解粗面化処理の後に行う処理に「第2」という序数をつけて呼ぶ場合がある。
【0082】
<機械的粗面化処理>
機械的粗面化処理は、電解粗面化処理の前に行うのが好ましい。機械的粗面化処理は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(登録商標)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウムウェブの表面の一方又は両方を擦ることにより行う。上記ローラ状ブラシ及びスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。ローラ状ブラシにおけるブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径及び胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
【0083】
研磨剤は公知の物が使用できる。例えば、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤、又はこれらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましいが、特にケイ砂はパミストンに比べて硬く、壊れにくいので、粗面化効率が優れる点で好ましい。研磨剤の平均粒径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、3〜50μmであるのが好ましく、6〜45μmであるのがより好ましい。研磨剤としてパミストンを用いる場合、平均粒径が40〜45μmであるのが特に好ましく、また、研磨剤としてケイ砂を用いる場合、平均粒径が20〜25μmであるのが特に好ましい。研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、研磨スラリー液として用いる。研磨スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。平均粒径とは、研磨スラリー液中に含有される全研磨剤の体積に対し、各粒径の研磨剤粒子の占める割合の累積分布をとったとき、累積割合が50%となる粒径をいう。
【0084】
また、機械的粗面化処理においては、まず、ブラシグレイニングを行うに先立ち、所望により、アルミニウムウェブの表面の圧延油を除去するための脱脂処理、例えば、界面活性剤、有機溶剤、アルカリ性水溶液等による脱脂処理が行われてもよい。
【0085】
<第1アルカリエッチング処理>
第1アルカリエッチング処理は、上記アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させることにより、エッチングを行う。第1アルカリエッチング処理は、機械的粗面化処理を行っていない場合には、アルミニウムウェブ(圧延アルミ)の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜を除去することを目的として、また、機械的粗面化処理を行った場合には、機械的粗面化処理によって生成した凹凸のエッジ部分を溶解させ、滑らかなうねりを持つ表面を得ることを目的として行われる。アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルカリ溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを通過させる方法、アルカリ溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを浸漬させる方法、アルカリ溶液をアルミニウムウェブの表面に噴き付ける方法等が挙げられる。
【0086】
エッチング量は、次の工程で電解粗面化処理を施す面については、1〜15g/m2 であるのが好ましく、電解粗面化処理を施さない面については、0.1〜5g/m2 (電解粗面化処理を施す面の約10〜40%)であるのが好ましい。
【0087】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、タケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点及び安価である点から、カセイアルカリの溶液、及び、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0088】
アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜120秒であるのが好ましい。エッチング処理の量は、1〜15g/m2溶解するのが好ましく、3〜12g/m2溶解するのがより好ましい。第1アルカリエッチング処理は、アルミニウムウェブのエッチング処理に通常用いられるエッチング槽を用いて行うことができる。エッチング槽としては、バッチ式及び連続式のいずれも用いることができる。また、アルカリ溶液をアルミニウムウェブの表面に噴きかけて第1アルカリエッチング処理を行う場合は、スプレー装置を用いることができる。
【0089】
<第1デスマット処理>
第1デスマット処理は、例えば、上記アルミニウムウェブを塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウムウェブを酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、酸性溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを通過させる方法、酸性溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを浸漬させる方法、酸性溶液をアルミニウムウェブの表面に噴き付ける方法が挙げられる。第1デスマット処理においては、酸性溶液として、後述する電解粗面化処理において排出される硝酸を主体とする水溶液もしくは塩酸を主体とする水溶液の廃液、又は、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を主体とする水溶液の廃液を用いるのが好ましい。第1デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、第1デスマット処理の処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。
【0090】
<電解粗面化処理>
ここでは、本発明に係る電解粗面化処理装置10を適用して電解粗面化処理を行う。
【0091】
電解粗面化処理で使用される酸性水溶液としては、特に限定されないが、硝酸を主体とする水溶液及び塩酸を主体とする水溶液が好ましい。硝酸を主体とする水溶液は、硝酸濃度が3〜20g/Lであるのが好ましく、5〜15g/Lであるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、3〜7g/Lであるのがより好ましい。硝酸を主体とする水溶液におけるアルミニウムイオンの濃度は、硝酸濃度の硝酸水溶液に硝酸アルミニウムを添加することにより調整することができる。塩酸を主体とする水溶液は、塩酸濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、5〜10g/Lであるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、3〜7g/Lであるのがより好ましい。塩酸を主体とする水溶液におけるアルミニウムイオンの濃度は、上記塩酸濃度の塩酸水溶液に塩化アルミニウムを添加することにより調整することができる。
【0092】
<第2アルカリエッチング処理>
第2アルカリエッチング処理は、上記アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させることにより、エッチングを行う。アルカリの種類、アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させる方法及びそれに用いる装置は、第1アルカリエッチング処理の場合と同様のものが挙げられる。エッチング量は、電解粗面化処理を施した面については、0.001〜5g/m2であるのが好ましく、0.01〜3g/m2であることがより好ましく、0.05〜2g/m2であることがさらに好ましい。
【0093】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、第1アルカリエッチング処理の場合と同様のものが挙げられる。アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、0.01〜80質量%であるのが好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。後述する第2デスマット処理において、硫酸を100g/L以上含有し、かつ、液温が60℃以上である酸性溶液を用いるときは、第2アルカリエッチング処理を省略することもできる。
【0094】
<第2デスマット処理>
第2デスマット処理は、例えば、上記アルミニウムウェブをリン酸、塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウムウェブを酸性溶液に接触させる方法は、第1デスマット処理の場合と同様のものが挙げられる。第2デスマット処理においては、酸性溶液として、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸溶液の廃液を用いるのが好ましい。また、廃液の代わりに、硫酸濃度が100〜600g/L、アルミニウムイオン濃度が1〜10g/Lであり、液温が60〜90℃である硫酸溶液を用いることもできる。第2デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、第2デスマット処理の処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。第2デスマット処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウム及びアルミニウム合金成分が溶け込んでいてもよい。
【0095】
<陽極酸化処理>
上記の如く処理されたアルミニウムウェブには、更に、陽極酸化処理が施されるのが好ましい。陽極酸化処理はこの分野で従来の方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等の単独の又は2種以上を組み合わせた水溶液又は非水溶液である電解液の中で、アルミニウムウェブに直流、脈流又は交流を流すとアルミニウムウェブの表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0096】
中でも、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸にアルミニウムを添加することにより調製することができる。
【0097】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブに直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。アルミニウムウェブに直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブの一部に電流が集中していわゆる「焼け」が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/dm2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2又はそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブに、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
【0098】
アルミニウムウェブに給電する電極としては、鉛、酸化イリジウム、白金、フェライト等により形成された電極を用いることができる。中でも、主に酸化イリジウムから形成された電極、及び、基材の表面を酸化イリジウムで被覆した電極が好ましい。そのような基材としては、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等のいわゆるバルブ金属を用いるのが好ましく、バルブ金属の中でも、チタン、ニオブが好ましい。バルブ金属は、比較的電気抵抗が大きいため、銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドして基材を形成させてもよい。銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドする場合には、複雑な形状の基材を作製することは困難であるため、基材を部品毎に分割した形態の芯材にバルブ金属をクラッドし、その後、各部品を組み合わせて基材を組み立ててもよい。
【0099】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度1〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜300秒であるのが適当である。陽極酸化処埋は、陽極酸化皮膜量が1〜5g/m2になるように行うのが、平版印刷版の耐刷性の点から好ましい。また、アルミニウムウェブの中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
【0100】
<封孔処理>
陽極酸化皮膜を形成させたアルミニウム合金板を、沸騰水、熱水または水蒸気に接触させて陽極酸化処理に存在する小孔(マイクロポア)を封じる封孔処理を行うことが好ましい。
【0101】
<親水化処理>
陽極酸化処理後又は封孔処理後、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマー又は親水性化合物を塗布して親水性の下塗り層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホン酸基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0102】
<中間層>
上記の親水化処理した平版印刷版用支持体、あるいは親水化処理後さらに酸性水溶液処理した平版印刷版用支持体の上に直接感光層を設けることができるが、必要に応じて、上記各支持体上に中間層を設け、該中間層上に感光層を設けることもできる。
(酸基とオニウム基とを有する高分子化合物の中間層)
中間層形成に用いる高分子化合物として、酸基を有する、あるいは、酸基を有する構成成分と共にオニウム基を有する構成成分をも有する高分子化合物が一層好適に用いられる。この高分子化合物の構成成分の酸基としては、酸解離指数(pKa)が7以下の酸基が好ましく、より好ましくは−COOH、−SOH、−OSOH、−PO、−OPO、−CONHSO、−SONHSO−であり、特に好ましくは−COOHである。好適なる酸基を有する構成成分は、下記の一般式(1)あるいは一般式(2)で表される重合可能な化合物である。
【0103】
【化1】

【0104】
式中、Aは2価の連結基を表す。Bは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。D及びEはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Gは3価の連結基を表す。X及びX′はそれぞれ独立してpKaが7以下の酸基あるいはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩を表す。R1 は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0又は1を表す。tは1〜3の整数である。酸基を有する構成成分の中でより好ましくは、Aは−COO−又はCONH−を表し、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立してアルキレン基あるいは分子式がCnHnO、CnHnSあるいはCnH2n+1Nで表される2価の連結基を表す。Gは分子式がCnHn−1、CnHn−1O、CnHn−1SあるいはCnHnNで表される3価の連結基を表す。但し、ここでnは1〜12の整数を表す。X及びX′はそれぞれ独立してカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、硫酸モノエステルあるいは燐酸モノエステルを表す。R1は水素原子又はアルキル基を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0又は1を表すが、aとbは同時に0ではない。酸基を有する構成成分の中で特に好ましくは一般式(1)で示す化合物であり、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。R1は水素原子あるいはメチル基を表す。Xはカルボン酸基を表す。aは0であり、bは1である。
【0105】
酸基を有する構成成分の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられ、さらに下記のものが挙げられる。
【0106】
【化2】

【0107】
【化3】

【0108】
【化4】

【0109】
上記のような酸基を有する構成成分は、1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。
(オニウム基を有する高分子化合物の中間層)
また、上記中間層形成に用いられる高分子化合物の構成成分のオニウム基として好ましいものは、周期律表第V族あるいは第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子あるいはイオウ原子からなるオニウム基であり、特に好ましくは窒素原子からなるオニウム基である。また、この高分子化合物は、その主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーあるいはウレタン樹脂あるいはポリエステルあるいはポリアミドであるポリマーが好ましい。中でも、主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーがさらに好ましい。特に好ましい高分子化合物は、オニウム基を有する構成成分が下記の一般式(3)、一般式(4)あるいは一般式(5)で表される重合可能な化合物であるポリマーである。
【0110】
【化5】

【0111】
式中、Jは2価の連結基を表す。Kは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。Mはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Y1 は周期律表第V族の原子を表し、Y2は周期律表第VI族の原子を表す。Z- は対アニオンを表す。R2は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表す。R3,R4,R5,R7はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよいアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6はアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3とR4あるいはR6とR7はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0又は1を表す。uは1〜3の整数を表す。オニウム基を有する構成成分の中でより好ましくは、Jは−COO−又はCONH−を表し、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。Mはアルキレン基あるいは分子式がCnHnO、CnHnSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。但し、ここでnは1〜12の整数を表す。Y1 は窒素原子又はリン原子を表し、Y2はイオウ原子を表す。Z- はハロゲンイオン、PF- 、BF- あるいはRSO- を表す。R2は水素原子又はアルキル基を表す。R3,R4,R5,R7はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよい炭素数1〜10のアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6は炭素数1〜10のアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3とR4あるいはR6とR7はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0又は1を表すが、jとkは同時に0ではない。オニウム基を有する構成成分の中で特に好ましくは、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。Mは炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。Z- は塩素イオンあるいはRSO- を表す。R2は水素原子あるいはメチル基を表す。jは0であり、kは1である。
【0112】
<感光層>
上記中間層が形成される前の平版印刷版用支持体又は上記中間層が形成された平版印刷版用支持体に感光層を設けることにより、平版印刷版原版を得ることができる。
【0113】
感光層は、特に限定されないが、例えば、通常の可視光で露光する可視光露光型製版層、赤外線レーザ光等のレーザ光で露光するレーザ露光型製版層が挙げられる。以下、可視光露光型製版層及びレーザ露光型製版層について説明する。
【0114】
(1)可視光露光型製版層
可視光露光型製版層は、感光性樹脂及び必要に応じて着色剤等を含有する組成物により形成することができる。感光性樹脂としては、光が当たると現像液に溶けるようになるポジ型感光性樹脂、光が当たると現像液に溶解しなくなるネガ型感光性樹脂が挙げられる。ポジ型感光性樹脂としては、例えば、キノンジアジド化合物、ナフトキノンジアジド化合物等のジアジド化合物と、フェノールノボラック樹脂、クレゾール−ノボラック樹脂等のフェノール樹脂との組み合わせが挙げられる。ネガ型感光性樹脂としては、例えば、ジアゾ樹脂(例えば、芳香族ジアゾニウム塩とホルムアルデヒド等のアルデヒド類との縮合物)、前記ジアゾ樹脂の無機酸塩、前記ジアゾ樹脂の有機酸塩等のジアゾ化合物と、(メタ)アクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の結合剤との組み合わせ、(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂等のビニルポリマーと、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等のビニル重合性化合物と、ベンゾイン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体等の光重合開始剤との組み合わせが挙げられる。
【0115】
上記着色剤としては、通常の色素のほか、露光により発色する露光発色色素、露光によりほとんど又は完全に無色になる露光消色色素等を用いることができる。露光発色色素としては、例えば、ロイコ色素が挙げられる。露光消色色素としては、例えば、トリフェニルメタン系色素、ジフェニルメタン系色素、オキザジン系色素、キサンテン系色素、イミノナフトキノン系色素、アゾメチン系色素、アントラキノン系色素が挙げられる。
【0116】
可視光露光型製版層は、例えば、上記感光性樹脂と上記着色剤とを溶剤に配合した感光性樹脂溶液を塗布し、その後、乾燥させることにより形成することができる。感光性樹脂溶液に用いられる溶剤としては、上記感光性樹脂を溶解することができ、かつ、室温である程度の揮発性を有する溶剤が挙げられる。具体的には、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、アミド系溶剤、炭酸エステル系溶剤が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトンが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸メチル、ギ酸エチルが挙げられる。エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサンが挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブが挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが挙げられる。炭酸エステル系溶剤としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸ジブチルが挙げられる。
【0117】
感光性樹脂溶液の塗布方法は、特に限定されず、回転塗布法、ワイヤーバー塗布法、ディップ塗布法、エアーナイフ塗布法、ロール塗布法、ブレード塗布法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0118】
(2)レーザ露光型製版層
レーザ露光型製版層としては、例えば、レーザ光を照射した部分が残存するネガ型レーザ製版層、レーザ光を照射した部分が除去されるポジ型レーザ製版層、レーザ光を照射すると光重合する光重合型レーザ製版層が主なものとして挙げられる。
【0119】
ネガ型レーザ製版層は、(A)熱又は光により分解して酸を発生させる酸前駆体、(B)酸前駆体(A)が分解して発生した酸により架橋する酸架橋性化合物、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)赤外線吸収剤、及び(E)フェノール性水酸基含有化合物を適当な溶剤に溶解させ、又は懸濁させたネガ型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。
【0120】
酸前駆体(A)としては、例えば、イミノフォスフェート化合物のように、紫外光、可視光又は熱により分解してスルホン酸を発生させる化合物が挙げられる。ほかには、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、光変色剤等として一般に使用されている化合物も、酸前駆体(A)として用いることができる。酸架橋性化合物(B)としては、例えば、アルコキシメチル基及びヒドロキシル基のうち少なくとも一方を有する芳香族化合物、N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有する化合物、エポキシ化合物が挙げられる。アルカリ可溶性樹脂(C)としては、例えば、ノボラック樹脂、ポリ(ヒドロシスチレン)等の側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0121】
赤外線吸収剤(D)としては、例えば、波長760〜1200nmの赤外線を吸収する染料及び顔料が挙げられる。具体的には、例えば、黒色顔料、赤色顔料、金属粉顔料、フタロシアニン系顔料;前記波長の赤外線を吸収するアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、シアニン色素が挙げられる。フェノール性水酸基含有化合物(E)としては、例えば、一般式(R1−X)n−Ar−(OH)m(式中、R1は、炭素数6〜32のアルキル基又はアルケニル基であり、Xは、単結合、O、S、COO又はCONHであり、Arは、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は複素環基であり、n及びmは、それぞれ1〜8の自然数である。)で表される化合物が挙げられる。そのような化合物としては、例えば、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類が挙げられる。ネガ型レーザ製版層形成液には、上記各成分のほかに、可塑剤等を配合することもできる。
【0122】
ポジ型レーザ製版層は、(F)アルカリ可溶性高分子、(G)アルカリ溶解阻害剤、及び(H)赤外線吸収剤を適当な溶剤に溶解させ、又は懸濁させたポジ型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。アルカリ可溶性高分子(F)としては、例えば、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、ノボラック樹脂、ピロガロール樹脂、ポリ(ヒドロキシスチレン)等のフェノール性水酸基を有するフェノール系ポリマー;少なくとも一部のモノマー単位がスルホンアミド基を有するポリマーであるスルホンアミド基含有ポリマー;N−(p−トルエンスルホニル)(メタ)アクリルアミド基等の活性イミド基を有するモノマーの単独重合又は共重合により得られる活性イミド基含有ポリマーが挙げられる。
【0123】
アルカリ溶解阻害剤(G)としては、例えば、加熱等によりアルカリ可溶性高分子(F)と反応してアルカリ可溶性高分子(F)のアルカリ溶解性を低下させる化合物が挙げられる。具体的には、例えば、スルホン化合物、アンモニウム塩、スルホニウム塩、アミド化合物が挙げられる。アルカリ可溶性高分子(F)とアルカリ溶解阻害剤(G)の組み合わせとしては、アルカリ可溶性高分子(F)としてノボラック樹脂、アルカリ溶解阻害剤(G)としてスルホン化合物の一種であるシアニン色素の組み合わせが好適に挙げられる。赤外線吸収剤(H)としては、例えば、スクワリリウム色素、ピリリウム色素、カーボンブラック、不溶性アゾ染料、アントラキノン系染料等の波長750〜1200nmの赤外域に吸収領域があり、光/熱変換能を有する色素、染料及び顔料が挙げられる。
【0124】
光重合型レーザ製版層は、(I)分子末端にエチレン性不飽和結合を有するビニル重合性化合物を含有する光重合型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。光重合型レーザ製版層形成液には、必要に応じて、(J)光重合開始剤、(K)増感剤等を配合することができる。ビニル重合性化合物(I)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであるエチレン性不飽和カルボン酸多価エステル;前記エチレン性不飽和カルボン酸と多価アミンとからなるメチレンビス(メタ)アクリルアミド;キシリレン(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸多価アミドが挙げられる。ビニル重合性化合物(I)としては、ほかに、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のエチレン性不飽和カルボン酸モノエステルが挙げられる。光重合開始剤(J)としては、ビニル系モノマーの光重合に通常使用される光重合開始剤を用いることができる。増感剤(K)としては、例えば、チタノセン化合物、トリアジン化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、シアニン色素、メロシアニン色素、キサンテン色素、クマリン色素が挙げられる。
【0125】
上述したネガ型レーザ製版層形成液、ポジ型レーザ製版層形成液及び光重合型レーザ製版層形成液に使用される溶剤、ならびに、ネガ型レーザ製版層形成液、ポジ型レーザ製版層形成液及び光重合型レーザ製版層形成液の塗布方法については、上記感光性樹脂溶液について挙げた溶剤及び塗布方法を用いることができる。尚、光重合型レーザ製版層を形成させる場合においては、シラン化合物を水、アルコール又はカルボン酸で部分分解して得られる部分分解型シラン化合物等の反応性官能基を有するシリコーン化合物を用いて、平版印刷版用支持体の粗面化処理面を予め処理しておくと、支持体と光重合型レーザ製版層との接着性が向上するので、好ましい。
【0126】
<マット層>
上記のようにして設けられた感光層の表面には、真空焼き枠を用いた密着露光の際の真空引きの時間を短縮し、かつ、焼きボケを防止するため、マット層が設けられてもよい。具体的には、特開昭50−125805号公報、特公昭57−6582号公報、同61−28986号公報に記載されているようなマット層を設ける方法、特公昭62−62337号公報に記載されているような固体粉末を熱蒸着させる方法等が挙げられる。
【0127】
<バックコート層>
上述したようにして得られる平版印刷版原版には、重ねても感光層が傷付かないように、裏面(感光層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。バックコート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及び塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。
【0128】
飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0129】
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
【0130】
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、感光層を傷付けにくい程度であればよく、0.01〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の感光層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
【0131】
バックコート層を平版印刷版原版の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、又は乳化分散液して塗布し、乾燥する方法;予めフイルム状に成形したものを接着剤や熱での平版印刷版原版に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、平版印刷版原版に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、乾燥する方法である。
【0132】
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の感光層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
【0133】
このようにして得られた平版印刷版原版を、必要に応じて、適当な大きさに裁断して、露光し現像して製版することにより、平版印刷版が得られる。可視光露光型製版層(感光性製版層)を設けた平版印刷版原版の場合には、印刷画像が形成された透明フイルムを重ねて通常の可視光を照射することにより露光し、その後、現像を行うことにより製版することができる。レーザ露光型製版層を設けた平版印刷版原版の場合には、各種レーザ光を照射して印刷画像を直接書き込むことにより露光し、その後、現像することにより製版することができる。
【0134】
以上、平版印刷版用支持体の製造方法に本発明を適用する例について説明したが、金属板の表面を電解粗面化処理する工程を備えたその他の技術分野にも、本発明を適用できる。
【0135】
[実施例]
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0136】
図1に示す電解粗面化処理装置10を用いて、巾300mm、厚さ0.2mmのアルミニウムウェブWに電解粗面化処理を施した。電解粗面化処理条件は、L.S.(ライン速度)100m/分とした。なお、実施例1〜6については、アルミニウムウェブWと直流電流部との極間距離Lは10mmとした。また、前処理工程を行ってから交流電解処理工程処理を行うまでの時間は5秒以内である。
【0137】
電解粗面化処理装置10で電解粗面化されたアルミニウムウェブWの品質については、チャターマークの有無を目視で評価した。
【0138】
評価レベルとしては、以下の5段階評価として、△以上を合格とした。
【0139】
○…チャターマークの改良効果が非常に大きい
△〜○…チャターマークの改良効果が十分あり
△…チャターマークの改良効果あり
×〜△…チャターマークの改良効果が不十分
×…チャターマークの改良効果なし
[試験結果]
試験結果を図6の表に示す。
【0140】
図6の表に示されるように、直流電流部26を、電解槽12A内であって、アルミニウムウェブWに対して10mmの極間距離Lに設け、アルミニウムウェブWに負の直流電圧を印加するようにした実施例1〜6は、チャターマークの評価が△以上であった。即ち、交流電解処理を行う前に、アルミニウムウェブWの表面に水酸化物イオンを分布させるようにした実施例1〜6はチャターマークの十分な抑制効果が認められた。これにより、アルミニウムウェブWを酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する際に、交流電解処理がアノード反応から開始した箇所において、大きさの均一な孔を形成させることが可能となり、チャターマークの発生を効果的に抑制することができることが立証された。
【0141】
特に、実施例1〜3の結果から分かるように、電流密度を−10A/dmから−50A/dmに次第に低く(絶対値は大きくなる)することにより、チャターマークの評価が次第に良くなることが分かる。このことから、前処理工程においてアルミニウムウェブWに十分な水酸化物イオンを分布させることがチャターマークの抑制に寄与していることが分かる。
【0142】
一方、直流電流部26を設けなかった電解粗面化処理装置10を用いた比較例1は、チャターマークの改良効果が全く見られなかった。また、交流電解処理する前に、アルミニウムウェブWの表面に正の直流電圧を印加してアノード反応を行った比較例2は、直流電流部26を設けなかった比較例1よりもチャターマークを抑制できたが、未だ不十分であった。また、交流電解処理する前に、アルミニウムウェブWの表面に負の直流電圧を印加してカソード反応を行ったものの、交流電解を行う電解槽本体とは異なる浴槽で前処理を行った比較例3は、チャターマークが×〜△の評価であり、改良効果が不十分であった。
【0143】
また、実施例1と比較例4との対比から分かるように、交流電解処理する前に、アルミニウムウェブWの表面に負の直流電圧を印加してカソード反応を行う場合であっても、極間距離が10mmを超えて20mmまで離れるとチャターマークの改良効果が不十分であることが分かる。
【符号の説明】
【0144】
10…電解粗面化処理装置、12…電解槽本体、12A、32…電解槽、12C…溢流槽、14…送りローラ、16A、16B…電極、18A、18B…小電極、26…直流電流部、28…補助電解槽、29…補助電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する電解処理方法において、
前記交流電解処理の工程を行う前に、前記金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させる前処理工程を行うことを特徴とする電解処理方法。
【請求項2】
前記水酸化物イオンは、前記交流電解処理工程を行う電解槽内において、前記金属板に5〜15mmの極間距離で負の直流電圧を印加してカソード反応を行うことにより形成することを特徴とする請求項1に記載の電解処理方法。
【請求項3】
前記カソード反応の電流密度は−10A/dm以下であることを特徴とする請求項2に記載の電解処理方法。
【請求項4】
前記前処理工程から前記交流電解処理工程までの時間は、5秒以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の電解処理方法。
【請求項5】
帯状の金属板を酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する電解処理装置において、
前記酸性電解液を貯留し、内部を前記金属板が搬送される電解槽と、
前記電解槽に前記金属板が導入される電解槽入口部に設けられ、前記金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させる水酸化物イオン分布手段と、を備えたことを特徴とする電解処理装置。
【請求項6】
前記水酸化物イオン分布手段は、前記電解槽内であって、前記金属板に対して5〜15mmの極間距離に設けられ、前記金属板に負の直流電圧を印加する直流電流部であることを特徴とする請求項5に記載の電解処理装置。
【請求項7】
アルミニウム板を電解粗面化する電解粗面化処理工程を有する平版印刷版の製造方法において、
前記電解粗面化処理工程に、請求項1〜4の何れか1の電解処理方法を用いることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム板を電解粗面化する電解粗面化処理装置を有する平版印刷版の製造装置において、
前記電解粗面化処理装置として、請求項5又は6に記載の電解処理装置を用いることを特徴とする平版印刷版の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−201123(P2011−201123A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70291(P2010−70291)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】