説明

電解加工装置、電解加工方法および微細工具の機上成形機

【課題】
加工対象を軸回転させて微細部品や微細工具を製造する際に当該加工対象に機械ストレスや熱ストレスを与えないで、高精度かつ高効率の微細加工を行う。
【解決手段】
電解液LQをフィルム状に出射するスリット状出射口111を備えたノズル11と、ノズル11に電解液LQを供給する電解液供給源12と、フィルム状の電解液LQと加工対象OBとの間に電圧Vを加える電源13と、加工対象OBを支持し加工対象OBをフィルム状の電解液FLQに接触させつつ相対的に軸回転させる加工対象支持回転ジグ14とを備え、フィルム状の電解液FLQが加工対象OBに接触する線状部分を電解加工する電解加工装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する導電性の加工対象に電解液をフィルム状に出射しつつ、このフィルム状の電解液と前記加工対象との間に電圧を加えて前記加工対象を電解加工する技術に関し、具体的には、前記加工対象に機械ストレスを与えることなく微細な軸対称・非軸対称に加工する電解加工装置および電解加工方法、並びに上記の電解加工装置を備えた微細工具の機上成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばマイクロパンチプレス、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、マイクロマシーニング、微細加工の各技術分野では、微細(たとえば、数から数十ミクロン径)な金属線材を高精度に加工して、微細部品や微細工具を製造する技術が必要とされている。
【0003】
この種の微細部品や微細工具は、電解加工,加熱延伸等により製造することができる。たとえば、本発明者は、上記の微細工具のひとつであるマイクロソーワイヤーを製造する技術を既に提案している(特許文献1)。この技術は電解加工にかかるもので、フィルム状の電解液を金属線材に接触させつつ、金属線材と電解液出射ノズルとの間に電圧を加え、当該金属線材に複数の切り欠き(凹部)を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−148879号
【特許文献2】米国特許第2,741,594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、加工対象(金属線材)を軸回転することは想定していないため、軸対称製品(あるいは非軸対称であっても製造に軸回転を必要とする製品)を作製することができない。特に、MEMS、マイクロマシーニング等の各技術分野では、軸回転により製造される高精度の微細部品や微細工具(たとえば、微細パンチ,微細ネジ等)が必要とされるが、特許文献1の技術では、これらを作製することができない。
【0006】
また、電解液を砲弾(切断対象)に噴射するとともに、砲弾と電解液出射ノズルとの間に電圧をかけ、機械ストレスや熱ストレスを起こすことなく砲弾を電解加工により切断する技術が知られている(特許文献2)。
【0007】
しかし、特許文献2の技術は、電解液は線状に噴射される(ノズル口は円形である)。このため、この技術を、たとえば径が10μmオーダの微細部品や微細工具の製造に応用しようとした場合、ノズル径は加工対象より十分に小さい必要がある。この場合、電解液は加工対象に点接触することになり、加工効率が悪いことに加え、ノズル径が小さすぎるためノズル詰まりが生じやすくなる。したがって、特許文献2の技術を、微細部品や微細工具の製造に応用することは不可能である。
【0008】
本発明の目的は、加工対象を軸回転させて微細部品や微細工具を製造する際に当該加工対象に機械ストレスや熱ストレスを与えないで、高精度かつ高効率の微細加工を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電解加工装置は(1)から(4)を要旨とする。
(1) 電解液をフィルム状にして導電性の加工対象に向けて出射させつつ、前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に電圧を加えることで、前記フィルム状の電解液が前記加工対象に接触する線状部分を電解加工する電解加工装置であって、
前記電解液をフィルム状に出射するスリット状出射口を備えたノズルと、
前記ノズルに前記電解液を供給する電解液供給源と、
前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に前記電圧を加える電源と、
前記加工対象を支持し前記加工対象を前記フィルム状の電解液に接触させつつ前記フィルム状の電解液に対して相対的に軸回転させる加工対象支持回転ジグと、
を備えたことを特徴とする電解加工装置。
【0010】
(2) 前記軸回転にかかる当該軸方向に、前記加工対象を前記フィルム状の電解液に対して相対的に移動させる移動機構を備えたことを特徴とする(1)に記載の電解加工装置。
【0011】
(3) 前記電圧を、前記加工対象の相対的な移動に応じて変化させることを特徴とする(2)に記載の電解加工装置。
【0012】
(4) 前記加工が、電解切削または電解メッキであることを特徴とする(1)から(3)の何れかに記載の電解加工装置。
【0013】
本発明の電解加工方法は(5)から(8)を要旨とする。
(5) 電解液をフィルム状にして導電性の加工対象に向けて出射させつつ、前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に電圧を加えることで、前記フィルム状の電解液が前記加工対象に接触する線状部分を電解加工する電解加工方法であって、
前記加工対象を前記フィルム状の電解液に接触させつつ、前記フィルム状の電解液に対して相対的に軸回転させることを特徴とする電解加工方法。
【0014】
(6) 前記軸回転にかかる当該軸方向に、前記加工対象を前記フィルム状の電解液に対して相対的に移動させることを特徴とする(5)に記載の電解加工方法。
【0015】
(7) 前記加工電圧を、前記加工対象の相対的な移動に応じて変化させることを特徴とする(6)に記載の電解加工方法。
【0016】
(8) 前記加工が、電解切削または電解メッキであることを特徴とする(5)から(7)の何れかに記載の電解加工方法。
本発明の微細工具の機上成形機は(9)および(10)を要旨とする。
【0017】
(9) (1)から(4)の何れかに記載の電解加工装置を備えた工作機であって、前記電解加工装置により加工された加工対象を、前記加工対象支持回転ジグに取り付けたまま微細工具として用い、当該微細工具により工作物を工作することを特徴とする工作機。
(10) (1)から(4)の何れかに記載の電解加工装置を備えた組み立て機であって、前記電解加工装置により加工された加工対象を、前記加工対象支持回転ジグに取り付けたまま微細ビスとして用い、当該微細ビスにより微細構造物を組み立てることを特徴とする組み立て機。
【0018】
加工対象は典型的には等速で軸回転するが、変速で軸回転するようにしてもよい。たとえば、軸回転が、ある規則をもって有速変化しながら加工対象を加工するようにしてもよい。また、たとえば、軸回転が、停止と有速とを交互に繰り返して加工対象を加工するようにしてもよい。
【0019】
本発明では、フィルム状の電解液に対する、加工対象の相対的な軸回転角度は任意である。たとえば、フィルム状の電解液が出射する方向を−z軸、ノズル口の長さ方向をy軸で定義したときに、軸回転の当該軸は、図1(A)に示すようにx方向を向いていてもよいし、図1(B)に示すようにxy平面に平行(z方向に垂直)でかつx方向・y方向以外を向いていてもよい。さらに、軸回転の当該軸は、図1(C)に示すように、y方向を向いていてもよい。
【0020】
また、フィルム状の電解液のフィルム幅は、図1(A),(B)に示したように、加工対象の幅よりも大きく設定されるが、図1(C)に示す場合には、加工対象の幅よりも小さく設定することができる。また、図2に示すように、フィルム状の電解液の側部を用いて加工対象を加工することもできるが、この場合には、フィルム状の電解液のフィルム幅は、加工対象の幅よりも小さく設定することができる。
【0021】
本発明では、フィルム状の電解液の厚みを薄くしたり厚くしたりすることで、切削領域を狭くしたり広くしたりできる。本発明では、フィルム状の電解液の厚みを調節するために、スリット状出射口の形状を調整することができる。たとえば、フィルム状の電解液の中央が肉薄になるように、スリット状出射口の中央部を狭くすることができる。
【0022】
本発明では、前記電解液に、表面張力調整材(表面張力低下促進材)や粘性調整材(粘性向上材)を添加することができ、たとえば、フィルム状の電解液の出射後の形状を、ノズル口からの距離に応じて調整(保持または変形)することができる。
【0023】
本発明では、加工対象が軸回転するように構成してもよいし、ノズル口が加工対象の周りを回転するようにしてもよい。
【0024】
本発明では、電解切削を行う場合に、加工対象の非加工予定部にマスクを施しておくことができる。なお、このマスクは、本発明による電解メッキにより行うこともできるし、他のメッキ技術、たとえばフォトリソグラフィ技術を用いたメッキ方法(電解メッキ、無電解メッキを問わない)により形成することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、加工対象に機械ストレス(加工反力,残留応力等)や熱ストレスを与えることなく、微細な軸対称線材や非軸対称線材を高精度に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における、加工対象とフィルム状の電解液との配置関係を示す説明図であり、(A)は回転軸がフィルム状の電解液に垂直な場合を示す図、(B)は回転軸がフィルム状の電解液に斜めの場合を示す図、(C)は回転軸がフィルム状の電解液に平行な場合を示す説明図である。
【図2】フィルム状の電解液の側部を用いて加工対象を加工する様子を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す説明図である。
【図4】図3に示した電解加工装置におけるノズルの拡大説明図である。
【図5】図3に示した電解加工装置における電解液供給源の構造例を示す図である。
【図6】図3に示した電解加工装置において、フィルム状の電解液が加工対象に接触している様子を示す図であり、(A)は電解液の回り込みを小さくした図、(B)は電解液の回り込みを大きくした図である。
【図7】図3に示した電解加工装置におけるノズルの出射口の態様の説明図であり、(A)はスリット状出射口の中央部を狭くしたノズルを示す図、(B)は加工(切削)された状態の加工対象を示す図である。
【図8】図3に示した電解加工装置を切削装置として使用する場合の一実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図である。
【図9】(A)は図8の実施形態における軸方向長さと加工深さとの関係を示すグラフ、(B)は図8の実施形態における加工対象の加工後側面図である。
【図10】(A)は、図8の実施形態において、供給電流一定で、加工時間を変えて加工対象の切削を行ったときの軸方向長さと加工深さとの関係を示す図、(B)は加工対象の加工後側面図を示す図である。
【図11】(A)は、図8の実施形態において、加工時間一定で、供給電流を変えて加工対象の切削を行ったときの軸方向長さと加工深さとの関係を示す図、(B)は加工対象の加工後側面図を示す図である。
【図12】図3に示した電解加工装置を切削装置として使用する場合の他の実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図である。
【図13】(A)は図12の実施形態における軸方向長さと加工深さとの関係を示すグラフ、(B)は図12の実施形態における加工対象の加工後側面図である。
【図14】図12の実施形態において軸径をさらに細く形成した加工対象の加工例を示す図である。
【図15】図3に示した電解加工装置を用いて、直径が軸方向の位置に応じて変化する軸を作製する例を示す図であり、(A)は出力波形(加工時間と電流との関係)を示すグラフ、(B)に加工対象の加工後側面図である。
【図16】図3に示した電解加工装置を用いて、錐状軸(先細り状の軸)を作製する例を示す図であり、(A)は出力波形(加工時間と電流との関係)を示すグラフ、(B)に加工対象の加工後側面図である。
【図17】加工対象OBに対するフィルム状の電解液の角度を変えることにより切削形状を調整する実施形態を示す図であり、(A)は加工部分の領域を狭くした例を示す図、(B)は加工部分の領域を広くした例を示す図である。
【図18】電解加工装置を切削装置として使用し、ネジを作製する場合の実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図、(C)は同じく平面図である。
【図19】電解加工装置を切削装置として使用し、ネジを作製する場合の他の実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図である。
【図20】図19の実施形態の作用を説明する図であり、(A)は加工対象を示す図、(B)はマスクパターンを施した加工対象を示す図、(C)は加工対象にネジ溝を形成した様子を示す図、(D)はマスクパターンを除去した様子を示す図である。
【図21】本発明において、加工対象の端面を加工する実施形態を示す図であり、(A)は加工対象を突っ切り加工した状態(中心部に突起部分が残った様子)を示す図、(B)はフィルム状の電解液に対して、軸方向に加工対象を移動することで端面加工を行う様子を示す図、(C)は突起部分が除去され端面が平坦に成形された加工対象を示す図である。
【図22】電解加工装置をメッキ装置として使用する場合の一実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図である。
【図23】軸を中心に所定角度で回転させることができるノズルを示す図である。
【図24】本発明に使用されるノズルの態様を示す図であり、(A)は電解液を放射出射するノズルの実施形態を示す断面図、(B)は同じく斜視図、(C)は管の形状をなす加工対象の内面を加工する様子を示す図である。
【図25】本発明の機上成形機の一実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図3は本発明の一実施形態を示す説明図である。図3において、電解加工装置1は、ノズル11と、電解液供給源12と、電源13と、加工対象支持回転ジグ14と、加工対象移動機構15と、制御装置16と、電解液槽17とを備えている。
【0028】
ノズル11は、図4(A),(B)(拡大説明図)に示すように電解液LQをフィルム状に出射するスリット状出射口11を備えている。
電解加工装置1が、電解切削しか行わないのであれば、通常は、電解液に金属イオンが含まれない。したがって、図4(A)に示すように、ノズル11を金属などの導電性の材料で作り、ノズル11に直接通電することができる。電解加工装置1が、電解メッキを行う場合には、ノズル11は、銅や鋼で作製したときには溶けてしまうが、グラファイトや白金を使えば溶けること(消耗すること)はない。
【0029】
電解液LQに金属イオンを含むものを用いて、電解切削と電解メッキとを両方行う場合には、図4(B)に示すように、電極棒を備えたノズル11を使用することができる。ノズル11は、非導電性材料(たとえば、プラスチックやセラミックなど)から構成されている。ノズル11は、液溜CHに達するように電極棒EPが挿通されている。図4(B)では、取り込まれた電解液LQは液溜CHに蓄積され、スリット状出射口111からフィルム状の電解液FLQとして出射される。また、ノズル11には、液溜CHに達するように電極棒EPが挿通されている。この場合には、切削加工をしたことにより、電極棒EPに、電解液LQに含まれる金属イオンが成膜されたときは、適時、加工時とは逆極性の電圧を、電極棒EPと加工対象OBとの間に加えることにより、電極棒EPのクリーニングを行うことができる。
なお、グラファイトや、イオン化傾向が小さい金属(たとえば白金)を使用すれば、電極の消耗を防止ないし低減することができる。
【0030】
図4では、説明の便宜上、加工対象OBが電解切削や電解メッキされていない状態で示す。ノズル11の作製には周知技術を用いることができ、たとえば特許文献1に記載のように薄板を積層して作製することができる。
電解液供給源12は、電解液槽17に蓄えられた電解液LQをノズル11に循環供給する。電解液供給源12は、図5に示すように、ポンプ圧Pにより電解液の射出圧をつくり、ノズル11から電解液LQを射出している。電源13は、フィルム状の電解液FLQと導電性の加工対象OBとの間に加工電圧を加える。
【0031】
加工対象支持回転ジグ14は、加工対象OBを支持し加工対象OBをフィルム状の電解液FLQの面に交差する軸L(図3では直交軸)を中心に回転させる。加工対象移動機構15は、ノズル11に対し(すなわちフィルム状の電解液FLQに対し)加工対象OBを軸Lに沿って相対移動させることができる。制御装置16は、加工電圧および/または送り速度を変化させることができる。電解液槽17には、使用済みの電解液LQが蓄えられる。
【0032】
電解加工装置1では、電解液LQをフィルム状にして加工対象OBに向けて出射させつつ、フィルム状の電解液FLQと加工対象OBとの間に電圧を加える。これにより、フィルム状の電解液FLQが加工対象OBに接触する線状部分を電解加工することができる。
【0033】
加工量は電気量(すなわち電流と加工時間の積)に比例するので、ノズルと加工対象OBの位置に関係なく、電気量によって切り込みの制御が可能である。したがって、旋盤加工などに比べ当たりが不要であり、定電流で加工することで一定の体積加工速度が得られる。
【0034】
図6(A),(B)は、フィルム状の電解液FLQが加工対象OBに接触している様子を示している。図6(A),(B)では、説明の便宜上、加工対象OBが電解切削や電解メッキがされていない状態で示す。電解液LQの表面張力や粘性を調整することにより、回り込みを調整できる。すなわち、図6(A)に示すように電解液LQの表面張力を小さくすることにより回り込みを小さくできるし、図6(B)に示すように電解液LQの粘性を大きくすることにより回り込みを大きくできる。
【0035】
また、図7(A),(B)に示すように、スリット状出射口111の中央部を狭くすることで、加工状態を調整することができる。なお、図示はしないが、スリット状出射口111の中央部を広くすることができるし、スリット状出射口111を曲線上に形成することができる。また、スリット状出射口111が形成される出射面を平面としたが、アーチ状曲面等の二次曲面とすることができる。
【0036】
本発明では、電解加工装置1は、切削装置として使用することもできるし、メッキ装置として使用することができる。
【0037】
電解加工装置1を切削装置として使用する場合(すなわち、加工が切削である場合)の一実施形態を、図8(A)の側面図、図8(B)の正面断面部分図(図8(A)におけるa−a断面図)を用いて説明する。
【0038】
図8(A),(B)では、スリット状出射口111(図4参照)のサイズを200×40μmの長方形とし、スリット状出射口111と加工対象OBとの距離(ギャップ長)を1.5mmとした。また、加工対象OBとして直径300μmの銅線を使用し、電解液LQとしてNaNO3の20重量%溶液を使用した。さらに、タンク圧(電解液供給源12の内部圧)を0.5MPaに設定した。
【0039】
そして、制御装置16により加工対象支持回転ジグ14の回転速度Nを一定(N=2,500rpm)にして駆動し、電源13の供給電流一定(I=50mA)で、加工時間(電源駆動時間)を1秒とすることで、加工対象OBの切削を行った。なお、図8(A),(B)での例では、軸Lの方向に、加工対象OBを移動させていない。図9(A)に軸方向長さWと加工深さDとの関係を示し、図9(B)に加工対象OBの加工後側面図を示す。
【0040】
図10(A)は、図8(A)の実施形態において、電源13の供給電流一定(I=50mA)で、加工時間(電源駆動時間)を1秒、2秒、3秒、4秒、5秒として、加工対象OBの切削を行ったときの軸方向長さWと加工深さDとの関係を示している。図10(B)に、加工時間が5秒のときの加工対象OBの加工後側面図を示す。
【0041】
図11(A)は、図8(A)の実施形態において、加工時間(電源駆動時間)を5秒とし、電源13の供給電流Iを、10mA,20mA,30mA,40mA,50mAとして、加工対象OBの切削を行ったときの軸方向長さWと加工深さDとの関係を示している。図11(B)に、加工時間が50mAのときの加工対象OBの加工後側面図を示す。なお、図10(B)と図11(B)とに示す加工例では、それぞれについての加工条件が同じ(加工時間5秒,供給電流50mA)であるので、加工後形状が同じである。
【0042】
電解加工装置1を切削装置として使用する場合(すなわち、加工が切削である場合)の他の実施形態を、図12(A)の側面図、図12(B)の正面断面部分図(図12(A)におけるa−a断面図)を用いて説明する。
【0043】
本実施形態でも、電解加工装置スリット状出射口111(図4参照)のサイズ、スリット状出射口111と加工対象OBとの距離(ギャップ長)等の構成は、図8(A),(B)で説明した実施形態と同様であり、さらに、使用する加工対象OB、電解液LQや、タンク圧(電解液供給源12の内部圧)も図8(A),(B)で説明した実施形態と同様である。図8(A),(B)での例では、軸Lの方向に、加工対象OBを移動させていないが、本実施形態では、軸Lの方向に、加工対象OBを移動させることができる。
【0044】
そして、制御装置16により加工対象支持回転ジグ14の回転速度Nを一定(N=2,500rpm)にして駆動し、電源13の供給電流一定(I=50mA)で、加工時間(電源駆動時間)を10秒とし、かつ加工対象OBを軸Lの方向に秒速v(v=6mm/min)で移動させることで、加工対象OBの切削を行った。図12(A)、(B)では、加工対象OBの切削前の表面をS1で示し、切削後の表面をS2で示してある。
【0045】
図13(A)に軸方向長さWと加工深さDとの関係を示し、図13(B)に加工対象OBの加工後側面図を示す。図13(A),(B)からわかるように、本発明により、均一な所望径の軸を作製することができた。なお、加工面の表面粗さ(Rz)は約10μmであった。
【0046】
図14は、加工対象OB(銅線)の軸径をさらに細く形成した例を示している。この場合には、加工対象OBに、電流値Iを変更して加工を繰り返すことで径を細くしている。ここでは、I=50mAで3回,I=25mAで1回,I=10mAで2回の繰り返し加工を行うことで、直径が60μmの軸を作製した。この場合の総加工時間は60秒とした。
【0047】
次に、直径が軸方向の位置に応じて変化する軸を作製する例を説明する。この場合には、電流値Iを正弦波状に0〜50mAまで変化させ、定電流での加工と同様に加工対象の移動(送り)を行い、くびれ加工を行った。図15(A)に出力波形(加工時間Tと電流Iとの関係)を示し、図15(B)に加工対象OBの加工後側面図を示す。図15(B)に示すように、軸径が軸方位置で異なる軸が成形できた。なお、図15(A)では加工時刻をa,b,c,d,eで示し、図15(B)では加工時刻に対応した加工対象OB軸方向の位置を、同じくa,b,c,d,eで示してある。
【0048】
また、つぎに、錐状軸(先細り状の軸)を作製する例を説明する。この場合には、電流値Iをランプ波で0〜50mAまで変化させ、定電流での加工と同様に加工対象の移動(送り)を行い、テーパ加工を行った。図16(A)に出力波形(加工時間Tと電流Iとの関係)を示し、図16(B)に加工対象OBの加工後側面図を示す。図16(B)に示すように、先細りの軸が成形できた。
【0049】
本発明では、図17(A),(B)に示すように、加工対象OBに対するフィルム状の電解液FLQの角度を変えることにより切削形状を調整できる。図17(A)では、加工対象OBに対してフィルム状の電解液FLQの角度を90°にすることで、加工部分の凹凸の境界(たとえば、切削領域と非切削領域の境界により作られる稜)を鋭くできる。また、図17(B)では、加工対象OBに対してフィルム状の電解液FLQの角度を90°にすることで、加工部分の凹凸の境界(たとえば、切削領域と非切削領域の境界により作られる稜)を鈍くすることができる。
【0050】
本発明では、電解加工装置を切削装置として使用してネジを作製することができる。図18は、ネジを作製の実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図(図18(A)におけるa−a断面図)、(C)は同じく平面図である。本実施形態では、加工対象OBに対してフィルム状の電解液FLQの角度を斜めに設定しておくとともに、加工対象OBを回転軸Lに沿って移動させることで、加工対象OBの表面にネジを切ることができる。
【0051】
図19は、マスクパターンを使用してネジを作製する実施形態を示す図であり、(A)は加工状態を示す側面図、(B)は同じく正面断面図((A)におけるa−a断面図)である。本実施形態では、加工対象OBにらせん状のマスクパターンS3を形成しておくことで、ネジ溝Gを形成することができる。
【0052】
本実施形態では、図20(A)に示す加工対象OB(銅線)に図20(B)に示すマスクパターンS3を施しておき、図19(A),(B)に示した切削を行う。なお、本実施形態では、均一な所望径の軸を作製するときと同様の制御が行われ(図13(A)参照)。これにより、図20(C)に示すように加工対象OBにネジ溝Gを形成することができる。この図20(D)に示すように、マスクパターンS3を除去することができる。
【0053】
次に、加工対象OBの端面加工の実施形態を説明する。まず、図21(A)に示すように、加工対象OBの突っ切り加工を行った。図21(A)に示すように、加工対象OB(銅線)の中心部に突起部分が残っている。これはフィルム状の電解液FLQの中心部ほど電流密度が高いことに起因する。したがって、突っ切り加工だけでは端面を平坦にできない。
【0054】
本実施形態では、突っ切り後に、図21(B)に示すようにフィルム状の電解液FLQに対して、軸L方向に加工対象OBを移動することで端面加工を行った。これにより,フィルム状の電解液FLQに接触している突起部分のみの加工が可能となる。
【0055】
本実施形態では、移動速度0.2mm/minで銅線軸方向に100μm移動した。これにより、図21(C)に示すように、端面の突起部分が除去された銅線を作製できた。電解加工装置1をメッキ装置として使用する場合(すなわち、加工がメッキである場合)の一実施形態を、図22(A)の側面図、図22(B)の正面断面部分図(図22(A)におけるa−a断面図)を用いて説明する。
【0056】
図22(A),(B)では、スリット状出射口111(図4参照)のサイズを200×40μmの長方形とし、スリット状出射口111と加工対象OBとの距離(ギャップ長)を1.5mmとした。また、加工対象OBとして直径300μmの銅線を使用した。電解液LQとしてメッキ用溶液を使用した。さらに、タンク圧(電解液供給源12の内部圧)を0.5MPaに設定した。
【0057】
そして、制御装置16により加工対象支持回転ジグ14の回転速度Nを一定(N=2,500rpm)にして駆動し、電源13の供給電流一定(I=50mA)で、加工時間(電源駆動時間)を30秒とし、かつ加工対象OBを軸Lの方向に秒速v(v=6mm/min)で移動させることで、加工対象OBにメッキを行った(図22ではメッキ膜をS4で示す)。
【0058】
上記の各実施形態では、ノズル11を固定して、加工対象OBを回転するようにしたが、本発明では、図23に示すようにノズル11を、ガイドレール110に沿って回転(回転軸L)させることもできる。図24(A),(B)は、電解液LQを放射出射するノズル11の実施形態を示す図であり、フィルム状の電解液FLQが形成される実施形態を示している。本実施形態では、筒体Oに、フランジHを持つロッドIが内装されている。
【0059】
注入口INから高圧の電解液LQが供給され、筒体O端面とヘッドHとの隙間(スリット状出射口111)からフィルム状の電解液FLQが出射される。図24(A),(B)のノズル11を使用することで、管の形状をなす加工対象OBの内面を加工(図24(C)では切削)することができる。
【0060】
図25に本発明の工作機の実施形態を示す。図25では、工作機3は放電加工機2として機能するもので、電解加工装置1を備えている。電解加工装置1において作製(加工)された加工対象OBは、放電加工機2において加工電極(微細工具)Aとして用いられ、工作物Bの工作に使用される。
【0061】
すなわち、電解加工装置1における加工対象支持回転ジグ14は、放電加工装置2において加工電極(微細工具)Aの電極保持ジグとしてそのまま使用されるので、軸心のずれが生じることなく高精度の放電加工を行うことができる。
【0062】
上記実施形態では、加工機が放電加工機である場合を説明したが、加工機は、電解液槽内で加工を行う電解加工機であってもよいし、超音波加工機であってもよく、さらに、打ち抜き加工機であってもよい。
【0063】
本発明の、工作機は電解加工装置を備えた組み立て機であってもよい。この場合には、電解加工装置1により加工された加工対象を、加工対象支持回転ジグ14に取り付けたまま微細ビスとして用い、当該微細ビスにより微細構造物を組み立てることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 電解加工装置
2 放電加工機
3 工作機
11 ノズル
12 電解液供給源
13 電源
14 加工対象支持回転ジグ
15 加工対象移動機構
16 制御装置
17 電解液槽
111 スリット状出射口
A 加工電極
CH 液溜
EP 電極棒
FLQ フィルム状の電解液
LQ 電解液
L 回転軸
OB 加工対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液をフィルム状にして導電性の加工対象に向けて出射させつつ、前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に電圧を加えることで、前記フィルム状の電解液が前記加工対象に接触する線状部分を電解加工する電解加工装置であって、
前記電解液をフィルム状に出射するスリット状出射口を備えたノズルと、
前記ノズルに前記電解液を供給する電解液供給源と、
前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に前記電圧を加える電源と、
前記加工対象を支持し前記加工対象を前記フィルム状の電解液に接触させつつ前記フィルム状の電解液に対して相対的に軸回転させる加工対象支持回転ジグと、
を備えたことを特徴とする電解加工装置。
【請求項2】
前記軸回転にかかる当該軸方向に、前記加工対象を前記フィルム状の電解液に対して相対的に移動させる移動機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電解加工装置。
【請求項3】
前記電圧を、前記加工対象の相対的な移動に応じて変化させることを特徴とする請求項2に記載の電解加工装置。
【請求項4】
前記加工が、電解切削または電解メッキであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の電解加工装置。
【請求項5】
電解液をフィルム状にして導電性の加工対象に向けて出射させつつ、前記フィルム状の電解液と前記加工対象との間に電圧を加えることで、前記フィルム状の電解液が前記加工対象に接触する線状部分を電解加工する電解加工方法であって、
前記加工対象を前記フィルム状の電解液に接触させつつ、前記フィルム状の電解液に対して相対的に軸回転させることを特徴とする電解加工方法。
【請求項6】
前記軸回転にかかる当該軸方向に、前記加工対象を前記フィルム状の電解液に対して相対的に移動させることを特徴とする請求項5に記載の電解加工方法。
【請求項7】
前記加工電圧を、前記加工対象の相対的な移動に応じて変化させることを特徴とする請求項6に記載の電解加工方法。
【請求項8】
前記加工が、電解切削または電解メッキであることを特徴とする請求項5から7の何れかに記載の電解加工方法。
【請求項9】
請求項1から4の何れかに記載の電解加工装置を備えた工作機であって、前記電解加工装置により加工された加工対象を、前記加工対象支持回転ジグに取り付けたまま微細工具として用い、当該微細工具により工作物を工作することを特徴とする工作機。
【請求項10】
請求項1から4の何れかに記載の電解加工装置を備えた組み立て機であって、前記電解加工装置により加工された加工対象を、前記加工対象支持回転ジグに取り付けたまま微細ビスとして用い、当該微細ビスにより微細構造物を組み立てることを特徴とする組み立て機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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