説明

電解液循環型電池のタンク、および電解液循環型電池

【課題】電解液の劣化を抑制することができる電解液循環型電池のタンクを提供する。
【解決手段】正極電解液用タンク1Aは、正極セル102に供給される正極用電解液20を貯留するためのものである。正極電解液用タンク1Aの少なくとも側壁部10sは、正極用電解液20と接触する内側壁11と、内側壁11との間に隙間13を形成するように当該内側壁11を取り囲む外側壁12との二重構造からなる。隙間13には、正極電解液用タンク1A内の正極用電解液20の液面以上の高さまで液体30が貯留されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池などの電解液循環型電池に使用される電解液を貯留するためのタンク、およびそのタンクを具える電解液循環型電池に関するものである。特に、電解液の劣化を抑制することができるタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー由来の電力を蓄電する大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池(RF電池)などの電解液循環型電池がある。RF電池は、正極用電解液に含まれるイオンと負極用電解液に含まれるイオンの酸化還元電位の差を利用して充放電を行う電池である。
【0003】
図9のRF電池の動作原理図に示すように、RF電池は、水素イオンを透過させる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに分離された電池セル100を具える。正極セル102には正極電極104が内蔵され、かつ正極用電解液を貯留する正極電解液用タンク106が導管108、110を介して接続されている。同様に、負極セル103には負極電極105が内蔵され、かつ負極用電解液を貯留する負極電解液用タンク107が導管109、111を介して接続されている。各タンク106、107に貯留される電解液は、ポンプ112、113によりセル102、103に循環される。
【0004】
上記RF電池には、通常、図10に示す複数の電池セル100を積層させたセルスタック200と呼ばれる構成が利用されている。このセルスタック200は、フレーム122に一体化された双極板121を具えるセルフレーム120、正極電極104、隔膜101、および負極電極105を、この順番で積層することで形成される積層体である。この構成の場合、隣接するセルフレーム120の双極板121の間に一つのセルが形成されることになる。そして、各セルフレーム120間にOリングや平パッキンなどの環状のシール部材127を配置した状態で、積層体をその両側から2枚のエンドプレート210、220で挟み込んで締め付けている。この締め付けにより、積層体をその積層方向に圧縮する内向きの圧力で締め付けることで、各セルフレーム120間に隙間ができないようにしている。
【0005】
このセルスタック200における電解液の流通は、枠体122に形成される給液用マニホールド123,124と、排液用マニホールド125,126により行われる。例えば、正極用電解液は、正極電解液用タンク106からポンプ112により配管108を通って正極セル102内に流通され、給液用マニホールド123からフレーム122の一面側(紙面表側)に形成される溝を介して正極電極104に供給されて、枠体122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド125に排出される。同様に、負極用電解液は、ポンプ113により負極電解液用タンク107から配管109を通って負極セル103内に流通され、給液用マニホールド124からフレーム122の他面側(紙面裏側)に形成される溝を介して負極電極105に供給されて、フレーム122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド126に排出される。
【0006】
一般に、各タンク106、107は、電解液と化学反応しない材料で形成されている。例えば、特許文献1には、タンクをプラスチックで形成していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−340029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンクは、上述のようにプラスチック材料などの耐食性に優れる絶縁性材料で形成されることが望ましいが、プラスチック材料は、外部の空気の侵入を完全に防止することができない。そのため、長期間使用すると、侵入した空気中の酸素により電解液が酸化されてしまい、電解液が劣化することがある。その結果、電池の放電容量の低下、電池効率の低下、あるいは過充電などが生じることがある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、電解液の劣化を抑制することができる電解液循環型電池のタンクを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、上記タンクを具える電解液循環型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電解液循環型電池のタンクは、電池セルに供給される電解液を貯留するためのものである。上記タンクの少なくとも側壁部は、上記電解液と接触する内側壁と、上記内側壁との間に隙間を形成するように当該内側壁を取り囲む外側壁との二重構造からなる。上記隙間には、上記タンク内の電解液の液面以上の高さまで液体が貯留されている。
【0012】
本発明の電解液循環型電池のタンクによれば、少なくとも側壁部を上記二重構造として上記隙間を形成することで、空気の侵入を抑制すると共に、侵入する空気を電解液に接触させないように防御あるいは吸収させるための液体を電解液の周りを取り囲むように配置することができる。その液体を上記所定の高さまで貯留することで、タンクの側壁部から侵入する空気が電解液に接触することを抑制することができる。したがって、電解液と接触する領域が大きいタンクの側壁部からの空気侵入を抑制することで、タンクの長期的使用に伴う電解液の酸化を効果的に抑制しやすく、電解液が劣化することを抑制することができる。
【0013】
本発明のタンクの一形態として、上記タンクは、上記側壁部以外の箇所を含む全域に亘って上記二重構造により構成されていることが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、二重構造が上記全域に亘ることで、上記側壁部以外の箇所においても空気を侵入させ難くすることができる。加えて、この構成では、液体を上記全域に亘って貯留することもできるため、その場合は、空気侵入をタンクの上記全域に亘って抑制できる。したがって、電解液の劣化をより効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明のタンクの一形態として、上記液体の温度を調節する温度調節装置を具えることが挙げられる。
【0016】
上記の構成によれば、液体の温度を調節することで電解液の温度を調節することができる。特に、上記液体を電解液以外とすれば、電解液に直接温度調節装置を接触させなくても電解液の温度を容易に調節することができる。
【0017】
上記液体を電解液以外とする場合、温度調節装置は電解液に接触させて温度調節しなくてもよいので、上記装置を電解液に接触する、つまり、電解液を直接温度調節する場合に生じる問題を全て解消することができる。例えば、電解液を直接温度調節する場合は、電解液が金属を溶解し易い酸のため、接触箇所は非金属で電解液に対して化学変化しないような素材でなければならなかったが、温度調節装置が電解液と接触しないので、温度調節装置の材質が上記素材に限定されない。加えて、電解液に上記装置を接触させて温度調節する場合、局所的に電解液が高温に加熱されてしまうことがあり、熱により電解液が劣化する虞があるという問題を解消することができる。
【0018】
本発明のタンクの一形態として、上記液体の導電率、pH、および組成の中から選択される少なくとも一つを測定して、上記電解液の漏洩を検知する漏洩検知装置を具えることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、電解液の外側を、内側壁を介して覆うように液体が貯留されているので、電解液が内側壁から漏洩した場合、漏洩した電解液は上記隙間に流れて液体と混合される。その結果、上記液体の導電率、pH、および組成が変化するので、それらのうち少なくとも一つを測定することで、電解液の漏洩を容易かつ早期に検知することができる。特に、上記液体が電解液以外であれば、効果的である。
【0020】
電解液がたとえ内側壁から漏洩したとしても、漏れた電解液は上記液体に混合されるだけであり、外側壁の外部には漏洩しない。そのため、タンクの外部に電解液が漏洩することを抑制することができる。
【0021】
本発明のタンクの一形態として、上記液体が水であることが挙げられる。
【0022】
上記の構成によれば、液体が水であることで、電解液のように接触する部材の材質を限定することがない。加えて、水は直接温度調節装置に接触させることができ、容易に温度を調節することができる。さらに、電解液が内側壁から漏洩した場合、液体が水であれば、水の導電率、pH、および組成の変化を検出し易い。
【0023】
本発明の電解液循環型電池は、電解液循環型電池用セルスタックと、各極タンクと、流通路とを具える。上記セルスタックは、正極電極、隔膜、および負極電極を具える電池セルが複数積層されている。上記各極タンクは、上記セルスタックに具える上記各極電極に供給する各極用電解液を貯留する。上記流通路は、上記セルスタックと上記各極タンクとの間で前記各極用電解液を移送する。そして、上記各極タンクのうち、少なくとも一方が、本発明の電解液循環型電池のタンクである。
【0024】
本発明の電解液循環型電池によれば、電解液の劣化が生じ難い本発明の電解液循環型電池のタンクを具えているので、電解液の劣化に伴う電池の放電容量の低下、電池効率の低下、あるいは過充電を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電解液循環型電池のタンクは、電解液の劣化を抑制することができる。
【0026】
本発明の電解液循環型電池は、電池特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1に係るレドックスフロー電池の動作原理図である
【図2】実施形態1に係るタンクの部分断面図である。
【図3】実施形態2に係るタンクの部分断面図である。
【図4】実施形態3に係るタンクの部分断面図である。
【図5】実施形態4に係るレドックスフロー電池の電解液の温度制御システムを示す概略構成図である。
【図6】実施形態4に係るレドックスフロー電池の電解液の温度制御手順を示すフローチャートである。
【図7】実施形態5に係るレドックスフロー電池の電池制御システムを示す概略構成図である。
【図8】実施形態5に係るレドックスフロー電池の運転の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】従来のレドックスフロー電池の動作原理図である。
【図10】従来のレドックスフロー電池に具わるセルスタックの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の電解液循環型電池のタンクを具える電解液循環型電池の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、電解液循環型電池としてレドックスフロー電池(RF電池)を例に説明する。
【0029】
<<レドックスフロー電池>>
RF電池は、図1に示すように、セルスタックに正極用電解液を循環させるためのポンプ112、その電解液の流通路である導管108、110と、セルスタックの負極用電解液を循環させるためのポンプ113、その電解液の流通路である導管109、111とを具える点は、図9を用いて説明した従来のRF電池と同様であるが、従来のRF電池とはタンクの構成が異なる。つまり、本発明の特徴とするところは、電解液を貯留するタンクの構成にあるため、以下の実施形態では、そのタンクを中心に説明する。本発明のタンクは、図1に示す正極電解液用タンク1A、および負極電解液用タンク2の少なくとも一方に用いることができ、以下に示す実施形態では、両方の電解液用タンクに本発明タンクを用いる。タンクの構成については正極電解液用1Aを例に説明する。以下、従来と同様の構成については、図9と同一符号を付してその説明を省略する。
【0030】
《実施形態1》
<タンク>
正極電解液用タンク1A(以下、単にタンクとも言う)は、正極セル102に流通させる正極用電解液20(以下、単に電解液20とも言う)を貯留するためのものである。タンク1Aは、ここでは、図1に示すように円柱形状を成している。具体的には、このタンク1Aは、図2に示すように、正極セル102に電解液20が流通する配管108に接続される底面部10bと、正極セル102から電解液20が排出する配管110に接続される上面部10tと、底面部10bと上面部10tとに接合されて、底面部10bと上面部10tとの間に電解液20を貯留する領域を形成する側壁部10sとで形成されている。この側壁部10sは、正極用電解液20と接触する内側壁11と、内側壁11との間に隙間13を形成するように内側壁11の周りを取り囲む外側壁12との二重構造を成している。つまり、内側壁11と底面部10bと上面部10tとで電解液20が貯留される領域が形成される。この領域には、窒素ガスなどの不活性ガスが充填される気相部を有している。
【0031】
[側壁部]
(内側壁)
内側壁11は、電解液20と後述する液体30とが混ざらないように区分けする。
【0032】
内側壁11を構成する材料は、非金属材料で電解液20に対して化学反応が生じない材料、例えば、耐食性に優れる絶縁性材料であることが好ましい。内側壁11は電解液20と接触するためである。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ゴムの中から選択されるプラスチック材料が挙げられる。
【0033】
(外側壁)
外側壁12は、内側壁11を取り囲んで内側壁11との間に隙間13を形成して、外部から空気、特に酸素を内側壁11に直接侵入させるのを抑制する。
【0034】
外側壁12を構成する材料は、後述する液体30が隙間13に貯留されて接触するため、液体30の種類に合わせて適宜選択することができる。例えば、内側壁11と同様のプラスチックなどの耐食性に優れる絶縁性材料で形成してもよいし、外側壁12が電解液20と接触しないので、内側壁11と別材料で構成されていてもよい。後者の場合、例えば、貯留する液体30と化学反応しない材料、特に液体30により腐食し難い材料を選択すればよい。具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属材料を用いることもできる。
【0035】
(隙間)
隙間13は、後述する液体30を貯留するための領域で、内側壁11を取り囲む外側壁12により形成される。ここでは、外側壁12と上面部10tの外縁部と底面部10bの外縁部と内側壁11とで形成されている。
【0036】
(液体)
隙間13に貯留される液体30は、外部から侵入する空気を電解液20に接触させないように防御あるいは吸収する。
【0037】
液体30の種類は、外部からの空気の侵入を防御、あるいは吸収することができる液体であればよい。例えば、液体30には電解液20と同様の組成からなる電解液を用いてもよい。この場合、液体30が電解液であっても、充放電には関与しないので外部からの空気侵入により酸化して劣化することに問題はない。液体30は、詳しくは後述するが、温度の調節し易い液体や、導電率、pH、および組成を測定し易い液体であることが好ましい。具体的には、油、電解液20と異なる組成の電解液、水などが挙げられる。ここでは、液体30として水を使用する。そうすることで、外部から空気の侵入を防ぎやすい。加えて、外側壁12の構成材料の選択肢を多くすることもできる。
【0038】
液体30を貯留する量は、電解液20の液面高さ以上とする。そうすることで、タンク1Aの側壁部10sから侵入する空気が電解液20に接触することを抑制することができる。タンク1Aの電解液20と接所する領域が広い側壁部10sからの空気の侵入を抑制することで、電解液20の酸化による劣化を効果的に抑制することができる。ここでいう正極用電解液20の液面高さとは、タンクに貯留される電解液20の最大高さを言う。本例では、液体30の高さを、尤度を考慮して電解液20の液面高さとほぼ同じ高さとする。
【0039】
[上面部および底面部]
上面部10tと底面部10bは、側壁部10sのように二重構造をなしていない。上面部10tおよび底面部10bは二重構造としなくても、タンクにおいて電解液20との接触領域が大きい側壁部10sのみを上記二重構造としていることで外部から空気侵入を効果的に抑制できるので、電解液20の劣化を効果的に抑制することができる。
【0040】
<電解液>
正・負極のタンク1A、2のそれぞれに貯留する電解液の種類は以下の(1)〜(5)のいずれかとすることが挙げられる。
(1)正極用電解液は、マンガンイオンを含有し、負極用電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(2)正極用電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、負極用電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
(3)正極用電解液及び負極用電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する。
(4)正極用電解液及び負極用電解液は、バナジウムイオンを含有する。
(5)正極用電解液は、鉄イオンを含有し、負極用電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
【0041】
そうすることで、好ましいRF電池を構成することができる。特に、上記(1)、(2)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質に上記列挙したチタンイオンやバナジウムイオンなどを用いることで、高い起電力が得られる。上記(3)の電解液として、正極活物質にマンガンイオン、負極活物質にチタンイオンを用いることで、高い起電力が得られる。更に、上記(2)、(3)の電解液において正極活物質をマンガンイオンとし、別途チタンイオンを含有することで、高い起電力が得られる上に、電池抵抗の増加につながる析出物の発生を効果的に抑制することができる。上記電解液(5)としては、正極電解液が鉄イオンを含有し、負極電解液がクロムイオンを含有する構成が好適である。
【0042】
[作用効果]
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0043】
(1)側壁部を内側壁と外側壁との二重構造として、両壁間に隙間を形成することで、外部から空気を侵入させ難くするとともに、外部から侵入する空気を電解液に接触しないように防御、あるいは吸収させるための液体を、電解液の周りを取り囲むように配置することができる。
【0044】
(2)側壁部に形成された隙間に、電解液の液面以上の高さまで水を貯留することで、タンクにおいて電解液と接触する領域が大きい側壁部からの空気侵入を抑制することができる。それにより、タンクの長期的使用に伴う電解液の酸化による劣化を効果的に抑制することができる。
【0045】
(3)電解液の劣化に伴う電池の放電容量の低下、電池効率の低下、あるいは過充電を抑制することができるので、電池特性の低下を抑制することができる。
【0046】
《実施形態2》
実施形態2は、図3に示すように、タンク1Bの側壁部10sに加えて上面部10tも内側壁11と外側壁12との二重構造で形成されている点が、実施形態1と相違する。つまり、タンク1Bの底面部10bを除いた領域が、内側壁11と、内側壁11との間に隙間13を形成するように内側壁11を取り囲む外側壁12との二重構造を成している。ここでは、電解液20は、内側壁11と底面部10bとで形成される領域に貯留される。そして、外側壁12と、底面部10bの外縁部と、内側壁11とで形成される隙間13に液体30が貯留される。本例では、隙間13の全域に液体30を貯留する。この液体30には実施形態1と同様に水を使用する。
【0047】
上記の構成によれば、側壁部に加えて上面部も二重構造とし、かつ隙間13の全域に亘って水を貯留することで、側壁部だけでなく上面部から空気を侵入させ難くすることができる。そして、二重構造の隙間の全域に液体を貯留することで、空気の侵入をより効果的に抑制することができ、電解液の劣化を抑制し易くすることができる。
【0048】
《実施形態3》
実施形態3では、図4に示すように、タンク1Cの側壁部10sと上面部10tに加えて底面部10bも二重構造で形成されている点が、実施形態1、2と相違する。つまり、本例のタンク1Cでは、全域が内側壁11と、内側壁11との間に隙間13を形成するように内側壁11を取り囲む外側壁12との二重構造を成している。ここでは、内側壁11と外側壁12との隙間13に液体30を、電解液20と同じ液面高さまで貯留する。つまり、側壁部10sの下部と底面部10bの両隙間に液体30が貯留されている。本例でも液体30には水を使用する。
【0049】
[作用効果]
上記の構成によれば、以下の効果を奏する。
【0050】
(1)タンクは、その全域に亘って二重構造を成しているため、外部から空気を効果的に侵入させ難くすることができる。
【0051】
(2)液体を電解液の液面高さと同じ高さまで貯留することに加えて、底面部の隙間にも液体を貯留して、タンクの電解液と接触する全領域を液体で取り囲むことで、電解液の酸化に伴う劣化をより効果的に抑制することができる。
【0052】
(3)タンクの全域に亘って液体を貯留することができる。そのため、空気侵入をタンクの上記全域に亘って抑制できるので、タンクのいずれの箇所から空気が侵入しても電解液に空気が接触することを抑制できるので、電解液の酸化に伴う劣化をさらに効果的に抑制することができる。
【0053】
(4)内側壁と外側壁とを異なる材質で構成し易い。つまり、例えば内側壁はプラスチック材料で、外側壁を金属材料で構成し易い。外側壁を金属材料で構成する場合、外側壁の外周に断熱材などを巻いておくと、外部環境による影響、特に液体の温度変化などを抑制することができる。
【0054】
《実施形態4》
実施形態4では、図5に示すように、液体30の温度を調節するための温度調節装置4を具える点が実施形態1〜3と相違する。本例では、実施形態1〜3で説明したいずれの構成のタンクでもよく、ここでは実施形態3で説明したタンクと同様のタンクを例に説明する。以下、実施形態1〜3と相違する点について説明する。
【0055】
[温度調節装置]
本例のタンク1Dは、内側壁11と外側壁12とで形成される隙間13に貯留される液体30の温度を調節するための温度調節装置4を具える。温度調節装置4により液体30の温度を調節し、調節された液体30を利用して電解液20の温度を調節する。
【0056】
温度調節装置4としては、液体30を所望の温度、ひいては電解液20を所望の温度に調節できる装置であればよい。例えば、ヒータを用いることが挙げられる。ヒータを液体中に入れて直接液体の温度を調節してもよいし、外側壁12の外周に巻き付けて外側壁12の温度を調節することで液体30の温度を調節してもよい。前者の場合、直接液体の温度を調節するので、温度制御が容易である。後者の場合、外側壁12を熱伝導率の優れる材料(例えば金属)で構成すれば、液体30の温度を調節し易い。ここでは、液体30中で内側壁11の外周に沿って螺旋状にヒータを配置する。そうすることで、液体30全体を均一に温度調節することができる。
【0057】
本例のように温度調節装置4を具える場合、温度制御システムをさらに具えていると、液体及び電解液の温度を自動で制御することができる。この温度制御システムは、温度センサ5と、メモリ60、判定部61、および温度制御部62を具える温度制御装置6とを具える。温度センサ5は、電解液20の温度を測定する。温度制御装置6は、温度センサ5の測定温度に基づいて温度調節装置4(ヒータ)の出力を制御する。具体的には、メモリ60は、温度センサ5により測定された温度(測定温度)を記憶する。判定部61は、測定温度が設定温度の範囲内か否かを判定して、温度調節装置4の出力を制御する。温度制御部62は、判定部61の判定に基づいて温度調節装置4の出力を変更する。判定部61によりなされた判定を作業者が簡単に確認できるような確認手段を具えていてもよい。具体的には、目視にて確認できるモニタ90などの表示装置などが挙げられる。表示装置は、判定部61からの判定結果が取得できるように構成しておく。ここではモニタ90を具える。
【0058】
温度制御システムによる温度制御の手順を、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0059】
まず、温度センサ5により電解液20の温度を測定して取得する(ステップS01)。この電解液20の測定温度は電気信号として温度制御装置6に送られ、温度制御装置6のメモリ61に測定温度が保存される。
【0060】
次に、温度制御装置6は、メモリ61に保存された電解液20の測定温度を読み出し、この設定温度が、電解液20の設定温度の範囲内か否かを判定する(ステップS02)。
【0061】
測定温度が上記範囲内の場合、電解液20の温度を維持するために温度制御部62を現状維持とし(ステップS03)、温度調節装置4(ヒータ)の現状の出力を維持する。
【0062】
測定温度が上記範囲外の場合、電解液20の温度が所望の温度範囲内となるように温度制御部62を可変制御し(ステップS04)、温度調節装置4(ヒータ)の出力を変更する。より具体的には、電解液20の温度が低すぎればヒータの出力を上げ、電解液の温度が高すぎれば、ヒータの出力を下げたり、一時的にオフにしたりする。
【0063】
本例の温度制御システムでは、温度センサ5による温度測定を所定時間毎に行い、上記したステップS01〜ステップS04までの制御を繰り返す。
【0064】
[作用効果]
上述した構成によれば、以下の効果を奏する。
【0065】
(1)液体に水を用いることで、温度調節装置を液体中に配置させることができ、容易に水を所望の温度に調節することができる。
【0066】
(2)液体の温度調節により電解液の温度を調節することができる。その上、液体の温度調節が容易なため、電解液の温度調節も容易に行える。
【0067】
(3)液体の温度を調節することで電解液の温度を調節するため、電解液に直接温度調節装置を接触させなくても電解液の温度を容易に調節することができる。
【0068】
(4)温度制御システムを具えることで、液体及び電解液の温度を自動で制御することができる。
【0069】
《実施形態5》
ここでは、図7に基づいて実施形態5を説明する。実施形態5では、内側壁11から液体30中への電解液20の漏洩を検知する漏洩検知装置7を具える点が実施形態1〜4と相違する。本例でも実施形態4と同様に、実施形態1〜3で説明したいずれの構成のタンクでもよく、ここでは実施形態3で説明したタンクと同様のタンクを例に説明する。以下、実施形態1〜4と相違する点について説明する。
【0070】
[漏洩検知装置]
本例のタンク1Eは、電解液20が内側壁11から液体30中に漏洩したか検知するための漏洩検知装置7を液体30中に具える。漏洩したか否かは、例えば、液体30の導電率、pH、および組成の中から選択される少なくとも一つを測定して検知することが挙げられる。そのため、漏洩検知装置7としては、液体30の導電率、pH、および組成の中から選択される少なくとも一つを測定できる装置を使用すればよい。
【0071】
本例のように漏洩検知装置7を具える場合、運転制御システムをさらに具えると電解液20の漏洩にRF電池の運転を容易かつ迅速に制御することができる。運転制御システムは、RF電池の運転を制御する運転制御装置8を具える。この運転制御装置8は、メモリ80と、判定部81と、電池制御部82とを具え、漏洩検知装置7の導電率、pH、および組成の少なくとも一つの測定データに基づいてRF電池の運転を制御する。メモリ80は、漏洩検知装置7から測定されたデータを保存する。判定部81は、上記データに基づいて電解液20が内側壁11から液体30中に漏洩しているか否かを判定する。電池制御部82は、判定部81の判定によりRF電池を停止するかそのまま運転するかを制御する。判定部81により、電解液20が漏洩しているとされた判定を作業者が確認できるような確認手段を具えていることが好ましい。具体的には、目視にて確認できるモニタ91などの表示装置、または光を放つ警告ランプなどの照明装置、あるいは、音を鳴らして作業者に報せる警報スピーカなどの警報装置の少なくとも一つが挙げられる。ここでは、モニタ91を具える。
【0072】
電池制御システムによる電池制御の手順を、図8に示すフローチャートに基づいて説明する。ここでは液体30の測定するパラメータがpHの場合を例に説明する。
【0073】
まず、漏洩検知装置7により液体30(水)のpHを測定して、液体30のpHデータを取得する(ステップS11)。この液体30のpHデータは電気信号として運転制御装置8に送られ、運転制御装置8のメモリ80に保存される。
【0074】
次に、運転制御装置8は、メモリ80の保存されたデータが、設定した値(閾値)以上か否かを判定部81にて後述するように判定する(ステップS12)。その他、予め、電解液20と液体30とを、それぞれの割合を変化させて混合させた種々の混合液を作製しておき、混合比と混合液のpHの相関関係データを採っておいてもよい。その場合、その相関関係データをメモリ80にテーブルとして記録しておいて、テーブルと測定データとを比較して判定すればよい。このテーブルを用いれば、電解液20の漏洩のみならず、漏洩量も把握することができる。
【0075】
測定pHが上記閾値以上の場合、RF電池を運転させた状態を継続し、再度pHデータの取得を行う。
【0076】
測定pHが上記閾値未満の場合、警告をモニタに表示、警告音をスピーカで鳴らす、あるいは、ランプを点滅させるなどして作業者に警告する(ステップS13)。
【0077】
上記警告と共にRF電池を停止し(ステップS14)、制御を終える。具体的には、RF電池の充放電とポンプを停止する。
【0078】
本例の電池制御システムでは、漏洩検知装置7による液体30のpHの測定を所定時間毎に行い、上記したステップS11、ステップS12を繰り返す。
【0079】
[作用効果]
上述した構成によれば、以下の効果を奏する。
【0080】
(1)電解液の外側に内側壁を介して液体を覆うように貯留しているので、万一、電解液が内側壁から漏洩した場合、漏洩した電解液は上記隙間に流れて液体と混合される。その結果、液体の導電率、pH、および組成が変化するので、それらのうち少なくとも一つを測定することで、電解液の漏洩を容易かつ早期に検知することができる。
【0081】
(2)電解液がたとえ内側壁から漏洩したとしても、漏れた電解液は液体に混合されるだけであり、外側壁の外部には漏洩しない。そのため、タンクの外部に電解液が漏洩することを抑制することができる。
【0082】
(3)液体に水を使用しているため、電解液が内側壁から漏洩した場合は、導電率、pH、および組成の変化を検出し易い。
【0083】
(4)電池制御システムを具えることで、電解液が内側壁から液体中に漏洩したとしても、電解液の漏洩を容易かつ早期に検知して電池の運転を自動的に制御することができる。
【0084】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、温度調節装置と漏洩検知装置の両方を具えたタンクとしてもよい。また、正・負極のタンクをそれぞれ別の構成、例えば、正極電解液用タンクを実施形態1で説明した構成とし、負極電解液用タンクを実施形態2の構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の電解液循環型電池のタンクは、本発明の電解液循環型電池、例えばRF電池に好適に利用できる。また、本発明電解液循環型電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした用途に好適に利用することができる。そして、本発明電解液循環型電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1A、1B、1C、1D、1E 正極電解液用タンク
2 負極電解液用タンク
10s 側壁部 10t 上面部 10b 底面部
11 内側壁 12 外側壁 13 隙間
20 正極用電解液 30 液体
4 温度調節装置 5 温度センサ
6 温度制御装置 60 メモリ 61 判定部 62 温度制御部
7 漏洩検知装置
8 運転制御装置 80 メモリ 81 判定部 82 電池制御部
90、91 モニタ
100 電池セル 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極電解液用タンク
107 負極電解液用タンク 108、109、110、111 導管
112、113 ポンプ
120 セルフレーム 121 双極板 122 フレーム
123、124 給液用マニホールド 125、126 排液用マニホールド
127 シール部材
200 従来のセルスタック 210、220 エンドプレート
230 締付機構 231 締付軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルに供給される電解液を貯留するための電解液循環型電池のタンクであって、
前記タンクの少なくとも側壁部は、
前記電解液と接触する内側壁と、
前記内側壁との間に隙間を形成するように当該内側壁を取り囲む外側壁との二重構造からなり、
前記隙間には、前記タンク内の電解液の液面以上の高さまで液体が貯留されていることを特徴とする電解液循環型電池のタンク。
【請求項2】
前記タンクは、前記側壁部以外の箇所を含む全域に亘って前記二重構造により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電解液循環型電池のタンク。
【請求項3】
前記液体の温度を調節する温度調節装置を具えることを特徴とする請求項1または2に記載の電解液循環型電池のタンク。
【請求項4】
前記液体の導電率、pH、および組成の中から選択される少なくとも一つを測定して、前記電解液の漏洩を検知する漏洩検知装置を具えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解液循環型電池のタンク。
【請求項5】
前記液体が、水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解液循環型電池のタンク。
【請求項6】
正極電極、隔膜、および負極電極を具える電池セルが複数積層された電解液循環型電池用セルスタックと、
前記セルスタックに具える前記各極電極に供給する各極用電解液を貯留する各極タンクと、
前記セルスタックと前記各極タンクとの間で前記各極用電解液を移送する流通路とを具え、
前記各極タンクのうち少なくとも一方が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解液循環型電池のタンクであることを特徴とする電解液循環型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−160344(P2012−160344A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19203(P2011−19203)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】