説明

電解用電極の製造方法

【課題】特に陽極において酸素発生を伴う電解銅箔製造、アルミニウム液中給電、連続電気亜鉛メッキ鋼板製造等の工業電解において優れた耐久性を有する電解用電極の製造方法の提供。
【解決手段】バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体1の表面にAIP法により結晶質Ta及び結晶質Ti成分を含有するバルブメタル基合金よりなるAIP下地層2を形成する工程、AIP下地層2表面にバルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液を塗布後加熱焼成処理し、AIP下地層2のTa成分のみを非晶質に変換するとともに、非晶質に変換されたTa成分及び結晶質Ti成分を含有するAIP下地層2の表面にバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層4を形成する加熱焼成処理工程、酸化物中間層4の表面に電極触媒層3を形成する工程よりなる電解用電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業電解に使用される電解用電極の製造方法に関し、特に、陽極において酸素発生を伴う、電解銅箔の製造、液中給電によるアルミニウム電解コンデンサーの製造、連続電気亜鉛メッキ鋼板の製造等の工業電解において優れた耐久性を有する電解用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解銅箔の製造、液中給電によるアルミニウム電解コンデンサーの製造、連続電気亜鉛めっき鋼板の製造等の工業電解では、陽極において酸素発生を伴うため、金属チタン基体に主として酸素発生に耐性のある酸化イリジウムを電極触媒としてコーティングした陽極が多く用いられるようになった。しかし、陽極において酸素発生を伴うこの種の工業電解では、製品の安定化のために有機物や不純物元素が添加されるため、種々の電気化学反応や化学反応が起こり、酸素発生反応に伴う水素イオン濃度の高まり(pHが低下)による電極触媒の消耗をさらに早めることになる。
【0003】
また、酸素発生用に多く用いられる酸化イリジウム電極触媒では、電極触媒の消耗と、それと共通する原因による電極基体の腐食から開始され、さらに、電極触媒の部分的な内部消耗と剥離によって、残った電極触媒への電流集中が加わり、連鎖的かつ加速度的に進行するものと考えられる。
【0004】
従来、このような電極基体の腐食溶解やそれに伴う有効な電極触媒の電極基体からの剥離を抑制するために、チタン基体と電極触媒層の間に中間層を設けることを中心に多くの方法が採られており、この中間層の電極活性は、電極触媒層より低いものが選択され、いずれのタイプも電子伝導性を持ち、腐食性の電解液及びpHの低下をもたらす酸素発生部位から電極基体を遠ざけることによって、基体のダメージを緩和するという役割を担っている。このような条件を満たす中間層として、各種方法が以下に記載する特許文献に記載されている。
【0005】
特許文献1においては、タンタル及び/又はニオブの酸化物を金属換算で0.001〜1g/m2の薄さで設け、基体表面に生成するチタン酸化皮膜に導電性を付与した中間層が提案された。
【0006】
特許文献2においては、チタン及び/又はスズの酸化物に、タンタル及び/又はニオブの酸化物を添加した原子価制御半導体が提案され、いずれも工業的に広く用いられている。
【0007】
特許文献3においては、基体表面に真空スパッタリングにより粒界のない非晶質層からなる下地層を設け、その上に金属酸化物からなる中間層を設けることが提案されている。
【0008】
しかるに、近年経済的効率を重視する流れから、運転条件が益々過酷となり、より高い耐久性を持った電極が求められており、これら特許文献1〜3に記載の方法では、十分なる効果が得られていなかった。
【0009】
特許文献4においては、このような中間層形成の問題点を解消するために、チタン製電極基体自体を電解酸化して該電極基体表面のチタンを酸化チタンに変換して中間層(チタン酸化物単独層)を形成する方法が記載されている。この特許文献4に記載の電極では、電解酸化で形成可能な中間層が極めて薄いため十分な耐食性が得られず、そのため前記第1のチタン酸化物単独層の表面に熱分解法で厚い第2のチタン酸化物単独層を形成し、その上に電極触媒層を形成している。
しかるに、この特許文献4に記載の方法では、中間層形成に2工程、特に電解と熱分解といった全く異なった設備を要する工程を要するため、作業性が劣り経済的にも負担が大きく、十分な実用性を有し得なかった。
【0010】
特許文献5においては、電極基体の高温酸化処理により、電極基体と電極触媒の中間に耐食性に富み緻密で電極基体と強固に接合できる高温酸化皮膜よりなる中間層が提案された。特許文献5によれば、電極基体の高温酸化で得られる高温酸化皮膜は、耐食性に富み、緻密で電極基体と強固に接合しているため、電極基体を保護し、さらに、主として酸化物からなる電極触媒を酸化物−酸化物結合により、確実に担持することができる。
【0011】
特許文献6においては、特許文献5における効果を更に向上するため、金属酸化物と高温酸化による基体由来の高温酸化皮膜との2層構造の中間層が提案された。
しかるに、特許文献5及び特許文献6のいずれの方法によっても、電極基体と電極触媒の中間に、耐食性に富み、緻密で電極基体と強固に接合できる中間層を形成する点において不十分であり、より緻密で電解耐食性と導電性を高めた電解用電極を得ることが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭60−21232号公報
【特許文献2】特公昭60−22074号公報
【特許文献3】特許第2761751号公報
【特許文献4】特開平7−90665号公報
【特許文献5】特開2004−360067号公報
【特許文献6】特開2007−154237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来技術の欠点を解消し、前記各種工業電解において、より緻密で電解耐食性と導電性を高めた電解用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、第1の課題解決手段として、バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体の表面にアークイオンプレーティング法(以下、単に、「AIP法」という。)により結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるアークイオンプレーティング下地層(以下、単に、「AIP下地層」という。)を形成する工程と、AIP下地層の表面にバルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液を塗布した後、これを加熱焼成処理し、結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるAIP下地層のタンタル成分のみを非晶質に変換するとともに、非晶質に変換されたタンタル成分及び結晶質のチタン成分を含有するAIP下地層の表面にバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層を形成する加熱焼成処理工程と、該酸化物中間層の表面に電極触媒層を形成する工程とよりなることを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明は、第2の課題解決手段として、前記加熱焼成処理工程において、前記加熱焼成処理における焼成温度を530℃以上とし、前記加熱焼成における焼成時間を40分以上としたことを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明は、第3の課題解決手段として、前記加熱焼成処理工程において、前記加熱焼成処理における焼成温度を550℃以上、焼成時間を60分以上とし、前記AIP下地層のタンタル成分のみを非晶質に変換するとともにバルブメタル成分を部分的に酸化物に変換することを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0017】
本発明は、第4の課題解決手段として、前記バルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層を形成する金属酸化物がチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物であることを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明は、第5の課題解決手段として、前記電極触媒層を形成する際に、塗布熱分解法によって前記電極触媒層の形成を行うようにしたことを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明は、第6の課題解決手段として、前記バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体がチタン又はチタン基合金であることを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0020】
本発明は、第7の課題解決手段として、前記AIP下地層を形成するバルブメタル又はバルブメタル基合金が、タンタル及びチタンとともに、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種とにより構成されたことを特徴とする電解用電極の製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明方法によれば、バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体の表面に、AIP法により結晶質のタンタル及びチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるAIP下地層を形成した後、AIP下地層の表面にバルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液を塗布した後、これを加熱焼成処理し、AIP下地層のタンタル成分を非晶質に変換するとともに、バルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層を形成した上で、この表面に電極触媒層を形成するための加熱焼成処理を行う。この酸化物中間層形成のための加熱焼成処理によって、AIP下地層をはじめ各層及び各界面の強化が図られる。
即ち、AIP下地層のタンタル成分の非晶質相には、本質的に結晶面は存在せず、また転位の移動・増殖は起こらないから、電極触媒層の形成のための加熱焼成処理に伴う結晶粒の成長や転位の移動による熱変形も起こらない。熱変形は結晶質相のままのチタン成分のみに生じ、全体的にはAIP下地層に生じる熱変形は緩和される。AIP下地層の熱変形はその表面の形状・形態の変化となって表れるから、AIP下地層とその上に加熱焼成処理によって積層されていく電極触媒層の間に間隙が生じる危険性がある。AIP下地層の非晶質化はこの問題を軽減させる。
また、このAIP下地層中の結晶質相のチタン成分に関しても、酸化物中間層形成のための加熱焼成処理をすることによって、将来の変形の原因となる内部応力を減少させるいわゆる焼鈍を行ったことになるので、その分電極触媒層形成のための加熱焼成処理による熱変形は小さくなる。電極基体にAIP処理を行った直後のAIP下地層には、他の物理蒸着、化学蒸着、めっき等と同様に大きな内部応力が包含されているからである。
ただし、これらの元となる結晶粒の成長や転位の移動・増殖は加熱中に生じる現象である。酸化物中間層の形成及び電極触媒層の形成のための加熱焼成処理に伴って頻繁に繰り返される急加熱〜急冷は、基体と異なる熱膨張係数を持つAIP下地層に大きな衝撃を及ぼす。AIP下地層と基体とは原子レベルで強く接合しているといわれており、熱衝撃の負荷はAIP下地層内の強度の低い部分にかかることになり、AIP下地層に断層が入ることは避けられない。
酸化物中間層の形成のための加熱焼成処理において、バルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液の塗布→加熱焼成処理によって形成されたバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層は、熱分解成分が抜けた微細孔を多く持ついわば柔構造になっているため、AIP下地層の断層に対してある程度追従性があり、この断層の上を覆う形で成膜される。この酸化物中間層は引き続いて行われる電極触媒層の形成の際に、電極触媒成分が断層に浸入するのを防ぐ働きがあるのはもちろん、電解用電極として実際の電解に供されるときにも、電解液の断層への浸入を防ぐことになる。電極触媒層の触媒成分が次第に消耗し、熱分解成分が抜けた跡の微細孔が拡大していくのに対して、バルブメタル成分を主として含有する酸化物中間層の微細孔の大きさには変化がないからである。このため電解液が基体とAIP下地層の界面に達して、電解中に基体を腐食させる現象を抑制させることができる。この作用はバルブメタル成分を主として含有する酸化物中間層を複数回形成したときに、及び電極の寿命の判定を電解開始から1Vの上昇ではなく、過酷な電解を模して2Vの上昇を以って行うようにしたときにより強くなることが実験の結果明らかとなっている。
また、バルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液の塗布→加熱焼成処理によって形成されたバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層は、この加熱焼成処理に伴って生じた高温酸化皮膜で覆われたAIP下地層に対して、その高温酸化皮膜/酸化物の接合界面において、それらの構成成分が相互熱拡散することによって、組成が局部的に連続化するために、きわめて良好な接合性を持つことになる。この酸化物中間層は、AIP下地層の高温酸化皮膜と一体化してこれを補強する保護層として電極基体の耐腐食性が向上でき、また電極触媒層との酸化物/酸化物の接合界面においても、それらの構成成分が相互熱拡散することによって、組成が局部的に連続化するために、AIP下地層と電極触媒層の双方に対して良好な接合性を持つことになるので、層界面の剥離現象が抑制される。
【0022】
更に、本発明によれば、加熱焼成処理によってバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層を形成するとき、焼成温度を530℃以上とし、焼成時間を40分以上とすることにより、この酸化物中間層の強度が上がり、AIP下地層上の高温酸化皮膜との接合が強化されることになるから、上記の効果は、更に向上し、AIP下地層の断層に電解液が浸入することを抑制して電極基体を保護し、電極寿命を長くすることができる。
【0023】
更に、本発明によれば、加熱焼成処理によってバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層をAIP下地層上に形成するとき、焼成温度を550℃以上、焼成時間を60分以上とし、AIP下地層のタンタル成分を非晶質に変換するとともに、バルブメタル成分を部分的に酸化物に変換することにより、AIP下地層が酸化物含有層となり、AIP下地層表面に生じた高温酸化皮膜は、AIP層中に広く分散された状態で含有された酸化物の一部と結合して、いわゆるアンカー効果によってより強固にAIP下地層に接合することとなり、上記の効果は、更に向上し、AIP下地層の断層や電極基体を電解液の浸入から保護し、過酷な電解に耐えて電極寿命を長くすることができる。
【0024】
よって、バルブメタル成分を主として含有する酸化物よりなる酸化物中間層は、AIP下地層で被覆されたバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体及びAIP下地層に対する保護作用が著しいために、電極を寿命の限界まで使用しても、電極のリサイクルに際して、バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体から高価なAIP下地層を剥離しないで、常に、AIP下地層で被覆されたバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体を、そのまま一体で再利用できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る電解用電極の一例を示す概念図。
【図2A】実施例2の電極の電解後のサンプル断面SEM像。
【図2B】比較例1の電極の電解後のサンプル断面SEM像。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明における電解用電極の一例を示す概念図である。
本発明においては、先ず、バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体1を洗浄し、電極基体表面の油脂、切削屑、塩類等の汚れを除去する。洗浄は水洗、アルカリ洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄、スクラブ洗浄等を用いることができる。更に、電極基体1の表面をブラストやエッチングにより粗面化し、表面積を拡大することによって、接合強度を高め、電解電流密度を実質的に下げることができる。エッチングすると単に表面洗浄するより表面の清浄度をあげることができる。エッチングは、塩酸、硫酸、蓚酸等の非酸化性酸又はこれらの混合酸を用いて沸点かそれに近い温度で行うか、硝弗酸を用いて室温付近で行う。しかる後、仕上げとして、純水でリンスした後十分乾燥させておく。純水を使う前には、大量の水道水でリンスしておくことが好ましい。
【0027】
本明細書において、バルブメタルとは、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンをいう。本発明において使用されるバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体の代表的な基体材料としては、チタン又はチタン基合金が使用される。チタン及びチタン基合金が好ましいのは、その耐食性と経済性のほか、強度/比重つまり比強度が大きくかつ圧延等の加工が比較的容易で、切削等の加工技術も近年非常に向上しているからである。その形状は棒状、板状の単純なものでも、機械加工による複雑な形状を持つものでもよく、表面は平滑なものでも多孔質なものでも対応が可能である。ここで表面とは電解液に浸漬したとき電解液に触れることが可能な部分のことをいう。
【0028】
次いで、バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体1の表面にAIP法により結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるAIP下地層2を形成する。
【0029】
結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるAIP下地層2の形成に使用する金属としての好ましい組み合わせとしては、タンタルとチタン又はタンタルとチタンに加えてニオブ、ジルコニウム及びハフニウムの3種から選ばれた少なくとも1種の金属の組み合わせが使用される。これらの金属を用いて、電極基体1の表面に、AIP法によりAIP下地層2を形成すると、AIP下地層2中の金属はすべて、結晶質となる。
【0030】
AIP法とは、真空中において、金属ターゲット(蒸発源)を陰極としてアーク放電を起こし、それにより発生した電気エネルギーにより、ターゲット金属を瞬時に蒸発させると同時に、真空中に飛び出させ、一方、バイアス電圧(負圧)を被コーティング物に印加することで、金属イオンを加速し、反応ガス粒子とともに、被コーティング物の表面に密着させ、強固で緻密な膜を生成する方法である。AIP法によれば、アーク放電の驚異的なエネルギーを使用し、超硬質膜を強固な密着力で生成することが出来る。また、真空アーク放電の特性により、ターゲット材料のイオン化率が高く、緻密で密着力の優れた皮膜を容易に高速で形成できる。
ドライコーティング技術として、PVD(Physical Vapor Deposition、物理的吸着法)とCVD(Chemical Vapor Deposition、化学的吸着法)とがあり、AIP法は、PVD法の代表的手法であるイオンプレーティング法の一種であるが、真空アーク放電を利用した特殊なイオンプレーティング法である。従って、このAIP法によれば、高蒸発レートが簡単に得られ、他方式のイオンプレーティング法では困難とされている高融点金属の蒸発や融点や蒸気圧の異なる材料を組み合わせた合金ターゲット材料でも略合金成分比のまま蒸発させることが可能であり、本発明による下地層の形成に必須の方法である。
【0031】
前述の特許文献3の2ページ右欄20〜30行中には、「このような物質の該非晶質層を金属性基体上に形成する方法として真空スパッタリングによる薄膜形成方法を用いる。真空スパッタリング法によれば、粒界のない非晶質なアモルファス状の薄膜が得やすい。真空スパッタリングは直流スパッタリング、高周波スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビームプレーティング、クラスターイオンビーム法等、種々の装置を適用することが可能であり、真空度、基板温度、ターゲット板の組成や純度、析出速度(投入電力)等の条件を適宜設定することにより所望の物性の薄膜を形成することができる。」ことが開示され、特許文献3の3ページ右欄以下の実施例1及び2において、高周波スパッタリングが採用されている。しかし、この高周波スパッタリング法では、AIP法と異なり、ターゲット金属の蒸発レートが低く、タンタル、チタンのように融点や蒸気圧の異なる材料を組み合わせた合金ターゲット材料では、形成される合金比が一定とならない欠点を有している。また、特許文献3の3ページの右欄以下の実施例1及び2においては、高周波スパッタリングが採用されている。しかし、この高周波スパッタリング法では、ターゲット金属として、タンタルとチタンを用いた場合、両金属ともに、非晶質の薄膜が得られたのに対して、本発明におけるAIP法によれば、すべての金属が結晶質の薄膜になった。また、特許文献3に開示されている、直流スパッタリング、高周波スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビームプレーティング、クラスターイオンビーム法等の真空スパッタリングでは、高周波スパッタリングと同様な結果しか得られず、AIP法による緻密で強固な被覆層を得ることが出来なかった。
【0032】
結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるAIP下地層2の厚さは通常0.1〜10μmの範囲でよく、耐食性や生産性等の実用的見地から適宜選定すればよい。
【0033】
しかる後、前記したAIP下地層2の表面に、電極触媒よりなる電極触媒層3を被覆する前に、バルブメタル又はバルブメタル基合金の金属化合物の溶液を塗布した後、これを加熱焼成処理し、塗布熱分解法により、AIP下地層2のタンタル成分を非晶質に変換するとともに、バルブメタル酸化物を主として含有する酸化物中間層4を形成する。この酸化物中間層4を形成する酸化物としては、バルブメタルを主として含有する酸化物よりなるが、4価のチタン基体と一体化して原子価制御半導体となる5価のタンタル、ニオブ、バナジウム酸化物等のような酸化物か、5価のタンタル、ニオブ、バナジウム酸化物等に6価のモリブデン酸化物等を加えるか、又は4価のチタン、ジルコニウム、スズ酸化物等に5価のタンタル、ニオブ、バナジウム、アンチモン酸化物等を加えた単相で原子価制御半導体となる酸化物か、又は不定比組成のチタン、タンタル、ニオブ、スズ、モリブデン酸化物等のn型半導体を用いることが出来る。特に5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物、又は4価の原子価数を取るチタン及びスズから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物と5価の原子価数を取るタンタル及びニオブから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物からなる酸化物が好適である。
【0034】
更に、後述する実施例に示す通り、本発明によれば、加熱焼成処理によってバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層4を形成するとき、前記加熱焼成処理における焼成温度を530℃以上とし、焼成時間を40分とすることが望ましい。
【0035】
このように、該酸化物中間層4の表面に電極触媒層3を形成することにより、AIP下地層2と酸化物中間層4と電極触媒層3の界面の接合が更に一層強固となる。即ち、AIP下地層2の形成→バルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液の塗布→加熱焼成処理による酸化物中間層4の形成→電極触媒層3の形成となり、バルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液塗布→加熱焼成処理という手法で、このAIP下地層2と電極触媒層3界面の剥離現象が抑制される。また、このバルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液塗布→加熱焼成処理によって形成されたバルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層4は、電極触媒層3とこの加熱焼成処理に伴って生じた高温酸化皮膜で覆われたAIP下地層2の双方に対して、酸化物/酸化物/酸化物の接合界面においてそれらの構成成分が相互熱拡散することによる組成の局部的連続化によって、きわめて良好な接合性を持っているということになる。この酸化物中間層4は、AIP下地層2の保護層として電極基体1の耐腐食性が向上でき、またAIP下地層2と触媒層3の双方に対して良好な接合性を持つので、層界面の剥離現象が抑制される。
【0036】
本発明における上記酸化物中間層4の厚みは、通常10nm以上が好ましい。
この塗布熱分解法の一例として、例えば、塩化タンタルを塩酸に溶解した液を金属チタン基体1上のAIP下地層2上に塗布する。この塗布熱分解法による加熱処理を、焼成温度を550℃以上、焼成時間を60分以上とすると、酸化物中間層4が形成され、同時に、AIP下地層2のタンタル成分が非晶質化するとともに、タンタル及びチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金の一部が酸化物に変換され、AIP下地層2の表面に酸化物中間層4が形成され、表面に塗布熱分解法によって形成される電極触媒層3との密着性を向上させることが出来る。
このようにして加熱焼成処理して形成された非晶質相及び酸化物含有層でありかつ上層に緻密でごく薄い高温酸化皮膜(酸化物中間層4)を持つAIP下地層2によってもたらされる熱的酸化に対する熱変形抑制効果及び高温酸化皮膜の緻密化効果及び高温酸化皮膜のアンカー効果は、次記する電極活性物質被覆工程における熱影響の緩和は勿論、同様に電解使用時の電気化学的酸化・腐食に対する緩和効果をもたらし、電極の耐久性の向上に大きく寄与するものと考えられる。
【0037】
次に、続けてこのように形成した酸化物中間層上に、貴金族金属又は貴金族金属酸化物等を主触媒とする電極触媒層3を設ける。電極触媒は各種電解に対応して、白金、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物、ロジウム酸化物、パラジウム酸化物等から適宜、単独で又は組み合わせて選択するが、発生酸素、低pH、有機不純物等に対する耐久性を特に要求される場合の酸素発生用電極においては、イリジウム酸化物が好適である。また、基体との密着性や電解耐久性を高めるために、チタン酸化物、タンタル酸化物、ニオブ酸化物、スズ酸化物等を混合させておくことが望ましい。
この電極触媒層の被覆方法としては、塗布熱分解法、ゾルゲル法、ペースト法、電気泳動法、CVD法、PVD法等を用いることが出来るが、特に特公昭48−3954号公報及び特公昭46−21884号公報に詳細に記載されているような、被覆層の主体となる元素を含有する化合物溶液を基体に塗布し、乾燥させた後、加熱焼成処理を行って、熱分解及び熱合成反応により目的の酸化物を生成する方法である塗布熱分解法が好適である。
電極触媒層成分の金属化合物としては、有機溶媒に溶解させた金属アルコキシド、主として強酸水溶液に溶解させた金属塩化物や硝酸塩、及び油脂に溶解させたレジネート等があり、これらに適宜安定化剤として塩酸、硝酸、蓚酸、及び錯化剤としてサリチル酸、2−エチルヘキサン酸、アセチルアセトン、EDTA、エタノールアミン、クエン酸、エチレングリコール等を添加して塗布溶液とし、ブラシ塗布、ローラー塗布、スプレー塗布、スピンコート、印刷及び静電塗装等、既知の塗布方法を用いて、前述の酸化物中間層表面に塗布し、乾燥後、空気等の酸化性雰囲気炉中で加熱焼成処理を行う。
【実施例】
【0038】
次に本発明に係る電解用電極及びその製造に関する実施例及び比較例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0039】
<実施例1>
JISI種チタン板の表面を鉄グリット(G120サイズ)にて乾式ブラスト処理を施し、次いで、沸騰濃塩酸水溶液中にて10分間酸洗処理を行い、電極基体の洗浄処理を行った。洗浄した電極基体を、蒸発源としてTi−Ta合金ターゲットを用いたアークイオンプレーティング装置にセットし、電極基体表面にTi−Ta合金下地層コーティング被覆を行った。被覆条件は、表1の通りである。
【0040】
【表1】

【0041】
当該合金層の組成は、検査用として電極基体と並置されたステンレス板の蛍光X線分析からは、ターゲットと同組成であった。AIP下地層被覆後、X線回折を行ったところ、基体バルク自体とAIP下地層にも帰属する明瞭な結晶性のピークが見られ、該下地層が稠密六方晶(hcp)のチタン、体心立方晶(bcc)と少量の単斜晶系(monoclinic)のタンタルからなる結晶質相であることが分かった。
次に、5g/lの五塩化タンタルを濃塩酸に溶解して塗布液とし、前記AIP下地層上に塗布し、乾燥後、空気循環式の電気炉中にて525℃、80分間熱分解被覆を行い、酸化タンタル層を形成した。X線回折を行うと、AIP下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンが見られ、該下地層のタンタル相が熱処理によって結晶質から非晶質に転換したことが分かった。他にはチタン基体及びAIP下地層に帰属するチタン相の明瞭なピークも見られた。
次に、四塩化イリジウム、五塩化タンタルを濃塩酸に溶解して塗布液とし、前記AIP下地層表面に形成した酸化タンタル中間層上に塗布し、乾燥後、空気循環式の電気炉中にて535℃、15分間の熱分解被覆を行い、酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合酸化物よりなる電極触媒層を形成した。塗布液の1回あたりの塗布厚みがイリジウム金属に換算してほぼ1.0g/m2になる様に前記塗布液の量を設定し、この塗布〜焼成の操作を12回繰り返して、イリジウム金属換算で約12g/m2の電極触媒層を得た。
この試料についてX線回折を行ったところ、電極触媒層に帰属する酸化イリジウムの明瞭なピークとチタン基体及びAIP下地層に帰属するチタン相の明瞭なピークが見られ、さらにAIP下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンが見られ、AIP下地層のタンタル相が電極触媒層を得るための加熱焼成処理によっても非晶質を維持していることが分かった。
【0042】
このようにして作製した電解用電極について、以下の条件で電解寿命評価を行った。
電流密度:500A/dm2
電解温度:60℃
電解液:150g/l硫酸水溶液
対極:Zr板
初期セル電圧より2.0Vの上昇が見られた時点を電解寿命とした。
この電極の電解寿命を表2に示した。同表2の比較例1に比べ、酸化物中間層を形成する工程において、加熱焼成処理における焼成温度を530℃以下とした場合には、酸化タンタル中間層を設けた電極が当該中間層を設けない電極と同程度の電解寿命を示した。ただし、AIP下地層直下の電極基材の腐食に関しては、同様ではない。
【0043】
<実施例2〜3>
実施例1と同様にして、AIP処理によるTi−Ta合金被覆チタン基体を得た後、五塩化タンタルを濃塩酸に溶解して塗布液とし、前記AIP下地層上に塗布し、乾燥後、空気循環式の電気炉中にて表2に示すように様々な焼成温度と焼成時間下で加熱処理を行い、酸化タンタル中間層を形成した。
熱分解後X線回析を行ったところ、全部の電極でAIP下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンが見られ、該下地層のタンタル相が加熱焼成処理によって結晶質から非晶質に転換したことが分かった。他にはチタン基体及びAIP下地層に帰属するチタン相の明瞭なピークも見られた。
次に、実施例1と同様の方法で電極触媒層を形成し、同様の方法で電解寿命評価を行った。
表2に示す電解寿命結果により、酸化物中間層の焼成温度と焼成時間が増加するに従って、電極寿命も上昇することが分かった。
又、図2Aは、実施例2の電極の電解後のサンプル断面SEM像であって、基体1が全く腐食しておらず、電解液が基体1とAIP下地層2の界面に浸入することがなかった。実施例3の電極においても、同様に基体1が全く腐食しておらず、電解液が基体1とAIP下地層2の界面に浸入することがなかった。
【0044】
<実施例4〜7>
実施例1と同様にして、AIP処理によるTi−Ta合金被覆チタン基体を得た後、五塩化タンタルを濃塩酸に溶解して塗布液とし、前記AIP下地層上に塗布し、乾燥後、空気循環式の電気炉中にて表2に示すように様々な焼成温度と焼成時間下で加熱処理を行い、酸化タンタル中間層を形成した。
熱分解後X線回析を行ったところ、AIP下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンと酸化タンタルのピークが見られ、該下地層のタンタル相が加熱焼成処理によって結晶質から非晶質に転換したと共に、一部酸化物(Ta25)になることが分かった。他にはチタン基体及びAIP下地層に帰属するチタン相の明瞭なピークも見られたと共に、前記の加熱焼成処理における焼成温度が575℃以上、焼成時間が60分以上としたときに、AIP下地層に帰属する酸化チタンのピークも見られた。このことより、該下地層のチタン相が一部酸化物(TiO)になることが分かった。ただし、実施例4では酸化タンタルのみ見られた。
次に、実施例1と同様の方法で電極触媒層を形成し、同様の方法で電解寿命評価を行った。電解寿命は表2中に示した。
表2に示す電解寿命結果により、酸化物中間層の形成のための焼成温度を550℃以上、焼成時間を60分以上として、AIP下地層が酸化物含有層となると、電極寿命もさらに上昇することが分かった。
【0045】
更に、中間層熱処理による試料の重量変化を表2中の「中間層の熱処理による下地層の成分の相転換及び重量変化」の欄に示す。
【0046】
<比較例1>
AIP処理によるTi−Ta合金被覆チタン基体を得た後、五塩化タンタルの濃塩酸溶液を塗布しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、空気循環式の電気炉中にて熱分解被覆を行った後、X線回析を行ったところ、合金下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンが見られ、該下地層のタンタル相が加熱焼成処理によって結晶質から非晶質に転換したことが分かった。他にはチタン基体および合金下地層に帰属するチタン相の明瞭なピークも見られた。
次に、実施例2と同様の方法で電極触媒層を形成し、同様の方法で電解寿命評価を行った。電解寿命は表2中に示した。
実施例2に比べ、電極寿命はかなり低下したことが分かった。また、図2Bに示すように電解後のサンプル断面SEM像から、過酷な電解を模して電極の寿命の判定を電解開始から2Vの上昇を以って行うようにしたときに、AIP下地層のひび割れを通して、電解液が基体とAIP下地層の界面に浸入したことにより、基体が腐食し、さらにひび割れが拡大した箇所が観察された。これに対し、実施例2では同様の電解条件下で、たとえAIP下地層にひび割れが存在していても、基体には腐食箇所は観察されなかった。
比較例1の電極は、実施例2の電極に比べ、電極寿命はかなり低下したことが分かった。また、図2Bは、比較例1の電極の電解後のサンプル断面SEM像であって、この電極は、図2Bに示すように、過酷な電解を模して電極の寿命の判定を電解開始から2Vの上昇を以って行うようにしたときに、AIP下地層2にひび割れが発生して、このひび割れから電解液が基体1とAIP下地層2の界面に浸入したことにより、基体が腐食し、さらにひび割れが拡大した箇所が観察された。これに対し、実施例2の電極では、例えAIP下地層2にひび割れが発生しても、基体には腐食箇所は観察されなかった。
この現象はすべての実施例・比較例に共通のものである。
これらのことから、酸化物中間層が電解液の断層によるひび割れへの浸入を防ぐことになり、基体を腐食させる現象を抑制させることが出来ることが分かった。
【0047】
<比較例2>
AIP処理によるTi−Ta合金被覆チタン基体を得た後、五塩化タンタルの濃塩酸溶液を塗布しなかったこと以外は、実施例5と同様にして、空気循環式の電気炉中にて熱分解被覆を行った後、X線回析を行ったところ、全部の電極でAIP下地層に帰属するタンタル相のブロードなパターンと酸化タンタルのピークが見られ、該下地層のタンタル相が加熱焼成処理によって結晶質から非晶質に転換したと共に、一部酸化物になることが分かった。
次に、実施例5と同様の方法で電極触媒層を形成し、同様の方法で電解寿命評価を行った。表2中の硫酸電解寿命の欄に示したように、実施例5の2350時間に対して、わずか1802時間で寿命となり、タンタル中間層を設けることは電極の電解耐久性を向上させることが分かった。
【0048】
<比較例3>
AIP処理によるTi−Ta合金被覆チタン基体を得た後、五塩化タンタルの濃塩酸溶液の塗布と空気循環式の電気炉中の熱処理をしなかったこと以外は、実施例2と同様にして、AIP下地上に直接電極触媒層を形成し、同様の方法で電解寿命評価を行った。電解寿命は530℃180分で酸化物中間層を形成した実施例2の1952時間に対して、1637時間を示すにとどまった。また酸化物中間層を形成せずに530℃180分加熱処理したのみの比較例1の1790時間にも到達しなかった。これより、AIP下地層の加熱処理及び酸化物中間層の両方の要素は、共に電極の電解寿命を向上させるに寄与するものであることが分かった。
【0049】
<比較例4>
実施例1と同様にして、ブラスト・酸洗処理済チタン基体を用い、AIP処理によるTi−Ta合金被覆を行わず、チタン基体の上に直接五塩化タンタルの濃塩酸塗布液を塗布し、乾燥後、空気循環式の電気炉中にて実施例2と同様の熱処理条件下で熱分解被覆を行い、酸化タンタル層を形成し、同様の電解寿命評価を行ったところ、わずか1321時間の電解寿命時間にとどまり、その後セル電圧は急に上昇した。
【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、電解銅粉、電解銅箔の製造又は銅メッキだけでなく、各種の電解用電極の再活性方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 電極基体
2 AIP下地層
3 電極触媒層
4 酸化物中間層
5 埋め込み充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体の表面にアークイオンプレーティング法により結晶質のタンタル及びチタン成分を含有するバルブメタル基合金よりなるアークイオンプレーティング下地層を形成する工程と、
該アークイオンプレーティング下地層の表面にバルブメタル成分を主として含有する金属化合物の溶液を塗布した後、これを加熱焼成処理し、結晶質のタンタル及び結晶質のチタン成分を含有するバルブメタル又はバルブメタル基合金よりなるアークイオンプレーティング下地層のタンタル成分のみを非晶質に変換するとともに、非晶質に変換されたタンタル成分及び結晶質のチタン成分を含有するアークイオンプレーティング下地層の表面にバルブメタル酸化物成分を主として含有する中間層を形成する加熱焼成処理工程と、
該酸化物中間層の表面に電極触媒層を形成する工程とよりなることを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項2】
前記加熱焼成処理工程において、前記加熱焼成処理における焼成温度を530℃以上とし、前記加熱焼成における焼成時間を40分以上としたことを特徴とする請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項3】
前記加熱焼成処理工程において、前記加熱焼成処理における焼成温度を550℃以上、焼成時間を60分以上とし、前記アークイオンプレーティング下地層のタンタル成分のみを非晶質に変換するとともに、バルブメタル成分を部分的に酸化物に変換することを特徴とする請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記バルブメタル酸化物成分を主として含有する酸化物中間層を形成する金属酸化物がチタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項5】
前記電極触媒層を形成する際に、塗布熱分解法によって前記電極触媒層の形成を行うようにした請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項6】
前記バルブメタル又はバルブメタル基合金よりなる電極基体がチタン又はチタン基合金であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項7】
前記アークイオンプレーティング下地層を形成するバルブメタル又はバルブメタル基合金が、タンタル及びチタンとともに、ニオブ、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種とにより構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の電解用電極の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2009−263771(P2009−263771A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58534(P2009−58534)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【特許番号】特許第4335302号(P4335302)
【特許公報発行日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【Fターム(参考)】