説明

電解用電極及びその電解用電極を用いたオゾン生成装置

【課題】高効率でオゾン水を生成することができる電解用電極、及びその電解用電極を用いたオゾン生成装置を提供する。
【解決手段】基材11の少なくとも一方の面に溝13を形成し、溝13に沿うように導電性ダイヤモンド膜を成膜して電解用電極1を構成する。そして、この電解用電極1をオゾン生成装置10の電解セルの陽極1Pとして用いる。溝13が被処理液の流路として機能し、電解セルに供給される被処理液の流量が増し、高効率にオゾン水を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用電極、及びその電解用電極を陽極として持つオゾン生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オゾンは酸化力の非常に強い物質であり、その酸化力に由来する殺菌、脱色、及び脱臭作用が様々な分野で応用されている。オゾンを利用した殺菌方法及び脱色方法等は、オゾン自身が容易に自然分解して酸素となるため、二次汚染のない安全な処理方法であり、近年注目されている。オゾンが水に溶け込んだオゾン水は酸化力が更に向上し、一般に殺菌等に用いられている。これらの目的のために、オゾン水のより簡便かつ高効率な生成手法の開発が求められている。
【0003】
オゾン水を得るための手段としては、オゾンガスを生成し、このオゾンガスを水中に溶解させる手法や、オゾン水を直接生成する電解法が知られている。オゾンガスを水中に溶解させる手法は、無声放電法でオゾンガスを生成させ、気液溶解塔に通じて水に溶解させるため、装置構成が大型及び複雑になる。
【0004】
一方、電解法では、多孔質状或いは網状の陽極と陰極とで固体高分子膜を挟むことで電解セルを構成し、この電解セルに水道水や純水を流すことでオゾン水が得られるため、装置構成が小型になる。
【0005】
この電解法に用いられる電解セルの陽極として、例えば、特許文献1には、基材の片面にダイヤモンドの薄膜を付着させた多孔性グラファイト板を採用したものが開示されている。しかしながら、基材にダイヤモンドの薄膜を付着させるとダイヤモンドが剥離するという問題がある。また、メッシュ状の基材にダイヤモンドを形成する場合には、ダイヤモンドを成膜する際に、電解分布が均一ではなく、プラズマの集中が起こり局所的な加熱による破損や、ピンホールの発生が懸念される。
【0006】
そこで、特許文献2には、レーザ加工によりダイヤモンド板の表面を多孔質状又は網状の構に加工したものを電解セルの陽極として使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−268395号公報
【特許文献2】特開2005−336607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2では、陽極の表面に形成された孔の間隔が1mm程度と大きいため、陽極、固体高分子膜、及び水が同時に接触する三相界面の領域を充分に確保することができず、高効率でオゾンを生成させることができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1、2共、陽極の表面において、被処理液を流し易くする措置が何ら採られていないため、高効率でオゾンを生成させるために更なる改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、高効率でオゾン水を生成することができる電解用電極、及びその電解用電極を用いたオゾン生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明による電解用電極は、略平板形状を持つ基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された導電性ダイヤモンド膜と、前記導電性ダイヤモンド膜が形成された面に形成され、被処理液の流路である溝とを備える。
【0012】
この構成によれば、基材が概略平板形状を持つため、基材の表面にプラズマCVD法を用いて導電性ダイヤモンドを成膜する場合、プラズマの集中が避けられ、導電性ダイヤモンドを均一、かつ、優れた密着力で成膜することができる。
【0013】
一方で、電解用電極の表面が平坦であれば、この陽極をオゾン生成装置に適用した場合、陽極、固体高分子膜、及び水が接触する三相界面の領域を確保することが困難であるため、良好な電解を行うことができない。
【0014】
そこで、本構成では、電解用電極の表面に被処理液を流す流路である溝を形成した。そのため、三相界面を確保すると同時に被処理液の流量を増大させることができ、高効率でオゾン水を生成することができる。
【0015】
(2)前記溝は、略平行に複数形成されていることが好ましい。この構成によれば、溝の長手方向を被処理液の上流から下流方向に向けて配置することで流量を増加させ、より多くのオゾン水を生成することができる。
【0016】
(3)前記溝は、相互に接続されるように複数形成されていることが好ましい。この構成によれば、溝を相互に接続することで被処理液をスムーズに流すことができ、かつ、三相界面を増大させることができる。溝を相互に接続させる具体例としては、例えば、格子状や網目状が挙げられる。格子状としては、電解用電極の縦方向に一定の間隔で複数の溝を平行に形成し、かつ、電解用電極の横方向に一定の間隔で複数の溝を平行に形成する態様を採用すればよい。或いは、電解用電極の所定の第1斜め方向に一定の間隔で複数の溝を平行に形成し、かつ、第1斜め方向と交差する第2斜め方向に一定の間隔で複数の溝を平行に形成する態様を採用すればよい。網目状としては、例えば、タイルの目地のように溝を形成する態様を採用すればよい。その他、溝として、樋形状、三角状等が挙げられる。いずれにせよ溝の形状は、ダイヤモンドのつきまわりに影響が無い範囲で任意である。更に、溝の内壁に凹凸を設ける態様が好ましい。これにより、反応に寄与する三相界面が増大するとともに、電極表面で発生したオゾンを乱流を利用して速やかに溶解することができるため、オゾン水をさらに高効率で生成することができる。
【0017】
(4)前記基材は、シリコンであることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、最も実績があり、かつ、スケール(酸化カルシウムやリン酸塩、シリカ等を成分とする析出物)が付着し難いシリコンが用いられているため、耐久性の高い電解用電極を提供することができる。なお、基材としてシリコンを用い、CVDで導電性ダイヤモンドを成膜する場合、成膜中に界面に炭化物が形成されるため、導電性ダイヤモンドの密着度をより向上させることができる。
【0019】
(5)前記基材は、チタン、ニオブ、タンタル、チタン炭化物、ニオブ炭化物、又はタンタル炭化物であることが好ましい。この構成によれば、基材として、チタン、ニオブ、タンタル、又はこれらの炭化物が採用されているため、機械加工を用いて容易に溝を形成することができる。
【0020】
(6)前記導電性ダイヤモンド膜は、プラズマCVD法により製造されることが好ましい。CVD法として熱フィラメントを用いる手法やプラズマCVD法が知られているが、中でもプラズマCVD法を使用すると、溝の内部への導電性ダイヤモンド膜へのコーティングを確実に行うことができる。また、プラズマCVD法は、工業的に最も安定で、かつドーピングの再現性に優れるといったメリットもある。そこで、本構成では、プラズマCVD法を用いることが好ましい。
【0021】
(7)本発明によるオゾン生成装置は、水を電気分解してオゾンを生成するオゾン生成装置であって、固体高分子膜と、前記固体高分子膜を挟んで配設された陰極及び陽極とを備え、前記陽極は、(1)〜(6)のいずれかに記載の電解用電極を用いて構成され、前記溝の形成された面が前記固体高分子膜に密着して配置され、前記溝に被処理液を供給する供給部とを備える。
【0022】
この構成によれば、(1)〜(6)のいずれかの電解用電極が陽極として用いられているため、高効率でオゾン水を生成することができる。また、陽極は溝の形成された面が固体高分子膜に密着されているため、陽極と固体高分子膜との距離が短くなり、電気分解により発生したオゾンを速やかに移動させ、かつ、電気分解に寄与しない水の流れを最小限にすることができる。また、陽極と固体高分子膜とを密着させることで、装置構成をコンパクトにすることができる。更に、陽極が溝を備えているため、固体高分子膜と溝とを密着させても三相界面が確保され、高効率でオゾン水を生成することができる。
【0023】
(8)前記供給部は、前記被処理液を前記溝に供給する供給路と、前記溝を通った被処理液が、前記供給路に戻らないように前記被処理液を排出する排水路とを備えることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、排出した被処理液が再度、陽極に供給されることが防止され、高効率にオゾン水を生成することができる。
【0025】
(9)前記陽極は、前記被処理液の流れる方向に対する長さが、前記固体高分子膜の前記方向の長さよりも長いことが好ましい。
【0026】
この構成によれば、被処理液体を上流から下流にスムーズに流すことができ、高効率でオゾン水を生成することができる。
【0027】
(10)前記陽極は、前記被処理液の流れる方向に対する長さが、前記固体高分子膜の前記方向の長さよりも短いことが好ましい。
【0028】
この構成によれば、陽極の被処理液に流れる方向の長さが、固体高分子膜の同方向の長さよりも長くされているため、供給口及び排出口を陽極に面して配置することができ、セッティングの自由度が広がる。また、陽極の両面に導電性ダイヤモンド膜及び溝を形成して、陽極の両面に被処理液を流すことができ、オゾンの生成効率を更に高めることができる。
【0029】
(11)前記陰極は、メッシュ構造を持つことが好ましい。ここで、メッシュ構造としては、例えば水の出入りが容易な多孔質構造を採用すればよい。
【0030】
この構成によれば、陰極がメッシュ構造を持つため、陰極を固体高分子膜と密着させても陰極側でのイオン交換を効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、高効率にオゾン水を生成する電解用電極及びオゾン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態による電解用電極の構成図である。
【図2】溝を電解用電極の表面に平行に複数設けた場合の電解用電極の上面図である。
【図3】複数の溝を相互に接続させた場合の電解用電極の上面図である。
【図4】本発明の実施の形態によるオゾン生成装置の全体構成図である。
【図5】(A)は図4のオゾン生成装置を水平方向に置いたときのオゾン生成装置の全体構成図であり、(B)は(A)の陽極、固体高分子膜、及び陰極を溝に沿って切ったときの断面図である。
【図6】両面に溝が形成された電解用電極を陽極として用いた場合のオゾン生成装置の全体構成図である。
【図7】図5に示すオゾン生成装置において、固体高分子膜2の方向L1の長さを陽極の長さよりも長くした場合のオゾン生成装置の全体構成図を示している。
【図8】図7のオゾン生成装置を溝に沿って切断したときの断面図である。
【図9】陽極の両面に溝を形成した場合において、固体高分子膜に陰極を密着させた場合の電解セルの構成図を示している。
【図10】陽極の一方の面のみに溝を形成し、かつ、陰極をスペーサーを介して固体高分子膜に取り付けた場合の電解セルの構成図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態による電解用電極について説明する。図1は、本発明の実施の形態による電解用電極1の構成図であり、(A)は溝13の構成図であり、(B)〜(E)は、溝13の変形例を示した構成図である。
【0034】
図1(A)に示すように電解用電極1は、基材11、導電性ダイヤモンド膜12、及び溝13(流路の一例)を備える。基材11は、略平板形状を持ち、上面視において四角形状を持つ。基材11としては、ダイヤモンドとの密着性が高いシリコンを採用することが好ましい。
【0035】
後述するように導電性ダイヤモンド膜12の成膜は800℃の高温で行われた後、冷却されるため、基材11として熱膨張率の高い物質を採用すると、導電性ダイヤモンド膜12が剥離する虞がある。そのため、基材11としては、熱膨張率の小さい物質であるチタン、ニオブ、又はタンタル等のカーバイトフォーミングメタル(炭化物成長金属)を採用してもよい。
【0036】
また、チタン、ニオブ、又はタンタルは、炭化されると熱膨張率が更に低下する。したがって、熱膨張率を低下させるという観点からは、チタンの炭化物、ニオブの炭化物、又はタンタルの炭化物を採用することが好ましい。
【0037】
導電性ダイヤモンド膜12は、基材11の上面に形成されている。溝13は、導電性ダイヤモンド膜12が形成された面に形成されている。このように、電解用電極1の表面に溝13が形成されているため、電解用電極1を図4等に示すオゾン生成装置の陽極1Pとして用いた場合、被処理液の流量を増大させることができ、高効率でオゾン水を生成することができる。
【0038】
なお、図1の例では、電解用電極1は、上面のみに導電性ダイヤモンド膜12及び溝13を持っているが、両面に導電性ダイヤモンド膜12及び溝13を持っていても良い。こうすることで、電解用電極1をオゾン生成装置の陽極1Pとして用いた場合、被処理液を陽極の両面に流し、より多くのオゾン水を生成することができる。
【0039】
溝13の高さhは、例えば0.2〜1.2mm、好ましくは0.25〜1.1mm、より好ましくは1mm程度であるが、薄いシリコン基板を基材として用いる場合には、破損を避けるため、厚みの1/2程度に抑えることが望ましい。また、溝13の幅wは、例えば0.5mm〜2.2mm、好ましくは、0.8mm〜2.1mm、より好ましくは2mm程度である。陽極、水、及び固体高分子膜が同時に接触する三相界面を増やしてオゾンを高効率で生成するという観点からは小さな溝13を高密度で設けることが好ましい。しかしながら、本実施の形態では、溝13に対して、被処理液を流す流路としての機能も持たせている。したがって、溝13を大きくすると被処理液の流量が増えるため、溝13を流路として機能させるという観点からは、溝13を大きくすることが好ましい。そこで、本実施の形態では、三相界面を確保すると同時に溝13を流路として機能させるために、溝13の高さh及び幅wとして上記の値を採用している。
【0040】
なお、図1(A)では、溝13の断面形状として底面がフラットで、内壁が底面に直交する形状を採用したが、図1(B)に示すように、溝13の断面形状を鋸状としてもよい。また、図1(C)に示すように溝13の断面形状を半円状としてもよい。
【0041】
また、図1(D)に示すように、溝13の断面形状として底面に凹凸を設けたものを採用してもよい。この凹凸はたとえば単結晶シリコン基板を用いる場合では、KOHやTMAHによる異方性エッチングを行うか、部分的にダイシングソーにて切込みを入れることで形成可能である。こうすることで、溝13の表面積が増えて三相界面が増大し、オゾン水を高効率に生成することができる。また、図1(E)に示すように、上面視において溝13に凹凸を設けてもよい。この場合、三相界面を更に増大させることができる。
【0042】
図2は、溝13を電解用電極1の表面に平行に複数設けた場合の電解用電極1の上面図である。図2の例では、溝13は一定の間隔dで平行に複数設けられている。ここで、間隔dとしては、三相界面の確保と流路機能の確保という観点から高密度にすることが好ましいが、製造上の観点から高密度にするにも一定の限界がある。そこで、本実施の形態では、両観点を考慮に入れた値が間隔dとして採用されている。間隔dとしては、例えば0.5mm〜2.2mm、好ましくは、0.8mm〜2.1mm、より好ましくは1mm程度である。
【0043】
図3は、複数の溝13を相互に接続させた場合の電解用電極1の上面図であり、(A)及び(B)は、溝13を格子状に形成した場合を示し、図3(C)は溝13を網目状に形成した場合を示し、図3(D)は溝13をハニカム状に形成した場合を示している。
【0044】
図3(A)においては、電解用電極1の横方向に間隔d1で複数の溝13が平行に形成され、かつ、電解用電極の縦方向に間隔d2で複数の溝13が平行に形成されている。なお、間隔d1,d2としては同じ値を採用してもよいし、異なる値を採用してもよい。また、縦の溝13と横の溝13とでサイズを変えても良い。
【0045】
図3(B)においては、電解用電極1の所定の第1斜め方向dr1とほぼ平行に複数の溝13が形成され、かつ、第1斜め方向dr1と交差する第2斜め方向dr2とほぼ平行に複数の溝13が形成されている。ここで、第1斜め方向dr1,と第2斜め方向dr2とのなす角度θとしては、種々の角度を採用することができるが、図3(B)では例えば90度程度が採用されている。また、図3(B)の例では、第1斜め方向dr1の溝13の間隔と、第2斜め方向dr2の溝13の間隔とはほぼ一定であるが、一定にしなくてもよい。また、第1、第2斜め方向dr1、dr2の溝13の向きに多少のバラツキを与えても良い。
【0046】
図3(C)においては、タイルの目地のように溝13が形成され、溝13が網目状に形成されている。また、図3(D)においては、上辺と下辺とが接するようにほぼ六角形の溝13が複数配列されている。図3(A)〜(D)に示すように少なくとも2方向に複数の溝13を形成すると、三相界面を増大すると同時に被処理液の流量を増大させることができる。
【0047】
図4は、本発明の実施の形態によるオゾン生成装置10の全体構成図である。オゾン生成装置10は、陽極1P、固体高分子膜2、陰極3、供給路41(供給部の一例)、排水路42(供給部の一例)、固定ジグ5、陽極ホルダ6、及びパッキン7を備えている。
【0048】
陽極1Pは、図1〜図3のいずれかに示す電解用電極1が採用されている。陽極1Pは、溝13が形成された面が固体高分子膜2の一方の面に密着して配置されている。
【0049】
固体高分子膜2は、平板形状を持ち、陽極1Pと陰極3とで挟まれている。固体高分子膜2としては、例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)が採用されている。固体高分子膜2は、固定ジグ5の下面(図の右側の面)に嵌め込まれて固定されている。また、固体高分子膜2は、供給口41xと排出口42xとの間に設けられている。これにより、供給路41と排水路42とが固体高分子膜2及び陽極1Pにより隔離され、排水路42から排出された被処理液が、再度、陽極1P側に戻ることを防止することができる。
【0050】
陰極3は、平板状の部材により構成され、固定ジグ5の上面(陽極1Pが配置された面と反対側の面)に配置されている。
【0051】
固定ジグ5の中央にはスペーサー51が嵌め込まれ、陰極3はスペーサー51に密着している。スペーサー51は、多孔質の物質により構成されている。したがって、陰極3は、固体高分子膜2と多少離間して配置されている。
【0052】
なお、スペーサー51を用いずに、陰極3を固体高分子膜2から距離を離して設置してもよい。或いは、陰極3としてメッシュ構造を持つものを採用すれば、スペーサー51を介さずに陰極3を、固体高分子膜2に密着させることができる。この場合、陰極3側でのイオン交換をより効率良く行うことができる。
【0053】
陽極1Pは、被処理液の流れる方向L1(上下方向)に対する長さが、固体高分子膜2の方向L1の長さよりも長い。また、固体高分子膜2は、陽極1Pのほぼ中央に配置されている。そのため、陽極1Pの方向L1の上流側と下流側とにおいて固体高分子膜2から露出した領域D1,D2が確保される。これにより、領域D1に供給路41を配置し、かつ、領域D2に排水路42を配置することができ、供給路41及び排水路42を陰極3側にのみ設けることができる。その結果、陽極1P側に供給路41、陰極3側に排水路42を設ける場合に比べ、装置構成のコンパクト化を図ることができる。
【0054】
供給路41は、陽極1Pの領域D1と対向する位置に供給口41xが位置し、かつ、固定ジグ5の上面側に配置された管状の部材から構成され、上側に接続された図略の被処理液供給部から供給される被処理液を陽極1Pに供給する。被処理液としては水道水又は軟水が採用される。供給路41は、下流側の一部が固定ジグ5を連通する孔により構成されている。
【0055】
排水路42は、排出口42xが陽極1Pの領域D2と対向する位置に位置するように固定ジグ5に形成された孔である。パッキン7は、陽極ホルダ6の外周と固定ジグ5の外周とに介設さている。これにより、固定ジグ5の外部に被処理液が流れることを防止することができる。オゾンを含む排水は、タンク20に混合されるが、供給路41と同様に管状の部材を配置し、タンク20等に混じることなく引き出してもよい。この場合、さらに高密度のオゾン水を得ることができる。
【0056】
タンク20は、オゾン生成装置10の下部の4/3程度を収納可能なサイズを持ち、上側が開口する有底の箱体により構成され、被処理液を貯蔵する。オゾン生成装置10は、少なくとも陰極3が水に浸されるように、タンク20内の被処理液に浸漬される。また、タンク20は、排水路42から排出される被処理液を貯蔵する。
【0057】
このように構成されたオゾン生成装置10では、被処理液は、供給路41から供給され、陽極1Pの溝13、排水路42、及びタンク20へと流れている。この状態で、陽極1P、及び陰極3の間に電圧を印加する。すると、陽極1Pにて、2HO→O+4H+4e、3HO→O+6H+6eの反応が起こり、陰極3にて、nH+ne→(n/2)H(但し、n=4or6)の反応が起こり、オゾンが発生する。そして、このオゾンが被処理液である水に溶けオゾン水となって排水路42から排出される。
【0058】
このように、本実施の形態によるオゾン生成装置10では、表面に複数の溝13を持つ電解用電極1が陽極1Pとして用いられているため、高効率にオゾン水を生成することができる。
【0059】
図5(A)は、図4のオゾン生成装置10を水平方向に置いたときのオゾン生成装置10の全体構成図であり、図5(B)は、図5(A)の陽極1P、固体高分子膜2、及び陰極3を含む電解セルを溝13に沿って切ったときの断面図である。
【0060】
陽極ホルダ6は、凹部61を備え、この凹部61に陽極1Pが嵌め込まれている。また、陽極ホルダ6の底面中央には、電極板1xが取り付けられている。電極板1xには導線LN1が接続されている。陰極3には導線LN2が接続されている。
【0061】
図6は、両面に溝13が形成された電解用電極1を陽極1Pとして用いた場合のオゾン生成装置10の全体構成図である。図6に示すように陽極1Pは両面に溝13a,13bが形成されている。図5では、陽極1Pは固定ジグ5と陽極ホルダ6とで挟まれていたが、図6では、陽極1Pは一対の固定ジグ5a,5bで挟まれている。陽極1Pには導線LN1が接続され、導線LN1を介して正の電圧が印加される。陰極3,3にはそれぞれ導線LN2が接続され、導線LN2を介して負の電圧が印加される。
【0062】
また、固定ジグ5aと固定ジグ5bとは、図5の固定ジグ5と同一形状であり、供給路41a,41bと、排水路42a,42bとが対向するように陽極1Pを挟んでいる。図6に示すオゾン生成装置10も図4と同様にして、被処理液を貯蔵するタンク20内に浸漬され、供給路41aと供給路41bとから同時に被処理液が供給される。そして、供給路41aから供給された被処理液は、溝13aを通って排水路42aから排出される。また、供給路41bから供給された被処理液は、溝13bを通って排水路42bから排出される。
【0063】
この状態で固定ジグ5aの陽極1P及び陰極3間に電圧が供給され、かつ、固定ジグ5bの陽極1P及び陰極3間に電圧が供給される。すると、溝13a,13bのそれぞれにおいてオゾンが生成され、生成されたオゾンが水に溶解してオゾン水となって排水路42a,42bから排出される。
【0064】
そのため、図6に示すオゾン生成装置10は、図5に示すオゾン生成装置10よりも2倍のオゾンを生成することができ、より高効率にオゾン水を生成することができる。
【0065】
図7は、図5に示すオゾン生成装置10において、固体高分子膜2の方向L1の長さを陽極1Pの長さよりも長くした場合のオゾン生成装置10の全体構成図を示している。図8は、図7のオゾン生成装置10を溝13に沿って切断したときの断面図である。
【0066】
図7の場合、固体高分子膜2は、方向L1の長さが陽極1Pよりも長く、陽極ホルダ6の上面をほぼ覆うように配置されている。そのため、供給路41及び排水路42は、固定ジグ5ではなく、陽極ホルダ6に設けられている。具体的には、供給路41及び排水路42は、陽極ホルダ6を中心に左右対称に設けられている。
【0067】
このように構成されたオゾン生成装置10を図4と同様にしてタンク20の被処理液に浸漬させる。そして、供給路41から被処理液を供給すると、被処理液は溝13を通って排水路42から排出される。この状態で、陰極板1xにプラス、陰極3にマイナスの電圧を印加すると、陽極1Pにてオゾンが発生し、このオゾンが被処理液である水に溶けてオゾン水となって、排水路42から排出される。
【0068】
図9は、図8のオゾン生成装置10において、陽極1Pの両面に溝13を形成した場合の電解セルの構成図を示している。図9に示す電解セルは、溝13の長手方向から見た状態を示している。図9に示すように、陰極3は固体高分子膜2に密着している。そのため、図6に示すスペーサー51が不要となり、オゾン生成装置10の高さを小さくし、コンパクト化を図ることができる。また、陽極1Pの両面に溝13が設けられているため、図6と同様、一方の面にのみ溝13を設けた場合に比べてより多くのオゾンを生成することができる。
【0069】
図10は、図9に示すオゾン生成装置10において、陽極1Pの一方の面のみに溝13を形成し、かつ、陰極3を多孔質状のスペーサー51を介して固体高分子膜2に取り付けた場合の電解セルの構成図を示している。なお、図10に示す電解セルは溝13の方向から見た状態を示している。このように水が自由に電極部分に流れることができる多孔質状のスペーサー51を介して陰極3を設けることで、高効率にオゾン水を生成することができる。
【0070】
次に、電解用電極1の製造方法について説明する。まず、表面に例えば250μmの深さを持つ溝13が形成された基材11を用意する。ここで、溝13は、厚さが例えば500μmのシリコン基板に対してダイシングソーにより切り込みを入れることで形成される。
【0071】
次に、溝13が形成された基材11に対してパウダー処理を行う。ここで、パウダー処理とは、ダイヤモンドパウダーを含有するエタノール中に基材11を浸漬させ、超音波を印加する処理である。
【0072】
次に、基材11の溝13が形成された側の表面にプラズマCVD法により導電性ダイヤモンド膜12を形成する。ここでは、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて導電性ダイヤモンド膜12を成膜する。マイクロ波プラズマCVD装置は、ステンレス製のチャンバを備え、その中には、モリブデン製の基板ホルダが設置されている。
【0073】
この基板ホルダに基材11を設置する。そして、メタン0.5vol%を水素で稀釈した混合ガスを、圧力50Torr、流量100scmの条件でチャンバ内に流すと同時に、チャンバ内にマイクロ波を放射することにより、チャンバ内にプラズマを発生させる。また、ダイヤモンド膜を導電性にするためにチャンバ内にシボランを10ppm添加する。そして、基材11の温度が800℃に保持されるようにマイクロ波の出力を調整して約3時間経過させる。これにより、基材11の表面に導電性ダイヤモンド膜12が成膜される。次に、マイクロ波の放射を停止し、自然冷却して、基材11をチャンバから取り出す。以上により、ダイヤモンドにボロンがドープされた導電性ダイヤモンド膜12が溝13の形に添うように形成され、電解用電極1が完成する。
【符号の説明】
【0074】
1 電解用電極
1P 陽極
1x 電極板
2 固体高分子膜
3 陰極
5,5a,5b 固定ジグ
6 陽極ホルダ
7 パッキン
10 オゾン生成装置
11 基材
12 導電性ダイヤモンド膜
13,13a,13b 溝
20 タンク
41,41a,41b 供給路
42,42a,42b 排水路
51 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板形状を持つ基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に形成された導電性ダイヤモンド膜と、
前記導電性ダイヤモンド膜が形成された面に形成され、被処理液の流路である溝とを備える電解用電極。
【請求項2】
前記溝は、略平行に複数形成されている請求項1記載の電解用電極。
【請求項3】
前記溝は、相互に接続されるように複数形成されている請求項1又は2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記基材は、シリコンである請求項1〜3のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項5】
前記基材は、チタン、ニオブ、タンタル、チタン炭化物、ニオブ炭化物、又はタンタル炭化物である請求項1〜3のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項6】
前記導電性ダイヤモンド膜は、プラズマCVD法により製造される請求項1〜5のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項7】
水を電気分解してオゾンを生成するオゾン生成装置であって、
固体高分子膜と、
前記個体高分子膜を挟んで配設された陰極及び陽極とを備え、
前記陽極は、請求項1〜6のいずれかに記載の電解用電極を用いて構成され、前記溝の形成された面が前記固体高分子膜に密着して配置され、
前記溝に被処理液を供給する供給部とを備えるオゾン生成装置。
【請求項8】
前記供給部は、前記被処理液を前記溝に供給する供給路と、前記溝を通った被処理液が、前記供給路に戻らないように前記被処理液を排出する排水路とを備える請求項7記載のオゾン生成装置。
【請求項9】
前記陽極は、前記被処理液の流れる方向に対する長さが、前記固体高分子膜の前記方向の長さよりも長い請求項7又は8記載のオゾン生成装置。
【請求項10】
前記陽極は、前記被処理液の流れる方向に対する長さが、前記固体高分子膜の前記方向の長さよりも短い請求項7又8記載のオゾン生成装置。
【請求項11】
前記陰極は、メッシュ構造を持つ請求項7〜10のいずれかに記載のオゾン生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−144778(P2012−144778A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4361(P2011−4361)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】