説明

電解質膜の製造方法、電解質膜および燃料電池

【課題】高温高湿および常温常湿でもプロトン伝導性の高い電解質膜および該電解質膜を用いた燃料電池を提供する。また、上記電解質膜の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】(i)少なくとも、G値が10以上である添加剤0.01質量%以上60質量%以下と、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物30質量%以上99.99質量%以下と、からなる混合液を調製する工程と、(ii)前記混合液を多孔質基材の細孔内に充填する工程と、(iii)前記混合液が充填された多孔質基材に放射線を照射する工程を含む電解質膜の製造方法。前記製造方法により得られた電解質膜および該電解質膜を用いた燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の製造方法、電解質膜および該電解質膜を有してなる燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、熱を経由せずに化学反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電装置であり、有害物質や温室ガスを発生しないため地球環境保護に対応できるクリーンなエネルギー源として有望視されている。なかでも固体高分子型燃料電池(PEFC)は作動温度が低く小型軽量化が可能で、電気自動車用・家庭用・携帯機器用の電源としても適している。
【0003】
このPEFCに用いられる電解質膜は、湿潤状態でプロトンを透過するイオン交換膜であり、現在では主にデュポン社のナフィオン膜に代表されるパーフルオロアルキルスルホン酸高分子膜が用いられている。しかしこの膜は、未だプロトン伝導性が低い、アルコールなどの液体燃料を用いた場合に燃料が透過しやすいため発電効率が低い、膨潤時に寸法変化が大きいなどの問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するために、絶縁性多孔質基材の細孔内にプロトン伝導性成分を充填した電解質膜が検討されている。このような構成の電解質膜は、絶縁性多孔質基材を基材に用いることで、アルコール透過性を抑制し、導電性を維持したまま含水による寸法変化を抑えることが可能となる。
【0005】
このような電解質膜として、特許文献1には、耐熱性や耐膨潤性を有する多孔質基材にプロトン伝導性を有するポリマーを充填した電解質膜が記載されている。しかしながらこの電解質膜においては、多孔質基材をプラズマ照射した後に細孔内表面に該ポリマーをグラフト重合する工程を含むため、重合活性種が失活しない条件を保つための煩雑な操作および複雑な製造装置が必要になると考えられる。
【0006】
また、別の電解質膜として、特許文献2には、多孔質基材に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を充填して重合した電解質膜が、特許文献3には、親油性系、ヘテロ環系、カルボン酸系、強酸基系の各モノマーが架橋剤により架橋されたイオン交換体と多孔質基材とからなる電解質膜がそれぞれ記載されている。
【0007】
これらは全て、モノマー水溶液の重合によるものであり、疎水性の多孔質基材への浸透性が不十分で、多孔質基材の細孔内へのプロトン伝導成分(充填物)の固定化効率が十分ではないという問題点があると考えられる。また、これらの中には有機溶媒や界面活性剤などの添加剤を使用してもよい旨の記載のあるものもあるが、単に疎水性モノマーの溶解性向上や多孔質基材への含浸の容易性について着眼したもののみであった。
【特許文献1】特開2002−83612号公報
【特許文献2】特開2004−253336号公報
【特許文献3】特開2000−277131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1から3に記載の電解質膜においては、充填するプロトン伝導性高分子の多孔質基材中への固定化率が低く、プロトン伝導率が未だ不十分であるという問題があり、これは特に常温常湿において顕著であった。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、多孔質基材の細孔内へのプロトン伝導成分(充填物)の固定化効率を高めることにより、高温高湿および常温常湿でもプロトン伝導性の高い電解質膜および該電解質膜を用いた燃料電池を提供することにある。また、本発明的は、上記電解質膜の簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する電解質膜の製造方法は、(i)少なくとも、G値が10以上である添加剤0.01質量%以上60質量%以下と、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物30質量%以上99.99質量%以下と、からなる混合液を調製する工程と、(ii)前記混合液を多孔質基材の細孔内に充填する工程と、(iii)前記混合液が充填された多孔質基材に放射線を照射する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決する電解質膜は、上記の製造方法によって作製されることを特徴とする。
上記の課題を解決する電解質膜−電極接合体は、上記の電解質膜と触媒電極からなることを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決する燃料電池は、上記の電解質膜−電極接合体を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温高湿および常温常湿でもプロトン伝導性の高い電解質膜および該電解質膜を用いた燃料電池を提供することができる。また、本発明は、上記電解質膜の簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明に係る電解質膜の製造方法は、(i)少なくとも、G値が10以上である添加剤0.01質量%以上60質量%以下と、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物30質量%以上99.99質量%以下と、からなる混合液を調製する工程と、(ii)前記混合液を多孔質基材の細孔内に充填する工程と、(iii)前記混合液が充填された多孔質基材に放射線を照射する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
前記添加剤が、有機ハロゲン化合物であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る電解質膜は、上記の製造方法によって作製されることを特徴とする。
前記電解質膜において、多孔質基材の細孔内に充填された重合性モノマー組成物の重合体が、放射線照射による添加剤活性種由来構造を含むことが好ましい。
【0017】
本発明に係る電解質膜−電極接合体は、上記の電解質膜と触媒電極からなることを特徴とする。
本発明に係る燃料電池は、上記の電解質膜−電極接合体を使用したことを特徴とする。
本発明に係る電解質膜の製造方法において、添加剤の「G値」とは、吸収エネルギー100eVあたり生成する活性種数のことを示す。G値が示されている文献として、A.Chapiroら、Discussion Faraday Society,Vol.12,98から109(1952)が挙げられる。
【0018】
G値が10以上である添加剤を適量用いると、前記混合液の放射線照射により活性種が適量生成するようになる。これにより添加剤由来の重合開始点が生成し、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物が効率的に重合するので、プロトン伝導性基の固定化効率の良いプロトン伝導成分を形成することができる。また、放射線に対する活性が低い重合性モノマー組成物にも適用が可能になり、重合性モノマーの選択の幅が広がる。
【0019】
添加剤のG値が10より小さいと、放射線照射による活性種の生成量を同等に保つために添加量を多くする必要が生じるが、この場合プロトン伝導成分が多孔質基材中に密に充填できなくなると考えられる。このため添加剤のG値は10以上であることが好ましい。
【0020】
なお、前記活性種としては、ラジカル、カチオン、アニオンなどが挙げられるが、その種類は特に制限されない。
本発明で好適に用いられる添加剤としては、四塩化炭素(G値70.0)、ブロモホルム(同57.0)、クロロホルム(同59.5)、1,2−ジクロロエタン(同41.0)、臭化エチル(同28.8)、o−ジクロロベンゼン(同30.0)、クロロベンゼン(同17.5)などの有機ハロゲン化合物、アセトン(同50.0)、酢酸ビニル(同33.0)、酢酸エチル(同32.0)、メタクリル酸メチル(同27.5)、アクリル酸メチル(同23.5)、重メタノール(同23.0)、プロパノール(同30.0)、メタノール(同24.0)、ジオキサン(同20.0)、エーテル(同24.5)、シクロヘキサン(同14.3)、オクタン(同11.4)などが挙げられる。なお、括弧内に記載のG値は、上記文献中に記載されているG値である。ここに挙げられていない化合物でも、類似の構造をもつ化合物は同様のG値を有することが容易に推測される。
【0021】
例えば、塩素系有機化合物などの有機ハロゲン化合物はG値が大きい傾向にある。その上、この種の化合物由来の活性種を用いると、重合性モノマーへの付加反応が抑制され、重合性モノマー組成物の連鎖重合反応を効率良く進行させることが容易になり、電解質膜のプロトン伝導性をより向上させることが可能となる。このため、前記添加剤として特に好適に用いることができる。
【0022】
なお、これらのG値が10以上である添加剤は、複数種類組み合わせて用いてもかまわない。また、前記重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーのうち、少なくとも一つのG値を10以上とすることにより、前記添加剤を兼ねてもかまわない。
【0023】
本発明における添加剤としては、G値以外は特に限定されないが、製造条件や使用条件を考えると、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物と所定の割合で均一に混合し、沸点が常圧で常温以上かつ減圧下で100℃以下であり、多孔質基材を溶解せずかつ実質的に膨潤しない添加剤が好ましい。
【0024】
添加剤の割合(A)は、0.01質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上55質量%以下、特に好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0025】
なお、重合性モノマー組成物の割合(B)は、30質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは45質量%以上99質量%以下、特に好ましくは80質量%以上95質量%以下である。
ただし、前記混合液が前記添加剤と前記重合性モノマー組成物からなる場合には、(A)と(B)の和は100質量%となり、前記混合液がそれ以外の化合物も含む場合には、(A)と(B)の和は100質量%未満となる。
【0026】
これは以下の理由によるものである。添加剤の割合を0.01質量%以上とすることにより、放射線照射による重合活性種の生成量を十分なものにしやすく、プロトン伝導性基の固定化効率を向上させ、十分なプロトン伝導性を発現させることが容易になる。また、添加剤の割合を60質量%以下とすることにより、プロトン伝導成分を多孔質基材の細孔中に密に充填することを容易にし、燃料電池の燃料となる水素やメタノールのクロスオーバー量を小さくすることが容易になる。
【0027】
本発明において、プロトン伝導成分とは、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物を重合して高分子化し、液状から固体状あるいはゲル状に変化させることで得られる電解質であり、多孔質基材に充填された状態で使用される。なお、本明細書において、「重合」とは「共重合」も含む概念である。
【0028】
本発明において、重合性モノマー組成物を構成するプロトン伝導性基および重合性基を有する化合物の種類は特に限定されないが、優れたプロトン伝導性高分子を獲得するためには、分子中のプロトン伝導性基の割合の高いものを用いることが好ましい。
【0029】
プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、スルホアルキルメタクリレート類、スルホベンゼンメタクリレート類、スルホベンジルメタクリレート類、スチレンスルホン酸などを原料として選択することができる。また、メタクリル酸リン酸エチルなどの側鎖にリン酸基をもつ(メタ)アクリル酸エステル誘導体を好適に用いることもできる。さらにはビニルホスホン酸などのホスホン酸類、スルホンイミド類などを選択することもできる。
前記プロトン伝導性基が、スルホン酸基とリン酸基の一方または両方であることが好ましい。
【0030】
なお、これらのモノマーにフッ素を導入したモノマーを使用してもかまわない。また、これらのプロトン伝導性基および重合性基を有する化合物は、(ii)の工程で多孔質基材に充填する段階では、プロトン伝導性基となる酸性基が4級アンモニウム誘導体や酸塩化物誘導体などになっていてもよい。このような誘導体化モノマーを用いる場合には、(iii)の工程で重合(高分子化)した後に、加熱または硫酸の水溶液に浸漬することなどにより酸性基に戻す工程が必要となる。
【0031】
なお、これらのプロトン伝導性基および重合性基を有する化合物は、複数種類組み合わせて用いてもかまわない。
重合性モノマー組成物中のプロトン伝導性基および重合性基を有する化合物の割合は、30質量%以上が好ましく、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。極端に少ないとプロトン伝導率が著しく低下する可能性がある。
【0032】
プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物以外の重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーとしては、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物と共重合するような重合性モノマーであれば、特に限定されない。
【0033】
例えば、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの塩基性モノマーやそれらの4級塩;(メタ)アクリロニトリル、ビニルベンジルシアニド、シアノプロペニルアセテート、シアノエチルアクリレート、α−シアノシンナミックアシッドなどのシアノ基含有ビニルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類や酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルフタルイミド、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0034】
また、重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーとして、重合物同士の化学結合、重合物と多孔質基材との化学結合の少なくとも一方を強固にするために、重合性基を複数有する重合性モノマーを適量使用してもよい。
【0035】
例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アリルエーテル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アリルエーテル、テトラ(メタ)アリルオキシエタン、トリ(メタ)アリルアミン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0036】
なお、前記重合性モノマー組成物を構成するこれらの重合性モノマーは、複数種類組み合わせて用いてもかまわない。また、前記重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーのうち、少なくとも一つのG値を10以上とすることにより、前記添加剤を兼ねてもかまわない。
【0037】
本発明における重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーには、重合することによってポリマーとなるものであれば、重合性基を有するオリゴマー、プレポリマーなどが含まれていてもかまわない。
【0038】
前記重合性モノマー組成物を構成する重合性モノマーは、各々放射線感受性基を有することが好ましく、重合性基を有することがより好ましい。さらには電子線感受性基や電子線重合性基を有することが好ましい。
【0039】
このような放射線感受性(重合性)基としては、二重結合、三重結合などの不飽和結合が挙げられる。その中でも特に、(メタ)アクリル基、ビニル基、スチレン基は、放射線感受性(重合性)が高い官能基であるため好ましい。
【0040】
電解質膜のプロトン伝導性は、使用する重合性モノマーの種類、組合せ、組成比などに依存して変化する。よって、高いプロトン伝導性を有する重合性モノマーを用いることが好ましい。さらには、添加剤を加えずに得られるプロトン伝導成分のプロトン伝導率が高くなるような重合性モノマー組成物を用いることが好ましい。
【0041】
また、G値が10以上である重合性モノマーが添加剤を兼ねる場合には、その添加量が重合されたプロトン伝導成分の組成変化、ひいては電解質膜のプロトン伝導性に大きく影響することを考慮する必要がある。
【0042】
なお、混合した重合性モノマーの割合と重合されたプロトン伝導成分における各重合性モノマー由来成分の割合とでは、実質ほとんど変化がないと推測されるが、大きく変化してしまう場合には、各重合性モノマーを混合する際の割合を適宜変更してもかまわない。
【0043】
また、電解質膜のプロトン伝導性は、プロトン伝導性基の固定量の指標となるイオン交換容量やプロトン伝導性基のドメイン構造などにも依存する。よって、プロトン伝導性基の固定化効率が良くなり、プロトン伝導性ドメインのサイズが細かくかつ容積が大きくなるような重合反応を用いることが好ましい。この際、添加剤の極性や添加量などもドメイン構造に影響するので、重合性モノマー組成物に応じて添加剤の種類や添加量などを考慮することが好ましい。
【0044】
本発明における混合液としては、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物、重合性モノマー、G値が10以上である添加剤などの混合液構成成分のうち、少なくとも一つは液体状態のものを用いることが好ましい。少なくとも一つが液体状態であることにより、他の化合物を前記液体に混合させて均一な混合液とすることが可能となる。
【0045】
混合液には、G値の低い溶剤(言い換えれば溶媒)を多量に添加しないことが好ましい。G値の低い溶剤を多量に添加すると、(ii)の工程で充填する多孔質基材の細孔内に溶剤が残り、溶剤蒸発した部分が空孔となる可能性がある。このような空孔が形成されると、プロトン伝導性基のドメインが遮断され、プロトン伝導率の低下が起こるおそれがある。なお、ここで述べる溶剤とは、重合部位を有する化合物およびその他の添加物を溶解し希釈するものを指す。
【0046】
ただし、各化合物に当初より微量含まれる水などは、多少混入していてもかまわない。この場合、各化合物を混合した際に10重量%以下、好ましくは5重量%以下とすることが好ましい。
【0047】
また、混合液には、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物、重合性モノマー、G値が10以上である添加剤以外の化合物を加えてもかまわない。具体的には、直鎖状高分子を3次元化するための架橋剤、高分子化反応に関与するその他のモノマー、界面活性剤、消泡剤、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤などが挙げられる。この場合、各化合物を混合した際に10重量%以下、好ましくは5重量%以下とすることが好ましい。
【0048】
本発明において、多孔質基材とは、多数の細孔が存在する材料を表している。これらの細孔は独立しているのではなく、適度に連結して膜の一方の面から他方の面にかけて気体や液体が透過できる通路状になっていることが好ましい。ただし、気体や液体が抵抗無く通過できると燃料のクロスオーバーを招きやすく性能低下につながるので、これらの細孔は非直線的に連結して実質的な透過経路が長くなっていることが好ましい。この透過の度合いについては、多孔質基材の厚さや細孔の大きさなどによって制御できる。
【0049】
本発明における多孔質基材の材料は特に限定されないが、製造条件や使用条件を考えると、耐熱性を有し、水や汎用有機溶媒に不溶であって、かつ実質的に膨潤しない材料が好ましい。このような性質をもつ材料としては、高分子材料ではポリイミド系、ポリフルオロエチレン系、ポリアクリロニトリル系、ポリアミド系、ポリアミド−イミド系、ポリオレフィン系などの各種樹脂があり、その他の材料ではガラスもしくはアルミナ、シリカなどのセラミックスなどがある。ここで、「ポリイミド系樹脂」とは、ポリイミドもしくはポリイミド誘導体からなる樹脂のことであり、その他の材料についても同様のこととする。
【0050】
また、本発明の固体高分子型燃料電池の燃料としてメタノールを選択する場合、多孔質基材はメタノールと水に不溶である材料であって、かつメタノールと水に対して実質的に膨潤しない材料から選択する。前記の材料のうち、水や汎用有機溶媒に対する不溶性および耐膨潤性、物理強度、耐熱性、化学安定性の面でもっとも優れているのは、ポリイミド系樹脂である。
【0051】
多孔質基材の厚さ、細孔の平均直径、平均空孔率は、その材質、目的とする電解質膜の強度、目的とする燃料電池の特性などから選ばれ、特に制限はない。一般的に、燃料電池に使用される電解質膜の好適な膜厚は10μm以上150μm以下であるため、多孔質基材の厚さも前述の範囲とすることが好ましい。多孔質基材の厚さが10μmより厚いと燃料電池として組み立てる時や使用時の強度の向上につながり、150μmより薄いと、内部抵抗を低く抑え、発電効率をより向上させることが可能となる。
【0052】
多孔質基材が有する細孔の平均直径は0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。多孔質基材の表面に観測される細孔の平均直径が0.1μmより大きいと、プロトン伝導成分の充填効率を十分なものにしやすく、発電効率をより向上させることが可能となる。逆に10μmより小さいと、燃料のクロスオーバー量を低減してカソード側で逆反応を抑制することが可能となる。
【0053】
多孔質基材の平均空孔率は体積換算で30%以上90%以下であることが望ましい。多孔質基材の平均空孔率が30%より大きいとプロトン伝導成分が存在できる場所が多くなることで発電効率を十分なものとすることが容易になり、逆に90%より小さいと電解質膜の強度の向上につながる。
なお、平均空孔率とは、多孔質基材において空孔部が占める体積の割合である。平均空孔率の算出方法は、多孔質基材の重量と体積から多孔質基材の見かけの比重を計算し、その上で、1−(多孔質基材の見かけの比重/多孔質基材材料の比重)×100とすることで算出する。
【0054】
(i)の工程について
少なくとも、G値が10以上である添加剤と、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物と、からなる混合液を調製する方法について述べる。
【0055】
混合液を調製する方法としては、撹拌方法や加える順序などが考えられるが、均一な混合液となる方法であれば特に制限されない。例えば、振とうするだけでもかまわない。必要に応じて、加熱、冷却、脱気、超音波照射などの手法を併用してもよい。
【0056】
(ii)の工程について
混合液を多孔質基材の細孔内に充填する方法について述べる。
混合液に多孔質基材を接触させることで、細孔内に混合液が充填される。接触させる方法は特に制限されない。例えば、混合液に多孔質基材を浸漬するだけでもよい。さらに充填効率を上げるために、必要に応じて超音波振動、ローラー、ブレード、減圧ろ過や加圧ろ過などの手法を併用してもよい。多孔質基材の内部をあらかじめコロナ放電加工などによって親水化処理を施した後に充填してもよい。
【0057】
(iii)の工程について
混合液が充填された多孔質基材に放射線を照射する方法について述べる。
多孔質基材に混合液が充填された状態でエネルギーを印加することによって、多孔質基材の細孔内で重合性モノマーを重合して高分子化し、液状から固体状あるいはゲル状に変化させることで電解質膜を得る。この際、多孔質基材の表面だけでなく内部でも添加剤由来の活性種を発生させることが必要なので、印加するエネルギーとしては、電子線、ガンマ線、エックス線などの放射線を用いることが好ましい。なお、これらの放射線は、複数種類組み合わせて用いてもかまわない。また、本発明における放射線の照射条件は、特に制限されない。
【0058】
このような放射線を用いることにより、重合活性種として汎用の溶剤などの添加剤が適用可能になるため、製造コストや安全性などの面で有利となる。また、G値が10以上である添加剤の放射線照射により、重合活性種が効率良く生成するようになる。これにより添加剤由来の重合開始点が生成し、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物を効率的に重合するので、プロトン伝導性基の固定化効率の良いプロトン伝導成分を形成することができる。
【0059】
このとき放射線照射による添加剤由来の重合活性種が、重合性モノマー組成物を構成する各重合性モノマーの重合性基に作用して、連鎖重合反応が起こることが好ましい。
さらには、主に添加剤由来の重合活性種が重合を開始するが、前記添加剤由来活性種はただ重合を開始するためだけに役立ち、連鎖重合反応には加わらないことが好ましい。これによりプロトン伝導成分中のプロトン伝導性基の濃度の低下を抑制することができる。
【0060】
このため(iii)の工程で得られるプロトン伝導成分は、添加剤の放射線照射による重合活性種由来構造を含むことが好ましい。また、前記プロトン伝導成分は、多孔質基材上にグラフト重合されていてもかまわないし、相互に架橋されていてもかまわない。
【0061】
なお、前記重合活性種としては、ラジカル、カチオン、アニオンなどが挙げられるが、その種類は特に制限されない。
放射線の照射量は特に制限されないが、100Gy以上10MGy以下、特に5kGy以上200kGy以下に設定することが好ましい。照射量が100Gyより大きいと、重合反応が十分に進行し、プロトン伝導性基の固定化効率の良いプロトン伝導成分を形成することが可能となる。また、照射量が10MGyより小さいと、多孔質基材や高分子中の官能基の変性を抑制することが可能となる。
【0062】
これらのうちでも、操作性、安全性、照射時間の短縮、汎用性などの面から、電子線を照射することにより行われることが好ましい。光もしくは熱などのエネルギーは、多孔質基材内部までエネルギーが透過しない、添加剤から重合に関わる活性種が発生しないなどの原因により、重合状態や充填状態が不完全となりやすいので不適切である。
【0063】
電子線を用いる場合の加速電圧は、電解質膜の厚さによって異なるが、例えば10μmから150μm程度のフィルムでは20kVから250kV程度の加速電圧が好ましい。加速電圧の異なる複数の電子線を照射してもよい。また、電子線の照射中に加速電圧を変化させてもよい。また、必要に応じて電子線の照射中または照射直後に加熱処理を行ってもよい。
【0064】
なお、この工程の後、得られた電解質膜の表面に不要物が残る場合は、水などで洗浄することによって取り除いてもかまわない。また、必要に応じて加熱や減圧などによる乾燥処理を行ってもよい。
【0065】
本発明の電解質膜の製造方法では、前記(i)から(iii)の工程を通じて、酸素などの存在による重合活性種の失活を防ぐための脱気などの操作は行わなくてもかまわない。これにより、光もしくは熱などのエネルギーによる方法と比べて簡便になるので、電解質膜の性能だけでなく、操作性、製造時間、製造コスト、汎用性などの面からも優位である。
【0066】
次に、本発明の電解質膜を用いた燃料電池セルについて説明する。
図1は本発明の燃料電池の一実施態様を示す概略図である。なお、本形態の燃料電池は、電解質膜、電極触媒層、拡散層、電極、ガスケットを図1のように積層して作製するが、その形状は任意である。また、作製方法についても特に限定はなく従来の方法を用いることができる。
【0067】
図1に示す燃料電池は、前述した電解質膜1の両面(対向する2つの面)に触媒層2a、2bが設けられ、その外側に拡散層3a、3bおよびガスケット5a、5bが設けられ、さらにその外側に集電体を兼ねた電極4a、4bが設けられた構成をなしている。
【0068】
触媒層2a、2bは、各々燃料からプロトンと電子が生成する反応の触媒として働くもの、および、酸素、電子、プロトンより水を生成する反応の触媒として働くものである。触媒層2a、2bは、前述した機能を有するものであるため、一般的には導電性炭素に触媒構造体が担持されたものまたは触媒構造体からなるものを用いることができる。
【0069】
触媒層を構成する触媒構造体は粒子形状、樹枝状形状などいずれの形状であってもよく、その平均粒子径は0.5nm以上20nm以下、さらには1nm以上10nm以下であることが好ましい。平均粒子径が20nmより小さいと、触媒の表面積が大きくなって反応部位が増加するために、活性を向上することが可能となる。しかし、0.5nmより小さくなると、触媒粒子単体での活性が高すぎ、取り扱いが困難となる可能性がある。
なお、ここでは、便宜上、触媒構造体の「粒子径」と記載したが、触媒構造体が粒子以外の形状である時には、「粒子径」とは、触媒構造体内の二点間の距離の最大値の半分とする。
【0070】
触媒構造体を構成する触媒材料としては、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、およびオスミウムなどの白金族金属を用いることも可能であるし、白金とそれら金属の合金を用いてもかまわない。特に燃料としてメタノールを用いる場合は、白金とルテニウムの合金を用いることが好ましい。
【0071】
導電性炭素としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンナノチューブなどから選ぶことができる。また、導電性炭素の平均粒子径が5nm以上1000nm以下の範囲であることが好ましく、更には10nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。ただし実使用時においてはある程度凝集がおこるため、粒子径分布としては20nm以上1300nm以下の範囲となると考えられる。
【0072】
また前述した触媒を担持させるため、比表面積比はある程度大きい方がよく、50m/g以上3000m/g以下、更には、100m/g以上2000m/g以下が好ましい。
【0073】
導電性炭素表面への触媒の担持方法は、公知の方法を広く用いることができる。例えば、特開平2−111440号公報、特開2000−003712号公報などに開示されているように、白金および他の金属の溶液を導電性炭素に含浸した後これら貴金属イオンを還元して導電性炭素表面に担持させる方法などが知られている。また、担持させたい貴金属をターゲットとしたスパッタなどの真空成膜方法により、導電性炭素に担持させてもかまわない。
【0074】
このようにして作製した電極触媒は、単独でまたはバインダー、高分子電解質、撥水剤、導電性炭素、溶剤などと混合して、前述した電解質膜または後述する拡散層または電解質膜に密着させる。
【0075】
拡散層3a、3bは、燃料である水素、改質水素、メタノール、ジメチルエーテルおよび酸化剤である空気や酸素を、効率良く、均一に電極触媒層に導入できかつ電極に接触し電子の受け渡しを行うものである。
拡散層3a、3bは、前述した機能を有するものであるため、一般的には、導電性の多孔質膜が好ましく、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンとポリテトラフルオロエチレンとの複合シートなどを用いることができる。なお、拡散層の表面および内部をフッ素系塗料でコーティングし撥水化処理をしたものを用いてもかまわない。
【0076】
電極4a、4bは各電極に接触している拡散層に燃料、酸化剤を効率よく供給できかつ拡散層と電子の授受を行うものであれば、従来から用いられているものを特に限定することなく用いることができる。
【0077】
ガスケット5a、5bは、電極4a、4bと電解質膜1の密着面から燃料および酸化剤が外に漏れることを防ぐ機能を有するものである。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[電解質膜の製造方法]
(実施例1)
プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物としてビニルスルホン酸21.01gを、それ以外の重合性モノマーとしてアクリロイルモルホリン6.86gとメチレンビスアクリルアミド0.94gを、添加剤としてクロロホルム7.20gを用い、よく混合して重合性モノマー混合液を得た。この混合液中に、多孔質基剤としてポリイミド系多孔質膜(宇部興産社製「ユーピレックスPT」、膜厚37μm、平均空孔率55%)を浸漬した。この膜を混合液から取り出した後、加速電圧200kV、線量50kGyの電子線を窒素雰囲気下で照射した。このようにして、ポリイミド系多孔質膜の細孔内に、上記重合性モノマー組成物由来のプロトン伝導成分が充填された電解質膜を得た。
【0079】
(実施例2)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸23.63gとアクリロイルモルホリン7.71gとメチレンビスアクリルアミド1.05gを、添加剤としてクロロホルムの代わりにクロロベンゼン3.60gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0080】
(実施例3)
実施例2において、添加剤としてクロロベンゼンの代わりに1,1,2,2−テトラクロロエタン(G値不明であるが、1,2−ジクロロエタンは41.0、クロロホルムは59.5であることから、これらと同様に高いG値であると考えられる)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして電解質膜を得た。
【0081】
(実施例4)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸24.95gとアクリロイルモルホリン8.14gとメチレンビスアクリルアミド1.11gを、添加剤としてクロロホルムの代わりにアセトン1.80gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0082】
(実施例5)
実施例4において、添加剤としてアセトンの代わりに2−プロパノールを用いたこと以外は、実施例4と同様にして電解質膜を得た。
【0083】
(実施例6)
実施例2において、添加剤としてクロロベンゼンの代わりにメタクリル酸メチルを用いたこと以外は、実施例2と同様にして電解質膜を得た。
【0084】
(実施例7)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸26.00gとアクリロイルモルホリン8.49gとメチレンビスアクリルアミド1.16gを、添加剤としてクロロホルム0.36gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0085】
(実施例8)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸11.82gとアクリロイルモルホリン3.86gとメチレンビスアクリルアミド0.53gを、添加剤としてクロロホルム19.80gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0086】
(実施例9)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸22.61gとN,N−ジメチルアクリルアミド5.18gとメチレンビスアクリルアミド1.01gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0087】
(比較例1)
実施例1において、添加剤(クロロホルム)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0088】
(比較例2)
実施例4において、添加剤としてアセトンの代わりにニトロベンゼン(G値4.5)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして電解質膜を得た。
【0089】
(比較例3)
実施例1において、重合性モノマーとしてビニルスルホン酸9.19gとアクリロイルモルホリン3.00gとメチレンビスアクリルアミド0.41gを、添加剤としてクロロホルム23.40gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解質膜を得た。
【0090】
[プロトン交換容量(IEC)の測定]
得られた実施例および比較例の電解質膜を30mgから40mg程度秤量し、0.01mol/l水酸化ナトリウム水溶液20mlと1mol/l塩化ナトリウム水溶液25mlに浸漬し1晩攪拌した。この液を10ml分取して0.01mol/l塩酸により逆滴定した。また、同操作を電解質膜試料のない状態で行いブランクとした。表1にその結果を示す。
【0091】
[プロトン伝導率の測定]
得られた実施例および比較例の電解質膜を、幅2mm、長さ3cmの長方形として切り出し、その両面に1cmの間隔で設けられた白金電極を密着させた。この電極をインピーダンスアナライザー(ソーラトロン社製、SI−1260)に接続し、温度50℃、相対湿度90%の高温高湿環境および温度25℃、相対湿度50%の常温常湿環境の下で、10MHzから1Hzの周波数範囲でインピーダンス測定を行った。Cole−Coleプロットに表れる半円の直径から抵抗値を読み取り、プロトン伝導率を算出した。表1にその結果を示す。
【0092】
[電解質膜−電極接合体の製造例]
アノード側およびカソード側触媒担持導電物質の前駆体ペーストとして、白金触媒(田中貴金属工業社製「AY−1020」)1gと、5wt%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)5gとを十分に混合したペーストを作製した。
【0093】
このペーストをカーボンペーパー(東レ社製「TGP−H−060」、200μm厚)に金属触媒換算で2mg/cmとなるように塗布および乾燥して触媒層付きの拡散層とした。
【0094】
実施例および比較例によって得られた電解質膜をそれぞれ触媒層のついた拡散層で挟み込み、95℃、2kNの条件でホットプレス処理して、本実施例および比較例用の電解質膜−電極接合体を得た。
【0095】
[固体高分子型燃料電池の製造例と出力測定]
電解質膜−電極接合体を燃料電池セル(ケミックス社製、DFC−010、単セル、触媒層面積10cm)に装着して、本実施例および比較例用の固体高分子型燃料電池を得た。
【0096】
得られた固体高分子型燃料電池セルのアノード側には水素を燃料として供給し、カソード側には室内空気を供給しながら発電を行った。出力測定には燃料電池テストシステム(スクリブナー社製、890B)を用いて、セル組立て時点での出力の最高値を読み取った。表1にその結果を示す。
【0097】
【表1】

【0098】
(注)
(1)IECは、プロトン交換容量を表す。
(2)常温常湿は、温度25℃、湿度50RH%を表す。
(3)高温高湿は、温度50℃、湿度90RH%を表す。
【0099】
実施例においては、それぞれ対応する比較例に比べて高プロトン導電率、高IECおよび高出力値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の電解質膜は、高温高湿および常温常湿でも高いプロトン伝導性を有するので、電解質膜−電極接合体および燃料電池に利用することができる。また、本発明の製造方法は汎用性があり、簡便に高性能な電解質膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の燃料電池の一実施態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0102】
1 電解質膜
2a 触媒層(燃料極側)
2b 触媒層(空気極側)
3a 拡散層(燃料極側)
3b 拡散層(空気極側)
4a 電極(燃料極側)
4b 電極(空気極側)
5a ガスケット(燃料極側)
5b ガスケット(空気極側)
11 燃料極
12 空気極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも、G値が10以上である添加剤0.01質量%以上60質量%以下と、プロトン伝導性基および重合性基を有する化合物を含む重合性モノマー組成物30質量%以上99.99質量%以下と、からなる混合液を調製する工程と、(ii)前記混合液を多孔質基材の細孔内に充填する工程と、(iii)前記混合液が充填された多孔質基材に放射線を照射する工程を含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記添加剤が、有機ハロゲン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法によって作製されることを特徴とする電解質膜。
【請求項4】
請求項3に記載の電解質膜において、多孔質基材の細孔内に充填された重合性モノマー組成物の重合体が、放射線照射による添加剤活性種由来構造を含むことを特徴とする請求項3に記載の電解質膜。
【請求項5】
請求項3または4に記載の電解質膜と触媒電極からなることを特徴とする電解質膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の電解質膜−電極接合体を使用した燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−238639(P2009−238639A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84701(P2008−84701)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】