説明

電解質膜の製造方法

【課題】生産性・耐久性・低湿度環境におけるセル性能を同時に満足する電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】1)エーテル結合比率が4以上であり、イオン交換容量が1.3〜2meq/gであり、メルトインデックスが5〜60g/10minである前記固体高分子電解質前駆体を溶融押出成形する工程;
2)1m/min以上のライン速度で延伸して、単位面積当たりの樹脂量が0.15〜0.35mg/cm2であり、幅方向の引張強度が180MPa以上であり、製膜方向の引張強度が280MPa以上である前記補強用多孔質膜を製造する工程;
3)工程1)で得られた固体高分子電解質前駆体と、工程2)で得られた補強用多孔質膜とを複合する工程;及び
4)工程3)で得られた複合体を加水分解する工程;
を含む電解質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用の電解質膜を製造する方法、及び前記方法により得られる電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現代生活は莫大なエネルギーを消費することにより成り立っている。しかしながら、このエネルギーの大部分は石油などの化石燃料に依存しており、化石燃料を燃焼したときに排出されるCH、CO、NOなどが問題となっている。このような状況から効率的且つクリーンなエネルギー源が求められており、その1つとして燃料電池が注目されている。現在知られている燃料電池としては、固体高分子型燃料電池(PEFC)、アルカリ電解質型燃料電池(AFC)、及びりん酸型燃料電池(PAFC)などが知られているが、その中でも固体高分子型燃料電池は、小型軽量化が可能であることや環境特性に優れていることなどから特に有望視されている。
【0003】
高分子型燃料電池は高分子電解質膜の両側に電極を接合した電極/電解質膜接合体をセパレータで挟んだ単セルからなり、単セルを積層して希望の電圧が得られるように構成されている。高分子型燃料電池は電解質膜のイオン交換容量が大きいほど含水率が高まり、良好な導電性を示す。つまり、低湿度環境においては導電性が低下する。また、燃料電池に使用される電解質膜は自己の膜抵抗が低くなるようになるべく薄いほうが好ましいが、あまりに薄くすると膜が破れやすくなるなど問題が生じる。
【0004】
この問題に対して、特許文献1では、イオン交換容量が>1.15meq/gのイオン交換樹脂を多孔質体で補強することにより電解質膜の耐久性を向上させている。しかしながら、イオン交換容量が1.25meq/g以上のイオン交換樹脂を使用すると耐久性が低下することが示されている。
【0005】
特許文献2は、電解質前駆体を延伸多孔質補強材に含浸させることにより製造する固体高分子電解質について開示しているが、生産性や低加湿度環境におけるセル性能については検討がなされていない。
【0006】
このように、これまで生産性・耐久性・低湿度環境におけるセル性能を同時に満足させるような電解質膜構造が提案されていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2007−257884号公報
【特許文献2】特開2005−327500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は生産性・耐久性・低湿度環境におけるセル性能を同時に満足する電解質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)固体高分子電解質前駆体及び補強用多孔質膜からなる電解質膜を製造する方法であって、以下の工程:
1)エーテル結合比率が4以上であり、イオン交換容量が1.3〜2meq/gであり、メルトインデックスが5〜60g/10minである前記固体高分子電解質前駆体を溶融押出成形する工程;
2)1m/min以上のライン速度で延伸して、単位面積当たりの樹脂量が0.15〜0.35mg/cm2であり、幅方向の引張強度が180MPa以上であり、製膜方向の引張強度が280MPa以上である前記補強用多孔質膜を製造する工程;
3)工程1)で得られた固体高分子電解質前駆体と、工程2)で得られた補強用多孔質膜とを複合する工程;及び
4)工程3)で得られた複合体を加水分解する工程;
を含む、前記方法。
(2)前記固体高分子電解質前駆体がSO2F基を有する、前記(1)に記載の方法。
(3)前記補強用多孔質膜がポリテトラフルオロエチレンから構成される、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により得られる電解質膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性・耐久性・低湿度環境におけるセル性能が高い電解質膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は生産性・耐久性・低湿度環境におけるセル性能が高い電解質膜を製造することに関する。しかしながら、生産性を高めるために補強用多孔質膜を高速で延伸すると多数の未延伸結節部が残存し、これにより水透過性が阻害され低加湿度環境におけるセル性能が低下してしまう。そこで、本発明では高いイオン交換容量を有する固体高分子電解質前駆体を使用すると共に、補強用多孔質膜の単位面積当たりの樹脂量を減少させることで低湿度環境におけるセル性能を高めている。さらに、前記セル性能の向上に付随して生じる耐久性の低下については固体高分子電解質前駆体及び補強用多孔質膜の種々の構造や物性を規定することにより克服している。
【0012】
本発明において「固体高分子電解質前駆体」とは、加水分解によりプロトン伝導性を示す基(以下「プロトン伝導性基前駆体」という)を有する固体高分子を意味する。プロトン伝導性基前駆体は、例えば、加水分解によりスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、及びフェノール基となる基を意味する。これらの基としては、例えば、-SO2X基、-SO2OR基、-COX基、及び-COOR基(式中、XはF、Cl、Br、及びIから選択されるハロゲンであり、Rは炭化水素である)などが挙げられるが、-SO2F基が特に好ましい。
【0013】
本発明に使用することができる固体高分子電解質前駆体としては、これらに限定されないが、繰り返し単位として-CF2CF[OCF2CF2SO2F]-、-CF2CF[OCF2CF2CF2SO2F]-及び/又は-CF2CF[OCF2CF2CF2CF2SO2F]-と、-CF2CF2-及び/又は-CF2CF(CF3)-とを有するランダム共重合体などが挙げられ、繰り返し単位として-CF2CF[OCF2CF2SO2F]-と-CF2CF2-とを有するランダム共重合体が好ましい。
【0014】
本発明において「エーテル結合比率」とは、固体高分子電解質前駆体の側鎖部(側鎖を有する繰り返し単位)における前記プロトン伝導性基前駆体(例えば、前記-SO2X基、-SO2OR基、-COX基、及び-COOR基)以外の部分のエーテル結合酸素(O)数に対する炭素(C)数の比率(C/O数比率)を意味する。
【0015】
例えば、以下の式:
【化1】

を有する固体高分子電解質前駆体について、側鎖部におけるプロトン伝導性基前駆体以外の部分の炭素数は(n+2)個、エーテル結合酸素数は(m)個であるため、エーテル結合比率は(n+2)/(m)となる。
【0016】
具体的には、以下の式:
【化2】

を有する固体高分子電解質前駆体について、側鎖部におけるプロトン伝導性基前駆体以外の部分の炭素数は7個であり、エーテル結合酸素数は2個であるため、エーテル結合比率は3.5となる。
【0017】
また、以下の式:
【化3】

を有する固体高分子電解質前駆体について、側鎖部におけるプロトン伝導性基前駆体以外の部分の炭素数は4個であり、エーテル結合酸素数は1個であるため、エーテル結合比率は4となる。
【0018】
固体高分子電解質前駆体が異なる側鎖部を有する場合は、エーテル結合比率は全側鎖部のエーテル結合比率の平均値を意味する。
【0019】
本発明に使用する固体高分子電解質前駆体のエーテル結合比率は4以上であり、好ましくは4〜10、特に好ましくは4〜6である。
【0020】
本発明に使用する固体高分子電解質前駆体のイオン交換容量は1.3〜2meq/g、好ましくは1.5〜2.0meq/g、特に好ましくは1.6〜1.8meq/gである。
【0021】
本発明に使用する固体高分子電解質前駆体の270℃、2.16kg荷重でのメルトインデックス(MI)は5〜60g/10min、好ましくは5〜48g/10minである。
【0022】
本発明における「補強用多孔質膜」としては、燃料電池の電解質膜を補強するのに使用される公知の多孔質膜を利用することができるが、特に酸・アルカリ耐性を有するものや高温耐性を有するものが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリブロモトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ブロモトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などを使用することができるが、PTFEが特に好ましい。
【0023】
補強用多孔質膜は延伸することにより製造される。延伸は一般的に用いられている延伸方法であれば特に限定されるものでなく、例えば、1軸延伸、2軸延伸、又は多軸延伸とすることができるが、2軸延伸が好ましい。
【0024】
延伸するライン速度は1m/min以上、好ましくは1〜100m/min、特に好ましくは1〜10m/minである。
【0025】
補強用多孔質膜の単位面積当たりの樹脂量は0.15〜0.35mg/cm2、好ましくは0.15〜0.25mg/cm2、特に好ましくは0.17〜0.22mg/cm2である。
【0026】
補強用多孔質膜の幅方向の引張強度(TD)は180MPa以上、好ましくは180〜500MPa、特に好ましくは250〜500MPaであり、製膜方向の引張強度(MD)は280MPa以上、好ましくは300〜500MPa、特に好ましくは310〜500MPaである。
【0027】
補強用多孔質膜の膜厚は通常10〜25μm、好ましくは15〜20μmである。
【0028】
前記の工程1)と工程2)はいずれを先に行ってもよく、また両工程を同時に行ってもよい。
【0029】
本発明においては、次いで、前記工程1)で得られた固体高分子電解質前駆体と、前記工程2)で得られた補強用多孔質膜とを複合する。
【0030】
固体高分子電解質前駆体と補強用多孔質膜との複合は種々の公知技術を用いて行うことができるが、好ましくは溶融含浸、特に好ましくはロール含浸にて行うことができる。
【0031】
次いで、前記のようにして得られた複合体を加水分解する。
複合体の加水分解は種々の条件下で行うことが可能であり、例えば酸条件下、又はアルカリ条件下において行うことができる。
【0032】
本発明の一実施形態において、電解質膜の製造は連続して行うことができる。つまり、連続的に延伸した補強用多孔質膜を、連続的に製膜した固体高分子電解質前駆体単膜と連続的に複合させ、得られた複合体を連続して加水分解することにより電解質膜を連続して製造することができる。
【0033】
より好ましくは、1m/min以上のライン速度で連続的に2軸延伸した補強用PTFE多孔質膜を、連続的に製膜したSO2F基含有固体高分子電解質前駆体と連続的に溶融含浸して複合させ、得られた複合体を連続して加水分解することにより電解質膜を連続的に製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0035】
電解質膜の作成
(実施例1及び2)
PTFEファインパウダ(DuPont製、601A)にアイソパーを18wt%(PTFEファインパウダとアイソパーとの混合物を基準とする)混合し、8時間放置後フラット形状ダイ(幅10cm、リップ間隔0.3mm)を配備したペースト押出し機にて20mm/minで押出し、テープ状とした。これを連続2軸逐次延伸にて2段階延伸し、350℃で焼成して補強用PTFE多孔質膜を得た。
【0036】
次に、以下の式:
【化4】

(式中、h及びkはモル比を表し、当該モル比はイオン交換容量によって一義的に決定される。)
を有するDow型ポリマー前駆体を公知の重合法(特開2002-88103号公報)に基づいて調製し、得られた固体高分子電解質前駆体を単軸押出製膜機にて幅約30cm、膜厚5〜10μmに製膜した。
【0037】
補強用多孔質膜と固体高分子電解質前駆体単膜とを加圧貼り合せて加圧ロールにて溶融含浸した。このときのライン速度は1.5m/minであった。
【0038】
溶融含浸して得られた複合体(30cm×30cm)を1mol/L NaOH水溶液とDMSOとを6:4の体積比で混合した液に浸漬し、80℃に加熱して2時間処理した。これをpH試験紙で約7となるまで水洗し、さらに0.5mol/Lの硫酸水溶液1Lに浸漬し、60℃に加熱して約1時間処理した。さらにこれを90℃の熱水中で2時間煮沸洗浄した後、端部4辺を拘束した状態で25℃、50%相対湿度(RH)にて一晩放置し、さらに80℃で2時間熱風乾燥機にて乾燥させて電解質膜を得た。
【0039】
(比較例1及び2)
固体高分子電解質前駆体として以下の式:
【化5】

(式中、h及びkはモル比を表し、当該モル比はイオン交換容量によって一義的に決定される。)
を有するNafion(登録商標)前駆体を用いた以外は実施例1及び2と同様に電解質膜を得た。
【0040】
電解質膜の評価
実施例及び比較例において作成した電解質膜についての評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0041】
なお、電解質膜の物性などについては以下の通り測定した。
【0042】
[単位面積当たりの樹脂量]
10cm×10cmの膜を10枚重ねて精密天秤で重量を測定し、一枚当たりの平均重量を算出し、それを面積で割って算出した。
【0043】
[幅方向の引張強度(TD)]
長さ5cm、幅1cmのサンプルを標点距離3cmで引張試験機にセットし、25℃、50%RHの環境にて5cm/minの速度で測定した。
【0044】
[製膜方向の引張強度(MD)]
長さ5cm、幅1cmのサンプルを標点距離3cmで引張試験機にセットし、25℃、50%RHの環境にて5cm/minの速度で測定した。
【0045】
[イオン交換容量]
5cm×5cmの固体高分子電解質前駆体単膜サンプルを1mol/L NaCl水溶液50mlに1時間浸漬後、膜サンプルを取り出し、残ったNaCl水溶液にフェノールフタレイン液を数滴加え、これを0.05mol/L NaOH水溶液で比色滴定した。滴下したNaOH水溶液の量とその濃度、及び膜サンプル重量をもとにイオン交換量を算出した(単位:meq/g)。
【0046】
[メルトインデックス]
(株)東洋精機製作所製のメルトインデクサーを用い、測定温度270℃、荷重2.16kgにて2.1mm径のキャピラリーから流出する溶融樹脂重量及び時間を測定し、単位時間当たりの流出量を計算して求めた(単位:g/10min)。
【0047】
[膜厚]
10cm×10cmの膜を縦横均等に9点で接触式膜厚計にて測定し、平均値を算出した。
【0048】
[セル耐久性]
80℃、50%RH下で開回路〜1.2A/cm2間のオンオフサイクル試験を実施し、適宜クロスリーク量を確認し、初期の水素クロスリーク量の3倍を超える量となった時点を終点とした。
【0049】
[セル限界温度]
両極無加湿環境下、1.2A/cm2において0.4V以上の性能を維持しうるセル温度を限界温度とした。セル構成は、膜以外は全て同一諸元のものを用いた。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質前駆体及び補強用多孔質膜からなる電解質膜を製造する方法であって、以下の工程:
1)エーテル結合比率が4以上であり、イオン交換容量が1.3〜2meq/gであり、メルトインデックスが5〜60g/10minである前記固体高分子電解質前駆体を溶融押出成形する工程;
2)1m/min以上のライン速度で延伸して、単位面積当たりの樹脂量が0.15〜0.35mg/cm2であり、幅方向の引張強度が180MPa以上であり、製膜方向の引張強度が280MPa以上である前記補強用多孔質膜を製造する工程;
3)工程1)で得られた固体高分子電解質前駆体と、工程2)で得られた補強用多孔質膜とを複合する工程;及び
4)工程3)で得られた複合体を加水分解する工程;
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記固体高分子電解質前駆体がSO2F基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補強用多孔質膜がポリテトラフルオロエチレンから構成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得られる電解質膜。

【公開番号】特開2010−157356(P2010−157356A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333316(P2008−333316)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】