説明

霊芝エキスによる哺乳動物の治療法

【課題】肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性肉芽疾患、線維症、さらにはアレルギーやアトピーに起因した皮膚炎に対して有効な霊芝エキスによる哺乳動物の治療法を提供する。
【解決手段】哺乳動物に霊芝エキスを投与することで、Th3生体反応を抑制し、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性疾患又は線維症を治療する。1日当たりの前記霊芝エキスの好ましい投与量は体重1kg当たり10mg(乾燥粉末としたときの重量)以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、霊芝エキスによる哺乳動物の治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
霊芝は古くから民間薬として用いられ、強壮、鎮静、血圧降下、強心、利尿等の作用を有するものとして知られている。
【0003】
しかしながら、現状では霊芝の薬理作用の有効性については化学的根拠を含めて不明な部分が多い。
【0004】
霊芝エキスの薬理作用を用いた薬剤の例としては、下記特許文献1がある。
【0005】
【特許文献1】特許第3278209号公報 特許文献1は抗ガン剤による腎障害改善剤としての霊芝エキスの薬理作用に着目することで、特許が成立している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、犬等の哺乳動物の皮膚疾患にはステロイド剤が多用されているが、皮膚の肥厚など本質的な病態あるいは症状がさらに悪化する場合があった。
【0007】
本発明者は、皮膚が線維化、肥厚して、機能障害を起こしている病状に対して、種々の薬剤や組成物を投与して病状の改善効果を検証した結果、霊芝エキスの投与が著しい皮膚の肥厚などの病状の改善効果を奏することを見いだし、その化学的根拠をも明らかにすることができた。
【0008】
また、霊芝エキスがアレルギーやアトピーに起因した皮膚炎にも優れた効果があり、その科学的根拠をも明らかにすることができた。
【0009】
そこで、本発明は、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性肉芽疾患又は線維症に対して有効な霊芝エキスによる哺乳動物の治療法を提供することを第1の目的とする。
【0010】
また、本発明は、アレルギーやアトピーに起因した皮膚炎に対して有効な霊芝エキスによる哺乳動物の治療法を提供することを第2の目的とする。
【0011】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のある態様の霊芝エキスによる哺乳動物の治療法は、哺乳動物に霊芝エキスを投与することで、Th3生体反応(肉芽形成)を抑制し、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性肉芽疾患又は線維症を治療することを特徴としている。
【0013】
また、本発明の別の態様の霊芝エキスによる哺乳動物の治療法は 哺乳動物に霊芝エキスを投与することで、Th3を抑制し、これに連動連鎖してTh2生体反応を抑制し、この結果、アトピー性皮膚炎を治療することを特徴としている。
【0014】
前記哺乳動物におけるTh3の表現型(良性)生体反応及び内在型(悪性)生体反応が当該動物の正常範囲内若しくはそれ以下となるようにするとよい。
【0015】
前記霊芝エキスによる哺乳動物の治療法において、1日当たりの前記霊芝エキスの投与量が好ましくは体重1kg当たり10mg以上であるとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、哺乳動物の免疫に関わるヘルパーT細胞のうち、Th2,Th3に起因する生体反応を抑制する作用が霊芝エキスにあることを見いだした。
【0017】
本発明に係る霊芝エキスによる哺乳動物の治療法によれば、霊芝エキスの投与によりTh3生体反応を抑制し、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性肉芽疾患又は線維症の病状を著しく改善することができる。
【0018】
また、本発明に係る霊芝エキスによる哺乳動物の治療法によれば、霊芝エキスの投与によりTh2生体反応を抑制し、皮膚の肥厚するアトピー性皮膚炎の病状を著しく改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、霊芝エキスによる哺乳動物の治療法の実施の形態を図面に従って説明する。
【0020】
哺乳動物におけるアトピーやアレルギーの原因はIgE抗体であることが明らかにされ、その後、2003年に人の同原因は哺乳動物の免疫に関わるヘルパーT細胞(Th1,Th2,Th3)のうち、Th2生体反応であることが示唆された。この原因は衛生仮説として知られている。
【0021】
犬や猫におけるアトピーやアレルギーの新規、検査の開発とその読解により、その原因が内在型Th2生体反応に起因することが示唆されている。また、本発明者はTh3生体反応がアトピー発症に関与することを突き止め、さらに腫瘤形成にも関与しているとの知見を得た。
【0022】
本発明者は、犬や猫における腫瘤、例えば皮膚が線維化、肥厚して、機能障害を起こしている病状の治療に対して、種々の薬剤や組成物を投与して病状の改善効果を検証した結果、霊芝エキスの投与が著しい病状の改善効果を奏することを見いだした。
【0023】
従来、霊芝エキスのTh3生体反応に関する作用の化学的根拠は示されていなかったが、本発明者はTh3生体反応に起因する肥厚性皮膚炎を発症した犬について霊芝エキスを投与してその作用を観察し、併せて各ヘルパーT細胞とそのサイトカイン(Th1,Th2,Th3)について表現型生体反応及び内在型生体反応を投与前と、投与後とに検査し、霊芝エキスがTh3生体反応を効果的に抑制できていることを立証した。表現型生体反応及び内在型生体反応の検査結果は、後述の実施例において詳述している。
【0024】
ここで用いる霊芝エキスは、霊芝(天然に限らず人工栽培したものでもよい)のよく完熟した子実体(キノコ)を乾燥させ、細切りにした後、熱水等の溶媒で抽出し、乾燥粉末としたものである。但し、投与時において、液状にするか、錠剤の形態にするかは任意である。
【0025】
溶媒としては、水、エタノール、プロピレングリコール、ブタノール等が使用でき、抽出は室温で抽出したものでも加熱抽出したものでもよい。
【0026】
哺乳動物が犬である場合、1日当たりの霊芝エキスの投与量(乾燥粉末としたときの重量)は体重1kg当たり10mg以上が好ましく、10mg未満では病状の改善効果が殆どみられなかった。なお、体重1kg当たり30mgよりも多く投与しても30mgの場合に比して改善効果は同程度であった。従って、1日当たりの霊芝エキスの投与量(乾燥粉末としたときの重量)は体重1kg当たり10mg以上、30mg以下が好ましい範囲といえる。霊芝エキスの投与は、病状の改善効果が明らかになるまで少なくとも1週間以上、毎日行うことが必要であると考えられる。
【0027】
霊芝エキスの適量投与により、哺乳動物のTh3生体反応を抑制でき、具体的にいえばTh3についての表現型生体反応及び内在型生体反応の両者を当該動物の正常範囲内若しくはそれ以下となるまで抑制することが可能である。
【0028】
本実施の形態によれば、哺乳動物のTh3生体反応を抑制でき、腫瘤発生を抑制し、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性疾患又は線維症を治療することができる。
【0029】
また、霊芝エキスはTh2生体反応を抑制する効果もあり、具体的にいえばTh2についての表現型生体反応及び内在型生体反応の両者を当該動物の正常範囲内若しくはそれ以下となるまで抑制することが可能である。これによって、アトピー性皮膚炎の治療にも有効である。
【実施例】
【0030】
次に、代表的な実施例によって、本発明の霊芝エキスによる哺乳動物の治療法について詳述する。
【0031】
症例:体重14kgの中型犬A、雄5歳、アトピー性を有する眼瞼が肥厚した肥厚性皮膚炎となっており、眼瞼と鼻梁にそれぞれリビド皮膚炎を発症している。
【0032】
図1は霊芝エキス投与前の2007年1月18日の犬Aの顔面写真図である。左右の眼瞼が肥厚性皮膚炎となっており、向かって右側の症状が重い。また、鼻梁にアトピー性皮膚炎が見られる。
【0033】
また、以下の表1は、霊芝エキス投与前の2007年1月19日に行った犬Aの表現型生体反応及び内在型生体反応の検査結果(進化型Th生体反応検査結果)である。
【0034】
【表1】


なお、上記表1及び後述する表2の検査は次の手順で行っている。すなわち、細胞に対する前処理は、Ficollを用いた比重遠心法により分離した末梢血単核球を、無刺激群、刺激群に分け、刺激群にはPMA、Ionomycinにより活性化刺激を加え、その後細胞膜透過処理を行いTh1、Th2、Th3サイトカインとしてそれぞれIFN-γ、IL-4、TGF-βを蛍光抗体により染色した。ついで、Thパラダイムパターンは、得られたサンプルをフローサイトメトリー法により各Th細胞の出現率(%)を算出し、各症例のThパターンを解析した。無刺激群に対応するものが表現型生体反応であり、刺激群に対応するものが内在型生体反応である。
【0035】
表1の検査結果から、内在型生体反応におけるTh1細胞の割合が低く、本症例の犬Aはストレスを受けている状態にある。また、内在型生体反応におけるTh3細胞の割合が増加しているため、これが原因で眼瞼の皮膚が線維化、肥厚し、機能障害(バリア障害)を起こしていると考えられる。この状態は慢性化の証拠であり、予後を含めて難治性である示唆している。
【0036】
以上の所見から、本症例は内在型Th3生体反応が上昇していることが臨床的あるいは治療的に重要な点であり、ステロイドの投与を控え(理由:本質的な病態がさらに悪化)、Th3生体反応を低下させることが必要であると判断した。
【0037】
本発明者は霊芝エキスの投与を試みた。投与は1日1回で、1日の投与量は霊芝エキス66mg(乾燥粉末としたときの重量)相当を含有する錠剤を4錠とした。つまり、犬Aの体重1kg当たりの投与量は、66×4/14=18.9mgとした。投与開始は2007年1月20日であり、毎日投与を継続した。
【0038】
以下の表2は投与継続中の2007年2月1日(13回投与後)の犬Aの表現型生体反応及び内在型生体反応の検査結果である。
【表2】


表2中、右側の数値が2007年2月1日の検査値、左側は表1(2007年1月19日)の検査値で参考までに示す。表2から、表現型生体反応において、Th2は5から0.24%(正常範囲以下)に低下し、またTh3も1.26から0.27%(正常範囲以下)に低下している。また、内在型生体反応において、Th2は6から0.23%(正常範囲以下)に低下し、またTh3も3.18から1.81%(正常範囲内)に低下している。表2の検査結果から、霊芝エキスの投与によりTh3生体反応が抑圧されるとともにTh2生体反応も抑圧されており、初診時にみられた臨床症状は著しく改善された。
【0039】
図2は表2の検査後も霊芝エキスの投与を継続した2007年2月11日時点の犬Aの顔面写真図であり、左右の眼瞼の病状及び鼻梁の病状はかなり良くなっていることがわかる。
【0040】
図3は表2の検査後も霊芝エキスの投与を継続した2007年2月24日時点の犬Aの顔面写真図であり、左右の眼瞼の病状及び鼻梁の病状はいっそう良くなっており、とくに向かって左側の眼瞼はほぼ完治状態となっている。
【0041】
以上、本発明の実施の形態及び実施例について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る霊芝エキスによる哺乳動物の治療法の実施例において、治療前(2007年1月18日)の病状を示す犬Aの顔面皮膚肥厚写真図である。
【図2】実施例において、治療後(2007年2月11日)の改善状態を示す犬Aの顔面皮膚肥厚写真図である。
【図3】実施例において、さらに継続治療した後(2007年2月24日)の改善状態を示す犬Aの顔面皮膚肥厚写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物に霊芝エキスを投与することで、Th3生体反応を抑制し、肥厚性皮膚炎、リンパ球性プラズマ細胞性疾患又は線維症を治療することを特徴とする、霊芝エキスによる哺乳動物の治療法。
【請求項2】
哺乳動物に霊芝エキスを投与することで、Th3を抑制し、これに連動連鎖してTh2生体反応を抑制し、この結果、アトピー性皮膚炎を治療することを特徴とする、霊芝エキスによる哺乳動物の治療法。
【請求項3】
前記哺乳動物におけるTh3の表現型生体反応及び内在型生体反応が当該動物の正常範囲内若しくはそれ以下となるようにする請求項1記載の霊芝エキスによる哺乳動物の治療法。
【請求項4】
1日当たりの前記霊芝エキスの投与量が体重1kg当たり10mg以上である請求項1,2又は3記載の霊芝エキスによる哺乳動物の治療法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−214230(P2008−214230A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52104(P2007−52104)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(507067397)
【Fターム(参考)】