説明

静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法

【課題】自動車用部品、特に、静的ねじり強度特性が要求され、電縫鋼管を冷間加工して所定の形状に成形し、高周波焼き入れを施して中空部品としたドライブシャフト用電縫鋼管において、静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼成分が、質量%で、C:0.25〜0.55%、Si:0.35%以下、Mn:0.600〜1.50%、Al:0.001〜0.060%、O:0.0001〜0.0050%、S:0.0025%以下、P:0.010%以下、N:0.005%以下、B:0.0003%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる電縫鋼管であって、当該電縫鋼管の管軸方向に垂直の断面の最小硬度(Hv)と、当該断面の旧オーステナイト粒度番号(GS)との関係が、次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品として用いられる、静的ねじり強度特性に優れる中空ドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用として使用される部品、特にドライブシャフトにおいては、要求される特性の1つとして静的ねじり強度がある。従来、ドライブシャフトは中実部品が多く採用されてきたが、近年の自動車の軽量化に伴い、中空化したドライブシャフトの需要が多くなっている。このため、静的ねじり強度に優れた中空ドライブシャフト部品が要求されるようになってきている。静的ねじり強度特性を向上させるためには、一般的に硬さや強度を高めることが効果的であることが知られている。
【0003】
特許文献1には、内周表面を、ほぼ軸方向の、ほぼ全面にわたって熱効果処理(熱処理)することが開示されている。例えば、中空ドライブシャフトの外周表面から、ほぼ全面にわたって高周波焼き入れ・焼き戻し行うことにより、外周表面から内周表面までほぼ全面にわたって、全深さ領域に熱処理を行うことが記載されている。
特許文献2においても、中空ドライブシャフトの外周表面から、ほぼ全面にわたって高周波焼き入れ・焼き戻し行うことにより、外周表面から内周表面まで、ほぼ全面にわたって、全深さ領域に熱処理を行うことが記載されている。
【0004】
特許文献3には、静的強度と疲労強度を中実強度以上にするために、中空ドライブシャフトを0.7〜0.9の焼き入れ率で表面焼き入れすることが開示されている。ここで、焼き入れ率とは、400Hv以上になる焼き入れ深さHと肉厚とで定義されている。
特許文献4、5には、外表面からの所定の焼き入れ深さを確保しつつ、内表面の未硬化層を残存させるための製造方法が記載されている。
特許文献6には、中空ドライブシャフトのねじり強度を満足させるため、溶接部と母材部との硬度の比、および、フェライトバンド組織と肉厚との比を規定することが開示されている。
【0005】
このように、中空ドライブシャフトにおける静的ねじり強度を向上させる手段としては、一般に、軸方向のすべてにわたって肉厚方向の硬度を規定する方法が採用されていた。しかしながら、このような方法で製造した部品においても、近年の自動車等の性能向上に伴って要求される高い静的ねじり強度特性を、安定して、かつ、十分に確保できるものではなかった。
また、静的ねじり試験時の破断形態としても、軸方向に対して垂直な破断形態となることが要求されている。
このように、高い静的ねじり強度を有し、かつ、破断形態が最適なものを得るためには、最低硬度を確保する方法以外に、鋼の組織因子として、他の冶金因子も考慮して製造する必要が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−349538号公報
【特許文献2】特開2002−356742号公報
【特許文献3】特開2003−90325号公報
【特許文献4】特開2006−2809号公報
【特許文献5】特開2006−2185号公報
【特許文献6】特開2004−162125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、自動車用部品、特に、電縫鋼管を冷間加工して所定の形状に成形し、高周波焼き入れを施して中空部品としたドライブシャフト用電縫鋼管において、静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0009】
[1] 鋼成分が、質量%で、C:0.25〜0.55%、Si:0.35%以下、Mn:0.600〜1.50%、Al:0.001〜0.060%、O:0.0001〜0.0050%、S:0.0025%以下、P:0.010%以下、N:0.005%以下、B:0.0003%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる電縫鋼管であって、当該電縫鋼管の管軸方向に垂直の断面の最小硬度(Hv)と、当該断面の旧オーステナイト粒度番号(GS)との関係が、下記(1)式を満足することを特徴とする静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管。
0.25Hv − 65GS + 500 > 0 ・・・・・ (1)
[2] 鋼成分が、更に、質量%で、Cr:0.05〜1.00%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.10〜2.00%、Cu:0.10〜2.00%、Nb:0.001〜0.20%、V:0.001〜0.20%、Ti:0.001〜0.20%、Mg:0.0001〜0.0050%、Ca:0.0001〜0.0100%のうち一種または二種以上を含有することを特徴とする上記[1]に記載の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法であって、上記[1]又は[2]に記載の鋼成分を有する電縫鋼管を造管した後、当該電縫鋼管を900℃以上1000℃以下の温度で焼入れし、その後、焼戻し処理を実施することを特徴とする静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法。
[4] 前記焼戻し処理における焼き戻し温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする上記[3]に記載の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法によれば、上記構成により、優れた静的ねじり強度を有する中空部品であるドライブシャフト用電縫鋼管が得られるので、自動車および機械構造用部品として満足できるドライブシャフト用電縫鋼管を提供することが可能となることから、産業上の効果は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管(以下、電縫鋼管と略称することがある)は、鋼成分が、質量%で、C:0.25〜0.55%、Si:0.35%以下、Mn:0.600〜1.50%、Al:0.001〜0.060%、O:0.0001〜0.0050%、S:0.0025%以下、P:0.010%以下、N:0.005%以下、B:0.0003%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、当該電縫鋼管の管軸方向に垂直の断面の最小硬度(Hv)と、当該断面の旧オーステナイト粒度番号(GS)との関係が、下記(1)式を満足する構成とされている。
0.25Hv − 65GS + 500 > 0 ・・・・・ (1)
【0013】
本発明の電縫鋼管においては、化学成分、硬度、および、オーステナイト結晶粒径を特定条件下で組み合わせて規定しており、以下に、要件ごとに詳細に説明する。
【0014】
<鋼成分>
以下に、本発明における鋼成分についての限定理由を説明する。本発明においては、以下に示す各元素を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼成分とされた電縫鋼管を用いる。
なお、以下の説明における各元素の含有量の単位は、特に指定の限り、質量%で表されるものとする。
【0015】
「C:炭素」0.25〜0.55%
Cは、自動車および機械構造用部品としての、強度確保並びに高周波焼き入れ性を確保するために必要な元素であるが、0.25%未満では最終製品の強度が不足し、高周波焼き入れ性も確保できない。また、Cの含有量が0.55%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Cの含有量は、0.25〜0.55%の範囲とする。
【0016】
「Si:ケイ素」0.35%以下
Siは、固溶体強化によって硬さの上昇を招き、冷間加工性が劣化する。
従って、Siの含有量は、0.35%以下とした。
【0017】
「Mn:マンガン」0.600〜1.50%
Mnは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.600%未満ではこの効果が不十分である。一方、Mnの含有量が1.50%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Mnの含有量は、0.60〜1.50%の範囲とする。
【0018】
「Al:アルミニウム」0.001〜0.060%
Alは、脱酸元素であり、酸化物を生成する。Alの含有量が0.001%未満では脱酸の効果がなく、0.060%を超えると脱酸効果は飽和する。
従って、Alの含有量は、0.001〜0.06%の範囲とする。
【0019】
「O:酸素」O:0.0001〜0.0050%、
Oは、鋼中に不可避的に含有される成分であり、酸化物を生成する。Oの含有量を0.0001%未満とする制御は困難であり、また、0.0050%を超えると介在物が多くなるため、ねじり強度、疲労強度を劣化させる。
従って、Oの含有量は、0.0001〜0.0050%の範囲とする。
【0020】
「S:硫黄」0.0025%以下
Sは、Mnと結合してMnSを形成する。MnSは、冷間加工において割れの発生起点となりかねないため、Sの含有量はできるだけ少ないことが望ましい。
従って、Sの含有量は、0.0025%以下とする。
【0021】
「P:リン」0.010%以下
Pは、鋼中に不可避的に含有される成分であるが、Pは鋼中で粒界偏析や中心偏析を起こし、延性劣化の原因となるので、その含有量を0.010%以下に制限する。
【0022】
「N:窒素」N:0.005%以下
Nは、鋼中に不可避的に含有される成分であるが、Nを多く含むと、靭性あるいは延性劣化の原因となるので、その含有量を0.005%以下に制限する。
【0023】
「B:ボロン(ホウ素)」B:0.0003%未満
Bは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.0003%以上だと強度がばらつく可能性がある。
従って、Bの含有量は、0.0003%未満とする。
【0024】
本発明においては、上記各元素を必須としたうえで、さらに、以下に説明する各元素のうちの一種または二種以上を選択的に添加することができる。
以下、各選択添加元素の含有量の限定理由について説明する。
【0025】
「Cr:クロム」0.05〜1.00%
Crは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.05%未満ではこの効果が不十分とある。一方、Crの含有量が1.00%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Crの含有量は、0.05〜1.00%の範囲とする。
【0026】
「Mo:モリブデン」0.05〜1.00%
Moは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.05%未満ではこの効果が不十分である。一方、Moの含有量が1.00%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Moの含有量は0.05〜1.00%の範囲とする。
【0027】
「Ni:ニッケル」0.10〜2.00%、
Niは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.10%未満ではこの効果が不十分である。一方、Niの含有量が2.00%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Niの含有量は、0.10〜2.00%の範囲とする。
【0028】
「Cu:銅」0.10〜2.00%
Cuは、高周波焼き入れ性の確保に有効な元素であるが、0.10%未満ではこの効果が不十分である。一方、Cuの含有量が2.00%を超えると、むしろ硬くなって冷間加工性の劣化を招く。
従って、Cuの含有量は、0.10〜2.00%の範囲とする。
【0029】
「Nb:ニオブ」0.001〜0.20%
Nbは、CやNとの親和力が強いことから、NbCNとして析出する。中空化構造とされたドライブシャフトを焼き入れする場合には、NbCNがピニング粒子として作用し、オーステナイト結晶粒の成長を抑制して粒径粗大化を抑える働きがある。しかしながら、Nbの含有量が0.001%未満では、上記効果が不十分である。一方、Nbの含有量が0.20%を超えると、NbCNの析出硬化が顕著となり、冷間加工性の劣化を招く。
従って、Nbの含有量は、0.001〜0.20%の範囲とする。
【0030】
「V:バナジウム」0.001〜0.20%、
Vは、Cとの親和力が強いことから、VCとして析出する。中空化構造とされたドライブシャフトを焼き入れする場合には、VCがピニング粒子として作用し、オーステナイト結晶粒の成長を抑制して粒径粗大化を抑える働きがある。しかしながら、Vの含有量が0.001%未満では、上記効果が不十分である。一方、Vの含有量が0.20%を超えると、VCの析出硬化が顕著となり、冷間加工性の劣化を招く。
従って、Vの含有量は、0.001〜0.20%の範囲とする。
【0031】
「Ti:チタン」0.001〜0.20%、
Tiは、Nとの親和力が強いことから、TiNとして析出する。中空化構造とされたドライブシャフトを焼き入れする場合には、TiNがピニング粒子として作用し、オーステナイト結晶粒の成長を抑制して粒径粗大化を抑える働きがある。しかしながら、Tiの含有量が0.001%未満では、上記効果が不十分である。一方、Tiの含有量が0.20%を超えると、TiNの析出硬化が顕著となり、冷間加工性の劣化を招く。
従って、Tiの含有量は、0.001〜0.20%の範囲とする。
【0032】
「Mg:マグネシウム」0.0001〜0.0050%
Mgは、脱酸元素であり、酸化物を生成する。この酸化物は、MnSの析出核になり、MnSの微細均一分散に効果がある。しかしながら、Mgの含有量が0.0001%未満では効果がなく、また、0.0050%を超えても、歩留まりが極端に低下するばかりで効果は飽和する。
従って、Mgの含有量は、0.0001〜0.0050%の範囲とする。
【0033】
「Ca:カルシウム」0.0001〜0.0100%
Caは、母材および電縫溶接部の介在物の形態を調整し、冷間加工性を向上するのに 有効である。しかしながら、Caの含有量が多すぎると鋼中の介在物が増加し、逆に冷間加工性を劣化させる。
従って、Caの含有量は、0.0001〜0.0100%の範囲とする。
【0034】
<硬度とオーステナイト粒度番号>
本発明では、電縫鋼管の管軸方向に垂直の断面の最小硬度(Hv)と、当該断面の旧オーステナイト粒度番号(GS)との関係が、次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足する構成とされている。
以下、硬さとオーステナイト結晶粒径の限定理由について詳述する。
【0035】
後述する製造条件により、冷間加工後に高周波焼き入れした鋼材からなる中空部品である、本発明のドライブシャフト用電縫鋼管のねじり疲労強度は、部品の硬さと相関があり、ねじり疲労強度向上のためには硬さを高くする必要がある。本発明者等が鋭意検討した結果、本発明で規定する化学成分を有する鋼材は、通常の高周波焼き入れ後の中空部品の最小硬さ(HV)とオーステナイト粒径(GS)との関係が、次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足することで、静的ねじり強度が確保でき、かつ、ドライブシャフトの軸方向に対して垂直に破断することが確認された。
【0036】
一方、高周波焼き入れ後の中空部品である、本発明のドライブシャフト用電縫鋼管の最小硬さ(HV)とオーステナイト粒度(GS)の関係が、次式{0.25Hv−65GS+500<0}のような関係であると、安定した静的ねじり強度が得られず、かつ、せん断方向に破断が生じてしまうことが明らかとなった。従って、本発明においては、電縫鋼管を冷間加工して所定の形状に成形し、高周波焼き入れ後の中空部品であるドライブシャフト用電縫鋼管の肉厚方向と周方向の全域において、最小硬度(Hv)とオーステナイト粒度番号(GS)との関係を、次式{0.25Hv−65GS+500>0}とした。
【0037】
なお、上記断面の硬さは、管軸方向に垂直の断面において、内表面から外表面にむけて1mmピッチで荷重10kgにて測定し、溶接部が存在する場合に、その場所と90°、180°ならびに270°における位置の肉厚方向の硬度測定を行い、これらの最小硬度(Hv)をもとめることで測定できる。
また、オーステナイト粒度番号は、3%硝酸+97%エタノール溶液にて管軸方向の断面を腐食し、そのオーステナイト粒径を観察することによって測定できる。この際、50倍から200倍の視野にて、肉厚方向および円周方向の領域を光学顕微鏡写真にて撮影し、オーステナイトの粒度番号をASTMに準拠して測定できる。
【0038】
<静的ねじり強度>
本発明において説明する静的ねじり強度とは、ねじりせん断応力によって表される。電縫鋼管の静的ねじり強度の測定方法としては、例えば、ねじり疲労試験機を使用し、ねじり角度を徐々に増加させながら、順次トルクを測定して破断するまでのトルクを求め、試験サンプルである電縫鋼管の断面寸法から、計算によってせん断応力を求めることで測定可能である。
【0039】
<製造方法(製造条件)>
本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法は、上述した本発明の電縫鋼管を製造するにあたり、まず、上記鋼成分を有する電縫鋼管を造管した後、当該電縫鋼管を900℃以上1000℃以下の温度で焼入れし、その後、焼戻し処理を実施する方法である。
【0040】
本発明の製造方法では、鋼管を冷間加工して所定の形状に成形し、高周波焼き入れを施し、所望の特性を有する自動車および機械構造用の部品、本発明においては、ドライブシャフト用電縫鋼管に仕上げる。この際の高周波焼き入れの方法としては、特に限定されるものではなく、この分野における通常の方法で行えばよい。また、本発明が適用可能な鋼管としては、電縫鋼管のみならず、例えば、棒鋼などをくりぬいて本願の構成を満足するものであれば、特に限定されない。
以下に、本発明で規定する製造条件について、詳細に説明する。
【0041】
「焼入れ処理温度」
本発明では、電縫鋼管を造管後、当該電縫鋼管を焼き入れする際の焼き入れ温度を、900℃以上1000℃以下の温度に規定した。焼入れ温度が900℃未満であると、焼き入れ性が下がり、静的ねじり強度が所定の強度を満たさなくなるため、900℃以上に規定した。一方、焼入れ温度が1000℃を超えると、オーステナイト粒径が粗大化して靭性が低下し、軸方向に垂直な破断が生じなくなる。従って、焼き入れ温度の範囲を、900℃以上1000℃以下とした。
【0042】
「焼戻し処理温度」
本発明の製造方法においては、焼戻し処理における焼き戻し温度を100℃以上300℃以下の範囲とすることが好ましい。焼き戻し温度が100℃以下であると、水素の拡散が不十分となり、割れが生じることが懸念されるので、100℃以上とすることが好ましい。一方、焼入れ温度が300℃を超えると、焼き戻しに伴う組織の回復が起こり、静的ねじり強度を確保できなくなる。従って、焼き戻し温度の範囲を100℃以上300℃以下とした。
【0043】
以上説明したような、本発明に係る静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法によれば、上記構成により、優れた静的ねじり強度を有する中空部品であるドライブシャフト用電縫鋼管が得られるので、自動車および機械構造用部品として満足できるドライブシャフト用電縫鋼管を提供することが可能となることから、産業上の効果は極めて大きい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0045】
[電縫鋼管の製造]
製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御し、連続鋳造により、下記表1に示す化学成分組成を有し、また、下記表2に示す板厚とされた鋼番号1〜16の鋼帯を製造した。次いで、これらの鋼帯を、下記表2に示す外径で、連続的に管状に成形した後、この管状鋼帯のエッジ部を高周波溶接によって溶接した。次いで、得られた管状鋼帯を、下記表2に示す条件で、900℃以上1000℃以下にて再加熱焼き入れした後、100℃以上300℃以下の温度で焼き戻すことにより、鋼番号1〜16の電縫鋼管を製造した。
【0046】
[評価試験]
上記方法によって製造した電縫鋼管について、以下のような評価試験を行い、結果を下記表3に示した。
まず、最小硬度(Hv)としては、ビッカ−ス硬度計による肉厚方向の硬度分布からの、最小の硬度を求めた。この際の荷重は10kgとした。
また、オーステナイト粒度番号は、3%硝酸+97%エタノール溶液にて管軸方向の断面を腐食し、そのオーステナイト粒径を観察した。この際、50倍から200倍の視野にて肉厚方向および円周方向の領域を光学顕微鏡写真にて撮影し、ASTMに準拠してオーステナイトの粒径を測定することにより、オーステナイト粒度番号を導き出した。
【0047】
また、静的ねじり強度は、市販のねじり疲労試験機を使用し、ねじり角度を徐々に増加させながら、順次トルクを測定して破断するまでのトルクを求め、電縫鋼管の断面寸法から、計算によってせん断応力を求めることで測定した。
また、破断形態については、上記ねじり疲労試験機を用いた試験によって破断した電縫鋼管の破断面を、走査電子顕微鏡観察することによって確認した。
【0048】
本実施例の電縫鋼管の化学成分組成の一覧を表1に示すとともに、電縫鋼管の外径および肉厚(板厚)、焼入れ温度並びに焼戻し温度の条件の一覧を下記表2に示し、また、最小硬度(Hv)、オーステナイト粒度番号、静的ねじり強度および破断形態の評価結果一覧を下記表3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
[評価結果]
表1〜表3に示す鋼番号1〜12は、本発明の各規定を満たす本発明例であり、鋼番号13〜16は、何れかの要件が本発明の規定範囲外とされた比較例である。
表3の評価結果一覧に示すように、本発明で規定する鋼成分を有する鋼帯を成形・溶接し、さらに、本発明で規定する焼入れ処理および焼戻し処理を施した鋼番号1〜12の電縫鋼管は、最小硬度(Hv)とオーステナイト粒度番号(GS)との関係が、次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足する鋼特性であることが確認された。これら鋼番号1〜12の電縫鋼管は、静的ねじり強度が3500Nmを超え、所定の特性を達成しており、また、破断形態が軸方向に対して垂直であり、良好な破断形態であることが確認できた。
【0053】
これに対して、比較例である鋼番号13〜16の電縫鋼管は、何れかの要件が本発明の規定範囲外であるため、静的ねじり強度が所定以上の強度(3500Nm)を達成できないか、あるいは、破断形態が軸方向に垂直な形態とならなかった。
【0054】
鋼番号13では、鋼成分においてNが本発明で規定する上限値を超えており、また、焼入れ温度が本発明で規定する下限値未満となっている。このため、最小硬度(Hv)とオーステナイト粒度番号(GS)との関係が次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足しておらず、静的ねじり強度が3500Nm未満で不十分であるとともに、せん断割れの破断形態となり、軸方向に垂直な形態が得られなかった。
また、鋼番号14では、焼入れ温度が本発明で規定する上限値を超えている。このため、オーステナイト粒が粗大化し、せん断割れの破断形態となり、軸方向に垂直な形態が得られず、また、静的ねじり強度も所定の強度を達成できなかった。
【0055】
また、鋼番号15では、焼戻し温度が本発明で規定する上限値を超えている。このため、最小硬度とオーステナイト粒度番号との関係が次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足しておらず、所望の静的ねじり強度である3500Nm以上の強度が得られなかった。
また、鋼番号16では、焼戻し温度が本発明で規定する下限値未満となっているため、水素割れが発生し、所望の静的ねじり強度である3500Nm以上の強度が得られず、また、軸方向に垂直な破断形態が得られなかった。
【0056】
また、鋼番号17、19は、C量あるいはMn量が本発明で規定する下限値を下回っているため、最小硬度とオーステナイト粒度番号との関係が、次式{0.25Hv−65GS+500>0}を満足しておらず、所望の静的ねじり強度である3500Nm以上の強度が得られなかった。
また、鋼番号18は、C量が本発明で規定する上限値を超えているため、水素割れが発生し、静的ねじり強度が3500Nm未満で不十分であるとともに、水素割れの破断形態となり、軸方向に垂直な形態が得られなかった。
また、鋼番号20は、Mn量が本発明で規定する上限値を超えているため、静的ねじり強度が3500Nm未満で不十分であるとともに、軸方向に垂直な形態が得られなかった。
【0057】
以上説明した実施例の結果より、本発明の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管およびその製造方法が、静的ねじり強度に優れ、また、良好な破断形態とされたドライブシャフト用電縫鋼管が得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼成分が、質量%で、
C :0.25〜0.55%、
Si:0.35%以下、
Mn:0.600〜1.50%、
Al:0.001〜0.060%、
O :0.0001〜0.0050%、
S :0.0025%以下、
P :0.010%以下、
N :0.005%以下、
B :0.0003%未満
を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる電縫鋼管であって、
当該電縫鋼管の管軸方向に垂直の断面の最小硬度(Hv)と、当該断面の旧オーステナイト粒度番号(GS)との関係が、下記(1)式を満足することを特徴とする静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管。
0.25Hv − 65GS + 500 > 0 ・・・・・ (1)
【請求項2】
鋼成分が、更に、質量%で、
Cr:0.05〜1.00%、
Mo:0.05〜1.00%、
Ni:0.10〜2.00%、
Cu:0.10〜2.00%、
Nb:0.001〜0.20%、
V :0.001〜0.20%、
Ti:0.001〜0.20%、
Mg:0.0001〜0.0050%、
Ca:0.0001〜0.0100%
のうち一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法であって、
請求項1又は請求項2に記載の鋼成分を有する電縫鋼管を造管した後、当該電縫鋼管を900℃以上1000℃以下の温度で焼入れし、その後、焼戻し処理を実施することを特徴とする静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記焼戻し処理における焼き戻し温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の静的ねじり強度に優れたドライブシャフト用電縫鋼管の製造方法。

【公開番号】特開2011−94217(P2011−94217A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251923(P2009−251923)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】