説明

静電塗装方法及び静電塗装用ガン

【課題】凹部への塗料の入り込み性が向上し、且つ静電スパークの発生を抑制することが可能な導電性被塗面の静電塗装方法の提供。
【解決手段】金属や導電性樹脂などの導電体を被塗面21とした静電塗装方法であり、スプレーガン1と被塗面21との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制した状態で、帯電した塗料をスプレーガン1から吐出させて被塗面21に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の被塗面の静電塗装方法及び静電塗装用ガンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、静電塗装とは、被塗物をアース極とし、塗装装置側の電極を陰極とし、これらの間に高電圧を加えることにより静電界(電気力線)を形成させるとともに、塗料粒子をマイナスに帯電させ、塗料と被塗物との間に静電気引力を働かせることにより、被塗物に塗料を効率良く塗着させる塗装方法である。静電塗装によって、塗装効率の向上(塗装つきまわり性の向上による塗装時間の短縮化)や、塗着効率の向上(被塗物に塗着する塗料の量比率の向上による塗料の使用量の低減化)などの効果を得ることができる。なお、つきまわりとは、被塗物の表面側から塗布された塗料が裏面側へ回り込んで塗着することである。
【0003】
従来の静電塗装方法は、塗料霧化の方式によって、エア霧化方式とエアレス霧化方式と回転霧化方式(ベルやデイスクによる霧化)の3種類に分けられる。さらに、静電気引力を発生させる高電圧印加方式によって、直接印加方式とコロナ放電方式に分けられる。直接印加方式は、回転霧化方式にのみ適用され、コロナ放電方式は、主にエア霧化方式とエアレス霧化方式に適用されている。なお、コロナ放電方式の一形態として、コロナ放電極と塗料吐出部とを離間して配置し、被塗物までの空間で塗料に静電気を帯電させる外部帯電方式がある。これはコロナ放電極を塗料吐出部に配置する一般的方式では高電圧が塗料経路から漏出してしまう高導電性塗料(水性塗料など)に多く用いられている。
【0004】
これらの塗料霧化方式と高電圧印加方式との組み合わせによって従来の静電塗装技術は構成されているが、その静電塗装メカニズムは共通している。すなわち、何れの組み合わせにおいても、塗料粒子に静電気を帯電させ、塗装機(実際にはコロナ放電極や回転霧化頭)と被塗物との間に形成させた静電界に沿って帯電塗料粒子を飛行させ、静電気引力を働かせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−279931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の静電塗装技術は、以下の2つの問題を抱えていた。
【0007】
その第1は、塗装機と被塗物との間に静電界を形成させる方式であるため、被塗物に凹凸が存在する場合、電界強度が強くなる凸部では、塗着効率が高くなって塗装膜厚が過剰となり易く、反対に、電界が形成されないか或いは電界強度が弱くなる凹部では、塗料が入り込み難く、塗装ができないか或いは塗り薄となるという問題である。この対策としては、静電塗装電圧を下げたり切ったりすることが行われてきたが、このような対応は、静電塗装に求められる効果そのものを低減又は減少させるものであり、本質的な対策とは言えなかった。
【0008】
その第2は、帯電した塗料粒子とともに、フリーイオンと呼ばれるイオン化した空気を大量に発生させてしまうという問題である。このフリーイオンは、帯電した塗料粒子に比べて圧倒的に質量が小さいため、慣性力が大きく働く塗料粒子とは異なり、静電気力に支配されて飛行する。この結果、静電塗装のターゲットである被塗物のみならず、周辺に存在する導電体にも降り注ぎ、導電体のアースが不十分な場合はこの導電体を帯電させる。そして、この帯電が静電スパークを引き起こし、火災を誘発してしまう可能性がある。なお、被塗物のアースが不十分な場合にも、静電スパークによる火災の誘発が起こり得る。
【0009】
このように、従来の静電塗装技術は、塗料が凹部に入り込み難いという問題と、静電スパークを引き起こすフリーイオンを発生させてしまうという問題を抱えていた。
【0010】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであって、凹部への塗料の入り込み性が向上し、且つ静電スパークの発生を抑制することが可能な導電性被塗面の静電塗装方法及び静電塗装用ガンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明に係る静電塗装方法は、金属や導電性樹脂などの導電体を被塗面とした静電塗装方法であり、吐出元と被塗面との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制した状態で、帯電した塗料(液体塗料)を吐出元から吐出させて被塗面に塗布する。
【0012】
吐出元と被塗面との間での静電界の発生とフリーイオンの発生とを抑制する方法は、外部に露出するコロナ放電極等のガン外電極部分を設けずに、塗装機内部の塗料経路に接するように配置した高電圧電極から塗装機内部で塗料に高電圧を直接印加して塗料を帯電させ、帯電した塗料を吐出元から吐出させる方法が好適である。
【0013】
また、塗料の体積固有抵抗値は、100MΩcm以下が好ましく、50MΩcm以下が好適であり、20MΩcm以下がさらに好適である。なお、体積固有抵抗値が100MΩcm以下の低抵抗塗料は、絶縁物の静電塗装には用いられてきたが、従来の導電体の静電塗装には意図して用いられることはなかった。なぜなら、静電塗装によって被塗物に与えられる静電気は、導電体の場合には容易にアースに流れて蓄積することがないためである。これに対し、高電圧電極から高電圧を塗料に直接印加して帯電させる上記方法では、抵抗値の高い塗料では塗料を十分に帯電させることができないため、従来の静電塗装とは異なり低抵抗塗料が好適に使用される。
【0014】
上記方法では、吐出元と被塗面との間での静電界(マクロな静電界)の発生を抑制しているので、帯電して吐出元から吐出した塗料粒子は、静電界に沿って飛行せず、慣性と空気流に沿って飛行して被塗面に近づく。塗料粒子をマイナス帯電させた場合で説明すると、塗料粒子が被塗面の直近に達すると、被塗面ではマイナス電荷を持つ電子が斥力を受けて内側へ移動し、プラス電位を持つ原子核が外側に残存してプラス極となり、塗料粒子と被塗面との間に静電界が生じる。この静電界は、マイナスに帯電した塗料粒子が導電性の被塗面に接近することによって、塗料粒子と被塗面との間で形成される静電界であり、このような現象は、ミラー効果又は鏡像効果として知られている。なお、塗料粒子をプラスに帯電させた場合には、塗料粒子が被塗面の電子を引き寄せるため、上記とは逆に被塗面がマイナス極となる。このようなミラー効果によって、被塗面の近傍でミクロな静電界が発生し、その静電引力によって塗料粒子が被塗面に塗着する。
【0015】
このように、慣性と空気流に沿って飛行して被塗面に近づいた塗料粒子が、被塗面の近傍で発生するミクロな静電界の静電引力によって被塗面に塗着するので、凹部への塗料の入り込み性が向上する。従って、凹部と他の部分(凸部を含む)とを同等に塗装することができ、塗装品質の向上(塗装膜厚の均一化)を図ることができる。また、凹部への入り込み性の向上によって、塗装効率の向上(塗装時間の短縮化)及び塗装塗着効率の向上(塗料使用量の低減化及び非塗着廃棄塗料・排出塗料粒子の低減化)を図ることができる。
【0016】
また、フリーイオンの発生が抑制されるので、静電スパークの発生が抑制され、安全性が向上する。
【0017】
また、上記被塗面は、非導電性樹脂などからなる弱導電性又は絶縁性の領域(非導電性領域)を含んでいてもよい。
【0018】
上記方法では、マクロな電界の形成及びフリーイオンの発生が抑制されているため、被塗面に到達するイオン量が低減し、非導電性領域の帯電が抑制される。更に低抵抗塗料が塗布されることで非導電性領域の電荷は速やかに導電性領域に移行し、非導電性領域の帯電を低レベルに維持することができ、良好な静電塗装を継続して行うことができる。すなわち、被塗面に導電性領域と非導電性領域とが混在している場合であっても、導電性領域と非導電性領域とを同一の工程内で同等に塗装することができる。
【0019】
本発明に係る静電塗装用ガンは、上記静電塗装方法において上記吐出元として使用する静電塗装ガンであって、塗料供給路と高電圧電極と吐出口とを備える。塗料供給路には、塗料が流通する。高電圧電極は、塗料供給路に設けられ、塗料供給路を流通する塗料に高電圧を直接印加して塗料を帯電させる。吐出口は、塗料供給路の先端またはその近傍に設けられ、帯電した塗料を外部へ吐出する。すなわち、この静電塗装用ガンは、外部に露出するコロナ放電極等のガン外電極部分を有さない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、凹部への塗料の入り込み性を向上させることができ、且つ静電スパークの発生を抑制することができる、
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の静電塗装用ガンの断面図である。
【図2】図1の静電塗装用ガンの分解斜視図である。
【図3】効果確認実験2の結果を示すグラフである。
【図4】体積固有抵抗値が200MΩcmの塗料に60kボルトの電圧をかけ、スプレーエアを止めて水鉄砲状に吐出させたときの様子を撮影した写真である。
【図5】体積固有抵抗値が100MΩcmの塗料に60kボルトの電圧をかけ、スプレーエアを止めて水鉄砲状に吐出させたときの様子を撮影した写真である。
【図6】体積固有抵抗値が50MΩcmの塗料に60kボルトの電圧をかけ、スプレーエアを止めて水鉄砲状に吐出させたときの様子を撮影した写真である。
【図7】体積固有抵抗値が20MΩcmの塗料に60kボルトの電圧をかけ、スプレーエアを止めて水鉄砲状に吐出させたときの様子を撮影した写真である。
【図8】体積固有抵抗値が10MΩcmの塗料に60kボルトの電圧をかけ、スプレーエアを止めて水鉄砲状に吐出させたときの様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下の説明における上下は、図1中の上下方向に対応し、前後は、図1中の左右に対応する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の吐出元としてのスプレーガン(静電塗装用ガン)1は、例えば自動スプレーガンであり、導電性を有する領域を含む被塗面21の静電塗装に使用される。この実施形態では、被塗面21の全域が導電性を有する場合について説明する。スプレーガン1は、絶縁樹脂製のガン本体2と、ガン本体2の先端部に取り付けられた絶縁樹脂製のペイントノズル3と、ガン本体2の前端部に取り付けられてペイントノズル3の外周を覆う絶縁樹脂製のエアキャップ(例えば扇パターンの噴霧を形成するタイプ)4とを備える。
【0024】
ガン本体2内の上部には、高電圧発生回路を構成する昇圧トランス及び高圧整流回路を一体にモールドしたカスケード(高電圧発生装置)5が収納され、ガン本体2内の前上部には、導電性を有する連体棒6が下方に向かって配設されている。カスケード5の前端は、連体棒6と当接し、両者は電気的に接続している。
【0025】
ペイントノズル3の中心部には孔10が形成され、この孔10に金属製の高電圧直接印加電極(高電圧電極)31が収容され支持されている。高電圧直接印加電極31の後端部は、ガン本体2に形成された孔11に挿入され、スプリング9を介して連体棒7に電気的に接続されている。孔10の前端は、吐出口12を介して外部と連通する。
【0026】
エアキャップ7には、2種類のエア噴射口(図示省略)が設けられている。一方のエア噴射口は、吐出された塗料(液体塗料)を霧化する霧化エアとして機能し、他方の噴射口は、扇パターンの噴霧を形成するパターンエアとして機能する。
【0027】
電源コネクタ(図示外)から取り入れられた高周波電圧は、グリップ3内の配線ケーブル(図示外)を介してカスケード5内の昇圧トランスに供給される。供給された高周波電圧は、昇圧トランスで昇圧された後、高電圧整流回路で更に昇圧されると同時に整流され、マイナス数万Vの直流高電圧が発生する。発生した直流高電圧は、カスケード5から連体棒6及びスプリング9を介して高電圧直接印加電極31に供給される。なお、印加する高電圧は、例えば50kV〜60kV程度が好適である。
【0028】
ガン本体2には、孔11と連通する塗料流通孔16が形成され、塗料は、塗料流通孔16から孔11へ供給される。孔10を流通する塗料は、高電圧直接印加電極31に直接接触することによって印加され、塗料そのものが放電極となって電荷を担持し、マイナスに帯電した塗料粒子となって吐出口12からエア霧化され吐出される。塗料は、その体積固有抵抗値が低い低抵抗塗料である。塗料の体積固有抵抗値は、100MΩcm以下が好ましく、50MΩcm以下が好適であり、20MΩcm以下がさらに好適である。
【0029】
スプレーガン1が対向する被塗物20の被塗面21は、凹凸形状(凹部24及び凸部25)を有し、被塗面21の接地部23は、アース線に接続されて接地される。被塗面21は、金属や導電性樹脂などの導電体によって形成されている。なお、被塗面21が導電性を有していれば、被塗物20は導電体又は絶縁体の何れであってもよい。
【0030】
被塗面21の塗装は、スプレーガン1と被塗面21との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制した状態で、帯電した塗料をスプレーガン1から吐出させて被塗面21に塗布する。
【0031】
スプレーガン1と被塗面21との間での静電界の発生とフリーイオンの発生とは、外部に露出するコロナ放電極を有さないスプレーガン1を用いて、高電圧直接印加電極31から高電圧を直接印加して塗料をマイナスに帯電させ、帯電した塗料を塗布することによって抑制される。
【0032】
このように、スプレーガン1と被塗面21との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制した状態で、帯電した塗料をスプレーガン1から吐出させる点において、本実施形態の静電塗装は、従来の一般的な静電塗装とは本質的に相違する。
【0033】
従来の一般的な静電塗装では、コロナピンを有するスプレーガンが使用される。コロナピンの先端は、コロナ放電して空気をイオン化するとともに、導電性の被塗面21との間に静電界を形成する。コロナ放電によってイオン化した空気は、形成された静電界に沿って飛行する。スプレーガンは、エア霧化した塗料粒子を静電界に吐出する。吐出された塗料粒子は、イオン化した空気から電荷が与えられて帯電し、静電界に沿った引力を受けながら被塗面21に塗着する。この際、イオン化した空気のうち、塗料粒子に電荷を与えなかった空気はフリーイオンと呼ばれ、形成された静電界に主に支配された軌道に沿って飛行する。形成される静電界は、被塗面21の凸部25に対する電界強度が強く、凹部24に対する電界強度が弱くなる。このため、塗料粒子は、凸部25には過剰に塗着し易く、凹部24には入り込み難くい。
【0034】
これに対し、本実施形態の静電塗装では、スプレーガン1と被塗面21との間での静電界(マクロな静電界)の発生を抑制しているので、マイナスに帯電してスプレーガン1からエア霧化されて吐出した塗料粒子は、静電界に沿って飛行せず、慣性と空気流に沿って飛行して被塗面21に近づく。塗料粒子が被塗面21の直近に達すると、ミラー効果によって、被塗面21の近傍でミクロな静電界が発生し、その静電引力によって塗料粒子が被塗面21に塗着する。すなわち、慣性と空気流に沿って飛行して被塗面21に近づいた塗料粒子が、被塗面21の近傍で発生するミクロな静電界の静電引力によって被塗面21に塗着するので、凹部24への塗料の入り込み性が向上する。従って、凹部24と他の部分(凸部25を含む)とを同等に塗装することができ、塗装品質の向上(塗装膜厚の均一化)を図ることができる。また、凹部24への入り込み性の向上によって、塗装効率の向上(塗装時間の短縮化)及び塗装塗着効率の向上(塗料使用量の低減化)を図ることができる。
【0035】
また、フリーイオンの発生が抑制されるので、静電スパークの発生が抑制され、安全性が向上する。
【0036】
<効果確認実験1>
次に、効果確認実験1について説明する。
【0037】
本実験では、エアレスマニュアル塗装(非静電塗装)と本発明の静電塗装とを比較した。なお、静電塗装塗において、塗料に印加した高電圧は55kVであり、塗料の体積固有抵抗値は1MΩcmである。
【0038】
エアレスマニュアル塗装では、塗装時間が180秒であり、塗装膜厚が40〜80μmの範囲でばらつき、塗着効率は50%未満であった。
【0039】
これに対し、静電塗装では、塗装時間が90秒に短縮され、塗装膜厚が40〜50μmの範囲に均一化され、塗着効率は73%であり、塗装効率の向上(塗装時間の短縮化)、
塗装品質の向上(塗装膜厚の均一化)及び塗装塗着効率の向上(塗料使用量の低減化)が確認された。
【0040】
<効果確認実験2>
次に、効果確認実験2について説明する。
【0041】
本実験では、被塗物として表面に凹凸を有する500ccのペットボトルを使用し、ペットボトルの表面全域をアルミ箔で覆うことによって凹凸を有する導電性の被塗面を形成し、レシプロケータに取り付けた静電塗装用の自動スプレーガンを、縦方向に3往復レシプロさせ、ペットボトルの範囲でのみ塗料を吐出させて静電塗装を行い、塗着効率を測定した。塗料は、体積固有抵抗値が異なる6種類の低抵抗塗料(1MΩcm、5MΩcm、20MΩcm、49MΩcm、103MΩcm、193MΩcm)を使用した。塗料に印加した高電圧は55kV(静電)であり、比較のため0kV(非静電)での塗装も行った。
【0042】
効果確認実験3の結果を、図3に示す。この結果から、塗料の体積固有抵抗値は、100MΩcm以下が好ましく、50MΩcm以下が好適であり、20MΩcm以下がさらに好適であることが判る。
【0043】
<効果確認実験3>
次に、効果確認実験3について、図4〜図8を参照して説明する。この実験では、高電圧直接印加電極31との接触によって印加された塗料の状態を観察した。
【0044】
図4〜図8は、ガン本体の塗料霧化部であるエアキャップ7からのエアの噴射を完全に停止し、印加電圧を60kVに固定し、塗料の体積固有抵抗値を変更して塗料を吐出口12から水鉄砲状に吐出させた様子を撮影した写真である。図4は200MΩcm、図5は100MΩcm、図6は50MΩcm、図7は20MΩcm、図8は10MΩcmである。
【0045】
これらの図から明らかなように、200MΩcm(図4)のときの塗料液糸は、水鉄砲状の液糸であるのに対し、100MΩcm(図5)のときの塗料液糸では、吐出後数cm先で液糸が静電反発を起こして棘状に分裂霧化していることが確認された。また、棘状の分裂霧化は、塗料の体積固有抵抗値が低くなるほど、塗料液糸内の電圧降下が小さくなって実効電圧が上昇することにより早期に発生し、棘状も顕著化することが確認された。
【0046】
なお、上記実施形態では、塗料に高電圧を直接印加してマイナスに帯電させる静電塗装用ガンとして、エアスプレータイプのスプレーガン1を説明したが、本発明の静電塗用ガンはこれに限定されるものではなく、塗料に高電圧を直接印加してマイナスに帯電させるための内部構造とフリーイオン発生する高電圧印加導電体(コロナ電極ピン、金属ベルカップ、金属スプレーキャップ、金属スプレーノズルなど)を絶縁体化した構造を有するエアレススプレーガンや回転霧化ガンであってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、塗装装置側の電極を陰極として塗料粒子をマイナスに帯電させる場合について説明したが、塗装装置側の電極を陽極として塗料粒子をプラスに帯電させてもよい。
【0048】
また、被塗面21は、図1に2点鎖線で示すように、非導電性樹脂などからなる弱導電性又は絶縁性の領域(非導電性領域)26を含んでいてもよい。なお、図1では、導電性の被塗面を部分的に非導電性の樹脂板で覆い、樹脂板の外面を被塗面21の一部とした例を図示している。
【0049】
本発明の静電塗装方法では、マクロな電界の形成及びフリーイオンの発生が抑制されているため、被塗面21に到達するイオン量が低減し、非導電性領域26の帯電が抑制される。更に低抵抗塗料が塗布されることで非導電性領域26の帯電を低レベルに維持することができ、良好な静電塗装を継続して行うことができる。すなわち、被塗面21に導電性領域と非導電性領域26とが混在している場合であっても、両者を同一の工程内で同等に塗装することができる。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、上記実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、導電性の被塗面の静電塗装に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:スプレーガン(吐出元、静電塗装用ガン)
2:ガン本体
3:ペイントノズル
4:エアキャップ
5:カスケード(高電圧発生装置)
10:孔(塗料供給路)
12:吐出口
20:被塗物
21:被塗面
23:接地部
24:凹部
25:凸部
26:非導電性領域
31:高電圧直接印加電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗面を塗装する静電塗装方法であって、
前記被塗面は、導電性を有する領域を含み、
吐出元と前記被塗面との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制した状態で、帯電した塗料を前記塗料吐出元から吐出させて前記被塗面に塗布する
ことを特徴とする静電塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の静電塗装方法であって、
前記被塗面は、弱導電性又は絶縁性を有する領域を含む
ことを特徴とする静電塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の静電塗装方法であって、
高電圧電極から高電圧を塗料に直接印加して帯電させ、帯電した塗料を前記吐出元から吐出させることによって、前記吐出元と前記被塗面との間での静電界の発生を抑制し且つフリーイオンの発生を抑制する
ことを特徴とする静電塗装方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の静電塗装方法であって、
前記塗料の体積固有抵抗値は、100MΩcm以下である
ことを特徴とする静電塗装方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の静電塗装方法において前記吐出元として使用する静電塗装ガンであって、
塗料が流通する塗料供給路と、
前記塗料供給路に設けられ、該塗料供給路を流通する塗料に高電圧を直接印加して塗料を帯電させる高電圧電極と、
前記塗料供給路の先端に設けられ、帯電した塗料を外部へ吐出する吐出口と、を備えた
ことを特徴とする静電塗装用ガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−66817(P2013−66817A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205203(P2011−205203)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】