説明

静電塗装用スプレーガン

【課題】電気抵抗の低い塗料を使用する静電塗装に適したコンパクトなエアスプレー方式の静電塗装用スプレーガンを提供する。
【解決手段】前部が略円柱状に形成したバレル(2)の前端部に、先端に塗料吐出口(32)を有する絶縁材料製の塗料ノズル(30)を取り付ける。塗料ノズルとバレルの前端面を覆い、中央部には塗料吐出口を挿通させると共にその塗料吐出口から吐出される塗料を霧化する圧縮空気を噴出させる霧化エア噴出口(33)を兼ねる円筒状電極(55)が取り付けた絶縁材料製のエアキャップ(50)を取り付ける。塗料吐出口から前方に突出するピン電極(35)を取り付け、ピン電極を接地してピン電極と円筒状電極との間に直流高電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装用スプレーガンに関し、特に電気抵抗が比較的低い水系塗料、メタリック系塗料を使用する静電塗装に適した静電塗装用スプレーガンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体等の静電塗装に用いられる塗料には、電気抵抗の比較的高い溶剤系塗料(油性塗料)、電気抵抗の比較的低い水系塗料(水性塗料)、及びこれらに金属粉末を分散させたメタリック系塗料とがある。このうち電気抵抗の比較的低い水系塗料、メタリック系塗料を用いて静電塗装する場合には、これら塗料と接触する静電塗装ガン本体の荷電電極に直接高電圧を印加したのでは、塗料供給経路を通して接地された塗料タンクに電流が流れてしまう。このため荷電電極と被塗物との間に高電圧を印加できないため放電が生ぜず、霧化させた塗料粒子を帯電させることができない。
【0003】
この問題を解決する従来技術としては、例えば、塗料タンクを接地から電気的に絶縁する方法がある。この方法によれば、静電塗装ガン本体の荷電電極と被塗物との間に高電圧を印加できるため塗料粒子を帯電させることができる。しかし、塗料タンクに高電圧を印加するため塗料を補充する際には塗装作業を中断するか、あるいは塗料タンクと電気的絶縁を保った状態で補充を行なう特別の塗料補充装置(例えば、特許文献1参照)を必要とする不便さがある。
【0004】
別の解決手段として、静電塗装ガン本体よりも径方向外側位置に1ないし複数本の外部電極を配置し、これに高電圧を印加する外部電極方式と呼ばれる方式がある。この方式には、静電塗装ガン本体における塗料の霧化に回転霧化頭を用いる方式(例えば、特許文献2参照)と、圧縮空気を用いるエアスプレー方式(例えば、特許文献3参照)とがある。両方式とも高電圧を印加する外部電極は電気抵抗の低い塗料と接触することがないため、塗料タンクを接地した状態で塗料粒子を帯電させることができる。従って、塗料タンクへの塗料の補充に特別の装置を必要とせず連続塗装が可能である。しかし、外部電極方式の場合には静電塗装ガン本体の外側に外部電極を取り付けるため静電塗装ガンが大型となる上、高電圧の印加された電極が本体外部に存在するため危険性が高い。また、霧化された塗料粒子が静電気力により外部電極付近あるいは静電塗装ガン本体周りに付着し易いという問題もある。
【0005】
このような外部電極式の問題点を避けるため本出願の発明者らは、静電塗装ガン先端の塗料吐出口から突出させたピン電極と、静電塗装ガンの前端面に取り付けたエアキャップ内側のパターンエア流路内に収納した電極との間に高電圧を印加して塗料を帯電させる方式のエアスプレー式静電塗装ガン(特許文献4、5参照)を開発し、技術を開示してきた。
【特許文献1】特開2002−143730号公報
【特許文献2】特開平06−134353号公報
【特許文献3】特開平09−136047号公報
【特許文献4】特願2003−87882号
【特許文献5】特願2003−399464号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる背景からなされたもので、その課題は、比較的電気抵抗の低い水系塗料、メタリック系塗料を用いた静電塗装に使用することができるエアスプレー方式の静電塗装ガンであって、塗料タンクを接地して塗装することができ、且つ、本体外側に電極を設けないコンパクトな構造の静電塗装用スプレーガンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための請求項1に記載の発明は、圧縮空気で霧化した塗料を高電圧を使用して帯電させ被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン(1)であって、前部が略円柱状に形成されたバレル(2)と、該バレルの前端部に取り付けられ先端に塗料吐出口(32)を有する絶縁材料製の塗料ノズル(30)と、該塗料ノズルと前記バレルの前端面を覆い、中央部には前記塗料吐出口を挿通させると共に該塗料吐出口を通って吐出される塗料を霧化する圧縮空気を噴出させる霧化エア噴出口(33)を兼ねる円筒状電極(55)を取り付けた絶縁材料製のエアキャップ(50)と、前記塗料吐出口から突出するピン電極(35)と、を備え、該ピン電極を接地して前記円筒状電極に直流高電圧を印加するようにしたことを特徴とする静電塗装用スプレーガンである。
【0008】
このような構成の静電塗装用スプレーガンよれば、電気抵抗の低い塗料を用いた静電塗装を行なうことができる。加えてこの構成によれば、高電圧が印加される円筒状電極が塗料ノズルとバレルの先端部を覆うエアキャップの中央付近に取り付けられているために、バレルの外側に電極を取り付ける外部電極式のガンに比べて装置が小型になる利点がある。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記エアキャップの内面と前記塗料ノズルの外周面との間に圧縮空気を供給するパターンエア流路(54)を形成すると共に、前記エアキャップの左右両端部から前方に突出し該パターンエア流路に連通して圧縮空気を斜め内側前方に噴出させるパターンエア噴出孔(61)を穿設した一対の角部(60)を設けたことを特徴とする。
【0010】
このような構成によって噴出されるパターンエアは、霧化された塗料粒子の噴霧パターンを塗装に適した楕円形ないし小判形に形成する効果がある。また、このパターンエアは、帯電した塗料粒子を被塗物近くまで搬送する働きをすると同時に、エアキャップ表面に付着する塗料粒子を減少させる効果も奏する。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記塗料ノズルは塗料を霧化する前記圧縮空気を供給する霧化エア流路(36)を内部に有し、前記円筒状電極(55)の外側の前記エアキャップ部に該霧化エア流路に連通して圧縮空気を噴出させる複数の副霧化エア噴出孔(56)を穿設したことを特徴とする。
【0012】
このような構成によって副霧化エア噴出孔から噴出される圧縮空気は、塗料の霧化を助けると同時に、帯電した塗料粒子がエアキャップ表面や円筒状電極に付着するのを妨げる効果を奏する。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記円筒状電極(55)への給電は、前記バレル(2)の前面部に設けた高電圧供給端子(13)から前記エアキャップ内部を通って該円筒状電極に至る導体線(65)にて行なうことを特徴とする。
このような構成によれば、高電圧が印加された導体線がエアキャップ内を通ることにより安全性が増すと同時に安定して保持される効果を奏する。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記ピン電極(35)を塗料の有する導電性を利用して接地するようにしたことを特徴とする。
このような構成とすれば、ピン電極から接地までの接地線を必要としない効果を奏する。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記ピン電極(35)を接地線を介して接地するようにしたことを特徴とする。
このような構成とすれば、導電性を有しない塗料を用いた静電塗装も可能となる効果を奏する。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガンにおいて、前記ピン電極(35)を無くし、前記塗料吐出口(32)から吐出され塗料を、その塗料の有する導電性を利用して接地するようにしたことを特徴とする。
このような構成としても霧化される塗料は帯電される。従って、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る静電塗装用スプレーガン(以下、単にスプレーガンという)の第1の実施形態について図1〜図5を参照しながら説明する。本実施形態のスプレーガン1は、塗料として電気抵抗の低い水系塗料又はメタリック系塗料を主に使用することを目的とするものである。図1に本実施形態のスプレーガン1の全体構造の縦断面図を、図2にその先端部分の縦断面図を、図3には先端のピン電極35付近の拡大縦断面と塗料、圧縮空気の流れを示す説明図を、図4には先端エアキャップ50の斜視図を、図5には電極の位置関係を表わす斜視図を示す。
【0018】
本スプレーガン1は、ガン本体であるバレル(銃身)2とその後端部に設けたグリップ3とから構成される。バレル2は絶縁性の合成樹脂材料からなり全体として略円柱状をなしている。本スプレーガン1は高電圧発生回路内蔵型のスプレーガンであって、バレル2内の上部に高電圧発生に必要な昇圧トランスと高電圧整流回路とを一体にモールドした前後方向に長いカスケード4が収納してある。その電源としての高周波電圧はグリップ3の下部に取り付けた電源コネクタ5から取り入れられ、グリップ3内の図示しない配線ケーブルを通ってカスケード4内の昇圧トランスに供給される。供給された高周波電圧は昇圧トランスで昇圧され、コッククロフト−ウォルトン型倍電圧整流回路を使用した高電圧整流回路により整流と同時に昇圧され数千〜数万Vの直流高電圧を発生させる。
【0019】
発生した直流高電圧は、カスケード4前端の出力端子6からそれに接触する導電性のスプリング7を介し、その前部のバレル2内に穿設された孔に螺合する円柱状の導電性接触子8の後端側に導かれる。そして、接触子8の前端側から別の導電性スプリング9にて取り出される。スプリング9の前端側には、バレル2の前端面から穿設された穴に螺合して円柱状の抵抗保持体10が取り付けられている。スプリング9はその後端側に穿設された穴に前端部が挿入され、該穴に挿入された高抵抗体11を奥端部に付勢すると同時に高電圧を高抵抗体11の後端端子に導く。高抵抗体11の前端端子は、穴の奥端部から抵抗保持体10を貫通する導体棒12に接触している。導体棒12の先端側は、抵抗保持体10の前端に取り付けた高電圧供給端子13につながっている。このようにして発生した高電圧は、電流制限用の高抵抗体11を通り高電圧供給端子13に供給される。
【0020】
塗料は、塗料タンク(図示せず)より塗料ホース(図示せず)にてグリップ3の下部に取り付けた塗料ホース用ジョイント15に供給される。そこから塗料チューブ16を通り塗料バルブ20の弁室21に導かれる。塗料バルブ20は、バレル2の前端中央部に設けた取り付け凹部22の奥端中央部からバレル2内を後端側に向けて穿設されたガイド孔23内に設けられている。塗料バルブ20は、弁室21とニードル24とガイド孔23と弁口25とパッキン26とを備えて構成されている。ニードル24は、前端部がテーパ状をなし弁室21を前後方向に貫通している。ガイド孔23は、ニードル24における弁室21よりも後方の部分を前後方向に移動可能に案内する。弁口25は、塗料バルブ20の前端に固定された後述する塗料ノズル30と弁室21との間を連通させるとともにニードル24のテーパ状前端部が当接、離間することによって開放、閉塞される。パッキン26は、弁室21とガイド孔23との間に装着されてニードル24の外周に対して液密状態に密着されている。
【0021】
塗料バルブ20内のニードル24は、バレル2の後端部に設けた復帰バネ69の付勢により常には弁口25を閉塞する閉弁状態に保持され、供給された塗料の塗料ノズル30への吐出を阻止している。ニードル24はトリガ68が引かれている間のみ復帰バネ69に抗して後退し、弁口25が開放されて塗料バルブ20は開弁状態となる。塗料バルブ20が開弁すると弁室21内に供給されていた塗料は、塗料バルブ20の前方に取り付けられた塗料ノズル30内に吐出される。
【0022】
バレル2の前端部にはその前端面中央を切欠した形態の断面円形の取り付け凹部22が形成されており、この取り付け凹部22の内周に絶縁性合成樹脂材料からなる塗料ノズル30がその後端部を螺合し前端部を取り付け凹部22から前方に突出した形態で固定されている。
塗料ノズル30の前後両端面間を貫通する中心孔は塗料流路31として前記弁口25に連通している。塗料ノズル30の前端、即ち塗料流路31の前端にあたる部分は小径に突出形成され、塗料吐出口32として後述のエアキャップ50の霧化エア噴出口33より外部に開口した状態で挿通されている。塗料バルブ20から供給された塗料は、塗料流路31を通り塗料吐出口32から前方に吐出される。
【0023】
塗料吐出口32には、その内径よりも細いピン電極35が前方に突出して挿通されている。ピン電極35の後端側はコイル状スプリングに形成されて塗料流路31内に収納されており、そのスプリングの付勢によりピン電極35を前方に突出した状態で保持している。本実施形態では塗料として電気抵抗の比較的低い水系塗料、メタリック系塗料を使用する。ピン電極35はその塗料の導電性により図示しない接地された塗料タンクと電気的につながり接地電位に維持される。
【0024】
塗料ノズル30の内部には、塗料流路31と同心円状に配された複数の霧化エア流路36が塗料ノズル30の前後両端面間に貫通する孔状に形成されている。霧化エア流路36の前端は、塗料ノズル30の前端面とエアキャップ50の裏面とによって囲まれた環状の霧化エア流路37に連通している。
【0025】
塗料ノズル30の前端部は、エアキャップ50により覆われている。塗料ノズル30の前端外周部は前端側に向けて大径の円環状に突出しており、この環状突出部38はエアキャップ50内面の凹陥部51と嵌合している。この状態でエアキャップ50は、バレル2の前端外周縁から前方に突出して形成された円筒部52の外周面に螺合するリテイニングナット53により塗料ノズル30に押しつけられた状態で固定されている。この結果としてエアキャップ50の内面、塗料ノズル30の外周面、円筒部52の内周面、バレル2の前端面とによって囲まれた環状の空隙が形成される。この空隙はパターンエア流路54として利用される。
【0026】
エアキャップ50の中央部には霧化エア噴出口33を形成するように円筒状電極55が嵌め込まれている。即ち、図3に示すようにエアキャップ50の中央部に円筒状電極55が嵌め込まれ,その内側が霧化エア噴出口33となっている。そして、その霧化エア噴出口33には前述した塗料ノズル30先端に形成された小径の塗料吐出口32が挿通され、さらにその塗料吐出口32にはピン電極35が前方に突出して挿通されている。霧化エア噴出口33は前記環状の霧化エア流路37に連通しており、霧化エア流路36を通って供給される圧縮空気を前方に噴出させる。
【0027】
また、円筒状電極55の外側部には同じく環状の霧化エア流路37に連通する複数の副霧化エア噴出孔56が穿設されており、霧化エア流路36から供給される圧縮空気を斜め内側前方に向かって噴出させる。
前記円筒状電極55は、図5の電極の位置関係を示す斜視図に示すように、エアキャップ50内部を通る導体線65によって抵抗保持体10の前面部に設けられた高電圧供給端子13につながれている。即ち、円筒状電極55には、高電圧発生回路で発生した直流高電圧が印加される。
【0028】
更に、エアキャップ50の表面両端部からは左右方向に対向し且つ前方に突出した一対の角部60が形成されている。各角部60には前記パターンエア流路54に連通したパターンエア噴出孔61が複数(図2、図4では左右に2個ずつ)形成されており圧縮空気であるパターンエアを斜め内側前方に向けて噴出させる。
霧化エア及びパターンエア用の圧縮空気は、図示しない圧縮空気発生装置から高圧エアホースによりグリップ3下部に取り付けたエアホースジョイント71に供給される。圧縮空気はここからグリップ3内のエア流路72を通り、バレル2後端部に設けられたエアバルブ73に導かれる。
【0029】
エアバルブ73は、ニードル24と一体に前後移動する弁体74により供給された圧縮空気を開閉する。塗料バルブ20が開弁するとエアバルブ73も開弁し、塗料バルブ20が閉弁するとエアバルブ73も閉弁する。エアバルブ73が開弁すると圧縮空気はバレル2内に設けられた霧化エア供給路75、パターンエア供給路76を通ってそれぞれ塗料ノズル30後端の環状の霧化エア流路77と、環状のパターンエア流路54に供給される。環状の霧化エア流路77は霧化エア流路36に連通して霧化エアを供給する。
【0030】
次に、このように構成した本実施形態のスプレーガン1の作用について説明する。トリガ68が引かれると塗料バルブ20が開弁して塗料ホース用ジョイント15から供給された塗料が塗料流路31に吐出され、塗料ノズル30前端の塗料吐出口32からピン電極35の表面を伝って皮膜状に吐出される。同時にカスケード4内の高電圧発生回路に高周波電圧が供給され、高電圧整流回路により発生した数千〜数万Vの直流高電圧が高抵抗体11、導体棒12、高電圧供給端子13、導体線65を介して円筒状電極55に供給される。
【0031】
ピン電極35は塗料の導電性を利用して接地されているため、ピン電極35の表面からは高電圧が印加された円筒状電極55に向かう強い電界が発生する。これによりピン電極35の表面を伝う導電性を有する塗料の表面には、円筒状電極55の高電圧の極性とは反対極性の電荷が大量に誘起される。
また、トリガ68が引かれると同時に霧化エア流路75を通った圧縮空気が、霧化エア噴出口33を通り前方に噴出される。この霧化エアは、ピン電極35の表面を伝う塗料に衝突し霧吹きの原理により塗料を霧化させる。この霧化エアの噴出と同時に副霧化エア噴出孔56からも霧化エア流路36から供給される圧縮空気が噴出される。この圧縮空気もまた塗料の霧化に補助的役割を果たす。
【0032】
このようにして霧化される塗料粒子は、ピン電極35の表面に接触していた時に誘起された電荷を持ったまま空中に飛び出す。即ち、霧化された塗料粒子は円筒状電極55の極性とは反対極性に帯電している。
他方、パターンエア流路54に供給された圧縮空気は、パターンエアとして左右の角部60に設けられたパターンエア噴出孔61から斜め内側前方に向けて勢い良く噴出される。このパターンエアは、霧化された塗料粒子の噴霧パターンを塗装に適した楕円形ないし小判形に形成する。なお、この噴霧パターンの形成には前記副霧化エア噴出孔56から噴出される圧縮空気も補助的役割を果たす。
【0033】
塗料粒子は、主としてこのパターンエア及び霧化エアによって被塗物近傍まで搬送される。帯電した塗料粒子が被塗物に近づくと、静電誘導により接地された被塗物の表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。すると、誘起された反対極性電荷と帯電した塗料粒子との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗物に向かう吸引力を受ける。この吸引力とパターンエア及び霧化エアによる吹きつけ力との双方の力により塗料粒子は被塗物表面に塗着される。静電気力による吸引力が働くため塗料粒子は被塗物の裏側にも回り込み、スプレーガン1に面しない被塗物の裏側にも塗料が塗着される。以上のような作用により被塗物に静電塗装が行なわれる。
【0034】
なお、本実施形態の場合、ピン電極35先端には電気力線が集中して高電界となるためピン電極35先端部で放電が生ずることがある。この放電が生ずるとピン電極35先端付近にイオン化圏域が形成されるため、霧化された塗料粒子はこのイオン化圏域から電荷を受け取りその電荷量や極性が変化することが起こる。静電誘導による帯電と放電により形成されたイオンによる帯電との双方が関係するため霧化された塗料粒子の帯電のメカニズムは非常に複雑である。いずれにしてもパターンエア噴出孔61から噴出されるパターンエアがかなり強力であるため、霧化された塗料粒子は主としてこのパターンエアの搬送力により被塗物近傍まで搬送される。そして静電気力による吸引力とパターンエアによる吹きつけ力との双方の力により被塗物に塗着される。
【0035】
このようにして本実施形態のスプレーガン1によれば、電気抵抗の低い塗料を用いた静電塗装を行なうことができる。しかも、本実施形態のスプレーガン1では、高電圧が印加される円筒状電極55が塗料ノズル30とバレル2の先端部を覆うエアキャップ50の中央付近に取り付けられているために、バレル2の外側に電極を取り付ける外部電極式のガンに比べて装置が小型になる利点がある。また、高電圧が加わる円筒状電極55と接地されたピン電極35の間隔が狭いために比較的低い電圧で強い電界を発生させることができる。その発生した電界の電気力線は、大部分が円筒状電極55とピン電極35との間に存在し、絶縁材料製のエアキャップ50を通過する電気力線は少ない。従って、絶縁材料が分極を起こしてエアキャップ50の表面に分極電荷が生ずることが少なくなり、加えてパターンエアが塗料粒子を前方に搬送するために、帯電した塗料粒子がエアキャップ50の表面に付着することが少なくなる。更に、円筒状電極55の内側からは霧化エアが前方に噴出し、その外側の副霧化エア噴出孔56からも斜め内側前方に副霧化エアが噴出しているために、帯電した塗料粒子が円筒状電極55の表面に付着することも少なくなる。
【0036】
(第2の実施形態)
図6に、第2の実施形態に係るスプレーガン1aの先端部分の縦断面図を示す。本実施形態の構成が第1の実施形態と異なる点は、ピン電極35が設けられていない点のみである。一般に電気力線は、尖った部分、細い部分から多く生じその付近の電界強度は強くなる。この点からいえば細いピン電極35を塗料吐出口32内から前方に向けて突出させることが好ましい。しかし、そのようなピン電極35がなくても塗料自体が導電性を有し、接地電位に保たれているので静電誘導により塗料は帯電した状態で霧化され得る。従って、第1の実施形態と同様にして静電塗装が可能であり、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
(変形実施形態)
これまでの実施形態ではピン電極35あるいは塗料ノズル30内の塗料を、塗料の有する導電性を利用して接地してきたが、代わりにピン電極35または塗料ノズル30内と接地とを結ぶ接地線を設けて接地するようにしてもよい。そのようにすれば導電性を有しない塗料、導電性の低い塗料を使用した静電塗装も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態に係るスプレーガンの全体構造の縦断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るスプレーガンの先端部の縦断面図である。
【図3】第1の実施形態に係るスプレーガン先端部の拡大縦断面と塗料、圧縮空気の流れを説明する図である。
【図4】第1、第2の実施形態に係る先端エアキャップの斜視図である。
【図5】第1の実施形態に係る電極の位置関係を表わす斜視図である。
【図6】第2の実施形態に係るスプレーガンの先端部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
図面中、1、1aは静電塗装用スプレーガン、2はバレル、13は高電圧供給端子、20は塗料バルブ、30は塗料ノズル、31は塗料流路、32は塗料吐出口、33は霧化エア噴出口、35はピン電極、36は霧化エア流路、50はエアキャップ、54はパターンエア流路、55は円筒状電極、56は副霧化エア噴出孔、60は角部、61はパターンエア噴出孔、65は導体線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気で霧化した塗料を高電圧を使用して帯電させ被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン(1)であって、
前部が略円柱状に形成されたバレル(2)と、
該バレルの前端部に取り付けられ先端に塗料吐出口(32)を有する絶縁材料製の塗料ノズル(30)と、
該塗料ノズルと前記バレルの前端面を覆い、中央部には前記塗料吐出口を挿通させると共に該塗料吐出口を通って吐出される塗料を霧化する圧縮空気を噴出させる霧化エア噴出口(33)を兼ねる円筒状電極(55)を取り付けた絶縁材料製のエアキャップ(50)と、
前記塗料吐出口から突出するピン電極(35)と、を備え、
該ピン電極を接地して前記円筒状電極に直流高電圧を印加するようにしたことを特徴とする静電塗装用スプレーガン。
【請求項2】
前記エアキャップの内面と前記塗料ノズルの外周面との間に圧縮空気を供給するパターンエア流路(54)を形成すると共に、前記エアキャップの左右両端部から前方に突出し該パターンエア流路に連通して圧縮空気を斜め内側前方に噴出させるパターンエア噴出孔(61)を穿設した一対の角部(60)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記塗料ノズルは塗料を霧化する前記圧縮空気を供給する霧化エア流路(36)を内部に有し、前記円筒状電極(55)の外側の前記エアキャップ部に該霧化エア流路に連通して圧縮空気を斜め内側前方に噴出させる複数の副霧化エア噴出孔(56)を穿設したことを特徴とする請求項1又は2に記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項4】
前記円筒状電極(55)への給電は、前記バレル(2)の前面部に設けた高電圧供給端子(13)から前記エアキャップ内部を通って該円筒状電極に至る導体線(65)にて行なうことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項5】
前記ピン電極(35)を塗料の有する導電性を利用して接地するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項6】
前記ピン電極(35)を接地線を介して接地するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項7】
前記ピン電極(35)を無くし、前記塗料吐出口(32)から吐出される塗料を、その塗料の有する導電性を利用して接地するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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