説明

静電塗装装置

【課題】スプレーガンと被塗物の距離が離れているとき、塗料粒子の帯電を減らし、作業者やスプレーガンへの塗料粒子の付着を防止できる静電塗装装置を提供する。
【解決手段】静電塗装装置1は、スプレーガン2と、このスプレーガン内に設けられ直流の高電圧を発生するカスケード3と、制御部13と、このカスケード3流れる電流を検出する電流検出回路14とを備え、制御部13は検出電流値を順次取得して検出電流値の変化率を算出し、検出電流値の変化パターンが基準パターンを示したときに、この変化パターンに基づいて電流基準値を設定して記憶し、カスケード3が連続出力モード状態であるときに検出電流が設定された電流基準値未満となったときに間欠出力モードに切り替え、間欠出力モード状態であるときに検出電流が設定された電流基準値以上となったときに連続出力モードとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の微粒子を負又は正の高電圧に帯電させて噴霧する構成の静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装装置では、スプレーガンに供給された塗料(溶剤塗料、水性塗料などの液体塗料や粉体塗料)は、作業者がトリガを引くことで、圧縮空気により霧化され、微粒子として塗装対象である被塗装物に噴霧される。このとき、霧化された塗料の微粒子(以下、塗料粒子と称する)は、スプレーガン内に設けられた直流高電圧発生部(カスケード)により負又は正の高電圧に帯電され、大地に接地(アース)された被塗装物との間に作用する静電気力によって被塗装物の表面に塗着する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−82064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した静電塗装装置では、作業者が前記スプレーガンのトリガを引くことで、高電圧を発生させると共に塗料を霧化し噴射し、そして作業者がスプレーガンを被塗装物に向けることで当該被塗装物に対して静電塗装を行う。
【0005】
ところで、被塗装物をむらなくに塗装するには、スプレーガンから帯電させた塗料粒子を噴射させた状態(トリガを引いた状態)で、当該スプレーガンを、被塗装物から離れた一方の位置から被塗装物に近づけて適正距離を保ちつつ、該被塗装物に塗料粒子を噴射しながらほぼ一定速度で移動させ、そして被塗装物の他方側の離れた位置まで移動させることを順次まんべんなく行うようにしている。
【0006】
しかし、スプレーガンが被塗装物から離れてしまうと、噴霧された帯電塗料粒子の付着先である被塗装物が遠くなるため、浮遊した帯電塗料粒子が僅かに作業者やスプレーガン自体に戻って付着することがある。この付着塗料が蓄積されると作業者やスプレーガンから当該塗料が液状となって垂れ、被塗装物に液塊塗料が付着するおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明者は、スプレーガンと被塗装物との距離を検出して、スプレーガンと被塗装物との距離が所定距離以上離れたときには、塗料粒子が作業者やスプレーガンに再付着しないようにするための付着防止処理例えば直流高電圧発生部の高電圧出力を間欠出力モードにする処理を行うことを考えている。
【0008】
ここで、前記直流高電圧発生部は前記被塗装物に対するスプレーガンの離間距離が遠くなると当該直流高電圧発生部自体の出力電流が減少することが判っており、この現象を利用して、前記電流を予め設定した電流基準値以上か未満かでスプレーガンと被塗装物との離間距離が接近した距離(塗装状態にある距離)であるか、塗料粒子が作業者やスプレーガンへ付着する距離(スプレーガンが被塗装物から遠い距離)であるかを検出することが可能である。
【0009】
ところが、前記直流高電圧発生部に流れる電流は、出力電圧や、塗装環境(温度や湿度)、塗料の種類などによって変わるものであり、前記電流基準値は、これら出力電圧や塗装環境さらには塗料の種類といった諸条件ごとに、予め実験して設定する必要があり、そして、実際の塗装に先立って、上記諸条件に合わせて前記電流基準値を入力しなければならず、当該電流基準値の設定及び入力が極めて難しいといった不具合がある。
【0010】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業者やスプレーガンに対して塗料粒子が付着するおそれがあるスプレーガン・被塗装物間距離を判定するための電流基準値を、直流高電圧発生部の出力電圧や塗装環境さらには塗料の種類といった諸条件に自ずと合うように、簡単に且つ自動的に設定することができ、そして、この設定に引き続いてこの電流基準値を用いて作業者やスプレーガンへの塗料粒子の付着防止のための処理を自動的に行うことができる静電塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の点に着目してなされている。静電塗装装置においては、前述したように、スプレーガンから帯電させた塗料粒子を噴射させた状態(トリガを引いた状態)で、当該スプレーガンを、被塗装物から離れた一方の位置から被塗装物に近づけて適正距離を保ちつつ、該被塗装物に塗料粒子を噴射しながらほぼ一定速度で移動させ、そして被塗装物の他方側の離れた位置まで移動させることを順次まんべんなく行う。このような塗装操作形態では、直流高電圧発生部の出力電流は、最初は小さく、スプレーガンが被塗装物に近づいたところで大きく変化(急増)する。又、スプレーガンが被塗装物から離間するときにも大きく変化(急減)する。この場合、出力電流の電流値自体は、前述の諸条件で異なるが、当該電流の変化パターンは、諸条件が異なってもさほど異なるものではない。つまり、参考図として示す図7のように、スプレーガンを、トリガオンして被塗装物に対して矢印方向へ操作すると、直流高電圧発生部の出力電流は、最初(被塗装物から遠い)漸増もしくは略一定となり(相対的な電流変化率は微小)、次に被塗装物に近づくと急に変化し(相対的な電流変化率は急増)、被塗装物と正対して塗装している距離となると略一定(相対的な電流変化率は微小)となる。従って、出力電流が最初(被塗装物から遠い)に漸増もしくは略一定となる箇所の電流値と、次に略一定となる箇所の電流値との間に電流基準値を設定すれば、作業者やスプレーガンに対して塗料粒子が付着するおそれがあるスプレーガン・被塗装物間距離と、スプレーガンが被塗装物に接近するもしくは接近したスプレーガン・被塗装物間距離とを区別(判定)するための電流基準値として適正であることが判る。なお、作業者個々においては操作速度は若干異なる(図7の時間軸が若干異なる)こともあるが、上述の出力電流の変化率のパターン、つまり最初は単位時間ごとの電流変化率が微小(一定も含む)、次は電流変化率それまでの電流変化率に対して急増、その次は電流変化率が微小(一定も含む)となるといった電流変化率のパターンは、同じである。
【0012】
上述のことを考慮した請求項1の発明は、トリガを有すると共に直流の高電圧を発生する直流電圧発生部を有するスプレーガンを備え、前記トリガをオン操作することにより塗料を微粒子化してノズルから噴霧し且つ当該噴霧される塗料を前記直流高電圧発生部により負又は正の高電圧に帯電させて、被塗装物に対して吸着させて静電塗装を行う静電塗装装置において、前記直流高電圧発生部に流れる電流の電流値を検出する電流検出手段と、前記スプレーガンと前記被塗装物との間の離間距離が所定距離以上離れたことを判定するための電流基準値を設定するための電流基準値設定手段と、記憶手段と、塗料粒子付着防止手段とを備え、前記直流電圧発生部は、前記高電圧を連続して出力する連続出力モードと、前記高電圧を所定時間幅で所定時間ごとに出力する間欠出力モードとの切替えが可能であり、前記電流基準値設定手段は、電流変化率が最初に微小で次に急増し次に微小となる基準パターンを有し、前記トリガがオン操作されると、前記前記直流高電圧発生部の電圧出力モードを連続出力モードとし、前記電流検出手段の検出電流値を順次取得して当該検出電流値の変化率を算出し、当該検出電流値の変化パターンが前記基準パターンを示したときに、前記電流変化率の最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に電流基準値を設定して記憶し、前記塗料粒子付着防止手段は、前記直流高電圧発生部が前記連続出力モード状態であるときに前記電流検出手段による検出電流が前記設定された電流基準値未満となったときに前記間欠出力モードに切り替え、当該間欠出力モード状態であるときに前記検出電流が前記設定された電流基準値以上となったときに前記連続出力モードとすることを特徴とする。
【0013】
前述したように、作業者が行う塗装形態としては、スプレーガンを被塗装物から離した位置で、トリガを引き操作(オン操作)してスプレーガンから帯電させた塗料粒子を噴射させ、当該スプレーガンを、被塗装物から離れた一方の位置から被塗装物に近づけ、正対させて適正距離を保ちつつ、該被塗装物に塗料粒子を噴射しながらほぼ一定速度で移動させ、そして被塗装物の他方側の離れた位置まで移動させることを順次まんべんなく行う。このような塗装操作形態では、直流高電圧発生部の出力電流の変化率は、最初に微小で次に急増し次に微小となる基準パターンを示すものである。
【0014】
しかるに、上述の請求項1の発明において、前記電流基準値設定手段は、前記トリガがオン操作されると、検出電流値の変化パターンが前記基準パターンを示したときに、前記電流変化率の最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に電流基準値を設定するから、スプレーガンが前記被塗装物に対する塗装位置に入ったか及びスプレーガンが被塗装物から遠くなったか(作業者やスプレーガンに塗料粒子が付着するおそれのある距離か)どうかを判定する電流基準値を、現在の諸条件(直流高電圧発生部の出力電圧や塗料の種類、環境温度、湿度など)下で設定することができ、もって、電流基準値を諸条件に自ずと合うように、簡単に且つ自動的に設定することができる。
【0015】
このようにして電流基準値が設定され記憶されると、前記直流高電圧発生部が前記連続出力モード状態であるときに前記電流検出手段による検出電流が前記電流基準値未満となったときに間欠出力モードに切り替える。つまり、被塗装物に対するスプレーガンの離間距離が遠くなったことを、検出電流が電流基準値未満となったことで検出する。そして、これに基づいて直流高電圧発生部の出力電圧を間欠出力モードに切り替える。この場合、高電圧の出力が停止されている時間帯では塗料粒子が帯電していないから作業者やスプレーガンへの塗料粒子の戻り付着は起きない。そして、高電圧が出力されている時間帯では、塗料粒子が帯電しているが、その時間を短くしておくことで塗料粒子の作業者やスプレーガンへの戻り付着を極力防止できる。そして、当該間欠出力モード状態であるときに前記検出電流が前記設定された電流基準値以上となったことをもってスプレーガンが被塗装物に近づいたことを検出でき、そしてこのときに前記連続出力モードとするから、被塗装物に対する塗装を通常の連続した高電圧で行なうことができる。
【0016】
請求項2の発明は、前記電流基準値設定手段が、前記電流変化率の最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に設定する電流基準値を前記急増パターンでの検出電流値としたことを特徴とする。これによれば、前記電流変化の急増パターン箇所は、必ず、前記電流変化率の微小パターンと次の微小パターンとの間に位置するから、適正な電流基準値を設定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作業者やスプレーガンに対して塗料粒子が付着するスプレーガン・被塗装物間距離を判定するための電流基準値を、直流高電圧発生部の出力電圧や塗装環境さらには塗料の種類といった諸条件に自ずと合うように、簡単に且つ自動的に設定することができ、そして、この設定に引き続いてこの電流基準値を用いて作業者やスプレーガンへの塗料粒子の付着防止のための処理を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態による静電塗装装置の電気的構成のブロック図
【図2】制御部の制御内容を示すフローチャート
【図3】スプレーガンと被塗装物の離間距離とカスケードに流れる電流との関係を示す図
【図4】基準パターンを示す図
【図5】被塗装物に対する塗装の様子の一例を示す図
【図6】検出電流の変化を示す図
【図7】被塗装物に対して塗装を行なう場合の直流高電圧発生部の出力電流の変化を示す参考図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図1から図6を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る静電塗装装置1の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装装置1は、スプレーガン2、このスプレーガン2に内蔵されたカスケード(本発明でいう、直流高電圧発生部に相当)3、このカスケード3に接続ケーブル4を介して接続された交流電源装置5を有する制御装置6を備えて構成されている。接続ケーブル4は、交流電圧Vacを供給するための電源ケーブル4a、4bと、電流検出回路(本発明でいう、電流検出手段)14のための電流検出ケーブル4cを備えて構成されている。
【0020】
スプレーガン2は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂などの合成樹脂により本体が形成されている。このスプレーガン2は、一般的な静電塗装に用いられる構成を備えており、ノズル2a、及びこのズル2aの近傍に設けられた霧化エア孔及びパターン形成エア孔など(いずれも図示せず)を備えている。
【0021】
さらにスプレーガン2は、内部に塗料バルブ15及びエアバルブ16を備えており、これら塗料バルブ15及びエアバルブ16は、このスプレーガン2が備えたトリガ2b(図1に概略的に示す)が引き操作されることにより開放される。前記塗料バルブ15は前記塗料ポンプ17を介して塗料タンク18に接続されている。又前記エアバルブ16は、コンプレッサ19に接続されており、該コンプレッサ19とエアバルブ16との間のエア配管経路にはエアフロースイッチ20が介在されている。
【0022】
このエアフロースイッチ20は、制御装置6に設けられており、前記エア配管経路にエアが流れると動作してエア流通検出信号つまりトリガ操作検出信号を後述の制御部13へ与えるようになっている。
【0023】
そして前記コンプレッサ19から供給された圧縮空気を霧化エア孔及びパターン形成エア孔から吐出することにより、塗料タンク18から供給された塗料を霧化するとともに、霧化した塗料粒子を塗装に適した形状(塗装パターン)に形成して噴霧する。
【0024】
前記カスケード3は、昇圧トランス3a、倍電圧整流回路3b、出力抵抗3cを備えており、前記交流電源装置5から供給される交流電圧Vacに比例した大きさの直流電圧Vdcを発生させる。すなわち、昇圧トランス3aに入力された交流電圧Vacは、昇圧された後に例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路3bにより昇圧及び整流され、60kV〜100kV程度の高電圧に変換される。この倍電圧整流回路3bは、回路内のダイオード(図示せず)の向きを変えることにより、出力電圧の極性を接地電位に対して正(プラス)、又は負(マイナス)のいずれかにすることができる。本実施形態の場合、倍電圧整流回路3bの出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されており、スプレーガン2のズル2aの近傍に設けられているピン状の電極7には、出力抵抗3cを介して負極性の直流電圧Vdc(通常の静電塗装に適した高電圧)が供給される。
【0025】
交流電源装置5は、発振回路8、直流電源9、2個のスイッチング素子10、11、出力トランス12を備えており、この交流電源装置5と制御部13とで出力モード変更手段たる出力モード変更装置21を構成している。
【0026】
前記直流電源9の出力は、出力トランス12の1次側において、スイッチング素子10、11を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源9の出力端子は、出力トランス12とスイッチング素子10とにより接地電位に対して正側に、出力トランス12とスイッチング素子11とにより接地電位に対して負側になるように接続されている。
【0027】
スイッチング素子10、11は、例えばMOSFETなどの半導体スイッチにより構成されており、通電により導通状態が制御可能である。スイッチング素子10、11は、通電されると導通状態(オン)になり、通電が停止されると非導通状態(オフ)になり、発振回路8及び制御部13によりオン/オフが制御されている。制御部13は、図示しないCPU、ROM及びRAM、不揮発性メモリ13a(記憶手段)などを備えたマイクロコンピュータにより構成されており、スイッチング素子10、11の通電時間(オン時間)に応じた指令信号を発振回路8に対して出力する。発振回路8は、この指令信号に基づいてパルス状の駆動信号を生成し、それぞれのスイッチング素子10、11へ出力する。
【0028】
スイッチング素子10、11は、発振回路8から出力される駆動信号に連動してその通電状態が変化し、直流電源9の出力を正側或いは負側に切替える。駆動信号は、スイッチング素子10、11のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力され、この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子10、11が例えば数十kHzで交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス12の2次側に、直流電源9の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vacが発生する。
【0029】
この交流電圧Vacは、接続ケーブル4を介してカスケード3に供給される。
カスケード3は、交流電圧Vacの大きさに応じた高電圧である直流電圧Vdc(例えば60kV)を発生させる。この直流電圧Vdcは、出力抵抗を介して、電極7に供給される。
【0030】
前記交流電源装置5は制御部13からの駆動指令信号を受けて駆動(稼動)されるものであり、その駆動パターンには連続駆動モードと間欠駆動モードとがあり、当該交流電源装置5の連続駆動モードでカスケード3は前記直流電圧Vdcを連続出力し(連続出力モード、図6に符号Mrで示す)、交流電源装置5の間欠駆動モードでカスケード3は前記直流電圧Vdcを間欠的に出力する(間欠出力モード、図6に符号Mpで示す)。この間欠出力モードは、所定時間幅b(例えば3〜5m秒)で直流電圧Vdc出力、所定時間(例えば100m秒)ごとに出力停止を繰り返すモードである。なお、図6には、便宜上、間欠出力モードにおける所定時間幅bの所定時間aに対する比率をスケールアップして示している。
【0031】
電流検出回路14は、接続ケーブル4(電流検出ケーブル4c)を介してカスケード3に流れる電流(出力電流)の大きさを検出して前記制御部13に与えており、この制御部13は、検出電流が、予め設定した過剰電流判定基準値を超えたときに、異常有りと判断し、例えば発振回路8の動作を停止させて交流電源装置5の出力を停止するなどの処理を実行する。
【0032】
さらに、この制御部13は、電流基準値設定手段、塗料粒子付着防止手段として機能する。上記電流基準値設定手段においては後述するが電流基準値Ik(図6参照)を設定し記憶する。前記電流基準値Ikは、図3に示すように、前記スプレーガン2が前記被塗装物22に接近した距離(作業者が被塗装物22に対して塗装する距離例えば300mm程度)であるかそれ以上の遠距離(スプレーガン2を被塗装物22から離した距離)であるかを前記高電圧である直流電圧Vdc下で判定するための電流判定用基準値である。なお、この図3には被塗装物22とスプレーガン2との離間距離とカスケード3の出力電流の変化との関係を示している。
【0033】
制御部13は、ROM又は不揮発性メモリ13aに電流変化率についての基準パターンPk(図4参照における範囲E)を予め記憶している。この基準パターンPkは、電流変化率が最初に微小で次に急増し次に微小となることが特徴の基準パターンである。この基準パターンPkは時間軸は長くても短くても良く、上記特徴を有すれば良い。又、基準パターンPkは、電流変化率について電流変化率が最初に微小で次に急増し次に微小となる特徴を有すれ良いから、次の急減までの範囲Eaでも良い。
【0034】
さて、上記制御部13の制御(電流基準値設定手段、塗料粒子付着防止手段として機能も含む)について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。この場合、作業者が、塗料ポンプ17及びコンプレッサ19をオンした上で、トリガ2bを引き操作し、スプレーガン2を図5に示すように、被塗装物22に対して左側から右側へ移動させ、そして下側へ移動して右側から左側へ移動させるという操作をする作業形態を例に示す。この操作形態の操作初期における前記制御部13の制御によるカスケード3の出力電圧及び出力電流の変化を図6に示す。
【0035】
制御部13は、ステップS1でトリガ2bのオン操作に伴うエアフロースイッチ20のオンを判断すると、ステップS2で、例えば不揮発性メモリ13aにおける電流基準値Ik記憶エリアをクリアする。これにより前回電流基準値Ikが記憶されていた場合に当該電流基準値Ikを削除することになる。つまり、エアフロースイッチ20が引く操作されると、前回記憶した電流基準値Ikをクリアすることにある。なおこの場合、エアフロースイッチ20のオフ時間が短い場合には、諸条件が変化していないと判断して当該電流基準値Ikをクリアしないようにしても良い。
【0036】
次のステップS3では、交流電源装置5の出力電圧を連続駆動モードとすることによりカスケード3を直流電圧Vdcの連続出力モードとする。この連続出力モードにより、電極7において塗装に十分なコロナ放電が発生し、スプレーガン2から噴霧された塗料粒子が帯電される。被塗装物22は、接地(アース)されて陽極となり、交流電源装置5などと同電位(アース電位)になっている。静電塗装装置1は、通常は、このような塗料粒子を帯電させることによりアースされた被塗装物22に電気的な吸着力により塗着させる静電塗装を実行する。
【0037】
そして、ステップS4では電流検出回路14から検出電流値を取得し、逐次、当該検出電流値を記憶する共に、電流変化率を算出し記憶する。この電流変化率は次のようにして求める。所定の微小時間Δtごとに電流値を取得し、今回の電流値をΔt秒前の電流値で除することで電流変化率ΔIをΔt秒ごとに求める。
【0038】
ステップS5では、算出した電流変化率の変化パターンが、最初に微小(一定も含む)で次に急増し次に微小(一定も含む)となる基準パターンPkに合うか否かを判断し、電流変化率の変化パターンが、基準パターンPkに合ったところで(図6の時点th)、ステップS6に移行して電流基準値Ikを設定し前記不揮発性メモリ13aに記憶する。この場合電流基準値Ikの設定は次のように行う。前記電流変化率の変化パターンのうち最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に電流基準値Ikを設定する。すなわち、図6に示すような電流の変化であった場合、最初の微小パターンTaでの検出電流値Ia(最初の微小パターンTaのうち例えば電流変化率急増パターンTbの直前での検出電流値とする)と、次の微小パターンTcでの検出電流値Ic(次の微小パターンTcのうち例えば電流変化率急増パターンTbの直後での検出電流値が好ましい)との間の検出電流値(例えば中間値、(Ia+Ic)/2)を電流基準値Ikとして設定する。ただし、この電流基準値Ikは中間値でなくても良い。
【0039】
ステップS7では、電流検出回路14による検出電流が前記設定した基準値Ik未満か(適正塗装距離から離れたか)否かを判断する。検出電流が基準値Ik未満であれば、ステップS8に移行して、交流電源装置5に対する駆動モードを間欠駆動モードとすることにより、カスケード3の直流電圧Vdcの出力モードを間欠出力モードとする。この場合、前述したようにカスケード3の出力電圧は極めて短い時間幅での出力となるから、噴出塗料が作業者やスプレーガン2に付着することを極力防止できる。又、上記短い時間幅での直流電圧Vdcの出力により検出電流を取得できる。
【0040】
次のステップS9では、この間欠出力モードにおける電流検出回路14からの検出電流が前記設定電流基準値Ik以上となったか(作業者がスプレーガン2を被塗装物に対し近づけた距離としたか)否かを判断し、当該電流基準値Ik以上となったと判断されれば、ステップS10に移行して、交流電源装置5の出力電圧を連続駆動モードとすることによりカスケード3を直流電圧Vdcの連続出力モードとし、そして前記ステップS7に戻る。
【0041】
なお、トリガ2bの引き操作を解除すると、上述の制御動作は中止され、エアフロースイッチ20オン待機状態となる。
上述した実施形態によれば、制御部13は、トリガ2bがオン操作されると、実際の塗装作業環境下で、カスケード3の電流値を検出し、当該検出電流値の変化パターンが前記基準パターンPkを示したときに、電流変化率の最初の微小パターンTaでの検出電流値Iaと次の微小パターンTcでの検出電流値Icとの間に電流基準値Ikを設定するから、作業者やスプレーガン2に対して塗料粒子が付着するおそれがあるスプレーガン2・被塗装物22間距離を判定するための電流基準値Ikを、現在の諸条件(カスケード3の出力電圧や塗料の種類、環境温度、湿度など)下で設定することができ、もって、電流基準値Ikを諸条件に自ずと合うように、簡単に且つ自動的に設定することができる。
【0042】
この場合、最初はカスケード3の出力電圧を連続出力モードとしておくから、電流基準値Ik取得中でも従前同様に通常の塗装を行うことができる。
そしてこの実施形態においては、このようにして電流基準値Ikが設定され記憶されると、カスケード3が前記連続出力モード状態であるときに検出電流が前記電流基準値Ik未満となったときに間欠出力モードに切り替える。つまり、被塗装物22に対するスプレーガン2の離間距離が遠くなったことを、検出電流が電流基準値Ik未満となったことで検出する。そして、これに基づいてカスケード3の出力電圧を間欠出力モードに切り替える。この場合、高電圧の出力が停止されている時間帯aでは塗料粒子が帯電していないから作業者やスプレーガン2への塗料の戻り付着は起きない。そして、高電圧が出力されている時間帯bでは、塗料粒子が帯電しているが、その時間を短くしておくことで塗料粒子の作業者やスプレーガン2への戻りを極力防止できる。
【0043】
そして、当該間欠出力モード状態であるときに前記検出電流が前記設定された電流基準値Ik以上となったことをもってスプレーガン2が被塗装物22に近づいたことを検出でき、そしてこのときに前記連続出力モードとするから、被塗装物22に対する塗装を通常の連続した高電圧で行なうことができる。
【0044】
このように本実施形態によれば、作業者やスプレーガン2に対して塗料粒子が付着するスプレーガン2・被塗装物22間距離を判定するための電流基準値Ikを、カスケード3の出力電圧や塗装環境さらには塗料の種類といった諸条件に自ずと合うように、簡単に且つ自動的に設定することができ、そして、この設定に引き続いてこの電流基準値Ikを用いて作業者やスプレーガン2への塗料粒子の付着防止のための処理を自動的に行うことができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、最初の微小パターンTaでの検出電流値Iaを、電流変化率急増パターンTbの直前の検出電流値としたが、当該最初微小パターンTa区間における検出電流値の平均値としても良い。又、上記実施形態では、次の微小パターンTcでの検出電流値Icを、当該微小パターンTcのうち電流変化率急増パターンTbの直後の検出電流値としたが、当該微小パターンTc区間における検出電流値の平均値としても良い。
【0046】
又、上記実施形態では、最初の微小パターンTaでの検出電流値Iaと、次の微小パターンTcでの検出電流値Icとの間の検出電流値のうち中間値、(Ia+Ic)/2)を電流基準値Ikとして設定したが、この電流基準値Ikは、前記急増パターンTbでの検出電流値を電流基準値Ikとして良い。このようにすると、前記電流率変化の急増パターンTb箇所は、必ず、前記電流変化率の微小パターンTaと次の微小パターンTcとの間に位置するから、適正な電流基準値Ikを設定できる。
なお、塗料粒子は正に帯電させても良く、この場合被塗装物22を陰極とすると良い。又、電流基準値を記憶する記憶手段としては制御部13が備えたRAMでも良い。
【符号の説明】
【0047】
図面中、1は静電塗装装置、2はスプレーガン、2bはトリガ、3はカスケード(直流高電圧発生部)、5は交流電源装置、9は直流電源、10、11はスイッチング素子、13は制御部(電流基準値設定手段、塗料粒子付着防止手段)、13aは不揮発性メモリ(記憶手段)、14は電流検出回路(電流検出手段)、21は出力モード変更装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガを有すると共に直流の高電圧を発生する直流電圧発生部を有するスプレーガンを備え、前記トリガをオン操作することにより塗料を微粒子化してノズルから噴霧し且つ当該噴霧される塗料を前記直流高電圧発生部により負又は正の高電圧に帯電させて、被塗装物に対して吸着させて静電塗装を行う静電塗装装置において、
前記直流高電圧発生部に流れる電流の電流値を検出する電流検出手段と、
前記スプレーガンと前記被塗装物との間の離間距離が所定距離以上離れたことを判定するための電流基準値を設定するための電流基準値設定手段と、
記憶手段と、
塗料粒子付着防止手段とを備え、
前記直流電圧発生部は、前記高電圧を連続して出力する連続出力モードと、前記高電圧を所定時間幅で所定時間ごとに出力する間欠出力モードとの切替えが可能であり、
前記電流基準値設定手段は、電流変化率が最初に微小で次に急増し次に微小となる基準パターンを有し、前記トリガがオン操作されると、前記前記直流高電圧発生部の電圧出力モードを連続出力モードとし、前記電流検出手段の検出電流値を順次取得して当該検出電流値の変化率を算出し、当該検出電流値の変化パターンが前記基準パターンを示したときに、前記電流変化率の最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に電流基準値を設定して記憶し、
前記塗料粒子付着防止手段は、前記直流高電圧発生部が前記連続出力モード状態であるときに前記電流検出手段による検出電流が前記設定された電流基準値未満となったときに前記間欠出力モードに切り替え、当該間欠出力モード状態であるときに前記検出電流が前記設定された電流基準値以上となったときに前記連続出力モードとすることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記電流基準値設定手段は、前記電流変化率の最初の微小パターンでの検出電流値と次の微小パターンでの検出電流値との間に設定する電流基準値を前記急増パターンでの検出電流値としたことを特徴とする請求項1に記載の静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−161757(P2012−161757A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24889(P2011−24889)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】