説明

静電容量式センサ装置

【課題】静電容量式センサ装置において、一対のセンサキャパシタが経年変化して静電容量のオフセットが変化した場合であっても、そのオフセットを適切に補償する。
【解決方法】本発明の静電容量式センサ装置では、反転入力端子が第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの接続部に接続されたオペアンプの非反転入力端子に補償信号を印加する。補償信号は、所定の基準電圧に、第1クロック信号または第2クロック信号に同期して補償電圧が重畳されたものである。この補償電圧に起因する出力電圧の変動は、静電容量のオフセットに起因する出力電圧の変動と同期しているので、補償電圧の大きさを適切に調整することによって、静電容量のオフセットを補償することができる。補償電圧の大きさを事後的に再調整することで、静電容量のオフセットが経年変化した場合であっても、そのオフセットを補償することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量式センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力、加速度、振動、音圧等の各種の物理量を検知する静電容量式センサ装置が知られている。この静電容量式センサ装置は、一対のセンサキャパシタを備えている。これらのセンサキャパシタの静電容量は、物理量が作用しない状態では互いに等しく、物理量の作用に伴って互いに相反する増減関係で変化するように構成されている。従って、これらのセンサキャパシタの静電容量の差を電圧に変換することで、静電容量式センサ装置に作用している物理量を精度よく検出することができる。
【0003】
静電容量式センサ装置は、理想的には、物理量が作用しない状態での一対のセンサキャパシタの静電容量は等しくなるように製造される。しかしながら、これらのセンサキャパシタには製造公差が存在するため、静電容量式センサ装置に物理量が作用していない状況でも、これらのセンサキャパシタの静電容量にオフセットが存在する場合がある。このような物理量の作用とは無関係に存在する静電容量のオフセットと、物理量の作用に伴って生じる静電容量の差は、静電容量式センサ装置の出力電圧において区別することは困難であり、物理量の検出誤差を生じる原因となってしまう。そこで、一対のセンサキャパシタの静電容量のオフセットを補償する技術が開発されている。
【0004】
特許文献1に、一対のセンサキャパシタの静電容量のオフセットを補償する技術が開示されている。この技術では、一対のセンサキャパシタと同じ素子上に補償用のキャパシタを予め複数作り込んでおく。そして、実際のセンサキャパシタの静電容量のオフセットに応じて、補償用キャパシタの配線をレーザートリミングで切断したり、ボンディングパッドによって配線を追加し、一対のセンサキャパシタの静電容量が互いに等しくなるように調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−64742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電容量式センサ装置を長期間に亘って運用すると、経年変化によってセンサキャパシタの静電容量が変化する場合がある。一対のセンサキャパシタそれぞれの静電容量が経年変化すると、静電容量のオフセットも変化してしまう。特許文献1の技術では、配線の切断や追加によって不可逆的に静電容量の調整を行っており、静電容量式センサ装置の製造直後の静電容量のオフセットについては補償することができるが、その後の経年変化によって静電容量のオフセットが変化した場合に、そのオフセットを補償することができない。
【0007】
本発明は上記の課題を解決する。すなわち本発明は、静電容量式センサ装置において、一対のセンサキャパシタが経年変化して静電容量のオフセットが変化した場合であっても、そのオフセットを適切に補償することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明で具現化される静電容量式センサ装置は、直列に接続された第1センサキャパシタおよび第2センサキャパシタと、第1センサキャパシタの開放端に印加される第1クロック信号と、第2センサキャパシタの開放端に印加される第2クロック信号を生成するクロック信号生成手段と、反転入力端子が第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの接続部に接続されたオペアンプと、オペアンプの出力端子と反転入力端子を接続する帰還キャパシタと、オペアンプの非反転入力端子に印加される補償信号を生成する補償信号生成手段を備えている。第1センサキャパシタと第2センサキャパシタは、作用する物理量に応じてその静電容量が変化する。第1クロック信号と第2クロック信号は、周期と振幅が等しく、互いに位相が反転している。補償信号は、所定の基準電圧に、第1クロック信号または第2クロック信号に同期して補償電圧が重畳されている。その補償電圧の大きさは調整可能である。
【0009】
この静電容量式センサ装置では、オペアンプの非反転入力端子に印加する電圧を第1クロック信号または第2クロック信号に同期して変動させることで、第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの静電容量のオフセットを補償する。第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの静電容量のオフセットが存在すると、そのオフセットの大きさに応じて、オペアンプの出力電圧が変動する。この際の出力電圧の変動は、第1クロック信号または第2クロック信号に同期したものとなる。他方、オペアンプの非反転入力端子に印加する電圧を基準電圧から変動させると、それに応じて第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの接続部の電位も変動し、オペアンプの出力端子の電圧が変動する。従って、非反転入力端子に印加される補償信号を、基準電圧に対して第1クロック信号または第2クロック信号に同期して補償電圧を重畳したものとすることで、補償電圧に起因する出力電圧の変動によって静電容量のオフセットに起因する出力電圧の変動を相殺することができる。補償電圧の大きさは調整可能であるから、補償電圧の大きさを適切に調整することによって、第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの静電容量のオフセットを補償することができる。
【0010】
この静電容量式センサ装置では、補償電圧の大きさを事後的に再調整することができる。従って、静電容量式センサ装置を長期間運用して、第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの静電容量のオフセットが経年変化した場合であっても、補償電圧の大きさを改めて調整することにより、そのオフセットの影響を打ち消すことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電容量式センサ装置によれば、一対のセンサキャパシタが経年変化して静電容量のオフセットが変化した場合であっても、そのオフセットを適切に補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の静電容量式センサ装置100の構成を示す。
【図2】実施例1の静電容量式センサ装置100における各信号の関係の例を示す。
【図3】実施例1の静電容量式センサ装置100における各信号の関係の他の例を示す。
【図4】実施例1の補償信号生成回路108の構成を示す。
【図5】実施例1の静電容量式センサ装置100による自動オフセット補正処理のフローチャートを示す。
【図6】実施例2の静電容量式センサ装置600の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施例の主要な特徴を最初に整理する。
(特徴1)第1センサキャパシタと第2センサキャパシタは、共通する可動電極と、それぞれ個別に設けられた固定電極を有する。物理量の作用によって可動電極が変位し、第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの静電容量が変化する。
【実施例1】
【0014】
図1に実施例1の静電容量式センサ装置100の構成を示す。静電容量式センサ装置100は、センサ素子102と、CV変換回路104と、クロック信号生成回路106と、補償信号生成回路108を備えている。静電容量式センサ装置100は、センサ素子102に作用する物理量(例えば圧力、加速度、振動、音圧等)の変化を静電容量の変化として検出し、センサ素子102における静電容量の変化をCV変換回路104が電圧の変化として出力する。静電容量式センサ装置100の動作は、制御装置110によって制御される。
【0015】
センサ素子102は、第1センサキャパシタ112と、第2センサキャパシタ114を備えている。第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114は、共通する可動電極と、それぞれ個別に設けられた固定電極を有する。可動電極と固定電極は対向する位置に配置されている。センサ素子102に物理量が作用すると、可動電極が変位し、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量がそれぞれ変化する。
【0016】
本実施例では、第1センサキャパシタ112の静電容量C1を、物理量が作用してない場合における静電容量C01と、物理量の作用に伴う静電容量の変化量ΔC1の和で表現する。また、第2センサキャパシタ114の静電容量C2を、物理量が作用していない場合における静電容量C02と、物理量の作用に伴う静電容量の変化量ΔC2の和で表現する。すなわち、C1=C01+ΔC1であり、C2=C02+ΔC2である。
【0017】
第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114は、理想的には、物理量が作用していない場合における静電容量が等しくなるように、すなわちC01=C02となるように製造されている。また、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114は、理想的には、物理量が作用したときの静電容量の変化が互いに相反する増減関係となるように、すなわちΔC1=−ΔC2となるように製造されている。従って、第1センサキャパシタ112の静電容量C1と第2センサキャパシタ114の静電容量C2の差を電圧に変換して出力することによって、センサ素子102に作用している物理量を計測することができる。しかしながら、第1センサキャパシタ112や第2センサキャパシタ114には製造公差があるので、実際にはC01とC02は一致していない。そこで本実施例の静電容量式センサ装置100では、補償信号生成回路108を用いて、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセットの影響を排除する。
【0018】
第1センサキャパシタ112の固定電極は、第1入力端子116に接続されている。第2センサキャパシタ114の固定電極は、第2入力端子118に接続されている。第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の共通する可動電極は、出力端子120に接続されている。
【0019】
クロック信号生成回路106は、センサ素子102の第1入力端子116にクロック信号S1を供給し、センサ素子102の第2入力端子118にクロック信号S2を供給する。図2や図3に示すように、信号S1は電源電圧(VDD)と接地電圧(VGND)を交互に繰り返す。信号S2もVDDとVGNDを交互に繰り返す。信号S1と信号S2は逆位相となっており、一方がVDDの場合には他方はVGNDとなっている。またクロック信号生成回路106は、CV変換回路104のリセット端子128にリセット信号S0を供給する。本実施例では、クロック信号S1がVDDからVGNDに切替わった直後に、リセット信号S0は短時間だけVDDとなり、それ以降はVGNDである。クロック信号生成回路106の動作の開始および終了は、制御装置110によって制御される。
【0020】
CV変換回路104は、オペアンプ122と、帰還キャパシタ124と、スイッチ回路126を有する。オペアンプ122の反転入力端子は、CV変換回路104の第1入力端子130に接続している。CV変換回路104の第1入力端子130は、センサ素子102の出力端子120に接続している。オペアンプ122の非反転入力端子は、CV変換回路104の第2入力端子132に接続している。CV変換回路104の第2入力端子132には、補償信号生成回路108から補償信号S3が供給される。オペアンプ122の出力端子は、CV変換回路104の出力端子134に接続している。CV変換回路104の出力端子134は静電容量式センサ装置100の出力端子に接続されており、CV変換回路104の出力電圧Voutが静電容量式センサ装置100の出力電圧となる。帰還キャパシタ124とスイッチ回路126は、オペアンプ122の反転入力端子と出力端子の間に並列に接続されている。スイッチ回路126は、n型のMOSFETにより構成されるスイッチ回路である。スイッチ回路126は、リセット端子128に入力されるリセット信号S0に応じて、導通と非導通が切替わる。リセット信号S0がVDDの場合には、スイッチ回路126は導通する。リセット信号S0がVGNDの場合には、スイッチ回路126は非導通となる。スイッチ回路126が導通すると、帰還キャパシタ124の両端が短絡して、帰還キャパシタ124に蓄積されていた電荷が放電される。
【0021】
補償信号生成回路108は、クロック信号生成回路106からクロック信号S1、S2を取得して、CV変換回路104の第2入力端子132に補償信号S3を出力する。図2や図3に示すように、補償信号S3は、所定の基準電圧(Vbb)にクロック信号S1またはS2と同期して補償電圧(Vcp)が重畳された信号である。本実施例では、VbbはVDDとVGNDの中間の電位である。すなわち、Vbb=(VDD+VGND)/2である。また補償電圧Vcpは、Vbbに重畳されたときにVDDを超えない範囲内で、その大きさが調整可能である。補償電圧Vcpの大きさは、制御装置110によって調整される。
【0022】
C01がC02より大きい場合について以下説明する。この場合、図2に示すように、補償信号S3にはクロック信号S1と同期して補償電圧が重畳される。信号S1がVGND、信号S2がVDDの場合、補償信号S3はVbbである。センサ素子102の出力端子120の電位は、オペアンプ122の反転入力端子の電位に等しく、オペアンプ122の非反転入力端子に印加されるVbbに等しい。第1センサキャパシタ112には電圧V1=VGND−Vbb=−Vbbが印加され、第2センサキャパシタ114には電圧V2=VDD−Vbb=Vbbが印加される。第1センサキャパシタ112には、電荷Q1=C1V1=−C1Vbbが蓄積し、第2センサキャパシタ114には、電荷Q2=C2V2=C2Vbbが蓄積する。なお信号S1がVGNDに切替わった直後は、リセット信号S0がVDDとなり、スイッチ回路126が導通する。スイッチ回路126の導通によって、帰還キャパシタ124の両端が短絡して、出力電圧VoutはVout=Vbbとなる。その後、リセット信号S0がVGNDとなり、スイッチ回路126が非導通となっても、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の電荷が変動しないため、帰還キャパシタ124には電荷が蓄積せず、出力電圧VoutはVbbのまま維持される。
【0023】
信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わると、補償信号S3はVbb+Vcpに切替わる。センサ素子102の出力端子120の電位は、オペアンプ122の反転入力端子の電位に等しく、オペアンプ122の非反転入力端子に印加されるVbb+Vcpに等しい。第1センサキャパシタ112には電圧V1=VDD−(Vbb+Vcp)=Vbb−Vcpが印加され、第2センサキャパシタ114には電圧V2=VGND−(Vbb+Vcp)=−Vbb−Vcpが印加される。第1センサキャパシタ112には、電荷Q1=C1V1=C1(Vbb−Vcp)が蓄積し、第2センサキャパシタ114には、電荷Q2=C2V2=−C2(Vbb+Vcp)が蓄積する。従って、信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わる際の第1センサキャパシタ112の電荷の変化量は、ΔQ1=C1(Vbb−Vcp)+C1Vbb=2C1Vbb−C1Vcpであり、第2センサキャパシタ114の電荷の変化量は、ΔQ2=−C2(Vbb+Vcp)−C2Vbb=−2C2Vbb−C2Vcpである。第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114における電荷の変化量と、帰還キャパシタ124における電荷の変化量は等しいから、帰還キャパシタ124には電荷Qf=ΔQ1+ΔQ2=2Vbb(C1−C2)−Vcp(C1+C2)が蓄積される。オペアンプ122の反転入力端子の電位はVbb+Vcpであるから、出力電圧Voutは、Vout=Vbb+Vcp−Qf/Cf=Vbb+Vcp−2Vbb(C1−C2)/Cf+Vcp(C1+C2)/Cf=Vbb−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cf+Vcp(ΔC1+ΔC2)/Cf+V0で与えられる。ここで、V0=Vcp−2Vbb(C01−C02)/Cf+Vcp(C01+C02)/Cfである。なおCfは帰還キャパシタ124の静電容量である。
【0024】
ΔC1+ΔC2をほぼゼロとすると、補償電圧Vcpの大きさを調整して、V0=0とすることができれば、出力電圧VoutはVbbを基準として2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfだけ変動することになり、この出力電圧Voutの変動からセンサ素子102に作用している物理量を検出することができる。このような補償電圧Vcpの大きさは、Vcp=2Vbb(C01−C02)/(C01+C02+Cf)で与えられる。このように調整された補償電圧Vcpがクロック信号S1に同期して重畳された補償信号S3を用いることで、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセット(C01−C02)の影響を出力電圧Voutの変動から排除し、センサ素子102に作用する物理量を正確に検出することができる。
【0025】
C01がC02より小さい場合について以下説明する。この場合、図3に示すように、補償信号S3には、クロック信号S2と同期して補償電圧が重畳される。信号S1がVGND、信号S2がVDDの場合、補償信号S3はVbb+Vcpである。センサ素子102の出力端子120の電位は、オペアンプ122の反転入力端子の電位に等しく、オペアンプ122の非反転入力端子に印加されるVbb+Vcpに等しい。第1センサキャパシタ112には電圧V1=VGND−(Vbb+Vcp)=−(Vbb+Vcp)が印加され、第2センサキャパシタ114には電圧V2=VDD−(Vbb+Vcp)=Vbb−Vcpが印加される。第1センサキャパシタ112には、電荷Q1=C1V1=−C1(Vbb+Vcp)が蓄積し、第2センサキャパシタ114には、電荷Q2=C2V2=C2(Vbb−Vcp)が蓄積する。なお信号S1がVGNDに切替わった直後は、リセット信号S0がVDDとなり、スイッチ回路126が導通する。スイッチ回路126の導通によって、帰還キャパシタ124の両端が短絡して、出力電圧VoutはVout=Vbb+Vcpとなる。その後、リセット信号S0がVGNDとなり、スイッチ回路126が非導通となっても、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の電荷が変動しないため、帰還キャパシタ124には電荷が蓄積せず、出力電圧VoutはVbb+Vcpのまま維持される。
【0026】
信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わると、補償信号S3はVbbに切替わる。センサ素子102の出力端子120の電位は、オペアンプ122の反転入力端子の電位に等しく、オペアンプ122の非反転入力端子に印加されるVbbに等しい。第1センサキャパシタ112には電圧V1=VDD−Vbb=Vbbが印加され、第2センサキャパシタ114には電圧V2=VGND−Vbb=−Vbbが印加される。第1センサキャパシタ112には、電荷Q1=C1V1=C1Vbbが蓄積し、第2センサキャパシタ114には、電荷Q2=C2V2=−C2Vbbが蓄積する。従って、信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わる際の第1センサキャパシタ112の電荷の変化量は、ΔQ1=C1Vbb+C1(Vbb+Vcp)=2C1Vbb+C1Vcpであり、第2センサキャパシタ114の電荷の変化量は、ΔQ2=−C2Vbb−C2(Vbb−Vcp)=−2C2Vbb+C2Vcpである。第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114における電荷の変化量と、帰還キャパシタ124における電荷の変化量は等しいから、帰還キャパシタ124には電荷Qf=ΔQ1+ΔQ2=2Vbb(C1−C2)+Vcp(C1+C2)が蓄積される。オペアンプ122の反転入力端子の電位はVbbであるから、出力電圧Voutは、Vout=Vbb−Qf/Cf=Vbb−2Vbb(C1−C2)/Cf−Vcp(C1+C2)/Cf=Vbb+Vcp−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cf−Vcp(ΔC1+ΔC2)/Cf+V0で与えられる。ここで、V0=−Vcp+2Vbb(C02−C01)/Cf−Vcp(C01+C02)/Cfである。
【0027】
ΔC1+ΔC2をほぼゼロとすると、補償電圧Vcpの大きさを調整して、V0=0とすることができれば、出力電圧VoutはVbb+Vcpを基準として−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfだけ変動することになり、この出力電圧Voutの変動からセンサ素子102に作用している物理量を検出することができる。このような補償電圧Vcpの大きさは、Vcp=2Vbb(C02−C01)/(C01+C02+Cf)で与えられる。このように調整された補償電圧Vcpを有する補償信号S3を用いることで、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセット(C02−C01)の影響を出力電圧Voutの変動から排除し、センサ素子102に作用する物理量を正確に検出することができる。
【0028】
なお補償信号S3の位相と補償電圧Vcpの大きさは、C01、C02の測定が可能であれば、その測定値に基づいて決定してもよい。あるいは、C01、C02を測定しなくとも、補償信号S3の位相を信号S1に合わせる場合と信号S2に合わせる場合のそれぞれについて、Vcpの大きさを徐々に変化させていき、センサ素子102に物理量が作用しない状態で出力電圧Voutの変動がゼロとなる補償信号S3の位相と補償電圧Vcpの大きさを探索的に求めてもよい。
【0029】
図4は補償信号生成回路108の詳細を示している。補償信号生成回路108は、補償電圧生成部402と、基準電圧生成部404と、電圧加算部406を備えている。補償電圧生成部402は、メモリ408と、D/Aコンバータ410と、セレクタ412と、n型MOSFET416、418と、インバータ417を備えている。メモリ408には、制御装置110から補償電圧Vcpの数値がデジタルデータとして記憶される。D/Aコンバータ410は、メモリ408から補償電圧Vcpの値を読み出してアナログ電圧に変換する。セレクタ412は、制御装置110からの信号選択の指示に応じて、入力信号を信号S1と信号S2の間で切替える。n型MOSFET416、418とインバータ417は、セレクタ412によって選択された入力信号(S1またはS2)が、VDDの場合にはVcpを出力し、VGNDの場合にはVGNDを出力する。
【0030】
基準電圧生成部404は、オペアンプ420、抵抗422、424を備えている。基準電圧生成部404は、Vbbを出力する。
【0031】
電圧加算部406は、オペアンプ426、抵抗428、430、431、432を備えている。電圧加算部406は、基準電圧生成部404からの出力電圧(Vbb)と、補償電圧生成部402からの出力電圧(VcpまたはVGND)を加算して、補償信号S3として出力する。
【0032】
図1の制御装置110は、内部に図示されないA/D変換器、論理演算回路等を備えている。制御装置110は、静電容量式センサ装置100の出力電圧Voutをデジタルデータに変換して、出力電圧Voutの測定値に応じて、後述する自動オフセット補正処理を行う。
【0033】
以下では図5を参照しながら、本実施例の静電容量式センサ装置100における自動オフセット補正処理について説明する。自動オフセット補正処理は、センサ素子102に作用する物理量がゼロの状況において行われる。
【0034】
ステップS502では、制御装置110がVcpの初期値としてゼロをメモリ408に入力する。
【0035】
ステップS504では、制御装置110が、第1センサキャパシタ112の静電容量C01が第2センサキャパシタ114の静電容量C02より大きいか否かを判断する。ステップS502でVcpをゼロとしているので、信号S1がVGND、信号S2がVDDの場合に出力電圧VoutはVout=Vbbとなり、信号S1がVDD、信号S2がVGNDの場合に出力電圧VoutはVout=Vbb−2Vbb(C01−C02)/Cfとなる。従って、制御装置110は、信号S1がVDDの期間におけるVoutが信号S1がVGNDの期間におけるVoutより小さければ、C01はC02より大きいと判断する。
【0036】
ステップS504でC01がC02より大きい場合(YESの場合)には、処理はステップS506へ進む。ステップS506では、制御装置110は、セレクタ412に入力信号を信号S1とする信号選択を指示する。
【0037】
ステップS504でC01がC02以下の場合(NOの場合)には、処理はステップS508へ進む。ステップS508では、制御装置110は、セレクタ412に入力信号を信号S2とする信号選択を指示する。
【0038】
ステップS510では、制御装置110がメモリ408に記憶されているVcpを読み出し、所定の電圧増加幅ΔVcpだけ増加させた数値を、新たなVcpとしてメモリ408に書き込む。
【0039】
ステップS512では、制御装置110が、静電容量のオフセットに起因する出力電圧の変動分Vosを算出する。出力電圧の変動分Vosは、信号S1がVDDの期間におけるVoutと、信号S1がVGNDの期間におけるVoutをそれぞれ測定して、両者の差を算出することで取得される。
【0040】
ステップS514では、Vosの絶対値が所定値δに満たないか否かを判断する。Vosの絶対値が所定値δ以上の場合(NOの場合)には、制御装置110はVcpのさらなる更新が必要と判断して、ステップS510へ戻る。
【0041】
ステップS514でVosの絶対値が所定値δに満たない場合(YESの場合)には、制御装置110はVcpが適切に設定されたと判断して、自動オフセット補正処理を終了する。
【0042】
以上のように、本実施例の静電容量式センサ装置100によれば、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセットを補償して、センサ素子102に作用する物理量を正確に検出することができる。
【0043】
本実施例の静電容量式センサ装置100では、補償信号生成回路108において補償電圧Vcpの大きさを事後的に再調整可能である。従って、センサ素子102を長期間運用して、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセットが経年変化した場合であっても、補償電圧Vcpの大きさを再調整することによってそのオフセットの影響を打ち消すことができる。
【0044】
なお上記の実施例では、補償信号S3の基準電圧Vbbを電源電圧VDDと接地電圧VGNDの中間の電位とする場合について説明したが、基準電圧Vbbは接地電圧VGNDより大きく電源電圧VDDより小さい電圧であれば、どのような電圧としてもよい。
【実施例2】
【0045】
図6に実施例2の静電容量式センサ装置600の構成を示す。静電容量式センサ装置600は、実施例1の静電容量式センサ装置100と同様の構成を備えており、さらに電圧調整回路602を備えている。電圧調整回路602は、オペアンプ604と、抵抗606、608、610、612を備えている。電圧調整回路602は、出力電圧Voutと、補償信号S3と、基準電圧Vbbを入力して、調整された出力電圧Vouta=Vbb+(Vout−S3)を出力する。
【0046】
C01がC02より大きい場合には、信号S1がVGND、信号S2がVDDの期間において、補償信号S3はVbbであり、出力電圧Vout=Vbbである。その後、信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わると、補償信号S3はVbb+Vcpに切替わり、出力電圧Voutは、Vout=Vbb−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cf+Vcp(ΔC1+ΔC2)/Cf+V0で与えられえる。ここで、V0=Vcp−2Vbb(C01−C02)/Cf+Vcp(C01+C02)/Cfである。
【0047】
実施例1とは異なり、本実施例では、補償電圧Vcpの大きさをVcp=2Vbb(C01−C02)/(C01+C02)に調整する。この場合、V0=Vcpとなり、ΔC1+ΔC2をほぼゼロとすると、信号S1がVDD、信号S2がVGNDの期間における出力電圧VoutはVout=Vbb+Vcp−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfとなる。従って、本実施例における出力電圧Voutは、補償信号S3にセンサ素子102の容量変化に応じた電圧変動2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfが重畳したものとなる。本実施例では、電圧調整回路602によって、この出力電圧Voutから補償信号S3を減算して、さらに基準電圧Vbbを加算することによって、調整された出力電圧Voutaが得られる。調整された出力電圧Voutaは、Vbbを基準として2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfだけ変動する。
【0048】
C01がC02より小さい場合には、信号S1がVGND、信号S2がVDDの期間において、補償信号S3はVbb+Vcpであり、出力電圧Vout=Vbb+Vcpである。その後、信号S1がVDD、信号S2がVGNDに切替わると、補償信号S3はVbbに切替わり、出力電圧Voutは、Vout=Vbb+Vcp−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cf−Vcp(ΔC1+ΔC2)/Cf+V0で与えられる。ここで、V0=−Vcp+2Vbb(C02−C01)/Cf−Vcp(C01+C02)/Cfである。
【0049】
実施例1とは異なり、本実施例では、補償電圧Vcpの大きさをVcp=2Vbb(C02−C01)/(C01+C02)に調整する。この場合、V0=−Vcpとなり、ΔC1+ΔC2をほぼゼロとすると、信号S1がVDD、信号S2がVGNDの期間における出力電圧VoutはVout=Vbb−2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfとなる。従って、本実施例における出力電圧Voutは、補償信号S3にセンサ素子102の容量変化に応じた電圧変動2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfが重畳したものとなる。電圧調整回路602によって、この出力電圧Voutから補償信号S3を減算して、さらに基準電圧Vbbを加算することによって、調整された出力電圧Voutaが得られる。調整された出力電圧Voutaは、Vbbを基準として2Vbb(ΔC1−ΔC2)/Cfだけ変動する。
【0050】
以上のように、本実施例の静電容量式センサ装置600によっても、第1センサキャパシタ112と第2センサキャパシタ114の静電容量のオフセットを補償して、センサ素子102に作用する物理量を正確に検出することができる。本実施例の静電容量式センサ装置600によれば、補償電圧Vcpの大きさを帰還キャパシタ124の静電容量Cfと無関係に設定しておくことができる。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0052】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0053】
100 静電容量式センサ装置
102 センサ素子
104 CV変換回路
106 クロック信号生成回路
108 補償信号生成回路
110 制御装置
112 第1センサキャパシタ
114 第2センサキャパシタ
116 第1入力端子
118 第2入力端子
120 出力端子
122 オペアンプ
124 帰還キャパシタ
126 スイッチ回路
128 リセット端子
130 第1入力端子
132 第2入力端子
134 出力端子
402 補償電圧生成部
404 基準電圧生成部
406 電圧加算部
408 メモリ
410 D/Aコンバータ
412 セレクタ
416 n型MOSFET
418 p型MOSFET
420 オペアンプ
422、424 抵抗
426 オペアンプ
428、430、432 抵抗
600 静電容量式センサ装置
602 電圧調整回路
604 オペアンプ
606、608、610、612 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された第1センサキャパシタおよび第2センサキャパシタと、
第1センサキャパシタの開放端に印加される第1クロック信号と、第2センサキャパシタの開放端に印加される第2クロック信号を生成するクロック信号生成手段と、
反転入力端子が第1センサキャパシタと第2センサキャパシタの接続部に接続されたオペアンプと、
オペアンプの出力端子と反転入力端子を接続する帰還キャパシタと、
オペアンプの非反転入力端子に印加される補償信号を生成する補償信号生成手段を備える静電容量式センサ装置であって、
第1センサキャパシタと第2センサキャパシタは、作用する物理量に応じてその静電容量が変化し、
第1クロック信号と第2クロック信号は、周期と振幅が等しく、互いに位相が反転しており、
補償信号は、所定の基準電圧に、第1クロック信号または第2クロック信号に同期して補償電圧が重畳されており、
補償電圧の大きさが調整可能である静電容量式センサ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−17590(P2011−17590A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161827(P2009−161827)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】