説明

静電容量式物体検知センサ及び物体検知方法

【課題】少なくとも一方が移動し、接近及び離間する2つの物体間の静電容量を検出して、変化する前記静電容量に基づいて、少なくとも前記物体間の距離、又は前記物体間に存在する別の物体の有無を検出する静電容量式物体検知センサ、及び静電容量式物体検知方法を提供する。
【解決手段】接近及び離間する2つの物体の一方である第一物体1と、少なくとも2つの物体の他方である第二物体X又は前記2つの物体の間における第三物体Xとの間の静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する発振器2と、静電容量の変化に伴って変化する発振周波数の変化を検出する検出部3と、この検出結果に基づいて少なくとも2つの物体の距離、又は第三物体の有無を判定する判定部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が移動し、接近及び離間する2つの物体間の静電容量を検出して、変化する前記静電容量に基づいて、少なくとも前記物体間の距離、又は前記物体間に存在する別の物体の有無を検出する静電容量式物体検知センサ、及び静電容量式物体検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一方が移動し、接近及び離間する2つの物体間の距離を検出したり、2つの物体間に存在する別の物体を検出するようなセンサは、種々のものが利用されている。例えば、自動車を後退させる際に後方の障害物(別の物体)の有無、及び距離を検出するバックソナーには、超音波センサが用いられている。また、水道の水を自動的に出したり止めたりする自動水栓には、発光素子と受光素子とを組み合わせた光センサが用いられている。その他、検出距離が数十mm程度のいわゆる近接センサには、高周波発振型、差動コイル型、磁気型等の方式が用いられ、主として金属の検出に使用されている。また、静電容量型の近接センサは、金属だけではなく非金属の検出にも対応している。
【0003】
例えば、特許文献1には、水面の変位や振動物体、揺動物体の変位を容量の変化として測定する容量式変位センサの技術が開示されている。これは、LC発振器の発振周波数を容量センサにより検出した静電容量(C)によって可変とすることによって、水面の変位や振動物体、揺動物体の変位を測定するものである。
【0004】
また、特許文献2には、開閉器の開閉動作状態を検出する開閉器の位置検出装置に関する技術が開示されている。これは、被検出体との距離に応じた出力を発振するLC発振器を具備した位置検出センサを用いて位置検出装置を構成するものである。被検出体側に凹凸を設け、この凹凸に対する検知出力の変化をストロークカーブとして連続して捕らえることにより、検知/被検知、及び故障等の区別を可能とするものである。
【0005】
【特許文献1】特開2001−4431号公報(第2−3頁、第1図)
【特許文献2】特開平9−89964号公報(第2、5−6頁、第1−4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、比較的近距離(特許文献1第2図参照)の20mm程度を検出範囲としている。また、水面の変位や振動物体、揺動物体の変位等、予め定められたものの変位を検出することを目的としている。即ち、予め測定対象として定めた物体の増減あるいは、存在位置を比較的近距離の範囲内で検出する技術である。従って、人や人の体の部位が出入り可能な開閉する装置(例えば、ドアや窓)において、障害物を挟み込んだことを検出するなどの目的に使用するには、検出距離等を含めた改善が望まれる。例えば、開閉する装置が完全に閉扉する前に障害物等によって停止し、所定の位置に達していないことは検出できる。しかし、閉扉しようとする途上で障害物等が存在するか否かの検出には、対応していない。従って、開閉する装置が障害物等によって停止する前にこれを検出し、閉扉動作にフィードバックする等の制御を行うための検出装置としては、充分とはいえないものである。
【0007】
特許文献2に記載の技術も同様である。LC発振器の発振周波数を変化させるという原理を用いているが、近接センサとしての使用形態を向上させたものであるといえる。開閉状態を示す出力は、従来のオン/オフに比べて、ストロークカーブを描くようにしている(特許文献2第4図参照)。しかし、コンパレータ(同第1図符号53参照)を用いて、オン/オフの判定を行っており、また、開閉器(同第3図被検出体61)の構造も限られたものである。
【0008】
本願発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、少なくとも一方が移動し、接近及び離間する2つの物体間の静電容量を検出して、変化する前記静電容量に基づいて、少なくとも前記物体間の距離、又は前記物体間に存在する別の物体の有無を検出する静電容量式物体検知センサ、及び静電容量式物体検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するための本発明に係る静電容量式物体検知センサの特徴構成は、以下の各部を備える点にある。
即ち、接近及び離間する2つの物体の一方である第一物体と、前記2つの物体の他方である第二物体又は前記2つの物体の間における第三物体との間の静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する発振器と、
前記静電容量の変化に伴って変化する前記発振周波数の変化を検出する検出部と、
この検出結果に基づいて少なくとも前記2つの物体の距離、又は前記第三物体の有無を判定する判定部と、である。
【0010】
この特徴構成によれば、第一物体と第二物体との間、又はこれら2つの物体の間における第三物体と第一物体との間で検出される静電容量に応じて発振器の発振周波数が変化する。第一物体と第二物体とが接近あるいは離間すると、それに応じてこれら2つの物体間の静電容量が連続的に変化する。そして、この静電容量の変化に伴って発振周波数が変化する。この発振周波数の変化の方向(高くなるか、低くなるか)によって、2つの物体が接近しているか、離間しているかを知ることができる。即ち、両物体間のおおよその距離を知ることができる。また、これら2つの物体の間に例えば、障害物等として別の物体(第三物体)が進入した場合には、静電容量の変化は連続的ではなく、急峻に変化する。従って、2つの物体間における第三物体の有無を判定することができる。このように、本特徴構成によれば、単に接近及び離間する2つの物体の相互の関係だけでなく、両物体間に存在する別の物体の有無をも検出することのできる静電容量式物体検知センサを提供することができる。尚、2つの物体は、どちらか一方が移動するものであっても、双方が移動するものであっても、勿論本発明を適用することが可能である。
【0011】
ここで、前記検出部が、基準となる周波数で発振する基準発振器と、この基準発振器と前記発振器との出力を比較する比較部とを備え、この比較結果を用いて前記発振周波数の変化を検出すると好適である。
【0012】
発振器の発振周波数を定める静電容量は、物体間の距離だけでなく、周囲の温度変化等、環境変化に対しても変化する。従って、物体間の距離に変化がなくても、気温等の環境に変化があると、発振周波数も変化する場合がある。これによって、静電容量式物体検知センサが誤検出をすることは好ましくない。しかし、上記特徴構成のように、基準となる周波数で発振する基準発振器を備えると、この基準発振器の発振周波数も環境変化に応じて変化する。さらに、上記特徴構成では、この基準発振器と発振器との出力を比較する比較部を設けて、この比較結果を用いて発振周波数の変化を検出するようにしている。このようにすると、基準発振器及び発振器の発振周波数が環境変化に影響を受けて変化した部分は、比較部によって相殺されることになる。従って、環境変化に対する耐性を強化した静電容量式物体検知センサを得ることができる。
【0013】
ここで、好適な実施形態の一例として、前記基準発振器を前記発振器と同一の温度特性を有した同じ方式の発振器とするとよい。具体例としては、前記発振器がLC発振器であり、前記基準発振器を前記発振器と同一の温度特性を有するコンデンサ及びインダクタによって構成されたLC発振方式の発振器とするものがある。温度特性を同一にすることによって、比較部による相殺の効果を高め、環境変化に対する耐性を良好に得ることができる。さらに、前記比較部が、前記基準発振器及び発振器の出力の周波数の差分を求める混合器を備えると好適である。発振器の発振周波数は、物体間の静電容量に応じて変化するので、広い周波数範囲に亘る。そこで、上記のように、周波数の差分を求める混合器を備えるとよい。基準発振器の出力との周波数の差分を取るようにすると、特に高い周波数の場合に、これを比較的低い周波数に変換することができ、耐ノイズ性の向上や変動誤差の改善等を期待することができる。
【0014】
また、別の好適な実施形態の例として、前記検出部が、前記基準発振器及び前記発振器の出力をデジタル化するデジタル変換部を備え、前記比較部が、これらデジタル化された出力を比較する論理演算部を備えるものであってもよい。即ち、基準発振器及び発振器の出力をデジタル化した後に比較処理を行ってもよい。静電容量式物体検知センサにマイクロコンピュータ等のデジタル信号処理装置を有している場合には、ほぼ直接に基準発振器及び発振器の出力を入力できる。その結果、回路規模の縮小や判定までの時間の短縮等を図ることができる。
【0015】
さらに、他の特徴構成として、本発明に係る静電容量式物体検知センサが、前記第二物体及び前記第三物体に対する前記発振器の前記発振周波数の距離に応じた変化特性を記憶する記憶部を備え、前記判定部は、前記検出部の検出結果と前記変化特性とに基づいて、前記2つの物体の距離、前記2つの物体の間における前記第三物体の有無、前記第二物体及び前記第三物体の種別の推定、前記第一物体と第三物体との距離、の内少なくとも何れか一つを判定するものであると好適である。
【0016】
この特徴構成によれば、静電容量式物体検知センサが、被検知物である対象物に対する発振器の発振周波数の変化特性を記憶する記憶部を備えている。そして、判定部はこの変化特性に基づいて、上記種々の判定を行うようにしている。その結果、実際に検出した発振周波数の変化と変化特性とにより、2つの物体間の距離を検知することができる。また、これら2つの物体間に別の物体(第三物体)が存在する場合には、第二物体に対する変化特性と実際の検出結果とがずれることより、第三物体の有無を検知できる。さらに、第三物体の存在が検知された場合には、第三物体は、第一物体と第二物体との間に存在することとなる。従って、その概略の距離と変化特性とにより、第三物体の種別(材質等)を推定することができる。また、この推定結果より、第一物体と第三物体とのより正確な距離を検知することができる。勿論、第一物体と第二物体との概略の距離と変化特性とにより、第二物体の種別を推定することもできる。
【0017】
また、上記目的を達成するための本発明に係る静電容量式物体検知方法の特徴構成は、以下の各工程を備える点にある。
即ち、接近及び離間する2つの物体の一方である第一物体と、前記2つの物体の他方である第二物体又は前記2つの物体の間における第三物体である、対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出工程と、
前記静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する発振器の、前記静電容量の変化に伴って変化する前記発振周波数の変化を検出する周波数変化検出工程と、
予め記憶された、前記対象物に対する前記発振周波数の距離に応じた変化特性と、前記周波数変化検出工程の結果とに基づいて、前記2つの物体の距離、前記第三物体の有無、前記第三物体の種別の推定、前記第一物体と第三物体との距離、の内少なくとも何れか一つを判定する判定工程と、である。
【0018】
ここで、前記周波数変化検出工程は、基準となる周波数で発振する基準発振器と、前記発振器との出力を比較する比較工程を有し、この比較結果を用いて前記発振周波数の変化を検出すると好ましい。
【0019】
上記、各工程を実施することにより、上記、静電容量式物体検知センサの効果と同様の効果を得ることができる。
【0020】
ここで、前記判定工程は、検出された前記発振周波数の時間経過に対する変化の傾きによって判定すると好適である。
【0021】
上記変化特性は、対象物によって異なる特性となっている。従って、物体同士(第一物体と対象物(第二物体及び第三物体))が近づく時間等、時間経過に対する変化特性は対象物ごとに異なる。そして、その変化特性の傾きも対象物ごとに異なる。従って、上記方法のように、検出された前記発振周波数の変化の傾きによって判定すると、良好な物体検知ができる。尚、物体間の距離の変化に対する変化特性についても、同様である。即ち、距離の変化を伴う場合、当然時間経過も伴うので、その変化特性の傾きによって良好な判定を行うことができる。
【0022】
さらに、前記判定工程は、前記周波数変化検出工程により検出された前記発振周波数の時間経過に対する変化量又は変化の傾きと、予め定めた第一の基準値とに基づいて、前記発振周波数の変化が環境変化によるものであると判定すると好ましい。
【0023】
上記比較工程を有さない場合は、勿論のこと、比較工程を有していても、周辺温度の変化等によって、発振周波数が時間経過に伴って変化する場合がある。しかし、通常このような変化は、急激に起こるものではなく、比較的時間を掛けて起こるものである。逆に、物体の移動による物体間の距離の短縮や、物体の出現による発振周波数の変化は、環境変化に比べると急激に起こり、一般にその変化量や変化の傾きは大きいものである。従って、例えば予め定めた第一の基準値に対して変化量や変化の傾きが小さい場合には、その変化が穏やかであると考えることができる。そして、このような場合には、これを環境変化によるものとして判別すると、誤検知防止の効果が得られる。
【0024】
また、前記判定工程は、前記変化量又は前記変化の傾きと、前記第一の基準値より大きい第二の基準値とに基づいて、前記第三物体の有無を判定するものであると好適である。
【0025】
この方法によれば、前記第一の基準値よりも大きい第二の基準値を設定している。そして、発振周波数が、上記環境変化による穏やかな変化や、物体間の距離の短縮による変化に対して急激な変化をしたか否かをこの第二の基準値に基づいて判定する。これは、例えば、変化量や変化の傾きが第二の基準値を超えて変化したか否かによって判別することができる。そして、急激な変化が有った場合には、接近及び離間する2つの物体間に第三物体が存在することを判定する。その結果、迅速な判定が可能となり、例えば、急に上記2つの物体間に第三物体が障害物として入り込んで来たような場合でも早期にこれを検知することができる。
【0026】
また、前記複数の物体が接近する速度が既知である場合、前記判定工程が、複数種別の前記対象物に対する前記変化特性に基づいて、前記対象物の種別を判定すると好適である。
【0027】
この特徴構成によれば、複数の対象物に対する変化特性に基づいて、対象物が何であるかを判別することができる。例えば、異なる材質の記録媒体(用紙)に対して印刷が可能なプリンタ等に対して、どの用紙が給紙されているのか等の用途にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本発明に係る静電容量式物体検知センサは、アンテナ1と、LC発振器2(本発明の発振器に相当する。)と、検出部3と、判定部4とを有して構成されている。ここで、アンテナ1は、接近及び離間する2つの物体の一方(本発明の第一物体に相当する。)側に備えられている。そして、第一物体と物体X(本発明の第二物体、又は第三物体に相当する。)との距離の変動等によって変化する静電容量により、物体Xとの距離等を判定する。LC発振器2は、発振回路の有するインダクタ素子及び容量素子と、アンテナ1のインダクタンス成分と、アンテナ1と物体Xとの間の静電容量とに応じて定まる発振周波数で発振する。アンテナ1と物体Xとの間の静電容量は、アンテナ1が備えられた第一物体と、物体Xとの距離の変動等によって変化する。従って、LC発振器2の発振周波数は、事実上、アンテナ1と物体Xとの間の静電容量によって定まる。検出部3は、この静電容量の変化に伴って定まるLC発振器2の発振周波数の変化を検出する。尚、本実施形態においては、発振器としてLC発振器を採用しているが、静電容量によって発振周波数が変化するように構成可能な発振器であれば、これに限ることはない。
【0029】
ここで、接近及び離間する2つの物体には、例えば、図7に示すような自動車のスライドドアのドア枠やドア、あるいは、窓枠や窓ガラスのような開閉する装置の開閉部分の夫々の構成物が相当する。そして、図7に示した例では、ドア及び窓ガラスが第一物体であり、開閉時の接合部分である端部にアンテナ1が備えられている。また、同様に図8に示すように自動車のハッチバックドアのドア枠やドアも複数の物体に相当し、第一物体に相当するドアの端部にアンテナ1が備えられる。尚、ドア枠や窓枠側にアンテナ1を備えてもよく、この場合はドア枠や窓枠側が第一物体となる。従って、上記互いに対応するドア及びドア枠、窓ガラス及び窓枠の内、第一物体ではない方が、第二物体に相当する。
【0030】
また、ドアや窓の開閉動作の際、特に閉動作の際にドア枠とドアとの間、窓枠と窓との間に、衣服や傘等の障害物を挟み込むような場合、この衣服や傘が2つの物体の間における第三物体に相当する。即ち、上記第一物体(例えばドア、窓ガラス)と第二物体(例えばドア枠、窓枠)との間に存在する物体としての第三物体(例えば衣服)という対応関係となる。以下、この対応関係を例として本発明の実施形態を説明する。
【0031】
図1に示すように、窓ガラス(第一物体)に備えられたアンテナ1によって、窓枠(第二物体)としての物体Xとの間の静電容量が検出される(本発明の静電容量検出工程に相当する。)。LC発振器2は、この検出された静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する。窓ガラスと窓枠との距離、即ちアンテナ1と物体Xとの距離が近くなるほど、静電容量は大きくなる。即ち、静電容量をC、物体Xの誘電係数をa、アンテナ1と物体Xとの間の空間(例えば空気)の誘電率をε、距離をl、結合する面積をSとすると、次式のような関係となる。
C=(a・ε・S)/l ・・・〔式1〕
【0032】
また、LC発振器2の発振周波数fは、LC発振器2のインダクタンスをLとして、次式で表される(^はべき乗を示す。)。
f=1/(2π・(L・C)^(1/2)) ・・・〔式2〕
【0033】
上記、〔式1〕及び〔式2〕に示したように、第一物体と第二物体との距離に応じて、静電容量及びLC発振器2の発振周波数が変化する。この発振周波数の変化を検出部3において検出する(本発明の周波数変化検出工程に相当する。)。そして、判定部4は、この検出結果に基づいて、少なくとも第二物体との距離、又は第二物体との間に存在する第三物体の有無及び距離を判定する(本発明の判定工程に相当する。)。以下に、この発振周波数の変化を検出して判定する構成及び方法について説明する。
【0034】
図2に示すように検出部3は、基準となる周波数で発振する基準発振器6と、この基準発振器6とLC発振器2との出力を比較する比較部7とを備えている。静電容量Cは、物体間の距離の変化だけでなく、周囲の温度変化等、環境変化に対しても変化する。従って、物体間の距離に変化がなくても、気温等の環境に変化があると、発振周波数も変化する場合がある。この変化を距離の変化として検出すると、判定部4において誤った判定をする可能性が生じ、好ましくない。しかし、LC発振器2と基準発振器6との発振周波数を比較するようにすれば、環境変化に影響を受けて変化した部分を相殺することが可能となる。その結果、環境変化に対する耐性を向上できる。
【0035】
尚、基準発振器6はLC発振器2と同一の温度特性を有するコンデンサ及びインダクタによって構成されたLC発振方式の発振器である。温度特性を同一にすることによって、比較部7による相殺の効果を高め、環境変化に対する耐性を良好に得ることができるように構成されている。
【0036】
そして、この比較部7を構成する一実施形態としては、図3に示すようなものがある。図に示すように、基準発振器6及びLC発振器2の出力の周波数の差分を求める混合器8と、混合器8の出力から必要な周波数のみを取り出すフィルタ回路9とを備えている。物体Xとアンテナ1との距離に応じた静電容量の変化に伴って変化するLC発振器2の発振周波数は、広い周波数範囲に亘る。そこで、混合器8によって、周波数の差分を求めると、特に高い周波数の場合に、これを比較的低い周波数に変換することができる。その結果、低周波数で信号処理を行うことが可能となるので、耐ノイズ性の向上や変動誤差の改善等を図ることができる。フィルタ回路9は、本実施形態においてはローパスフィルタ(LPF)である。低周波数化された差分情報のみを取り出すのに適している。そして、このフィルタ回路9の出力を、演算増幅器やコンパレータ等の後処理回路10で処理して、判定部4へ検出結果を伝達する。上記、比較部7における処理は、本発明の比較工程に相当する。
【0037】
また、この比較部7を構成する他の実施形態としては、図4に示すようなものもある。この実施形態は、マイクロコンピュータ(以下、マイコン)13を利用するもので、判定部4の機能と、検出部3の一部の機能をこのマイコン13で実現している。検出部3は、基準発振器6及びLC発振器2の出力をデジタル化するデジタル変換部11を備えている。デジタル変換部11は、コンパレータで構成され、夫々基準発振器6を受け持つデジタル変換部11bと、LC発振器2を受け持つデジタル変換部11aとがある。比較部7は、これらデジタル化された出力を比較する論理演算部12を備えており、論理演算によって発振周波数の変化を検出する。本形態による比較部7における処理も、本発明の比較工程に相当する。
【0038】
以上、説明したような構成に基づいて、発振周波数の変化を検出し、判定部4において、以下に示すような種々の判定を行う。例えば、第一物体(アンテナ1)と第二物体(物体X)との距離、第一物体と第二物体(物体X)との間に存在する第三物体(物体X)の有無、第二物体や第三物体の種別の推定、第三物体との距離等である。これらは、何れか一つの判定でもよいし、複数を判定するものでもよい。つまり、第一物体(アンテナ1)と第二物体(物体X)との距離を判定している時に、第一物体と第二物体との間に第三物体が進入してくれば、この第三物体の存在の有無を判定する。さらに、進入してきた第三物体は、第二物体に代わって物体Xとなり、第一物体(アンテナ1)と第三物体(物体X)との距離を検出する。図7に示したスライドドアに適用すれば、ドアがドア枠に向かって閉動作している場合には、ドアとドア枠との間の距離を判定し、その途上に衣服等の進入を検出することができる。
【0039】
このような種々の判定を実施するために、図5に示すように、予め複数の物体(対象物)に対するLC発振器2の発振周波数の距離に応じた変化特性を記憶する記憶部5を備えている。そして、判定部4は、検出部3において、検出された検出結果と、記憶部5に記憶された変化特性とに基づいて、上記種々の判定を行う。ここで、変化特性とは、図6に示すようなものであり、距離と周波数又は周波数差(変動分)との相関関係を示すものである。図6に示すように物体Aと物体Bとでは、異なる特性を示している。判定部4ではこの特性の違いにより、物体X(対象物)との距離や、それが物体Aであるか物体Bであるか等を判定する。尚、図6には2種類の特性を示したが、これを多く用意しておけば、より正確な判定を行うことができる。また、物体Aと物体Bとの特性の違いは、どの距離においてどの程度の周波数であるかという差異や、特性曲線の傾きS1やS2による差異等、種々の観点に依ることができる。このような判定部5による種々の判定は、本発明の判定工程に相当する。
【0040】
周波数の差異による判定は、例えば以下のようなものである。発振周波数は、例えば、二つの物体の距離が縮まってくる場合には、連続して変化する。特に一定速度で動作する開閉装置等では、移動時間や移動距離が予め予想できるので、これに合わせて、検出ポイントを定めるとよい。記憶部に記憶する変化特性もこれに対応したポイントのものを準備すればよく、限られた記憶部の記憶領域も有効に活用できる。
【0041】
特性曲線の傾きによる判定は、例えば以下のようなものである。図6に示す物体Aの変化特性の傾きS1は、物体Bの変化特性S2と比べて大きな傾きを示している。検出部3において検出された発振周波数の変化曲線の傾きがS1であった場合、例えば、以下のように判定できる。即ち、物体Aは金属であって、アンテナ1を備えたドア(第一物体)は、ドア枠(第二物体)に向かって接近(閉動作)していると判定できる。検出部3において検出された発振周波数の変化曲線の傾きがS2であった場合には、以下のように判定できる。即ち、ドア(第一物体)は、ドア枠(第二物体)に向かって閉動作しているはずであるが、衣服等の布(物体B:第三物体)に向かって接近していると判定できる。その結果、衣服等の挟み込みを未然に防ぐような制御を施すことも可能となる。このように、判定工程において、検出された発振周波数の変化の傾きによって判定することができる。
【0042】
尚、上記実施形態において、発振周波数の変化量や変化の傾きは、所定期間ごと、又は所定の移動距離ごとに測定した測定結果に基づいて検出される。所定時間ごととは、例えば、数ミリ秒ごとに測定することである。所定の移動距離ごととは、自動車のパワーウィンドウやパワースライドドア等、動作速度が既知の場合に、例えば、数十mm移動するごとに測定することである。図6には、物体間の距離の変化に対する変化特性を示したが、時間経過に対する変化特性を用いてもよい。即ち、距離の変化を伴う場合、当然時間経過も伴うので同様に考えることができる。逆に時間経過を伴っても、物体の移動が行われていない場合があるが、この場合、物体の移動の有無が既知であれば、下記に示すような判別を行うことができる。
【0043】
即ち、判定部4は、発振周波数の時間経過に対する変化量又は変化の傾きが、予め定めた基準値(本発明の第一の基準値に相当する。)に対して小さいか否かを判別する。そして、この判別結果に基づいて、発振周波数の変化が環境変化によるものであると判定する。例えば、図2から4を用いて説明した実施形態では、環境変化による検知結果への影響を抑制するために、基準発振器6を設ける構成及び方法を示した。このような構成及び方法で抑制し切れなかった影響や、環境変化の影響が少ないためにこのような構成及び方法を採用しなかった場合には特に上記判別工程は有用である。
【0044】
発振周波数が環境変化に起因して時間経過に伴って変化する場合、このような変化は、急激に起こるものではなく、比較的時間を掛けて起こるものである。逆に、物体の移動による物体間の距離の短縮や、物体の出現による発振周波数の変化は、環境変化に比べると急激に起こるものである。従って、上記方法のように予め定めた変化量に対して穏やかである場合には、これを環境変化によるものとして判別すると、誤検知防止の可能性が高くなる。
【0045】
そして、発振周波数の変化が環境変化によるものであると判別した場合には、これ以降は、変化後の発振周波数に整合させた変化特性に基づいて判定する。つまり、環境変化によって生じたと判定された誤差分を記憶部5が記憶する変化特性の補正情報として利用する。そして、補正された変化特性に基づいて以後の処理(判定)を行うようにする。補正を行わない場合、緩やかな変化の累積によってある時点では、大きな変化と判定してしまう可能性が生じる。しかし、上記のようにすると誤差の累積による誤判定を防ぐことができる。
【0046】
また、判定部4は、発振周波数の変化量又は変化の傾きが、第一の基準値より大きい第二の基準値に対して大きいか否かを判別する(第二の判別工程)。そして、この判別結果に基づいて、第三物体の有無を判定する。例えば、アンテナ1を備えたドア(第一物体)が、金属製のドア枠(第二物体)に向かって接近(閉動作)しているとする。ここで、両物体間に衣服(第三物体)が進入してきたことを検知することができる。閉動作・開動作において、第一物体と第二物体とが接近・離間する場合、概ね時間経過あるいは相対距離に対する変化特性に準じた発振周波数の変化が検出される。しかし、第一物体と第二物体との間に衣服(第三物体)が出現した場合には、金属の変化特性には合致しないほどのずれが検出される。そこで、このずれに相当する程度の第二の基準値を設定し、これを超えた場合には、急激な変化があったとして、第三物体の存在を判定するようにしている。
【0047】
この時の周波数の測定は、発振器2の発振波形又は比較部7の出力波形の所定時間内の前縁又は後縁を計数することによって行うことができる。即ち、所定時間内の周期数を計測することになるので、周波数の計測となる。このような場合には、計数結果そのものを用いて、周波数の変化を検出できる。本実施形態では、電子回路で計数を行うために、2進数のカウンタを利用する。2進数による計数では、桁上がりによって2倍や4倍、8倍といった2のべき乗で示される倍率を容易に得ることができる。従って、ある時間帯と別の時間帯との計数結果の一方に桁上がりがあり、他方にはなかった場合、その桁上がりに相当する倍率が生じていることとなる。従って、この倍率に基づいて、容易に発振周波数が急激に変化したか否かを検出することができる。
【0048】
また、周波数帯域ごとのグループを作っておき、所定の単位時間において測定された周波数がどのグループに属するかを検出する方法を用いてもよい。このようにして検出された周波数帯域のグループが、所定の単位時間の数個分で規定された判定期間内で、例えば2グループ移動した場合には、急激な変化が生じたと判定するようにしてもよい。
【0049】
上記において、図6に2種類の変化特性を示して、これにより、物体X(対象物)の材質を推定し、これが何であるかを判別できると説明した。そして、この変化特性を多く用意しておけば、より正確な判定を行うことができることを説明した。特に、物体同士が接近する速度が既知である場合、複数の対象物に対する変化特性に基づいて、対象物の種別を特定することができる。
【0050】
例えば、図6に示す符号T1の距離(位置又は時刻)においては、物体A及び物体Bの周波数(又は周波数差)は、同一の値である。しかし、アンテナとの距離が少し接近した符号T2の距離においては、物体A及び物体Bの周波数は異なった値となる。さらにアンテナとの距離が接近した符号T3の距離においては、物体A及び物体Bの周波数の差は大きくなる。そして、符号T3よりもさらに接近した符号T4の距離においては、両周波数の差は非常に大きなものとなる。このように、両者の距離が予め既知(あるいは予測可能)であれば、距離(符号T1〜T4等)に応じた周波数から、どの物体の変化特性に該当するものかを良好に導くことができる。その結果、対象物の種別を特定することが可能となる。また、一点だけでなく、数点における検出結果から判別すると、より高い精度での判別が可能となる。
【0051】
例えば、自動車のパワースライドドアやパワーウィンドウ等、動作速度が既知のものでは、ドアや窓ガラスの向かう先がドア枠や窓枠であるか、衣服であるか、他の障害物であるか等を判別することができる。また、福祉車両等において、車両シートが車外へ振り出すような機構を有するものがあるが、この振り出し状態を判別することもできる。そして、上記判別結果に応じて、パワースライドドアやパワーウィンドウを制御するべくフィードバックを掛けることもできる。
【0052】
また、本発明の他の適用例として、異なる材質の記録媒体(用紙)に対して印刷が可能なプリンタ等で、どの用紙が給紙されているのかを判別することができる。そして、この結果をフィードバックすることで、夫々の用紙に適した画像処理や印刷処理を施すような制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、開閉する装置の開閉状態を検出するための物体検知センサや、これを利用した開閉状態監視装置、挟み込み検出装置等に適用することができる。開閉装置としては、例えば自動車のパワーウィンドウ、パワースライドドア、バックドアや、建物や鉄道等の自動ドア、回転ドア等に適用することができる。また、プリンタ等の用紙搬送機構における用紙検出装置として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る静電容量式物体検知センサの実施形態を示すブロック図
【図2】図1の検出部の構成例を示すブロック図
【図3】図2の比較部の一の構成例を示すブロック図
【図4】図2の比較部の他の構成例を示すブロック図
【図5】本発明に係る静電容量式物体検知センサの他の実施形態を示すブロック図
【図6】図5の記憶部が記憶する変化特性の例を示すグラフ
【図7】図1から図5のアンテナの設置例を示す模式図
【図8】図1から図5のアンテナの設置例を示す模式図
【符号の説明】
【0055】
1 アンテナ(第一物体)
2 LC発振器
3 検出部
4 判定部
X 物体(対象物、第二物体、第三物体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接近及び離間する2つの物体の一方である第一物体と、前記2つの物体の他方である第二物体又は前記2つの物体の間における第三物体との間の静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する発振器と、
前記静電容量の変化に伴って変化する前記発振周波数の変化を検出する検出部と、
この検出結果に基づいて少なくとも前記2つの物体の距離、又は前記第三物体の有無を判定する判定部と、
を備える静電容量式物体検知センサ。
【請求項2】
前記検出部は、基準となる周波数で発振する基準発振器と、この基準発振器と前記発振器との出力を比較する比較部とを備え、この比較結果を用いて前記発振周波数の変化を検出する請求項1に記載の静電容量式物体検知センサ。
【請求項3】
前記第二物体及び前記第三物体に対する前記発振器の前記発振周波数の距離に応じた変化特性を記憶する記憶部を備え、前記判定部は、前記検出部の検出結果と前記変化特性とに基づいて、前記2つの物体の距離、前記2つの物体の間における前記第三物体の有無、前記第二物体及び前記第三物体の種別の推定、前記第一物体と第三物体との距離、の内少なくとも何れか一つを判定する請求項1又は2に記載の静電容量式物体検知センサ。
【請求項4】
接近及び離間する2つの物体の一方である第一物体と、前記2つの物体の他方である第二物体又は前記2つの物体の間における第三物体である、対象物との間の静電容量を検出する静電容量検出工程と、
前記静電容量に応じて定まる発振周波数で発振する発振器の、前記静電容量の変化に伴って変化する前記発振周波数の変化を検出する周波数変化検出工程と、
予め記憶された、前記対象物に対する前記発振周波数の距離に応じた変化特性と、前記周波数変化検出工程の結果とに基づいて、前記2つの物体の距離、前記第三物体の有無、前記第三物体の種別の推定、前記第一物体と第三物体との距離、の内少なくとも何れか一つを判定する判定工程と、を備える静電容量式物体検知方法。
【請求項5】
前記周波数変化検出工程は、基準となる周波数で発振する基準発振器と、前記発振器との出力を比較する比較工程を有し、この比較結果を用いて前記発振周波数の変化を検出する請求項4に記載の静電容量式物体検知方法。
【請求項6】
前記判定工程は、検出された前記発振周波数の時間経過に対する変化の傾きによって判定する請求項4又は5に記載の静電容量式物体検知方法。
【請求項7】
前記判定工程は、前記周波数変化検出工程により検出された前記発振周波数の時間経過に対する変化量又は変化の傾きと、予め定めた第一の基準値とに基づいて、前記発振周波数の変化が環境変化によるものであると判定する請求項4から6の何れか一項に記載の静電容量式物体検知方法。
【請求項8】
前記判定工程は、前記変化量又は前記変化の傾きと、前記第一の基準値より大きい第二の基準値とに基づいて、前記第三物体の有無を判定する請求項7に記載の静電容量式物体検知方法。
【請求項9】
前記判定工程は、前記複数の物体が接近する速度が既知である場合、複数種別の前記対象物に対する前記変化特性に基づいて、前記対象物の種別を判定する請求項4から6の何れか一項に記載の静電容量式物体検知方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−162374(P2006−162374A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352634(P2004−352634)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】