説明

静電座標入力装置、静電座標入力方法および情報機器

【課題】2次元座標に対応して配置された複数の電極の各交点の静電容量の変化により、人の指やペンなどの物体の位置を検出する静電座標入力装置ならびに静電座標入力方法において、高速の検出を可能にする。
【解決手段】ある送信電極の電圧を変化させた直後に、電圧の変化しない他の送信電極のインピーダンスが一時的に高くなるように、トライステート駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元座標に対応して配置された複数の電極の各交点の静電容量の変化により、人の指などの物体の座標を検出する静電座標入力装置、静電座標入力方法および情報機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近傍に配置される2つの電極間に人の指などの物体が接近すると、電極間の静電容量が変化することが知られている。この原理を検出領域の2次元座標に対応して配置された複数の電極の各交点の静電容量の検出に応用した静電タッチセンサなどの静電座標入力装置が開示され、一部が実用化されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
このような従来の静電座標入力装置の一例について、図14及び図15を基に説明する。
【0004】
図14の例では、支持部102において検出領域103に縦方向の座標に対応する送信電極104と横方向の座標に対応する受信電極105が互いに直交して配置されている。送信電極104には、バイステート駆動部1402から選択的に1つの電極ごと(線順次駆動)に周期的な交流電圧が印加される。この交流電圧は、送信電極104と受信電極105との交点の静電結合により、受信電極105に伝達される。電流測定部107では、仮想接地された受信電極105に流れる電流から対応する各交点の静電結合に応じた値を検出して、検出した値を処理部108に出力する。ここで、微弱な交流電流を累積して求めるために、送信電極104に順次選択的に印加される周期的な交流電圧に同期して累積コンデンサをスイッチ切り換えしたり、復調波形を畳み込むことにより累積する方法が開示されている。
【0005】
処理部108は、2次元の座標に対応した電極の各交点の静電結合に対応した値やその変化から加重平均等を用いて検出対象の物体の位置を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−526831号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0257890号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に示した従来の静電座標入力装置1401では、図15に示されるように、線順次駆動により送信電極の1つずつを選択して順次駆動していた。しかし、選択されていない送信電極も変化しない定電圧を駆動していたため、ある送信電極を選択して駆動した場合に、選択されていない送信電極を迂回して流れる電流により受信電極に到達するまでの時間が長くなるという課題があった。選択されていない電極のインピーダンスを高くすると、ノイズ等により電圧が変化した場合に、受信する電流に影響を与えてしまうため、静電座標入力装置では選択されていない送信電極は低いインピーダンスで一定の電圧にする必要があるためである。
【0008】
そこで本発明では、これらの課題を解決するために以下の装置及び方法を提供する。
ある送信電極を選択して駆動した場合に、選択されていない他の送信電極のインピーダンスを一時的に高くすることにより、選択されていない送信電極への電流の迂回をなくしつつノイズの影響を除去して、受信電極に到達するまでの時間を短くすることにより、高速での検出を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による静電座標入力装置は、支持部上の検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極および他の1つの次元に対応する受信電極と、前記複数の送信電極から選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極の駆動インピーダンスが前記選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるように駆動するトライステート駆動部と、前記受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して測定する電流測定部と、前記電流測定部で測定した電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求める処理部とにより構成した。
【0010】
また、本発明による静電座標入力方法では、物体の接近を検出する検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極について選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極の駆動インピーダンスが前記選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるようにトライステート駆動し、前記検出領域における他の1つの次元に対応する受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して電流測定し、得られた電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求めるようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送信電極から受信電極までの信号の遅延時間を短くすることができるため、検出速度を速くして、スムーズな入力を可能にする。
【0012】
あるいは、充放電のサイクル数を増やすことによりノイズの影響を低減したり、駆動電圧を低くすることができる静電座標入力装置及びその方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る静電座標入力装置の好適な一実施例を示すブロック図
【図2】本発明に係るトライステート駆動部の実施例を示すブロック図
【図3】本発明に係る電流測定部の実施例を示すブロック図
【図4】本発明に係る処理部の実施例を示すブロック図
【図5】本発明に係る静電座標入力方法の好適な一実施例を示す工程フロー図
【図6】本発明に係るタイミング発生部のタイミング図
【図7】本発明に係るトライステート駆動工程と電流測定工程のタイミング図
【図8】本発明に係る送信電極の駆動波形を示すタイミング図
【図9】本発明による検出領域の等価回路を示す概念図
【図10】本発明の効果を示す特性図
【図11】本発明に係る送信電極の駆動波形の他の例を示すタイミング図
【図12】本発明を用いる情報機器の例を示すブロック図
【図13】本発明を用いる情報機器の例を示す図
【図14】従来の静電座標入力装置のブロック図
【図15】従来の静電座標入力装置の動作を示すタイミング図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による静電座標入力装置は、支持部上の検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極と、他の1つの次元に対応する受信電極と、前記複数の送信電極から順次選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極の駆動インピーダンスが選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるように駆動するトライステート駆動部と、前記受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して測定する電流測定部と、前記電流測定部で測定した電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求めるとともに静電座標入力装置全体のステータス及びシーケンスを管理する処理部とにより構成した。
【0015】
また、本発明による静電座標入力方法では、物体の接近を検出する検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極について選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の1つ以上の送信電極の駆動インピーダンスが前記選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるようにトライステート駆動し、前記検出領域における他の1つの次元に対応する受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して電流測定し、得られた電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求めるようにした。
【0016】
本発明の特徴について、従来例との違いを説明する。
【0017】
駆動部の相違。従来のバイステート駆動部1402から本発明のトライステート駆動部106へ置き換えた。従来は2値で駆動していたが、本発明では図2に示すようなトライステートバッファ202を用いてハイインピーダンス状態を加えた3つの状態で駆動するという相違点がある。
【0018】
これにより、本発明では、選択された送信電極の駆動電圧が変化した直後に、選択されていない送信電極のインピーダンスを一時的に高くすることにより、電流測定部に到達するまでの遅延時間を短くする点が異なる。
【実施例】
【0019】
本発明による静電座標入力装置の好適な実施例を、図面を基に説明する。なお、以降の説明において、送信電極104と受信電極105の数およびそれらに対応した回路やタイミングは、説明の便宜上少ない数にしているが、本発明の特徴はこれらの数に制限されるものではない。また、以降の説明において、<>は大見出し、[]は中見出し、()は小見出しを表すものとする。
【0020】
<静電座標入力装置>
図1は、本発明による静電座標入力装置のブロック図である。本発明による静電座標入力装置101は、支持部102上の検出領域103における1つの次元に対応する複数の送信電極104と、他の1つの次元に対応する受信電極105と、前記複数の送信電極104から順次選択した1つ以上の送信電極104の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極104の駆動インピーダンスが選択された送信電極104の電圧の変化の直後に一時的に高くなるように駆動するトライステート駆動部106と、前記受信電極105からの電流あるいは電荷量を前記送信電極104への駆動に同期して測定する電流測定部107と、前記電流測定部107で測定した電流値あるいは電荷量から前記検出領域103に入力した座標を求めるとともに、静電座標入力装置全体101のステータス及びシーケンスを管理する処理部108とにより構成した。
【0021】
[検出領域]
支持部102上の検出領域103には、例えば縦方向の座標に対応する複数の送信電極104と横方向の座標に対応する1つ以上の受信電極105を互いに直交して配置した。しかし、送信電極104と受信電極105の配置はこの限りでなく、斜交座標や角度と原点からの距離からなる円座標など2次元座標に対応するものであればどのように配置しても良い。これらの電極は導電性であり、送信電極104と受信電極105の交点では絶縁層により両電極が直流的に絶縁されて電気的に静電結合している。
【0022】
したがって、説明の便宜上nを1からNまでの自然数としmを1からMまでの自然数とすると、n番目の送信電極104に印加された周期的な交流電圧は、n番目の送信電極104とm番目の受信電極105との交点の静電結合を介して、m番目の受信電極105に伝達される。
【0023】
検出面に汚れなどの影響があると、接近した物体自体のインピーダンスが高いため、接近した物体を介しての電界により送信電極104と受信電極105の間の電界が増えて、送信電極104と受信電極105の間の静電結合は増加し、受信電極105に流れる受信電流も大きくなる。逆に検出対象の人の指など比較的インピーダンスの低い物体が接近した場合には、送信電極104からの交流電界を吸収する作用の方が強いために、送信電極104と受信電極105の間の静電結合は減少し、受信電極105に流れる受信電流は小さくなる。従って、汚れと人の指などの検出対象は、容易に区別することができる。
【0024】
また、以上に接近する物体を介して電界が変化することを利用する方式の検出領域について説明したが、本発明による静電座標入力装置101および静電座標入力方法では、検出領域103において送信電極104を構成する層と受信電極105を構成する層のギャップが、ペンや指などにより押される力により変化し、このギャップの変化による静電容量の変化を検出するようにしても良い。
【0025】
ここで、受信電極105は、安定して検出するために、接地あるいは仮想接地などにより電圧の変動が抑えられている。このため、受信電極105への伝達は、電圧と言うよりはむしろ電流である。つまり、選択された送信電極104とある受信電極105との交点には、静電結合により交流電界が発生するために、受信電極105に受信電流が流れるのである。そこで、物体が接近した交点では交流電界が変化するために、受信電極105に流れる受信電流が変化する。
【0026】
なお、いずれの方法においても、静電座標入力装置101が表示装置の上に重ねて用いられる場合などには送信電極104や受信電極105は透明にする必要があるため、送信電極104や受信電極105は無視できない抵抗値を持っている。また、検出領域103の周辺での配線抵抗も無視できない場合がある。従って、交流の伝達に遅延時間を生じる。本発明では、この遅延時間を短縮する。
【0027】
<トライステート駆動部>
図2(a)はトライステート駆動部106の回路構成を示したものである。トライステート駆動部106は、各送信電極104に駆動波形を供給するため、タイミング発生部201と各送信電極に対応したトライステートバッファ202とにより構成した。
【0028】
[タイミング発生部]
タイミング発生部201は、処理部108からの起動により1フレーム分の送信電極の駆動に必要な論理信号211とゲート信号212及び電流測定部107の電流測定に必要な同期信号213を生成する。なお、この例での同期信号213は、電荷クリア信号と電圧測定信号である。
【0029】
[トライステートバッファ]
トライステートバッファ202は、送信電極104をハイレベル、ローレベルおよびハイインピーダンスのトライステート駆動する。各トライステートバッファ202に入力される論理信号211およびゲート信号212は、タイミング発生部201から入力する。各トライステートバッファ202の出力する駆動波形1〜4は各々が送信電極1〜4に接続される。
【0030】
[トライステート駆動部の他の例]
図2(b)は、トライステート駆動部106の他の例として、オフした時に所定のインピーダンスにするために、トライステートバッファ202の代わりに、バイステートバッファ221の出力に抵抗223とスイッチ222の並列接続を挿入したものである。スイッチ222がゲート信号212によりオンするとインピーダンスが充分に小さくなり、スイッチ222がゲート信号212によりオフすると、抵抗223のインピーダンスにより駆動する構成である。図2(a)の構成に較べ、選択されていない送信電極への電流の迂回が若干あるが、インピーダンスを高くした時のノイズの影響を小さくすることができる。
【0031】
<電流測定部>
図3は、電流測定部107の構成を示したものである。電流測定部107は、積分部301とADC部302と累積部303とにより構成した。電流測定部107は、1つ以上の受信電極105の各々に対応して同様の構成が複数存在するようにしたが、マルチプレクサ等を用いて時分割することにより、複数の受信電極105について共用するように構成しても良い。
【0032】
[積分部]
積分部301は、演算増幅器311とコンデンサ312とスイッチ313とにより構成した。演算増幅器311は出力端子から負の入力端子へのコンデンサ312による負のフィードバックにより積分回路を構成する。受信電極105からの受信電流を積分して電荷量に対応した電圧値に変換する。基準になる電圧は、正の入力端子に接続される0Vとした。コンデンサ312の両端にはスイッチ313が接続されており、タイミング発生部201からの電荷クリア信号により初期化される。
【0033】
[ADC部]
ADC部302は、積分部301の出力電圧をデジタル値に変換する。ADC部302は、タイミング発生部201からの電圧測定信号が真になったタイミングで変換するようにした。
【0034】
[累積部]
累積部303は、送信電極ごとの複数回の電圧変化に対応したADC部302からのデジタル値を累積する。電圧が立ち上がりの場合は加算し、立下りの場合には減算して累積するようにした。なお、ADC部302と累積部303はシグマデルタ型のアナログデジタル変換器などによりまとめて構成しても良い。
【0035】
なお、ADC部302と累積部303を入換えて、累積部303でアナログで累積した結果を、ADC部302でデジタル値に変換するようにしても良い。
【0036】
[オフセット除去]
また、電流測定部107の回路あるいは処理部108の演算において、検出対象の物体が接近していない場合の測定値に近い値をオフセットとして差し引くようにすると、物体の接近による測定値の変化をより正確に測定することが出来る。このためのオフセット値は、選択する送信電極104や複数の受信電極105について共通の値を用いても良いし、個別に最適な値を用いても良い。個別に最適な値を用いると、検出領域103の一部に汚れ等があった場合でも、影響を除去して良好な検出をすることができる。
【0037】
<処理部>
図4は、処理部108の一例を示したものである。処理部108は、汎用的なマイクロプロセッサを用いて実現した。処理部108は、CPU部401,ROM部403,RAM部404,ポート部405,I/F部407およびタイマ408を含み、これらはCPUバス402により接続されている。
【0038】
CPU部401は、情報の処理や演算を行う。ROM部403は、CPUが処理するプログラムを格納している。RAM部404は、処理に必要な状態やパラメータなどを一時記憶する。ポート部405は、トライステート駆動部106及び電流測定部107とのステータスやパラメータの入出力を行う。I/F部407は、座標の検出結果を出力するなど、静電座標入力装置101の外部とのインターフェイスを行う。タイマ部408は、CPU部401の動作タイミングの基準となる信号を生成する。
【0039】
処理部108は、電流測定部107で測定した電流値の変化を閾値と比較して座標入力の有無を判定するとともに、荷重平均により入力座標を演算するようにした。
【0040】
また、処理部108は、静電座標入力装置101全体のステータス及びシーケンスを管理する。ここでいうステータスとは例えば電流測定中など各部の状態を指し、シーケンスとは例えば所定の時間での検出の起動などを指す。
【0041】
<静電座標入力方法>
図5は、本発明による静電座標入力方法の工程の一例を示すフロー図である。本発明による静電座標入力方法では、物体の接近を検出する検出領域103における1つの次元に対応する複数の送信電極104から1つの送信電極104を順次選択して電圧を変化させるとともに非選択の送信電極104の駆動インピーダンスが選択された送信電極104の電圧の変化の直後に一時的に高くなるようにトライステート駆動工程501で駆動し、他の1つの次元に対応する1つ以上の受信電極105から流れ込む電流あるいは電荷量を前記送信電極104への駆動に同期して電流測定工程511で測定し、得られた電流値あるいは電荷量から前記検出領域103への座標入力の有無および入力した座標を座標演算工程521で求めるようにした。
【0042】
なお、トライステート駆動工程501及び電流測定工程511は、SN比を向上させるために、同一の送信電極104を選択しながら複数回繰り返すようにした。送信電極104と受信電極105の各交点に形成される静電容量の値は通常1〜100pF程度の微小な値であり、受信電極105に流れる受信電流やその変化も微弱である。そのため、受信電極105に流れる受信電流を検出するために、送信電極104から印加される複数の周期による電流を累積して検出する。
【0043】
但し、通常受信電極105に流れる受信電流は交流であるため、単純に累積してしまうと累積値が相殺されてしまう。これを回避するために、累積部303では交流電流の位相に同期して極性を切換えながら累積を行う。図5のフローに示す例では、駆動論理の立ち上がりと立下りの両方を用いたため、cを1からCまでの自然数として、サイクル数Cの2倍の回数になるまでカウントして繰り返すようにした。
【0044】
ここで、各電極はそれ自体に抵抗値と静電容量をもっているために高い周波数は減衰し、交点は直列の静電容量のために低い周波数が減衰する。これらを勘案して、送信電極に印加する電圧の周波数は、減衰の小さい周波数にすることが望ましい。
【0045】
さらに、検出領域103のすべての送信電極104から駆動する送信電極104を順次選択し、検出領域103全体の送信電極104を駆動するため、図5のフローに示す例ではt(1からTまでの自然数)をカウントすることによりT回繰り返すようにした。従って、Tは通常送信電極104の数Nと一致する。
【0046】
検出領域103全体にわたり送信電極104を駆動して受信電極105に流れ込む電流を測定した後に座標演算工程521を行うようにしたが、これは一例であり、例えば選択期間ごとに座標演算工程521を行うようにしたり、並列処理により座標演算工程521を実行しながら次のトライステート駆動工程501と電流測定工程511を実行するなど、全体のフローに特に制約はない。
【0047】
また、図5のフロー全体は、処理部108からの起動により定期的に繰り返すようにした。
【0048】
[トライステート駆動工程]
トライステート駆動工程501は、非選択の送信電極104を駆動するトライステートバッファ202の出力インピーダンスを高くする非選択ゲートオフ工程502と、選択した送信電極の電圧を変化させる駆動論理遷移工程503と、非選択の送信電極を駆動するトライステートバッファの出力インピーダンスを低くする非選択ゲートオン工程504とにより駆動する。図5では駆動論理遷移工程503の前に非選択ゲートオフ工程を行う場合の例を示しているが、非選択ゲートオフ工程502と駆動論理遷移工程503はほぼ同時でも良い。
【0049】
[電流測定工程]
また、電流測定工程511は、トライステート駆動工程501の前に積分部301のコンデンサ312をスイッチ313でオンすることによりクリアする電荷クリア工程512と、トライステート駆動工程501の後に積分部301の出力電圧をデジタル値に変換するADC工程513と、選択された送信電極104あるいはその組合せごとにADC工程で得られたデジタル値を累積部303で累積する累積工程514とにより受信電極105からの電流を測定するようにした。
【0050】
[座標演算工程]
座標演算工程521では、電流測定工程511で求めた2次元の座標に対応した電極の各交点の静電結合に依存した電流値あるいはその推移から、加重平均などにより検出対象の物体の接近判定と位置を演算する。
【0051】
<トライステート駆動工程と電流測定工程の動作タイミング>
図6及び図7は、本発明の特徴であるトライステート駆動工程501と電流測定工程511の具体的な動作タイミングの一例について示したものである。図6は最初の選択期間1の最初のサイクルの立ち上がりについて詳細なタイミングを示したものであり、図7は検出領域103全体の走査についてのタイミングを示したものである。図6及び図7は、タイミング発生部201が生成する論理信号211,ゲート信号212及び同期信号213の一例について、タイミング関係を示している。ここで、論理信号1〜4及びゲート信号1〜4は、各送信電極104に対応してタイミング発生部201からトライステートバッファ202に接続される信号を示している。
【0052】
図6において横軸は共通の時間軸で、縦軸は論理レベルである。上側が真で下側が偽である。但し、受信電流については、アナログの電流値である。
【0053】
(クロック)
タイミング発生部201で生成する信号は、時間の基準となるクロックをカウントして生成するようにした。
【0054】
(選択された送信電極)
論理信号1は、選択された送信電極104の例としての送信電極1に接続されるトライステートバッファ202に入力される論理信号である。初期的には偽レベルであるが、図中クロックの3番目の立ち上がりで真レベルに立ち上がるようにした。論理信号の真レベルは、クロックの14番目の立ち上がりまで真を維持している。なお、選択されている送信電極1に接続されるトライステートバッファ202に接続されるゲート信号は、図示しないが、常に真である。
【0055】
(非選択な送信電極)
非選択の送信電極104に対する例として、ゲート信号2は、送信電極2に接続されるトライステートバッファ202のゲート入力に接続される信号である。ゲート信号2は、選択されている論理信号1の変化とほぼ同時に真から偽に変化するようにした。このゲート信号2は、受信電流がほぼ収束するまでの間偽のレベルを維持し、クロックの9番目の立ち上がりにより真に戻すようにした。ここで、ゲート信号2を真に戻すのは、送信電極2の電圧がノイズ等により変化する状態では、送信電極2から受信電極にノイズが流れ込んでしまい、正確な検出ができなくなるからである。また、非選択な送信電極2に接続されるトライステートバッファ202に接続される論理信号は、図示しないが、一定のレベルで変化しないようにした。
【0056】
なお、送信電極2以外についても同様である。
【0057】
(電荷クリア)
選択した送信電極の電圧を変化させる前に、クロックの1番目のサイクル期間、電荷クリア工程512で電荷クリアを真にして積分部301のコンデンサ312の両端を短絡する。
【0058】
(ADC)
ゲート信号2など非選択の送信電極に対応するゲート信号を真にしてからクロックの1サイクル分経過した後、クロックの10番目の立ち上がりによりADC工程513でADC部302により電圧の測定を行うようにした。
【0059】
図7において、横軸は共通の時間軸で、縦軸は各信号の論理レベルであり、上側が真で下側が偽であることを示している。図7は、図6に示したタイミングを、駆動論理反転や複数サイクルの繰り返しや選択する送信電極を切り替えながら検出領域全体の走査についてのタイミングを示したものである。
【0060】
(線順次駆動)
図7に示すように、本実施例においては、4本の送信電極1〜4を選択期間t=1〜4により線順次で駆動する。つまり、選択期間1で選択されている送信電極1を論理信号1とゲート信号1により駆動する。この際、非選択な送信電極2〜4については、論理信号は変化せずに一定のレベルを維持し、ゲート信号は選択された送信電極に対応する論理信号の変化の直後に一時的に偽になっているように駆動するようにした。選択期間2〜4についても同様である。
【0061】
(複数サイクル検出)
さらに、選択期間1においては、選択された論理信号は、SN比を改善するため、2サイクル電圧を変化させるようにした。つまり、立ち上がり,立ち下がり,立ち上がり,立ち下がりの4回の電圧変化である。これら4回の電圧変化の各々について、電流測定工程511で電流測定部107により電流を測定するとともに、4回の測定値を累積する。この際、累積工程514で累積部303により立ち上がりに対応する測定値を加算し、立ち下りに対応する測定値は減算する。累積工程514での累積は、選択している送信電極ごとに行い、選択期間1〜4に対応して累積された測定値1〜4を得るようにした。
【0062】
<発明の作用と効果>
ここで、本発明の作用と効果について説明する。
【0063】
[駆動波形]
図8は、以上に説明した構成及び方法で、送信電極1〜4を各々駆動した駆動波形1〜4を示したものである。図8において、横軸は共通の時間軸であり、縦軸は電圧レベルである。
【0064】
駆動波形は、トライステートバッファ202のゲート信号が真の間論理信号がそのまま送信電極104に出力され、ゲート信号が偽になるとインピーダンスが高くなり、電圧は不定になる。したがって、線順次で選択された送信電極104には各々2サイクル分の電圧変化が出力され、選択されていない送信電極104の電圧は選択された送信電極の電圧が変化した直後に一時的に不定になる。なお、図中、斜線で塗りつぶされた時間は電圧が不定であることを示している。
【0065】
[検出領域の等価回路]
図9は、検出領域103の等価回路を集約したものを示す概念図である。ここで、駆動uは、選択された送信電極104に接続する信号である。抵抗Ruは、選択された送信電極104への配線抵抗及び電極自体の抵抗を表している。コンデンサCuは、選択された送信電極104と受信電極105の交点の静電容量を表している。コンデンサCwは、非選択の送信電極104と受信電極105との交点の静電容量を表している。抵抗Rwは、非選択な送信電極104の配線抵抗及び電極自体の抵抗を表している。スイッチSwは、非選択な送信電極104のインピーダンスを切換えるためのものである。抵抗Rxは、受信電極105への配線抵抗及び受信電極105自体の抵抗である。
【0066】
従来の静電座標入力装置あるいは静電座標入力方法では、スイッチSwがオンしている状態が継続しているため、駆動uにスイップ状の電圧変化を印加すると、選択された駆動電極からの電流Iuは、非選択の送信電極104に流れる電流Iwと受信電極105に直接流れるIxに分かれる。この時に非選択の送信電極104に流れ込む電流はコンデンサCwに蓄積される。その後コンデンサCuにより直流成分がカットされてIuが途絶えると、コンデンサニCwに蓄積された電荷が受信電極105に流れ込む。このように、選択された送信電極104からの電流の一部が選択されていない送信電極104を迂回して受信電極104に流れ込むため、遅延時間が長くなっていた。
【0067】
一方、本発明によりスイッチSwを選択された送信電極104の電圧変化の直後に一時的に開いていると、選択された送信電極104からの電流Iuは非選択の送信電極104を迂回することなく直接受信電極105に流れ込むために、遅延時間を短くすることができる。
【0068】
[計算結果]
図10は、図9に示す回路で流れる電流の時間変化を計算したものである。図中、破線は選択された送信電極104からの電流Iuを示し、点線は受信電極105に流れ込む電流Ixを示し、一点鎖線は選択されていない送信電極104を迂回する電流Iwを示し、実線は受信電極105に流れ込んだ電流を積分した電荷量Qを示している。
【0069】
また、ここでは、送信電極数を30,受信電極数を24とし、1本の送信電極の配線抵抗を82kΩ,1本の受信電極の配線抵抗を195kΩ,1本の送信電極と1本の受信電極との交点の静電容量を40pFとした。ここで、複数の送信電極や複数の受信電極を一つに集約するために、並列接続として計算すると、抵抗Ruを82kΩ,コンデンサCuを960pF,コンデンサCwを28nF,抵抗Rwを2.8kΩ,抵抗Rxを8.1kΩとなる。
【0070】
図10(a)は本発明による静電座標入力装置及び静電座標入力方法を想定してスイッチSwをオフとして計算したトライステート駆動のステップ応答であり、図10(b)は従来の静電座標入力装置及び静電座標入力方法を想定してスイッチSwをオンとして計算したバイステート駆動のステップ応答である。この例では、本発明により、従来と比較して約3.6分の1の短時間で電荷量Qが収束している。
【0071】
以上に示したように、本発明によると、選択した送信電極104の電圧の変化の直後に非選択の送信電極104のインピーダンスを高くすることにより、非選択の送信電極104への電流の迂回をなくして、受信電極105に到達するまでの遅延時間を大幅に短くすることができる。
【0072】
以上、図10に示すように、線順次に送信電極104を1本づつ選択して、非選択の送信電極104の全てについて選択された送信電極104の電圧が変化した直後に一時的にインピーダンスを高くし、選択された送信電極104の電圧の立ち上がりと立ち下りについて受信電極105に流れ込む電流を測定して累積する構成及び方法について説明したが、本発明による静電座標入力装置101あるいは静電座標入力方法はこの限りではない。
【0073】
図11は、他の駆動波形を示したものである。図11は図8と同様に、横軸は共通の時間軸で、縦軸は各送信電極の電圧を示している。図11で斜線で塗りつぶされた時間はインピーダンスが高く電圧が不定であることを示している。
【0074】
図11(a)は、端の送信電極についてはインピータンスを高くしないように送信電極を駆動することにより、外部からのノイズの影響を小さくするようにしたものである。
【0075】
また、図11(b)に示すように、選択された送信電極の隣の送信電極については、インピーダンスを高くしないように送信電極を駆動することにより、選択された送信電極からの電圧の変化による放射ノイズを低減することができる。
【0076】
さらに、図11(c)に示すように、例えば選択された送信電極の立ち上がりの直後にのみあるいは立下りの直後にのみ、選択されていない送信電極のインピーダンスを一時的に高くなるようにしても良い。
【0077】
また、図11(d)に示すように、複数の送信電極を選択して駆動する場合でも、選択しない送信電極について、選択した送信電極の電圧が変化した直後に一時的にインピーダンスを高くすることにより、受信電極への遅延時間を短くすることができる。図11(d)の例は、アダマール行列を用いて駆動した場合の例である。但し、この場合には、受信電極への電流の測定値から相関や逆行列の演算を行う必要があることは言うまでもない。
【0078】
さらに、駆動波形について、以上に立ち上がりの後に立ち下がりを駆動する場合の例を示したが逆相であっても良いことは言うまでもない。
【0079】
また、図12に示すように、本発明による静電座標入力装置101をディスプレイ1231を持つCPU1221に接続することにより、情報機器を構成することができる。
【0080】
具体的には、本発明による静電座標入力装置101により、図13(a)に示すような携帯電話や図13(b)に示すようなマルチメデイアプレーヤーや図13(c)に示すようなナビゲ―ションシステムや図13(d)に示すようなコンピュータなどのディスプレイ装置上に透明な検出領域103を重ねることによりタッチスクリーン1331を構成し、ノイズに強く安定したスムーズな操作を可能にした携帯機器やコンピュータなどの情報機器を実現することが出来る。
【0081】
図13(a)〜(d)に示す情報機器の構成として、情報機器を保護するケース1311と、情報を出力するタッチスクリーン1331と、ディスプレイ1231上に設置された検出領域103からの入力を受け付け物体の接近や位置を特定する本発明の静電座標入力装置101と、静電座標入力装置からの入力とディスプレイ1231への出力を制御するCPU1221と、により成り立つ。また、図13(a)、図13(b)や図13(d)に示されるようにキーボード1321が情報機器に備え付けられていても良い。
【符号の説明】
【0082】
101 静電座標入力装置
102 支持部
103 検出領域
104 送信電極
105 受信電極
106 トライステート駆動部
107 電流測定部
108 処理部
201 タイミング発生部
202 トライステートバッファ
501 トライステート駆動工程
502 非選択ゲートオフ工程
503 駆動論理遷移工程
504 非選択ゲートオン工程
511 電流測定工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指やペンなどにより座標を入力する静電座標入力装置であって、
支持部上の検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極および他の1つの次元に対応する受信電極と、
前記複数の送信電極から選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極の駆動インピーダンスが前記選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるように駆動するトライステート駆動部と、
前記受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して測定する電流測定部と、
前記電流測定部で測定した電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求める処理部と
により構成されることを特徴とする静電座標入力装置。
【請求項2】
前記トライステート駆動部が、トライステートバッファを有することを特徴とする請求項1に記載の静電座標入力装置。
【請求項3】
指やペンなどにより座標を入力する静電座標入力方法であって、
物体の接近を検出する検出領域における1つの次元に対応する複数の送信電極について選択した1つ以上の送信電極の電圧を変化させるとともに非選択の送信電極の駆動インピーダンスが前記選択された送信電極の電圧の変化の直後に一時的に高くなるようにトライステート駆動し、
前記検出領域における他の1つの次元に対応する受信電極からの電流あるいは電荷量を前記送信電極への駆動に同期して電流測定し、
得られた電流値あるいは電荷量から前記検出領域に入力した座標を求める
ことを特徴とする静電座標入力方法。
【請求項4】
前記トライステート駆動する際に、端部の送信電極については、駆動インピーダンスを高くしないことを特徴とする請求項3に記載の静電座標入力方法。
【請求項5】
前記トライステート駆動する際に、前記選択された送信電極の隣の送信電極については、駆動インピーダンスを高くしないことを特徴とする請求項3に記載の静電座標入力方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の静電座標入力装置に従った入力装置を備えている情報機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−257884(P2011−257884A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130483(P2010−130483)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】