説明

静電的相互作用を利用した水分散性磁性粒子

【課題】タンパク質などの生体物質が非特異的に吸着することを軽減し、粒子と分散剤のより強固な相互作用を利用して安定に分散にでき、ハンドリングが簡便な水分散性磁性粒子を提供すること。
【解決手段】磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆した磁性粒子からなる水分散性磁性粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散性磁性粒子に関する。より詳細には、本発明は、タンパク質などの生体物質が非特異吸着しにくい水分散性磁性粒子であって、磁性粒子とカルボン酸との相互作用より強固な静電的相互作用を利用した水分散性磁性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
超常磁性酸化鉄ナノ粒子(Superparamagnetic iron oxide nanoparticles: SPION)は、MRIプローブ、ドラッグデリバリー、ハイパーサーミアなどのバイオメディカルへの応用が期待されている。超常磁性酸化鉄(SPIO)は、従来のコトラスト試薬(常磁性ガドリニウム基体のプローブ)に比べ、より高いコントラストが期待されているが、SPIOをin vivoで利用すると、血漿中での粒子同士の付着、凝集体の形成がおこり、マクロファージのようなRES(Reticular endothelial system)によって速やかに排出される。さらには、SPIOが凝集すると、その常磁性特性が低減する。このようなSPIOの速やかな排出はopsonization process という粒子表面への血漿タンパク質の非特異的な吸着によって引き起こされることが知られている。この現象は、ナノサイズ粒子間の斥力と同様に、その高い体積比表面積によって、より効果的に起こる(粒子サイズが小さくなればなるほど、その効果が顕著に表れる)。そのため、SPIO粒子表面をいかに加工して、生理条件下(高塩濃度、高タンパク質濃度)で生体物質付着性を最小限に抑えるか、または、粒子同士の凝集を防ぐかが重要である。
【0003】
例えば、いくつかの合成ポリマーや天然物由来のポリマーが、その表面修飾に利用されている(非特許文献1及び2)。これらのポリマーは、デキストラン、PEG(ポリエチレングリコール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などであり、生体適合性に優れ、長い血中滞留性を有することが報告されているが、被覆粒径にばらつきがあることや、ハンドリングの煩雑さが問題である。
【0004】
また、低分子分散剤では、粒子間の電荷反発を利用した水分散が報告されているが(非特許文献3)、粒子表面への非特異的なタンパク質の吸着(静電的な相互作用による)が懸念されることと、分散剤と粒子界面との相互作用にカルボン酸を利用しているために、濃度に依存して分散剤が解離するという問題が挙げられる。
【0005】
また、特許文献1には、磁気分離性と生化学物質結合量に優れた磁性粒子として、ポリマーおよび磁性体からなる粒子であって、平均粒径がd(μm)、平均表面積がS(μm2)であって下記式:f・4π(d/2)2= S f ≧2を満たすことを特徴とする磁性粒子が開示されている。
【0006】
【非特許文献1】Biomaterials., 26, 3995 (2005)、
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 128, 7383 (2006)
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 125, 5733, (2005)
【特許文献1】特開2006−70064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、タンパク質などの生体物質が非特異的に吸着することを軽減し、粒子と分散剤のより強固な相互作用を利用して安定に分散にでき、ハンドリングが簡便な水分散性磁性粒子を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行い、(メトキシ基)−(ポリエチレングリコール成分)−(ホスホン酸基またはリン酸基)という構造を有する化合物を合成することに成功し、さらに該化合物を用いて磁性粒子を被覆することによって、安定した分散性を有する水分散性磁性粒子を製造することに成功して、本発明を完成するに至った。特に、血液サンプルなどの生体サンプル中には、様々な成分が混在するため、それを用いたアッセイでは、前処理したサンプルが用いられる。そのため、煩雑な操作を必要とし、検査に時間のかかることが問題とされてきた。本発明のように、高塩強度中で安定に分散する磁性ナノ粒子が実現できると、磁性を用いた標的成分の分離、検出などに威力を発揮すると期待される。
【0009】
即ち、本発明によれば、磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆した磁性粒子からなる水分散性磁性粒子が提供される。
【0010】
好ましくは、本発明の水分散性磁性粒子は、平均粒径1〜70nmのナノ粒子である。
好ましくは、磁性粒子は金属酸化物である。
好ましくは、磁性粒子と静電的相互作用できる構造は、ホスホン酸またはリン酸である。
好ましくは、分散剤は、ポリエチレングリコール構造を有する分散剤である。
【0011】
好ましくは、分散剤は、下記式(1)で表される化合物またはその塩である。
Z−L−(O−CH(R)CH2n−X (1)
(式中、Zは、P(=O)(OH)2−又はP(=O)(OH)2−O−を示し、Lは単結合又は連結基を示し、Rは水素原子又は−CH3を示し、Xは−OCH3又は−OHを示し、nは2から20の整数を示す)
【0012】
好ましくは、分散剤は、下記の何れかの化合物またはその塩である。
【化1】

【0013】
本発明の別の側面によれば、下記式(1)で表される化合物またはその塩が提供される。
Z−L−(O−CH(R)CH2n−X (1)
(式中、Zは、P(=O)(OH)2−又はP(=O)(OH)2−O−を示し、Lは単結合又は連結基を示し、Rは水素原子又は−CH3を示し、Xは−OCH3又は−OHを示し、nは2から20の整数を示す)
【0014】
好ましくは、下記の何れかの化合物またはその塩が提供される。
【化2】

【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の化合物又はその塩を含む、粒子被覆剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の化合物又はその塩を含む、粒子分散剤が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の水分散性磁性粒子を含む、温熱療法剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の水分散性磁性粒子を含む、MRI造影剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の水分散性磁性粒子を含む、薬物送達剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の水分散性磁性粒子を含む、分析診断用プローブが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の式(1)で表される化合物は、タンパク質などの生体物質の非特異的な吸着を軽減することができる。すなわち、本発明の式(1)で表される化合物は、エチレングリコール部分により安定な水分散性を発揮すると同時に、末端のメトキシ基を利用して金属酸化物粒子上でのタンパク質などの生体物質との相互作用を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
Z−L−(O−CH(R)CH2n−X (1)
(式中、Zは、P(=O)(OH)2−又はP(=O)(OH)2−O−を示し、Lは単結合又は連結基を示し、Rは水素原子又は−CH3を示し、Xは−OCH3又は−OHを示し、nは2から20の整数を示す)
【0019】
式(1)において、Lは単結合又は連結基を示す。Lは単結合が好ましい。連結基としては、炭素数1から6のアルキレン基、−NH−、−CO−、−O−、−S−、又はこれらの組み合わせなどを挙げることができる。好ましくは、炭素数1から6のアルキレン基である、例えば、−CH2−CH2−などを挙げることができる。式(1)において、Rは水素原子又は−CH3を示し、好ましくは水素原子である。式(1)において、Xは−OCH3又は−OHを示し、好ましくは−OCH3である。nは2から20の整数を示し、好ましくは2から10の整数を示し、さらに好ましくは2から5の整数を示す。
【0020】
本発明の化合物は、遊離したリン酸またはホスホン酸の形態で存在してもよいし、又は1塩又は2塩の形態で存在してもよい。塩としては塩基付加塩が挙げられ、塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、若しくはカルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩若しくはエタノールアミン塩などの有機アミン塩などを用いることができる。さらに、本発明の化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合があるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物は、置換基の種類によっては1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0021】
本発明の式(1)の化合物のうち、Xがメトキシ基(−OCH3)である化合物は、本明細書の実施例にも示す通り、以下の反応経路により合成することができる。
【0022】
【化3】

【0023】
先ず、CH3-O−(CH(R)CH2O)n−H(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)で表される化合物、四臭化炭素、及びトリフェニルホスフィンを乾燥THFに溶解し、反応させる。反応温度は特に限定されないが10から50℃程度で行うことができ、反応は数分から2時間程度で行うことができる。反応終了後、n-Hexaneを加え、ろ過したろ液を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーによる精製を行う。その結果、無色透明液体状化合物が得られる。
【0024】
次に、上記で得られた化合物をトリエチルホスフィンに溶解させ、反応温度を150℃に設定して攪拌する。反応終了後、未反応のトリエチルホスフィンを減圧去し、無色透明液体が得られる。
【0025】
最後に、上記で得られた化合物とトリメチルシリルブロマイドを塩化メチレンに溶解させ、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、メタノールを加え、室温で攪拌する。反応終了後、溶媒を減圧留去し、目的化合物である、本発明の式(1)の化合物のうちXがメトキシ基(−OCH3)である化合物が得られる。
【0026】
本発明の式(1)の化合物のうち、Xがアルコール(−OH)である化合物は、以下の反応経路により合成することができる。
【0027】
【化4】

【0028】
なお、本明細書の実施例には、上記式(1) に包含される化合物の製造方法が具体的に説明されている。従って、この製造方法において用いられた出発原料、反応試薬、及び反応条件などを適宜選択し、必要に応じてこれらの製造方法に適宜の修飾ないし改変を加えることにより、本発明の範囲に包含される化合物はいずれも製造可能である。もっとも、本発明の化合物の製造方法は、実施例に具体的に説明されたものに限定されることはない。
【0029】
本発明の式(1)で表される化合物は、分子内にポリエチレングリコール成分を含むことから粒子を水に分散させる効果を発揮する。従って、本発明の式(1)で表される化合物は、粒子被覆剤、及び粒子分散剤として有用である。即ち、本発明によれば、式(1)で表される化合物からなる粒子被覆剤、及び粒子分散剤が提供される。
【0030】
本発明の式(1)で表される化合物による被覆の対象となる粒子の種類は特に限定されず、有機粒子又は無機粒子の何れでもよいが、好ましくは無機粒子であり、さらに好ましくは金属粒子である。また粒子サイズも特には限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はミリ粒子の何れでもよいが、好ましくはナノ粒子である。
【0031】
また、本発明によれば、磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆した金属磁性粒子からなる水分散性磁性粒子が提供される。ここで用いる磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤の種類は、磁性粒子と静電的相互作用できるものである限り、特に限定されないが、好ましくは、磁性粒子と静電的相互作用できる構造として、ホスホン酸またはリン酸を有する化合物である。また、分散剤は、粒子を水に分散させるという効果を発揮するために、ポリエチレングリコール構造を有する化合物であることが好ましい。上記したような磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤の好ましい例としては、上記した本発明の式(1)で表される化合物を挙げることができる。本発明の静電相互作用する分散剤とは、磁性粒子の酸化膜表面と、静電的に相互作用する分散剤をいう。
【0032】
本発明の水分散性磁性粒子の粒子サイズは特には限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はミリ粒子の何れでもよいが、好ましくはナノ粒子である。
【0033】
本発明で用いる磁性粒子としては、磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤(例えば、本発明の式(1)で表される化合物)で被覆することにより、水性媒体に分散又は懸濁することができ、分散液又は懸濁液から磁場の適用により分離することができる粒子であれば任意の粒子を使用することができる。本発明で用いる磁性粒子としては、例えば、鉄、コバルト又はニッケルの塩、酸化物、ホウ化物又は硫化物;高い磁化率を有する稀土類元素(例えば、ヘマタイト又はフェライト)などが挙げられる。磁性ナノ粒子の具体例としては、例えば、マグネタイト(Fe34)、FePd、FePt、CoPtなどの強磁性規則合金を使用することもできる。本発明では好ましい磁性粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。前記式中、Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。このうち、安全性の観点から酸化鉄、フェライトが好ましい。特に好ましくは、マグネタイト(Fe34)である。
【0034】
磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤(例えば、式(1)で表される化合物)で磁性粒子を被覆する方法は特に限定されず、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、粒子の形成中または形成後に、上記分散剤を、当該粒子を含む液体に添加して混合することにより、当該粒子を上記分散剤で被覆することができる。また、粒子は遠心分離やろ過などの常法により洗浄、精製後、上記分散剤を含有する溶媒(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−エトキシエタノールなどの親水性有機溶媒)に分散させて、粒子を上記分散剤で被覆してもよい。
【0035】
上記のようにして得られる磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆された水分散性粒子が、例えば、腫瘍などの温熱療法剤として使用することができる。磁性ナノ粒子を用いて腫瘍の温熱療法を行う場合、磁性ナノ粒子を患者に投与し、電磁波を照射することによって温熱療法を行うことができる。磁性ナノ粒子の投与方法は、特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよいが、好ましくは非経口投与であり、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉投与、皮下投与など任意の投与経路を選択することができる。磁性ナノ粒子の投与量は、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができるが、一般的には、1回の投与につき、10μg〜100mg/kg程度を投与することができ、好ましくは、20μg〜50mg/kg程度を投与することができる。磁性ナノ粒子を投与してから一定時間後に、電磁波を照射することにより温熱療法を行うことができる。即ち、本発明の磁性体ナノ粒子を体内に注入し、腫瘍箇所に凝集させた後、電磁波をかけることにより局所的に加熱することが可能である。電磁波としては、高周波磁場を用いることが特に好ましく、特に電磁波としては、周波数が、1KHz〜1MHzの高周波磁場であることが好ましい。1KHzより高い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、磁気ヒステリシス加熱の効率が高いからであり、1MHzより低い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、誘導電流による生体の発熱を生起させることなく磁性微粒子を加熱することができるからである。前記高周波磁場の周波数は、なかでも5KHz〜200KHzの範囲が好適である。
【0036】
磁性ナノ粒子は、磁性を有するため、磁力により所定の部位に誘導することができる。即ち、磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆された磁性ナノ粒子は体内に投与し、磁力により疾患部位に誘導することができる、また上記のようにして疾患部位に誘導された磁性ナノ粒子は、MRI造影により確認することができる。即ち、磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆された磁性ナノ粒子は、MRI造影剤として有用である。
【0037】
本発明の磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆された磁性ナノ粒子には、所望により薬物(薬学的活性成分)をさらに含ませてもよい。このような磁性ナノ粒子は、上記の方法に従って疾患部位に誘導した後、高周波をあてて加熱し、ナノ粒子に内包した薬学的活性成分を放出させることができる。即ち、本発明の磁性粒子は、薬物送達剤として有用である。
【0038】
さらに本発明の磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆された磁性ナノ粒子は、分析診断用プローブとして使用することもできる。具体的には、粒子表面に様々な生体物質(DNA, タンパク質、抗体など)を固定化可能なので、以下のような解析においてハイスループットなスクリーニングが可能になると期待される。1)薬剤レセプターの単離・同定、2)レセプターの機能解析、3)生体反応制御ネットワークの解析などである。
【0039】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実施例1:実施例1:本発明の化合物(メトキシ型)の合成
【0041】
【化5】

【0042】
(反応1)
トリエチレングリコールモノメチルエーテル2.5 g、四臭素化炭素6.0 g、トリフェニルホスフィン4.33 gを12 mL乾燥THFに溶解し、室温で1時間攪拌した。反応終了後、n-Hexaneを加え、沈殿物をろ別し、ろ液を減圧留去した。精製はカラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で行った。同定は1H-NMRで行い、無色透明液体化合物2.85 g(83%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 3.80 (s, 3H), 3.47 (t, 2H), 3.57 (m, 2H), 3.65〜3.70(m, 6H), 3.84(t, 2H)
【0043】
(反応2)
反応1で得られた化合物1.0 gをトリエチルホスフィン5.86 gに溶解させ、150℃で20時間攪拌した。反応終了後、トリエチルホスフィンを減圧留去し、得られたオイル状物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、展開組成:酢酸エチル/ヘキサン=1/1〜)により精製し、無色透明液体0.4 g(32%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 1.38 (t, 6H), 2.05〜2.20 (m, 2H), 3.40 (s, 3H), 3.60(m, 2H), 3.60〜3.61(m, 6H)3.70〜3.80(m, 2H)、4.00〜4.20(m, 4H)
【0044】
(反応3)
反応2で得られた化合物0.4 gとトリメチルシリルブロマイド583μLを塩化メチレン1.5 mLに溶解させ、室温で6時間攪拌した。反応終了、溶媒を減圧去し、メタノールを1.5 mLを加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、透明オイル状化合物300 mg(93%)を得た。1H-NMR(D2O, TSP, r. t.)δ/ ppm = 1.95〜2.10 (m, 2H), 3.25 (s, 3H), 3.50 (m, 2H), 3.58〜3.58(m, 6H)、3.60〜3.75(m, 2H)
【0045】
実施例2:磁性ナノ粒子の製造
FeCl3 6H2O(0.5 g, 1.85 mmol)及びFeCl2 4H2O(0.18 g, 0.925 mmol)を30 mL H2O中で20分間N2 でストリーミング(streaming)した。この溶液に7.5 mL NH4OH(水中で〜25%)を加えてN2下で激しく攪拌した(この時のpHは〜10.5程度)。磁石の上に静置して上清を捨てる。30 mLの蒸留水を加え、洗浄を2回以上行う。
【0046】
実施例3:分散剤の被覆
実施例2に従って調製した粒子に、30 mLの蒸留水を加え、5 mLづつ小分けにして、[実施例1で合成した分散剤] = 125 mmol /Lになるように調整し、1.5時間攪拌して、超音波処理(1.5時間程度)をした。その後、一晩攪拌(開放系)した。
【0047】
実施例4:分散粒子の後処理
分散剤で被覆した粒子を、6000 rpm(15℃で 2分間)で遠心し、次いで、10000 rpm(15℃で20分間)で遠心した。その後、磁石の上で1晩静置した。凝集物を遠心分離(12000 rpm 、15℃、30分間)した。
【0048】
実施例5:動的光散乱(DLS)測定
DLS測定は以下の通り行った。
粒度分析計Microtrac NIKKISO社、光源:半導体レーザー:波長780 nm
(測定条件)測定回数2回、測定時間30秒、DEFAULT、透過、粒子屈折率1.81、粒子形状:非球形。分布表示:体積、溶媒:水、溶媒屈折率1.33、セル温度26.85℃、粘土:0.854 cP
結果を図1に示す。平均の粒径は、21.6 nmであった。
【0049】
実施例6:RPMI培地中での安定分散
実施例6:RPMI培地中での安定分散
RPMI MEDIUM 16410(Invitrogen GIBCO11875)を用いて、実施例4で得た本発明の水分散性磁性粒子を分散させた時の写真を図2に示す。図2の結果から、本発明の水分散性磁性粒子は、RPMI培地中で安定に分散することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の水分散性磁性粒子の動的光散乱(DLS)測定の結果を示す。
【図2】図2は、本発明の水分散性磁性粒子をRPMI培地中に分散させたときの様子、並びに本発明の分散剤と酸化鉄との静電的相互作用の模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と静電的相互作用できる構造を有する分散剤で被覆した磁性粒子からなる水分散性磁性粒子。
【請求項2】
平均粒径1〜70nmのナノ粒子である、請求項1に記載の水分散性磁性粒子。
【請求項3】
磁性粒子が金属酸化物である、請求項1又は2に記載の水分散性磁性粒子。
【請求項4】
磁性粒子と静電的相互作用できる構造が、ホスホン酸またはリン酸である、請求項1から3の何れかに記載の水分散性磁性粒子。
【請求項5】
分散剤が、ポリエチレングリコール構造を有する分散剤である、請求項1から4の何れかに記載の水分散性磁性粒子。
【請求項6】
分散剤が、下記式(1)で表される化合物またはその塩である、請求項1から5の何れかに記載の水分散性磁性粒子。
Z−L−(O−CH(R)CH2n−X (1)
(式中、Zは、P(=O)(OH)2−又はP(=O)(OH)2−O−を示し、Lは単結合又は連結基を示し、Rは水素原子又は−CH3を示し、Xは−OCH3又は−OHを示し、nは2から20の整数を示す)
【請求項7】
分散剤が、下記の何れかの化合物またはその塩である、請求項1から6の何れかに記載の水分散性磁性粒子。
【化1】

【請求項8】
下記式(1)で表される化合物またはその塩。
Z−L−(O−CH(R)CH2n−X (1)
(式中、Zは、P(=O)(OH)2−又はP(=O)(OH)2−O−を示し、Lは単結合又は連結基を示し、Rは水素原子又は−CH3を示し、Xは−OCH3又は−OHを示し、nは2から20の整数を示す)
【請求項9】
下記の何れかの化合物またはその塩。
【化2】

【請求項10】
請求項8又は9に記載の化合物又はその塩を含む、粒子被覆剤。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の化合物又はその塩を含む、粒子分散剤。
【請求項12】
請求項1から7の何れかに記載の水分散性磁性粒子を含む、温熱療法剤。
【請求項13】
請求項1から7の何れかに記載の水分散性磁性粒子を含む、MRI造影剤。
【請求項14】
請求項1から7の何れかに記載の水分散性磁性粒子を含む、薬物送達剤。
【請求項15】
請求項1から7の何れかに記載の水分散性磁性粒子を含む、分析診断用プローブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−69093(P2008−69093A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247643(P2006−247643)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】