説明

静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法

【課題】静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法、さらに詳しくは静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置および方法において、表面の毛羽立ちが少なく、かつ積層斑の少ない当該構造体を、連続的に、かつ安定して基材上に得ることができる装置および方法を提供することにある。
【解決手段】正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくと2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズルとは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズルと当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造装置であって、少なくとも1以上の当該ノズル(A)毎に少なくとも1以上の除電装置(B)を配設し、当該繊維構造体および/または基材の表面を除電しながら当該基材を連続的に移動させることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維構造体の製造方法に関する。さらに詳しくは、静電紡糸法を利用し、繊維形成性物質より成る繊維構造体を基材上で得る方法において、得られる繊維構造体の均一性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の繊維形成性物質を紡糸する技術としては、溶融状態の繊維形成性物質をノズルより紡出させ、これを大気中もしくはある種の気体中で冷却・固化させて繊維を得る「溶融紡糸法」や、繊維形成性物質を含む溶液をノズルより紡出させ、これより溶媒成分を蒸発させて繊維を得る「乾式紡糸法」、同様にノズルより紡出された繊維状の繊維形成性物質を凝固液中で固化させて繊維を得る「湿式紡糸法」などが一般的に知られている。
【0003】
また繊維構造体の一つである不織布を製造する技術は、既述の紡糸技術を応用したものであり、「乾式法」や「湿式法」の他に、溶融紡糸後に延伸・開繊の工程を経て不織布を得る「スパンボンド法」や、溶融紡糸ノズル口に高温高圧空気流を吹き当て、繊維状高分子化合物を延伸・開繊して不織布を得る「メルトブローン法」などが一般的に知られている。
【0004】
これらの紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用し、既存の繊維や繊維構造体にない新たな特性を供すべく、様々な取り組みが為されている。中でも、繊維の直径を極小とし、単位重量当たりの表面積を向上させることで新たな機能を付与させる取り組みが盛んである。
【0005】
しかしながら、既述の紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用して得られた繊維の直径、および繊維構造体を構成する繊維の直径は、既存の繊維と同等の直径(数〜数十μm程度)であり、サブミクロンやナノスケールの直径を有する繊維を製造することは困難である。また、高圧下での高分子化合物の押し出しや繊維状繊維形成性物質の冷却・固化に供される設備は複雑かつ高価であり、製造コストの増大や安定した製品供給を阻害する。
【0006】
そこで、新しい紡糸技術として、特許文献1や特許文献2でも取り上げられている「静電紡糸法」が注目を集めている。本法は、繊維形成性物質含有溶液を正または負に帯電させ、これとは逆の極性に帯電させた、もしくは接地した繊維状繊維形成性物質堆積部に対し、ノズルやニードルを介して紡出する方法である。本法によると数nmの直径を有する繊維の製造が可能となる。
【0007】
一方、本法の課題とされている量産技術に関しても検討が盛んに行われている。例えば特許文献3では、無機系構造体の製造方法と当該無機系構造体が教示されている。本法は、支持体を連続的に巻き出し、工程の途中で無機系繊維形成性物質含有溶液を支持体上に静電紡糸し、当該支持体と無機系構造体を同時に巻き取る、無機系構造体の連続製造方法である。
【0008】
しかし本法では、対向電極が接地されており、当該対向電極と支持体が仮に接触している場合であっても、当該支持体や構造体の残存電荷を容易に除去することはできない。このことは、巻き取り後の製品取り出しの際に、当該支持体の裏面に当該構造体が付着し、当該構造体の表面が毛羽立つ原因となりうるだけでなく、紡糸部で形成される静電場を著しく乱し、当該構造体の積層に斑が生じる原因にも繋がる。
【0009】
同様に、特許文献4では、静電紡糸が行われる静電場に対し、第2の電場を設けることでジェット流を形成させ、これを静電的に制御して、複数の紡出口が設けられている紡糸ノズルの紡出口間の電場干渉を緩和させ、均一な目開きを有する繊維構造体を連続的に製造することができる装置ならびにその方法が教示されている。
【0010】
しかし本法においても、基材や繊維構造体の除電が行われていないため、既述した当該構造体表面での毛羽立ちの問題は解消されない。また複数のノズルを使用する場合によく観察される、既述の電場干渉による当該構造体の積層斑についても、補助電極の使用により幾分解消はされるものの、基材上に残存する電荷の影響を受けるため、根本的な解決には至らない。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6106913号明細書
【特許文献2】米国特許第6110590号明細書
【特許文献3】特開2003−073964号公報
【特許文献4】国際公開第02/092888号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法、さらに詳しくは静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置および方法において、表面の毛羽立ちが少なく、かつ積層斑の少ない当該構造体を、連続的に、かつ安定して基材上に得ることができる装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは既述の問題を解決するために鋭意検討し、以下の発明に至った。
1.正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくとも2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズル(A)とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズル(A)と当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造装置であって、少なくとも1以上の当該ノズル(A)毎に少なくとも1以上の除電装置(B)を配設し、当該繊維構造体および/または基材の表面を除電しながら当該基材を連続的に移動させることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造装置。
2.当該除電装置(B)が、コロナ放電により陽イオンおよび/または陰イオンを発生させる装置である1.に記載の製造装置。
3.当該除電装置(B)と当該基材との距離が、当該除電装置(B)の除電領域内にあり、かつ任意の当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群と最も近接している当該ノズル(A)との距離が、当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群の除電領域外で繊維構造体を得ることができる距離にある、1.もしくは2.に記載の製造装置。
4.正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくとも2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズル(A)とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズル(A)と当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造方法であって、少なくとも1以上の当該ノズル(A)毎に少なくとも1以上の除電装置(B)を配設し、当該繊維構造体および/または基材の表面を除電しながら当該基材を連続的に移動させることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造方法。
5.当該除電装置(B)が、コロナ放電により陽イオンおよび/または陰イオンを発生させる装置である4.に記載の製造方法。
6.当該除電装置(B)と当該基材との距離が、当該除電装置(B)の除電領域内にあり、かつ任意の当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群と最も近接している当該ノズル(A)との距離が、当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群の除電領域外で繊維構造体を得ることができる距離にある4.もしくは5.に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
静電紡糸法により繊維構造体を製造するための既述の装置および方法を利用することで、基材や得られる繊維構造体に残存する電荷を効果的に除去できるため、当該残存電荷による紡糸部の静電場の乱れや、基材との接触による繊維構造体表面の毛羽の発生が抑止でき、均一な構造を有する繊維構造体を、連続的に、かつ安定して基材上に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の製造装置および方法について詳述する。
図1は本発明の一実施形態による繊維構造体製造装置の概略を示した図であり、図2は図1に示した当該製造装置の内、紡糸部付近を拡大した概略図である。以下これらの図を用いて本発明を詳しく具体的に説明するが、これにより本発明の範囲は限定されるものではない。
【0016】
本発明の繊維構造体の製造装置および方法は、正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくとも2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズル(A)とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズルと当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造装置および方法である。
【0017】
本発明の装置は、紡糸ノズル(A)、すなわち図1および2に記載の紡糸ノズル3の前段に、繊維形成性物質含有溶液を貯留する溶液貯槽1を配設しており、当該貯槽1と当該ノズル3の間は送液配管2で接続されている。尚、当該貯槽1、配管2、およびノズル3の配設数は、図1に示した例により制限されるものではない。
【0018】
また、当該ノズル3は、製造の効率化や得られる繊維構造体の均一化を考慮し、複数の紡出口を有する構造となっている。その断面形状としては円形や角形等、様々な形状を例示することができ、またその配列も直列配列、円形配置、角形配置等様々な配列を例示することができるが、これらにより制限されるものではない。
当該ノズル3には電気結線用の端子が配設されており、当該端子と高電圧発生装置5の間は電気配線4で接続されている。当該ノズル3内に供給された繊維形成性物質含有溶液への高電圧印加は、当該高電圧発生装置5を操作することにより行われる。
【0019】
また、繊維構造体を積層させる基材9は、巻き出しロール6より連続的に巻き出され、フリーロール7により移動方向を変えながら、最終的に巻き取りロール8にて連続的に巻き取られる。当該基材9を挟んで、紡糸ノズル3の対向には対向電極10が配設されており、高電圧発生装置5で印加する電荷極性とは逆の極性に帯電させるか、もしくは接地させることが可能な構造となっている。
上記した製造装置により繊維構造体を製造するには、高電圧発生装置5、巻き出しロール6、巻き取りロール7の電源を投入する前に、調製した繊維形成性物質含有溶液を溶液貯槽1へ投入し、送液配管2および紡糸ノズル3内を当該溶液で充満させる。
【0020】
尚、本発明で用いられる繊維形成性物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0021】
また本発明で用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
また、既述の繊維形成性物質と溶媒に無機質固体材料を混入することも可能である。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。
当該酸化物としては、Al、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0023】
次いで基材9を取り付けた巻き出しロール6および巻き取りロール8の駆動電源を投入し、基材の連続移動を開始させる。この段階で紡糸ノズル3の紡出口より少量の繊維形成性物質含有溶液の液滴が滴り落ちる場合があるが、製品として当該基材9や得られる繊維構造体を回収する際には、この段階で得られる当該機材9や繊維構造体は除外する。
【0024】
当該ノズル3の紡出口先端では、当該溶液の液滴が適量保持される。この状態で高電圧発生装置5の電源を投入すると、当該ノズル3と対向電極10の間に静電場が生じ、既述した液滴の表面張力より、当該静電場に生じる電気的引力が大きくなった箇所より紡出繊維11が確認される。当該紡出繊維11は基材9上に積層し、繊維構造体となって巻き取りロール8に巻き取られる。
【0025】
ところが、既述した一般の静電紡糸法による繊維構造体の製造装置および方法では、帯電した紡出繊維11が基材9上に積層する際、巻き出しロール6やフリーロール7、巻き取りロール8、対向電極10等を介して一部の電荷が接地極に流れるものの、これらの構成部品類を構成する材料には体積固有抵抗が存在するため、一部は当該基材9や得られる繊維構造体に残存することとなる。また残存電荷の中には、各種ロールと基材が離れる際に発生する剥離帯電(静電気)が起因しているものも多い。
【0026】
このように当該基材9や得られる繊維構造体に残存電荷が内在すると、巻き取りロール8にて回収した製品を使用する際に、当該繊維構造体の一部が当該基材9の裏面に貼り付く現象が発生し、当該部位が毛羽となって当該繊維構造体の外観および性状を著しく悪くする。
【0027】
また、当該基材9は巻き出しロール6から巻き取りロール8まで一連のものであるため、そのほぼ前面が残存電荷により帯電する。その結果、紡糸ノズル3の下部に形成された静電場が当該残存電荷の影響を受けて著しく乱され、紡出繊維11の積層状態に悪影響を及ぼす。
【0028】
そこで本発明では、上記した製造装置に対し、少なくとも1以上の紡糸ノズル(A)、すなわち図1および2中の当該ノズル3毎に少なくとも1以上の除電装置(B)、すなわち図1および2中の当該除電装置12を配設し、当該繊維構造体および/または当該基材9の表面を除電しながら当該基材9を連続的に移動させる。
【0029】
本法によると、当該基材9および得られる繊維構造体に内在する残存電荷が実質0となるため、既述した当該ノズル3下部の静電場を乱すことなく、安定した当該繊維構造体の製造が行え、また回収された製品の当該繊維構造体表面にも毛羽立ちは発生しない。
尚、除電を行う方法としては、除電繊維や当該繊維で構成された構造体、除電ブラシ、除電棒等を当該基材9の表面側および/または裏面側に配設する方法が例示でき、これら方法が経済的にも有効であると言える。
【0030】
しかし、これらの除電用部品を、当該基材9の表面側、つまり当該繊維構造体が積層する面の側に配設した場合、当該基材9だけでなく、得られる当該繊維構造体までもが著しい損傷を受ける場合がある。これを回避すべく、当該基材9の裏面側にこれら部品を配設することも可能ではあるが、静電場が生じるのは、紡糸ノズル3が配設されている当該基材9の表面側であり、当該基材9内であっても、残存電荷の多くは当該基材9の表面側に偏っており、これら部品を配設したことによる除電効果は実に希薄なものとなる。
【0031】
そこで本発明では、当該除電装置(B)、すなわち図1および2中の当該除電装置12として、コロナ放電により陽イオンおよび/または陰イオン13を発生させる装置を使用する。
コロナ放電とは、鋭利な導体先端に電荷を多く帯電させることにより生じる現象であり、当該導体の周辺の空気はイオン化される。このイオン化された空気を利用して除電を行うことにより、既述の当該基材9表面の損傷や微小量の残存電荷除去に係る問題を解消する。
【0032】
尚、陽イオンおよび/または陰イオン13を発生させる電極端子への電源供給方式により、DC方式やAC方式等、種々のイオン化方式が例示できるが、これらに限定されるものではない。
しかしながら、既述した陽イオンおよび/または陰イオン13により除電を行う当該除電装置12には除電可能な領域、つまり図2に例示した除電領域14が存在するため、当該領域14内に当該基材9が存在しないことには、当該基材9および得られる繊維構造体に内在する残存電荷の除電は行えない。
【0033】
また、当該領域14内に紡出繊維11が存在するような、紡糸ノズル3および当該除電装置12の位置関係で当該繊維構造体の製造を行った場合、荷電した繊維形成性物質含有溶液が当該ノズル3より紡出し、当該基材9上に到達するまでに、当該紡出繊維11が当該除電装置12より発生られる陽イオンおよび/または陰イオンで電気的に中和されるため、当該基材9上に当該繊維構造体は積層せず、当該紡出繊維11は当該ノズル3の下部に生じる静電場内を浮遊する。このように浮遊する紡出繊維11は、時に当該基材9上に到達することがあるが、このことは当該繊維構造体の平面的な積層斑だけでなく、立体的な積層斑を生じさせる要因となり、得られる製品の性状を著しく悪くする。
【0034】
そこで本発明では、当該除電装置(B)、すなわち図1および2中の当該除電装置12
と当該基材9との距離が、当該除電装置12の除電領域14内にあり、かつ任意の当該除電装置12または当該除電装置12群と最も近接している当該ノズル(A)、すなわち図1および2中の当該ノズル3との距離が、当該除電装置12または当該除電装置12群の除電領域14外で繊維構造体を得ることができる距離にある。
【0035】
図2に例示したように、当該基材9が当該除電領域14内に存在すれば、当該基材9および当該基材9上に積層する当該繊維構造体の除電が確実に行える。また、当該除電領域14外で紡出繊維11および当該繊維構造体を得ることができるように、当該ノズル3および除電装置12を配設すれば、既述静電場で浮遊する当該紡出繊維11の出現が抑止できる。
【0036】
以上、示した製造装置および方法を利用することで、当該基材9や当該基材9上で得られる当該繊維構造体に内在する残存電荷が効率よく除去でき、また既述静電場を浮遊する当該紡出繊維11の浮遊も抑止できるため、平面的にも、立体的にも積層斑の少ない当該繊維構造体を、連続的かつ安定して得ることが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
SUS304製アンカー翼付攪拌装置を装備したガラス製容器(内容積:1000mL)内にL−ポリ乳酸79.2gを投入し、さらに塩化メチレン640.8gを投入した。当該容器の開放箇所を密栓した後、37℃の温水浴内で攪拌し、L−ポリ乳酸が既述溶媒に均一溶解したことを確認した。当該容器を開放し、これを図1に例示した装置のテフロン(登録商標)製溶液貯槽1(内容積:各1000mL)内に全量投入した。
【0038】
尚、当該装置には、テフロン(登録商標)製紡糸ノズル3(概略寸法:W210×L60×H40mm、吐出口数:6)を、基材9の移動方向と平行に3台配設し、各紡糸ノズル3の間、および巻き取りロール8に最も近接している当該ノズル3と当該巻き取りロール8の間、すなわち計3台のコロナ放電式除電装置12(電源供給方式:AC方式、放電電極数:4、発振周波数:33Hz)を配設した。
【0039】
尚、当該除電装置12は、当該放電電極先端より下部50〜150mm、および当該放電電極中心より両側150mmの範囲が除電領域14であるため、当該除電装置12下面と当該基材9表面との距離が100mmに、また各除電装置12と最も近接している当該ノズル3との距離が全て300mmになるよう、当該ノズル3および除電装置12を配設した。当該ノズル3と当該貯槽1の間をシリコン製送液配管2で接続し、当該溶液の当該ノズル3への送液を開始した。
【0040】
さらに基材9にはポリエステル不織布を用い、ロール状の当該基材9を巻き出しロール6に取り付け、手動でフリーロール7、次いで巻き取りロール8へ導いた後、当該基材9の搬送速度が0.8m/分となるように当該巻き取りロール6の回転速度を設定し、駆動電源を投入した。これと同時に、高電圧発生装置5および当該除電装置12の電源を投入し、繊維構造体の製造を開始した。当該ノズル3の紡出面より紡出繊維11が確認でき、当該基材9上に平面状の繊維構造体が得られた。15分間放置した後、当該高電圧発生装置5および除電装置12の電源、よび当該巻き取りロール8の駆動電源を停止し、当該巻き取りロール8よりロール状の当該基材9および繊維構造体を回収した。
【0041】
当該基材9より繊維構造体を剥離し、さらに任意の20箇所より1cm各の繊維構造体を切り取り、これら全ての厚みをオフラインの膜厚計で測定した。さらにこれら全ての表面状態を走査電子顕微鏡で観察した。結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:27μmに対し、全て±3.0μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:239nmに対し、全て±50nm以内であった。さらに当該繊維構造体の外観を目視にて確認したが、平面的にも立体的にも積層斑のない製品が得られた。
【0042】
[実施例2]
ポリアクリロニトリル70.4gとN,N−ジメチルホルムアミド633.6gを、SUS304製アンカー翼付攪拌装置を装備したガラス製容器(内容積:1000mL)内に投入し、これを65℃の温水浴内で攪拌し、均一溶解させた溶液を原料溶液とする以外は実施例1と同様に実施した。結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:32μmに対し、全て±3.0μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:323nmに対し、全て±50nm以内であった。さらに当該繊維構造体の外観を目視にて確認したが、平面的にも立体的にも積層斑のない製品が得られた。
【0043】
[比較例1]
実施例1に挙げた製造装置より、全ての除電装置12を撤去した。これ以外は実施例1と同様に実施したが、全測定箇所の繊維径の平均値:288nmに対し、測定箇所各々での繊維径の平均値は全て±50nm以内であったものの、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:24μmに対し、全て±5.0μm以上であった。さらに当該繊維構造体の外観を目視にて確認したが、当該繊維構造体の毛羽立ちによる立体的な積層斑に加え、平面状の積層斑も確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は本願発明の一実施態様を模式的に表した模式図である。
【図2】図2は本願発明の一実施態様を模式的に表した模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1. 溶液貯槽
2. 送液配管
3. 紡糸ノズル
4. 電気配線
5. 高電圧発生装置
6. 巻き出しロール
7. フリーロール
8. 巻き取りロール
9. 基材
10. 対向電極
11. 紡出繊維
12. 除電装置
13. 陽または陰イオン
14. 除電領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくとも2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズル(A)とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズル(A)と当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造装置であって、少なくとも1以上の当該ノズル(A)毎に少なくとも1以上の除電装置(B)を配設し、当該繊維構造体および/または基材の表面を除電しながら当該基材を連続的に移動させることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造装置。
【請求項2】
当該除電装置(B)が、コロナ放電により陽イオンおよび/または陰イオンを発生させる装置である、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
当該除電装置(B)と当該基材との距離が、当該除電装置(B)の除電領域内にあり、かつ任意の当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群と最も近接している当該ノズル(A)との距離が、当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群の除電領域外で繊維構造体を得ることができる距離にある、請求項1もしくは2に記載の製造装置。
【請求項4】
正または負に帯電させた繊維形成性物質含有溶液の紡出口を複数有する、少なくとも2以上の紡糸ノズル(A)より、当該ノズル(A)とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた電極に向けて当該溶液を紡出し、当該ノズル(A)と当該電極間を連続的に移動する基材上で繊維構造体を得る、静電紡糸法による繊維構造体の製造方法であって、少なくとも1以上の当該ノズル(A)毎に少なくとも1以上の除電装置(B)を配設し、当該繊維構造体および/または基材の表面を除電しながら当該基材を連続的に移動させることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
当該除電装置(B)が、コロナ放電により陽イオンおよび/または陰イオンを発生させる装置である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
当該除電装置(B)と当該基材との距離が、当該除電装置(B)の除電領域内にあり、かつ任意の当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群と最も近接している当該ノズル(A)との距離が、当該除電装置(B)または当該除電装置(B)群の除電領域外で繊維構造体を得ることができる距離にある、請求項4もしくは5に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−92213(P2007−92213A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281669(P2005−281669)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】