説明

静電防止性フィルム用コーティング剤とそれを用いた製品

【課題】 近年、4級アンモニウム塩使用のフィルム塗布用静電防止剤が各種開発されているが、低湿度で満足する静電防止効果が得られないことや、フィルム表面への接着性に欠点がある。
そこで本発明者等は、上記の問題を解決するために、4級アンモニウム塩にイソシアネート化合物を混合することで、問題を解決したのである。
【解決手段】
即ち本発明では、4級化剤を用い得られる4級アンモニウム塩基を有するアクルポリマー100重量部に対して、イソシアネート化合物3〜50重量部を混合してなることを特徴とする静電防止性フィルム用コーティング剤を開発した後に、これを用いた静電防止性フィルム及び静電防止性ラミネートフィルムを製造したのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた静電防止性能を有し、プラスチックフィルムへの接着(密着)性に富んだ静電防止性フィルム用コーティング剤、静電防止性フイルム、及び静電防止性ラミネートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムに共通する問題として、静電気が発生し易いという欠点がある。
そのためフィルム加工時あるいは加工製品について、周囲の埃等を引き付けるという問題を起こしている。
一般に、熱可塑性フィルムの静電防止法としては、界面活性剤を樹脂中に練り込む方法、金属化合物の蒸着する方法、高分子量のアニオン性化合物、カチオン性化合物、又は両性イオン性化合物を塗布する方法等が挙げられる(特許文献1)。
【0003】
界面活性剤を練り込む方法は、安価に製品が製造できるということが長所であるが静電防止効果が十分に発揮できないとういう欠点がある。金属化合物を蒸着する方法は、静電防止効果に優れているが製造コストが高く、汎用の静電防止フィルムとして利用し難い。
また、フィルム表面に塗布の静電防止剤として使用される高分子には、カチオン、アニオン等のイオン型物質が挙げられるが、いずれも水分の介在によるイオン電導が静電防止性能として働くことを利用して静電防止処理を行なっている。
これらは、いずれも水分を介してのイオン導電性であることから、良好な導電性を得るにはすべて湿度に依存しており、通常の湿度条件下(50%RH付近)では十分な静電防止性能を示すが、湿度が30%RH以下の低湿度になると、イオン導電性が低下する傾向が強く、十分な静電防止性能を果たさなくなる欠点がある。
【0004】
例えば、静電防止剤として高分子量のアニオン性化合物をフィルムに塗布する方法は、高湿度下では良好な静電防止効果を示すが、低湿度下では、その性能が極端に悪化するという問題がある。
一方、高分子量のカチオン性化合物をフィルムに塗布する方法は、低湿度においても比較的静電防止性能の低下が少なく好ましい、特に4級アンモニウム塩は、取り扱いが容易なことから盛んに使用されている。但し、これら化合物の多くは、基材となる熱可塑性フィルムとの接着性や耐水性に劣るため、摩擦や水洗によってフィルム面から除去され易いという欠点がある。
【0005】
このため、特許文献2では、低湿度でも十分な静電性効果を得るために、4級アンモニウム塩を、水溶性高分子や水性エマルジョン型高分子材料を添加しているが、これらの添加物を多量に加えた場合には、ラミネートフィルム製造における接着生が低下したり、ラミネート製品表面にブリード現象を生じて好ましくない。
即ち、水溶性高分子や水性エマルジョン型高分子材料は、基材となる熱可塑性フィルムと接着性や耐水性に劣るため、摩擦や水洗によってフィルム面から除去され易いという欠点がある。
【0006】
【特許文献1】特開昭47−21383
【特許文献2】特開平10−298539
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、4級アンモニウム塩を用いて持続した静電防止効果を発揮する静電防止性フイルム用コーティング剤について、検討したのである。
即ち、取り扱いが容易な4級アンモニウム塩について、熱可塑性フィルムへの塗布では十分に接着して剥離せず、湿度が10〜30%という低い湿度でも十分な静電防止効果を発揮する製品を検討したのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、4級化剤を用いて得られる4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマー100重量部に対して、イソシアネート化合物3〜50重量部(以下部と省略する)を混合してなることを特徴とする静電防止性フィルム用コーティング剤を開発したのである。
【0009】
本発明の4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマーは、カチオン系アクリルモノマーに、4級アンモニウム塩基を有しないアクリルモノマー(以後その他のアクリル系モノマーと表現)、及び4級化剤を加え化合反応処理して得られるものである。
該アクリルポリマーの製造は、汎用の方法で化学反応処理すれば良く、予め4級化されたモノマーとその他のモノマーを共重合したり、ジアルキルアミノ基含有アクリルモノマーとその他のモノマーと共重合した後に4級化させる方法が挙げられる。
例えば、メタクリル酸ジメチルアミノエチルのアルキルクロライド塩、他のモノマーとしてのメタクリル酸メチル、有機溶剤、及び、ラジカル開始剤を加え混合加熱し、化学反応して得られる。
【0010】
尚、好ましいカチオン系アクリルモノマーとしては、ジアルキルアミノ基含有モノマーの4級アンモニウム塩であり、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0011】
他のアクリル系モノマーとしては、アルキル系(メタ)アクリレート等の中性モノマー、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、及びエポキシ基含有モノマーが挙げられる。そして、具体的物質には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
尚、カチオン系アクリルモノマーと、他のアクリル系モノマーの混合比率は、99/1〜10/90であればよい。
【0012】
本発明で使用の4級化剤は、ハロゲン化メチル、ベンジルクロライド、ジエチル硫酸、ジメチル硫酸等が挙げられる。
本発明で使用のイソシアネート化合物には、芳香族系ジイソシアネートモノマー、脂肪族系ジイソシアネートモノマー、又は脂環族系ジイソシアネートモノマーもしくはこれらの重合体、誘導体、またはこれらの混合物が用いられる。具体的には、トリレンジイソアシアネート、44’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
アクリルポリマーとイソシアネート化合物の混合割合は、100:3〜100:50が好ましく、3部より少ないと本発明静電防止性フイルム用コーティング剤の熱可塑性樹脂フィルムとの接着性が低下して好ましくない、また50部より多いと系全体の透明性が低下して商品価値として劣り好ましくない。
【0013】
本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤は、アクリルポリマーとイソシアネート化合物を有機溶剤の存在下、例えばアルコール類、ケトン系溶剤、グリコール系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤等、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、ブチルセルソルプ、トルエン、キシレン等の有機溶剤を混合処理して得られる。
請求項2は、熱可塑性樹脂フィルムに、4級化剤を用いて得られる4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマー100部及びイソシアネート化合物3〜50部からなる混合物を塗布してなることを特徴とする静電防止性フィルムである。
本発明の静電防止性フィルムでは、イソシアネート化合物の介在により上記のアクリルポリマーが熱可塑性樹脂フィルム表面に強く接着(密着)しており、特許文献2に記載の水溶性高分子や水性エマルジョン型高分子材料を使用した際の欠点を全く解消したものである。
【0014】
請求項3は、請求項1記載の静電防止性フィルム用コーティング剤を中間層として、プラスチックフィルムを張り合わせた静電防止性ラミネートフィルムである。
本発明の静電防止ラミネートフィルム製造では、請求項2記載の静電防止性フィルムに熱可塑性樹脂フィルムをラミネートする際に使用する接着剤としては、汎用のウレタン系接着剤を用い汎用の方法で接着すればよい。尚、これらウレタン系接着剤の塗布は、予め請求項2記載の静電防止性フィルム表面又は該フィルム表面に張り合わせる熱可塑性樹脂フィルム表面にウレタン系接着剤を塗布した後に張り合わせればよい。
【0015】
本発明の静電防止性ラミネートフィルムは、従来から使用の4級アンモニウム塩基を有する化合物に比べ、本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤が静電防止性に優れており、フィルム表面に塵や埃が付着せず、表面印刷でも印刷適性が非常に良好である。
しかも、このため本発明で使用する4級アンモニウム塩基を有する静電防止性フィルム用コーティング剤が原因で、ラミネート強度を低下させるすることも見当たらない。
【0016】
請求項4は、請求項1記載の4級化剤が、ハロゲン化メチルである静電防止性フィルム用コーティング剤である。
本発明で使用のハロゲン化メチルとしては、臭化メチルと塩化メチルが挙げられ、これらは取扱いが容易であり、得られた本発明の静電防止性ラミネートフィルムは静電防止性が著しく良好であり好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤、静電防止性フィルム、及び静電防止性ラミネートフィルムは、以上の通り、低湿度及び低温環境下においても静電防止性能を有することにより、このような環境下において用いられる各種熱可塑性プラスチックフィルム製品のトラブルの防止に有効な作用を示すものである。
本発明品、特にラミネート製品は、グラビアインキを使用した各種包装製品の製造に最適な静電防止性フィルム用コーティング剤を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で、4級化剤を用い得られる4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマーにイソシアネート化合物を混合することにより、本発明の静電防止性ラミネートフィルムでは、接着性と静電防止性に優れた効果を発揮している。
以下に実施例及び比較例を記載する。
【0019】
実施例1
メタクリル酸メチル30部、メタクリル酸ブチル20部、メタクリル酸ジメチルアミノエチルのクロライド塩50部、及びアゾビスイソブチロニトリルを、イソプロピルアルコール400部の溶液中で80℃、5時間、窒素気流中で化学反応して、本発明の重量平均分子量40,000のカチオン系アクリルポリマーを固形分として20重量%含有の溶液を得た。
上記カチオン系アクリルポリマー含有の溶液100部に対して、トリレンジイソシアネート5部、及び酢酸エチル395部を溶液中で混合して、本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤を得た。
【0020】
上記の静電防止性フィルム用コーティング剤を、厚さ20μmのOPPフィルム(東セロ株式会社製品OP U−1)に塗布して、本発明の静電防止性フィルムを製造した。
上記の静電防止性フィルム用コーティング剤を塗布した表面に、エーテル系接着剤(三井武田ケミカル製タケラックA−969V/タケネートA−5)を塗布し、これに厚さ30μmのCPPフィルム(東セロ株式会社製品トーセロCP−GLC)を、ドライラミネートにより貼り合わせ、本発明の静電防止性ラミネート物を得た。
【0021】
次に得られた、静電防止性フィルム用コーティング剤、静電防止性フィルム、及び静電防止性ラミネートフィルムについて、下記の(イ)、(ロ)及び(ハ)の評価試験を行って、その結果を表1にその結果を示す。尚、実施例2〜5及び比較例1〜5についても、同様に(イ)、(ロ)及び(ハ)の評価試験を行い、その結果を表1に記載する。
【0022】
【表1】


【0023】
(イ)印刷適性
厚さ20μmのOPPフィルム(東セロ株式会社製OP U−1)に、静電防止性フ ィルム用コーティング剤を塗布した面に、グラビアインキ(東京インキ株式会社製L G−NT)を重ね刷りして、その際にグラビアインキの転移性について、下記の規準 で評価した。
○‥‥‥‥転移性が良好である
△‥‥‥‥転移性が若干低下した
×‥‥‥‥実用に耐えない
【0024】
(ロ)静電防止効果(静電効果)
本発明の静電防止性ラミネートフィルムについて、その表面をナイロン製布を使用し 30回擦った後に、たばこの灰の上から1cm上にかざして、たばこの灰がラミネー トフィルムに付着する状況から、目視により静電効果を判定した。
○‥‥‥‥灰は全く付着しておらず、静電効果が非常に良好
△‥‥‥‥灰は少し付着しておらず、静電効果が良好
×‥‥‥‥灰が非常に付着しており、商品価値がない
【0025】
(ハ)ラミネート強度
本発明の静電防止性ラミネートフィルムについて、横幅を15mmに切り取り、テンシロン万能型試験機(株式会社エー・アンド・デイ製RTE−1210)にて、引張速度300mm/minでT型剥離し、そのときに要する強度を測定した。
尚、基準試料として、静電防止性フィルム用コーティング剤を使用せず汎用ウレタン系接着剤により貼り合せたラミネートフィルムと比較評価した。
○‥‥‥‥10%以内の低下である
△‥‥‥‥10〜30%未満の低下であり、使用に耐える
×‥‥‥‥30%以下に低下して、使用不可能
【0026】
実施例2
実施例1において使用のメタクリル酸ジメチルアミノエチルのメチルクロライド塩をメタクリル酸ジメチルアミノエチルのメチルブロマイド塩にかえる以外は、すべて同じである。
【0027】
実施例3
実施例1において使用のトリレンジイソシアネートを、ヘキサメチレンジイソシアネートにかえる以外は、すべて実施例1と同じである。
【0028】
実施例4
メタクリル酸メチル20部、メタクリル酸ブチル10部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル70部、及びアゾビスイソブチロニトリルを、イソプロピルアルコール233部の溶液中で80℃、4時間、窒素気流中で化学反応した後に、ジメチル硫酸を添加し80℃4時間処理して、本発明の重量平均分子量35,000のカチオン系アクリルポリマーを固形分として30重量%含有の溶液を得た。
上記カチオン系アクリルポリマー含有の溶液100部に対して、トリレンジイソシアネート5部、及び酢酸エチル395部を溶液中で混合して、本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤を得た。
【0029】
上記の静電防止性フィルム用コーティング剤を、厚さ20μmのOPPフィルム(東セロ株式会社製品OP U−1)に塗布して、本発明の静電防止性フィルムを製造した。
上記の静電防止性フィルム用コーティング剤を塗布したフィルム表面に、エーテル系接着剤を塗布し、これに厚さ30μmのCPPフィルム(東セロ株式会社製品トーセロCP−GLC)をドライラミネートにより貼り合わせ、本発明の静電防止性ラミネート物を得た。
【0030】
実施例5
実施例1記載の静電防止性フィルム用コーティング剤を、厚さ12μmのポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製品エステルE−5102)に塗布して、本発明の静電防止性フィルムを製造した。
上記の静電防止性フィルム用コーティング剤を塗布したフィルム表面に、エーテル系接着剤(三井武田ケミカル製タケラックA−969V/タケネートA−5)を塗布し、これに厚さ30μmのCPPフィルム(東セロ株式会社製品トーセロCP−GLC)を、ドライラミネートにより貼り合わせ、本発明の静電防止性ラミネート物を得た。
【0031】
実施例6
実施例1記載のCPPフィルムを、厚さ30μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ株式会社製トーセロTUX FCS)にかえる以外は、すべて同じである。
【0032】
比較例1
実施例1において、トリレンジイソシアネート使用量を0.2部とする以外は、すべて実施例1と同じである。
比較例2
実施例1において、トリレンジイソシアネート使用量を55部にする以外は、すべて実施例1と同じである。
【0033】
比較例3
実施例1において、本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤を使用せずに、OPPフィルムとCPPフィルムをエーテル系接着剤により直接に張り合わせたラミネートフィルムを製造する以外は、実施例1と同じである。
比較例4
実施例4のトリレンジイソシアネート使用量を0.2部とする以外は、すべて実施例4と同じである。
【0034】
比較例5
実施例4のトリレンジイソシアネート使用量を55部とする以外は、すべて実施例4と同じである。
【0035】
以上の通り、本発明の静電防止性フィルム用コーティング剤は、熱可塑性樹脂フィルムに対する接着性に優れており、これを用いて得られた静電防止性フィルムの上記コーティング剤塗布面に対する印刷適性も良好である。
また、本発明で製造の4級アンモニウム塩使用のアクリルポリマーは、長期に持続して静電防止効果を発揮しており、従って、これを用いて製造の本発明静電防止性ラミネートフィルムの容器(袋)では、その表面にチリや埃の付着が全く見られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級化剤を用いて得られる4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマー100重量部に対して、イソシアネート化合物3〜50重量部を混合してなることを特徴とする静電防止性フィルム用コーティング剤。
【請求項2】
熱可塑性樹脂フィルムに、4級化剤を用いて得られる4級アンモニウム塩基を有するアクリルポリマー100重量部及びイソシアネート化合物3〜50重量部からなる混合物を塗布してなることを特徴とする静電防止性フィルム。
【請求項3】
請求項1記載の静電防止性フィルム用コーティング剤を中間層として、プラスチックフィルムを張り合わせた静電防止性ラミネートフィルム。
【請求項4】
請求項1記載の4級化剤が、ハロゲン化メチルである静電防止性フィルム用コーティング剤。

【公開番号】特開2007−70396(P2007−70396A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256203(P2005−256203)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】