説明

非ステロイド系消炎鎮痛貼付剤

【課題】フェニルプロピオン酸系に属する非ステロイド系消炎鎮痛剤であるイブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、フェノプロフェン及びフルルビプロフェン又はジクロフェナクナトリウム又はピロキシカムを少なくとも一種以上含有する貼付剤において含有した薬物の保存安定性が優れた貼付剤の提供。
【解決手段】フェニルプロピオン酸系に属する非ステロイド系消炎鎮痛剤であるイブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、フェノプロフェン及びフルルビプロフェン又はジクロフェナクナトリウム又はピロキシカムから選ばれる少なくとも一種以上をポリエチレングリコールに溶解させた後、粘着基剤中に均一に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性貼付剤中に配合した非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)の保存安定性に優れた水溶性貼付剤及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な消炎鎮痛剤が肩こりや筋肉疲労に伴う痛み、打撲、捻挫等に対する治療薬として用いられている。その中でも、非ステロイド系消炎鎮痛剤は、優れたプロスタグランジン合成抑制作用を有することから経口剤にとどまらず経皮吸収型の貼付剤としても広く使用されており、その有用性が高く評価されている。しかしながら、これらの貼付剤は、保存安定性に問題があった。つまり、これらの貼付剤は、非ステロイド系消炎鎮痛剤の経皮吸収性を向上させるために非ステロイド系消炎鎮痛剤をクロタミトンやハッカ油等の親油性溶解剤に溶解させてから粘着基剤中に含有させており、このことが貼付剤中における薬物の経時的含量低下の原因の一つではないかと考えられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記の課題を解決するもので、経皮吸収性を損なうことなく非ステロイド系消炎鎮痛剤を水溶性貼付剤中に長期間安定に保持させた製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、非ステロイド系消炎鎮痛剤を炭素数が3〜30のグリコールに溶解もしくは分散させた後、グリセリンを含むゲル中に分散させることによって非ステロイド系消炎鎮痛剤が安定化し、非ステロイド系消炎鎮痛剤の経皮吸収性を損なうことなく、保存安定性が良好な貼付剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、非ステロイド系消炎鎮痛剤を炭素数が3〜30のグリコールに溶解もしくは分散させ、グリセリンを含むゲル中に均一に分散させることによって非ステロイド系消炎鎮痛剤を安定的に配合させたことを特徴とする水溶性貼付剤とその製造法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明で用いられる非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)としてはフェニルプロピオン酸系に属する非ステロイド系消炎鎮痛剤具体的には、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、フェノプロフェン及びフルルビプロフェンなどが挙げられ、またその他の非ステロイド系消炎鎮痛剤としてジクロフェナクナトリウム及びピロキシカム等が挙げられる。
【0006】
本発明に係る非ステロイド系消炎鎮痛剤を溶解もしくは分散させるために用いられる炭素数が3〜30のグリコールとしては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどがあげられるが、特にポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコールが好ましい。
【0007】
ゲル中の炭素数3〜30のグリコールの配合量は、2〜20重量%であり、好ましくは2.5〜15重量%である。すなわち、ゲル中に配合される炭素数3〜30のグリコール量が2重量%未満では、炭素数3〜30のグリコールに対する非ステロイド系消炎鎮痛剤の溶解が不十分となり粘着基剤中に非ステロイド系消炎鎮痛剤を均一に分散させることが難しいために、非ステロイド系消炎鎮痛剤を長期間安定的に貼付剤中に配合させることができない。また逆に、ゲル中に配合される炭素数3〜30のグリコール量が20重量%を超えるとゲル粘度の低下による保形性悪化現象がみられ、貼付剤として成形することが不可能となる。
ゲル中のグリセリンの配合量は10〜40重量%であり、好ましくは15〜30重量%である。すなわち、ゲル中のグリセリンの配合量が10重量%未満では、水溶性高分子を十分に分散することができずゲル中にままこが生じる。また、ゲル中のグリセリンの配合量が40重量%より多くなるとゲル表面に保持できなくなったグリセリンが浮き出し現象を起こし、貼付時にべとつきが生じるといった問題が発生する。
これらの炭素数が3〜30のグリコールとグリセリンを特に上記の配合量で用いることにより、ゲル流動性が高くなり、展延性に優れた、初期の粘着力が良好な非ステロイド系消炎鎮痛剤含有水溶性貼付剤を作製できる。
【0008】
ゲルを構成する組成については特に制限はなく、通常用いられている組成例えば、水溶性高分子、賦形剤、保湿剤、安定化剤、架橋剤などを添加させることができる。
【0009】
水溶性高分子としては例えば、ゼラチン、加水分解ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、ポリアクリル酸デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、N−ビニルアセトアミド共重合体等を単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。その配合量としては3〜20重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0010】
賦形剤としては例えば、カオリン、酸化チタン、軽質無水ケイ酸、酸化亜鉛、ベントナイト等を単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。その配合量としては0.5〜10重量%である。
【0011】
保湿剤としては例えば、D−ソルビトール液、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ピロリドンカルボン酸塩等を単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。その配合量としては5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%である。
ゲル中の水の配合量は30〜60重量%であり、好ましくは35〜50重量%である。
【0012】
安定化剤としては例えば、エデト酸塩、パラオキシ安息香酸エステル、酒石酸等を単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0013】
架橋剤としては例えば、水酸化アルミニウム、アルミニウムグリシネート、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸金属塩、合成ケイ酸アルミニウム等の多価金属化合物等を単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0014】
また、必要に応じて吸収促進剤、防腐剤、抗酸化剤、可塑剤、乳化剤、界面活性剤等を添加させることができる。
【0015】
貼付剤の支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン等の多孔体、発砲体、織布、不織布、さらにはフィルム又はシートと多孔体、発砲体、織布、不織布とのラミネート品等を用いることができる。
【0016】
粘着基剤表面を被覆するプラスチックフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル又はこれらをシリコーンで離型処理したものを用いることができる。
【0017】
前記の様な構成で組成された粘着基剤を支持体上に展延し、粘着基剤表面をプラスチックフィルムで被覆することにより、貼付剤を成形することができる。
以下に実施例及び試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1
ポリビニルアルコール 2.75g、酒石酸 1.2g、70%D−ソルビトール液 20g、カオリン 3g、濃グリセリン 20g、カルメロースナトリウム 3g、ポリアクリル酸部分中和物 5g、 ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート 0.07g、エデト酸ナトリウム 0.1g、ポリソルベート80 0.3g、精製水 適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール200 4.5gにフルルビプロフェン 0.33g、パラオキシ安息香酸エステル 0.15gを溶解した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を伸縮性不織布上に展延し、粘着基剤表面をポリプロピレンフィルムで被覆することにより貼付剤を成形した。
【0019】
実施例2〜3及び比較例1〜3
表1に記載されている各組成成分を実施例1と同じ方法にて各貼付剤を成形した。
【表1】

【0020】
試験例1
実施例1〜3と比較例1〜3の各貼付剤を5枚一袋としてアルミニウム袋に密封した後、40℃及び50℃条件下で1ヶ月間保存し、これらの各貼付剤中の非ステロイド系消炎鎮痛剤含有量を高速液体クロマトグラフにより測定した。
その結果を表2に示す。
【表2】

【0021】
表2の結果より、フェニルプロピオン酸系に属する非ステロイド系消炎鎮痛剤であるイブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、フェノプロフェン及びフルルビプロフェンから選ばれる少なくとも1種以上をポリエチレングリコールに溶解させた後、粘着基剤中に均一に分散させた本発明の実施例1〜3の貼付剤は、比較例1〜3に比べて上記条件下でも配合されている非ステロイド系消炎鎮痛剤の経時的含量低下が抑制され、貼付剤中において配合されている非ステロイド系消炎鎮痛剤の保存安定性が良好であることが確認された。
【0022】
製剤例
製剤例1
ポリアクリル酸 5.4g、ヒマシ油 1.5g、70%D−ソルビトール液 10g、ポリアクリル酸ナトリウム 2.5g、カルメロースナトリウム 4.0g、濃グリセリン16.0g、ポリビニルアルコール 3.0g、カオリン 3.0g、酸化チタン 0.5g、合成ヒドロタルサイト 0.12g、エデト酸ナトリウム 0.05g及び精製水 適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール300 3.0g、ツイン20 0.2gにケトプロフェン 0.5gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を伸縮性不織布上に展延し、粘着基剤表面をポリエチレンテレフタレートで被覆することにより貼付剤を作製した。
【0023】
製剤例2
ゼラチン 0.5g、ポリビニルアルコール 0.2gを50℃に加温した精製水 2.5g中で溶解した。この溶解液とポリアクリル酸部分中和物 5.0g、カルメロースナトリウム 3.5g、濃グリセリン 25g、乾燥水酸化アルミニウムゲル 0.55g、70%D−ソルビトール液 20g、カオリン 6.5g、エデト酸ナトリウム 0.08g、酒石酸 1.8g、及び精製水適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール400 8.0g、ヒマシ油 1.0g、モノオレイン酸ソルビタン 0.5gにフルルビプロフェン 0.5gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を織布上に展延し、粘着基剤表面をポリエチレンテレフタレートで被覆することにより貼付剤を作製した。
【0024】
製剤例3
加水分解ゼラチン 0.5gを精製水 2.5gで溶解した。この溶解液とポリアクリル酸部分中和物 3.0g、ポリアクリル酸デンプン 1.0g、濃グリセリン 12.5g、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート 0.05g、ヒドロキシプロピルセルロース 0.5g、エデト酸ナトリウム 0.05g、酒石酸 1.2g及び精製水 適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール600 4.5g、l−メントール 0.5g、ツイン20 0.3gにイブプロフェン 0.35gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を織布上に展延し、粘着基剤表面をポリエチレンテレフタレートで被覆することにより貼付剤を作製した。
【0025】
製剤例4
ポリビニルアルコール 2.25g、酒石酸 1.2g、濃グリセリン 20g、カルメロースナトリウム 3.0g、ポリアクリル酸部分中和物 5.0g、70%D−ソルビトール液 20g、カオリン 3.0g、エデト酸ナトリウム 0.1g、合成ケイ酸アルミニウム 0.08g及び精製水 適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール600 4.5gにケトプロフェン 0.35gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を織布上に展延し、粘着基剤表面をシリコン処理したポリエチレンテレフタレートで被覆することにより貼付剤を作製した。
【0026】
製剤例5
ゼラチン1.0g、ポリビニルアルコール0.4gを60℃に加温した精製水5.6g中で溶解した。この溶解液と前もって予備調製した調製液A(ポリアクリル酸ナトリウム3.5g、カルメロースナトリウム2.0g、濃グリセリン15g、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート0.5g、カルボキシビニルポリマー1.7g、酒石酸0.2g、尿素1.5g)及び調製液B(70%D−ソルビトール液20g、エデト酸ナトリウム0.2g、エチルパラベン0.1g、精製水 適量)を均一に混合して含水ゲルを調製した。次に精製水1.5g、ジイソプロパノールアミン1.5g、亜硫酸ナトリウム 0.05g中にジクロフェナクナトリウム3.0gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤をポリウレタン製発砲体上に展延し、粘着基剤表面をポリプロピレンフィルムで被覆することにより貼付剤を作製した。
【0027】
製剤例6
ポリビニルアルコール3.0gを60℃に加温した精製水17g中で溶解した。この溶解液と濃グリセリン25g、ポリアクリル酸部分中和物5.0g、カルメロースナトリウム3.0g、ヒドロキシプロピルセルロース0.5g、カオリン3.0g、メタケイ酸アルミン酸金属塩0.25g、酒石酸1.5g及び精製水適量を均一に混合して含水ゲルを調製した。次にポリエチレングリコール600 13g、ポリソルベート80 0.3g中にピロキシカム0.25gとメチルパラベン0.15gを溶解分散した後、先の調製した含水ゲル中に均一になるように分散し、粘着基剤を得た。この粘着基剤を織布上に展延し、粘着基剤表面をポリエチレンフィルムで被覆することにより貼付剤を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)を炭素数が3〜30のグリコールに溶解もしくは分散させ、グリセリン含有ゲル中に均一に分散させることによって非ステロイド系消炎鎮痛剤を安定に配合させることができ、従来の溶解型のパップ剤に比べ、非ステロイド系消炎鎮痛剤の保存安定性を著しく高めた水溶性貼付剤を提供することが可能となった。
更に炭素数が3〜30のグリコールとグリセリンを組み合わせることにより、ゲル流動性が高くなり、展延性に優れた、初期の粘着力が良好な水溶性貼付剤を作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン含有ゲル中に炭素数が3〜30のグリコールに溶解もしくは分散した、非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)を分散させてなる貼付剤。

【公開番号】特開2012−188429(P2012−188429A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105386(P2012−105386)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【分割の表示】特願2000−394497(P2000−394497)の分割
【原出願日】平成12年12月26日(2000.12.26)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【Fターム(参考)】