説明

非ニュートン液体を用いる界面動電装置

界面動電現象を利用する装置に非ニュートン流体を使用して、当該装置を流れる電気浸透流を生成する。非ニュートン流体の非線形の粘度により、界面動電装置は、外部から印加される圧力及び電位等の異なる作動条件下において作動することができる。非ニュートン流体を用いる界面動電装置は、これらに限定されないが、界面動電ポンプ、フロー制御器、ダイアフラムバルブ、及び変位システムを含む多数の用途に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は概して界面動電現象を利用する流体用装置に関し、具体的には、そのような界面動電流体装置における非ニュートン液体の利用に関する。
【0002】
発明の背景
界面動電流又は電気浸透流は良く知られている現象である。界面動電流(EOF)を利用する装置は通常、流入口及び流出口を備え、多孔質材料を含むこともできる液体で充填される導管を含む。導管及び導管内に配置される全ての材料の内部濡れ表面はゼータ電位を示し、ゼータ電位は、導管と濡れ性流体の間の界面に存在する電位を表わす。使用状態では、電位差及び/又は流体圧力差が流入口と流出口の間に加わる。
界面動電装置を特徴付けるために使用されるキーとなるパラメータは電気浸透移動度であり、電気浸透移動度は、古典的なヘルムホルツ−スモルコフスキー方程式に従って、ゼータ電位と液体誘電率の積を液体の動粘度で除した値として定義される。
【0003】
別のキーパラメータは液体中のデバイ長である。界面動電装置の中の液体は、液体に何らかの濃度のイオン粒子が含まれることによってイオン導電性を示す。イオン粒子は液体に全部又は部分的に溶解する塩又は緩衝剤のいずれかの組み合せとすることができる。イオン粒子の組み合わせはイオン強度によって特徴付けられる。デバイ長はこのイオン強度の平方根に反比例する。室温の水では、例えばデバイ長は約13.6ナノメートルをイオン強度の平方根で除した値であり、イオン強度はミリモル/リットルの単位で表わされる。
第3のキーパラメータは、ポアスケールと呼ばれる導管の実効内径である。不規則な断面形状を持つ導管、細分割された断面(例えば、毛細管の束)を含む導管、又は多孔質材料からなる断面を含む導管の場合、ポアスケールを求める方法は、Johnsonらによる[D. L. Johnson, J. Kopllik及びR. Dashen, "Theory of dynamic permeability and tortuosity in fluid-saturated porous media, "F. Fluid Mech. vol. 176 pp.379-402 (1987)]に記載されている。
【0004】
ポアスケールがデバイ長より有意に大きい(例えば、ポアスケールがデバイ長の100倍超である)条件下において、電気浸透流を理想的な流体として扱うことができる。理想的な電気浸透流の場合、電気浸透移動度は古典的なヘルムホルツ−スモルコフスキー方程式によって与えられる。しかし、ポアスケールがデバイ長の約100倍未満である場合、幾つかの非理想プロセスが重要になる:(1)電気浸透移動度が減少する;(2)導管内の液体の電気伝導度が増大する;(3)電気伝導度及び電気浸透によって導管内に正味イオンフラックスが発生し、このイオンフラックスにより、導管の流入口において、本質的に不安定なイオン濃度が低くなる。これらの非理想的な影響は、ゼータ電位の増大、及び/又はポアスケールの縮小により増幅される。
古典的方程式によって与えられる電気浸透移動度を最大にするために、動電学の分野では、高いゼータ電位を、誘電率/動粘度の比が高い液体に使用することが教示されている。理想的な条件下において、界面動電装置により生成される容積流量は、電気浸透移動度を液体の電気伝導度で除した値に導管を流れる電流を乗じた値に等しい。従って、界面動電装置により生成される最大圧力(例えばストール圧)は、32×(電気浸透移動度)×(液体の動粘度)×(装置に印加される電圧)/(装置のポアスケールの2乗)に等しい。
【0005】
ずり応力とずり速度の間に線形比例関係を持つ液体はニュートン液体と呼ばれる。ニュートン液体の場合、ずり応力は、ずり速度と液体の動粘度との積に等しい。従来の界面動電装置はニュートン液体を使用する。ニュートン液体では、ずり速度に対するずり応力の比が一定であるので、電気浸透流により駆動されるという条件下における液体の粘度は、圧力により駆動されるという条件下の液体の粘度に等しい。従って、古典的な電気浸透流装置では、電気浸透流で駆動される場合の流量と、圧力により駆動される場合の流量は共に、同じ液体粘度に反比例する。
多くの実際の用途では、界面動電装置は、何らかの外部流体から抵抗を受けながら流れを生成することにより、背圧に逆らう流体流を生成することができる。これは、小さいポアサイズをバランスよく使用して、減少するイオン強度に対して高いストール圧を実現し(従って、イオン強度を大きくして非理想的な影響を回避する必要がある)、よって流れの生成に必要な電流を最小にすることにより行なわれる。好適には、大きな電流を流すことを回避して、熱暴走を生じ得るジュール加熱の使用を避け、且つ界面動電装置の端子端に配置される電極における液体の電気化学反応を小さくする。
【0006】
従来の界面動電装置に固有の限界を克服するため、本発明の種々の実施形態は非ニュートン流体の特性を利用する。非ニュートン流体は、ずり速度とずり応力の間に非線形の関係を持つ。この非線形関係によって、界面動電装置は、1組の動作条件の下で動作することができ、一方、異なる組の動作条件下では別の方法で動作することができる。従って、非ニュートン流体を使用する場合、界面動電装置を、ニュートン流体を使用する従来の界面動電的な方法では不可能な性能レベルで動作させることができる。このような最先端の性能により、界面動電装置は、従来の界面動電的な方法を用いては実現不能な流れ−圧力領域で動作することができる。
界面動電装置の異なる動作条件は、例えば圧力により駆動される流れと、電気浸透流により駆動される流れに生じる。電気浸透流の場合、装置の壁においてずり応力が大きくなることにより、流量は高い応力を受ける液体の粘度に反比例する。圧力により駆動される流れの場合、最大ずり応力が相対的に小さいことにより、流体の流量は、低応力下での粘度に近いか又は等しい粘度の値に反比例する。非ニュートン液体が高応力下での粘度より何倍も大きい(例えば、1000倍以上)粘度を低応力下で示す場合、圧力により駆動される流れは、電気浸透流より有意に大きい粘性流の抵抗を受ける。この性質は以下に説明するように多くの用途を有する。
【0007】
本発明の一実施形態では、界面動電装置は、流入口、流出口、及び内部表面を有する導管を備える。導管内の全ての内部小分割部分又は全ての多孔質材料を含む導管の内部表面は、非ニュートン液体が導管内に導入されて導管の表面と接触するとゼータ電位を示す。ゼータ電位は、液体と周囲固体との界面に位置する何らかの正味電荷の量を特徴付ける。非ニュートン液体は、ずり速度とずり応力の間に有意な非線形の関係を持つイオン伝導性液体であることが好ましい。導管の流入口と流出口の間に電位を加えて、導管の軸に沿って電界を発生させる。この電界によって、体積力が液体中の正味電荷に作用し、その結果電気浸透流が生じる。別の実施形態では、界面動電装置を動作させるキットは、導管、電位供給源及び非ニュートン液体を用いた装置の使用に関する指示を含む。
別の実施形態では、界面動電装置は、導管及び導管の流出口に接続される一つ以上の流体抵抗素子を通過するように流体を強制的に流すポンプとして使用される。別の実施形態は界面動電装置を流体制御装置に使用し、この場合、容器から下流の流体抵抗素子を通過して流れる液体の流れは、容器と流体抵抗素子の間に接続される界面動電導管を流れる電気浸透流によって制御される。別の実施形態では、ダイアフラムバルブは可撓性部材を含み、この可撓性部材は閉じ位置と開き位置の間で電気浸透流によって作動する。このように、非ニュートン液体を界面動電装置に使用する本発明の実施形態には、多数の構成、使用方法、及び適用形態が可能である。
【実施例】
【0008】
界面動電装置を、種々の構成で流体システム内の要素として使用することにより多数の目的を達成することができる。界面動電装置の基本理論及び幾つかの適用形態は、本出願人による米国特許第6719535号に記載されており、この文献の内容全体を参照により本明細書に包含する。図1は、界面動電現象により駆動される流体の流れを生成する基本的なシステムを示している。
図示のように、本界面動電装置は、内部に界面動電現象を有する導管110を含む。導管110の一端(例えば流入口)は、容器150に接続して流体を流通させ、反対側の端部(例えば流出口)は開放されている。液体140は、容器150に充填されており、且つ、導管110の流入口から自由に流出することができる。好適には、液体140は導管110も満たしている。液体140は非ニュートン液体を含み、非ニュートン液体は、ずり応力とずり速度の間に非線形の関係、即ち非線形な粘度を持つ全ての液体を含む。
【0009】
電極130は容器150の液体140に接触し、ノード160は液体に導管110の流出口で又は流出口近傍で接触する。他の実施形態では、電源120は液体140と直接接触する必要はないが、その代わり、導管110内に電界を発生させる(例えば、キャパシタプレートを使用して)ソースに接続される。ノード160は液体に直接電気的に接続することができるか、又はブリッジ接続を含むことができる。この目的に適するブリッジ接続は、本出願人により2004年7月20日に出願された、米国特許出願第10/896102号に記載されており、この文献の内容全体を参照により本明細書に包含する。別の構成として、又は追加的構成として、装置に電流を供給する手段は、容量性電極及び/又は擬似容量性電極を内蔵することができる。電極130とノード160とは、電源120によって電気的に接続されている。電源120を使用して電力を供給することにより、流体充填導管110の内部に電界が生成される。液体140と導管110の内部表面の間のゼータ電位によって、導管110の流入口から流出口に向かう流体140に体積力が作用する。この体積力によって、容器150から導管110及びノード160へと流れる流体140の正味の流れQが発生する。
導管110は流入口及び流出口を含み、これらによって液体は導管110に流入し、導管から流出することができる。導管110の本体は、流入口と流出口の間で液体の流れを方向付ける機能を備える全ての構造を含むことができる。流入口及び流出口は相対的な言い方であり、導管110内部の流体は、常に流入口から流出口に流れる。つまり、流れが逆になる場合、流入口は流出口になり、流出口が流入口になる。導管110は特定の形状又は構造(例えば直円柱)に制限されることはない。更に、導管110はあらゆる断面形状又は断面積を有することができ、その形状及び面積は導管110の長さに沿って変化することができる。
【0010】
更に、導管110は、内部を殆ど空にすることができるか、又は導管の長さに沿って内部を細分割することができる。例えば、導管110の一内部領域は毛細管束を含むことができる。別の構成として、又は追加的構成として、導管110は多孔質材料を含むことができ、且つ導管の長さに沿って区分、小分割部分、又は多孔質材料のあらゆる組み合わせを有することができる。多孔質材料、区分、及び小分割部分の使用により導管110の内部表面積を大きくし、ポアスケールを小さく維持しながら導管110の断面積を効果的に大きくすることが望ましい。導管110の内部表面、又は内部表面の少なくとも一部分は、液体によって濡れるとゼータ電位を示す。好適には、導管110内の、内部表面も含む構造、小分割部分、又は多孔質材料は、液体で濡れるとゼータ電位を示す。
直円柱導管(例えば毛細管)の場合、流量は次式により与えられる。

上式中、Rは導管の半径であり、du/drは、半径方向速度分布から導出されるずり速度であり、ずり応力の何らかの関数に等しい。ニュートン液体の場合、ずり速度はずり応力を粘度で除した値に等しい。しかしながら、ここで使用する非ニュートン液体の場合、ずり速度はずり応力の非線形関数である。
【0011】
ずり速度とずり応力の間に非線形の関係を示す液体は、非ニュートン液体と呼ばれる。非ニュートン液体の種類及び挙動は、多数の教科書で扱われている(例えば、Foundations of Colloid Science Vol. II, R. J. Hunter (Oxford Univ. Press, Oxford, 1989), pp.994-1002参照)。従って、擬似可塑性(シアシニング)挙動を示す液体、膨張性(シアシックニング)挙動を示す液体、及び降伏応力又はビンガム塑性体挙動を示す液体を含む多くの種類の非ニュートン液体が公知である。
擬似可塑性液体は、高応力状態で低粘度を示し、低応力状態で高粘度を示す傾向があり、無視できる程度の降伏値と、ずり応力の増加とともに低下する粘度を示す。Hunterに引用され、且つBogerによる論文[D. V. Boger, "Demonstration of upper and lower Newtonian fluid behavior in a pseudoplastic fluid," Nature vol. 265, pp.126-128 (1977)]に参照されているMeterの関数を広く使用して、擬似可塑性非ニュートン液体のずり応力とずり速度との関係を記述する。この関係は次式に表わすことができる。

この関数では、τはずり応力であり、η及びηはそれぞれ、いわゆる動粘度の高応力における限定値及びゼロ応力限定値であり、αは擬似可塑性液体に関して1より大きい「ベキ乗則の値」と呼ばれる数値係数であり、τはいわゆる臨界ずり応力である。Meterの関数の右辺の分母はずり応力の関数として粘度を与える。低ずり応力(例えば、τ<<τ)では、Meterの関数は、ずり応力をゼロ応力粘度ηで除した値に等しいずり速度を有するニュートン液体として近似値を出すことができる。一方、高ずり応力(例えば、τ>>τ)では、Meterの関数は、ずり応力を高応力粘度ηで除した値に比例するずり速度を有するニュートン液体として近似値を出すことができる。
【0012】
一実施形態では、界面動電装置に使用される非ニュートン液体は擬似可塑性液体であるか、又は擬似可塑性液体を含む。擬似可塑性液体は、添加剤を溶媒に混ぜることにより生成することができ、この場合、添加剤は液体添加剤及び固体添加剤、又は液体添加剤及び/又は固体添加剤の混合物を含むことができる。一実施形態では、擬似可塑性液体の高応力粘度ηは、溶媒の粘度の2倍未満であり、好ましくは溶媒の粘度にほぼ等しい。別の実施形態では、擬似可塑性液体のゼロ応力粘度ηは擬似可塑性液体の高応力粘度の10倍超であり、好ましくは高応力粘度の100倍超であり、最も好ましくは高応力粘度の1000倍超である。別の実施形態では、擬似可塑性液体のベキ乗則の値αは2より大きく、好ましくは3より大きく、更に好ましくは4より大きい。
擬似可塑性液体が界面動電装置に使用される一実施形態では、圧力による駆動の下での最大ずり応力は、臨界ずり応力の4倍未満であり、好ましくは臨界ずり応力の2倍未満であり、最も好ましくは臨界ずり応力より小さい。別の実施形態では、電気浸透流の最大ずり応力は、ずり応力の上限値の1/2より大きく、好ましくはずり応力の上限値の2倍より大きく、最も好ましくはずり応力の上限値の10倍より大きい。
【0013】
擬似可塑性液体の特定の実施例として、Bogerは、擬似可塑性挙動を示すポリアクリル酸水溶液に関するデータを報告している。BogerのデータをMeterの関数に適用すると、約0.9mPa−秒(又は、水の粘度にほぼ等しい0.9センチポイズ)の値η、約3000mPa−秒の値η、約3.5の値α、及び約0.3パスカルの値τが得られる。この実施例では、ずり応力の上限値は約16パスカルであり、この値は、高応力粘度の2倍の粘度を与えるずり応力の値と考えられる。
非ニュートン液体の特定の実施例を提示するが、ここに説明する界面動電装置は、所定の用途に適する物理特性を有する非ニュートン液体の全てに使用することができる。本発明の実施形態に使用するのに適する非ニュートン流体の例は次の流体を含む。
・ポリアクリルアミド水溶液、又はポリアクリルアミドとアクリラートとの共重合体の水溶液(例えば、公称濃度2〜500ppm)。ポリアクリルアミド又は部分的に親水化された適切な濃度のポリアクリルアミドの溶液はダウケミカルの商標名SEPARANの下に市販されている。
・ポリアクリル酸水溶液(例えば、公称濃度1〜2000ppm)。
・カルボキシメチルセルロース水溶液、カルボキシエチルセルロース水溶液、カルボキシプロピルセルロース水溶液、又は他のカルボキシセルロース系化合物水溶液(例えば、公称濃度2〜2000ppm)。適切な濃度のカルボキシセルロース溶液はHerculesの商標名AQUALON及びNATROSOLの下に市販されている。
・キサンタンガム水溶液(例えば、公称濃度20〜2000ppm)。
・ヒドロキシメチルセルロース水溶液、ヒドロキシエチルセルロース水溶液、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液、又は他のヒドロキシセルロース系化合物水溶液(例えば、公称濃度20〜2000ppm)。適切な濃度のヒドロキシセルロース溶液はHerculesの商標名AQUALONの下に市販されている。
・ポリエチレンオキシド水溶液(例えば、公称濃度0.1〜2.5重量%)。
・ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん水溶液(例えば、公称濃度0.1〜2.5重量%)。適切な濃度の溶液はNational Starchの商標名Structure ZEAの下に市販されている。
しかしながら、このリストは全てを網羅している訳ではなく、多種多様な非ニュートン流体のいずれも使用可能である。水溶液中で非ニュートン挙動を示す他の化合物として、カラギーン、ヒドロキシプロピルグアーガム、アラビカゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボマー、カルボキシビニルポリマー、及びラポナイトを挙げることができる。しかしながら、非ニュートン挙動は水溶液中だけでなく、水溶液及び有機溶液の両方、並びに水溶液及び有機溶液の混合液の中でも現われる。
【0014】
一実施形態では、非ニュートン液体は、溶媒と組み合わせた添加剤を含み、溶媒は比較的低い粘度、及び比較的高い誘電率を示す。例えば、溶媒は、従来の電気浸透装置に使用することが可能な液体であることが好ましい。一部の用途では、添加剤材料を溶媒に混ぜる前に透析することが好ましい。例えば、これにより、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムから汚染物質である硫酸ナトリウムを除去し易くなる。溶媒に非ニュートン挙動を付与する添加剤は、好ましくは、溶媒を使用したときに界面動電装置のゼータ電位が保持されるか、又は高くなるように選択される。
非ニュートン液体を使用する場合、図1に示す界面動電装置は種々の条件下で動作させることができる。例えば、装置は圧力によって駆動することができ、この場合、流体140は、流入口と流出口との流体圧力差によって導管110を流れる。装置は電気浸透流を利用する手段によって駆動することもでき、この場合、導管110内に加わる電界によって、導管110の内部表面のゼータ電位により流体140の電気浸透流が生じる。別の構成として、装置は、圧力駆動流の条件及び電気浸透流の条件を組み合わせた条件下で動作させることができる。圧力差及び電位差の両方を導管110の流入口と流出口の間に印加する場合、これらの差は同じ方向に、又は反対方向に加えることができる。このようにして、圧力駆動流及び電気浸透流は一定に、又は互いを補完するように、流すことができる。
【0015】
圧力駆動を用いる一実施例では、軸方向の圧力勾配Pによって毛細管中に層流が駆動される場合、最大ずり応力は毛細管の壁で生じ、この値は毛細管の半径をRとするとRP/2により与えられる。軸方向圧力勾配が10psi/cmであり、且つ毛細管の内径が1ミクロンである場合、最大ずり応力は約1.7パスカルである。Bogerのポリアクリル酸溶液を用いると、この最大ずり応力はずり応力の上限値よりずっと小さいので、全体の流れは比較的高い粘度(例えば、ゼロ応力粘度にほぼ等しい)を有する。
電気浸透流を用いる一実施例では、50mVのゼータ電位を持ち、且つ10mMのイオン強度を有する水溶液が充填された導管に、100V/cmの軸方向電界が印加されると、この場合も最大ずり応力は壁に生じ、その値は約114パスカルである。この場合も、Bogerの溶液を用いると、電気浸透流の最大ずり応力は、ずり応力の上限値よりずっと大きいので、電気浸透流のほぼ全体が高応力粘度(例えば、ゼロ応力粘度の数千分の一)を有する。
【0016】
圧力駆動流及び電気浸透流を組み合わせる一実施例では、界面動電現象を有する導管110の両端に外部から圧力差を加える。例えば、導管110の流出口における圧力が流入口の圧力より低い場合、圧力差によって導管110内の流体140にサイフォン作用又はリーク流が引き起こされる。界面動電装置の電源が継続的にオン状態である場合、圧力によって駆動されるリーク流はほぼ無視することができる。しかしながら、一部の用途では、界面動電装置の電源を継続的にオン状態にするのではなく、低い負荷サイクルに置くことが好ましい。或るデューティサイクルに従って装置の電源をオンにする場合、当該デューティサイクルは、センサ信号、又はセンサ信号に基づくアルゴリズムに従って、一つ以上のセンサ信号を使用して変更することができる。デューティサイクル条件下では、圧力によって駆動されるリーク流が時間と共に蓄積することが問題となる。チェックバルブを追加してこのリーク流を制御することができる。しかしながら、小流量のチェックバルブはバルブ自体がリークし易い。幸い、本発明の実施形態に関しては、圧力によって駆動されるこのリーク流は、液体140が非ニュートン挙動を示すために極めて小さい。
界面動電装置の一実施形態の動作は、擬似可塑性の非ニュートン液体を使用する構成において理解することができる。電気浸透流では、高いずり応力が壁に生じることにより、電気浸透流の流量は高応力粘度に反比例する。流れが圧力によって駆動される場合、最大ずり応力が比較的小さいことにより、圧力によって駆動される流体の流量は、ゼロ応力粘度に近いか、又はほぼ等しい粘度の値に反比例する。ゼロ応力粘度は、高応力粘度の1000倍以上の大きさになることができるので、圧力によって駆動される流体は、電気浸透流よりずっと大きな流体粘性抵抗を受ける。
【0017】
非ニュートン液体を使用する場合、界面動電装置は、ニュートン液体を使用する装置より優れた複数の利点の内の一つ以上の利点を有することができる。例えば、所定のポアスケールの場合に、ニュートン流体ではなく非ニュートン流体を使用することにより、ストール圧が有意に高くなる(例えば、10〜100倍以上)。更に、所定のポアスケールの場合、非ニュートン流体を使用することによりサイフォン作用が低減するので、界面動電装置のリーク流が少なくなる。ニュートン液体を使用する装置は、ある程度のストール圧を実現するが、理想的な電気浸透流条件(即ち、薄い二重層)の下で作動するには高イオン強度を有する液体が必要である。非ニュートン流体の場合、第1導管のポアスケールの10倍以上のポアスケールで同じストール圧が得られる。これにより、イオン強度を低くすることができるので、電流を小さくすることができる。大きいポアスケール材料の使用が可能になることによって、高性能界面動電装置としてより多くの市販材料が使用に適合し、且つ当該装置を比較的低い伝導度、従って相対的に小さい電流で動作させることができるという直接的な利点が得られる。
更に、ニュートン液体を使用すると、或る程度の大きさのストール圧を得るために電位を印加する必要がある(例えば、従来のEOF装置では、普通、キロボルトレベルの電圧を使用して1000psiの範囲の圧力を生成する)。しかし、非ニュートン流体を使用すると、1/100〜1/10の大きさの印加電位を使用して同じストール圧を達成することができるので、高電圧電源を必要とすることなく高圧ポンプ駆動が可能になる。これにより、ジュール加熱の有害な影響が低減され、高電圧使用に関連する問題、特にコロナ放電及び破壊的な表面ブレークダウン/アーク放電を無くすことができる。
【0018】
図1に示す界面動電装置は多数の用途に使用することができる。例えば、図2は、図1の界面動電装置をポンプとして使用して、流体を流体ネットワークに方向付ける方法を示している。図示の実施形態では、流体抵抗素子210を導管110と流体連通するようにノード160の下流に設ける。単純な流体抵抗素子210を示しているが、流体受動素子及び/又は流体能動素子からなるもっと複雑なネットワークをノード160に接続することができる。流体抵抗素子210を設けることにより、液圧が素子110と210の間に発生する。この液圧によって、素子210内に圧力駆動流が発生する。このようにして、界面動電装置は界面動電現象を利用する高性能ポンプとして使用される。ニュートン液体の使用に言及する従来の界面動電ポンプの例として、米国特許第3923426号及び同第6013164号を挙げることができる。
本発明の一実施形態による界面動電装置の別の用途は電気浸透流制御装置である。界面動電現象による流体制御装置の実施形態は、本出願人による米国特許出願公開第2002/0189947号に記載されており、この文献の内容全体を参照により本明細書に包含する。図3は、電気浸透流制御システムの一実施形態を示している。当該システムでは、非ニュートン液体390が容器380に収容され、この容器は液体390を圧力Pで保持する。この圧力Pは、流体抵抗素子350及び360、ブリッジ340、及び界面動電駆動流を有する導管310の間の共通接続部に向かい、流体抵抗素子350を通って流れる圧力駆動流を起こす。単純な流体抵抗素子350及び360を示しているが、流体受動素子及び/又は流体能動素子からなるもっと複雑なネットワークをこのシステムに使用することができる。導管310は別の容器370に接続され、この容器は非ニュートン液体390を圧力Pで保存する。容器370は、導管310を流れる流体の方向に応じて、導管310を通って流れる液体390の供給源又は供給先として機能することができる。ここで、素子350及び導管310を共通接続部に向かって流れる流れは、ブリッジ340を通る流れがないと仮定すると、共通接続部から離れる方向に素子360から流れる流れQに等しい。従って、導管310を通る流れを制御することにより、システムから流出する流れQを制御することができる。
【0019】
電気浸透流を利用して導管310を流れる液体390の流れを制御する。ブリッジ340と、容器370内に配置される電極330の間に電源320を接続して、導管310の内部に電界を発生させる。好適には、容器370内の圧力Pは、容器380内の圧力Pより低く、流体抵抗素子360の流出口の圧力も圧力Pより低い。従って、素子350を通る圧力駆動流は素子310と360とに分流する。素子310に電圧を印加することにより電気浸透流が発生し、この電気浸透流により、導管310を通る流体が容器370に向かって流れる。導管310を通る流れは、共通接続部での圧力を低下させるので、素子360を通る圧力駆動流が減る。このようにして、界面動電現象を利用した素子310の変化は、素子360を通る流れ、従って下流の全てのコンポーネントに向かって流れる流れを制御する。別の構成として、電源320は、導管310内の電気浸透流が容器370から、共通接続部に向かうように構成することができる。このように構成することにより、電気浸透圧を利用して導管310を容器370に向かって流れる、通常圧力PとPとの差によって発生する圧力駆動流を小さくすることができる。
流体制御装置に非ニュートン流体390を用いることにより得られる利点を認めることができる。例えば、電界における印加圧力の変化に対する非線形応答によって、電気浸透流制御装置の制御範囲が大きく広がる。更に、非ニュートン液体390を使用することによって界面動電装置はシステム内の圧力駆動流を制御することができるので、システムから流出する流れQを制御することができる。
【0020】
別の実施形態では、本発明の一実施形態による界面動電装置はダイアフラムバルブに使用される。図4は、界面動電現象を利用して作動されるダイアフラムバルブを示している。ダイアフラムバルブは通常、機械的に、空気圧により、電磁的に、及び流体圧により駆動される。流体圧により駆動される場合、ダイアフラムバルブは、一つの装置に流れを発生させることにより、装置の液体を他の液体に混合させることなく、他の何らかの液体の流れに影響を与えることができるように使用することができる。図4に示す実施形態は説明のために提示されており、ダイアフラムバルブはこの技術分野で公知である。ダイアフラムバルブを界面動電現象により作動させる方法は、例えば米国特許第6019882号及び同第6224728号に開示されている。
ダイアフラムバルブを作動させるため、可撓性部材450を開き位置と閉じ位置の間で移動させる。閉じ位置では、可撓性部材450を移動させてポート470に蓋をすることにより、ポート470とポート475の間の液体連通を阻止する。開き位置では、可撓性部材450をポート470から離して、液体がポート470とポート475の間を流れるようにする。可撓性部材450はダイアフラム、ベローズ、又は他のいずれかの公知の適切な構造とすることができる。図4に示すように、可撓性部材450は、非ニュートン液体420を充填した、上述の装置のような界面動電素子410によって作動する。一実施形態では、界面動電素子410は、複数の容量性電極440の間に挟まれており、これらの容量性電極は引き出し線430を介して電源に接続することができる。参照により内容全体を本明細書に包含する米国特許出願公開第2004/0074768号は、この用途に適した容量性電極の使用について記載している。この構成によって、ガス状副生成物及び他の電極反応副生成物による有害な影響を回避することができる。
【0021】
流体によって作動するダイアフラムバルブの一つの問題は、バルブが作動した後(即ち、界面動電素子の電源が投入され、ダイアフラムが膨張した後)は、ポンプの電源を入れたままの状態にして、バルブを閉じ位置に保持する保持圧を保つ必要があることである。ポンプの電源を入れたままの状態にしないと、この保持圧は、圧力差によって生じる逆流が界面動電素子を流れるために保てなくなる。一実施形態では、擬似可塑性液体に非ニュートン液体420を選択することによりこの問題に対処している。上に挙げた例によれば、純粋に圧力駆動される流量(即ち、界面動電素子410を逆流するリーク流)は、界面動電現象により作動し、且つニュートン液体を使用する従来のダイアフラムバルブの1/1000〜1/100である。従って、擬似可塑性液体420を使用することにより、図4に示すダイアフラムバルブは、リード430に高電位を印加することにより高速に閉じることができる。このような高応力が発生する条件下では、擬似可塑性液体の粘度が低いので、界面動電素子410を通過する流れは比較的速く、従って可撓性部材450が高速に作動する。バルブが閉じると、素子410を通過する大きな流体流は無くなる。従って、擬似可塑性液体の粘度は高くなる。このような粘度の増大により、単にリーク流の逆流を補償する維持レベルである、1/1000〜1/100倍の大きさまで、印加電位を低減することができる。
別の実施形態では、非ニュートン液体を使用する界面動電装置を変位システムに使用して第2流体の分配又は導入を行なう。機械的に、空気圧により、電磁的に、又は流体圧により駆動される可撓性部材又は可動部材を使用して第2液体を変位させることができる。界面動電現象により駆動される変位システムの例は、米国特許出願公開第2004/0074768号の図11に示され、当該明細書の対応する箇所に記載されている。従って、界面動電装置を作動可能に接続することにより、可撓性部材又は可動部材を流体圧により駆動し、第2流体を流すことができる。有利には、可撓性部材又は可動部材の使用により、界面動電装置に非ニュートン流体の流れを発生させることにより、装置液体を第2液体と混合させることなく第2液体の流れに影響を与えることができる。
【0022】
図5は、界面動電現象により駆動される変位システムの一実施形態を示している。システムは、少なくとも一つの開口520を有するチャンバ510を備える。チャンバ510は装置液体530を保持し、液体はシステムによって変位する(例えば、チャンバ510から分配されるか、又はチャンバ510に導入される)あらゆる液体を含むことができる。チャンバ510及びチャンバ内の装置液体530は、可撓性部材540に作動可能に接触するので、可撓性部材540の移動により、装置液体530が開口520を通って可撓性部材540の移動により決定される方向に向かって流れる。可撓性部材540は、ダイアフラム、ベローズ、又は他のいずれかの公知の適切な構造とすることができる。好適には、可撓性部材540は非ニュートン液体560に対して不浸透性である。次に、この可撓性部材540は、非ニュートン液体560で充填された、上述の装置のような界面動電素子550に作動可能に接続され、界面動電素子550によって作動する。一実施形態では、界面動電素子550は複数の容量性電極570の間に挟まれており、これらの容量性電極は引き出し線580を介して電源に接続することができる。米国特許出願公開第2004/0074768号は、この用途に適した容量性電極の使用について記載している。界面動電素子550を流れる非ニュートン液体560の流れを制御することにより、オペレータは、チャンバ510に流入又はチャンバ510から流出する装置液体530の変位を制御することができる。
本明細書に開示するシステムのような変位システムの用途として、これに制限されないが、薬剤又は他の医薬品化合物を含む治療組成物の分配を挙げることができる。治療上の用途では、分注は比較的低いデューティサイクルで行なうことができる。サイフォン作用によって治療用組成物の投与量が変化し得るので、ポンプシステムにおいてはサイフォン作用を最小化するか、又は完全に排除することが好ましい。このようなシステムにおけるサイフォン作用は、液頭圧の小さな差によって生じ得る。ニュートン液体を使用する従来の界面動電ポンプシステムでは、サイフォン作用を回避するには、ポンプを或る程度連続して作動させる必要があり、これは電力を消費し、更には装置液体を電気化学的に変化させ得るので、装置の動作寿命を短くしてしまう。有利には、このような装置の一実施形態に非ニュートン液体を使用することにより、小さな圧力駆動流の下で擬似可塑性非ニュートン液体の粘度が高いことにより逆流を非常に小さくすることができる。このようにして、ポンプシステムは、サイフォン作用を防止するために電力を殆ど又は全く必要としないので、装置の動作寿命を伸ばすことができる。これは、バッテリ電力を利用する携帯用途に特に有用である。
【0023】
本発明の一実施形態を例示するために、ストール圧及び無負荷流量の測定を行なって従来の界面動電装置の性能を本発明の一実施形態による装置の性能と比較した。実験では、界面動電現象を有する導管は、20マイクロメートルの内径を有する長さ5cmのシリカ毛細管の一部分であった。毛細管の一方の端部を作動液体が充填された容器に沈め、毛細管の他方の端部をHPLCの「T」型チューブに挿入した。「T」型チューブの残りの脚の一つに、作動液体が充填された第2容器で終端するナノ多孔質ガラスブリッジを挿入した。2つの容器には、直流電流源に接続された白金線電極を取り付けた。「T」型チューブの残りの一脚は、シリカ毛細管の第2部分に接続した。ストール圧は、第2毛細管をマノメータとして垂直に配置することにより得られた。この場合、流れがよどんだ状態の液高によってストール圧が生じた。無負荷時の流量は、同じ平面に第2毛細管を検査素子として配置し、流出液の所定時間内の変位を測定することにより測定した。
従来のEOF装置を検査するために、作動液体は、10ミリモルのトリスに5ミリモルの酢酸を添加した、pH約8.2の水溶液とした。100ボルトの電圧を被検査装置に印加すると、流出口に安定した約42mmの液高が観察され、この場合のストール圧は約0.06psiであった。350ボルトの電圧を印加すると、約8.3nL/分の無負荷流量が測定された。これらの値は、シリカの既知のゼータ電位、被検査装置の物理的寸法、及び印加電位と整合する。
【0024】
本発明による装置の一実施形態を検査するために、上の水溶液の代わりに非ニュートン作動液体を用いて上述の装置を使用した。作動液体は、42キロダルトンのポリアクリル酸8.33ミリモルに5ミリモルのトリスを添加した、pH約8.2の水溶液とした。100ボルトの電圧を被検査装置に印加すると、安定した約1.898メートルの液高が観察され、この場合の背圧は約2.7psiであった。350ボルトの電圧を印加すると、約7.5nL/分の無負荷流量が測定された。
ポアスケールが等しく(即ち、毛細管直径が等しい)、且つ印加電位が等しい条件下で、界面動電装置に非ニュートン液体を使用して、ニュートン液体を使用する従来のEOF装置におけるストール圧の公称45倍にストール圧を増加させた。従来のEOF装置におけるストール圧は、毛細管直径の二乗に反比例することが既知である。従って、内径20ミクロンの毛細管を有する本発明の一実施形態に見られるストール圧に等しいストール圧を達成するためには、従来のEOF装置に約3ミクロンの毛細管を使用する必要がある。
【0025】
本発明の一実施形態を更に説明するために、従来の界面動電装置及び本発明の実施形態の両方にについて、ストール圧を印加電位の関数として測定した。図6は、従来の界面動電装置、及び非ニュートン液体を使用する界面動電装置における印加電位対ストール圧のグラフである。データを取得するために、内径20マイクロメートルのシリカ毛細管の長さ5cmに亘る部分を使用した。作動液体を充填した容器に毛細管の一方の端部を沈め、毛細管の他方の端部をHPLC「T」型チューブに挿入した。「T」型チューブの残りの脚の一つに、作動液体が充填された第2容器で終端するナノ多孔質ガラスブリッジを挿入した。2つの容器に、直流電流源に接続する白金線電極を取り付けた。「T」型チューブの最後の脚は圧力測定装置に接続した。
従来のEOF装置を検査するため、作動液体は、10ミリモルのトリスに5ミリモルの酢酸を添加した、pH約8.2の水溶液とした。圧力測定装置は内径100ミクロンのシリカ毛細管からなる部分であり、この毛細管は液高を測定するマノメータとして使用した。本発明の一実施形態を検査するため、作動液体は、42キロダルトンのポリアクリル酸8.33ミリモルに5ミリモルのトリスを添加した、pH約8.2の水溶液とした。圧力測定装置は、ガス圧縮を測定するマノメータとして使用される、内径20マイクロメートルのシリカ毛細管の長さ1メートルに亘る部分であった。液体を「T」型チューブ及び第2毛細管の一部分に充填し、第2毛細管の残りの長さ部分に空気を充填し、更に第2毛細管の自由端を密封した。安定した状態で測定される能動素子の電源遮断状態と電源投入状態との空気−液体界面の位置の差は、ガスの体積を変化させ、従って被検査装置によって生成される圧力を変化させる。
【0026】
印加電位50〜350ボルトについて比較を行ない、検査結果を図6に示す。公知の理論によれば、従来のEOF装置によって生成される圧力は印加電位に対して線形に変化する大きさを有し、これはグラフに示す結果によって確認される。本発明を使用する装置の結果は、印加電位の増加に伴う非線形的な変化を示している。
【0027】
本発明の実施形態についてのこれまでの記述は、例示を目的とするものである。記述は全てを網羅したものではなく、本発明を厳密な開示形態に制限するものでもない。当業者であれば、上述の教示を考慮して多数の変形及び変更が可能であることを理解するであろう。従って、本発明の技術範囲は、この詳細な説明によって制限されるのではなく、特許請求の範囲によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態による界面動電装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態による界面動電ポンプの模式図である。
【図3】本発明の一実施形態による、界面動電現象による流体の制御装置の模式図である。
【図4】本発明の一実施形態による、界面動電現象によって駆動されるダイアフラムバルブの断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による、界面動電現象によって駆動される変位システムの断面図である。
【図6】ニュートン液体を使用する従来の界面動電装置の印加電位対ストール圧、及び非ニュートン液体を使用する界面動電装置の印加電位対ストール圧のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口、流出口、及び内部表面を有する導管、
導管内の非ニュートン液体であって、接触する導管の内部表面の少なくとも一部分がゼータ電位を示す非ニュートン液体、
電源に接続されると流入口と流出口の間に電位差を生じさせる複数の電極
を備えた界面動電装置。
【請求項2】
非ニュートン液体が擬似可塑性である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
非ニュートン液体が、ずり応力が大きくなるに従って低下する非線形の粘度を有し、この粘度は以下の式により近似値を求めることができ、

ここで、τはずり応力であり、η及びηはそれぞれ高応力における粘度の制限値及びゼロ応力における粘度の制限値であり、αはベキ乗則の値であり、τは臨界ずり応力の値である、請求項1記載の装置。
【請求項4】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の10倍より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項5】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の100倍より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項6】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の1000倍より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項7】
ベキ乗則の値αが2より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項8】
ベキ乗則の値αが3より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項9】
ベキ乗則の値αが4より大きい、請求項3記載の装置。
【請求項10】
非ニュートン液体の少なくとも一部が、溶剤及び添加剤からなる、請求項3記載の装置。
【請求項11】
高応力における粘度の制限値が、溶剤の粘度の2倍未満である、請求項10記載の界面動電装置。
【請求項12】
高応力における粘度の制限値が、溶剤の粘度より小さい、請求項10記載の装置。
【請求項13】
溶剤が、電気浸透装置に適する低粘度及び高誘電率を有する、請求項10記載の装置。
【請求項14】
溶剤が充填された装置のゼータ電位が、非ニュートン液体が充填された装置のゼータ電位以上である、請求項10記載の装置。
【請求項15】
非ニュートン液体がビンガム塑性を示す、請求項1記載の装置。
【請求項16】
非ニュートン液体が膨張性を示す、請求項1記載の装置。
【請求項17】
非ニュートン液体が、ポリアクリル酸水溶液(1〜2000ppm)、ポリアクリルアミド水溶液又はポリアクリルアミド−アクリレート共重合物水溶液(2〜500ppm)、カルボキシメチルセルロース水溶液、カルボキシエチルセルロース水溶液、カルボキシプロピルセルロース水溶液、又はカルボン酸セルロース系化合物水溶液(2〜2000ppm)、キサンタンガム水溶液(20〜2000ppm)、ヒドロキシメチルセルロース水溶液、ヒドロキシエチルセルロース水溶液、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液、又はヒドロキシセルロース系化合物水溶液(20〜2000ppm)、酸化ポリエチレン水溶液(0.1〜2.5重量%)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん水溶液(0.1〜2.5重量%)、カラギーン水溶液、ヒドロキシプロピルグアーガム、アラビカゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボマー、カルボキシビニルポリマー、ラポナイト、有機溶液、及び有機水溶液からなるグループから選択される材料を含む、請求項1記載の装置。
【請求項18】
導管が、円形断面を有する空洞チューブを有する、請求項1記載の装置。
【請求項19】
導管が、複数の内部通路に分割される、請求項1記載の装置。
【請求項20】
導管が、導管の内部表面の少なくとも一部分を形成する多孔質材料を導管内に含む、請求項1記載の装置。
【請求項21】
流入口と流出口の間に流体圧力差が印加される、請求項1記載の装置。
【請求項22】
印加される流体圧力差は流出口の方が大きい、請求項21記載の装置。
【請求項23】
印加される流体圧力差は電位によって逆流方向に生じる、請求項21記載の装置。
【請求項24】
電位を供給する容量性電極
を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項25】
導管に電位を付与するブリッジ素子
を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項26】
電位が継続的に供給される、請求項1記載の装置。
【請求項27】
センサ信号を使用して変更されるデューティサイクルに基づいて電位が供給される、請求項1記載の装置。
【請求項28】
圧力によって駆動され、導管内の非ニュートン液体に加わる最大ずり応力が、非ニュートン液体の臨界ずり応力の4倍より小さい、請求項1記載の装置。
【請求項29】
圧力によって駆動され、導管内の非ニュートン液体に加わる最大ずり応力が、非ニュートン液体の臨界ずり応力の2倍より小さい、請求項1記載の装置。
【請求項30】
圧力によって駆動され、導管内の非ニュートン液体に加わる最大ずり応力が、非ニュートン液体の臨界ずり応力より小さい、請求項1記載の装置。
【請求項31】
電気浸透流による最大ずり応力が、ずり応力の上限値の0.5倍より大きい、請求項1記載の装置。
【請求項32】
電気浸透流による最大ずり応力が、ずり応力の上限値の2倍より大きい、請求項1記載の装置。
【請求項33】
電気浸透流による最大ずり応力が、ずり応力の上限値の10倍より大きい、請求項1記載の装置。
【請求項34】
導管の流入口が、非ニュートン液体を収容する容器に接続される、請求項1記載の装置。
【請求項35】
流出口が流体抵抗素子に接続される、請求項34記載の装置。
【請求項36】
非ニュートン液体の流れに対して外部圧力が加わる、請求項34記載の装置。
【請求項37】
導管の流入口が、非ニュートン液体を収容する容器に接続され、導管の流出口が、流体ネットワークのノードに接続され、且つノードが、流体ネットワークの液体供給源と下流素子の間の流路に位置することによって、下流素子を通過する液体流が、液体供給源からの流れと導管からの流れとを合わせた流れとなる、請求項1記載の装置。
【請求項38】
電極が電源に接続され、電位差が制御されて流体ネットワークの下流素子を通過する所定の流れが維持される、請求項37記載の装置。
【請求項39】
導管を通過する液体が、流出口から流入口に向かって流れるように、又は流入口から流出口に向かって流れるように、制御可能である、請求項37記載の装置。
【請求項40】
非ニュートン液体に不浸透性であり、且つ導管に作動可能に接続される可撓性部材であって、液体が導管を流れることによって移動する可撓性部材、及び
可撓性部材に接続されることにより、可撓性部材の位置によって通過する流れが一定に維持されるバルブアセンブリ
を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項41】
導管の流出口が可撓性部材に接続される、請求項40記載の装置。
【請求項42】
可撓性部材がダイアフラムである、請求項41記載の装置。
【請求項43】
可撓性部材がベローズである、請求項41記載の装置。
【請求項44】
導管とバルブアセンブリとが分離されていることにより、導管内の非ニュートン液体がバルブアセンブリの液体と混合することがない、請求項40記載の装置。
【請求項45】
導管が、導管に電位を供給する複数の容量性電極の間に挟まれている、請求項40記載の装置。
【請求項46】
非ニュートン液体に対して不浸透性であり、且つ導管に作動可能に接続される可撓性部材であって、液体が導管を流れることによって移動する可撓性部材、及び
開口を有するチャンバであって、第2液体がチャンバに導入されると、第2液体が可撓性部材に作動可能に接触し、可撓性部材の移動によって第2液体が開口を通過して流れるチャンバ
を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項47】
可撓性部材が第1方向に移動することによって、チャンバから第2液体がチャンバの外に分配される、請求項46記載の装置。
【請求項48】
可撓性部材が第2方向に移動することによって、一定量の第2液体がチャンバの外からチャンバに導入される、請求項46記載の装置。
【請求項49】
チャンバに第2液体が充填され、第2液体が治療用組成物を含む、請求項46記載の装置。
【請求項50】
導管とチャンバとが分離していることにより、導管内の非ニュートン液体がチャンバの内の第2液体と混合することがない、請求項46記載の装置。
【請求項51】
界面動電装置中に流れを生じさせるキットであって、
流入口、流出口、及び内部表面を有する導管を含む流体装置であって、液体と接触すると、内部表面の少なくとも一部分がゼータ電位を示す流体装置、
電源に接続されると、流入口と流出口の間に電位差を生じさせる複数の電極、及び
非ニュートン液体を用いる界面動電装置の使用に関する指示
を備えたキット。
【請求項52】
界面動電装置に使用される非ニュートン液体
を更に含む、請求項51記載のキット。
【請求項53】
非ニュートン液体が擬似可塑性である、請求項51記載のキット。
【請求項54】
非ニュートン液体が、ずり応力が大きくなるに従って低下する非線形の粘度を有し、この粘度は以下の式により近似値を求めることができ、

ここで、τはずり応力であり、η及びηをそれぞれ高応力における粘度の制限値及びゼロ応力における粘度の制限値であり、αはベキ乗則の値であり、τは臨界ずり応力の値である、請求項51記載のキット。
【請求項55】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の10倍より大きい、請求項54記載のキット。
【請求項56】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の100倍より大きい、請求項54記載のキット。
【請求項57】
ゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の1000倍より大きい、請求項54記載のキット。
【請求項58】
導管が複数の内部通路に分割される、請求項51記載のキット。
【請求項59】
導管が、導管の内部表面の少なくとも一部を形成する多孔質材料を導管内に含む、請求項51記載のキット。
【請求項60】
電極が容量性電極である、請求項51記載のキット。
【請求項61】
導管に接続されて電位差を供給するブリッジ素子
を更に備える、請求項51記載のキット。
【請求項62】
デューティサイクルに基づいて電位差を供給するための指示
を更に含む、請求項51記載のキット。
【請求項63】
導管の流入口を、非ニュートン液体を収容する容器に接続するための指示
を更に含む、請求項51記載のキット。
【請求項64】
導管の流入口を、非ニュートン液体を収容する容器に接続し、導管の流出口を、流体ネットワークの液体供給源と下流素子の間の流路に位置する流体ネットワークのノードに接続することにより、下流素子を通過する液体の流れを、液体供給源からの流れと、導管からの流れとの合計にするための指示
を更に含む、請求項51記載のキット。
【請求項65】
電極を電源に接続し、電位差を制御して流体ネットワークの下流素子を通過する所定の流れを維持するための指示
を更に含む、請求項64記載のキット。
【請求項66】
非ニュートン液体に対して不浸透性であり、且つ導管に作動可能に接続する可撓性部材であって、導管を液体が流れることによって移動する可撓性部材、及び
可撓性部材に接続されることにより、可撓性部材の位置によって通過する流れが一定に維持されるバルブアセンブリ
を更に備える、請求項51記載のキット。
【請求項67】
導管の流出口が可撓性部材に接続される、請求項66記載のキット。
【請求項68】
ほぼ非線形の粘度を有する液体、及び
液体と、液体を通過させる導管の間にゼータ電位を生じさせる界面動電手段
を備え、導管に電位差が印加されて、導管内に液体の電気浸透流を生じさせる、界面動電装置。
【請求項69】
ニュートン液体が擬似可塑性である、請求項68記載の装置。
【請求項70】
液体のゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の10倍より大きい、請求項68記載の装置。
【請求項71】
液体のゼロ応力における粘度の制限値が、高応力における粘度の制限値の1000倍より大きい、請求項68記載の装置。
【請求項72】
デューティサイクルに基づいて電位差が供給される、請求項68記載の装置。
【請求項73】
導管の一方の端部が液体を収容する容器に接続され、他方の端部が流体抵抗素子に接続される、請求項68記載の装置。
【請求項74】
導管の一方の端部が液体を収容する容器に接続され、他方の端部が、流体ネットワークの液体供給源と下流素子の間の流路に位置する流体ネットワークのノードに接続されることにより、下流素子を通過する液体の流れが、液体供給源からの流れと、導管からの流れとの合計になる、請求項68記載の装置。
【請求項75】
電位差を制御することにより、流体ネットワークの下流素子に所定の流れが維持される、請求項74記載の装置。
【請求項76】
液体に対して不浸透性であり、且つ導管に作動可能に接続される可撓性部材であって、液体が導管を流れることによって移動する可撓性部材、及び
可撓性部材に接続されることにより、可撓性部材の位置によって通過する流れが一定に維持されるバルブアセンブリ
を更に有する、請求項68記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−527953(P2008−527953A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548336(P2007−548336)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045674
【国際公開番号】WO2006/068959
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(503459408)エクシジェント テクノロジーズ, エルエルシー (12)
【Fターム(参考)】