説明

非ハロゲン系難燃ケーブル

優れた柔軟性や耐摩耗性を有し、PBTやナイロンなどのモールド材に対して熱融着性を示し、かつ優れた難燃性、さらに望ましくは優れた耐摩耗性を有する非ハロゲン系難燃ケーブルであって、絶縁電線、内部シース、および外部シースからなり、内部シースは、ポリオレフィン系樹脂または該樹脂を主体とする樹脂組成物から構成され、外部シースは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物または該混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、かつ外部シースが、金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤を、樹脂組成物の架橋体100重量部に対し、3〜35重量部を含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブル、特に内部シースに特定の難燃剤を所定範囲含有する非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、難燃性の絶縁ケーブルであって、環境負荷物質であるハロゲン系の難燃剤を含まない非ハロゲン系難燃ケーブルに関するものである。特に、自動車のアンチロックブレーキシステム(ABS)のセンサーケーブルなどに好適に使用される非ハロゲン系難燃ケーブルに関する。
【背景技術】
走行の安全性向上のために、ABSなどの各種制御システムが自動車に装備されている。ABSは、車輪の回転速度を検出する車輪速センサー、車輪速センサーで発生した信号を演算処理するECU、そしてECUの出力信号によって作動するアクチュエータから構成されており、該アクチュエータを作動させることによりブレーキが制御される。
車輪速センサーで発生した信号は、いわゆるABSセンサーケーブルでECUに伝送される。ABSセンサーケーブルとしては、2本の絶縁電線を撚り合わせ、その外周を、ケーブル断面の真円度を高めるための介在で覆い、さらにその外周をシースで覆った構造のものが広く使用されている。第1図は、本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルの一例を、ケーブル長手方向に垂直な面で切断した断面図であるが、従来のABSセンサーケーブルも略同様な構造を有する。
車輪速センサーは車輪の近傍に設置され、着水や着氷する環境で使用される。そこで、防水性を確保するため、車輪速センサーにABSセンサーケーブルを接続後、全体をポリブチレンテレフタレート(PBT)やナイロンなどのプラスチックで樹脂モールドする方法が採用されている。
このとき、ケーブルのシースに、モールド材であるPBTやナイロンに対して熱融着性(熱溶着注)を有する材質を使用すれば、O−リングなどのシール部材を使用することなく高いシール性を得ることができ、製造コストの低価格化や防水性の確保のために好ましい。またシースの材質には、耐摩耗性、柔軟性、優れた機械的強度などが求められる。そこで、モールド材に対する熱融着性および機械的強度などが優れた材質として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物がシースに使用されている(特開平10−177818号公報、請求項1)。
一方、自動車用の電線、ケーブルには難燃性が不可欠であり、ABSセンサーケーブルは、難燃性の材質により構成される必要がある。熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物は可燃性であり、単独では自動車用電線のJASO規格に規定された難燃性を満足することができない。そこで、従来は、塩素系や臭素系等のハロゲン系の難燃剤がシースなどに配合されていた。
ところが、近年の環境問題に対する対応の必要性から、火災時や焼却処理時に、ハロゲン化水素等の有害ガスやダイオキシン等の有害物質を生成するおそれがあるハロゲン系の難燃剤を使用しないことが求められるようになってきた。そこで、ハロゲン系難燃剤に代る非ハロゲン系の難燃剤の使用が検討されているが、従来は、非ハロゲン系の難燃剤を使用しても、ハロゲン系の難燃剤と同等な優れた難燃性は得られず、また難燃性を確保するため難燃剤を増やすと熱融着性や耐摩耗性などの低下を招くとの問題があった。
【発明の開示】
以上のような背景から、ABSセンサーケーブルとしての基本的な性能、柔軟性や機械的強度などを満たすとともに、PBTやナイロンなどのモールド材に対して優れた熱融着性を示し、かつハロゲン系等の環境負荷物質を含まないにもかかわらず優れた難燃性を有し、望ましくはさらに耐摩耗性にも優れたケーブルの開発が望まれていた。
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決し、ハロゲン系等の環境負荷物質を含まないケーブルであって、優れた柔軟性や機械的強度を有し、PBTやナイロンなどのモールド材に対して熱融着性を示し、かつ優れた難燃性を有する非ハロゲン系難燃ケーブル、望ましくはさらに耐摩耗性に優れる非ハロゲン系難燃ケーブルを提供することを課題とする。
本発明者は、前記の課題について鋭意検討した結果、シースに金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤の、特定の範囲の量を含有させるとともに、シースと絶縁電線の間に内部シースを設け、該内部シースにポリオレフィン系樹脂を用いることにより、優れた柔軟性や機械的強度を有し、PBTやナイロン等のモールド材に対して優れた熱融着性を示すとともに、優れた難燃性を有する非ハロゲン系難燃ケーブルが得られることを見出した。さらに本発明者は、内部シースに、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなる難燃剤を特定の範囲の量含ませることにより、耐摩耗性に優れた非ハロゲン系難燃ケーブルが得られることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。なお、内部シースの外周にあるシースを、内部シースとの区別を明確にするために、以後外部シースと言う。
本発明は、その請求項1として、絶縁電線、その外周を被覆する内部シース、およびさらにその外周を被覆する外部シースからなる難燃ケーブルであって、内部シースは、ポリオレフィン系樹脂または該樹脂を主体とする樹脂組成物から構成され、外部シースは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物または該混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、かつ外部シースが、金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤を、架橋体100重量部に対し、3〜35重量部を含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。
第1図は、本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルの一例を、ケーブル長手方向に垂直な面で切断した断面図であるが、この図に示されるように、本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルは、絶縁電線1と、その外周を被覆する内部シース2、およびさらにその外周を被覆する外部シース3からなる。絶縁電線1は、中心の導体4とその外周を覆う絶縁体5からなる。
第1図の例では、絶縁電線1は2本あり、それらは撚り合わされている。ABSセンサーケーブルとして用いる場合は、絶縁電線1は通常2本必要である。
請求項2は、このような態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、絶縁電線が、複数本の絶縁電線を撚り合わせた電線であることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
内部シース2は、絶縁電線1をさらに被覆し、かつ本発明のケーブルの難燃性を向上させるものであるが、ABSセンサーケーブルのように絶縁電線1が2本撚り合わされているような場合は、従来のABSセンサーケーブルにおける介在にも該当し、ケーブル断面の真円度を高めるという従来の介在の機能も奏する。
内部シース2の周囲は、さらに外部シース3により被覆されている。
このような構造の電線は、絶縁電線1の周囲に、内部シース2、および外部シース3を順次押出被覆することにより製造することができる。
本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルは、前記の構造を有しさらに次の1)、2)および3)を、その特徴とする。
1)内部シースは、ポリオレフィン系樹脂または該樹脂を主体とする樹脂組成物から構成される。
2)外部シースは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物または該混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成される。
3)外部シースが、金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤を、架橋体100重量部に対し、3〜35重量部を含む。
以下、それぞれの特徴について説明する。
内部シースは、従来のABSセンサーケーブルの介在に相当するものであるが、ここにポリオレフィン系樹脂を用いることにより優れた難燃性を有する非ハロゲン系ケーブルが得られる。
従来のABSセンサーケーブルの介在には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーや熱可塑性ポリエステルエラストマーのような外部シースと同じ系統の材質が使用されていた。しかし、これらの材質を内部シースに使用した場合、難燃性を確保するために必要な多量の難燃剤を外部シースに含有させると、外部シースの、PBTやナイロンなどのモールド材に対する熱融着性が不十分となる。
また、外部シースの不十分な難燃性を補うために、内部シースに、難燃剤を多量に含有させても、内部シースの材質が熱可塑性ポリウレタンエラストマーや熱可塑性ポリエステルエラストマー等からなる場合は、ケーブルとしての十分な難燃性を得ることはできない。例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーや熱可塑性ポリエステルエラストマーからなる内部シースの樹脂分100重量部に対して、金属水酸化物や窒素系難燃剤などの難燃剤を100重量部まで配合しても十分な難燃性は得られない。
本発明者は、内部シースの材質としてポリオレフィン系樹脂またはそれを主体とする樹脂組成物を使用することによりに、外部シースに、難燃剤を多量に含有させなくても、優れた難燃性を有する非ハロゲン系ケーブルが得られ、その結果、モールド材に対しての外部シースの優れた熱融着性も確保できることを見出したのである。
内部シースは、必ずしも難燃剤を含有していなくてもよく、この場合でも優れた難燃性や熱融着性を達成することができる。しかし、ケーブルとしての難燃性、熱融着性をさらに高めるためには、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤を含むことにより、外部シースへ添加する難燃剤量を減らすことができ、さらに優れた熱融着性が得られ、また機械的物性、例えば−40℃で低温曲げ試験を行ったときの割れなどを防ぐことができる。
特に、難燃剤として水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムを、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、30〜120重量部の範囲で内部シースに含有させることにより、前記の効果とともに、さらに、耐摩耗性に優れた非ハロゲン系難燃ケーブルが得られるのでより好ましい。前記難燃剤の含有量が、30重量部未満では、難燃性、熱融着性をさらに高めるとの効果が不十分となる場合があり、一方120重量部を越えると、耐摩耗性が低下するので、耐摩耗性を確保する観点からは、含有量は120重量部以下とする必要がある。
請求項3は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースが、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなる難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、30〜120重量部含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
内部シース中の難燃剤量は、さらに好ましくは、50〜100重量部である。この範囲とすることにより、ケーブルの熱融着性、難燃性、耐摩耗性を、より余裕をもって確保することができる。請求項4は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースが、難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、50〜100重量部含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
内部シースに含まれる難燃剤としては、前記の水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが例示されるが、中でも、水酸化アルミニウムは難燃効果が大きいので、特に好ましい。請求項5は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースに含まれる難燃剤が、水酸化アルミニウムであることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
内部シースに含まれる難燃剤の平均粒径が0.9μm以下の場合、難燃効果がさらに大きい。一方、平均粒径が小さ過ぎると、粒子が凝集しやすくなり取扱いが困難になる傾向がある。又、入手も困難になる。そこで、これらの観点からは、平均粒径が0.1〜0.9μmの範囲が好ましい。平均粒径をこの範囲内とすることにより、取扱い上の問題もなく、かつより優れた難燃効果を得ることができ、好ましい。
請求項6は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースに含まれる難燃剤の平均粒径が、0.1〜0.9μmであることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
内部シースに使用されるポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)等のエチレンアクリル酸エステル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸ブチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、部分ケン化EVA、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
前記の例示の中でも、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)が好ましく、特にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、機械的強度が大きく、耐摩耗性に優れているので好ましい。請求項7は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースを構成するポリオレフィン系樹脂が、エチレン酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
本発明は、その請求項8として、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースを構成するポリオレフィン系樹脂が、酸変性ポリマーを含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。ポリオレフィン系樹脂の一部を酸変性ポリマーで置き換えても、耐摩耗性が向上する。
このとき使用する酸変性ポリマーとしては、ポリオレフィン系樹脂をカルボン酸またはカルボン酸無水物をグラフト変性したもの、またはオレフィンとアクリル酸や無水マレイン酸などとの共重合体のいずれでもよい。ただし、酸変性量を多くすることができるという観点からは、後者の共重合体が好ましい。エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)にエチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸三元共重合体を添加したものは、難燃剤添加量が180重量部であっても−40℃の低温曲げ試験に合格し、しかも、高い難燃性が得られ、その結果外部シースの難燃剤量を低減でき外部シースの高い熱融着性が得られる。
内部シースが、その100重量部に対し、シランカップリング剤を0.1〜3重量部含むことにより、耐摩耗性がさらに向上するので、好ましい。請求項9この好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、内部シースが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、シランカップリング剤を0.1〜3重量部含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供するものである。
シランカップリング剤としては、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる
前記のように、本発明の第二の特徴は、外部シースが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物または該混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成される点にある。この材質を外部シースに用いることにより、モールド材のPBTやナイロンとの優れた熱融着性を得ることができる。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、MDIやTDIなどのジイソシアナートおよびエチレングリコールなどのジオールより構成されるポリウレタン部をハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどの非晶性ポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体を例示することできる。これらの中でもポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーが柔軟性、耐加水分解性、低温曲げ特性などの点から好適に使用できる。
また、熱可塑性ポリエステルエラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートなどの結晶性ポリエステル部をハードセグメントとし、ポリエーテル、ポリカプロラクトンなどの非晶性または低結晶性ポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体が例示され、これらの中でもポリエーテル系の熱可塑性ポリエステルエラストマーが柔軟性、低温曲げ特性などの点から好適に使用できる。
本発明は、その請求項10として、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの重量比が20/80〜80/20の範囲であることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合比率は、好ましくは、重量比で20/80〜80/20の範囲である。熱可塑性ポリエステルエラストマーの比率を高くすると、モールド材との熱融着性が向上し、一方、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの比率が高い方が、材料の強度的には好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合比率を前記の範囲内とすることにより、モールド材との熱融着性および材料の強度を共により優れたものとすることができ好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合比率は、より好ましくは、重量比で40/60〜60/40の範囲である。
本発明は、その請求項11として、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、少なくとも外部シースが、電離放射線により照射されていることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。
外部シースには、前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物、または該混合物を主体とする樹脂組成物であって架橋されたものが用いられる。架橋により、樹脂モールド時の外部シースの変形を防ぐことができ、樹脂モールドされるABSセンサーケーブルとして使用に耐えられるものが得られる。
架橋させる方法としては、架橋剤による化学架橋も用いることができるが、外部シースに電離放射線を照射することによる架橋が、架橋度の制御が容易であるなどの利点があり好ましい。請求項11は、この好ましい態様に該当するものである。
電離放射線としては、電子線や電離粒子線、X線、γ線などの高エネルギー電磁波が例示されるが、電子線が制御や取扱いの容易さから好ましい。電子線の照射線量としては、10〜400kGyの範囲が好ましい。照射線量が少ないと樹脂モールド時に外部シースが変形する傾向があり、反対に照射線量が多すぎると熱融着性が低下する傾向があるが、照射線量をこの範囲内とすることにより、外部シースの変形を十分に防ぐことができ、優れた熱融着性を得ることができる。また、照射線量をこの範囲内とすることにより、内部シースを構成する樹脂も必然的に架橋される。
前記のように、本発明の第三の特徴は、外部シースが、金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤を、架橋体100重量部に対し、3〜35重量部を含有する点にある。
金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる非ハロゲン系難燃剤の含有量が、架橋体100重量部に対し3重量部未満であると、十分な難燃性が得られない。一方、35重量部を越えるとモールド材に対する外部シースの熱融着性が不十分になる。
本発明は、その請求項12として、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、難燃剤が、外部シース中に、架橋体100重量部に対し、5〜22重量部含まれることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。外部シース中の難燃剤の含有量は、架橋体100重量部に対し、好ましくは、5〜22重量部の範囲であり、より優れた難燃性と熱融着性を得ることができる。
外部シースに配合する金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが例示でき、窒素系難燃剤としては、メラミン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミンなどが例示できる。
中でも、金属水酸化物としては水酸化マグネシウムが、窒素系難燃剤としてはメラミンシアヌレートが好ましい。本発明の請求項13は、このより好ましい態様に該当するものであり、前記の非ハロゲン系難燃ケーブルであって、外部シースに含まれる難燃剤が、水酸化マグネシウムおよびメラミンシアヌレートから選ばれることを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブルを提供する。
外部シース、内部シースを構成する前記の樹脂または樹脂組成物には、樹脂に一般的に配合される酸化防止剤、劣化防止剤、着色剤、架橋助剤、粘着付与剤、滑剤、軟化剤、充填剤、加工助剤、カップリング剤などを添加することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤などが用いられる。
劣化防止剤としては、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、加水分解防止剤などが例示される。
着色剤としてはカーボンブラック、チタンホワイトその他有機顔料、無機顔料などが例示される。これらは、色別のためまたは紫外線吸収のために添加することができる。
架橋のために架橋助剤を添加する必要は必ずしもないが、架橋効率を上げるために1〜10重量部添加した方が望ましい。架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’−メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などが例示される。
粘着付与剤としては、クマロン・インデン樹脂、ポリテルペン樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂、水素添加ロジンなどが例示される。その他、滑剤として脂肪酸、不飽和脂肪酸、それらの金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなど、軟化剤として鉱物油、植物油、可塑剤など、充填剤として炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化亜鉛、酸化モリブデンなど、カップリング剤としては、前記のシランカップリング剤以外にイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートなどのチタネート系カップリング剤などが必要に応じて添加することができる。
本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルは、ハロゲン系等の環境負荷物質を含まないケーブルであって、優れた機械的強度を有し、PBTやナイロンなどのモールド材に対して熱融着性を示し、かつ優れた難燃性を有する。さらに、内部シースに、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなる難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し30〜120重量部含む非ハロゲン系難燃ケーブルは、耐摩耗性にも優れる。このように優れた特徴を有する本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルは、ABSセンサーケーブルなどに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の非ハロゲン系難燃ケーブルの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1.絶縁電線
2.内部シース
3.外部シース
4.導体
5.絶縁体
【発明を実施するための最良の形態】
次に実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
(外部シース用材料の製造)
表1〜表6の、外部シース材料の欄に記載の配合組成物を、各表に示す配合量で、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとし、外部シース用材料を得た。
(内部シース用材料の製造)
表1〜表6の、内部シース材料の欄に記載の配合組成物を、各表に示す配合量で、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとし、内部シース用材料を得た。
(絶縁電線の製造)
LLDPE(融点122℃、メルトフローレート1.0)100重量部、難燃剤として水酸化マグネシウム(平均粒径0.8μm、BET比表面積8m/g)の80重量部、酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバスペッシャリティケミカルズ、商品名)の0.5重量部、およびトリメチロールプロパントリメタクリレートの3重量部の割合からなる配合組成物を、二軸混合機(バレル径45mm、L/D=32)を用いて溶融混合し、吐出ストランドを水冷カットする方法でペレットとした。
前記のペレットを、短軸押出機(シリンダー径30mm、L/D=24)を用いて、断面積0.35mmの撚り線導体上に平均肉厚が0.30mmとなるように押出被覆した後、加速電圧1MeVの電子線を150kGy照射して絶縁電線を製造した。
(ケーブルの製造)
前記で得られた絶縁電線の2本を、撚りピッチ30mmで撚り合わせてツイストペアとした後、その外周に、前記の内部シース材料を、単軸押出機(バレル径50mm、L/D=24)を用いて外径が3.4mmとなるように押出被覆し、次いで、この内部シースの外周に、同じく単軸押出機(バレル径50mm、L/D=24)を用いて、前記の外部シース材料を外径が4.0mmφとなるように押出被覆した後、加速電圧が2MeVの電子線を200kGy照射することにより、試験用ケーブルを試作した。
(ケーブルの評価)
前記の方法により得られたケーブルについて、下記の方法で熱融着性、燃焼試験、低温曲げ特性および耐摩耗性の評価を行い、その結果を表1〜表6に示した。なお、表中、熱融着性および燃焼試験のいずれか1つでも不合格のものを×と判定し、熱融着性および燃焼試験の両方が合格のものを○と判定し、熱融着性および燃焼試験とともにさらに耐摩耗性が合格のものを◎と判定した。
(1)熱融着性
ケーブルから5mm幅で外部シースを取り出し、PBTシートと外部シース表面を230℃で30秒間プレスして熱融着させた。引張速度50mm/minで外部シースとPBTの剥離試験を行い、1cm当たりの強度に換算して剥離強度を求めた。20N/cm以上のものを合格と判定した。
(2)燃焼試験
ケーブルを水平に設置し、ブンゼンバーナー(炎長9.5mm)を10秒間接炎し、消火時間を測定した。30秒以内で消火するものを合格と判定した。
(3)低温曲げ特性
ケーブルを−40℃に設定した恒温槽内に180分間放置後、その温度でケーブル外径と同一径のマンドレルに6回巻き付けた後、槽から取り出して、外部シースや内部シースにクラックが入っていないかどうかを目視で観察した。
(4)耐摩耗性
JASO D 608−92の自動車用耐熱低圧電線の「12.耐摩耗性試験、(1)摩耗テープ法」により、ケーブルの耐摩耗性を測定した。10m以上のものを合格と判定した。






*1 ポリエーテル系、JIS A硬度85、ガラス転移点−50℃
*2 ポリエーテル系、Shore D硬度40、融点160℃
*3 トリメチロールプロパントリメタクリレート
*4 平均粒径1.9μm
*5 平均粒径0.8μm
*6 エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量25重量%
*7 エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量19重量%
*8 平均粒径1.0μm
*9 エチレンアクリル酸エチル共重合体、アクリル酸エチル含有量25重量%
*10 エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体、コモノマー含有量32重量%
*11 平均粒径0.6μm
*12 トリエトキシビニルシラン
*13 アミノプロピルトリエトキシシラン
表1〜表6の結果より、以下が明らかである。
外部シースと内部シースに、同じ材料を用いた場合、難燃性は低い。例えば、難燃剤量が本発明の範囲内である35重量部以下でも充分な難燃性は得られない(比較例1)。また、外部シースの難燃剤を増量すると、燃焼試験に合格するようになるが、熱融着性が低下した(比較例2)。一方、熱融着性を低下させないように、内部シースの難燃剤だけを増量しても、燃焼試験には合格するものは得られなかった(比較例3、4)。
内部シースにポリオレフィン系樹脂を用いた場合、難燃性は向上する(実施例1、2)。しかし、外部シースに難燃剤が入っていない場合は、持続的に燃焼する(比較例5、6)。また、外部シースの難燃剤量が本発明の範囲内である35重量部を越えた場合は、熱融着性が低い(比較例7、8)。
内部シースにポリオレフィン系樹脂を用い、難燃剤量を本発明の範囲内とした場合は、優れた難燃性、熱融着性が得られた(実施例)。ただし、内部シースに含まれる難燃剤の量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、120重量部を越える実施例4、7、8および13では、耐摩耗性が合格とならず、耐摩耗性向上のために、難燃剤の量は120重量部以下が好ましいことが示されている。
実施例10と実施例11の比較から、内部シースに含まれる難燃剤としては、水酸化アルミニウムが、水酸化マグネシウムと比べて難燃効果が優れており、好ましいことが明らかである。
又、平均粒径1.0μmの水酸化アルミニウムを用いた実施例9と比べて、平均粒径0.6μmの水酸化アルミニウムを用いた実施例11は、水酸化アルミニウムの添加量が少ないにもかかわらず、難燃効果ははるかに優れている。この結果より、平均粒径が0.1〜0.9μmの難燃剤が、この範囲より大きい粒径の難燃剤より好ましいことが明らかである。
内部シースのポリオレフィン系樹脂としては、EEAも好ましく使用される(実施例12、実施例13)。しかし、実施例11(EVA使用)と、実施例12との比較から明らかなように、EVAを使用した場合の方が、耐摩耗性に優れる。
実施例15〜17は、内部シースにシランカップリング剤を添加した例である。この結果から明らかなように、シランカップリング剤の添加により、耐摩耗性が著しく向上し、好ましい。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁電線、その外周を被覆する内部シース、およびさらにその外周を被覆する外部シースからなる難燃ケーブルであって、内部シースは、ポリオレフィン系樹脂または該樹脂を主体とする樹脂組成物から構成され、外部シースは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物または該混合物を主体とする樹脂組成物の架橋体から構成され、かつ外部シースが、金属水酸化物および窒素系難燃剤から選ばれる1種または2種以上の難燃剤を、該架橋体100重量部に対し、3〜35重量部を含むことを特徴とする非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項2】
絶縁電線が、複数本の絶縁電線を撚り合わせた電線であることを特徴とする請求項1に記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項3】
内部シースが、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなる難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、30〜120重量部含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項4】
内部シースが、難燃剤を、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、50〜100重量部含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項5】
内部シースに含まれる難燃剤が、水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項6】
内部シースに含まれる難燃剤の平均粒径が、0.1〜0.9μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項7】
内部シースを構成するポリオレフィン系樹脂が、エチレン酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項8】
内部シースを構成するポリオレフィン系樹脂が、酸変性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項9】
内部シースが、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、シランカップリング剤を0.1〜3重量部含むことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項10】
外部シースを構成する熱可塑性ポリウレタンエラストマーと熱可塑性ポリエステルエラストマーの重量比が20/80〜80/20の範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項11】
少なくとも外部シースが、電離放射線により照射されていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項12】
難燃剤が、外部シース中に、架橋体100重量部に対し、5〜22重量部含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル。
【請求項13】
外部シースに含まれる難燃剤が、水酸化マグネシウムおよびメラミンシアヌレートから選ばれることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の非ハロゲン系難燃ケーブル

【国際公開番号】WO2005/013291
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512567(P2005−512567)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011185
【国際出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】