説明

非低水素系被覆アーク溶接棒

【課題】溶接棒製造時の被覆剤の塗装性が良好で製品歩留率が高く、かつ溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けが生じず可撓性が良好な非低水素系被覆アーク溶接棒を提供する。
【解決手段】軟鋼心線に被覆剤を塗装した非低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤中に質量%で、アルギン酸ソーダを0.1〜1.0%、ヘクトライトを0.1〜1.0%、セルロースを0.5〜2.0%含有し、好ましくはセルロースの平均粒径が10〜50μmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイルミナイト系、ライムチタニヤ系および高酸化チタン系の非低水素系被覆アーク溶接棒に関し、特に、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の塗装性が良好で、かつ溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けが生じない、すなわち可撓性が良好な非低水素系被覆アーク溶接棒に関する。
【背景技術】
【0002】
非低水素系被覆アーク溶接棒にはイルミナイト系、ライムチタニヤ系、高酸化チタン系などがあり、溶接作業性が良好であることから利用範囲が極めて広く、特に軟鋼の薄板、中板の溶接に使用されている。
【0003】
これら非低水素系被覆アーク溶接棒の製造時における塗装性を向上させる技術として、例えば特開昭60−257992号公報(特許文献1)、特開平9−234589号公報(特許文献2)および特開平10−118784号公報(特許文献3)に被覆アーク溶接棒の被覆剤中にCMC(カルボキシメチルセルロース)、セピオライトおよびアルギン酸ソーダを添加する技術の開示がある。
【0004】
一方、構造物の狭隘部を溶接する場合に被覆アーク溶接棒は曲げて使用されることがあるが、この場合被覆が欠けて溶接ができないという問題がある。被覆アーク溶接棒の被覆欠けの防止、すなわち可撓性を改善する技術として、例えば特公昭63−7878号公報(特許文献4)に細粒のセピオライトの被覆剤への添加、特開平1−266986号公報(特許文献5)に鋼心線の硬さを低くする技術の開示がある。
【0005】
しかし、前述の技術(特許文献1〜5)では被覆アーク溶接棒製造時に被覆剤の固着性が劣り生産歩留が低下する塗装性不良や、溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合の被覆剤の欠けを十分に防止することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−257992号公報
【特許文献2】特開平9−234589号公報
【特許文献3】特開平10−118784号公報
【特許文献4】特公昭63−7878号公報
【特許文献5】特開平1−266986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の塗装性が良好で製品歩留が高く、かつ溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けが生じず可撓性が良好な非低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、軟鋼心線に被覆剤を塗装した非低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤中に質量%で、アルギン酸ソーダを0.1〜1.0%、ヘクトライトを0.1〜1.0%、セルロースを0.5〜2.0%含有することを特徴とする。
また、セルロースの平均粒径が10〜50μmであることも特徴とする非低水素系被覆アーク溶接棒にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非低水素系被覆アーク溶接棒によれば、アルギン酸ソーダおよびヘクトライトを適量含むので、被覆剤の流動性および粘性が向上し、非低水素系被覆アーク溶接棒の製造不良の発生を抑制することができる。また、セルロースを適量含有し粒径を限定しているので、溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けが生じず可撓性を良好とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々の被覆剤原料につき、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の塗装性および被覆アーク溶接棒使用時の可撓性に及ぼす影響を調査した。その結果、アルギン酸ソーダとヘクトライトとを併用して適量含有させることによって、被覆剤の流動性および粘性が向上し、被覆アーク溶接棒の製造不良の発生を抑制することができる。さらに、比較的細粒のセルロースを適量含有させることによって、被覆剤の鋼心線への固着性が向上して溶接時に被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けが生じず、可撓性が良好になることを見出した。
以下、本発明の非低水素系被覆アーク溶接棒の、被覆剤中におけるアルギン酸ソーダ、ヘクトライトおよびセルロースの含有量の限定理由について説明する。
【0011】
[アルギン酸ソーダ:0.1〜1.0質量%]
アルギン酸ソーダは、少量で非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の流動性を良くして塗装性を向上するとともに被覆剤の脱落を防止する。アルギン酸ソーダが0.1質量%(以下、%という。)未満であると非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の流動性が悪くなり、塗装直後に疵や欠けが生じるなどの塗装性が不良で、被覆剤の脱落も生じるようになる。一方、1.0%を超えると塗装性は良好で被覆剤の脱落も生じなくなるが、溶接時のアークが強くなりスパッタの増加やアンダーカットが生じるようになる。したがって被覆剤中のアルギン酸ソーダは0.1〜1.0%とする。
【0012】
[ヘクトライト:0.1〜1.0%]
ヘクトライトは粘土鉱物の一種であって、Na0.3(MgLi)Si10(F,OH)などの組成を有する。ヘクトライトは被覆剤への分散性が良好で、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の粘性を高めて塗装直後の疵や欠けを防止し塗装性を向上させる。また、被覆剤の固着性を良好にして被覆剤の脱落も防止するので生産性が向上する。ヘクトライトが0.1%未満であると、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の被覆剤の粘性が低くなり、塗装直後に疵や欠けが生じるなどの塗装性が不良で被覆剤の脱落も生じるようになる。一方、1.0%を超えると、塗装性は良好で被覆剤の脱落も生じなくなるが、非低水素系被覆アーク溶接棒の被覆筒が強固になり過ぎ、溶接時にアーク電圧が上昇してアーク切れが生じやすくなる。したがって被覆剤中のヘクトライトは0.1〜1.0%とする。
【0013】
[セルロース:0.5〜2.0%]
セルロースは粉末状のものを使用するが、被覆剤の鋼心線への固着性を向上し、非低水素系被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合においても被覆欠けがなく可撓性が良好になる。セルロースが0.5%未満であると鋼心線への固着性が得られず、非低水素系被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合に被覆欠けが生じて可撓性が悪くなる。一方、2.0%を超えるとアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。したがって被覆剤中のセルロースは0.5〜2.0%とする。
【0014】
[セルロースの平均粒径:10〜50μm]
前述のようにセルロースは、被覆剤の鋼心線への固着性を向上して可撓性を良好にするが、その作用は粒径が大きく影響する。セルロースの平均粒径が10μm未満であると被覆剤の鋼心線への固着性が劣り、低水素系被覆アーク溶接棒を曲げて使用する場合に被覆欠けが生じて可撓性が悪くなる。一方、50μmを超えると被覆剤の流動性および粘性が低下し、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の塗装直後に疵や欠けが生じて塗装性が劣り、製品歩留が低くなる。したがってセルロースの平均粒径は10〜50μmが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明の非低水素系被覆アーク溶接棒を詳細に説明する。
表1に示す各種成分系の被覆剤に、表2に示すようにアルギン酸ソーダ、ヘクトライトおよびセルロースの添加量を変化させて固着剤と混錬し、直径4mm,長さ450mmのJIS G3523 SWY−11の鋼心線に被覆塗装して各2000kg非低水素系被覆アーク溶接棒を試作した。表1において被覆剤記号Aはイルミナイト系、Bはライムチタニヤ系、Cは高酸化チタン系である。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
これらの評価は、非低水素系被覆アーク溶接棒製造時の塗装性として、製品歩留が98%以上を良好とした。また可撓性は被覆アーク溶接棒のホルダー部を固定した状態で、100mm径のパイプの円周方向に沿わせて曲げ、10本中8本以上被覆剤の脱落がないものを良好とした。また溶接作業性を評価するために、板厚16mm,幅100mm,長さ450mmの鋼板をT型に組み、交流溶接機を用いて電流160Aの溶接条件で水平すみ肉溶接を行い、アーク状態を調査した。それらの結果も表2にまとめて示す。
【0019】
表2中、溶接棒No.1〜6が本発明例、溶接棒No.7〜14が比較例である。
本発明例である溶接棒No.1〜6は、被覆剤中のアルギン酸ソーダ、ヘクトライトおよびセルロースの含有量が適正であるので、被覆アーク溶接棒製造時の塗装性が良好で歩留率が高く、曲げ試験での脱落数が少なく可撓性が良好で、さらにアーク状態が良好であり、極めて満足な結果であった。なお溶接棒No.5は、セルロースの平均粒径が小さいので曲げ試験での脱落数が2本であり、また溶接棒No.6は、セルロースの平均粒径が大きいので歩留が98.0%で、これらは良好範囲ぎりぎりの結果であった。
【0020】
比較例中溶接棒No.7は、アルギン酸ソーダを含んでいないので歩留が低かった。また、セルロースの平均粒径が小さいので曲げ試験での脱落数が多かった。
溶接棒No.8は、セルロースの平均粒径が大きいので歩留が低かった。また、アルギン酸ソーダが多いのでアークが荒くなりスパッタ発生量が多く、アンダーカットも生じた。
【0021】
溶接棒No.9は、ヘクトライトを含んでいないので歩留が低かった。また、セルロースが多いのでアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
溶接棒No.10は、セルロースが少ないので曲げ試験での脱落数が多かった。また、ヘクトライトが多いのでアーク切れが発生した。
【0022】
溶接棒No.11は、アルギン酸ソーダが少ないので歩留が低かった。また、セルロースが多いのでアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
溶接棒No.12は、セルロースの平均粒径が小さいので曲げ試験での脱落数が多かった。また、アルギン酸ソーダが多いのでアークが荒くなりスパッタ発生量が多く、アンダーカットも生じた。
【0023】
溶接棒No.13は、ヘクトライトが少ないので歩留が低かった。また、セルロースを含んでいないので曲げ試験での脱落数が多かった。
溶接棒No.14は、セルロースの平均粒径が大きいので歩留が低かった。また、ヘクトライトが多いのでアーク切れが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟鋼心線に被覆剤を塗装した非低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤中に質量%で、アルギン酸ソーダを0.1〜1.0%、ヘクトライトを0.1〜1.0%、セルロースを0.5〜2.0%含有することを特徴とする非低水素系被覆アーク溶接棒。
【請求項2】
セルロースの平均粒径が10〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の非低水素系被覆アーク溶接棒。

【公開番号】特開2010−221242(P2010−221242A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69973(P2009−69973)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】