説明

非侵襲性頭蓋内モニタ

被験者の少なくとも1つの頭蓋内血行動態パラメータを推定する方法であって、a)時間の関数として被験者の頭部の電気インピーダンスの変化のデータを得るステップと、b)該データを解析するステップと、c)頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の少なくとも1つに関連する因子のうちの1つ以上を推定するステップとを含む方法が開示される。また、1つ以上の頭蓋内血行動態パラメータを推定するための装置であって、a)心周期のタイミングに対する時間の関数として頭部の電気インピーダンスデータを得るためのデバイスと、b)データから、頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたコントローラとを備えた装置も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2006年12月14日に米国特許庁に出願した米国特許出願第11/610553号からの優先権を主張する。その出願は、2006年1月17日出願のPCT特許出願PCT/IB2006/050174の優先権を主張し、PCT/IB2006/050174の一部継続出願であり、このPCT特許出願は、ともに2005年6月15日に出願した2つの関連PCT特許出願PCT/IL2005/000631およびPCT/IL2005/000632の一部継続出願である。これらのPCT出願はともに、2002年1月15日出願の米国特許仮出願第60/348278号から米国特許法第119条(e)項に基づく特典を主張する、2003年1月15日出願のPCT特許出願PCT/IL03/00042の一部継続出願である、2004年7月15日出願の米国特許出願第10/893570号の一部継続出願である。これらの出願の全ての開示内容を参照によって本書に援用する。
【0002】
発明の分野
発明の分野は、生体インピーダンスを使用することによって頭蓋内パラメータを推定することである。
【背景技術】
【0003】
頭蓋内圧(ICP)および他の頭蓋内血行動態パラメータは、中枢神経系が関与する種々の病状を診断し、かつそれらの治療を監視するために重要である。ICPを測定するために最も一般的に使用される方法は侵襲性であり、中枢神経系空間内にプローブを挿入することを含む。そのような方法は感染症または出血のリスクを伴うので危険になり得、かつそれらは不正確になり得る。不正確さは外部ひずみゲージにおける流体の通過障害から、または外部トランスデューサによる基準点の保守不良から、または光ファイバデバイスが使用される場合の較正の問題から発生し得る。
【0004】
CrutchfieldらのUS2004/0049105、RagauskasのUS2006/0094964、KageyamaのUS4984567、SinhaのUS6117089、Inta Medics,Ltd.(イスラエル)のMXPA01011471、およびUS6875176をはじめとする幾つかの特許公報および出願公開公報は、超音波を用いて非侵襲的方法でICPを間接的に決定することを示唆している。MRIを使用する同様の方法は、AlperinのUS6245027によって示唆される。
【0005】
超音波およびMRIが関係する方法は非侵襲性であるが、それらは高価な機器および結果を解釈する熟練者を必要とする。したがって、それらは患者のICPの連続監視には実用的でない。
【0006】
US6773407は、ICPを既知の量だけ一時的に上昇させ、結果的に生じる頭蓋の容積の増加を直接測定することによって、ICPを測定することを記載している。EP0020677は、頚静脈を一時的に閉塞し、上流の応答を観察することによってICPを決定することを記載している。これらの方法は患者に多少の危険を及ぼしまたは不快感を与えることがあるので、それらもまたICPの連続観察には実用的でないかもしれない。
【0007】
ICPを非侵襲的に連続監視する方法がある。US7041063は、角膜の外側に装着され、網膜および視神経乳頭の膨潤に対するその影響によってICPを検出することのできる光センサを記載している。Zabolotskikhらのロシア出願公開公報RU2185091は、網膜中心静脈の血圧を測定することによってICPを非侵襲的に測定することを記載している。US6976963は、心臓周波数での外耳道の周期的腫脹を利用して血圧のパルス波形を測定し、それを利用してとりわけICPを推測する。Bokhovらのロシア特許出願公開RU2163090は、聴覚周波数で鼓膜の機械的張力を測定することによってICPを測定する。SacknerのUS5040540は、非侵襲的に乳幼児の中心静脈血圧を測定し、それを用いて中心静脈圧とICPとの間の既知の関係を利用してICPを推測する、頚部の機械的トランスデューサを記載している。しかし、大静脈にアクセスすることなく成人の中心静脈圧を非侵襲的に測定することは難しい。
【0008】
BridgerらのUS6491647は、とりわけICPが上昇した患者の側頭における血流を評価するために使用することのできる機械的外部(非侵襲性)血圧センサを記載している。この種の機械的血圧センサの使用は、血流を測定するのに、生体インピーダンス法またはフォトプレチスモグラフィを使用するより優れていると記載されている。BridgerらはICPを測定する方法を記載していない。
【0009】
レオエンセファログラフィ(REG)は、頭部の生体インピーダンス測定を用いて脳の血液循環および循環障害に関する情報を得る技術である。一般的に、特定の電極配置に対し、頭部のインピーダンスZの変化は、頭部の血液の量および分布の変化による、心周期にわたり、時には呼吸周期にわたる時間tの関数として測定される。W.Traczewskiら(「The Role of Computerized Rheoencephalography in the Assessment of Normal Pressure Hydrocephalus」、J.Neurotrauma 22,836〜843(2005))によって記載される通り、REGは通常、循環抵抗の問題および動脈の弾性の問題を測定または診断するために使用される。例えば正常圧水頭症の患者で、Traczewskiらは、脳の小動脈の弾性によって異なる2種類のZ(t)のパターンを見つけている。所定の患者に見られるZ(t)のパターンは、水頭症に対する異なる治療の起こり得る結果について予測をするために使用することができる。これらの患者は全員、ICPの同様の正常値を有する。
【0010】
ShapiraらのWO06/006143およびWO06/011128、ならびにBen‐AriらのUS2005/0054939およびWO03/059164は、例えば脳血流量の突然の低下を検出するために、REGを使用して脳血流を監視することを記載している。特別設計された電極、およびフォトプレチスモグラフィ(PPG)からの捕捉情報は任意選択的に、脳血流に対する感応性が向上しかつ頭部の末梢血流に対する感応性が低下した生体インピーダンスの測定を行なうために使用される。WO03/059164は、心周期にわたる頭部のインピーダンスの変化を脳血流の指標として使用することを記載している。WO06/011128は、拡張期後のインピーダンスの変化率を脳血流の指標として使用することを記載している。
【0011】
J.Gronlund、J.Jalonen、およびI.Valimaki(「Transcephalic electrical impedance provides a means for quantifying pulsatile cerebral blood volume changes following head‐up tilt」、Early Human Development 47(1997)11〜18)は、早産新生児の頭部の電気インピーダンス測定を記載している。心周期に関連付けられるインピーダンスの変化は、脳の総血液量の変化を反映していると言われており、これを実証していると言われる以前の論文を参照する。1.5から4Hzの範囲のインピーダンスの変動は、乳幼児の頭部が20度上に傾けられたときに、平均して27%減少することが明らかになった。
【0012】
脳血流低下は、頭蓋動脈内圧(CIAP)とICPとの間の差である脳潅流圧(CPP)が低いために生じる。CPPの値が低いのは、ICPが高いかCIAPが低いことのいずれかによる。CIAPの低下は次に、1)例えば心障害によって発生する平均動脈圧(MAP)低下のような全身障害のため、または2)頭部内または頭部につながる動脈の閉塞または出血のために発生し、結果的にCIAPはMAPより低くなる。MAPの監視は、第1組の条件を検出するのに有用な方法であるが、第2組の条件を検出するのには役立たないかもしれない。
【0013】
Czosnykaら(J Neurosurg 1998;88:802〜8)は、経頭蓋ドップラ(TCD)超音波を使用してCPPを非侵襲的に推定することを記載しているが、この技術は連続監視に使用するには実用的ではない。
【0014】
脳の総血液量(CBV)は、出血性卒中を診断し、外傷性脳障害によって生じる問題を診断するのに有用であるかもしれない。陽電子放射断層撮影(PET)はCBVを測定するために使用されてきた。Wintermarkら(Stroke 2005;36:e83〜e99)は、CBVを測定するための潅流コンピュータ断層撮影(PCT)の使用を記載している。これらの技術もまた、患者の連続監視には実用的ではない。頭部の電気インピーダンスの変化は脳血液量の変化の指標であることが知られている。例えば前掲のTraczewskiらを参照されたい。
【0015】
前掲の特許文献および他の刊行物が全て参照によって本明細書中に組み込まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一部の例示的実施形態の態様は、心周期中の頭部の生体インピーダンスZの時間による変動の測定を用いて、任意選択的に脳血流、脳循環抵抗、および脳動脈の弾性に加えて、ICP、脳血液量(CBV)、ならびにCPPおよび/または脳毛細血管中の血液の平均通過時間(MTT)に関する因子をはじめとする頭蓋内パラメータを推定することに関する。本発明の例示的実施形態では、Z(t)の形状は、頭蓋内パラメータの1つ以上の推定値をもたらす1つ以上の指標を算出するために使用され、ここでtは任意選択的にZの範囲の尺度および/または心拍数に対して正規化された時間である。そのような指標は頭蓋内パラメータの絶対レベルの推定値を提供することができ、あるいは指標の値の変化はベースラインレベルに対する頭蓋内パラメータのレベルの変化の推定値を提供することができる。
【0017】
従来、生体インピーダンスの文献では、負のインピーダンスは一般的にインピーダンスまたはZと呼ばれ、高いZは大きい脳血液量を意味することに注目すべきである。ここでは、明細書および請求の範囲ではこの慣例が採用されている。
【0018】
一般的に、正常または異常のどちらかの頭蓋内パラメータを持つ被験者の場合、インピーダンスZは心周期の拡張期に近い時間に最小値を有し、心周期の収縮期の近くに第1ピークを、収縮期の後に第2ピークを有する。発明者らは、これらの第1および第2ピークの相対的高さをCPPおよび/またはMTTに関係する因子の指標として使用することができることを発見した。任意選択的に、この因子が正常より低い被験者、すなわち正常より低いCPPまたは正常より高いMTTを持つ被験者は、第1ピークより高い第2ピークを持つことによって区別される一方、正常なCPPおよびMTTを持つ被験者では、第1ピークは第2ピークより大きい。任意選択的に、最低インピーダンスに対する第1および第2ピークの高さは、CPPおよび/またはMTTに関連する因子を絶対的に、またはベースラインに対して相対的に推定するために使用される。例えば第1および第2ピークの高さの比は、CPPおよび/またはMTTに関連する因子の指標として使用され、あるいは2つのピークの高い方の高さに対する第1ピークの高さの比が使用される。
【0019】
一般的に、かつ特に本発明者らによって行なわれた試験の場合、CPPはMTTと逆関係を有し、すなわちMTTが正常より高い場合、CPPは正常より低く、MTTが正常より低い場合、CPPは正常より低いことに注目すべきである。CPPおよび/またはMTTに関連する因子が実際にCPPまたはMTTもしくは両方の組合せを測定しているかどうかは必ずしも明確ではない。以後、本発明者らはCPPを示しまたは測定することのみに言及するが、記載する方法は実際には、CPPの代わりに、またはCPPに加えて、MTTに事実上依存する因子を示していることを理解すべきである。
【0020】
本発明者らは、以下の段落で説明する通り、CPP、CBV、またはICPの指標として使用することのできるZ(t)の他の特性も発見した。
【0021】
例えば、代替的に、または追加的に、CPPは、Z(t)の上昇率から、例えば任意選択的にZ(t)の全範囲に対して正規化された心周期中のZ(t)の特性最大上昇率から推定される。「特性最大上昇率」とは、生のZ(t)の最大上昇率よりノイズおよびアーチファクトに感応しない数字、例えば平滑化後かつ/またはデータ内の外れ値を除去した後のZ(t)の最大上昇率を意味する。Z(t)の「特性降下率」および「特性範囲」は同様に定義される。任意選択的に、2つの個別指標のどちらよりも正確なCPPの指標を得るために、Z(t)の上昇率は、例えば2つの加重平均を求めることによってZ(t)の第1および第2ピークの高さの比と組み合わされる。
【0022】
任意選択的に、Z(t)の特性最大降下率は、ICPまたはCBVを推定するために使用される。最大降下率はしばしばZ(t)の第2ピーク後に発生することが観察される。任意選択的に、第2ピーク後の最大降下率または第2ピーク後の平均降下率は、ICPまたはCBVを推定するために使用される。
【0023】
任意選択的に、Z(t)のピーク間範囲またはZ(t)の範囲の特性尺度は、ICPまたはCBVを推定するために使用される。正常なICPおよびCBVを持つ異なる被験者に対しZ(t)の範囲に大きい隔たりが存在する場合でも、所与の被験者に関する単一測定セッション中のベースライン値からのZ(t)の範囲の変化は依然として、ICPまたはCBVの変化の実時間検知に有用である。
【0024】
本発明の一部の実施形態では、ICPは、脳動脈のコンプライアンスに関する情報を提供するZ(t)の特性から推定される。ICPが上昇した患者では、動脈は動脈内圧の変化に応答して急激に拡張することができないと予想され、したがって脳動脈はコンプライアンスが事実上低下し、心臓が収縮するときに圧力波がそれらの中をより急速に伝搬する。この結果、Z(t)の最小値によってまたはピークECG信号によって示される拡張期時間と、Z(t)の最大上昇率の時間との間の時間差が短くなる。この時間差はICPの指標として使用することができ、短い時間差は高いICPに対応する。
【0025】
本発明の一部の実施形態では、頭蓋内パラメータの1つ以上の推定値は、病状を診断するために使用される。特に1つ以上の頭蓋内パラメータを知ることは、同様の臨床症状を呈するが異なる治療方法が求められる異なる病状を区別するのに有用である。
【0026】
例えば、出血性卒中は高いCBVおよびICPによって特徴付けられる一方、虚血性卒中は低いまたは変化しないCBVおよびICPによって特徴付けられる。両タイプの卒中は低いCPPによっても特徴付けられる。外傷性脳障害は通常、高いICPおよび低いCPPによって、かつどれだけの量の出血が発生したかに応じて高いか正常か低いCBVによって特徴付けられる。脳腫瘍および脳感染症もまた高いCBVおよびICP、ならびに低いCPPによって特徴付けることができる。インピーダンス測定値を用いて、卒中患者、外傷患者等におけるこれらのパラメータを迅速に推定することにより、最も役立つ場合、適切な治療を早く開始することが可能になる。治療中に頭部のインピーダンスを連続的に監視することにより、治療の有効性に関する、かつ卒中の継続的発現または脳損傷に関する時宜を得た情報を実時間で得ることができる。例えばそのような監視は、虚血性卒中患者に投与された抗凝血薬または血栓溶解薬が脳出血を起こしており、投与を中断するかまたは投与量を低減すべきである場合、即時に警告を提供することができる。
【0027】
動脈内膜切除手術を受ける患者において、一部の動脈の血流が一時期遮断されることがある。他のタイプの外科手術のみならず、ショックまたは心障害のような他の臨床的症状でも、中心MAPが低下する危険があり、それはCPPも低下させるおそれがある。頭部のインピーダンスを監視し、かつZ(t)を用いて頭蓋内パラメータを実時間で推定することにより、脳血流が危険な低レベルまで降下した場合、外科医または治療医に警告することができ、適時に介入して重篤な神経障害を回避することが可能になる。
【0028】
脳血管性疾患、認知症、および偏頭痛を患っている患者をはじめ、頭部のインピーダンスから推定される頭蓋内パラメータの監視から利益を得ることのできる慢性的症状を持つ患者もいる。そのような患者を監視することは、用いられている治療の予後を提供するのに役立ち、予後が悪く、より積極的かつより危険な治療が適切であるかもしれない患者の選択が可能になる。
【0029】
新生児および未熟児は脳自己調節系が完全に発達していないので、そのような乳幼児の頭蓋内パラメータの監視は特に有用であるかもしれない。より成熟した個人では脳血流に影響しない例えば吸引、静脈内カテーテルの挿入、または血液サンプリングによって生じる比較的小さいMAPの乱れは、そのような乳幼児のCPPに重大な変化(増加または減少)を引き起こすことがあり、それはすぐに検知されると処置することができる。
【0030】
したがって、本発明の例示的実施形態では、被験者の少なくとも1つの頭蓋内血行動態パラメータを推定する方法であって、
a)時間の関数として被験者の頭部の電気インピーダンスの変化のデータを得るステップと、
b)該データを解析するステップと、
c)頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および毛細血管内の平均通過時間の少なくとも1つに関連する因子のうちの1つ以上を推定するステップと、
を含む方法を提供する。
【0031】
任意選択的に、データを解析するステップは、データを平滑化すること、被験者の呼吸周期によるデータの変動を除去すること、および被験者の心周期の一部分からのみデータを選択することの1つ以上を含む。
【0032】
本発明の実施形態では、データを解析するステップは、インピーダンスの範囲の尺度を求めることを含み、推定するステップは、インピーダンスの範囲の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定することを含む。
【0033】
代替的に、または追加的に、データを解析するステップは、インピーダンスの最大降下率の尺度を求めることを含み、推定するステップは、最大降下率の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定することを含む。
【0034】
本発明の実施形態では、データを解析するステップは、インピーダンスの最大上昇率の尺度を求めることを含み、推定するステップは、最大上昇率の尺度に応答して脳潅流圧および毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定することを含む。
【0035】
本発明の実施形態では、データを解析するステップは、心周期の拡張期後のインピーダンスの第1の局所的最大値の高さ、またはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度を求めることを含み、推定するステップは、インピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度に応答して、脳潅流圧および毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定することを含む。
【0036】
任意選択的に、データを解析するステップは、インピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度を、心周期の拡張期後のインピーダンスの第2の局所的最大値の高さの尺度、およびインピーダンスの第1の局所的最大値または上昇率の最小値に対して正規化することを含む。
【0037】
任意選択的に、因子は脳潅流圧に関連する。代替的に、または追加的に、因子は毛細血管内の平均通過時間に関連する。
【0038】
任意選択的に、データを解析するステップはまた、インピーダンスの最大上昇率の尺度を求めることをも含み、脳潅流圧および毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するステップは、インピーダンスの最大上昇率の尺度、およびインピーダンスの第1の局所的最大値またはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度の組合せに応答する。
【0039】
任意選択的に、データを解析するステップは、インピーダンスの全範囲の尺度に正規化することを含む。
【0040】
本発明の実施形態では、データを解析するステップは、レイテンシ時間の尺度を求めることを含み、推定するステップはレイテンシ時間の尺度に応答して頭蓋内圧を推定することを含む。
【0041】
任意選択的に、データを解析するステップは、時間を心周期に対して正規化することを含む。任意選択的に、データを解析するステップはデータを経時的に平滑化することを含む。任意選択的に、データを解析するステップは、少なくとも1つの頭蓋内パラメータの尺度を求め、かつ複数の心周期にわたって尺度を平均することを含む。任意選択的に、データを解析するステップは、異なる心周期の同一位相からのデータを平均することを含む。任意選択的に、データを解析するステップは、大きさの予想範囲内に入らないか、心周期に対する時間の予想範囲内に生じないか、または両方に該当するインピーダンスの値またはインピーダンスの変化率の値またはその両方を除外することを含む。
【0042】
本発明の実施形態では、外科手術を受けている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する。
【0043】
代替的に、または追加的に、卒中患者である被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する。
【0044】
代替的に、または追加的に、頭部の外傷性障害を患っている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する。
【0045】
代替的に、または追加的に、慢性的症状を患っている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する。
【0046】
本発明の実施形態では、新生児である被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する。
【0047】
さらに、本発明の例示的実施形態では、1つ以上の頭蓋内血行動態パラメータを推定するための装置であって、
a)心周期のタイミングに対する時間の関数として頭部の電気インピーダンスデータを得るためのデバイスと、
b)データから、頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたコントローラと、
を備えた装置を提供する。
【0048】
任意選択的に、コントローラは、データを解析してインピーダンスの範囲の尺度を求め、かつインピーダンスの範囲の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定するように構成される。
【0049】
代替的に、または追加的に、コントローラは、データを解析してインピーダンスの最大降下率の尺度を求め、かつインピーダンスの最大降下率の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定するように構成される。
【0050】
本発明の実施形態では、コントローラは、データを解析してインピーダンスの最大上昇率の尺度を求め、かつインピーダンスの最大上昇率の尺度に応答して脳潅流圧および平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するように構成される。
【0051】
代替的に、または追加的に、コントローラは、データを解析して心周期の拡張期後のインピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度を求め、かつインピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度に応答して脳潅流圧および平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するように構成される。
【0052】
本発明の実施形態では、コントローラは、データを解析してレイテンシ時間の尺度を求め、かつレイテンシ時間の尺度に応答して頭蓋内圧を推定するように構成される。
【0053】
本発明の例示的実施形態を以下の節で、図面を参照しながら説明する。図面は概して、必ずしもスケール通りではなく、異なる図面に示される同じ特徴または関連する特徴に対しては同じかまたは類似の参照番号を使用している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の例示的実施形態に係る、生体インピーダンスを使用して頭蓋内パラメータを推定するためのシステムを図式的に示す。
【図2】図2Aは、本発明の例示的実施形態に従って、正常なCPPの被験者に対し、複数の心周期中の時間の関数として頭部で測定された電気インピーダンスのプロットを示し、図2Bは、本発明の例示的実施形態に従って、CPPが低い被験者に対し、複数の心周期中の時間の関数として頭部で測定された電気インピーダンスのプロットを示す。
【図3A】図3Aは、図2Aに示したプロットの単一心周期の詳細図を示す。
【図3B】図3Bは、図2Bに示したプロットの単一心周期の詳細図を示す。
【図4】図4Aは、心周期中に動脈容積がどのように変化するかを可能なモデルで例示する、心周期中のある時間における頭部および頚部の側面断面を図式的に示し、図4Bは、心周期中の異なる時間における図4Aと同様の図であり、図4Cは、心周期中のさらに異なる時間における図4A〜4Bと同様の図であり、図4Dは、心周期中のさらに異なる時間における図4A〜4Cと同様の図である。
【図5】図5は、本発明の例示的実施形態に従って生体インピーダンスデータから頭蓋内パラメータを推定するためのフローチャートを示す。
【図6】図6は、本発明の例示的実施形態に係る、動脈内膜切除処置を受けている患者の脳潅流圧の指標の値の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、本発明の例示的実施形態に係る、被験者の頭部の生体インピーダンス測定値を使用して被験者502の1つ以上の頭蓋内パラメータを推定するためのシステム500を図式的に示す。システムコントローラ512、例えばコンピュータがインピーダンス測定値のデータを使用して頭蓋内パラメータを推定し、例えば結果をモニタ514に表示することによって結果を出力する。
【0056】
頭部のインピーダンスを測定するために、電極504が被験者の頭部に配置される。電極504は、ShapiraらのWO06/006143およびWO06/011128、ならびにBen‐AriらのUS2005/0054939およびWO03/059164に記載されている設計をはじめ、当業界で公知の生体インピーダンス電極用の任意の設計を使用することができる。例えば個別電流および電圧電極があってもよい。図1は2つの電極504しか示さないが、3つ以上の電極があってもよい。電極は、前掲の公開出願を含め先行技術で提案された、頭部における生体インピーダンス測定用の場所のいずれかに配置することができる。
【0057】
生体インピーダンスデバイスコントローラ506は、少なくとも安全上の理由から、電極504に電流を、通常はAC電流を供給する電源を含む。AC電流の周波数は通常、前掲の出願公開公報に記載するように、例えば20kHzから100kHzの間であるが、より高く、またはより低くすることもできる。コントローラ506はまた、コントローラ506が電流を供給する電極504のうちの2つの間の電圧も測定する。それらは必ずしも同一の電極である必要はない。任意選択的にコントローラ506は、電圧を電流で割ることによって頭部のインピーダンスZを算出する。インピーダンスZは複数の異なる時間tに測定される。任意選択的に、時間は例えばECG(図示せず)から決定される心周期の位相に従って選択され、あるいは異なる時間に対応する心周期の位相はインピーダンス測定が行なわれた後で求められる。任意選択的に、生体インピーダンスコントローラ506によって生成されたZ(t)上のデータは、システムコントローラ512に伝達される。任意選択的に、インピーダンスデータZは、呼吸周期の異なる位相に対応する異なる時間にも測定される。任意選択的に、心周期に対する依存性を呼吸周期に対する依存性から分離するために、被験者はZ(t)のデータが得られるときに息を止める。任意選択的に、例えばビニングによって心周期に対するZの依存性を呼吸周期に対する依存性から分離するために、ソフトウェアが使用される。
【0058】
任意選択的に、コントローラ506および512はいずれも物理的に分離されたユニットであり、あるいは他方のコントローラと組み合わされたモジュールであり、あるいは同一コンピュータ上で他方のコントローラとして実行されるソフトウェアモジュールである。コントローラはいずれも例えばデジタルプロセッサ、またはアナログで同様の結果を生じる電子回路を含むことができる。
【0059】
システムコントローラ512は、下記の方法のいずれかを単独でまたは組み合わせて使用して、インピーダンスデータZ(t)を使用し、かつ任意選択的にECGおよび/または呼吸データを使用して、被験者502の1つ以上の頭蓋内パラメータを推定する。任意選択的に、頭蓋内パラメータはモニタ514に表示される。任意選択的にインピーダンスデータZ(t)、ECGデータ、および/または呼吸データも表示することができる。
【0060】
図2Aおよび2Bは、正常なICPおよびCPPの被験者(図2A)ならびに高いICPおよび低いCPPを持つ被験者(図2B)の頭部で測定されたZ(t)のプロット100および102を示す。プロットは複数の心周期を示し、心周期に対する依存性だけを示し、デジタル処理でデータから除去された呼吸周期変調に対する依存性は示さない。血液は頭部の他の組織より優れた導電体であるので、各心周期中の頭部における血液の量および分布の変化が、図2Aおよび2Bに示すZ(t)の変動の主因であると考えられる。後述するように、正常および低いCPPの被験者のZ(t)の形状の相違は、CPPが低下しているか否か、かつどの程度低下しているかを判断するために使用することができる。
【0061】
図2A〜3Bの説明において、用語「血液量」、「インピーダンス」、および「Z」は互換的に使用される。しかし、このようにして測定された「血液量」は、頭部の異なる血管に対して非常に不均等に加重されることを理解する必要がある。特に、以下で図3A〜3Bおよび図4A〜4Dの説明の後にさらに詳述する通り、心周期にわたるインピーダンスの変化は、頭部の大動脈の容積に最も敏感に感応し、静脈およびより小動脈の容積にはあまり感応しない。
【0062】
図3Aは、正常なICPおよびCPPを持つ被験者について図2Aに描かれたデータの単一心周期のZ(t)を示す一方、図3Bは、高いICPおよびしたがって低いCPPを持つ被験者について図2Bに描かれたデータの単一心周期のZ(t)を示す。2つの事例のZ(t)を区別する1つの方法は、Z(t)の最小値の後のZ(t)の最初の2つのピークの相対的高さによるものである。図3Aでは第1ピーク203は第2ピーク207より高いが、図3Bでは第1ピーク201は第2ピーク205より低い。Z(t)のこの特定の相違は、以下で説明する理由から、CPPの相違に関連付けられると考えられる。CPP、ICP、およびおそらくCBVの相違に関連付けられるZ(t)の他の相違については後述する。
【0063】
1つの説明にとらわれることなく、正常なCPP(図3A)および低いCPP(図3B)を持つ患者のZ(t)のこの挙動については、観察結果と一致するように見える特定のモデルに従って説明する。このモデルについては、毛細血管604によって脳静脈を表わす静脈606に接続された頭部の大動脈を表わす動脈602、CSFで満たされた頭蓋腔608、および頭蓋腔に接続された脊髄路610を持つ頭部600を図式的に示す図4A〜4Dを用いて解説する。インピーダンスZ(t)の変化は、このモデルによると、主に動脈602のような大動脈の血液の量の変化を反映する。記載するZ(t)を用いてCPPを推定するための方法は臨床データからの支持を有し、それらの有効性は必ずしもこの特定のモデルの正確さの程度に依存しないことを理解されたい。
【0064】
まず始めに、正常なCPP(図3A)を持つ患者および低いCPP(図3B)を持つ患者はどちらも正常なCIAPを持ち、したがって2人の患者間の相違は、低いCPPの患者が高いICPを持つことであると仮定する。次いで、両者が同じICPを持つが、正常なCPPの患者が低いCPPの患者より高いCIAPを有する場合、Z(t)の同様の相違が2人の患者に予想されることを示す。
【0065】
図3Aでは、動脈圧が最小になる心周期の拡張期の時間202に、最小インピーダンスZminに対応して血液量は最小限になる。図4Aはこの時点の頭部を示す。
【0066】
心臓の収縮のため動脈圧が増加するにつれて、動脈は図4Bに示すように弾性的に拡張するので、動脈内の血液量は増加する。動脈の血液量は、動脈圧が最大となる心周期の収縮期の時間204に、図3Aで203と標識されたインピーダンスZmaxに対応するピーク値に達する。動脈が拡張すると、動脈は頭蓋腔内部のCSFを押圧し、ICPを増大させる。脳動脈容積の変化は、どちらもICPの変化が介在する、頭蓋腔と脊柱との間のCSFの移動および静脈の容積の変化によって補償されると一般的に考えられる。図4A〜4Dに示す特定のモデルでは、CSFはICPの増大に対しずっと迅速に応答し、図4Bに示すように脊柱内に移動するが、静脈606によって例示される静脈の容積は当初ほとんど変化しない。ICPは最初に高くないので、脊椎腔610はICPの比較的緩やかな増加に応答して拡大し、動脈の容積の変化に順応することができる。
【0067】
拡張期から収縮期への動脈圧の急激な上昇中に、非常に多量の血液が脳静脈から頚部および体幹へ流動する充分な時間は無い。したがって、動脈の血液量がどれだけ増加するか、およびZがどれだけ上昇するかは、脊椎腔が動脈の血液量の増加に順応してどれだけ容易に拡張することができるかに大きく依存し、それは次にICPに依存する。
【0068】
収縮期に続く期間206中に、静脈306のような脳静脈はICPによって圧迫され、図4Cに示すように、静脈内にあった血液を頭部から流出させる。静脈の容積の低下はICPを低下させるので、動脈の外側の圧力は低下する一方、動脈内部の血圧は、血液が毛細血管に流れるので低下する。その結果、動脈の容積は、図4Cに示すように期間206中にゆっくりと低下するだけである。動脈の容積およびインピーダンスZは往々にして単調に低下せず、最初に降下し、次いで収縮期の第1ピーク203より低い第2ピーク207まで上昇し、次いで再び降下する。インピーダンスのこの単調でない減少の1つの説明として、心臓の収縮が圧力波を発生させ、それが心臓から頚動脈に沿って進み、脳動脈を通過し、次いで音響インピーダンス不整合が存在する動脈と毛細血管との間の界面から反射するということが考えられる。この説明によると、反射した圧力波は脳動脈を通って逆戻りし、脳動脈に2回目の拡張を生じさせる。この振動挙動は、その原因が何であるかに関わらず、期間206中のZ(t)の全体的に緩やかな下降傾向に重畳される。
【0069】
後で期間208中にICPはその最小値に近づくが、より多くの血液が毛細血管を通して静脈内に流れるので、動脈内部の血圧は低下し続ける。動脈の容積は図4Dに示すように、心周期の始めの拡張期における元の大きさまで収縮する。その一方で、静脈606のような脳静脈は毛細血管から血液を受け取り、静脈はICPによってあまり圧迫されないので、静脈内の血液はもはや頭部からあまり急速に流出しなくなる。したがって脳静脈は再び拡張し始める。このモデルによると、動脈は心周期で前に拡張した速度と比較してむしろゆっくりと収縮するので、静脈は、ICPまたは脊椎腔の容積をほとんどまたは全く変えずに、動脈の容積の変化を補償すべく静脈の容積を調整する充分な時間がある。また、おそらく期間206中のZ(t)の単調でない挙動と同じ原因で、期間208中にZ(t)の低下に重畳される1つ以上の振動がZ(t)にあるかもしれない。
【0070】
図3Bで、拡張期の時間202に血液量は再びその最小値になる。心臓の収縮のため動脈圧が増大するので、動脈は弾性的に拡張し、血液量が上昇する。拡張する動脈はCSFを押圧し、ICPを増大させる。しかし図3Aとは異なり、ICPは最初から高いので、脊椎腔はコンプライアンスが低く、CSFはあまり多く脊椎腔に流入することができない。その結果、動脈はよりゆっくりと拡張し、血液量(およびインピーダンスZ)は、心周期の収縮期の時間204に、図3Bで201と標識されたインピーダンスZ1に対応する低い第1ピークに達する。期間206中に、より多くの静脈血が頭部から流出するので、ICPは低下し、動脈に対する圧力が緩和され、動脈は再び拡張し始める。インピーダンスZはそれに対応して増加し、時間210に最大値Zmaxの第2ピーク205に達する。たとえ動脈内部の血圧も期間206中に低下する場合でも、動脈の外側のICPほど迅速に低下しないので、動脈はこの期間中に拡大する。期間208中に、ICPはその最小値に近づき、動脈内部の血圧は低下し続けるので、動脈は収縮して拡張期のその最小値に戻り、インピーダンスZはZminまで降下する。
【0071】
ICPは上昇するが、CPPが正常になるようにCIAPも上昇した場合、動脈内部のより高い圧力が動脈を拡張させ、CSFにより高い圧力を生じ、脊椎腔をその低いコンプライアンスにもかかわらずより大きく拡張させるので、図4Bにあるように、動脈はより大きく拡張することができる。この場合、Z(t)は図3Aのようになる。逆に、ICPは正常であるが、CIAPが低下した場合には、収縮期後に静脈血が頭部から流出し始めるまで動脈は拡張することができず、Z(t)は図3Bのようになる。したがってZ(t)の形状は、ICPまたはCIAPに別々に依存するより、CPPに大きく依存する。しかし、Z(t)の形状はCPPの場合のようにICPとCIAPとの間の差には厳密には依存せず、ICPとCIAPとの加重差またはICPおよびCIAPの同様の非線形関数に依存すると考えられる。
【0072】
高いICPおよび正常な弾性動脈を持つ患者の第2ピーク205が第1ピーク201より高い図3Bに示すZ(t)の形状は、正常なICPおよび非弾性動脈を持つ患者についてTraczewskiらによって記載されたZ(t)の形状に表面的類似性を持つことに注目すべきである。しかしZ(t)の形状の原因は2つの事例で異なると考えられる。どちらの事例でも、Z(t)は心周期中の動脈の血液量の変化を反映していると考えられる。図3Bで、高いICPでは、脊椎腔のコンプライアンスが低く、CSFが動脈の容積の増加に順応すべく脊椎内にあまり多く流入できないので、動脈が血圧の上昇に素早く応答していかに大きく拡大することができるかには限界がある。静脈血はより迅速に頭部から流出し、頭蓋内部の圧力を低下させるので、動脈は動脈内部の血圧が時間204に最大値に達した後も拡張し続ける。Traczewskiらの文献では、非弾性動脈および正常なICPを持つ患者の場合、動脈の壁があまり弾性的ではないので、動脈が血圧の上昇に素早く応答していかに大きく拡張することができるかに限界がある。血圧がICPより低く降下するまで動脈の壁は血圧に応答して可塑的に変形し続けるので、動脈内部の血圧がその最大値に達した後も動脈は拡張し続ける。高いICPおよび非弾性動脈はZ(t)の形状に対し同様の効果を有するので、インピーダンスを使用してCPPを推定することは、動脈の弾性が低い患者の場合ほどうまく機能しないことが考えられる。
【0073】
ピーク間Z(t)またはZ(t)の範囲の同様の尺度もまた、ICPおよび/またはCBVの有用な指標であるかもしれない。本発明者らは、ICPおよびCBVをどちらも上昇させるかまたはどちらも低下させて、効果がICPまたはCBVまたは両方のいずれによって生じたのかを不明確であった、下記の試験でこの証拠を発見した。
【0074】
ICPまたはCBVに関する情報はZ(t)の範囲に比例する傾向があるので、図3Aおよび3BのZ(t)の第2ピーク後の時間212付近で発生するZ(t)の低下率もまた、ICPまたはCBVに関する情報を提供するかもしれない。
【0075】
ICPの有用な指標を提供するかもしれないZ(t)の別のパラメータは、拡張期時間202とZ(t)が最高率で増加する時間214との間のレイテンシまたは時間遅延である。時間遅延は、ICPが高い被験者の図3Bより、正常なICPを持つ被験者の図3Aの方が長い。試験結果および理論モデルに基づき、Z(t)におけるこの差異は、CPPの差異よりむしろ図3Aおよび3BにおけるICPの差異に関連付けられると考えられる。
【0076】
たとえ理論モデルが間違っていても、ICPのこの指標のみならず、頭蓋内パラメータとして提案された他の指標のどれも、依然として有効であることを理解されたい。
【0077】
モデルによると、拡張期時間202とZ(t)の最高増加率の時間との間の遅延は、心臓の収縮に関連付けられる圧力波が脳動脈まで伝搬するのに要する時間のためである。心臓が収縮し始めるときに、脳動脈内の圧力(および容積)の多少の増加が実質的に即時に始まるので、主として大脳動脈の容積の尺度であると考えられるZ(t)の最小値が、心拍の拡張期時間と基本的に同時に発生する。これはECGの読みによって確認される。しかし、心臓から脳につながる動脈、および特に脳動脈のコンプライアンスのため、圧力上昇およびしたがってZ(t)の上昇の大部分に時間遅延が存在する。この圧力波は動脈のコンプライアンスが低いときにより迅速に伝搬し、ICPが高いときに脳動脈はコンプライアンスが低い。したがって、拡張期時間202とZ(t)の最高増加率の時間214との間の時間遅延は、ICPが高いときに短くなると予想される。Z(t)におけるこの時間遅延を測定することにより、ICPの直接推定を提供することができる。
【0078】
インピーダンスは、生体インピーダンスを測定するための電極の種々の公知の配列のいずれかを使用して測定することができる。前掲の出願公開公報に記載された電極およびPPGセンサの構成は、脳内および頭部の大動脈内の血液量に対する感受性が比較的高く、頭部、例えば頭皮の末梢血液量に対する感受性が比較的低いので、使用するのに特に有利であるかもしれない。これらおよび他の構成で個別の電圧および電流電極を使用すると、インピーダンス測定値は皮膚の高いインピーダンスに対する感受性が比較的低くなるという潜在的利点がある。
【0079】
Z(t)に見られるパターンは心周期にわたる脳動脈容積の変化に対して予想されるパターンと一致するので、図2A〜3Bにおける心周期にわたるZ(t)の変化は、脳および頭部の大動脈の容積に対する感受性が最も高いと考えられる。心周期にわたる脳動脈容積の変化は、例えば超音波またはMRIによる頭部の撮像による直接測定からも分かる。心周期にわたるインピーダンスの変化は、小さい脳動脈内の血液量および静脈血液量に対する感受性が比較的低い。
【0080】
他方、血液はCSFおよび頭部内の他の流体より導電性が多少高いので、時間平均インピーダンスは静脈血液量のみならず、頭蓋内に出血した血液の量にも著しく依存すると考えられる。
【0081】
図5は、本発明の例示的実施形態に従って、頭蓋内パラメータの1つ以上を求めるためのフローチャート700を示す。702でインピーダンスZ(t)に関するデータを得る。データは被験者に対する測定によって実時間で生成することができ、あるいは以前の測定からのデータをデータ記憶媒体から検索することができる。任意選択的に、例えばWO06/006143、WO06/011128、US2005/0054939、またはWO03/059164に記載された方法のいずれかを用いて、頭部の末梢血液量の変化に対するZ(t)の感受性を低くするために、手順のこの段階でまたは後で、Z(t)はPPGデータを用いて調整される。
【0082】
心周期の位相が704で識別され、例えば各心周期の拡張期が識別され、0度の位相に割り当てられる。拡張期は、例えばZ(t)において心拍数の正常な範囲内の周期性の周期的最小値を探すことによって識別することができる。代替的に、または追加的に、任意選択的に被験者から取られたECGデータが、心周期の位相を識別するのに使用される。1つの拡張期と次の拡張期との間のデータ点には、例えば時間tと線形的な0度から360度までの位相を割り当てることができる。
【0083】
706で、異なる心周期の同一位相のZの値が任意選択的に一緒に平均される。そのような平均化は、頭蓋内パラメータを求めることを目的として、特定の心周期からのデータの場合より被験者に特徴的なZ(t)の形状を生じることができるという潜在的利点を有する。平均を出すために使用される心周期の数は任意選択的に1よりずっと大きいが、平均が取られる時間中にパラメータが実質的に変化しそうなほど大きくない。例えば平均化時間は10秒から30秒の間、または30秒から1分の間、または1分から2分の間、または10秒未満、または2分超である。任意選択的に弾道平均化が使用され、各心周期に対し、その周期のZ(t)の平均または加重平均および前周期の弾道平均を取ることによって、弾道平均が求められる。任意選択的に、異なる心周期で平均する前に、Z(t)の挙動が大部分の周期とは非常に異なる異常な心周期のデータは、測定の誤差を免れないので、そのような心周期は除去される。
【0084】
代替的に、頭蓋内パラメータは一度に単一心周期のZ(t)を解析することによって求められる。任意選択的にZ(t)は平滑化される。2つ以上の心周期における平均化および平滑化はどちらも、ノイズまたは測定誤差によるZの域外点を除去することができるという潜在的利点を有する。そのような域外点は、除去しなければ、頭蓋内パラメータを推定するための計算にZの最大値および最小値またはZの最大もしくは最小変化率を使用するときに、大きい誤差をもたらすかもしれない。
【0085】
708で、心周期中のZの範囲の尺度が求められる。それ自体有用なパラメータであることに加えて、Zの範囲は、Z(t)の特徴を特性高さに対して正規化するために使用することができる。Z(t)の変化またはZ(t)の変化率の正規化された大きさは、例えば電極の大きさ、形状、および配置の詳細に対する感受性がより高い絶対的大きさより、頭蓋内パラメータを推定するのに有用であるかもしれない。例えば最大インピーダンスZmaxおよび最小インピーダンスZminを求め、それらの差Zmax−Zminを尺度として使用する。代替的に他の尺度、例えばZの標準偏差、またはZの値の分布の他の関数を心周期中のZの範囲に使用する。特にZが上述したように幾つかの心周期で平均されない場合、Zの範囲のこれらの他の尺度は、Zmax−Zminよりノイズまたは誤差に対する感受性が小さい。
【0086】
フローチャート700の残部は、全て704または706で求めたZ(t)のデータおよび708で求めたZ(t)の範囲の尺度を使用して、並行して行なわれる、頭蓋内パラメータを推定するための異なる方法を示す。全ての方法を使用する必要は無く、他の方法を使用してもかまわない。2つ以上の方法を使用する場合、それらを並行して行なう必要は無いが、1つの方法の結果を使用して他の方法の精度を向上することができる。例えば、1つの方法の結果が異常な結果を生じた場合、これは電極の誤った取付けまたは手順における別の誤りを示すかもしれず、それは別の方法に従ってデータを解析する前に是正すべきである。別の例として、方法の1つで使用される何らかの調整可能なパラメータ、例えばZ(t)の特徴を頭蓋内パラメータの1つに相関させる係数は、頭蓋内パラメータの異なる範囲の場合と異なる最適値を持つかもしれず、別の方法の結果は、その方法で使用される自由パラメータの最適値を選択するのに役立つかもしれない。
【0087】
第1の方法は、図3Aおよび3Bに見られるZ(t)の第1および第2ピークの相対的高さを使用して、CPPを評価する。第1の方法は710から始まり、そこでZ、つまりZmin後のZ(t)の第1ピークが求められる。次いで、差Z−Zminが求められる。図3Aおよび3Bの説明で前に触れた通り、Z−ZminはCPPの有用な指標であると考えられる。任意選択的に、Zの第1ピークは、それがおおよそ心周期の収縮期に発生した場合にだけ、Zとして受け入れられる。任意選択的に、Zにおける第1極大の代わりに、Zは上昇率dZ/dtの第1極小、すなわちZmin後およびZmax前のZの変曲点として定義され、あるいはZは、Zの第1極大またはdZ/dtの第1極小のいずれか先に現われる方と定義される。任意選択的に、dZ/dtの極小はそれらが何らかの基準によって充分に深い場合にだけ計数され、それは、Zの値がより頑健になり、ノイズにあまり影響されないので、潜在的な利点を有する。例えばdZ/dtの極小は、その両側のdZ/dtの極大より少なくとも20%低いか、少なくとも50%低いか、少なくとも2分の1、または少なくとも5分の1である場合にだけ、計数される。任意選択的に、Zの定義を適用する前にノイズを低減させるためにZ(t)は平滑化され、Z(t)の高次導関数はZ(t)よりノイズに影響されやすいので、これは有利であるかもしれない。任意選択的に、Zminと絶対最大値Zmaxとの間に、Zの極大が無く、あるいは基準を満たすdZ/dtの極小が無い場合、この状況はZmin後のZ(t)の第1ピークがZmaxであることを示すので、ZはZmaxに等しいと設定される。
【0088】
正規化されたZ−Zminは、インピーダンスがどのように測定されるかに対しより敏感である絶対Z−Zminより、CPPをよく示すので、712でZ−Zminは、例えばそれを708で求めたZの範囲で割ることによって、任意選択的に正規化される。任意選択的にZ−Zminは、それをZ−Zminで割ることによって正規化される。ここでZは、たとえZがZより低い場合でも、Zの第2極大である。任意選択的にZはZ後の最初の点であり、それはdZ/dtの絶対値の極大または極小のいずれかである。最後の事例は、Z(t)の降下部で絶対最大値の後に変曲点を含む。以下では正規化されたZ−Zminに言及するが、代わりに絶対Z−Zminを使用することもできる。これは、下記の他の方法を用いて求められる正規化量に対しても当てはまる。
【0089】
CPPを推定する第2の方法は、714でZ(t)の上昇率を決定することで始まる。任意選択的に最大上昇率dZ/dtが使用される。代替的に最大上昇率の別の尺度、例えば域外点を除外した最大上昇率が使用され、あるいは心周期が区間に分割され、いずれかの区間の最大平均上昇率が求められる。任意選択的に、最大上昇率上昇率の尺度を求めるときに、心周期の一部分だけ、例えば拡張期時間とZ(t)の第1ピークとの間の部分だけが考慮される。上昇率に対するこれらの代替尺度は、最大上昇率よりノイズまたは測定誤差に対し感受性が低いかもしれない。任意選択的に、716で上昇率は708で求められたZの範囲に対して、または心周期に対して、または両方に対して正規化される。
【0090】
718では、712または716または両方で求められた正規化量からCPPの推定が行なわれる。任意選択的に、各々の正規化量からCPPの個別推定が行なわれる。任意選択的に、両方の正規化量が求められた場合、CPPの単一推定値を得るために、それらは例えば加重平均を取ることによって結合される。任意選択的にCPPの推定値は絶対値である。代替的に、または追加的に、以前に同じ被験者から求めたインピーダンスデータを使用して、ベースラインに対するCPPの変化を推定するために、正規化量が使用される。
【0091】
718で行なわれたCPPの推定または各推定は、正規化量とCPPとの間の予想される相応性または少なくとも相関に基づく。(下述の通り、これは他の頭蓋内パラメータに行われる推定にも当てはまる。)相応性は実験研究、種々の被験者におけるZ(t)の測定、および異なる方法を用いた、例えば従来の侵襲性プローブによる、同一被験者のCPPの測定または推定によって決定することができる。次いで、任意選択的に、この実験データを使用して単数または複数の正規化量とCPPとの間で最良適合が行なわれる。任意選択的に、実験研究は年齢、性別、体重、および/または他の個人的特性が様々に異なる被験者で行なわれ、最良適合はこれらの特性の値によって別々に行なわれる。例えば適合を線形適合とし、CPPを正規化量の線形関数にマッチングさせるか、あるいは非線形適合を行ない、1つ以上の自由パラメータを用いてCPPを正規化量の種々の非線形関数のいずれかにマッチングさせることができる。718で関数を使用して正規化量をCPPの推定値に変換する。
【0092】
720で、CPPの単数または複数の推定値が任意選択的に、1期間にわたって平滑化される。期間は例えば心周期よりずっと長いが、CPPが期間中に変化する可能性が非常に高くなるほどには長くない。異なる心周期にわたってZ(t)を平均するための上述の期間を、CPPの時間平滑化に使用することもできる。平滑化されたCPPは、平滑化されない推定値より正確なCPPの値をもたらすことができる。
【0093】
ICPを推定する方法は722で始まる。拡張期時間とdZ/dtの最大増加率の特性時間との間のレイテンシ時間を求める。任意選択的に拡張期時間は、Z(t)が最小となる時間と定義される。代替的に拡張期時間は、Z(t)が測定されるときに被験者から取られたECGデータから定義され、あるいはいずれかの他の公知の方法を用いて拡張期時間が決定され、あるいは方法の組合せが使用される。
【0094】
最大増加率の特性時間は、測定されたdZ/dtが心周期中に最大値となる実際の時間とすることができる。代替的に、上述の通りZ(t)の特性最大上昇率を定義するために種々の方法を使用することができるのと同じように、最大上昇率の特性時間を定義するために種々の他の方法を使用することもできる。これらの他の方法は、ノイズまたは測定誤差に対する特性時間の感受性を低下させるかもしれない。例えば、最大dZ/dtを求める前にdZ/dtの域外点を除去することができ、あるいは最大dZ/dtを求めるときに選択された区間の平均dZ/dtだけを考慮することができ、特性時間は最大平均dZ/dtを持つ区間の中心と定義することができる。
【0095】
任意選択的に、この方法を使用するときに、ECGデータによって示された拡張期時間がZ(t)の最小値に非常に近いことを確認するために検査が行なわれる。これが真でなかった場合、それは、インピーダンスデータが動脈ではなく静脈の血液量によって支配され、この方法を用いて得られたICPの推定値があまり正確でないことを意味するかもしれない。そのような状況は、例えばインピーダンス測定に用いられる電極が適切に配置されない場合に発生することがある。また特定の被験者で、様々な生理機能のため発生するかもしれない。
【0096】
724では、722で求めたレイテンシ時間が任意選択的に心周期に対して正規化され、726では、718でCPPの推定値を求めるための上述した方法のいずれかを使用して、正規化されたレイテンシ期間を用いてICPの推定値が求められる。本発明者らは、拡張期から収縮期までの時間が異なる時期に異なる被験者の間で心周期より変動しないので、正規化されないレイテンシ期間が正規化されたレイテンシ期間より信頼できるICPの推定値をもたらすことを発見した。720におけるCPPの推定値の平滑化と同様に、ICPの推定値は任意選択的に728で平滑化される。
【0097】
ICPまたはCBVを推定する方法は730で始まる。Z(t)の特性最大降下率が求められる。インピーダンスの最大降下率はしばしば拡張期後のZ(t)の第2ピーク後に発生することが観察されており、任意選択的に、最大降下率を求めるときに、第2ピーク後の時間間隔だけが考慮される。代替的に、最大降下率の代わりに第2ピーク後の時間間隔中の平均降下率が使用され、それは、ノイズに対する感受性が低いという潜在的利点を有する。732では、730で求められた降下率を708で求められたZの範囲で割ることによって、降下率が任意選択的に正規化される。任意選択的に、降下率はまた、それを心拍数で割ることによって、すなわちそれに心周期を掛けることによっても正規化される。
【0098】
734では、732で求められた正規化降下率からICPまたはCBVの推定が行なわれる。任意選択的に、試験はZの範囲もICPまたはCBVの有用な指標であることを示すので、708で求められたZの範囲またはZの範囲の異なる尺度もまた、ICPまたはCBVを推定するために使用される。任意選択的に、降下率およびZの範囲の両方に基づいて、ICPまたはCBVの1回だけの推定が行なわれる。代替的に、ICPおよび/またはCBVの2回の別個の推定が行なわれる。任意選択的に、Zの範囲だけが734でICPまたはCBVを推定するために使用され、降下率は使用されない。任意選択的に、Zの範囲および/またはZの降下率を用いてCBVを推定することと一緒に、それに加えて、またはその代わりに、1回以上の心周期で時間平均したZ(t)が734でCBVを推定するために使用される。712および716で求められた正規化量の代わりに、Z(t)の正規化された降下率および/またはZの範囲から始めて、718でCPPを推定するための上述した方法のいずれかを、734でICPまたはCBVの1回以上の推定を行なうために使用することができる。ICPおよび/またはCBVの単数または複数の推定値は、720でCPPの推定値を平滑化するための記載された方法のいずれかを用いて、任意選択的に736で平滑化される。
【0099】
738では、任意選択的に720、728、および736で求められた平滑化された値に基づき、頭蓋内パラメータの積算値が任意選択的に求められる。任意選択的に、いずれかのパラメータの2回以上の推定が行なわれる場合、例えば加重平均を取ることによって推定値を結合して、そのパラメータの単一の推定値にする。同じパラメータの2つの推定値が相互に非常に異なる場合、結合された推定値が信頼できず、インピーダンス測定装置に問題があり、是正が必要であるかもしれないという警告が任意選択的に出される。任意選択的に、頭蓋内パラメータの1つの推定値が、同様の臨床的徴候を持つ他の患者での経験に基づいて予想される値からかけ離れている場合、その方法に対し低い重みが与えられる。この選択肢は、臨床研究からのデータを使用してアルゴリズムを選択する自動計算の一部として実現することができ、あるいはそれは手動で実現し、医師がその判断に基づいて重みを割り当てることができる。
【0100】
任意選択的に、1つ以上のパラメータの値を使用して、1つ以上の他のパラメータの推定値が改善される。例えば、上述した712および716で求められた正規化量からCPPを求めるために使用されるフィッティング関数はそれ自体、ICPおよび/またはCBVの値に依存し、726および734でこれらのパラメータに対して求められた推定値を使用して、CPPの改善された推定値を求めることができる。これはCPP以外のパラメータにも当てはまるので、手順は任意選択的に反復され、任意選択的に全ての頭蓋内パラメータの値が収束するまで続行される。
【0101】
任意選択的に、頭蓋内パラメータの値は、被験者に関する他のデータとの一貫性を検査され、矛盾が見つかった場合には、是正されるか、あるいは警告が出される。例えばICPおよびCPPの和であるCIAPは通常、任意の標準血圧センサによって測定することのできる(被験者の胸部に対する頭部の高さに対して調整された)中心MAPを越えない予想される。

【0102】
表1は、頭蓋内パラメータを摂動させた2つの試験における頭蓋内パラメータの4つの指標の平均値および標準偏差を示す。第1試験は表1で「頭低」と呼ばれる。健康な被験者で行なわれるこの試験では、被験者が頭部を胸部より高く上げて平坦な表面に仰向けになっている間に、Z(t)のベースライン測定を行なった。次いで被験者の頭部を胸部の高さより低くしながら、Z(t)の別の測定を行なった。最後に、患者の頭部を再び当初の位置に持ち上げて、Z(t)の2回目のベースライン測定を行なった。頭部を胸部の高さより低くすることで、静脈血が頭部に貯留するので、ICPおよびCBVが増大すると予想される。また、ICPの増加は発生するCIAPの増加より大きいはずであるため、CPPの低下が生じることも予想される。
【0103】
第2試験は、表1で「動脈内膜切除」と呼ばれる。この試験は、頚部の片側の頚動脈が一時的にクランプされ、動脈内膜切除処置を受けている患者に対して行なわれた。Z(t)のベースライン測定はクランプする前と後に行なわれ、Z(t)の測定は、頚動脈がクランプされている時間中に行なわれた。頚動脈がクランプされている時間中に、静脈血は残りのクランプされない動脈によって供給される血液より速く頭部から排出されるので、ICPおよびCBVは低下すると予想される。頚動脈をクランプすることによって生じるCIAPの低下のため、CPPもまた低下すると予想される。
【0104】
これらの試験中に測定された4つの指標は、1)CBVと正の相関を示すと考えられる任意の単位のピーク間Z(t)、2)CPPと正の相関を示すと予想される正規化された最大dZ/dt、3)最高ピークの高さに対して正規化され、同じくCPPと正の相関を示すと予想される、Z(t)における第1ピークの高さ、および4)ICPと負の相関を示すと予想される、Z(t)の最小値によって示される拡張期時間と心周期に対して正規化されない最大dZ/dtの時間との間のレイテンシ時間であった。
【0105】
表1は、2つの試験の各々について、4つの指標の各々に対する(ベースライン測定前と測定後との間で平均された)ベースライン値および摂動値の平均値および標準偏差を列挙する。平均ベースライン値の代わりに前ベースライン値または後ベースライン値を使用しても、結果はどれもあまり大きく変化しないであろう。
【0106】
4つの指標は全て両方の試験で予想された方向に変化した。サンプルサイズは15または16であったので、指標の平均値の統計的不確実性は標準偏差の約4分の1であり、したがってベースライン値と摂動値との間の差は、全ての場合に数値の統計的不確実より数倍大きく、結果は統計的に非常に有意である。
【0107】
ピーク間指標の場合、変化の標準偏差はどちらの試験でも、ベースライン値および摂動値の標準偏差より実質的に低い。これは、ピーク間指標が所与の被験者における頭蓋内パラメータの変化を検知する場合に特に敏感であることを示唆している。
【0108】
Z(t)における第1ピークの高さの場合、頭低試験中の変化は、ベースライン値および摂動値の両方とも標準偏差の数倍高く、第1ピークの高さが、絶対的にも以前の結果に対して相対的にも頭蓋内パラメータを決定するための有用な指標である可能性が高いことを示唆した。これは、頭低試験中の最大dZ/dt指標に対しても当てはまる。
【0109】
レイテンシ時間の変化は、動脈内膜切除試験の場合にベースライン値の標準偏差より数倍高く、この指標もまた頭蓋内パラメータを測定するのに有用である可能性が高いことを示唆した。摂動値の標準偏差は、動脈内膜切除試験でベースライン値の場合より高いが、これは指標の精度における本質的な誤差によるというよりむしろ、頚動脈をクランプされたときの異なる被験者の異なる臨床状態による可能性が高い。
【0110】
最大dZ/dt指標および「第1ピークの高さ」指標の変化は、動脈内膜切除試験の場合、ベースライン値の対応する標準偏差と同等であった。それは、これらの指標が、大半の患者について、動脈内膜切除試験で発生したより多少大きい頭蓋内パラメータの変化を検知するのに最も有用であることを示唆するかもしれない。この示唆に対するさらなる証拠は、16名の患者のサンプルからこれらの指標が他のどの患者より大きく変化した1名の患者に見ることができる。その患者は、頚動脈がクランプされている時間中に神経障害の症状を示した唯一の患者であり、実際に彼のCPPが他のどの患者より大きく低下したことを示唆した。
【0111】
2つ以上の指標の組合せはいずれかの単一の指標より、頭蓋内パラメータの変化を検知するのにさらにいっそう有用である。例えば図6は、動脈内膜切除試験における16名の患者のサンプルのCPPの複合指標の分布のグラフ300を示す。複合指標は、正規化された最大dZ/dtの摂動値、正規化された最大dZ/dtのその患者のベースライン値からの百分率変化、Z(t)の第1ピークの高さに基づく指標の摂動値、およびそのベースライン値からのその指標の百分率変化の和から成る。x軸の左側に対応する複合指標の低い値は、頚動脈がクランプされたときの低いCPPを示す。複合指標の範囲の最も大きい負数のビン302に単一の患者が存在することに注目されたい。これは、頚動脈のクランプ中に神経症状を示した1名の患者であった。
【0112】
本書で使用する場合、脳血行動態パラメータを「推定する」とは、ベースラインからのパラメータの値の変化を推定するだけでなく、パラメータの値を絶対的に推定することをも含む。これは「測定する」、「決定する」、および同様の語にも当てはまる。
【0113】
本発明について、それを実施するための最良の態様の文脈で説明した。図面に示し、あるいは関連する本文で説明した全ての特徴が、本発明のいくつかの実施形態に係る実際の装置に存在するわけではないことを理解されたい。さらに、示した方法および装置の変形が本発明の範囲内に含まれ、それは特許請求の範囲によってのみ限定される。また、1実施形態の特徴を、本発明の異なる実施形態の特徴と共に提供することができる。本書で使用する場合、用語「有する(have)」、「含む(include)」、および「備える/含む(comprise)」またはそれらの活用形は、「含むがそれに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の少なくとも1つの頭蓋内血行動態パラメータを推定する方法であって、
a)時間の関数として被験者の頭部の電気インピーダンスの変化のデータを得るステップと、
b)該データを解析するステップと、
c)頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の少なくとも1つに関連する因子のうちの1つ以上を推定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
データを解析するステップは、データを平滑化すること、被験者の呼吸周期によるデータの変動を除去すること、および被験者の心周期の一部分からのみデータを選択することの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
データを解析するステップは、インピーダンスの範囲の尺度を求めることを含み、推定するステップは、インピーダンスの範囲の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
データを解析するステップは、インピーダンスの最大降下率の尺度を求めることを含み、推定するステップは、最大降下率の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定することを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
データを解析するステップは、インピーダンスの最大上昇率の尺度を求めることを含み、推定するステップは、最大上昇率の尺度に応答して脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
因子は脳潅流圧に関連する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
因子は脳毛細血管内の平均通過時間に関連する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
データを解析するステップは、心周期の拡張期後のインピーダンスの第1の局所的最大値の高さ、またはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度を求めることを含み、推定するステップは、インピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度に応答して、脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定することを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
データを解析するステップは、インピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度を、心周期の拡張期後のインピーダンスの第2の局所的最大値の高さの尺度、およびインピーダンスの第1の局所的最大値または上昇率の最小値に対して正規化することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
因子は脳潅流圧に関連する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
因子は脳毛細血管内の平均通過時間に関連する、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
データを解析するステップはまた、インピーダンスの最大上昇率の尺度を求めることをも含み、脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するステップは、インピーダンスの最大上昇率の尺度、およびインピーダンスの第1の局所的最大値またはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度の組合せに応答する、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
データを解析するステップは、インピーダンスの全範囲の尺度に正規化することを含む、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
データを解析するステップは、レイテンシ時間の尺度を求めることを含み、推定するステップは、レイテンシ時間の尺度に応答して頭蓋内圧を推定することを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
データを解析するステップは、時間を心周期に対して正規化することを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
データを解析するステップは、データを経時的に平滑化することを含む、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
データを解析するステップは、少なくとも1つの頭蓋内パラメータの尺度を求め、かつ複数の心周期にわたって尺度を平均することを含む、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
データを解析するステップは、異なる心周期の同一位相からのデータを平均することを含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
データを解析するステップは、大きさの予想範囲内に入らないか、心周期に対する時間の予想範囲内に生じないか、または両方に該当するインピーダンスの値またはインピーダンスの変化率の値またはその両方を除外することを含む、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
外科手術を受けている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
卒中患者である被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
頭部の外傷性障害を患っている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
慢性的症状を患っている被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
新生児である被験者に対し、少なくとも1つの血行動態パラメータを実質的に連続的に監視する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
1つ以上の頭蓋内血行動態パラメータを推定するための装置であって、
a)心周期のタイミングに対する時間の関数として頭部の電気インピーダンスデータを得るためのデバイスと、
b)データから、頭蓋内圧、脳血液量、ならびに脳潅流圧および脳毛細血管内の平均通過時間の1つ以上に関連する因子のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたコントローラと、
を備えた装置。
【請求項26】
コントローラは、データを解析してインピーダンスの範囲の尺度を求め、かつインピーダンスの範囲の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定するように構成される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
コントローラは、データを解析してインピーダンスの最大降下率の尺度を求め、かつインピーダンスの最大降下率の尺度に応答して頭蓋内圧および脳血液量の1つ以上を推定するように構成される、請求項25または26に記載の装置。
【請求項28】
コントローラは、データを解析してインピーダンスの最大上昇率の尺度を求め、かつインピーダンスの最大上昇率の尺度に応答して脳潅流圧および平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するように構成される、請求項25〜27のいずれかに記載の装置。
【請求項29】
コントローラは、データを解析して心周期の拡張期後のインピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたはインピーダンスの上昇率の第1の局所的最小値の尺度を求め、かつインピーダンスの第1の局所的最大値の高さまたは上昇率の最小値の尺度に応答して脳潅流圧および平均通過時間の1つ以上に関連する因子を推定するように構成される、請求項25〜28のいずれかに記載の装置。
【請求項30】
コントローラは、データを解析してレイテンシ時間の尺度を求め、かつレイテンシ時間の尺度に応答して頭蓋内圧を推定するように構成される、請求項25〜29のいずれかに記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−512828(P2010−512828A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540965(P2009−540965)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/IL2007/001421
【国際公開番号】WO2008/072223
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(507411969)オルサン メディカル テクノロジーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】