説明

非従来型伝染性物質のインビトロでの検出およびタイトレーションのための方法

本発明は、サンプル中の非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性のためのマーカーである病的な高次構造のタンパク質のインビトロでの検出および/またはタイトレーションのためのインビトロでの方法であって、培養物中のサンプルにて、サンプル中のATNCまたは病的な高次構造のタンパク質の存在および/または量を決定する前に、サンプル中に存在するATNCを複製および増殖をすること、次いで、ATNCまたはATNCの病的な高次構造のタンパク質、ATNCの非病的な配座異性体の増幅を可能にする基質を用いたインキュベーションを繰り返すことを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非従来型伝染性物質(agent transmissible non conventionnel;ATNC)に関連する感染性のインビトロでの決定のための方法、詳細には、生物学的産物を入手および/または処理するための方法の有効性をインビトロで評価および/またはモニタリングするための方法、または除染手順の評価および/またはモニタリングのためのインビトロでの方法、またはATNCに関連する感染性をモジュレーションする化合物の能力をインビトロで評価するための方法での上記方法の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
伝達性海綿状脳症(TSE)は、中枢神経系(CNS)の変性により特徴付けられる遺伝学的または後天性疾患のコレクションの群を形成する。ヒトにおける最も一般的な形態はクロイツフェルトヤコブ病(CJD)であるが、TSEは、多くの哺乳動物にて存在する(特に、ヒツジおよびウシ海綿状脳症でのスクレイピー)。これらの疾患の病原因子は、「非従来型伝染性物質」(ATNC)のカテゴリーに分類される。疾患のサインは、疾患の間、プロテアーゼKなどのプロテアーゼに対して抵抗性である不溶性の形態に変換され、中枢神経系に蓄積する、プリオンタンパク質と呼ばれる細胞外タンパク質の存在である。PrPのこの病的で異常な形態(PrPscと呼ばれる)はその感染性によって同時精製(co-purifiee)され、その蓄積は組織の病変の出現より先に起こる。これは、PrPプリオンタンパク質の高次構造の修飾に起因する。PrPをコードする遺伝子の発現の修飾およびその翻訳の機能障害は示されていない(非特許文献1)。
【0003】
現在利用可能なデータは、TSEの原因である伝染性物質が血液誘導物中で感染性形態にて見出されることを示すことを可能にしていない(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、第1に、血中での考え得る非常に低い濃度、第2に、臨床兆候に先立つこれらの疾患の非常に長い臨床上無症状なインキュベーション期間の特徴から、上記データが存在しないと結論付けることはできない。
【0005】
さらに、ATNCの例外的な抵抗性が、従来使用される不活化方法(例えば、クリオプレシピテートされた(cryoprecipitables)血漿タンパク質(第VIII因子、フォン・ヴィルブランド因子など)の血液誘導物のウイルス量を低減させることに有効なことが証明されているTween−TNBP溶媒/界面活性剤処理)の使用を妨げている。血漿凝固タンパク質などの生物学的産物の入手または処理は、治療上の使用を考慮してウイルスの除去/不活化の工程を組み入れる場合、現在、血液由来の医薬品の製薬工業は、血液由来の産物によるCJD変異体の感染の理論上の危険性を評価しようとしている。
【0006】
現在、ATNCに関連する感染性のタイトレーションために従来用いられていた方法は、ATNCを添加した試験産物の種々の希釈物の脳内インジェクションによるインビボでのタイトレーション方法(例えば、263k株に関連する感染性をタイトレーションするためのゴールデンハムスター)を使用している。実施した希釈物に対応する種々の群にて影響を及ぼされる動物の数に応じて、感染力価を算出し、および無処理参照に基づいて所定のプロセスの低減因子を確立することができる。しかし、この方法は、時間を要し(およそ1年間)、高価で、かつ可能な限りプリオン除去の有効性に関する結果を必要とする工業規模での開発と比較的適合しない欠点を有する。
【0007】
さらに、タイトレーション方法の感受性を増加させるために伝染性物質を濃縮する工程を導入する必要がしばしばある。現在TSEの原因である伝染性物質を濃縮するすべての手順は、PrPscの精製を含む。
【0008】
TSE伝染性物質のインビトロでのタイトレーションについて、他の方法が提案されている。
【0009】
ウェスタンブロッティング(非特許文献3)またはELISAによってPrPscを検出する技術は、一般的に、プロテアーゼKを用いた分析すべきサンプルの事前の消化、または正常タンパク質(PrP)から病的タンパク質(PrPsc)を区別するためにカオトロピックな物質で変性することを必要とする。
【0010】
現在、PrPを認識しないPrPsc特異的な抗体の使用に基づく、別のタイトレーションの方法が開発されている(非特許文献4)。
【0011】
特許文献1は、その部分について、プリオンタンパク質の表面に露出していない異種性エピトープの高次構造に依存する、プリオンタンパク質の表面に露出しているかまたは露出していない異種性エピトープで標識されたPrPを発現するトランスジェニック動物の製造を開示している。
【0012】
特許文献2は、ATNCの複製を許容する安定したトランスジェニック細胞を生物学的産物に接触させることによって、当該生物学的産物中のATNCの、TCIA(組織培養感染力アッセイ(tissue culture infectivity assay))と呼ばれるインビトロでのタイトレーションの方法を開示しており、次いで、これらの細胞を1または複数回の継代のために培養し、ATNCの複製による生物学的産物中に存在するATNCの量を増幅させる。より詳細には、TCIAは、感染性破砕物(スクレイピー株127−S)の系統希釈物をマルチウェルプレート中の培養中の細胞に、1つの希釈物あたり5ウェルの割合で接触させることにある。陽性のウェル数を、8〜10回の継代後にPrPsc(感染性から分離できないマーカー)の検出によって評価し、スピアマン−カーバー法(methode de Spearman-Karber)によって力価を決定する。
【0013】
非特許文献5に記載の「PMCA」(タンパク質ミスフォールディングサイクリック増幅)と呼ばれるプロセスは、その部分について、感染された動物由来の組織または体液からもたらされる病的形態をATNCタンパク質の非病的形態と、当該非病的形態を病的形態に変換するために接触させることを予測している。
【0014】
しかし、TCIAおよびPMCAプロセスは欠点を有する。そのため、インビトロでのTCIAタイトレーション法は、未だ日常的な使用について時間を要する(10週間)ことが解っている。さらに、当該方法は、これまでのところ、実験動物の感染を含む生物学的アッセイより感度がわずかに低い。
【0015】
未だ開発中ではあるものの、PMCA法は、生物学的アッセイと少なくとも同じ感度であることが見出されている。しかしながら、PMCA法は、検出されるPrPscに付随する感染性に関する何らかの証拠を提供せず、また、血漿マトリックスを用いて実施することが難しいことが解っている。さらに、不確定な再現性および偽陽性の結果が報告されている(TSE meeting, Cambridge Healthtech Institute's 12th annual, 2008 Feb 11-12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,150,583号
【特許文献2】国際公開第2005/022148号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Prusiner, Biochemistry 1992; 31; 12277-88
【非特許文献2】Brown et al., 2001, Semin Hematol.; 38 (4 Suppl 9): 2ー6
【非特許文献3】MacGregor, Transfusion J. Medicine 2001; 11, 3-14
【非特許文献4】Korth et al., Nature 1997 Nov 6, 390 (6655); 74-7
【非特許文献5】Saborio et al., Nature; 2001, 411, 810-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そのため、工業規模で適用可能な、すなわち、詳細には、再現性があり、ウイルスマトリックス(例えば、血液誘導物)に適合可能であり、感度のよい(生物学的アッセイと等価な感度を有する)、および比較的迅速な感染性を決定するための方法の開発が未だ求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、サンプル中の、非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性に関連するマーカーである病的な高次構造のタンパク質のインビトロでの検出および/またはタイトレーション(titrage)のための改善されたインビトロでの方法を提供する。本発明の方法は、インビトロでの細胞培養系にて、培養中のサンプルにおいてATNCまたは病的な高次構造のタンパク質の存在および/または量を決定する前に、該サンプル中またはその表面に存在するATNCを複製および増殖をすること、次いで、ATNCまたはATNCの病的な高次構造のタンパク質の増幅を可能にする基質を用いたインキュベーションを繰り返すことを含む。
【0020】
本願発明者らは、実際に、細胞培養から得られた産物を、例えば、病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCのための基質の供給源と組み合わせることによって、当該基質を、検出または定量され得る病的な高次構造のタンパク質(PrPsc)および/またはATNCに変換し得ることを示した。
【0021】
より詳細には、本発明は、サンプル中の非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性のためのマーカーである病的な高次構造のタンパク質の検出および/またはタイトレーションのためのインビトロでの方法であって、以下の工程:
i)ATNCの複製および増殖を許容する細胞にサンプルを接触させる工程;
ii)該サンプル中に存在するATNCを複製または増殖させるために、該細胞を培養する工程;
iii)病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCのための基質の供給源にATNCを接触させ、インキュベーションし、それによって、該サンプル中の病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCの量を増幅する工程
iv)形成され得る凝集物を凝集させる工程;ならびに
v)該サンプル中の病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCの存在および/または量を決定する工程
を含み、工程(iii)および(iv)は工程(v)の前に少なくとも2回繰り返される操作のサイクルを構成する、方法に関する。
【0022】
好ましくは、前記サンプルは、血液産物およびその誘導物、食品および化粧品からなる群より選択される。
【0023】
本発明はまた、ATNCで汚染され得る生物学的産物または材料を入手または処理するためのプロセスの評価および/またはモニタリングのためのインビトロでの方法であって、該方法において、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイトレーションの方法が、該プロセスの(A)開始時および(B)終了時にて該生物学的産物または材料に適用され、得られた2つの力価の値(A)および(B)が比較される、方法に関する。
【0024】
本発明はまた、生物学的産物または材料を除染するための手順の評価および/またはモニタリングのためのインビトロでの方法であって、該方法において、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイトレーションの方法が、該プロセスの(A)開始時および(B)終了時にて該生物学的産物または材料に適用され、得られた2つの力価の値(A)および(B)が比較される、方法に関する。
【0025】
本発明はさらに、ヒトまたは非ヒト動物個体における感染性海綿状脳症の診断のためのインビトロでの方法であって、該個体由来の生物学的サンプル中の非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性のためのマーカーである病的な高次構造のタンパク質の存在を、前記の方法によって検出することを含む、方法に関する。
【0026】
また、本発明は、ATNCの感染性または複製もしくは増殖をモジュレーションする(すなわち、抑制または増加させる)化合物の能力を評価するためのインビトロでの方法に関する。
【0027】
本発明の検出方法は、参照方法として考えられるバイオアッセイ法を含む、従来技術の公知の方法によって検出されたものと少なくとも等しい、ATNCの量を検出することを可能にする。さらに、本発明の検出方法は、従来の公知の方法より迅速に結果を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図は、本発明の方法によるPrPscの検出を示す、ゲルのオートラジオグラフである。レーンは以下のとおりである:1:分子量マーカー;2〜12:LN−3326と一緒にインキュベーションし、それぞれ継代1〜10から回収した細胞のライセート;13:LN−3777と一緒にインキュベートした細胞のライセート(健康な脳の破砕物);14:10回希釈した感染した脳(LN−3326)の破砕物。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本発明との関連で、用語「ATNC」は、任意の非従来型伝染性物質、例えば、ヒトにおける家族性または孤発性CJD、クールー病またはバリアントCJDの原因のもの、あるいは、動物における天然のTSEの原因のもの(例えば、ヒツジスクレイピー、ウシまたはネコ海綿状脳症、シカにおける慢性消耗性疾患またはミンクでの海綿状脳症)、または実験動物に実験的に適応したTSE株を示す。本明細書にて使用する用語「PrPsc」は、病的な高次構造(または病的配座異性体)のプリオンタンパク質を示す。PrPの「病的な」形態は、感染したヒトまたは非ヒト動物におけるTSEの出現と相関する高次構造のタンパク質の形態である。
【0030】
本発明との関連で、ATNCはまた、用語「伝染性物質」によって示される。本発明の方法によってタイトレーションされたATNCは、好ましくは、ヒツジ、ウシ、ネズミ科、キヌゲネズミ科、シカ科、霊長類またはヒト起源のものである。好ましくは、ATNCは、病的な高次構造のタンパク質自体である。
【0031】
用語「サンプル」は、ATNCで汚染され得る材料の任意の供給源を示す。そのような材料の供給源は、限定するものではないが、例えば、液体、食品、飲料、化粧品または遺伝子工学由来の産物、ATNCの感染性を抑制し得る分子であり得る。好ましくは、サンプルは生物学的なサンプルであって、例えば、生物学的な体液または組織もしくは組織の抽出物である。組織の場合、本発明の方法は、破砕物に対して、またはエクスビボでサンプルに対して直接実施され得る。そのような組織は、限定するものではないが、脳の組織、脊柱組織または扁桃腺組織であり得る。サンプルはまた、例えば、成長ホルモンまたは下垂体抽出物などの細胞抽出物といった、ヒトまたは動物供給源由来の組成物であってもよい。そのような組成物は、実際に、ATNCで汚染され得る。生物学的な体液の場合、限定するものではないが、後者は血液、リンパ液、尿または乳汁であり得る。好ましくは、サンプルは、血液産物またはその誘導物であって、例えば、血漿誘導物または血漿タンパク質の濃縮物である。
【0032】
工程(i)にて使用する表現「ATNCの複製または増殖を許容する細胞」は、ATNCに感染し得、当該ATNCを複製または増殖させ得、かつ、PrPscおよび/または感染性を生じさせ得る任意の細胞を示す。これらの細胞は、好ましくは、PrPプリオンタンパク質の非病的な配座異性体をコードする遺伝子が組込まれているかおよび/または過剰発現している細胞である。より好ましくは、これらの細胞は、PrPを発現し得る安定したトランスジェニック細胞である。
【0033】
「継代」は、一般的に、新鮮な培地を含む別のディッシュにて、培養ディッシュの細胞の一部を継代培養することである。そのため、そのような継代は、もはや分裂する余地のない細胞を別のディッシュに希釈することを可能にし、ディッシュでの培養期間は、ATNCが複製することを可能にする。
【0034】
表現「ATNCについての基質の供給源」は、インビトロでの増幅サイクルを介してATNCの複製を支持し得る任意の非感染性マトリックスを示す。
【0035】
表現「病的な高次構造のタンパク質について基質の供給源」は、病的な高次構造のタンパク質の任意の供給源を示し、別のタンパク質の高次構造を修飾して、当該タンパク質を不溶性にする。好ましくは、ATNCおよび/またはタンパク質の非病的で正常な形態についての基質の供給源は、同じ種に属するか、または試験される生物学的産物から得られた異なる種に属し得る。当該供給源は、例えば、試験サンプルに含まれるものと同じ産物のタンパク質の非病的で正常な形態に由来し得る。あるいは、非病的で正常な形態の供給源は、当該分野で公知の手段を使用して、リコンビナントにまたは合成によって、調製され得る。
【0036】
工程(i)の細胞:
本発明の方法の工程(i)にて使用する細胞は、有利には、以下の基準を示す:
−細胞の複製または増幅の速度および感染した細胞にてATNCの複製を示すために必要なインキュベーション時間との間の適合性;
−細胞でのATNCの蓄積に関連する細胞毒性の欠如によって示され得る、細胞を伝染性物質と接触させた後での細胞の安定性;
−例えば、伝染性物質に曝露した細胞でのATNCの蓄積を得るための感染の低い多重度によって評価される、細胞の感染への良好な感受性。
【0037】
神経細胞(ニューロン、グリア細胞)が、培養での乏しい適応を示しており、インビトロでのタイトレーションの目的にとって必ずしも最良の基質でない場合、公知の技術によって、特定の細胞タイプとATNCの複製にとって理想的な環境を提供するために必要な特定の導入遺伝子とを組み合わせることによって、トランスジェニック細胞株を確立することが好ましい。
【0038】
2つの好ましい実施態様において、工程(i)の細胞は、ウサギ上皮細胞、詳細には、Rov9株の細胞である(Vilette et al. PNAS, March 2001; 98; 4055-9)。
【0039】
ビレット(Vilette)らは、ウサギ由来であって、ヒツジPrP(導入遺伝子)を発現する安定でトランスジェニックの細胞は、ヒツジPrPscを含む感染性の脳の破砕物で感染させた後で、スクレイピー株を複製し、ヒツジPrPscを産生することができる。構築された細胞モデル、Rov9株は、感染性材料と接触させた細胞でのPrPscの蓄積に必要なインキュベーション時間の間、それらを維持することを保証する外来性PrPを誘導的に発現することができる。
【0040】
別の実施態様において、工程(i)の細胞は、マウスグリア細胞、詳細には、MovS2またはMovS6株の細胞である(Archer et al. Journal of Virology, 2004; 78 p. 482-90)。これらの株は、ヒツジPrPを発現し、ヒツジ起源のATNCの複製を許容するマウスグリア細胞からなる。
【0041】
試験サンプルとの接触:
ATNCの複製または増殖を許容する細胞は、当該ATNCに感染され得る試験サンプル、または参照材料としてATNCを含む感染性材料、例えば、ヒツジプリオンなどの、ATNCに感染した動物由来の脳の抽出物と接触させられる。接触は、当業者に公知の方法に従って実施される(例えば、Archer et al. Journal of Virology, Jan. 2004, p. 482-490を参照のこと)。
【0042】
次いで、これらの細胞は、ATNCを複製または増殖させるために、1回またはそれ以上の継代のために培養される。
【0043】
有利には、トランスジェニック細胞は、生物学的に許容される水溶液にて、ATNCに感染され得るサンプルの少なくとも1つの希釈物、特に、いくつかの希釈物、最も特に、段階または連続希釈物と接触され得る。これらの希釈物は、試験したサンプル中の感染性の定量化を改良することを可能にする。
【0044】
いくつかの細胞の複製物は、良好な統計上の解明の結果を与えるために、生物学的産物の同じ希釈物に接触され得る。
【0045】
細胞培養(工程ii):
ATNCの複製または増殖、および検出するために最初不十分であったATNCの量を増幅するために、当業者に公知で任意の技術に従って、生物学的産物に感染しているかもしれない細胞を培養する工程が必要とされる。
【0046】
1つの例示的な実施態様において、ATNCの複製によって、生物学的なサンプル中に存在するATNCの量を増幅するために実施される、安定でトランスジェニックな細胞を培養する工程(ii)は、グルタミンおよびウシ胎児血清(5%の終濃度)を補充したDMEM+Ham F12(4:1)培地にて実施される。細胞は、37℃、5%CO存在下でインキュベートされる。細胞の1回の継代(1対10の分割比)が毎週実施される。
【0047】
細胞を培養することで得られた産物は、病的な形態でマーカータンパク質(特に、PrP)を含み、その量は、生物学的サンプル(当該サンプルが当該タンパク質を含む場合)中にはじめに存在する量より多い。病的な形態のマーカータンパク質(特に、PrP)およびATNCは、細胞培養物中に蓄積する(感染した細胞のレベルで、かつ培地中に)。
【0048】
病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCのための基質の供給源との接触(工程iii):
本発明の方法の工程(ii)の後で、細胞の培養により得られた産物を病的な配剤生体および/またはATNCのための基質の供給源と接触させ、インキュベーションする工程が続く。
【0049】
基質のこの供給源は、例えば、健康な脳の破砕物などの動物起源の産物またはインビトロでの培養物由来の材料の形態で提供される。この材料は、限定するものではないが、例えば、MovSまたはRov N2Aなどの細胞(Weissmann et al. (2003), PNAS Vol. 100 No. 20 p. 1666-11671)、あるいは、酵母、真菌またはバクテリア由来であってもよい。インビトロでの培養物由来の材料は、細胞外コンパートメント(例えば、限定するものではないが、上清、エキソソーム)、および/または細胞膜および/またはサイトゾルコンパートメント(例えば、細胞ライセート)などの種々の細胞コンパートメントにて発現され得る。この工程の機能は、マーカータンパク質の非病的な形態を病的な形態に変換することによって(理論上は、非病的な形態の自己変換は不可能である)、工程(ii)で回収された病的な立体配剤のタンパク質および/またはATNCのインビトロでの増幅を可能にすることである。病的な形態のタンパク質は、非病的な佳太の病的な形態への変質を開始させる。
【0050】
変換の反応の終了時に、変換されていない非病的な形態は、以下で説明する検出システムによって検出されない。
【0051】
工程(ii)の細胞培養物の産物の病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCのための基質の供給源とのインキュベーションは、非病的な形態を有するタンパク質の少なくとも一部がタンパク質の病的な形態に変質される、またはATNCが増幅することを可能にすることに十分な期間実施される。好ましくは、各インキュベーションの工程は、10秒間〜4時間、好ましくは、20分間〜1時間、特に好ましくは30分間実施される。
【0052】
増幅培地は、有利には、(1×PBS)、150mM NaClおよび1% Triton、非病的な高次構造のマーカータンパク質を含む少なくとも1つの基質(特に、PrP)(例えば、増幅すべきサンプルの体積の1倍の体積)から典型的になる緩衝液から構成され得る。
【0053】
凝集物の分離
(PrPSCタイプの)病的な形態に変換されたタンパク質は、別のタンパク質および病的な形態(PrPSC)の別の粒子と凝集し、非病的な形態の別のタンパク質の病的な形態への変換を妨げることが知られている。これは、反応培地中に存在する少ない数の「変換フォーカス(foyers de conversion)」によって方法の速度が低下するので、問題である。
【0054】
そのため、本発明の方法の工程(iv)は、病的高次構造のマーカータンパク質および/またはATNCの粒子を放出するために、形成され得る凝集物の脱凝集からなり、別の非病的なタンパク質を変換し得る。
【0055】
多くの方法が、本発明の方法の工程(iv)の間、凝集物を脱凝集するために使用され得る。例えば、限定するものではないが、溶媒(例えば、限定するものではないが、硫酸ドデシルナトリウム、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、グアニジン、尿素、トリフルオロエタノール、希釈トリフルオロ酢酸、希釈ギ酸)を用いた処理、溶液の物理化学的な性質(例えば、pH、温度、イオン強度または比誘電率)の修飾、ならびに物理的な方法(例えば、限定するものではないが、超音波処理、レーザー照射、凍結/融解、オートクレーブインキュベーション、高圧、穏やかな均質化または照射の他の別の供給源)が挙げられる。超音波処理が好ましくは使用される。超音波処理は当業者に公知の方法であり、凝集物の溶解度を増加させることによって、PrPSCを精製するための方法にてしばしば使用される。
【0056】
すべての凝集物が単一の脱凝集工程の実施の間で脱凝集されるわけではない。この場合、病的なタンパク質の濃度は、脱凝集の間に増加する。脱凝集工程の持続時間は、当業者によって容易に決定され得、選択した脱凝集方法に依存し得る。好ましくは、脱凝集工程の持続時間は、1秒間〜60分間、より好ましくは、5秒間〜30分間、より特に好ましくは、5秒間〜30秒間である。
【0057】
有利には、サイクルと呼ばれる工程(iii)および(iv)の継続は、少なくとも2回、好ましくは5〜100回、より好ましくは20〜60回繰り返される。
【0058】
2〜100回繰り返されるこのサイクルは、一連の増幅サイクルを構成する。一連のサイクルは、何回か繰り返され得る。この場合、新たなシリーズが、最初のATNCサンプルに代わって、上記シリーズの体積から開始される。
【0059】
タンパク質の検出:
病的なタンパク質を検出する工程(v)は、当業者の公知の任意の方法によって実施され得る。
【0060】
PrPscの詳細な検出は、2つのアイソフォームPrPcおよびPrPscを分離する第1の工程によって実施され得る。この分離は、非病的なタンパク質と区別することを可能にするPrPscの生化学的な特性、特に、PrPscがプロテアーゼベースの処理により抵抗性であり、界面活性剤の存在下ですらやや不溶性であるとの報告の事実に基づいて、実施される。そのため、増幅後の第1の工程は、好ましくは、サンプルからのPrPc(Prpの非病的で可溶性の正常な形態)の分離であって、当該分離は、例えば、プロテアーゼ(例えば、プロテアーゼK処理)処理、または不溶性形態(PrPsc)から可溶性形態(PrPc)を分離するための遠心分離によって実施され得る。
【0061】
1つの特定の実施態様において、プロテアーゼKを用いた消化は、ウェスタンブロッティングの前の工程であり、プロテアーゼKは、主にPrPcを消化し、PrPscを消化しない。実際、PrPcと比べてPKに比較的抵抗性であるとのPrPscの特性がある。そのため、続く検出の工程は、タンパク質の非病的な形態がプロテアーゼによって消化されているので、当該タンパク質の非病的な形態をもはや検出しない。
【0062】
検出工程は、限定するものではないが、以下の方法を使用して実施され得る:免疫細胞化学(例えば、細胞の標識化およびFacscan分析によって)または免疫化学(ウェスタンブロッティングまたはELISAアッセイなど)、または放射能アッセイ、電子顕微鏡アッセイ、凝集物の検出のための比濁試験、およびNMR(核磁気共鳴)、円二色性、ラマン分光法、UV吸収、タンパク質の病的な形態を認識するモノクローナル抗体を含む、構造試験。
【0063】
病的な形態を特異的に認識するが、非病的な形態を認識しない抗体によってタンパク質の病的な形態を検出することも可能である。この抗体は、検出を容易にするために、標識化することができる。そのような抗体は、例えば、15B3抗体であり得る(Korth et al., 1997, Nature 1997 Nov. 6, 390 (6655): 74-7)。
【0064】
ATNCタイトレーション
マーカータンパク質の病的な形態またはATNCの検出は、サンプル中に存在するこれらのタンパク質またはATNCの量の決定と組み合わせられ得る。
【0065】
タイトレーションは、当業者に公知のタイトレーションの方法によって実施され得る。特に、タイトレーションの方法は、刊行物(国際公開第2005022148号および国際公開第2006117483号、特に、参照例AおよびB)に記載の方法のモデルに従って実施され得る。
【0066】
種々の希釈物および種々の複製物についてのウェスタンブロッティングのすべての結果が、感染性力価の確立を可能にする当業者に公知の統計的な方法、例えば、スピアマン−カーバー法によって分析され得る(Schmidt N.J., Emmous R.W., Diagnostic Procedures for viral, ricketsial and chlaveydial Infection, 1989, 6th edition)。
【0067】
本発明の1つの実施態様において、力価を算出する方法は、スピアマン−カーバー法である。この方法は、等比数列に従って、すなわち、連続希釈物、および少なくとも5つのウェルでの各希釈物の一定の体積(一般に、0.150ml)間での定比例にて試験サンプルの希釈を想定する。使用する最も一般的な希釈係数は、小数因子(facteur decimal)である。
【0068】
適用可能なスピアマン−カーバーの式のために、各希釈物を接種したウェルの一定数、一定の(constant)希釈係数、およびウェルの100%がポジティブな反応を与えるであろう一方の側の希釈物、およびウェルの100%がネガティブな反応を与えるであろうもう一方の側の希釈物の両方を含むのに十分な広さの希釈物の範囲を使用することが必要である。
【0069】
これらの条件の1つまたはそれ以上が満たされない場合、一定の希釈係数について、実施された最終希釈に続く高いかまたは低い希釈物は所望の結果が与えるだろうとしばしば考えられる。そのようなデータの「うそ(fabrication)」は、理論上の根拠に何ら基づいていないが、それが十分な注意に適用された場合、それは危険ではない。しかしながら、より適切な範囲の希釈物を用いてタイトレーションを繰り返すことが好ましく、データに深刻な隔たりがある場合、繰り返すことが重要である。
【0070】
スピアマン−カーバーの式によれば、以下のとおりである:
【数1】

[式中、
=すべての試験接種材料がポジティブである最も低い希釈の逆数値のlog10
d=希釈係数(希釈工程ともいう)(すなわち、希釈対数区間の間での差異)のlog10
=各希釈で使用される試験接種材料の数
=ポジティブな試験接種材料の数(niの範囲外);
S(r/n)=S(P)=100%のポジティブな結果を与える最も低い希釈で始まるポジティブな試験の割合の合計]。
【0071】
合計は、Xの希釈で始まる。
推定の標準偏差は、以下の式を使用して算出される:
【数2】

[式中、
p=r/n=各希釈でのポジティブな試験(すなわち、反応を示す接種材料のウェル)の割合]。
【0072】
本発明の方法は、インビトロ感染性単位で約4log(すなわち、10000)の範囲で、ATNC関連感染性を定量化することを可能にする。これは、例えば、ATNCの除去に関して生物学的産物を得るプロセスの有効性の検証についての基準を満たすことを可能にする。
【0073】
ATNC関連の感染性を決定するための方法の適用:
本発明はまた、本発明のタイトレーション方法の、ATNCに汚染され得る生物学的産物を入手または処理するための方法のインビトロでの評価および/またはモニタリングのための方法での適用に関する。この評価および/またはモニタリング方法は、上記の本発明のタイトレーション方法が生物学的産物、上記プロセスの開始時および終了時に適用され、および得られた2つの力価が比較される点において特徴付けられる。2つの測定結果を比較することで、ATNC除去の程度またはATNC減少係数が決定される。
【0074】
特に、本発明のタイトレーション方法は、例えば、クロマトグラフィまたはナノ濾過(特に、EP 0 359 593および国際公開第02/092632号に記載のクロマトグラフィまたは国際公開第2005/022148号に記載のナノ濾過)を使用して、生物学的産物(特に、血液産物、例えば、血漿誘導物)を入手または精製するための任意のタイプのプロセスにて容易に適用可能である能力を有する。
【0075】
そのため、本発明の方法の実施は、試験されるべきATNCを含む感染性または潜在的に感染性な材料に接触させた、ATNCの複製を促進する特定のトランスジェニック細胞株を使用するタイトレーションによって、ATNCを除去することにおいて、ATNCで汚染され得る任意の生物学的産物を入手または処理、または精製するためのプロセス(またはそのプロセスの部分)を評価および/またはモニタリングすることを可能にする。ATNCの量は、ATNCに関しての有効性を評価されることが望まれるプロセス(またはそのプロセスの部分)の開始時および終了時で測定される。2つの測定結果を比較することによって、病原因子の除去の程度が決定される。そのため、本発明の方法は、生物学的産物を入手するためのプロセスの間、または生物学的産物の入手後のATNCの除去のための処理に関連して実施され得る。
【0076】
本発明はまた、材料を除染するための手順のインビトロでの評価および/またはモニタリングのための方法での本発明のタイトレーション方法の適用に関する。この場合、ATNCを含む生物学的産物のATNC力価は、本発明の方法タイトレーション方法によって決定される。この感染した生物学的産物は、次いで、除染材料に接触させられ、次いで、除染手順は、この材料に適用される。そして、除染手順を経た生物学的産物の力価が再度決定される。除染手順の始まりと終了時に実施された2つの力価の測定結果を比較して、除染手順の有効性を評価する。材料は、例えば、精製材料であり、特に、クロマトグラフィカラム、または、水酸化ナトリウムを使用するクロマトグラフィカラムの衛生化であり得る。
【0077】
本発明はまた、感染性材料の力価をモジュレーションする(低下させるかまたは増加させる)ための候補化合物を選択するための手順、および/または当該化合物の能力を評価するための方法での、本発明のタイトレーション方法の適用に関する。この場合、ATNCを含む生物学的産物のATNC力価は、本発明のタイトレーション方法によって決定される。この感染した生物学的産物は、次いで、試験化合物に接触させられ、次いで、選択手順および/または評価方法を経た生物学的産物の力価が再度決定される。サンプルを試験化合物に接触させる工程の開始時および終了時に実施された2つの力価の測定結果が比較される。
【0078】
本発明はまた、ATNCの感染性を抑制することができる化合物を選択するための手順および/または評価する方法での、本発明のタイトレーション方法の適用に関する。この場合、ATNCを含む生物学的産物のATNC力価は、本発明のタイトレーション方法によって、評価されるべき化合物の存在下、次いで当該化合物の不存在下で決定される。化合物を接触させる方法は、作用が感染サイクルの開示を妨げるかどうか、または既に開始された感染サイクルをブロックするかどうかに応じて決定される。いずれの場合においても、生物学的産物の力価が、試験産物を用いた場合および用いない場合について決定される。実施された2つの力価の測定結果は、ATNCの感染性に対する化合物の抑制性活性を評価するために比較される。
【0079】
本発明はまた、マーカータンパク質またはATNCの非病的な形態から病的な形態への変質、例えば、PrPのPrPscへの変質をモジュレーションすることを可能にする化合物を同定するための方法での、本発明のタイトレーション方法の適用に関する。この場合、ATNCを含む生物学的産物のATNC力価は、本発明のタイトレーション方法によって決定される。次いで、この感染した生物学的産物は、試験化合物に接触させられ、次いで、本発明のタイトレーション方法が、生物学的産物の力価を再度決定するために適用される。化合物を接触させる工程の開始時と終了時に実施される2つの力価の測定結果が、試験化合物の有効性を評価するために比較される。
【0080】
本発明の方法は、以下のさらなる説明(本発明の範囲を限定するものではない)によってより明確に理解される。
【実施例】
【0081】
材料および方法
MovS6細胞(Archer F. et al., 2004、上記)をATNCの複製を許容する細胞として選択し、Tg301トランスジェニックマウスに適応させた127−Sスクレイピー株(Vilette JL et al., 2001、上記)を天然の感染性供給源として使用した。Tg301トランスジェニックマウスは、ヒツジ人工染色体ライブラリーから単離された大きなDNAフラグメントを担持し、ヒツジPrPの発現レベルは、ヒツジの脳にて観察されるレベルの約8倍高いものである。開始時の感染性供給源は、感染したマウス由来の脳の破砕物(バッチLN−3326、200mg/ml)からなる。サンプルの力価は、5.7log10uWB/mlおよび6.35TCID50/mlである。
【0082】
細胞培養および接種:
MovS6細胞を、DMEM+Ham−F12(4:1)培地(グルタミンおよびウシ胎児血清(5%の終濃度)を補充した)で培養し、37℃、5% CO存在下でインキュベーションした。1週間に一度、10%の細胞を各ウェルに再播種した。細胞の残り90%を、事前にPBSで洗浄した乾燥細胞ペレットの形態で保存するか、または除去した。
【0083】
タイトレーションプレートを、接種の24時間前に調製した。細胞を約2cmのウェル(24−ウェルプレートフォーマット)に、100000細胞/ウェル、すなわち、約50000細胞/cmの割合で播種した。
【0084】
接種材料は、10倍に希釈したLN−3326サンプル、または「ネガティブコントロール」としてはたらく健康な脳の破砕物のサンプル(バッチ:LN 3777)からなっていた。接種は、5つの複製物にて実施した。
【0085】
細胞は、150μlの希釈した接種材料に24時間接触させ、次いで、1mlの新たな培地を添加した。細胞をさらに72時間、すなわち、最初の継代まで培養し続け、その間、各ウェルについて、全細胞層を約9.6cmのウェル(6ウェルプレートのフォーマット)に移した。
【0086】
細胞を10週間培養し続けた。1週間に1度、各ウェルについて、培地を交換し、10%の細胞を再播種した。再播種しなかった感染した接種材料(LN−3326)を接種した細胞の複製物5つのうち2つをPBSで一度洗浄し、次いで、−80℃で乾燥ペレットの形態で保存し(本発明の方法に従って増幅することを意図するサンプル)、および残りの3つの複製物を事前に洗浄せずに、乾燥ペレットとして保存した(WBによる検出を意図するサンプル)。健康なサンプルに接種し、再播種していない細胞のすべての複製物を、事前に洗浄せずに、乾燥ペレットの形態で保存した。得られた細胞ペレットは、下記の分析を実施することを可能にした。
【0087】
細胞中のPrPscの検出:
各継代にて保存した細胞ペレットは、細胞によって産生されたPrPscを調査することを可能にした。産生されたPrPscの検出を、非洗浄細胞ペレットサンプルについてのウェスタンブロッティングによって直接、または洗浄した細胞ペレットのサンプルについて本発明の方法により増幅した後でウェスタンブロッティングによって実施した。
【0088】
−ウェスタンブロッティングによる直接的な検出:非洗浄細胞ペレットサンプル(5つの複製物のうち3つ)を解凍し、60μlのPBSに加えた。細胞を超音波処理槽を使用する15秒間の超音波処理(パワー:15W)によって溶解した。20μlの超音波処理した細胞ライセートを取り出し、プロテアーゼKで処理した。消化産物を変性させ、次いで、変性条件下でのポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)によって分析した。ゲル中を移動したタンパク質をエレクトロトランスファー(electro-transfert)によってPVDFメンブレン上に移した。メンブレン上に存在するPrPscを、6H4抗体(Prionics)およびアルカリフォスファターゼで標識化した二次抗体(「抗マウス抗体」ヤギ抗体)と一緒にインキュベーションすることによって、検出した。標識化したメンブレンを化学発光に供した。グリコシル化PrPscの3つの形態の電気泳動プロフィールがオートラジオグラムに現れた場合、サンプルをポジティブであると考えた。
【0089】
−本発明の方法による検出:洗浄した細胞ペレットの各サンプルを解凍し、次いで、5% 健康な脳の破砕物溶液に加え、200μlマイクロチューブに入れた。工程(iii)〜(v)のサイクルは、30分間、37℃でのインキュベーション段階、続く20秒間の超音波処理段階から構成された。一連の50サイクルを、自動のMisonixソニケーター3000(パワーレベルは7に設定した)を使用してサンプルに対して実施した。18μlの増幅産物を使用して、プロテアーゼKを用いた消化、続くウェスタンブロッティングによる分析を実施して、PrPscの可能性のある存在を検出した。
【0090】
結果
種々のサンプルでのPrPscの検出を図にて示し、表1に要約する。
【0091】
【表1】

【0092】
PrPscのシグナルは、健康な脳の破砕物からなるサンプルでは検出されなかった。同様に、健康な脳の破砕物を接種したMovS6細胞のライセートでは、シグナルは観察されなかった(図、ウェル2および13)。
【0093】
PrPsc特異的なシグナルが、127−Sスクレイピー株(10倍希釈)に感染した脳の破砕物からなるサンプルで観察された (図、ウェル14)。この破砕物の5.7log10uWB/mlの力価および2.36log10uWB/mlのウェスタンブロッティングの検出限界を考えると、この希釈サンプル中のPrPscは、ウェスタンブロッティング法だけでは検出されなかった。
【0094】
PrPsc特異的なシグナルが、127−S株に感染した脳の破砕物を接種したMovS6細胞のライセートにて観察された。このシグナルは、第1の継代の段階で観察された(図、ウェル3〜12)。
【0095】
結論:
LN−3326の脳破砕物中の127−Sに付随したPrPscの増幅:
これらのデータは、10倍に事前に希釈されたLN−3326の脳破砕物のサンプルにおける127−Sに付随したPrPscが、本発明の方法によって増幅され得ることを示す。この希釈したサンプル中のPrPscの検出は、少なくとも2.5〜3log10である。
【0096】
さらに、健康な破砕物の希釈していないサンプルでシグナルが観察されていないので、この増幅はPrPsc特異的である。
【0097】
細胞ライセート中の127S株に付随するPrPscの増幅:
調査した希釈(10−4)では、LN−3326破砕物は、第4の継代から開始したウェスタンブロッティングによって検出可能なPrPscの産生を誘導した。この遅延は、細胞培養物中のPrPscの増殖がウェスタンブロッティングによって検出可能な濃度レベルに到達するために必要な時間に対応する。この遅延はまた、細胞による新たなPrPscの産生が存在することを証明している。
【0098】
本発明の方法を用いて、感染した細胞に存在するPrPscが第1の継代およびそれに続くすべての継代について検出される。この増幅は、PrPscが感染していない細胞にて検出されなかったので、特異的なようである。
【0099】
そのため、これらのデータは、ウェスタンブロッティングと比較して、本発明の方法が感染した細胞によって産生されるPrPscのより早期での検出を可能にすることを示すようである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性のためのマーカーである病的な高次構造のタンパク質の検出および/またはタイトレーション(titrage)のためのインビトロでの方法であって、以下の工程:
i)ATNCの複製および増殖を許容する細胞にサンプルを接触させる工程;
ii)該サンプル中に存在するATNCを複製または増殖させるために、該細胞を培養する工程;
iii)病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCのための基質の供給源にATNCを接触させ、インキュベーションし、それによって、病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCの量を増幅する工程
iv)形成され得る凝集物を脱凝集させる工程;ならびに
v)該サンプル中の病的な高次構造のタンパク質および/またはATNCの存在および/または量を決定する工程
を含み、工程(iii)および(iv)は工程(v)の前に少なくとも2回繰り返される操作のサイクルを構成する、方法。
【請求項2】
ATNCのマーカーである病的な高次構造のタンパク質がPrPscプリオンタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(i)の細胞が、PrPプリオンタンパク質の非病的な配座異性体をコードする遺伝子がインテグレートされた細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(v)における病的な高次構造のタンパク質の存在および/または量の決定が、免疫化学または免疫細胞化学によって実施される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞がウサギ上皮細胞、特にRov9株の細胞である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
細胞がマウスグリア細胞、特にMovS2またはMovS6株の細胞である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(iii)および(iv)のサイクルが、工程(v)の前に5〜60回繰り返される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
サンプルが血液産物およびその誘導物、食品および化粧品からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
タンパク質の病的な形態および/またはATNCについての基質が健康な脳の破砕物の形態で提供される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ATNCで汚染され得る生物学的産物または材料を入手または処理するためのプロセスの評価および/またはモニタリングのためのインビトロでの方法であって、該方法において、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイトレーションの方法が、該プロセスの(A)開始時および(B)終了時にて該生物学的産物または材料に適用され、得られた2つの力価の値(A)および(B)が比較される、方法。
【請求項11】
生物学的産物または材料を除染するための手順の評価および/またはモニタリングのためのインビトロでの方法であって、該方法において、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイトレーションの方法が、該プロセスの(A)開始時および(B)終了時にて該生物学的産物または材料に適用され、得られた2つの力価の値(A)および(B)が比較される、方法。
【請求項12】
感染性の生物学的産物の感染性をモジュレーションする化合物の能力を評価するためのインビトロでの方法であって、該方法において、請求項1〜9のいずれか1項記載のタイトレーションの方法が、評価されるべき化合物の(A)存在下および(B)非存在下で該感染性の生物学的産物に適用され、得られた2つの力価の値(A)および(B)が比較される、方法。
【請求項13】
ヒトまたは非ヒト動物個体における感染性海綿状脳症の診断のためのインビトロでの方法であって、該個体由来の生物学的サンプル中の非従来型伝染性物質(ATNC)または該ATNCの感染性のためのマーカーである病的な高次構造のタンパク質の存在を、請求項1〜9いずれか1項記載の方法によって検出することを含む、方法。

【公表番号】特表2011−517772(P2011−517772A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501280(P2011−501280)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050520
【国際公開番号】WO2009/125139
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510257525)エルエフベ−バイオテクノロジース (6)
【氏名又は名称原語表記】LFB−BIOTECHNOLOGIES
【出願人】(510257488)アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・アグロノミク (3)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】