説明

非接触データ伝送

【課題】通信の質を低下させることなく、高いボーレートでデータを伝送可能な、非接触通信システムおよび方法を提供する。
【解決手段】電力信号を送信/受信するように構成された電力アンテナと、データ信号を伝送するように構成されたデータアンテナにおいて、データアンテナは、電力アンテナとは異なり、広帯域アンテナであり、共振に適合されない、すなわち低い線質(Q)係数に適合される。一方のアンテナの信号が他方のアンテナに与える影響を相殺するために信号抑制が用いられる。この信号抑制は、幾何学的に行われてもよいし、または電圧補償源を用いることによって行われてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ビットレートの非接触データ転送が可能な非接触通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、公知の非接触通信システム700を示している。非接触通信システム700の基本的な構成要素は、読取り装置710および非接触カード720である。
【0003】
読取り装置710は、近接型結合装置(Proximity Coupling Device (PCD))としても知られている。読取り装置710は、電力源U、伝送アンテナLPCD、共振コンデンサCres、および抵抗Rを有している。伝送アンテナLPCDと共振コンデンサCresとは、共振状態にあり、所定の周波数において、電力源Uからみると、抵抗Rだけが認識されるように構成されている。
【0004】
非接触カード720は、近接型ICチップ(Proximity Integrated Circuit Chip (PICC))、スマートカード、タグ、トランスポンダ、または無線IC(RFID)タグとしても知られている。非接触カード720は、誘導アンテナLPICC、共振コンデンサCPICC、および電力を消費する抵抗RPICCを含む。アンテナLPICCおよび共振コンデンサCPICCは、共振回路を形成しており、特定の共振周波数を非接触カード720に与えるように構成されている。
【0005】
動作中は、伝送アンテナLPCDが、典型的には13.56MHzの周波数を有するキャリア信号を伝送する。このキャリア信号は、非接触カード720に電力およびデータを供給する伝送フィールドを生成する。このキャリア信号を変調することによって、非接触カード720にデータが送信される。非接触カード720が、読取り装置710の伝送フィールドの中に入ると、伝送フィールドは、カードアンテナLPICC内に電流を誘導し、伝送アンテナLPCDとカードアンテナLPICCとは結合されることになる。その後、この誘導電流に対応する電圧が、共振回路によって増幅される。ある形態では、非接触カード720は、応答信号を伝送するように構成されており、この応答信号は、キャリア信号として、典型的には848KHzの周波数の副搬送波周波数に変調されたデータを有している。応答信号は、読取り装置710の伝送アンテナLPCDによって検出される応答フィールドを形成する。
【0006】
非接触システム700などの公知のシステムでは、読取り装置と非接触カードとの間の通信プロトコルは、例えば14443型A/B、18092、15693、18000といったISO(国際標準化機構)の規格のいずれかによって規定されていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5440302号明細書(1995年8月8日)
【特許文献2】欧州特許第0466949号明細書(1992年1月22日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
読取り装置710から非接触カード720までのダウンリンク通信の間に供給されるデータ通信および電力は、単一の伝送アンテナLPCDによって得られる。電力送信および動作距離を最適化するために、共振コンデンサCresと伝送アンテナLPCDとを有する読取り装置の共振回路は、キャリア周波数に焦点を合わせて、多くの場合、高い線質(Q)係数を有するように設計されている。帯域幅は、この線質(Q)係数と相反するので、結果的に帯域幅は低くなる。また、線質(Q)係数が高い共振回路は、データ変調されたキャリア信号を減衰させ、該キャリア信号の整定時間に悪影響を及ぼす。標準的なデータレート(例えば848kbit/sec以下など)の場合、読取り装置710のダウンリンク帯域幅は、伝送の要件を満たす程度に十分である。しかし、より高いデータレート(例えば848kbit/secよりも高い)の場合、線質係数Qを低減させることなく、より大きな帯域幅が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は、非接触装置(例えば読取り装置または非接触カード)間において、通信の質を低下させることなく、高いボーレートでデータを伝送可能な、非接触通信システムおよび方法に関する。
【0010】
上述の非接触装置は、さらなる伝送アンテナを備えている。既存の伝送アンテナは、電力信号(energy signal)だけを送信/受信する。以下では電力アンテナ(energy antenna)と呼ぶこの既存のアンテナは、高い線質(Q)係数と実質的に狭帯域幅とを有する共振回路を備えている。一方、データ伝送は、データ信号を伝送する上記のさらなるアンテナを用いて行われる。このさらなるアンテナを、以下ではデータアンテナと呼ぶ。データアンテナは、電力アンテナとは異なり、広帯域アンテナであり、共振に適合されない、すなわち低い線質(Q)係数に適合される。一方のアンテナの信号が他方のアンテナに与える影響を相殺するために信号抑制が用いられる。この信号抑制は、幾何学的に行われてもよいし、または電圧補償源を用いることによって行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】一実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図1B】他の実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図2A】結果的に各実施形態に係る読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。
【図2B】結果的に各実施形態に係る読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号の重畳とを示す信号図である。
【図2C】結果的に各実施形態に係る読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。
【図3A】他の実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図3B】他の実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図4】一実施形態に係る非接触通信方法を示す図である。
【図5】他の実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図6】他の実施形態に係る非接触通信システムを示す図である。
【図7】公知の非接触通信システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する図に示される実施形態の部材のいくつかは、図7の公知の非接触通信システム700でも用いられていることに留意されたい。従って、これらの部材は、同一または類似の参照番号を用いて示されている。簡潔にするため、各実施形態において、これらの部材に関する説明は繰り返さない。
【0013】
図1Aは、一実施形態に係る非接触通信システム100Aを示す図である。
【0014】
図示するように、非接触通信システム100Aは、読取り装置110Aおよび非接触カード120を有している。非接触カード120は、図7に関して既に説明した非接触カード720と同様に構成されているので、ここでは説明を繰り返さない。
【0015】
読取り装置110Aは、電力アンテナLenergyおよびデータアンテナLdataを備えている。非接触カード120が読取り装置110Aの伝送フィールド内にある場合、電力アンテナLenergyは、結合係数Kenergy−PICCにおいてカードアンテナLPICCと結合し、データアンテナLdataは、結合係数Kdata−PICCにおいてカードアンテナLPICCと結合することが可能である。
【0016】
電力アンテナLenergyは、電力源Uenergy、共振コンデンサCres、および抵抗RQ1にも結合されている。電力アンテナLenergyと共振コンデンサCresとは、共振回路を形成するように構成されており、所定の周波数において、電力源Uenergyから見ると、抵抗RQ1だけが認識されるようになっている。効率のよい電力伝達を行うために、電力アンテナLenergyは、高い線質係数を有しており、そのため狭帯域幅を有している。
【0017】
データアンテナLdataは、電力源Udataおよび抵抗RQ2にも結合されている。データアンテナLdataは、電力アンテナLenergyと異なり、共振コンデンサには結合されていない。データアンテナLdataは、典型的には、電力アンテナLenergyと同一平面に位置しているが、必ずしも同一平面に位置している必要はない。
【0018】
電力アンテナLenergyとデータアンテナLdataとの間の相互の影響を相殺するために、信号抑制が用いられる。すなわち、電力アンテナ信号によってデータアンテナLdata内に誘導された電圧を阻止すると共に、データアンテナ信号によって電力アンテナLenergy内に誘導された電圧を阻止する。図1Aの場合、この信号抑制は幾何学的に行われる。すなわち、電力アンテナLenergyおよびデータアンテナLdataの相対的な形状、寸法、および位置は、一方のアンテナによって伝送される信号が、他方のアンテナ内における電圧の誘導を抑制するように設定されている。電力信号とデータ信号とが、同一の振幅を有しているが、逆位相(つまり180°の位相シフト)にある場合に、信号抑制が生じる。非接触カード120が読取り装置110Aの近傍に位置していない場合、電力アンテナLenergyとデータアンテナLdataとの間にはほぼ完全な信号抑制が存在する。他方、非接触カード120が読取り装置110Aの伝送フィールド内に位置する場合、非接触カード120からの信号だけが、アンテナLdata内に電圧を誘導する。
【0019】
動作中は、電力源Uenergyは、電力信号を非接触カード120に送信するために電力アンテナLenergyを制御する電圧を発生する。最適な電力伝達では、この電力信号は、狭帯域信号であって、高い線質(Q)係数を有しており、キャリア周波数に集中している。図7に関連して説明した従来のシステム700の伝送アンテナLPCDとは異なり、電力アンテナLenergyは、電力だけを伝達し、データによって変調されない。
【0020】
同時に、電力源Udataは、データ信号を非接触カード120に送信するためにデータアンテナLdataを制御する電圧を発生する。これについては、以下に詳細に説明する。このデータ信号は、共振回路によって影響されない。このため、データ信号は、ボーレートがほとんど制限されない、または全く制限されない広帯域の信号とすることができる。電力信号とデータ信号とは重畳されており、すなわち、読取り装置110Aと非接触カード120との間の空間において幾何学的に加算され、読取り装置の合計伝送信号を発生させる。これについても以下に詳細に説明する。本明細書では、この重畳の原理を、電力信号とデータ信号との加算として説明する。しかしながら、これらの信号は、各アンテナ内の電流によって発生した磁界を表すものであることは明らかであろう。
【0021】
上述のように、電力アンテナLenergyは共振回路を有しているので、電力源Uenergyおよび電力アンテナLenergyは、同相である。これとは異なり、データアンテナLdataは、共振回路を有していないので、データ電圧源UdataとデータアンテナLdataとの間には、90°の位相シフトが存在する。つまり、電力信号は同相であり、データ信号は90°の位相シフトを有している。この、電力信号とデータ信号との間の位相シフトは、公知の任意の方法でデジタル式に補償され得る。
【0022】
非接触カード120が、読取り装置の合計伝送信号の領域内に移動すると、電流がカードアンテナLPICC内に誘導される。その後、この誘導電流に対応する電圧が、一連の共振回路、つまりカードアンテナLPICCおよび共振コンデンサCPICCによって増幅される。非接触カード120は、その後、応答信号を送信する。この応答信号は、読取り装置の合計伝送信号の搬送波である。この搬送波は、該搬送波に能動的に変調されたデータを有している。読取り装置のデータアンテナLdataは、非接触カードアンテナLPICCによって発生された応答信号を検出する。
【0023】
図1Bは、他の実施形態に係る非接触通信システム100Bを示す図である。この図では、伝送アンテナは共振回路を有している。
【0024】
非接触通信システム100Bは、図1Aの非接触通信システム100Aに類似しているが、データアンテナLdataが共振コンデンサCres2にも結合されている点が異なっている。データアンテナLdataおよび共振コンデンサCres2は、低い線質係数を有する共振回路を形成している。図1BのデータアンテナLdataは共振回路を有しているので、データ電圧源UdataおよびデータアンテナLdataは、互いに位相シフトを有していない。電力アンテナLenergyおよびデータアンテナLdata上の信号は、同相であり、そのため、これら2つのアンテナの信号間において位相シフトを行う必要はない。
【0025】
図1Bの他の部材は、図1Aに関連して説明した部材と同様であり、簡潔にするため、これらの部材に関する説明はここでは繰り返さない。
【0026】
図2A、図2B、および図2Cは、それぞれ、結果的に各実施形態に係る読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。
【0027】
図2Aは、変調器(図示されていない)によって行われる位相シフトキーイング(PSK)変調を用いてデータ信号が発生される場合に、結果的に読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。PSK変調自体は公知であり、従って簡潔にするため、PSK変調の詳細についてここには記載しない。
【0028】
データアンテナLdataは、データ信号を伝送するように構成されており、電力アンテナLenergyは、電力信号を伝送するように構成されている。データ信号Hdataと電力信号Henergyとの重畳(つまり幾何学的な加算)は、「空間において」行われ、その結果、読取り装置の合計伝送信号Htotalになる。数学的に表現すると、Htotal=Henergy+Hdataである。
【0029】
電力信号Henergyは、角度0°および所定の振幅を有している。図2Aにおいて、電力信号Henergyは、ベクトル図では、ボールド体でない水平のベクトルによって示され、信号図では、破線の波によって示されている。
【0030】
データ信号Hdataは、90°位相シフトされた信号であり、−90°変調されて論理値0を示すか、または+90°変調されて論理値1を示す。ベクトル図では、このデータ信号の論理値1(つまり+90°)は、垂直に上方を向いたボールド体でない実線のベクトルによって示されており、論理値0(つまり−90°)は、垂直に下方を向いたボールド体でない破線のベクトルによって示されている。信号図では、データ信号Hdataは、点線の波によって示されている。データ信号に変調されるデータがない場合は、データ信号は存在せず、振幅は0であることに留意されたい。
【0031】
空間において電力信号Henergyとデータ信号Hdataとが重畳された結果、読取り装置の合計伝送信号Htotalになる。この合計伝送信号Htotalは、±ファイ角度と、その結果として生じる振幅とを有している。ベクトル図では、この合計伝送信号の、論理値1(つまり+90°)は、上方に斜めに伸びたボールド体の実線のベクトルによって示され、論理値0(つまり−90°)は、下方に斜めに伸びたボールド体の破線のベクトルによって示される。信号図では、合計伝送信号Htotalは、実線の波によって示されている。
【0032】
伝送中、変調が行われない場合、データ信号Hdataのベクトルは振幅0であるため、その結果として生じるベクトルは、電力信号Henergyのベクトルとなる。データ信号Hdataに対するPSK変調が開始された後も、電力信号Henergyは同じ状態を維持する。データ信号Hdataを論理値1に変調するために、そのデータ信号を、電力信号Henergyと比べて+90°シフトさせる。データ信号Hdataの実線のベクトルは、論理値1を示しており、電力信号Henergyのベクトルとデータ信号Hdataのベクトルとの合計は、ボールド体の実線のベクトルである読取り装置の合計伝送信号Htotalのベクトルになる。
【0033】
一方、データ信号Hdataが論理値0に変調される場合、データ信号Hdataは、電力信号Henergyと比べて−90°の位相シフトが存在するように変化する。その後、データ信号Hdataのベクトルは、論理値0を指し、電力信号Henergyのベクトルとデータ信号Hdataの論理値0のベクトルとを加算したものが、結果的に、データ変調された読取り装置の伝送信号Htotalの、論理値0を指すベクトルになる。
【0034】
論理値1から論理値0まで、および論理値0から論理値1までの遷移の間に、180°の位相シフトが存在する。これは、図2Aの右半分に示される信号タイミング図の工程において認識可能である。
【0035】
図2Bは、振幅シフトキーイング(ASK)変調を用いてデータ信号が生成される場合に、結果的に読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。ASK変調自体は公知であり、簡潔にするために、ASK変調の詳細についてここには記載しない。
【0036】
電力信号Henergyは、角度0°および所定の振幅を有している。図2Bにおいて、電力信号Henergyは、ベクトル図では、ボールド体でない水平のベクトルによって示され、信号図では、破線によって示されている。
【0037】
データ信号Hdataは、0°位相シフトされた信号であり、特定の振幅で0°まで変調されて論理値1を示すか、または特定の振幅によって−180°まで変調されて論理値0を示す。ベクトル図では、このデータ信号の論理値0(つまり−180°)は、左方向を指したボールド体でない水平の実線のベクトルによって示され、論理値1(つまり0°)は、右方向を指したボールド体でない水平の破線のベクトルによって示される。信号図では、データ信号Hdataは、点線の波によって示される。
【0038】
ここでも、空間における電力信号Henergyとデータ信号Hdataとの重畳が、読取り装置の合計伝送信号Htotalになる。ベクトル図では、この合計伝送信号の論理値0(つまり−180°)は、ボールド体の実線のベクトルによって示され、論理値1(つまり0°)は、ボールド体の破線のベクトルによって示される。信号図では、合計伝送信号Htotalは、実線の波によって示される。
【0039】
伝送中、変調が行われない場合、データ信号Hdataのベクトルは振幅0であるため、その結果として生じるベクトルは、電力信号Henergyのベクトルとなる。データ信号Hdataに対するASK変調が開始された後も、電力信号Henergyは、同じ状態を維持する。
【0040】
データ信号Hdataを論理値0に変調するために、データ信号は、電力信号Henergyと比べて−180°の位相シフトを有する。データ信号Hdataの実線のベクトルは、論理値0を指しており、電力信号Henergyのベクトルとデータ信号Hdataのベクトルとの合計は、ボールド体の実線のベクトルである読取り装置の合計伝送信号Htotalのベクトルになる。
【0041】
一方、データ信号Hdataが論理値1に変調される場合、データ信号Hdataは、電力信号Henergyと比べて0°の位相シフトが存在するように変化する。その後、データ信号Hdataのベクトルは、論理値1を指し、電力信号Henergyのベクトルとデータ信号Hdataの論理値1のベクトルとを加算したものが、論理値1を指す読取り装置の合計伝送信号Htotalのベクトルになる。
【0042】
論理値1から論理値0まで、および論理値0から論理値1までの遷移の間に、180°の位相シフトが存在する。これは、図2Bの右半分の信号タイミング図の工程において認識可能である。
【0043】
図2Cは、データ信号が直交振幅(QAM)変調を用いて発生される場合に、結果的に読取り装置の合計伝送信号となる、電力信号とデータ信号との重畳を示す信号図である。QAM変調自体は公知であり、簡潔にするために、QAM変調の詳細についてここには記載しない。
【0044】
図2Aおよび図2Bを参照しながらそれぞれ説明したPSK変調およびASK変調の実施形態と同じように、空間において電力信号Henergyとデータ信号Hdataとを重畳したものが、結果的に読取り装置の合計伝送信号Htotalとなる。
【0045】
電力信号Henergyは、角度0°および所定の振幅を有している。図2Cにおいて、電力信号Henergyは、ベクトル図では、ボールド体でない水平のベクトルによって示され、信号図では、破線の波によって示されている。
【0046】
データ信号Hdataは、135°位相シフトされて論理値00を示し、45°位相シフトされて論理値01を示し、−45°位相シフトされて論理値10を示し、−135°から225°位相シフトされて論理値11を示す。データ信号Hdataのベクトルは、純粋なQAMベクトルである。HdataのベクトルとHenergyのベクトルとの重畳が、結果的にベクトル図に示した特定の信号空間ダイアグラムになり、ここで、読取り装置の合計伝送信号Htotalは、ボールド体の実線および破線のベクトルによって示される。右側の信号図では、図2Aおよび図2Bの信号図に示したように、データ信号Hdataは点線によって示され、電力信号Henergyは破線によって示され、合計伝送信号Htotalは実線によって示されている。
【0047】
本発明は、PSK変調、ASK変調、またはQAM変調に限定されるものではない。周波数シフトキーイング(FSK)および離散マルチトーン(DMT)といった他の種類の変調を行ってもよい。また、PSK変調およびASK変調は2値変調に限定されず、QAM変調は4−QAM変調に限定されない。
【0048】
一実施形態では、データ信号Hdataを検出するために、電力信号Henergyを測定し、非接触カード120内に格納することが可能である。変調が開始された後は、読取り装置の合計伝送信号Htotalを測定することが可能であり、その後、合計伝送信号Htotalから、格納された電力信号Henergyを減算して、データ信号Hdataを得ることが可能である。例えば、QAM変調の場合、合計伝送信号から電力信号を減算すると、その結果は、公知のQAM変調の信号空間ダイアグラムとして示される。この信号空間ダイアグラムは、円の第1の四分区間、第2の四分区間、第3の四分区間、および第4の四分区間を有する。
【0049】
図3Aおよび図3Bは、他の実施形態に係る、電圧補償源を備える非接触通信システムを示す図である。非接触通信システム300は、図1Aおよび図1Bに関連して説明した非接触通信システム100A・100Bに類似しているが、電力信号がデータアンテナに与える影響、およびデータ信号が電力アンテナに与える影響を相殺するために用いられる信号抑制が、幾何学的に行われるのではなく、電気的に行われる点が異なっている。
【0050】
図3Aにおいて、アンテナLdataとアンテナLenergyとの間の結合は、結合係数Kdata−energyによって示されており、この結合は、これら2つのアンテナ内に、それぞれ電圧Ui−energy・Ui−dataを誘導する。本実施形態のこれらのアンテナは、図1Aおよび図1Bに示した実施形態とは異なり、任意の幾何学的な方法において、形、寸法、および位置が決定されていない。
【0051】
電力信号がデータアンテナに与える影響、およびデータ信号が電力アンテナに与える影響を抑制するために、2つの電圧補償源が設けられている。一方の電圧補償源Ucomp−dataは、データ信号Hdataによって電力アンテナLenergy内に生じた誘導電圧Ui−dataを補償する。他方の電圧補償源Ucomp−energyは、電力信号HenergyによってデータアンテナLdata内に生じた誘導電圧Ui−energyを補償する。
【0052】
図3Bは、この電圧補償を示す棒グラフである。左側の棒グラフは、電力アンテナの回路を示している。電圧補償源Ucomp−dataは、データ信号Hdataによって生じた誘導電圧Ui−dataを補償し、その結果が電力源Uenergyとなる。右側の別の棒グラフは、データアンテナの回路を示している。電圧補償源Ucomp−energyは、電力信号Henergyによって生じた誘導電圧Ui−energyを補償し、その結果が電力源Udataとなる。
【0053】
電気的なキャンセルのための、電力アンテナLenergyおよびデータアンテナLdataの位置に関する必要条件は特にない。これら2つのアンテナは、高電圧である誘導電圧(つまりUi−data・Ui−energy)が生成されないように、互いに密接に結合されていないことが好ましい。これらのアンテナは、それぞれが非接触カードアンテナLPICCに密接に結合されるように、かつ、誘導電圧が電気的に補償され得るレベルにあるように、配置されている必要がある。
【0054】
図3Aの他の部材は、上述の、他の実施形態に関連して説明した部材と同様であり、簡潔にするため、これらの部材に関する説明は、ここでは繰り返さない。
【0055】
図4は、一実施形態に係る非接触通信方法400を示す図である。
【0056】
非接触通信方法400の間、工程410において、PSK変調、ASK変調、またはQAM変調といった変調方式を用いて、電力信号を発生させると共にデータ信号を発生させる。必要ならば、工程420において、電力信号Henergyとデータ信号Hdataとの間の位相シフトを補償する。工程430において、電力信号Henergyは電力アンテナLenergyから送信され、電力アンテナLenergyによって受信される。工程440において、データアンテナLdataからデータ信号Hdataを送信する。工程450において、電力信号HenergyによってデータアンテナLdata内に誘導された電圧を補償する。工程460において、データ信号によって電力アンテナLenergy内に誘導された電圧を補償する。上述のように、電力信号Henergyとデータ信号Hdataとの間の重畳が空間において生じる。
【0057】
本方法は、図4に示した特定の順番に限定されないことは明らかである。上記の工程のうちのいくつかを異なる順番で行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0058】
図5は、他の実施形態に係る非接触通信システム500を示す図である。非接触通信システム500は、データアンテナが、読取り装置内ではなく非接触カード内に配置されている点において、上述の実施形態の非接触通信システムと異なっている。
【0059】
非接触読取り装置510は、図7に関連して説明した非接触読取り装置710と同様に構成されているので、この装置に関する説明はここでは繰り返さない。
【0060】
非接触カード520は、電力アンテナLPICC−energyおよびデータアンテナLPICC−dataを含む。非接触カード520内の電力アンテナLPICC−energyは、読取り装置内に設けられた形態と同様に、狭帯域アンテナであり、コンデンサCPICC−energyおよび抵抗RPICC1に並列に結合されている。しかし読取り装置内に設けられた形態とは異なり、電力アンテナLPICC−energyは、電力を受信するが、送信しない。これは、非接触カード520内には、読取り装置510内に存在するようなアクティブな電力源が存在しないからである。当然ながら、本願は、この形態に限定されることを意図するものではない。なぜなら、非接触カード520はアクティブな電力源を含むことも可能だからである。
【0061】
データアンテナLPICC−dataは、データを送信および/または転送するための広帯域アンテナである。データアンテナLPICC−dataは、コンデンサCPICC−dataおよび抵抗RPICC2にも結合されている。データアンテナLPICC−dataおよびコンデンサCPICC−dataは、低い線質(Q)係数を有する共振回路を形成するように構成されている。変調されたデータは、受動的なインピーダンス変調(つまり後方散乱変調または負荷変調)ではなく、上述のように、非接触カード520によって能動的に(例えばPSK変調、ASK変調、またはQAM変調を用いて)生成され得る。データアンテナLPICC−dataは、典型的には、電力アンテナLPICC−energyと同一平面に位置している。しかし、必ずしもそうである必要はないと認識される。また、このデータアンテナLPICC−dataの具体的な回路は一例に過ぎず、共振回路を含まない別の回路設計を用いてもよいことは明らかであろう。
【0062】
非接触通信システム500の動作は、図1Aおよび図1Bに関連して説明した動作と同様であり、簡潔にするため、この動作についてここでは説明しない。
【0063】
図5の他の部材は、図1Aおよび図1Bに関連して説明した部材と同様であり、簡潔にするため、これらの部材に関する説明は、ここでは繰り返さない。
【0064】
図6は、他の実施形態に係る非接触通信システム600を示す図である。
【0065】
非接触読取り装置610は、図1Aおよび図1Bに関連して説明した非接触読取り装置110A・110Bと同様に構成されているので、この装置に関する説明はここでは繰り返さない。
【0066】
非接触カード620は、分離されたピックアップアンテナLpickup_PICCと、キャンセル回路630とを含む。キャンセル回路630は、カード伝送アンテナLPICC内の電流によって生成される、カードの伝送信号を補償するための回路である。動作中は、ピックアップアンテナLpickup_PICCは、上記カードの伝送信号と、読取り装置の合計伝送信号とを検出する。キャンセル回路630は、カードの伝送信号をキャンセルし、同時に、読取り装置の合計伝送信号をほぼ正常に維持するように構成されている。この理由は、カード伝送アンテナLPICCとカードコンデンサCPICCとを含むカードの共振回路が、上記の分離されたピックアップアンテナLpickup_PICCによって検出された読取り装置の合計伝送信号の誘導電圧を減衰させないからである。
【0067】
キャンセル回路630の具体的な詳細については、本願の範囲外にあり、簡潔にするため、ここには記載しない。
【0068】
図6の他の部材は、他の実施形態に関連して説明した部材と同様であり、簡潔にするため、これらの部材に関する説明は、ここでは繰り返さない。
【0069】
他の実施形態では、読取り装置610のアンテナLenergyおよびLdataの少なくともいずれかが、非接触カード620のキャンセル回路に類似したキャンセル回路を含むように変形されている。ここでもまた、このようなキャンセル回路の具体的な詳細については、本願の範囲外にあり、簡潔にするため、ここには記載しない。
【0070】
具体的な実施形態を説明すると共に記載してきたが、本願の範囲から逸脱することなく、図解したこれらの具体的な実施形態に代えて、様々な変形、および/または、同様の形態を用いてもよいことは、当業者に明らかであろう。本願は、本明細書に説明した具体的な実施形態のあらゆる適合例または変形例を対象とすることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力信号を送信/受信するように構成された電力アンテナと、
データ信号を伝送するように構成されたデータアンテナとを備える、非接触装置。
【請求項2】
上記電力アンテナは狭帯域アンテナである、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項3】
上記データアンテナは広帯域アンテナである、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項4】
上記電力アンテナは高い線質係数を有する共振回路を備えており、上記データアンテナは低い線質係数を有する共振回路を備えている、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項5】
上記電力アンテナだけが、共振回路を備えており、上記共振回路は、高い線質係数を有し共振に適合される、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項6】
ASK変調、PSK変調、FSK変調、QAM変調、およびDMT変調のいずれか1つの変調を用いてデータ信号を発生させるように構成された変調器をさらに備える、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項7】
上記データアンテナはさらに、負荷変調された信号を受信するように構成されている、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項8】
上記データアンテナは、上記電力信号によって上記データアンテナ内に誘導された電圧を補償するように構成された電圧補償源を備えている、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項9】
上記電力アンテナは、上記データ信号によって上記電力アンテナ内に誘導された電圧を補償するように構成された電圧補償源を備えている、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項10】
上記電力信号によって上記データアンテナ内に誘導された電圧が幾何学的にキャンセルされるように、上記電力アンテナおよび上記データアンテナの相対位置が設定されている、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項11】
上記電力アンテナおよび上記データアンテナは、同一平面上に位置している、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項12】
非接触読取り装置である、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項13】
非接触カードである、請求項1に記載の非接触装置。
【請求項14】
上記電力アンテナは、上記電力信号の受信のみを行うように構成されている、請求項13に記載の非接触装置。
【請求項15】
第1の非接触装置と第2の非接触装置とを有し、
第1の非接触装置は、
電力信号を送信/受信するように構成された電力アンテナと、
データ信号を伝送するように構成されたデータアンテナとを備え、
第2の非接触装置は、上記電力信号と上記データ信号との重畳信号を受信するように構成されている、非接触通信システム。
【請求項16】
第2の非接触装置は、
伝送信号を伝送するように構成された伝送アンテナと、
第1の非接触装置から送信された、上記電力信号と上記データ信号との上記重畳信号と、上記伝送信号とを受信するように構成されたピックアップアンテナと、
上記ピックアップアンテナの電圧から、上記伝送アンテナの電圧を減算するように構成されたキャンセル回路とを備える、請求項15に記載の非接触通信システム。
【請求項17】
第2の非接触装置は、上記電力信号と上記データ信号との重畳信号を受信するように構成された単一のアンテナを備える、請求項15に記載の非接触通信システム。
【請求項18】
電力信号を送信/受信するための電力アンテナ手段と、
データ信号を伝送するためのデータアンテナ手段とを備える、非接触装置。
【請求項19】
非接触装置の電力アンテナから電力信号を送信/受信する工程と、
上記非接触装置のデータアンテナからデータ信号を送信する工程とを含む、非接触信号の伝送方法。
【請求項20】
上記電力信号は狭帯域の電力信号であり、上記データ信号は広帯域のデータ信号である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記電力信号と上記データ信号との間の位相シフトを補償する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ASK変調、PSK変調、FSK変調、QAM変調、およびDMT変調のいずれか1つの変調を用いて、データ信号を発生させる工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
上記電力信号によって上記データアンテナ内に誘導された電圧を補償する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
上記データ信号によって上記電力アンテナ内に誘導された電圧を補償する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−283819(P2010−283819A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126832(P2010−126832)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(501209070)インフィネオン テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト (331)
【Fターム(参考)】