説明

非接触型ID識別装置及びその製造方法

【課題】アンテナコイルのリード部が接することとなるICチップのエッジ部を曲面状に構成して該リード部の被覆に損傷が生じる虞を無くすること。
【解決手段】巻線型のアンテナコイルを作成し、これをICチップ2のコイル接続用端子2a、2bに接続したものを多数用意した。保護膜用流動体として溶剤で希釈した絶縁ワニス液を用意し、上部開放の広口容器に入れた。絶縁ワニス液は内径19mm、深さ28.5mmの測定容器に上端いっぱいに入れ、その口径2mmの底部測定口から5〜6秒で流下する粘度に調整した。アンテナコイル1を接続したICチップ2を、広口容器中の絶縁ワニス液中に一瞬沈めた上で引き上げ、剥離紙上に載せ、そのICチップが100個程度になったところで、順次、加熱炉に装入し、110〜130℃で60分間加熱した後に取り出した。なお、加熱炉では蒸発した溶剤成分は排気した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くのサービス産業、物品販売業、製造業、物流業及び金融業等の種々の分野で、物品や人物に関する個体の自動認識の手段として用いられる非接触型ID識別装置であって、アンテナコイルのリード部が接することとなるICチップのエッジ部を曲面状に構成して該リード部の被覆に損傷が生じる虞を無くした非接触型ID識別装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非接触型ID識別装置は、ICチップとアンテナコイルとで構成されるが、これらは何らかの支持部材で支持されるのが普通であり、例えば、二枚のシート状部材に挟持状態に配されて構成されることがある。ICチップの縁部はミクロなバリを持ったエッジ状になっており、このようなICチップ及びアンテナコイルが、以上のように、二枚のシート状部材等で被覆される際に通常両側から強く挟持され、ICチップのコイル接続用端子に接続したアンテナコイルのリード部がICチップの該当する縁部ではその鋭利なバリを持ったエッジに強く押し付けられることになり、場合により、該リード部の絶縁被覆に損傷が生じて短絡するような問題が発生する虞があった。
【0003】
このような問題に対する対策を施した非接触型ID識別装置及びその製造方法は現時点では全く提案されていない。
【0004】
現時点では、アンテナコイルは、銅電線を巻線する方法(特許文献1、2、3)や、銅箔をエッチングして形成する方法、或いは導電性ポリマー・インクを用いた印刷による方法等で製造されている。これらの製法の内、銅箔エッチングによる方法は、フォトリソグラフィー技術を用いるものであるため、量産性に富み、かつ低い電気抵抗のコイルが得られるが、その電気抵抗のばらつきが大きく、加えて製造工程で生じる排水の処理の問題もある。また前記導電性ポリマー・インクを用いた方法も、エッチングによる方法と同様に、量産性には富むが、銀粉を用いるものは環境安定性に乏しく、金粉や金繊維を用いるものは経済的に競争力が乏しい上に、得られるコイルの電気抵抗が大きく実用性に乏しい。
【0005】
前記銅電線を用いて巻線する方法は、他の二者ほどの量産性はないが、得られるコイルの電気抵抗のばらつきが小さく、現時点では、安定して高性能の非接触ID識別装置を提供する上で、最も優れたアンテナコイルの製造方法であると考えられる。
【0006】
しかし、以上の巻線型のアンテナコイルを備えた非接触型ID識別装置に於いて、前記のように、現時点では、該アンテナコイルのリード部がその上を通過するICチップのエッジ部を曲面状としたそれ及びその製造方法は提案されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−184427号公報
【特許文献2】特開2003−303731号公報
【特許文献3】特開2002−352203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アンテナコイルのリード部が接することとなるICチップのエッジ部を曲面状に構成して該リード部の被覆に損傷が生じる虞を無くした非接触型ID識別装置及びその製造方法を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1は、マイクロプロセッサを含むICチップを内蔵し、該ICチップと外部のリーダ装置との間の電力の授受及び情報の交換をアンテナコイルを介して行うID識別装置に於いて、
該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部が接する該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成した非接触型ID識別装置である。
【0010】
本発明の2は、本発明の1の非接触型ID識別装置の製造方法であって、該ID識別装置のICチップのコイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階で、少なくとも該ICチップのエッジ部に保護膜用流動体を付着させ、次いで該ICチップに付着した保護膜用流動体を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成する非接触型ID識別装置の製造方法である。
【0011】
本発明の3は、本発明の2の非接触型ID識別装置の製造方法に於いて、前記保護膜用流動体の粘度を、前記アンテナコイルのリード部と前記ICチップの該リード部に接するエッジ部との間に進入可能な程度に調整することとしたものである。
【0012】
本発明の4は、本発明の2又は3の非接触型ID識別装置の製造方法に於いて、前記保護膜用流動体として溶剤で希釈して流動状態にしたワニス液を用い、該ワニス液を、コイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階の前記ICチップのエッジ部に付着させ、次いで該ICチップに付着した該ワニス液を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜としてのワニス膜で被覆して曲面状に形成するものである。
【0013】
本発明の5は、本発明の2又は3の非接触型ID識別装置の製造方法に於いて、前記保護膜用流動体として溶剤で希釈して流動状態にした接着剤液を用い、該接着剤液を、コイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階の前記ICチップのエッジ部に付着させ、次いで該ICチップに付着した該接着剤液を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜としての接着剤膜で被覆して曲面状に形成するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1の非接触型ID識別装置によれば、ICチップのエッジ部を保護膜で覆って曲面状に形成してあるため、該エッジ部上を通過するアンテナコイルのリード部が、該アンテナコイル及びICチップを、例えば、薄いシート状部材の間に挟持状に納める際等に該エッジ部でその絶縁被覆に損傷を生じさせるような虞がない。従って事後的に生じた該リード部の絶縁被覆の損傷に起因するリード部間の短絡による不良の発生を回避することができる。
【0015】
本発明の2の非接触型ID識別装置の製造方法によれば、ICチップのコイル接続端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階で、該ICチップを保護膜用流動体中に浸漬する等により、該ICチップの少なくとも該アンテナコイルのリード部が通過する位置のエッジ部に該保護膜用流動体を付着させ、これをその後乾燥硬化させると云う非常に簡単な工程で該エッジ部に保護膜による曲面を形成した非接触型ID識別装置を製造することができる。
【0016】
本発明の3の非接触型ID識別装置の製造方法によれば、保護膜用流動体がリード部の裏側に回り込みやすくなり、確実に該保護膜用流動体をリード部に接するエッジ部に付着させ、該エッジ部を被覆する曲面状の保護膜を形成することができることになる。
【0017】
本発明の4の非接触型ID識別装置の製造方法によれば、容易にICチップの所定のエッジ部に保護膜であるワニス膜を被覆してその外面を曲面状に形成した非接触型ID識別装置を製造することができる。
【0018】
本発明の5の非接触型ID識別装置の製造方法によれば、容易にICチップの所定のエッジ部に保護膜である接着剤膜を被覆してその外面を曲面状に形成した非接触型ID識別装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、マイクロプロセッサを含むICチップを内蔵し、該ICチップと外部のリーダ装置との間の電力の授受及び情報の交換をアンテナコイルを介して行うID識別装置に於いて、該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部が接する該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成した非接触型ID識別装置、及びこれを製造する製造方法であって、該ID識別装置のICチップのコイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階で、少なくとも該ICチップのエッジ部に保護膜用流動体を付着させ、次いで該ICチップに付着した保護膜用流動体を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成する非接触型ID識別装置の製造方法である。
【0020】
前記非接触型ID識別装置の保護膜は、該ICチップの所定のエッジ部を被覆してその外面を曲面上に構成し得る適当な材質の素材を用いて構成することができる。例えば、絶縁ワニス等の絶縁性を持った塗料類や絶縁性の種々の接着剤などを用いることができる。これらを所定のエッジ部に配して硬化させ、その外面を曲面状に構成する保護膜とするものである。
【0021】
以上のエッジ部を保護膜で被覆した非接触型ID識別装置の製造方法を更に詳しく説明すると、次の通りである。
【0022】
前記ICチップのエッジ部への保護膜用流動体の付着は、既述のように、アンテナコイルのリード部をICチップのコイル接続用端子に接続した段階で行う。該リード部の該端子への接続方法は確実に接合できれば特定のそれに限定されず、半田付けによる接合、超音波による接合、或いはレーザを用いた接合、その他の接合を自由に採用することが可能であるが、アンテナコイルを銅電線で構成し、その延長部であるリード部を最外層が金で構成されたコイル用端子上に載せ、該リード部上から加熱しながら加圧し、これによって両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層を形成させることにより、両者の信頼性の高い接続を確保することとするのが好ましい。
【0023】
前記保護膜用流動体は、前記のように、例えば、溶剤で希釈して適切な粘度に調整した絶縁ワニス等の絶縁塗料や流動性の高い適正な粘度に調整してある接着剤を採用することができる。この保護膜用流動体は、十分な流動性を確保し得、流動状態でICチップのエッジ部に付着可能、即ち、ICチップに対して適切な濡れ性を持ち、乾燥させること、熱を加えること、或いは紫外線を照射すること等のICチップやアンテナコイルに損傷を加えない手段で硬化させることが可能な種々の材料を自由に採用することができる。
【0024】
前記保護膜用流動体の前記ICチップのエッジ部への付着は、その上に位置するリード部の上から該保護膜用流動体を滴下することで行うことも可能であるが、該保護膜用流動体を入れた容器中に該ICチップを浸漬することで行うこともできる。この場合、該保護膜用流動体は、同時に前記エッジ部以外の部位にも広く付着することになるが、特に不都合ではない。
【0025】
前記保護膜用流動体は、この場合、一定程度以下の粘度であることが必要である。例えば、該保護膜要流動体は、アンテナコイルのリード部とこれが接するエッジ部との間に進入できる必要があり、それが可能なだけ低粘度である必要がある訳である。該保護膜用流動体の粘度はこのような観点から調整する。
【0026】
前記保護膜用流動体として絶縁ワニスを用いた場合は、該絶縁ワニスを溶剤で希釈して使用することになる。ICチップの所定のエッジ部への付着は、前記滴下やワニス液中へのICチップの浸漬のいずれでも採用可能である。前記保護膜用流動体として絶縁性の接着剤を採用した場合も同様である。或いは、当初から必要な流動性を持った絶縁性の接着剤を採用する。
【0027】
前記保護膜用流動体として絶縁ワニスを用い、溶剤で前記のような粘度に希釈したワニス液を作った場合は、ICチップを該ワニス液中に浸漬してそのエッジ部にこれを付着させる手段又はエッジ部上にワニス液を滴下してこれを付着させる手段のいずれも不都合なく採用可能である。前者の場合はワニス液中にICチップを一瞬沈めれば良い。後者の場合は、適量の液滴を前記リード部の上から滴下させるのみで良い。絶縁ワニスを無駄にしない観点からは後者の方が都合が良いが、前者の方が作業が簡単で確実にワニス液の付着ができる。
【0028】
前記保護膜用流動体として絶縁性の接着剤を用い、溶剤で前記のような粘度に希釈した接着剤液を作る場合も、上記の絶縁ワニスと同様に用いることができる。絶縁性の接着剤には当初より必要な粘度乃至流動性を持ったそれが提供されており、その場合には、希釈の必要性がない。そのまま使用することができる。
【0029】
前記保護膜用流動体を前記ICチップのエッジ部に付着させた後は、それが乾燥して硬化するタイプのものである場合は、該ICチップは剥離紙のような保護膜用流動体をはじく性質のシート状部材の上に載せて乾燥硬化させる。よりスピーディに乾燥させたい場合は、乾燥機に入れて乾燥処理して硬化させる。保護膜用流動体が紫外線で硬化するタイプのそれである場合には、紫外線を照射して硬化させる。例えば、ブラックライトを用いて一定時間紫外線を照射することで硬化させる。また加熱して硬化させ得るタイプのそれである場合は加熱炉に入れて必要な温度に加熱して硬化させる。勿論、ICチップに損傷を生じない温度以下、加熱時間以下での加熱処理可能であることが条件である。
【0030】
前記保護膜用流動体として絶縁ワニスを用いた場合は、その性質に応じて、乾燥硬化させ、加熱硬化させ、或いは紫外線を照射して硬化させることができる。乾燥硬化させる場合は、乾燥機に装入して行う。乾燥機では、当然、蒸発した溶剤成分の排気を行う。勿論このような乾燥硬化は、常温の室内に放置して自然乾燥させることで行うことも可能である。加熱硬化させる場合は、絶縁ワニスの性質に応じて、例えば、110〜130℃に加熱し、これを1時間程度継続して加熱硬化させる。
【0031】
絶縁ワニスが紫外線で硬化するタイプのものである場合は、剥離紙等の該絶縁ワニスを弾くタイプのシート材上に載せた上で、そのまま乾燥室に装入し、その中でブラックライト等の紫外線照射手段で紫外線を照射して硬化させる。
【0032】
前記保護膜用流動体として絶縁性の接着剤を用いた場合も以上の絶縁ワニスを用いた場合と同様である。それが熱硬化型である場合は、加熱炉に入れて加熱硬化させ、乾燥硬化型である場合は、乾燥炉に入れて硬化させ、或いは、乾燥室に装入して一定時間放置し、その間に乾燥硬化させることも可能である。紫外線硬化型であれば、紫外線照射手段で紫外線を照射して硬化させる。
【0033】
こうして対象のICチップには、その該当するエッジ部にこれを被覆する保護膜(ワニス膜又は接着剤膜等)による曲面が形成され、その後の種々の加工処理によっても、該エッジ部上に位置するアンテナコイルのリード部の絶縁皮膜に損傷を生じるようなことはなくなる。このICチップとこれに接続したアンテナコイルは、一般の工程に従ってその後、シート状その他の種々の態様の被覆が施されたものとなる。
【実施例1】
【0034】
非接触型ID識別装置の構成要素である巻線型のアンテナコイル1を銅電線を用いて作成し、図1に示すように、そのリード部1a、1bを他の構成要素であるICチップ2のコイル接続用端子2a、2bに接続したもの(裸の状態の非接触型ID識別装置)を多数用意しておく。アンテナコイル1の作成は既存の公知の方法によって行い、ICチップ2のコイル接続用端子2a、2bへのアンテナコイル1のリード部1a、1aの接合も既存の公知の方法で行った。なお、このときのICチップ2のエッジ部2cは、図2に示すとおり、明瞭な角部となっており、かつ多くの場合図示しない微細なバリが出ていて、アンテナコイル1のリード部1a、1bの被覆は該エッジ部2cへの接触によって損傷を受ける虞がある状態となっている。
【0035】
他方、この実施例1では、前記保護膜用流動体として熱硬化性の絶縁ワニスを用意した。これは、溶剤(シンナー)で希釈して粘度を調整した。この絶縁ワニス液の粘度は、内径が19mm、深さが28.5mmで、底部に直径2mmの底部測定口を開口した測定容器に上端開口部までいっぱいに該絶縁ワニス液を入れ、その底部測定口から自然流下でその全量が5〜6秒の範囲内で流出完了となるように調整した。このように粘度を調整した絶縁ワニス液に硬化剤を添加した上で上部開口の広口容器に入れた。
【0036】
前記アンテナコイル1を接続したICチップ2は、上記広口容器に入れた絶縁ワニス液中に順次沈め、すぐに引き上げ、剥離紙上に載せる。剥離紙上のICチップ2が100個になったところで、順次、加熱炉中に該剥離紙に載せた状態のままで装入し、加熱温度110〜130℃で、60分間この加熱を継続させ、その後取り出した。なお加熱炉では蒸発した溶剤成分を排気するのは云うまでもない。これを繰り返して1000個の加熱硬化処理を行った。
【0037】
このときのICチップ2のエッジ部2cは、図3(a)、(b)に示すとおり、その角部が絶縁ワニス膜3に被覆されて曲面状となっており、該アンテナコイル1のリード部1a、1bに元々付されている被覆が該エッジ部2cに接触しても損傷を受ける虞は無くなっている。なお、この実施例1では、絶縁ワニス膜3はICチップ2の他の部位及び該リード部1a、1bを含むアンテナコイル1全体をも覆うようになっているが、それ自体には何の不都合もない。
【0038】
取り出した1000個のアンテナコイル1を接続したICチップ2は、その後、図4及び図5(a)、(b)に示すように、いずれも二枚のPET製のシート4、4の間で挟持状態にする加工をした。これはホットメルトタイプの接着剤シートの上に処理済みのアンテナコイル1を接続したICチップ2を載せ、その接着剤シートと処理済みのアンテナコイル1を接続したICチップ2とを該二枚のシート4、4で挟んだ上で、その両側から加熱しつつ所定の圧力を加えて両者を接合したものである。こうして裸の状態から被覆を施した小円盤状の非接触型ID識別装置となる。
【0039】
この後、以上の1000個の非接触型ID識別装置の通信テストを行ったところ、全てが良好に通信可能であった。ICチップ2のコイル接続用端子2a、2bにアンテナコイル1のリード部1a、1bを接続しただけのものについて、同様に、二枚のシート4、4の間に挟持状態に加工した場合には、通信不能のものが発生する確率は約10%であるから、劇的にその問題点が解消されたことは明らかである。前記エッジ部2cが絶縁ワニス膜3で被覆され、アンテナコイル1のリード部1a、1bの被覆が前者の角部のバリで損傷を加えられる可能性が無くなったためであると理解できる。
【実施例2】
【0040】
この実施例2は、保護膜用流動体として、実施例1の絶縁ワニスに代えて絶縁性接着剤を用意した。この種の絶縁性接着剤には、種々の粘度のそれが用意されているので、熱硬化性の液状エポキシ接着剤を採用することにした。この液状エポキシ接着剤は、その粘度が実施例1の絶縁ワニス液と同等のそれ、即ち、内径が19mm、深さが28.5mmで、底部に直径2mmの底部測定口を開口した測定容器に上端開口部までいっぱいに該液状エポキシ接着剤を入れた場合、その底部測定口から自然流下でその全量が5〜6秒の範囲内で流出完了となるそれを採用した。この液状エポキシ接着剤は瓶状容器に入れておくこととした。
【0041】
実施例1と同様に用意したアンテナコイルを接続したICチップ12を剥離紙上に100個ずつ配列し、順次、スポイトを用い、前記瓶状容器から吸い込んだ液状エポキシ接着剤を、該ICチップ12上に滴下する。本来は、アンテナコイルのリード部11aが通過するエッジ部12c付近、即ち、図6中矢印Pで示す付近のみに滴下すれば十分であるが、この種のICチップ12は非常に小型であり、人が手作業で行う操作では、該ICチップ12全体にその上方から滴下する方が能率的である。またこれで特別に不都合は生じない。
【0042】
滴下した接着剤液はリード部11aとICチップ2のエッジ部12c表面との間にも入り込んで濡らした状態となる。1セットの100個について滴下操作が完了したところで、順次、100℃に昇温してある加熱炉に剥離紙に載せたまま装入し、15分の経過後に取り出した。なお加熱炉では蒸発した溶剤成分は排気した。これを繰り返して1000個の加熱処理を行った。こうして図7(a)、(b)に示すように、ICチップ12のエッジ部12c付近を含む全体及びこれに近接するアンテナコイルのリード部11aに付着した液状エポキシ接着剤は硬化し、以上の部位を被覆する接着剤膜13となった。
【0043】
取り出した1000個のアンテナコイルを接続したICチップ12は、その後、いずれも、実施例1のそれと同様に、二枚のPET製のシートの間に挟持状態に加工した。これは以上の二枚のシートの間にホットメルトタイプの接着剤シートと処理済みのアンテナコイルを接続したICチップ12とを挟んで、両側から加熱しつつ所定の圧力を加えて両者を接合固定したものである。こうして裸の状態から被覆を施した小円盤状の非接触型ID識別装置となる。
【0044】
この後、以上の1000個の非接触型ID識別装置の通信テストを行ったところ、実施例1のそれらと同様に、全てが良好に通信可能であった。ICチップのコイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続しただけのものについて、同様に、二枚のシートの間に挟持状態に加工した場合には、通信不能のものが発生する確率は約10%であるから、劇的にその問題点が解消されたことは明らかである。前記エッジ部12cが接着剤膜13で被覆され、アンテナコイルのリード部11aの被覆が前者の角部のバリで損傷を加えられる可能性が無くなったためであると理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の被覆無し状態のICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイル(非接触型ID識別装置)の平面説明図。
【図2】実施例1のICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイルのリード部との拡大側面図。
【図3】(a)は、実施例1のワニスを付着させたICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイル(非接触型ID識別装置)のリード部との拡大側面図、(b)は、(a)のX部の拡大図。
【図4】実施例1の被覆を施したICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイル(非接触型ID識別装置)の平面説明図。
【図5】(a)は、実施例1の被覆を施したICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイル(非接触型ID識別装置)の平面説明図、(b)は、(a)のY部の拡大図。
【図6】実施例2のICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイルのリード部との拡大側面図。
【図7】(a)は、実施例2の接着剤を付着させたICチップとそのコイル接続用端子に接続したアンテナコイル(非接触型ID識別装置)のリード部との拡大側面図、(b)は、(a)のZ部の拡大図。
【符号の説明】
【0046】
1 アンテナコイル
1a、1b アンテナコイルのリード部
2 ICチップ
2a、2b コイル接続用端子
2c ICチップのエッジ部
3 ワニス膜
4 シート
11a アンテナコイルのリード部
12 ICチップ
12a コイル接続用端子
12c ICチップのエッジ部
13 接着剤膜
P 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプロセッサを含むICチップを内蔵し、該ICチップと外部のリーダ装置との間の電力の授受及び情報の交換をアンテナコイルを介して行うID識別装置に於いて、
該ICチップのコイル接続用端子に接続するアンテナコイルのリード部が接する該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成した非接触型ID識別装置。
【請求項2】
請求項1の非接触型ID識別装置の製造方法であって、該ID識別装置のICチップのコイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階で、少なくとも該ICチップのエッジ部に保護膜用流動体を付着させ、次いで該ICチップに付着した保護膜用流動体を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜で被覆して曲面状に形成する非接触型ID識別装置の製造方法。
【請求項3】
前記保護膜用流動体の粘度を、前記アンテナコイルのリード部と前記ICチップの該リード部に接するエッジ部との間に進入可能な程度に調整することとした請求項2の非接触型ID識別装置の製造方法。
【請求項4】
前記保護膜用流動体として溶剤で希釈して流動状態にしたワニス液を用い、該ワニス液を、コイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階の前記ICチップのエッジ部に付着させ、次いで該ICチップに付着した該ワニス液を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜としてのワニス膜で被覆して曲面状に形成する請求項2又は3の非接触型ID識別装置の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜用流動体として流動状態の接着剤液を用い、該接着剤液を、コイル接続用端子にアンテナコイルのリード部を接続した段階の前記ICチップのエッジ部に付着させ、次いで該ICチップに付着した該接着剤液を硬化させることにより、該ICチップのエッジ部を保護膜としての接着剤膜で被覆して曲面状に形成する請求項2又は3の非接触型ID識別装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−129024(P2009−129024A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300872(P2007−300872)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(594133858)スターエンジニアリング株式会社 (20)
【Fターム(参考)】