説明

非接触式変位制御装置

【課題】音圧によって制御対象物の振動を抑制し、あるいは発散させることを可能とすることである。
【解決手段】非接触式変位制御装置10は、ベース12と、ベース上を移動可能な2つの移動台14,16と、2つの移動台14,16のそれぞれに搭載された2つの超音波音源である第1音圧発生源20と第2音圧発生源24と、これらにそれぞれ個別に接続される超音波発生回路22,26と、2つの移動台14,16の移動制御と超音波発生回路22,26の作動制御とを行う制御部30を含んで構成される。制御部30は、制御対象物である振り子8に対し、第1音圧発生源20と、第2音圧発生源24とから定在波による音圧を与え、その差動音圧を制御して、振り子8の振動制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触式変位制御装置に係り、特に音圧発生源を用いて制御対象物の変位を非接触式で制御する非接触式変位制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象物を非接触式で保持する方法は、一般的に浮遊法と呼ばれ、音波、ガスジェット、磁場、電磁波、静電、及びこれらを組み合わせた方法が知られている。その中で、磁場、電磁波、静電を用いるものは、制御対象物に制限があり、ガスジェットを用いるものは、重力とのバランスを利用する必要がある。これに対し、音波を用いる方法はそのような制限が少ないので、例えば、宇宙空間における大気環境中で溶融液を保持し、混合する非接触式のるつぼ、いわゆる宇宙るつぼに応用できる等の期待が寄せられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波浮上力の制御方法について、超音波振動子のホーン上に置いたガラス円盤の浮上位置を検出する変位センサを設け、変位センサの検出に応じて超音波振動子に印加する高周波電圧のオン・オフすることが開示されている。ここでは、制御基準浮上高さを設定し、この浮上高さを下回ると高周波電圧をオンし、上回るとオフすることで、浮上高さの初期振動を収束させることが述べられている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−253528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、変位センサを用いて、超音波の音圧によって浮上させた制御対象物の浮上量を制御し、また、浮上直後の初期振動を収束させることが述べられている。
【0006】
本発明の目的は、新しい構成によって、音圧によって制御対象物の振動を抑制し、あるいは発散させることを可能とする非接触式変位制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る非接触式変位制御装置は、制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、第1間隔距離と第2間隔距離とを可変する制御部と、を備え、制御部は、第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が正となるように、第1波長と第2波長とに基づいて、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を減衰させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る非接触式変位制御装置は、制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、第1間隔距離と第2間隔距離とを可変する制御部と、を備え、制御部は、第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が負となるように、第1波長と第2波長とに基づいて、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を発散させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る非接触式変位制御装置は、制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、第1波長と第2波長とを可変する制御部と、を備え、制御部は、第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が正となるように、第1間隔距離と第2間隔距離とに基づいて、第1波長と第2波長とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を減衰させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る非接触式変位制御装置は、制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、第1波長と第2波長とを可変する制御部と、を備え、制御部は、第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が負となるように、第1間隔距離と第2間隔距離とに基づいて、第1波長と第2波長とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を発散させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る非接触式変位制御装置において、第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、第1波長λは、第2波長と同じであり、第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、制御部は、第1間隔距離と第2間隔距離であるyを、nを0以上の正の整数として、n(λ/2)<y<n(λ/2)+(λ/4)の範囲に設定することが好ましい。
【0012】
本発明に係る非接触式変位制御装置において、第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、第1波長λは、第2波長と同じであり、第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、制御部は、第1間隔距離と第2間隔距離であるyを、nを0以上の正の整数として、n(λ/2)+(λ/4)<y<n(λ/2)+(λ/2)の範囲に設定することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る非接触式変位制御装置において、第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、第1波長λは、第2波長と同じであり、第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、制御部は、第1波長と第2波長であるλを、nを0以上の正の整数として、4y/(2n+1)<λ<2y/nの範囲に設定することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る非接触式変位制御装置において、第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、第1波長λは、第2波長と同じであり、第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、制御部は、第1波長と第2波長であるλを、nを0以上の正の整数として、2y/(n+1)<λ<4y/(2n+1)の範囲に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の少なくとも1つにより、制御対象物に対し、第1音圧発生源と、第2音圧発生源とから定在波による音圧を与え、その差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、第1波長と第2波長、第1間隔距離と第2間隔距離との設定によって、等価バネ定数を変化させる。
【0016】
制御対象物の平衡位置における振動を減衰させる場合には、等価バネ定数が正となるように、第1波長と第2波長、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定する。また、制御対象物の平衡位置における振動を発散させる場合には、等価バネ定数が負となるように、第1波長と第2波長、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定する。
【0017】
上記のように、本発明に非接触式変位制御装置によれば、音圧によって制御対象物の振動を抑制し、あるいは発散させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、典型的な構成として、第1音圧発生源が、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、第1波長λが、第2波長と同じであり、第1間隔距離yが、第2間隔距離と同じである例について計算等を説明する。これは、計算等の説明のための例示であり、第1音圧発生源と第2音圧発生源とがそれぞれ制御対象物に対し音圧に基づく定在波を形成する関係にあればよく、音波の放射方向、音波の波長または周波数、音源と制御対象物との間の間隔距離は、等価バネ定数の設定のためにそれぞれを変更してよい。また、以下で説明する波長、間隔距離等は説明のための一例であって、目的に応じ、これ以外の値であってもよい。
【0019】
図1は、非接触式変位制御装置10の構成を示す図である。ここでは、非接触式変位制御装置10の構成要素ではないが、制御対象物としての振り子8が示されている。この振り子8は、両端に音圧を受け止め互いに平行である平坦面を有する金属錘と、これを周囲の4点で摩擦の少ない状態で吊り下げる細い4本の金属ワイヤで構成されている。
【0020】
非接触式変位制御装置10は、ベース12と、ベース上を移動可能な2つの移動台14,16と、2つの移動台14,16のそれぞれに搭載された2つの超音波音源である第1音圧発生源20と第2音圧発生源24と、これらにそれぞれ個別に接続される超音波発生回路22,26と、2つの移動台14,16の移動制御と超音波発生回路22,26の作動制御とを行う制御部30を含んで構成される。
【0021】
ベース12は、上記の2つの移動台14,16の移動を案内する基台で、例えば、案内レール付定盤等を用いることができる。2つの移動台14,16の移動を案内する案内レールは、その案内中心軸を一致させた2つのガイドレール等を用いることができる。2つのガイドレールを接続し、そのガイドレール上を2つの移動台14,16が共に移動できるものとしてもよい。
【0022】
2つの移動台14,16は、ベース12に設けられ、制御部30の制御の下で案内レールに沿って移動駆動される音圧発生源移動台である。例えば、案内レールに沿って直線的に移動駆動されるリニアモータ等を用いることができる。2つの移動台14,16は、上記のように、案内中心軸を一致させた2つの案内レール上をそれぞれ移動するので、その上に搭載される第1音圧発生源20と第2音圧発生源24とを、案内中心軸上で向かい合わせて移動駆動する機能を有することになる。2つの移動台14,16の移動方向として、図1にはx方向が示されている。x方向は、案内中心軸の方向である。
【0023】
第1音圧発生源20と第2音圧発生源24とは、基本的に同じ構成を有し、超音波を放射する音源で、具体的には、振動子の超音波振動を大気中に放射するものである。超音波を放射する振動子としては、例えば圧電素子を用いることができる。
【0024】
上記のように、第1音圧発生源20と第2音圧発生源24とは、ベース12の案内中心軸上で相互に対向して配置されるが、具体的には、第1音圧発生源20の超音波放射面の放射中心軸と第2音圧発生源24の超音波放射面の放射中心軸とが同一軸上になるように、相互に対向して配置される。そして、第1音圧発生源20の超音波放射面と第2音圧発生源24の超音波放射面とのちょうど中間の位置に、振り子8が配置される。
【0025】
具体的には、振り子8の両端の平坦面のそれぞれから測って、第1音圧発生源20の超音波放射面までの距離である第1間隔距離y1と、第2音圧発生源24の超音波放射面までの距離である第2間隔距離y2とが同じ距離になるように、第1音圧発生源20の位置と、第2音圧発生源24の位置とが設定される。この位置の設定は、制御部30の機能によって、例えば、第1間隔距離y1と第2間隔距離y2とを適当な計測器で計測しながら、移動台14,16をx方向にそれぞれ移動駆動することで行うことができる。
【0026】
超音波発生回路22,26は、上記のように、第1音圧発生源20と第2音圧発生源24とにそれぞれ個別に接続される回路である。第1音圧発生源20に接続される超音波発生回路22は、パルスジェネレータと増幅器とを含んで構成され、第1音圧発生源20から放射される超音波の波長である第1波長λ1と、振幅の大きさ等を設定する機能を有する。第2音圧発生源24に接続される超音波発生回路26も同様にパルスジェネレータと増幅器とを含んで構成され、第2音圧発生源24から放射される超音波の波長である第二
波長λ2と、振幅の大きさ等を設定する機能を有する。
【0027】
制御部30は、2つの移動台14,16に接続され、これらの移動制御と、2つの超音波発生回路22,26に接続され、これらの作動制御を行う機能とを有する。2つの移動台14,16の移動制御は、第1間隔距離y1と第2間隔距離y2とを予め定めた間隔距離とする制御である。2つの超音波発生回路22,26の作動制御は、例えば、第1波長λ1と第2波長λ2とを予め定めた波長とする制御である。
【0028】
制御部30は、制御対象物である振り子8に対し、第1音圧発生源20と、第2音圧発生源24とから定在波による音圧を与え、その差動音圧を制御して、振り子8の振動制御を行う機能を有するものである。差動音圧の制御は、第1波長λ1、第2波長λ2、第1間隔距離y1、第2間隔距離y2の設定によって行われる。そこで、以下に、第1音圧発生源20と振り子8との間の定在波の形成、第2音圧発生源24と振り子8との間の定在波の形成、振り子8に及ぼすそれぞれの音圧、およびその差動音圧について、説明する。以下では、一般式の形式で説明し、必要に応じ、図1の符号を用いるものとする。
【0029】
図2は、第1音圧発生源20と振り子8との間に音波による定在波が形成される様子を説明する模式図である。ここで、第1音圧発生源20からの超音波の波長をλとして、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離がλ/2の整数倍であるときに、超音波の定在波が形成される。図2では、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離がλ/2の10倍となっている。ここで、図2で示す波形は、定在波による音圧の大きさを示しているが、この音圧の周期性は、波長がλ/2である。つまり、波長λを有する音波の定在波による音圧の周期性の波長はλ/2になることになる。
【0030】
このことから、一般的に、制御対象物の受圧面に作用する圧力、すなわち超音波振動子等の振動子から放射される音響放射圧を受ける受圧面に作用する圧力は、振動子表面から受圧面までの距離をzとすると、次の式で近似する事ができる。なお、以下では、受圧面を単位面積として、受圧面に作用する力Fとして示すことにする。
【数1】

ただしπは円周率、λは超音波の波長である。この式の第一項a(z)は進行波による圧力成分によるものであり、距離zに比例してごくゆるやかに減少する。またb(z)は定在波による圧力成分によるものであり、距離zに反比例して急速に減少する、いずれも正の値を持つzの関数である。
【0031】
このような音圧特性を有する振動子である音圧発生源を、制御対象物の受圧面を挟んで対称になるように対向して配置する。受圧面は、実際には制御対象物の両端面であるが、計算上は受圧面の厚さを無視して1つの面として左右から音圧を受けるものとすることが便利であるので、以下の計算では、受圧面を仮想的に1つの面とする。制御対象物は、図1の例では振り子8である。
【0032】
このとき、受圧面の静止つりあい位置、すなわち、初期の平衡位置を原点(x=0)とし、原点から振動子表面までの間隔距離(ギャップ距離)をyとおく。そして受圧面のつりあい位置からの横変位をxとする。また力Fおよび変位xはいずれも右向きを正とおく。
【0033】
右振動子表面から受圧面に与えられる力Frと、左振動子表面から受圧面に与えられる力Flとは、(1)式のzをそれぞれz=y−x(右振動子)、z=y+x(左振動子)とおくことで以下のように表わされる。なお、右振動子、左振動子とは、図1の例で、それぞれ第2音圧発生源24、第1音圧発生源20に相当する。
【数2】

【数3】

【0034】
したがって、受圧面に作用する力(受圧面を単位面積として、2つの振動子の音圧の差動圧力F)は(2)(3)式の合計として次式で表される。
【数4】

【0035】
ここで、xを微小とし、
【数5】

と近似すると、(4)式は以下のように簡略化できる。
【数6】

【0036】
ここで、加法定理
【数7】

により、(5)式の[ ]内は更に
【数8】

と簡略化できることを用いると、(5)式は
【数9】

となる。
【0037】
ここでさらに、xが微小(x<<λ)の仮定およびsin(θ)≒θの近似を用いると、
【数10】

と書くことができる。この式より、図1の系において、対向する振動子である第1音圧発生源20と第2音圧発生源24とにより与えられた差動圧力に対応するFは、受圧面のつりあい位置からの変位xに対して、比例係数
【数11】

により与えられる力、すなわち変位に比例する力
【数12】

を与える特性、いわば「等価ばね」としての特性を有していることになる。
【0038】
ここで注目すべきは、(9)式中の等価ばね定数keqは、「(通常のばねがそうであるように)常に正である」とは限らない、という点である。すなわち、式(8)より明らかに(π、by、λは正だから)、keqの符号はsinの符号によって以下のように変化する。
【数13】

【0039】
すなわち、振動子表面と受圧面の距離(ギャップ距離)yの値がλ/4変化する毎に等価ばね定数の正負が変化する。これを一般式で書くと次のようになる。なお、以下において、n,mは正の整数である。
【数14】

【0040】
また、上記関係を波長λについて書き直すと次のようになる。
【数15】

【0041】
その様子を図3に示す。図3の横軸は、間隔距離y、縦軸は上記の等価バネ定数keqである。このように、等価バネ定数keqは、λ/2の周期で変化し、一例をあげると、y=λ/3のときにkeqは負の値をとり、y=λ/2のときはkeqはゼロとなり、y=7λ/10のときにkeqは正の値をとる。
【0042】
この性質は、そのまま制御対象物である振り子8の振動の制御に利用することができる。いま、振り子8を理想的に受圧面のみとし、受圧面を一つの板のようなものと考えると、その板には板の質量mと加速度による慣性力と、板の速度と空気抵抗係数cによる減衰力と、音響放射圧による差動圧力に対応する力Fが作用する。これら力のつりあいを表わす式(運動方程式)として、
【数16】

が得られる。
【0043】
この式は、keqが正ならば減衰振動、keqが負ならば発散振動、keqが0ならば振動せずに運動が減衰することが知られている。すなわち、ギャップ距離である間隔距離yを超音波の波長λに応じた適当な間隔距離yに設定することで、等価ばね定数keqの正負を任意に設定することができ、これによって受圧する物体の振動を「減衰振動」「発散振動」「振動せずに減衰する」という任意の状態に制御する事が可能となる。以上が差動超音波力を利用した受動的振動制御方法の原理である。
【0044】
次に、図1に説明した構成の作用を具体的に説明する。ここでは、第1音圧発生源20と、第2音圧発生源24とについて、同じ特性の超音波振動子を用い、制御部30によって超音波発生回路22,26を制御して、これらの超音波周波数を28,500Hzとなるようにした。空気中の音速は345m/sであるので、これらから放射される超音波の波長は、いずれもλ=345(m/s)/28,500(Hz)=12.1mmである。
【0045】
図4に、音圧発生源からの距離と、その距離における放射音圧との関係を示す。横軸は、音圧源からの距離、例えば第1音圧発生源20の超音波放射面からの距離で、縦軸は適当な放射エネルギ測定装置で測定した放射音圧に対応する力である。ここでは放射音圧に対応し、単位受圧面が受ける力の大きさが縦軸にとられている。図4においては、音圧発生源からの音圧の周期性は、波長λが約12mmであり、上記の計算と合っていることが示されている。
【0046】
次に、この条件の下で、第1音圧発生源20と制御対象物である振り子8の一方側の受圧面との間の間隔距離yを、第2音圧発生源24と制御対象物である振り子8の他方側の受圧面との間の間隔距離と同じに設定し、この間隔距離yを変化させて、振り子8の変位、すなわち、差動音圧に対応する力による変位を観測した結果を説明する。
【0047】
以下において、共通の条件は次の通りである。すなわち、第1音圧発生源20の超音波周波数は28,500Hz、その波長を第1波長λ1とすると、λ1=12.1mm、第2音圧発生源24の超音波周波数は、28,500Hz、その波長を第2波長λ2とすると、λ2=12.1mmである。以下では、λ1=λ2=λとする。そして、第1音圧発生源20は、制御対象物である振り子8を挟んで第2音圧発生源24と対向して配置され、両音圧放射の中心軸は一致している。換言すれば、振り子8は、第1音圧発生源20からの音圧を図1における左側受圧面で受け、第2音圧発生源24からの音圧を図1における右側受圧面で受け、左側受圧面と右側受圧面とは平行で、これらの受圧面の中心における法線が、第1音圧発生源20の超音波放射の中心軸、第2超音波放射面の中心軸と一致している。また、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離をy1とし、第2音圧発生源24と振り子8との間の間隔距離をy2とすると、y1=y2である。以下では、y1=y2=yとする。
【0048】
図5、図6は、y=8.4mm、すなわち、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離も第2音圧発生源24と振り子8との間の間隔距離も、およそ7λ/10に設定した場合の様子を示す図である。図5は、振り子8の初期平衡位置からの距離と、振り子8が受ける差動音圧に対応する力の大きさとの関係を示す図で、図6は、振り子8の変位の時間変化を示す図である。
【0049】
上記のように、図5において、横軸は振り子8の初期平衡位置からの距離であり、縦軸は振り子8が受ける差動音圧を換算した力である。したがって、上記(9)式で説明したように、(差動音圧に対応する力F)−(距離x)の特性における傾きは、等価バネ定数keqを示すことになる。図5の距離=0付近、すなわち、振り子8の初期平衡位置付近においては、等価バネ定数が正であることが示されている。ここでは、y1=y2=yがおよそ7λ/10に設定されているので、上記説明のn(λ/2)<y<n(λ/2)+(λ/4)におけるn=1に相当し、したがって、上記計算からkeqは正であるとの結果と一致している。
【0050】
正の符号の等価バネ定数を有する振動系は、上記のように減衰振動をすることが知られている。図6は、上記条件のように、y1=y2=yがおよそ7λ/10と設定されたときの振り子8の変位の時間変化を示す図である。このように、振り子8の振動が減衰することが示される。
【0051】
図7、図8は、y=4mm、すなわち、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離も第2音圧発生源24と振り子8との間の間隔距離も、およそλ/3に設定した場合の様子を示す図である。図7は図5に対応する図で、図7の横軸、縦軸は、図5の横軸、縦軸と同じである。図8は、図6に対応する図で、図8の横軸、縦軸は、図6の横軸、縦軸と同じである。
【0052】
図7において、距離=0付近、すなわち、振り子8の初期平衡位置付近においては、等価バネ定数が負であることが示されている。ここでは、y1=y2=yがおよそλ/3に設定されているので、上記説明のn(λ/2)+(λ/4)<y<n(λ/2)+(λ/2)におけるn=0の場合に相当し、したがって、上記計算からkeqは負であるとの結果と一致している。
【0053】
負の符号の等価バネ定数を有する振動系は、上記のように振動が発散することが知られている。図8は、上記条件のように、y1=y2=yがおよそλ/3と設定されたときの振り子8の変位の時間変化を示す図である。このように、振り子8の振動が発散することが示される。
【0054】
図9、図10は、y=6mm、すなわち、第1音圧発生源20と振り子8との間の間隔距離も第2音圧発生源24と振り子8との間の間隔距離も、およそλ/2に設定した場合の様子を示す図である。図9は図5、図7に対応する図で、図9の横軸、縦軸は、図5、図7の横軸、縦軸と同じである。図10は、図6、図8に対応する図で、図10の横軸、縦軸は、図6、図8の横軸、縦軸と同じである。
【0055】
ここでは、y1=y2=yがおよそλ/2に設定されているので、上記説明のy=m(λ/4)におけるm=1の場合に相当し、したがって、上記計算からkeqはゼロであり、振動が発生せず、振動しても減衰することが予想される。
【0056】
実際には、図9に示すように、距離=0付近、すなわち、振り子8の初期平衡位置付近においては、等価バネ定数がゼロを維持せず、図10に示すように、振り子8は若干振動している。これは、制御対象物が重力の影響を受ける振り子8であるため、差動音圧のほかに、重力による復元力が働いており、計算上keqがゼロの状態では、この重力復元力の影響を受けているためと考えることができる。
【0057】
上記では、差動音圧の計算について、λ1=λ2、y1=y2を用いて説明し、これに対応するものとして図5から図10を説明したが、このような条件でなくても、定在波による差動音圧が制御対象物に作用するとき、その差動音圧についての等価バネ定数の符号の変化を利用することで、制御対象物の振動を制御することができる。したがって、λ1=λ2、y1=y2の条件以外でも、制御部によって、λ1とλ2をそれぞれ独立に制御し、あるいはy1とy2を独立に制御して、その条件の下での等価バネ定数を正、または負とすることで、制御対象物の振動を制御できる。λ1、λ2、y1、y2を組み合わせて等価バネ定数の符号を設定制御するものとしてもよい。
【0058】
また、第1音圧発生源からの音圧の振幅と、第2音圧発生源の音圧の振幅とを可変しても、上記式(4)以下を変更することで、差動音圧に対応する力を求めることができ、これに基づいて、等価バネ定数の符号を設定制御することもできる。超音波周波数制御、間隔距離制御によって制御対象物の振動制御を行うものを、受動的振動制御と呼ぶことにすれば、超音波振幅制御によって制御対象物の振動制御を行うものを、能動的振動制御と呼ぶことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る非接触式変位制御装置は、比較的軽量でかつ非接触な支持あるいは保持を必要とする分野、例えば、クリーンルーム内でのウェファ搬送、薄板連続鋼板メッキ工程での鋼板の振動制御、宇宙空間における大気環境中で非接触式に溶融液を保持し、あるいは混合する宇宙るつぼ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る実施の形態における非接触式変位制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態について、第1音圧発生源と振り子との間に音波による定在波が形成される様子を説明する模式図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、等価ばね定数keqの特性を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、音圧発生源からの距離と、その距離における放射音圧との関係を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、y=8.4mm(およそ7λ/10)の場合に、振り子の初期平衡位置からの距離と、振り子が受ける差動音圧の大きさとの関係を示す図である。
【図6】図5の条件において、振り子の変位の時間変化を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、y=4mm(およそλ/3)の場合に、振り子の初期平衡位置からの距離と、振り子が受ける差動音圧の大きさとの関係を示す図である。
【図8】図7の条件において、振り子の変位の時間変化を示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、y=6mm(およそλ/2)の場合に、振り子の初期平衡位置からの距離と、振り子が受ける差動音圧の大きさとの関係を示す図である。
【図10】図9の条件において、振り子の変位の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 非接触式変位制御装置、12 ベース、14,16 移動台、20 第1音圧発生源、22,26 超音波発生回路、24 第2音圧発生源、30 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、
第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、
第1間隔距離と第2間隔距離とを可変する制御部と、
を備え、
制御部は、
第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が正となるように、第1波長と第2波長とに基づいて、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を減衰させることを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項2】
制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、
第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、
第1間隔距離と第2間隔距離とを可変する制御部と、
を備え、
制御部は、
第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が負となるように、第1波長と第2波長とに基づいて、第1間隔距離と第2間隔距離とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を発散させることを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項3】
制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、
第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、
第1波長と第2波長とを可変する制御部と、
を備え、
制御部は、
第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が正となるように、第1間隔距離と第2間隔距離とに基づいて、第1波長と第2波長とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を減衰させることを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項4】
制御対象物に対し、任意に設定される第1方向に沿い、任意に設定される第1間隔距離で配置され、任意に設定される第1波長の音波を放射する第1音圧発生源と、
第1音圧発生源とは異なる第2方向に沿って、任意に設定される第2間隔距離で配置され、任意に設定される第2波長の音波を放射する第2音圧発生源と、
第1波長と第2波長とを可変する制御部と、
を備え、
制御部は、
第1音圧発生源と制御対象物との間に形成される第1定在波による音圧と、第2音圧発生源と制御対象物との間に形成される第2定在波の音圧との差による差動音圧について、制御対象物の平衡位置からの変位に対する比例係数を等価バネ定数として、等価バネ定数が負となるように、第1間隔距離と第2間隔距離とに基づいて、第1波長と第2波長とを設定し、制御対象物の平衡位置における振動を発散させることを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の非接触式変位制御装置において、
第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、
第1波長λは、第2波長と同じであり、
第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、
制御部は、
第1間隔距離と第2間隔距離であるyを、nを0以上の正の整数として、n(λ/2)<y<n(λ/2)+(λ/4)の範囲に設定することを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の非接触式変位制御装置において、
第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、
第1波長λは、第2波長と同じであり、
第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、
制御部は、
第1間隔距離と第2間隔距離であるyを、nを0以上の正の整数として、n(λ/2)+(λ/4)<y<n(λ/2)+(λ/2)の範囲に設定することを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項7】
請求項3に記載の非接触式変位制御装置において、
第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、
第1波長λは、第2波長と同じであり、
第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、
制御部は、
第1波長と第2波長であるλを、nを0以上の正の整数として、4y/(2n+1)<λ<2y/nの範囲に設定することを特徴とする非接触式変位制御装置。
【請求項8】
請求項4に記載の非接触式変位制御装置において、
第1音圧発生源は、制御対象物を挟んで第2音圧発生源と対向する位置に配置され、
第1波長λは、第2波長と同じであり、
第1間隔距離yは、第2間隔距離と同じであり、
制御部は、
第1波長と第2波長であるλを、nを0以上の正の整数として、2y/(n+1)<λ<4y/(2n+1)の範囲に設定することを特徴とする非接触式変位制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−75800(P2009−75800A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243298(P2007−243298)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】