説明

非接触通信媒体読取り補助具

【課題】
コンクリート体の内部に非接触通信媒体を配置した場合でも、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能な非接触通信媒体読取り補助具を提供すること。
【解決手段】
コンクリート体の内部に埋設された非接触通信媒体と、該非接触通信媒体に記録された情報を読み取るか又は該非接触通信媒体に情報を記録させるリーダ/ライタとの間に配置され、該非接触通信媒体と該リーダ/ライタとの間の通信の感度を上げる円筒形状の補助具であり、該コンクリート体の表面に設置して使用することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触通信媒体読取り補助具に関し、特に、非接触通信媒体のうち、2.45GHz帯の電波を通信手段として用いるものについて、コンクリートなど誘電率の高い材料の内部に埋設された非接触通信媒体を読み取る場合の通信感度を改善するための補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品自体やコンクリートの打設に関わる製造工程上の履歴等の各種データを記録した非接触通信媒体をコンクリート体に埋め込み、必要に応じて、当該非接触通信媒体に記録された情報を読み取り、又は当該非接触通信媒体に情報を記録することで、コンクリート体の製品管理を行うことが提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
非接触通信媒体(RFIDタグ)は、通常、物品やこれを格納した容器の表面に貼付され好適に利用される。用途としても、物流や在庫管理、入退出管理などが最も一般的である。
【0004】
このような非接触通信媒体は、空気中での電波のやり取りを主に想定しているため、一般的に製品の表面に露出するように配置し、利用される。非接触通信媒体に記録された情報を読み取りや、当該非接触通信媒体に情報を記録する際には、リーダ/ライタと呼ばれる送受信機が利用される。リーダ/ライタから発する電波(直線偏波や円偏波)は、リーダ/ライタに備えられたアンテナ部から照射され、空気中を経由して非接触通信媒体に到達する。到達した電波により非接触通信媒体に起電力が生じ、回路を起動させ、次いで、チップに記録された情報を発信することにより、リーダ/ライタと情報の伝達を実現する。
【0005】
リーダ/ライタと非接触通信媒体との間が空気層のみである場合には、リーダ/ライタから発せられた電波(直線偏波・円偏波)は、程度の大小はあれ、放射状に照射される。また、非接触通信媒体から戻って来る電波も同様に、放射状に照射される。
【0006】
近年、各種トレーサビリティを実現するために、取り間違え、あるいは悪意を含むすり替えなどを防止する目的で、物品内部に非接触通信媒体を埋め込む方法が検討され始めている。特に、特許文献1のようにコンクリート体の内部に非接触通信媒体を埋め込むものもある。
【0007】
非接触通信媒体を物質内に埋め込んだ場合には、空気層との間において誘電率の異なる界面ができることになる。電波の速度は、主に、通過する物質の誘電率によって変化するため、誘電率の異なる2層(ここでは、空気層と非接触通信媒体を埋め込んだ物質)を電波が通過する際に、電波の屈折が発生する。
【0008】
空気の誘電率は約1であり、真空中に次ぎ、最も誘電率が低い。このため、非接触通信媒体から放射される電波は、物質と空気との界面において、界面の延長線上に向いて開いていく方向に屈折する。その結果、リーダ/ライタに届く電波強度が低下し、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信距離が低下する一因になる。特に、コンクリート体のように高い誘電率を有する場合には、この問題は顕著なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−137284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、コンクリート体の内部に非接触通信媒体を配置した場合でも、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能な非接触通信媒体読取り補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、コンクリート体の内部に埋設された非接触通信媒体と、該非接触通信媒体に記録された情報を読み取るか又は該非接触通信媒体に情報を記録させるリーダ/ライタとの間に配置され、該非接触通信媒体と該リーダ/ライタとの間の通信の感度を上げる円筒形状の補助具であり、該コンクリート体の表面に設置して使用することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の非接触通信媒体読取り補助具において、該円筒形状の高Xさが5〜160mmであり、直径Yが80〜160mmであることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の非接触通信媒体読取り補助具においては、該円筒形状の高さX(mm)及び直径Y(mm)は、以下の式1及び式2、又は式3及び式4のいずれかを満足することを特徴とする。
Y≧−1.25X+178.75(80≦X<143)・・・・(式1)
Y≦−1.25X+218.75(80≦X<175)・・・・(式2)
または
Y≧−1.25X+268.75(100≦X≦165)・・・・・・(式3)
Y≦−1.25X+308.75(100≦X≦165)・・・・・・(式4)
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の非接触通信媒体読取り補助具において、該円筒形状の内側又は外側の少なくとも一方の面には、金属層が形成されていることを特徴とする。なお、本発明における補助具は、全て金属材料で形成する場合を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明により、コンクリート体の内部に埋設された非接触通信媒体と、該非接触通信媒体に記録された情報を読み取るか又は該非接触通信媒体に情報を記録させるリーダ/ライタとの間に配置され、該非接触通信媒体と該リーダ/ライタとの間の通信の感度を上げる円筒形状の補助具であり、該コンクリート体の表面に設置して使用することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具であるため、コンクリート体の表面(空気層との界面)に沿って逃げていく電波を、補助具により捕捉・はね返し、リーダ/ライタの方向へ効果的に導くことが可能となる。これにより、コンクリート体の内部に非接触通信媒体を配置した場合でも、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能となる。
【0016】
請求項2に係る発明により、補助具の円筒形状の高さが5〜160mmであり、直径が80〜160mmであるため、効果的に非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能となる。
【0017】
請求項3に係る発明により、補助具の円筒形状の高さX(mm)及び直径Y(mm)は、上述した式1及び式2、又は式3及び式4のいずれかを満足するため、効果的に非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能となる。
【0018】
請求項4に係る発明により、補助具は、円筒形状の内側又は外側の少なくとも一方の面には、金属層が形成されているため、非接触通信媒体が放射する電波を効果的にリーダ/ライタに導くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の非接触通信媒体読取り補助具に関する使用方法又は試験方法を説明する図である。
【図2】本発明の非接触通信媒体読取り補助具を示す概略図である。
【図3】本発明の非接触通信媒体読取り補助具に関する試験方法を実施している様子を示す写真である。
【図4】本発明の非接触通信媒体読取り補助具に関する試験方法の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について好適例を用いて詳細に説明する。
本発明は、図1に示すように、コンクリート体の内部に埋設された非接触通信媒体と、該非接触通信媒体に記録された情報を読み取るか又は該非接触通信媒体に情報を記録させるリーダ/ライタとの間に配置され、該非接触通信媒体と該リーダ/ライタとの間の通信の感度を上げる円筒形状の補助具であり、該コンクリート体の表面に設置して使用することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具である。
【0021】
具体的には、図2に示すように、非接触通信媒体読取り補助具は、円筒形状の内側又は外側の少なくとも一方の面には、アルミニウム又は鉄等の金属層を有している。例えば、塩化ビニル等の樹脂製の円筒形状の基体に、その内側にアルミニウム等の金属シートを張り付けている。当然、円筒形状の補助具全体を金属製のリング部材として形成することも可能である。
【0022】
非接触通信媒体読取り補助具のサイズ(円筒形状の直径Y及び高さX)について、好ましい態様を説明する。ただし、当該直径Yは、金属層が配置される部分における直径を意味し、円筒形状の基体の内面に金属シートを張り付ける場合には、当該直径Yは円筒形状の内径を意味する。
【0023】
本発明の非接触通信媒体読取り補助具のサイズは、コンクリート体の内部のどの位の深さに非接触通信媒体が配置されているのか、又は、非接触通信媒体やリーダ/ライタの通信感度にも影響を受ける。本発明者が後述するような試験により、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度が実用可能な程度にまで向上される範囲としては、円筒形状の高さXが5〜160mmであり、直径Yが80〜160mmとなる。
【0024】
また、円筒形状の高さX(mm)及び直径Y(mm)は、以下の式1及び式2、又は式3及び式4のいずれかを満足する範囲では、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度が向上していることが確認されている。
Y≧−1.25X+178.75(80≦X<143)・・・・(式1)
Y≦−1.25X+218.75(80≦X<175)・・・・(式2)
または
Y≧−1.25X+268.75(100≦X≦165)・・・・・・(式3)
Y≦−1.25X+308.75(100≦X≦165)・・・・・・(式4)
【0025】
通信感度を一層向上させることが可能な、より好ましい範囲としては、以下の式5及び式6、又は式7及び式8のいずれかを満足する範囲である。
Y≧−1.25X+188.75(100≦X≦140)・・・・(式5)
Y≦−1.25X+208.75(100≦X≦140)・・・・(式6)
Y≧−1.25X+278.75(100≦X≦140)・・・・(式7)
Y≦−1.25X+298.75(100≦X≦140)・・・・(式8)
【0026】
非接触通信媒体の読み取りや書き込みに使用される2.45GHz帯の電波は、金属面等で反射する性質を有することから、上記条件を有する金属面を補助具として、リーダ/ライタと非接触通信媒体との間に設置することによって、界面の延長線上を開く(逃げていく)電波を捕捉・はね返し、有効にリーダ/ライタの方向へ飛ばすことができる。これにより、通信距離が改善され、すなわち非接触通信媒体の埋設深さを深く設定することができる。
【0027】
本発明の非接触通信媒体読取り補助具の使用方法は、図1に示すように、非接触通信媒体を埋め込んだコンクリート体の表面に、本発明の補助具を配置し、その上にリーダ/ライタを配置する。この構成で、非接触通信媒体から発信された電波が、コンクリート体の表面(空気層との界面)に沿って逃げていくのを、本発明の補助具により捕捉・はね返し、リーダ/ライタの方向へ効果的に導くことが可能となる。これにより、コンクリート体の内部に非接触通信媒体を配置した場合でも、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能となる。
【0028】
また、本発明の補助具は、非接触通信媒体に記録された情報の読み取りだけでなく、リーダ/ライタが発生する電波を効率良く非接触通信媒体の方へ伝搬させることにも寄与し、非接触通信媒体への情報を記録させる場合にも、効果を発揮する。
【0029】
次に、本発明の非接触通信媒体読取り補助具について、その効果を確認するための試験方法及びその結果を説明する。
図1に示すように、直方体のコンクリート製のブロックを用意した。当該ブロックのサイズは、リーダ/ライタが配置される面(計測面)を250×250mmの寸法に設定する。
【0030】
コンクリート製ブロックの内部には、Φ13mmの異形鉄筋を配置し、該鉄筋の一部にスペーサを配置し、さらに、スペーサ上にリーダ/ライタ方向に読み取り可能な面を向けて、非接触通信媒体(日立製作所製。ミューチップ)を固定配置した。
【0031】
スペーサは、モルタル製で厚み8mm、11mm、21mmの3水準を準備した。また、リーダ/ライタには、「日立製作所製,アンテナ一体据え置き型 高出力タイプ SH07」を使用した。
【0032】
コンクリート製ブロックの計測面から鉄筋までの距離(埋め込み深さ)は、90mm,104mm,113mm,127mmを準備した。
【0033】
補助具には、円筒形状をした塩化ビニルのプラスチック製部材を用意し、円筒の内面にアルミテープを張り付けた補助具を準備した。円筒形状のサイズとしては、直径(内径)Yについては、83,108,131,155,180mmの5水準と、高さXについては、5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160mmの17水準を準備した。
【0034】
図3は、試験を実施している様子であり、以下の表1〜5はその試験結果を示す。また、図4は、表5の結果をさらにグラフで表現したものである。なお、通信感度の評価は、リーダ/ライタが非接触通信媒体の情報を読み取れる状況を、極めて良好(◎)、良好(○)、不安定(△)、不可(×)の4段階で評価した。そして、表5では、表1〜4の4つの試験で評価が全て「○」以上であったものを「●」で表示し、4つの試験で評価が全て「△」以上であったものを「▲」で表示した。
【0035】
さらに、表1〜4では、以下のような図1に示す読取距離dに設定している。
・表1:d=69mm(鉄筋位置90mm,スペーサ21mm)
・表2:d=83mm(鉄筋位置104mm,スペーサ21mm)
・表3:d=105mm(鉄筋位置113mm,スペーサ8mm)
・表4:d=116mm(鉄筋位置127mm,スペーサ11mm)
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
上記表5及び図4のグラフより、補助具の好適な範囲としては、円筒形状の高さXが5〜160mmであり、直径Yが80〜160mmとなることが容易に理解される。また、高さXと直径Yの好適な範囲は、上述の式1〜8に示した帯状の領域(例えば、式1と式2を満足する範囲)に存在することも容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリート体の内部に非接触通信媒体を配置した場合でも、非接触通信媒体とリーダ/ライタとの通信感度を向上することが可能な非接触通信媒体読取り補助具を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の内部に埋設された非接触通信媒体と、該非接触通信媒体に記録された情報を読み取るか又は該非接触通信媒体に情報を記録させるリーダ/ライタとの間に配置され、
該非接触通信媒体と該リーダ/ライタとの間の通信の感度を上げる円筒形状の補助具であり、
該コンクリート体の表面に設置して使用することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触通信媒体読取り補助具において、該円筒形状の高さが5〜160mmであり、直径が80〜160mmであることを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具。
【請求項3】
請求項1に記載の非接触通信媒体読取り補助具においては、該円筒形状の高さX(mm)及び直径Y(mm)は、以下の式1及び式2、又は式3及び式4のいずれかを満足することを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具。
Y≧−1.25X+178.75(80≦X<143)・・・・(式1)
Y≦−1.25X+218.75(80≦X<175)・・・・(式2)
または
Y≧−1.25X+268.75(100≦X≦165)・・・・・・(式3)
Y≦−1.25X+308.75(100≦X≦165)・・・・・・(式4)
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の非接触通信媒体読取り補助具において、該円筒形状の内側又は外側の少なくとも一方の面には、金属層が形成されていることを特徴とする非接触通信媒体読取り補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−250047(P2011−250047A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119965(P2010−119965)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】