説明

非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂をコアとする複合粒子

【目的】高い光線透過率、あるいは低い吸水率といった優れた性能を有する非晶性のオレフィン高分子を主たる構成物質とし、極性を持つ溶媒への分散性を高め、あるいはバインダーへの接着性を高め、光散乱性という機能を有している高分子微粒子を提供する
【構成】結晶化度が5重量%以下である非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる略球状の微粒子であり、その数平均粒径が1μmから5,000μmであり、オレフィン系熱可塑性樹脂(A)をコア、極性を有する熱可塑性樹脂(B)をシェルとするコアシェル状の構造を有する複合粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光線透過率、あるいは低い吸水率といった優れた性能を有する非晶性のオレフィン高分子を主たる構成物質とし、その特性を生かすと共に、極性を持つ溶媒への分散性を高め、あるいはバインダーへの接着性を高めた高分子微粒子であり、光散乱性という機能を有している高分子微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
元来、コアシェル構造を有する高分子微粒子すなわち、複合樹脂粒子を得る方法としては、コアとなる高分子の微粒子を合成した後、重合性単量体を重合するシード乳化重合法が最も一般的である。例えば、特開平7−70255公報(特許文献1)に、アルキルアクリレート系ゴム状コア部と、メチルメタクリレート系ガラス部シェル部を有するコアシェルポリマーの製造法が示されている。
しかし、このシード乳化重合法を用いる限り、コアとなる高分子も乳化状態あるいは縣濁状態で重合可能な高分子に限られる。また、コアとなる高分子を重合する製造方法のため、コアとなる粒子が粒径1μmを超えた高分子微粒子を粒径分布の狭い状態で安定に製造することが困難である。このため、シード乳化重合法に適用可能な高分子は、乳化重合あるいは縣濁重合でのラジカル重合可能な単量体を用いた樹脂に限られる。そのため、シェルに用いる高分子の種類も限定される。このため、シード乳化重合方は縮合反応や高圧法ポリオレフィンや環状ポリオレフィンの様に、高圧法でラジカル重合する高分子には適用できない。
そして、上記の理由で非晶性高分子からなるオレフィン系高分子、例えば環状ポリオレフィンをコア材として用いることは不可能であった。
【0003】
一方、重合法以外のコアシェル構造を有する高分子微粒子の製造方法として、特開2005−162797号公報(特許文献2)には、有機固体成分(樹脂成分など)(A)で構成されており、この有機固体成分(A)は、少なくともオリゴ糖(B1)を含む水溶性助剤成分(B)に対して異なる親和性を有する複数の有機固体物質(樹脂など)で構成されている分散体を得て、この分散体より助剤成分(B)を除去することによるコアシェル構造を有する有機固体粒子すなわち高分子微粒子あるいは樹脂微粒子の製造方法が開示されている。以下この方法を強制乳化法と称する場合がある。この中で、例えばオレフィン系高分子を有機固体成分として用いることが開示されているが、具体的にオレフィン系高分子をコア材とするコアシェル状複合構造粒子の記載は無く、特に環状ポリオレフィンを用いたコアシェル構造の粒子については記載されていない。
【0004】
非晶性高分子からなるオレフィン系高分子特に環状ポリオレフィン系高分子は、高い透明性と高い屈折率を兼ね備えているため、このような高分子を用いて微粒子化した場合には、高い透明性と高い屈折率を持った微粒子を得られることが期待される。一方、環状ポリオレフィン系高分子は、疎水性が高く水溶性助剤成分を用い場合には、単純には微粒子化がしがたい。
そして、特に高い光線透過度と光散乱性を兼ね備えた球状樹脂微粒子については、開示も示唆もされていない。そして、コアの非晶性のオレフィン系樹脂として特に環状オレフィン系の樹脂を用いる場合、環状オレフィン系樹脂に固有の高いガラス転移点温度、高い溶融時粘度、及び高分子微粒子製造後の使用過程での有機溶媒に対する低い親和性を改良する手段については、開示も示唆もされていなかった。
【特許文献1】特開平7−70255号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−162797号公報(請求項1、24)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、高い光線透過率を有しながら、微粒子の使用工程における有機溶媒や各種バインダーとの親和性が高く、微粒子が分散された有機溶媒や縣濁液での分散性や安定性が高い微粒子が存在しなかった点である。更には、微粒子の使用の工程で用いられる各種バインダー(硬化剤)との親和性が良い球状微粒子が存在しなかった点でである。
【0006】
また本発明で解決しようとする更なる問題点は、高い光線透過率を有しながら、光散乱性を有する球状の複合粒子が存在しなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は結晶化度が5重量%以下である非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる略球状の複合粒子であり、その数平均粒径が1μmから5,000μmであり、オレフィン系熱可塑性樹脂(A)をコア、極性を有する熱可塑性樹脂(B)をシェルとするコアシェル状の構造を有する複合粒子とすることを最も主要な特徴とする。
【0008】
すなわち本発明では、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)が複合粒子のコアとなっているので複合粒子の光線透過度を高くすることができる。そして、極性を有する熱可塑性樹脂(B)がシェル層となっているので、極性を有する有機溶媒や各種バインダーとの親和性を高くすることができる。その結果、有機溶媒中での分散性、微粒子を分散させた縣濁液での安定性を向上することができる。また微粒子が用いられる各種バインダー(硬化剤)との接着力を向上させることができる。
【0009】
更に、本発明は複合粒子を構成するオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率を異ならせても良い。すなわち、複合粒子を構成するオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率で極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率を除した比が0.98以下であるか、または1.02以上である微粒子であってもよい。これにより、複合粒子の光線透過度が高くかつ光散乱性を有する微粒子とすることができる。
更に本発明ではオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の重量比率が、50/50〜99/1の範囲である微粒子であってもよい。オレフィン系熱可塑性樹脂(A)の比率が50重量%より低いと複合粒子の光線透過度が低くなる。また極性を有する熱可塑性樹脂(B)の比率が1重量%よりも低いと複合粒子のシェルに極性を有する熱可塑性樹脂(B)が均一に層を形成しなくなる恐れがある。
【0010】
更に本発明は粒子としての吸湿率が0.5重量%以下である複合粒子であってもよい。すなわち、極性を有する熱可塑性樹脂(B)がシェル層として複合粒子の一部を構成しているので粒子としての吸湿率を低い樹脂微粒子を得ることができる。
本発明では、シェル層の極性を有する熱可塑性樹脂(B)の種類を適切に設定することで光線透過度が80%以上でかつ、ヘイズ値が60%以上である複合粒子であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成の複合粒子は、例えば低吸水性、高透明性などの環状オレフィン樹脂特有の利点を有する。その一方で、水やアルコール類などの極性溶媒やエポキシ系接着剤、極性樹脂などの極性を有するバインダーに対する分散性、接着性が改良される。
さらに、コアであるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)との屈折率が異なることにより、光線透過度が高いにも関わらず、ヘイズが高い複合粒子とすることができる。このような本発明の複合粒子を用いることにより、例えば液晶表示装置の散乱板などの必要な光散乱性を付与することも出来る。
【0012】
本発明の複合粒子は吸水率を低くすることができる。具体的には0.5重量%(5,000ppm)以下とすることができる。
【0013】
本発明の複合粒子を、例えば2液エポキシ系接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)をバインダーとして試験片を作成して凝集破壊強度を測定した場合にはコア樹脂単独からなる粒子を用いた場合と比較して、20%以上凝集破壊強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合粒子は、熱可塑性樹脂の結晶化度が5重量%以下である実質的に非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)とで構成されている。
【0015】
尚、本発明で「高分子」「疎水性ポリマー」「親水性ポリマー」「水溶性高分子」「プラスチック」「熱可塑性樹脂」という用語は「新版高分子辞典」(朝倉書店発行 高分子学会編:19988年11月25日初版)の定義による。但し、高分子微粒子という用語の中で「高分子」という用語を用いている場合は上記の「新版高分子辞典」の「プラスチック」という用語と同義であり、天然および合成樹脂を主原料に、これに充填剤、可塑剤、安定剤、顔料などの添加剤を加えたものを意味する。「樹脂微粒子」「樹脂粒子」のように微粒子の構成物質として「樹脂」という用語を用いている場合は上記の「新版高分子辞典」で定義する「プラスチック」と同義である。
【0016】
また特定高分子の名称の後に「樹脂」という用語を用いている場合はJIS工業用大辞典 (財団法人 日本規格協会発行・編集:1996年10月20日発行 第3刷)の広義の意味、すなわち「プラスチック用の基盤材料であるいくつかの重合体を明示するためにも使用される。」と同一の意味である。
【0017】
本発明の複合粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、上記非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とを、マトリックス成分(C)である水溶性乳化媒体とを溶融混合又は混練して分散体を形成する。この分散体を水で溶出又は溶解処理し、非水溶性高分子である上記非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とで構成された複合球状樹脂粒子を得る方法(以下この方法を「強制乳化法」と称する。)であれば使用する高分子が熱可塑性であるので好適である。
【0018】
以下本発明で用いる非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)について詳細に記す。
(A)非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂
本発明での非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)としては、オレフィン系高分子でありかつ非晶性高分子からなる熱可塑性樹脂を用いる。非晶性高分子とは無定形高分子ともいわれはっきりした結晶状態を示さない高分子であり、アタッチック(atactic)高分子、共重合高分子などに多く見られるものである。本発明でいう非晶性高分子とは明確な結晶性を示さない広義の意味での非晶性高分子であり、結晶構造を僅かに含むものも非晶性高分子の範疇に含める。すなわち、共重合高分子などでは局所的あるいは微小部分的には結晶部分を含む場合もあるが、このようなものでも本発明においては非晶性高分子と見なす。すなわち具体的には、結晶化度が5%以下のものも非晶性高分子に含める。尚、この場合の結晶化度の測定方法については結晶部分及び非晶部分のX線解析強度での結晶化度を言う。
【0019】
本発明の非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)としては、環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を用いるのが最も好ましい。環状ポリオレフィンモノマー重合体およびその共重合体は、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンをモノマー単位として構成されるポリマーの総称であり、環状オレフィンの単独又はその共重合体[環状オレフィン単独の開環重合体、2種以上の環状オレフィンの開環重合体(単環式オレフィンとノルボルネン類などの多環式オレフィンとの共重合体など)など]、が例示される。本発明の非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)としては、構成成分の一部に環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を含んでいても良く、環状オレフィンと共重合性単量体との共重合体の他環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を主体としたポリマーブレンド又はポリマーアロイ(上記重合体と、各種ゴム状ポリマー、アミド系ポリマー及びエステル系ポリマー、弾性エラストマーなどとのポリマーとのブレンド物など)が例示される。
【0020】
このような重合体又は共重合体は、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開昭62−252406号号公報、特開平2−167318号号公報、特開平4−35653号公報などに開示されている。本発明においては環状オレフィンモノマー重合体およびその共重合体を含めて環状オレフィンモノマー重合体と称する。非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂は上記の環状ポリオレフィンモノマー重合体に代表されるように疎水性ポリマーである。
【0021】
代表的な環状オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン類、シクロペンタジエン類又はジシクロペンタジエン類、ノルボルネン類とシクロペンタジエンとの縮合により得られる1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン類、ヘキサシクロ[6.6.1.1.1.0.0]ヘプタデセン−4類、エチレンとシクロペンタジエンとから合成される6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどが例示できる。環状オレフィンは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。環状オレフィンはノルボルネン類であってもよい。
【0022】
環状オレフィンモノマー共重合体において共重合される単量体としては、共重合可能な限り特に限定されないが、鎖状オレフィン[アルケン(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどのC2−20アルケン)、アルカジエン(例えば、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役C5−20アルカジエン)など]などが例示できる。これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共重合性単量体は、α−オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどのC2−10α−オレフィン類、特にC2−6α−オレフィン類)であってもよい。
【0023】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲内で、共重合性単量体として、重合性ニトリル化合物(例えば、(メタ)アクリロニトリルなど)、(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸など)、不飽和ジカルボン酸又はその誘導体(無水マレイン酸など)などを用いてもよい。これらの共重合性単量体も単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
好ましい環状ポリオレフィンモノマー重合体は、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン−環状オレフィン系共重合体などのα−C2−4オレフィンと環状オレフィンとの共重合体)である。このような共重合体は、オレフィン系重合体(エチレン系重合体など)と環状オレフィン重合体ホモポリマーとの性質を兼ね備えており、α−オレフィンの共重合比率を調整することにより、所望のガラス転移温度を有し、かつ高分子量の重合体を得ることができる。耐熱性の点からは、ノルボルネン類とシクロペンタジエン(又はジシクロペンタジエン類)とを縮合した環状ポリオレフィンモノマー重合体、ノルボルネン類とシクロペンタジエン(又はジシクロペンタジエン類)と、共重合性単量体(例えば、α−オレフィン類)とを重合した環状ポリオレフィン系共重合体が好ましい。なお、後者の環状ポリオレフィン系共重合体において共重合性単量体(例えば、α−オレフィン類)の使用量は特に制限されず少量(例えば、1〜25モル%、好ましくは2〜20モル%程度)であってもよい。
【0025】
なお、環状ポリオレフィンモノマー重合体(例えば、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体)は、ガラス転移温度が高くなり、割れ易いと言う性質が顕著になる。そして、このような環状ポリオレフィンモノマー重合体を従来の方法で粒子化するのは困難になる。しかし、ガラス転移温度が高く、高分子量の環状ポリオレフィンモノマー重合体であっても、本発明の方法を用い微粒子化することにより、高分子量の環状ポリオレフィンモノマー重合体微粒子を得ることができる。
【0026】
環状ポリオレフィンモノマー重合体(A)の可塑化温度の指標としてはガラス転移温度を用いることができ、環状ポリオレフィンモノマー重合体(A)のガラス転移温度は、所望する特性、例えば耐熱性などに応じて選択でき、70〜200℃(例えば、75〜190℃)、好ましくは80〜175℃(例えば、85〜165℃)、さらに好ましくは90〜150℃(例えば、95〜140℃)程度である。
ガラス転移温度が低いと、可塑化温度が低くなり、マトリックス成分助剤(BC)の選択の範囲が広がるが、微粒子の耐熱性が低下する。なお、本発明では、マトリックス成分助剤(CB)として少なくとも1つの環状構造を有する水溶性多糖類(C2B3)などを用いることにより、ガラス転移温度の高い環状ポリオレフィンモノマー重合体(A)であっても有効に球状微粒子(平均アスペクト比の小さな真球状微粒子平均粒径の小さな微粒子)を得ることができ、球状微粒子の耐熱性を向上できる。そのため、環状ポリオレフィンモノマー重合体(A)のガラス転移温度は、100〜180℃(例えば、120〜150℃)、好ましくは130〜145℃程度であってもよい。
【0027】
環状オレフィンモノマー重合体系の樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)2×104〜30×104(例えば、3×104〜25×104)、好ましくは4×104〜20×104(例えば、5×104〜18×104)、さらに好ましくは7×104〜15×104(8×104〜12×104)程度である。なお、重量平均分子量が2×104以下の環状ポリオレフィンモノマー重合体を粉砕法で微粒子化すると、さらに分子量が低下してしまい好ましくなく、2×104を越える環状ポリオレフィンモノマー重合体を物理的に粉砕することは困難である。これに対して、本発明では、このような分子量の環状ポリオレフィンモノマー重合体であっても分子量の低下を防止しつつ微粒子化できる。
【0028】
(B)極性を有する熱可塑性樹脂
極性を有する熱可塑性樹脂(B)としてはポリエステル(例えば、芳香族ポリエステルや脂肪族ポリエステルなど)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(チオ)エーテル(例えば、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフィド、ポリエーテルケトンなど)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミドなどの縮合高分子;ポリ(メタ)アクリル、ポリビニル(例えば、ハロゲン含有ポリビニル、ポリビニルエステル又はその誘導体など)などのポリビニル重合系高分子、セルロース誘導体などの天然物由来樹脂などが含まれる。
【0029】
熱可塑性樹脂の熱変形温度(例えば、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)は、60〜300℃の範囲から選択でき、例えば、80〜260℃、好ましくは100〜240℃(例えば110〜240℃)、さらに好ましくは120〜230℃(例えば130〜220℃)程度である。
【0030】
極性を有する熱可塑性樹脂の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量で、例えば、5,000〜500,000、好ましくは10,000〜300,000、さらに好ましくは20,000〜150,000程度であってもよい。
【0031】
これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。以下、代表的な熱可塑性樹脂を例示するがこれらの例示にはそれらの共重合体あるいはグラフト変成物、ブロック共重合体なども含めるものである。以下本発明の好適な極性を有する熱可塑性樹脂(B)につき詳細に記す。
【0032】
(1)(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルとの共重合体
(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルとの共重合体としては、(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリルなど)の単独又は共重合体、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(MS樹脂など)などが挙げられる。
【0033】
(2)ポリアミド高分子
ポリアミド系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド系樹脂、脂環族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂などが挙げられ、通常、脂肪族ポリアミド系樹脂が使用される。これらのポリアミド系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
脂肪族ポリアミド系樹脂としては、脂肪族ジアミン成分(テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC4-10アルキレンジアミン)と脂肪族ジカルボン酸成分(アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などのC4-20アルキレンジカルボン酸など)との縮合物(例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド1212など)、ラクタム(ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのC4-20ラクタムなど)又はアミノカルボン酸(ω−アミノウンデカン酸などの炭素数C4-20アミノカルボン酸など)の単独又は共重合体(例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/11、ポリアミド6/12など)、これらのポリアミド成分が共重合したコポリアミド(例えば、ポリアミド66/11,ポリアミド66/12など)などが挙げられる。ポリアミド系樹脂のジカルボン酸成分はダイマー酸単位を含んでいてもよい。さらに、ポリアミド系樹脂は生分解性を有していてもよい。
【0035】
(3)ポリエステル高分子
ポリエステル高分子としては、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合により得られるホモポリエステル又はコポリエステル;オキシカルボン酸を重縮合させて得られるホモポリエステル又はコポリエステル;ラクトンを開環重合させて得られるホモポリエステル又はコポリエステルが挙げられる。これらのポリエステル高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
(4)ポリウレタン高分子
ポリウレタン高分子は、ジイソシアネート類とポリオール類(例えばジオール類)と必要により鎖伸長剤との反応により得ることができる。ジイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート類などが例示できる。
【0037】
(5)ポリ(チオ)エーテル高分子
ポリ(チオ)エーテル高分子には、ポリアルキレングリコール、ポリフェニレンエーテル系高分子、ポリスルフィド高分子(ポリチオエーテル高分子)が含まれる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのアルキレングリコールの単独又は共重合体(ポリC2-4アルキレングリコールなど)などが含まれる。これらのポリ(チオ)エーテル系高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
(6)ポリカーボネート高分子
ポリカーボネート高分子には、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)をベースとする芳香族ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネートなどが含まれる。これらのポリカーボネート系高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
(7)ポリスルホン高分子
ポリスルホン高分子には、ジハロゲノジフェニルスルホン(ジクロロジフェニルスルホンなど)とビスフェノール類(ビスフェノールA又はその金属塩など)との重縮合により得られるポリスルホン高分子、ポリエーテルスルホン高分子、ポリアリルスルホン高分子(商品名:RADEL)などが例示できる。これらのポリスルホン系高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
(8)ビニル高分子
ビニル高分子には、ビニル系単量体の単独又は共重合体、あるいは他の共重合可能なモノマーとの共重合体などが含まれる。ビニル系単量体としては、特に、ビニルエステル系高分子の誘導体、例えば、ビニルアルコール高分子(例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール;前記酢酸ビニル系共重合体のケン化物、例えば、エチレンービニルアルコール共重合体など)などが好適に使用できる。これらのビニルアルコール高分子のうち、酢酸ビニル系共重合体のケン化物、特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。酢酸ビニル系共重合体のケン化物において、疎水性コモノマーユニット(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体におけるエチレンユニットなど)の割合を調整することにより、親水性の程度を調整してもよい。酢酸ビニル系共重合体のケン化物を親水性ポリマーとして用いる場合には、助剤成分(B)に対する親和性の点から、疎水性コモノマーユニットの割合を、例えば、10〜40重量%程度に調整してもよい。
【0041】
(9)セルロース誘導体
セルロース誘導体としては、セルロースエステル類(セルロースアセテート、セルロースフタレートなど)、セルロースカーバメート類(セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテル類(シアノエチルセルロースなど)が挙げられる。これらのセルロース誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の有機酸エステル(又はアシルセルロース);硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル等が挙げられる。
【0042】
セルロースエーテルとしては、例えば、アルキルセルロース(例えば、エチルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロースなどのC2-6アルキルセルロースなど)、アラルキルセルロース(例えば、ベンジルセルロースなど)、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0043】
本発明のコアシェル状粒子における熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の比率は特に限定されるものではないが、樹脂(A)の低吸水性、高光線透過度などの優れた機能を活かし、かつシェルを形成する樹脂(B)により付与される分散性、接着性、光散乱性などの昨日を発現させるためには、樹脂(A)/樹脂(B)の重量比は、好ましくは50/50〜99/1であり、さらに好ましくは60/40〜95/5、もっとも好ましくは70/30〜90/10である。
【0044】
(C)マトリックス成分
本発明の粒子は例えば、上記の通り強制乳化法で製造することができる。特に好適には、特開2005−162797号公報に記載の方法を用いて得ることが出来る。この場合、除去可能なマトリックス中に非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)をコア、極性を有する熱可塑性樹脂(B)をシェルとするコアシェル状粒子が分散した分散体において、マトリックスを構成するマトリックス成分(C)は、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)を分散可能な成分であればよい。すなわち、前記マトリックス成分(C)は、非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)に対して、通常、相溶性を有しない(又は非相溶性の)成分であればよい。なお、マトリックス(又はマトリックス成分)は、通常、固体(常温で固体)である。このような固体マトリックス成分は、固体であれば、液体のマトリックス成分を含んでいてもよい。
【0045】
なお、水溶性マトリックス成分と、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)とを組み合わせて分散体を形成した後、後述するように、適宜溶出又は洗浄するなどの方法により、改質剤により改質された微粒子(樹脂微粒子など)を形成できる。これらのマトリックス成分については非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)と相溶性を有さない成分であって、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、極性を有する熱可塑性樹脂(B)との溶融混練が可能であれば特に限定ないが、水溶性であることが好ましい。すなわち、マトリックス成分を水溶性のマトリックス成分とすることにより、分散体から、水によりマトリックスを除去できるため、経済的および環境的に有利である。これらのマトリックス成分としては特開2005−162797号公報に記載されているものを用いることもできる。
【0046】
具体的な水溶性のマトリックス成分としては、特開2005−162797号公報に記載されている通り熱可塑性樹脂や改質剤の種類にもよるが、例えば、水溶性高分子[例えば、ポリアルキレングリコール、ビニルアルコール系重合体などの水溶性ポリマー;、糖類又はその誘導体[例えば、単糖類(例えば、グルコースなど)、オリゴ糖、多糖類(例えば、デンプンなど)、糖アルコールなど]などが挙げられる。これらのマトリックス成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
マトリックス成分は、少なくともオリゴ糖(C1-1)または環状構造を有する多糖類(C1-2)で構成していてもよい。オリゴ糖は、糖類であるので、前記水溶性高分子などに比べて、分散体から溶出により除去しやすく、後述する微粒子の生産性を高めることができる。オリゴ糖で構成されたマトリックス成分については、特開2005−162797号公報を参照することもできる。
【0047】
(C1-1)オリゴ糖
オリゴ糖(C1-1)は、2〜10分子の単糖類が、グリコシド結合を介して脱水縮合したホモオリゴ糖と、少なくとも2種類以上の単糖類及び/又は糖アルコールが、2〜10分子グリコシド結合を介して脱水縮合したヘテロオリゴ糖とに大別される。オリゴ糖(C1-1)としては、例えば、二糖類乃至十糖類が挙げられ、通常、二糖類乃至六糖類のオリゴ糖が使用される。
【0048】
混練により、効果的に熱可塑性樹脂と助剤成分とを分散させるためには、オリゴ糖の粘度は高いのが望ましい。具体的には、B型粘度計を用いて温度25℃で測定したとき、オリゴ糖の50重量%水溶液の粘度は、例えば、1〜500Pa・s、好ましくは2〜250Pa・s(例えば、3〜100Pa・s)、さらに好ましくは4〜50Pa・s(例えば、6〜50Pa・s)程度である。
【0049】
また、オリゴ糖(C1-1)の融点又は軟化点は、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)の熱変形温度(例えば、非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)の融点又は軟化点、JIS K 7206で規定されるビカット軟化点)より高いのが好ましい。なお、一般にオリゴ糖の無水物は、高い融点又は軟化点を示す。オリゴ糖の融点又は軟化点と、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)の熱変形温度との温度差は、例えば、1〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは15〜60℃程度である。
【0050】
水溶性マトリックス成分(C)はオリゴ糖で構成してもよいが、溶融粘度を高めるには、環状構造を有する多糖類(水溶性多糖類)を単独で又はオリゴ糖と組み合わせて使用するのが有利である
(C1-2)環状多糖類
環状構造を有する水溶性多糖類(単に環状多糖類という場合がある)において、環状構造(環状骨格、環状ユニット、環状部位)は、多糖類を構成する複数のグリコース単位[通常、グルコース単位(特にD−グルコース)]がグルコシド結合(又はグルコシル化)して形成された環であればよい。すなわち、本明細書において、環状構造とは、複数のグリコース単位(およびグルコシド結合)で形成された環を意味し、グルコース環などの単糖類の環を意味するものではない。
【0051】
このような環状多糖類は、オリゴ糖などに比べて比較的高分子量であり溶融粘度が高く、しかも、その環状構造によるためか、水溶性を示す。環状多糖類を使用すると、溶融混練において高い剪断粘度を保持できるため、溶融混練性を損なうことなく溶融混練でき、しかも水溶性であるため、水などにより容易に除去可能である。特に、非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)に環状オレフィンモノマー重合体を用いた場合には、微粒子製造時の溶融混錬工程で、溶融した非晶性オレフィン系熱可塑性樹脂(A)の溶融粘度が高くなるため、得られた微粒子の粒径が大きくなることもあり、また粒径分布のバラツキが大きくなることがある。
水溶性マトリックス成分(C)を環状多糖類(C1-2)で構成した場合には、水溶性マトリックス成分(C)の溶融粘度を大きくすることができ、粒子径が小さくかつ粒子径のバラツキが小さい微粒子を得ようとする場合には有利である。
【0052】
前記多糖類において、環状構造は、複数のグルコシド結合で構成されていればよく、α−グルコシド結合又はβ−グルコシド結合で構成されていてもよく、通常、α−グルコシド結合で構成されていてもよい。
【0053】
環状構造(1つの環状構造あたり)の平均重合度(数平均重合度、環状構造を形成する平均グルコシド結合数、環状構造を形成するグリコース単位の平均重合度)は、例えば、10以上(例えば、10〜500程度)、好ましくは12以上(例えば、12〜300程度)、さらに好ましくは14以上(例えば、14〜100程度)であってもよい。
【0054】
また、環状構造を構成するグルコシド結合は、通常、少なくとも1,4−グルコシド結合(特に、α−1,4−グルコシド結合)で形成された環であればよく、1,4−グルコシド結合(特に、α−1,4−グルコシド結合)と1,6−グルコシド結合(特に、α−1,6−グルコシド結合)とで形成された環であってもよい。
【0055】
このような1,6−グルコシド結合を含む環において、環状構造(1つの環状構造あたり)における1,6−グルコシド結合の平均数は、1以上(例えば、1〜700程度)であればよく、例えば、1〜300(例えば、1〜200)、好ましくは1〜100(例えば、1〜50)、さらに好ましくは1〜20(例えば、1〜10)であってもよい。
また、環状多糖類は、少なくとも1つの環状構造(環状ユニット)を有していればよく、複数の環状構造を有していてもよい。
【0056】
なお、環状多糖類の平均重合度(数平均重合度、総平均重合度、多糖類全体の平均重合度)は、例えば、14以上(例えば、14〜15000)、好ましくは17以上(例えば、17〜10000)、さらに好ましくは20以上(例えば、20〜8000)程度であってもよい。
【0057】
なお、環状多糖類は、誘導体化(又は変性)されていてもよい。例えば、環状多糖類は、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)が誘導体化[例えば、エーテル化(例えば、メチルエーテル化などのアルキルエーテル化;ヒドロキシエチルエーテル化、ヒドロキシプロピルエーテル化などのヒドロキシアルキルエーテル化;グリセリル化など)、エステル化、グラフト化、架橋化など]された誘導体であってもよい。これらの環状多糖類は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0058】
代表的な環状構造を有する水溶性多糖類には、(1)環状構造(又は環状ユニット)とこの環状構造に結合した非環状構造(非環状骨格、非環状ユニット非環状部位)とを有し、かつ平均重合度50以上である多糖類、(2)14以上のα−1,4−グルコシド結合で形成された環状構造を分子内に一つ有する多糖類などが挙げられる。
【0059】
(環状多糖類(1))
環状多糖類(1)において、環状構造は、通常、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成された環であってもよい。また、環状構造(1つの環状構造あたり)の平均重合度(数平均重合度)は、例えば、10〜500、好ましくは12〜300、さらに好ましくは14〜100程度であってもよい。環状構造がα−1,6−グルコシド結合を有する場合、環状構造(1つの環状構造あたり)におけるα−1,6−グルコシド結合の平均数は、例えば、1以上(例えば、1〜200)、好ましくは1〜100、さらに好ましくは1〜50程度であってもよい。
【0060】
なお、環状多糖類(1)の平均重合度(数平均重合度)は、50以上であればよく、例えば、50〜10000、好ましくは60〜7000、さらに好ましくは70〜5000程度であってもよい。
【0061】
なお、環状多糖類(1)は、1又は複数の非環状構造を有していてもよく、通常、複数(例えば、2〜1000、好ましくは3〜500程度)の非環状構造を有していてもよい。このような非環状部位(又は環状多糖類(1)の環状構造以外の部位)1つあたりの平均重合度(数平均重合度)は、例えば、10以上(例えば、10〜30程度)、好ましくは10〜20程度であってもよい。また、非環状部位全体の平均重合度(数平均重合度)は、10以上であればよく、例えば、40以上(例えば、50〜5000程度)、好ましくは100〜3000程度であってもよい。なお、非環状部位は、特に、α−1,6−グルコシド結合のグリコース(特にグルコース)単位から分岐している場合が多い。
【0062】
なお、環状多糖類(1)において、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)は、誘導体化(例えば、エーテル化、エステル化、グラフト化など)されていてもよい。
【0063】
このような環状多糖類(1)には、いわゆる「クラスターデキストリン」と称される多糖類が含まれる。このような多糖類(1)は、例えば、糖類(例えば、澱粉、澱粉の部分分解物、アミロペクチン、グリコーゲン、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、およびホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンから選択された少なくとも1種の基質など)に、糖類に作用して環状構造を形成可能な酵素(枝作り酵素、D酵素、サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼなど)を反応させることにより得てもよい。このようなクラスターデキストリンおよびその製造方法についての詳細は、特開平8−134104号公報などを参照できる。
【0064】
(環状多糖類(2))
環状多糖類(2)において、環状構造は、少なくともα−1,4−グルコシド結合で形成された環であればよく、α−1,4−グルコシド結合とα−1,6−グルコシド結合とで形成された環であってもよい。また、多糖類(2)において、環状構造の平均重合度(数平均重合度)は、14以上であればよく、例えば、14〜5000、好ましくは15以上(例えば、15〜3000程度)、さらに好ましくは17以上(例えば、17〜1000程度)であってもよい。環状構造がα−1,6−グルコシド結合を有する場合、環状構造におけるα−1,6−グルコシド結合の平均数は、例えば、1〜500、好ましくは1〜300、さらに好ましくは1〜100程度であってもよい。
【0065】
環状多糖類(2)は、前記環状構造を有している限り、非環状構造(例えば、直鎖状構造)を有していてもよいが、通常、前記環状構造だけで構成(又は形成)された環状多糖類であってもよい。
【0066】
なお、環状多糖類(2)において、ヒドロキシル基(アルコール性ヒドロキシル基)は、誘導体化(例えば、エーテル化、エステル化、グラフト化、架橋化など)されていてもよい。
このような環状多糖類(2)には、いわゆる「シクロアミロース(又はサイクロアミロース)」と称される多糖類が含まれる。このような環状多糖類(2)は、例えば、直鎖状のα−1,4−グルカン又はこのグルカンを含む糖類(例えば、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉枝切り物、澱粉部分加水分解物、ホルホリラーゼによる酵素合成アミロース、およびこれらの誘導体から選択された少なくとも1種など)と、環状多糖類(2)を形成可能な酵素(例えば、D酵素など)とを、必要に応じて、ホスホリラーゼおよびグルコース1−リン酸の存在下で反応させることにより得ることができる。
【0067】
また、前記反応は、基質としてα−1,6−グルコシド結合を有する基質を用いる場合には、α−1,6−グルコシド結合を切断可能な酵素(例えば、イソアミラーゼ、プルラナーゼなど)の存在下で行ってもよい。このようなサイクロアミロースおよびその製造方法についての詳細は、特開平8−311103号公報などを参照できる。
【0068】
これらの多糖類は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。例えば、前記環状多糖類(1)と環状多糖類(2)とを組み合わせて使用でき、特に、少なくとも前記環状多糖類(1)(又はクラスターデキストリン)を好適に用いることができる。
【0069】
前記環状多糖類とオリゴ糖との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜5/95、好ましくは95/5〜10/90、さらに好ましくは90/10〜20/80(例えば、85/15〜25/75)、特に80/20〜30/70(例えば、70/30〜40/60)程度であってもよく、通常99/1〜50/50程度であってもよい。
【0070】
水環状多糖類(C1-2)の50重量%水溶液の粘度は、温度25℃において、例えば、5Pa・sec以下(例えば、1〜5Pa・sec)、好ましくは(例えば、2〜4Pa・sec)程度である。このように水溶液粘度が低いため、環状多糖類(C1-2)を用いる
と、水に対する溶解性が高いことと相まって、水による溶出効率を高めることができる。
【0071】
水溶性マトリックス成分(C)は、さらに前記オリゴ糖(C1-1)や環状多糖類(C1-2)を可塑化するための水溶性可塑化成分(C2)を含んでいてもよい。オリゴ糖(C1-1)や環状多糖類(C1-2)と水溶性可塑化成分(C2)とを組み合わせると、熱可塑性樹脂(A)との混練において、水溶性マトリックス成分(C)の粘度を調整できる。
【0072】
(C2)水溶性可塑化成分
水溶性可塑化成分(C2)としては、オリゴ糖(C1-1)や環状多糖類(C1-2)が水和して水飴状態となる現象を発現できるものであればよく、例えば、糖類、糖アルコールなどが使用できる。これらの可塑化成分(C2)は、については特開2005−162797号公報に記載されているものを用いることもできる。
また、これらの可塑化成分(C2)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
(a)糖類
糖類としては、オリゴ糖(C1-1)を有効に可塑化するために、通常、単糖類及び/又は二糖類が使用される。これらの糖類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
(b)糖アルコール
糖アルコールとしては、アルジトール(グリシトール)などの鎖状糖アルコールであってもよく、イノシットなどの環式糖アルコールであってもよいが、通常は、鎖状糖アルコールが使用される。これらの糖アルコールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0075】
鎖状糖アルコールとしては、テトリトール、ペンチトール、キシリトール、ヘキシトールなどが挙げられる。
【0076】
これらの糖アルコールのうち、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール、マンニトールなどが好ましい。糖アルコールは、エリスリトール、ペンタエリスリトール、キシリトール、およびソルビトールから選択された少なくとも1つの糖アルコールを含む場合が多い。
マトリックス成分(C)の融点又は軟化点は、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、極性を有する熱可塑性樹脂(B)の熱変形温度以上であってもよく、熱変形温度以下であってもよい。非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、極性を有する熱可塑性樹脂(B)及びマトリックス成分(C)は、少なくとも混練温度(又は成形加工温度)において溶融又は軟化すればよい。
【0077】
例えば、マトリックス成分(C)の融点又は軟化点と、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、極性を有する熱可塑性樹脂(B)の熱変形温度との温度差は、0〜100℃の範囲で選択してもよく、例えば、3〜80℃(例えば3〜55℃)、好ましくは5〜60℃(例えば、5〜45℃)、さらに好ましくは5〜40℃(例えば、10〜35℃)程度であってもよい。なお、マトリックス成分(C)の融点又は軟化点と、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)の熱変形温度との温度差が小さい場合(例えば前記温度差が0〜20℃程度である場合)、固化速度の高いマトリックス成分(C)(例えば、糖成分)により短時間で分散形態を固定化できるという利点がある。
【0078】
さらに、マトリックス成分(C)(例えば、オリゴ糖(C1-1)と可塑化成分(C3)とを含む成分)のメルトフローレートは、例えば、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性熱可塑性樹脂(樹脂成分など)(A)の熱変形温度(例えば、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)の融点又は軟化点、前記ビカット軟化点)より30℃高い温度でJIS K 7210で規定されるメルトフローレートを測定したとき、1以上(例えば、1〜40程度)、好ましくは5以上(例えば、5〜30程度)、さらに好ましくは10以上(例えば、10〜20程度)であってもよい。
【0079】
マトリックス成分(C)において、可塑化成分(C2)の割合(重量比)は、溶融混練に伴って、可塑化成分が凝集などにより局在化せず、オリゴ糖(C1-1)を効率的に可塑化できる量、例えば、オリゴ糖(C1-1)/可塑化成分(C2)=99/1〜50/50から選択でき、好ましくは95/5〜60/40、さらに好ましくは90/10〜70/30程度である。
【0080】
分散相(非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)との総量)とマトリックス成分(C)との割合(重量比)は、各熱可塑性樹脂及びマトリックス成分の種類や粘度などに応じて選択でき、特に制限されないが、通常、成形性を損なわない量、例えば、前者/後者=55/45〜1/99、好ましくは50/50〜5/95、さらに好ましくは45/55〜10/90程度である。
【0081】
[微粒子の製造方法]
本発明の微粒子は、上記の通り強制乳化法を用いることで作成できる。具体的には前記非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる分散体から前記マトリックス成分を(C)を除去することにより得られる。
【0082】
(分散体の製造方法)
前記分散体は、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とで構成された粒子状分散相をマトリックス成分(C)に分散できる限り、特に限定されないが、通常、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)と、マトリックス成分(C)とを混練することにより調製できる。
【0083】
なお、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)とマトリックス成分(C)との混練方法としては、例えば、(i)非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とマトリックス成分(C)とを混練する方法、(ii)非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の混合物を調製し、この混合物と、マトリックス成分(C)とを混練する方法などが挙げられる。
【0084】
本発明の分散体は、これらの方法のうち、いずれの方法でも調製できるが、特に、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とマトリックス成分(C)とを混練する方法(i)を好適に利用できる。
混合方法としては、慣用の方法、例えば、各成分をドライブレンドする方法、各成分を溶融混合(溶融ブレンド)する方法、各成分を溶媒に溶解(又は分散)して溶媒を除去する方法などを利用できる。
(マトリックス成分(C)との溶融混合)
非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)とマトリックス成分(C)との混練(溶融混合、溶融混練)は、慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロールなど)を用いて行うことができる。
溶融混練した組成物(分散体)はストランド状、棒状、シート状、フィルム状などに加工(成形)することが望ましい。
【0085】
なお、混練温度や成形加工温度は、使用される原材料(例えば、熱可塑性樹脂、マトリックス成分)に応じて適宜設定することが可能であり、例えば、90〜300℃、好ましくは110〜260℃(例えば、130〜250℃)、さらに好ましくは140〜240℃(例えば、150〜240℃)、特に170〜230℃(例えば、180〜220℃)程度である。マトリックス成分(例えば、オリゴ糖および可塑化成分)の熱分解を避けるため、混練温度や成形加工温度を230℃以下(例えば、160〜220℃程度)にしてもよい。また、混練時間は、例えば、10秒〜1時間の範囲から選択してもよく、通常30秒〜45分、好ましくは1〜30分(例えば、3〜20分)程度である。
【0086】
混練及び/又は成形加工により得られた溶融物(例えば、予備成形体)は、必要により適宜冷却してもよい。このようにして得られた分散体は、マトリックス成分(C)が、海島構造における連続相を形成すると共に、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とで構成された分散相が独立して分散相を形成した相分離構造を有している。
【0087】
そして、このような分散体から、マトリックス成分を速やかに溶出又は抽出などにより除去でき、前記分散相(非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)および極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる分散相)を粒子(微粒子、複合粒子)として得ることができる。マトリックス成分の分散体からの除去方法は、マトリックス成分を除去できる限り限定されないが、通常、前記分散体から、マトリックス成分を溶出する場合が多い。溶出溶媒として水(特に水単独)を用いるのが好ましい。
【0088】
マトリックス成分(C)の溶出は、慣用の方法、例えば、前記分散体(又は予備成形体)を、前記溶媒(特に、水性溶媒)中に浸漬、分散して、マトリックス成分を溶出または洗浄(溶媒に移行)することにより行うことができる。前記分散体(又は予備成形体)を溶媒中に浸漬すると、分散体のマトリックスを形成するマトリックス成分が徐々に溶出し、分散相(又は粒子又はケーク)が、溶出液中に分散される。マトリックス成分の分散及び溶出を促進するため、適宜、撹拌などを行ってもよい。
【0089】
複合粒子は、慣用の分離(回収)方法、例えば、濾過、遠心分離などを用いて前記粒子が分散された分散液から回収できる。
【0090】
また、分離した複合粒子(固液分離後のケーク)は、乾燥処理してもよい。本発明の複合粒子(又は分散相)の平均粒子径(例えば、数平均粒子径)は、1μm〜5000mm(例えば、2〜100μm)程度の範囲から選択でき、例えば、3〜40μm、好ましくは4〜30μmであってもよい。なお平均粒径は体積平均粒子径を示す。
【0091】
本発明では、複合粒子(又は分散相)の粒子サイズを均一にして粒度分布を小さくできる。尚、水溶性マトリックス成分(C)としてオリゴ糖(C1-1)と可塑成分(C2)とで構成した場合は、複合粒子(又は分散相)の平均粒子径の変動係数(%)([粒子径の標準偏差/平均粒子径]×100、例えば体積平均粒子径の標準偏差/体積平均粒子径)は、例えば、90以下(例えば50〜90程度)、好ましくは90以下(例えば、55〜85程度)、さらに好ましくは80以下(例えば、60〜80程度)であってもよい。
【0092】
また水溶性マトリックス成分(C)として環状多糖類(C1-2)あるいはオリゴ糖(C1-1)と環状多糖類(C1-2)との組み合わせに可塑成分(C2)を加える様態で構成した場合は、平均粒子径の変動係数(%)([粒子径の標準偏差/平均粒子径]×100、例えば数平均粒子径の標準偏差/数平均粒子径)は、例えば、60以下(例えば10〜60程度)、好ましくは55以下(例えば、5〜55程度)、さらに好ましくは50以下(例えば、10〜50程度)とすることもできる。
【0093】
また、体積平均粒径と数平均粒径との比、すなわち、体積平均粒径/数平均粒径は1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.25以下とすることもできる
(非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率)
【0094】
非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とは異なる屈折率を有していてもよい。この様態であれば、複合粒子のスキンとコアで屈折率がことなるため光散乱性が高い複合粒子を得ることができる。すなわち、複合粒子を通過する光は、屈折率が異なるスキン層とコア層の界面で乱反射する。その結果、複合粒子の光散乱性を単層の粒子に比較して高くすることができる。一方、複合粒子のコア層を本発明の非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)とすることで粒子内部の不必要な乱反射が抑制される。
【0095】
その結果、光散乱性が高いにも関わらず光線透過率が高い粒子とすることができる。すなわち、単層粒子の粒子内部あるいは複合粒子のコア層内部での屈折率の不均一性は、粒子内部で光を乱反射させることになり、光は粒子内部から抜け出し難くなる。結果としては、粒子内部で光は減衰して、粒子の光線透過率を低下する。このため、単層粒子の粒子内部あるいは複合粒子のコア層内部では屈折率の異なる部分が少ない粒子が好適である。多くの結晶性高分子では結晶部分と非晶部分をミクロ構造的には有している。結晶部分と非晶部分では光の屈折率が異なる。このため、結晶性高分子を単層粒子の粒子内部あるいは複合粒子のコア層内部に用いた場合には、この結晶部と非晶部で光が乱反射して、光線透過度の高い粒子は得られない。
【0096】
一方、単に非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を用いた単層粒子とした場合には、上記の結晶部分と非晶部分の屈折率の違いが避けられ、光線透過率が高い粒子が得られる。しかしながら、光散乱性は低いものとなる。
本発明の複合粒子ではコア層とシェル層の屈折率を異ならせることで、光が複合粒子のコア層とスキン層の界面で反射、屈折する。さらに、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を用いているのでコア層内部に侵入した光は、コア層内部で余分な反射や屈折をすることなく容易にコア層を通過できる。このようにして、光散乱性と光線透過性を両立できる。
【0097】
この場合、コア層とシェル層の屈折率が異なることが、コア層とシェル層の界面での反射、屈折を得るために必要である。屈折率はコア層とシェル層のおのおのの構成するプラスチックの屈折率に強く影響される。そして、コア層とシェル層のおのおのの構成する高分子の屈折率は、それぞれを構成するプラスチックの屈折率に強く影響するが完全に支配的な要因でもない。このため、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)とは異なる屈折率を有することが必要であるが、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を構成する高分子と極性を有する熱可塑性樹脂(B)を構成する高分子が異なることは必須ではない。
【0098】
例えば、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を構成する高分子と極性を有する熱可塑性樹脂(B)を構成する高分子を同一あるいは同系統のポリマーにした上で、極性を有する熱可塑性樹脂(B)に屈折率を調整する機能のある可塑剤(例えば芳香族環を有する可塑剤)を添加する様態も本発明に含まれる。ただし、強制乳化方で均一なシェル層を持った複合粒子を形成するためには、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を構成する高分子と極性を有する熱可塑性樹脂(B)を構成する高分子が異なるものとした方が好ましい。但し、本発明の複合粒子の製造方法として強制乳化法を用いない場合もある。例えば、強制乳化法で得た単層の微粒子にコーティングなどの方法でシェル層を形成する場合などには、同一あるいは同系統の高分子に前記の屈折率を調整する可塑剤を添加した上で極性を有する熱可塑性樹脂(B)としても良い。
【0099】
非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率の差は、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率を100%とした場合に2%程度あれば十分な光散乱性が得られる。このため微粒子を構成するオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率で極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率を除した比が0.98以下であるか、または1.02以上であれば本発明の目的を達成する。好ましくは、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率を100%とした場合に3%以上異なることである。非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率はどちらが多くても良い。光の物理法則から言えば、熱可塑性樹脂(B)の屈折率が大きい方が、複合粒子のシェル層とコア層界面での屈折角が多くなり有利であるが、本発明者の実験では、極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率を非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率よりも小さくした場合でも光散乱性が高い複合粒子を得ることができた。
【0100】
また前記の通り極性を有する熱可塑性樹脂(B)としては様々な熱可塑性樹脂を用いることができるが、均一なシェル層を形成するためには、極性の程度がある程度大きいものが好ましい。そして、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と同様の理由でシェル層自体にも結晶部と非晶部が存在しないことが好ましい。このため、光散乱性のためには、極性を有する熱可塑性樹脂(B)としては、極性を有しながら非晶性であることが好ましく、ポリメタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0101】
(粒子の性状)
前記の方法により得られた、非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる、複合粒子は、吸水率では、0.5重量%(5,000ppm)以下であっても良く、さらに好ましくは0.3重量%(3,000ppm)以下、最も好ましくは0.25重量%(2,500ppm)以下であっても良い。
【0102】
また、得られた複合粒子を、2液エポキシ系接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)と、重量比で接着剤/粒子=80/20となるように混合し、硬化させて得られた厚さ2mmの板状サンプルの、初期試験片長さ20mm、クロスヘッドスピード10mm/分での引っ張り試験における凝集破壊強度は、混合する粒子として複合粒子ではなく、環状オレフィン系樹脂単独からなる粒子を用いた場合と比較して、20%以上高くても良く、さらに好ましくは25%以上、最も好ましくは30%以上高くても良い。
【0103】
光学的な性質で言えば、得られた複合粒子を、体積濃度で0.1wt%となるように、少なくともシェルを形成する極性を有する樹脂(B)が溶解しない透明な溶媒に分散させた分散液を調製し、該溶媒のみで測定した際の光線透過度が透過度100%となるように補正した上で測定した該分散液の光線透過度は80%以上であっても良く、さらに好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上であっても良い。
【0104】
さらに、前記の光線透過度と同様にして測定した分散液のHaze値は、60%以上であっても良く、さらに好ましくは65%、最も好ましくは70%以上であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の複合複合粒子は、光散乱性と光線透過度に優れた光散乱剤、あるいは吸水率を低く留めたエポキシ樹脂などのバインダーからなる構造材料の形成などに用いることが出来る。
【実施例】
【0106】
(実施例1、3、4)
ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製、「FM型20L」)を用いて、樹脂(A)、樹脂(B)及びマトリックス成分(C)を表1に示す組成で、固体状態で混合した後、ブラベンダー(東洋精機(株)製、ラボプラストミル)を用いて、表2に示す条件で溶融混練した後、冷却して塊状の樹脂組成物を得たのち、約5mm角に裁断した。
【0107】
得られた分散体(裁断物)を、25℃の純水中に浸漬し、複合粒子の懸濁溶液を得た。メンブレン膜(孔径0.45μm,ポリビニリデンフルオライド製)を用いて、前記懸濁液から不溶分を濾別し樹脂の複合粒子を回収した。回収した複合粒子を複合粒子に対して重量比で20倍の蒸留水中に分散し、超音波槽において5分間超音波処理して懸濁液を得た。その後、再びメンブレン膜(孔径0.45μm,ポリビニリデンフルオライド製)を用いて、前記懸濁液から不溶分を濾別し、複合粒子を回収した。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
回収した複合粒子を、熱風乾燥機中に放置して、45℃で8時間乾燥し、その後、メノウ乳鉢とすり棒とを用いて、目視で凝集した部分がなくなるまで粉砕した。得られた複合粒子の各特性を表3及び表4に示す。なお、各特性は、以下のようにして評価又は測定した。
【0111】
(実施例2)
溶融混練を、連続式ニーダー((株)栗本鐵工所製KRC S−1ニーダー)を用い、温度220℃、回転速度192rpmで行った以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
【0112】
(比較例1)
樹脂成分として樹脂(A)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
【0113】
(比較例2)
樹脂成分として樹脂(B)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして複合粒子を得た。
以下の測定方法を用いて、上記で実施した各実施例と比較例の性状を測定した。
【0114】
(粒子の外観および平均粒子径)
得られた粒子を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、FE−SEM、JSM−6700F)により観察し、表面形状及び全体形状の写真を得た。得られた走査型電子顕微鏡写真を用い、写真上に少なくとも200個の粒子が含まれるように任意のサイズの長方形を描き、その長方形内に存在する全粒子の真球換算時の粒子径を採寸した。得られた少なくとも200個の粒子径より、体積平均粒子径および数平均粒子径を得た。得られた結果を表3に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
(複合型複合粒子の構造観察)
得られた粒子をエポキシ樹脂系接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)と混合して、前記複合粒子が分散した隗状物を作成し、マイクロトームにより厚さ約0.05μm〜0.2μmの超箔切片に切り出した後、樹脂(A)及び樹脂(B)を染色し分けることが可能な染色剤(オスミウム酸、ルテニウム酸など)を用いて複合粒子を染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、TEM、JEM−1200EXII)を用いて構造観察を行った。観察結果を表3に示す。参考のため、実施例2で得られた複合複合粒子を染色した状態(粒子の断面)の透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0117】
(ガラス転移温度の測定)
環状オレフィン系樹脂:シクロオレフィンコポリマー(ティコナ社製、環状ポリオレフィン系樹脂TOPAS 5013)についてDSC(熱走査熱量計;熱流束型)セイコー電子社製 1200R型測定装置を用いて昇温速度20℃/minで昇温させ、200℃で1分間ホールドさせた後、20℃/minで降温させ、−50℃で1分間ホールドした後、20℃/minで200℃まで測定し、セカンドランでガラス転移温度を測定した。
【0118】
(粒子の吸水率)
カールフィッシャー水分測定装置((株)ダイアインスツルメント製、微量水分測定装置CA100+水分気化装置VA100)を用い、加熱炉温度200℃で、得られた粒子の吸水量を測定した。結果を表4に示す。
【0119】
(極性マトリックスとの接着性)
2液エポキシ系接着剤(コニシ(株)製、ボンドクイック5)2.0g(各液1.0g)と、得られた粒子0.5gをテフロン(登録商標)製のパンに採り、せん断により混合し、接着剤が硬化する前に型枠に流した。その後、型枠ごと、室温で48時間放置し、硬化した厚さ2mmの板状サンプルを得た。得られたサンプルを幅5mm、長さ4cmの短冊状に切り出し、引張試験機(テンシロンRTA−500、(株)オリエンテック製)を用いて引張破壊強度を測定し、粒子と接着剤マトリックスとの接着性の指標とした。引張試験は、初期試験片長さ20mm、クロスヘッドスピード10mm/分で行った。測定は繰り返し回数n=5で行い、明らかな測定不備のデータを取り除いた上で平均値を以って測定値とした。測定結果を表4に示す。
【0120】
(光線透過度および光散乱性)
表3に示す溶媒と、該溶媒に対し体積濃度で0.1%となるように、得られた粒子を混合し、超音波分散槽中で20分間処理することにより、粒子が分散した液を得た。
【0121】
上記の分散処理完了後10分以内に、前記分散液を光路長3mmのパイレックス(登録商標)製セルに採取し、日本電色工業社製ヘーズメーター300Aを用いて全光線透過量(光透過度)およびHaze値を測定した。尚分散液の測定に先立ち、光路長3mmのパイレックス(登録商標)製セルに、用いた溶媒を単独で採取して測定を行い得られた光線透過度を、光線透過度100%となるように補正して分散液の測定値とした。
【0122】
尚、各測定につき、測定セル中に採取した同じ液を用いて1分間隔で2回測定を行い、前記測定値に5%以上の差が出た場合は分散不良もしくは粒子の沈降が起こっていると見なし、再度前記分散処理を実施した後、再び測定を行った。測定は繰り返し回数n=3で行い、平均値を以って各測定値とした。測定に用いた溶媒、溶媒の光線透過度、および測定結果を表4に示す。
【0123】
【表4】

なお、実施例及び比較例では、下記の成分を用いた。
【0124】
(A)非晶性のオレフィン系樹脂
A1:環状オレフィン系樹脂:シクロオレフィンコポリマー(TAP社製、環状ポリオレフィン系樹脂TOPAS(登録商標) 5013S−04
ガラス転移温度 140℃
全光線透過度 91%
屈折率 1.53
A2:環状オレフィン系樹脂:シクロオレフィンコポリマー(TAP社製、環状ポリオレフィン系樹脂TOPAS(登録商標) 8007F−04
ガラス転移温度 80℃
全光線透過度 91%
屈折率 1.53
【0125】
(B)極性を有する熱可塑性樹脂
B1:ポリメタクリル酸メチル樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製、デルペット720V)屈折率 1.49
B2:ポリアミド(ナイロン12)樹脂(ダイセルデグサ製、ベスタミドL1800)
B3:エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業(株)製、ソアノールDC3212)
【0126】
(C)マトリックス成分
オリゴ糖C1−1:デンプン糖(東和化成工業(株)製、還元デンプン糖化物PO−10)
環状多糖類C1−2:クラスターデキストリン(日本食品化工(株)製)
糖アルコール(水溶性可塑化成分)C2−1: ソルビトール(東和化成工業(株)製、ソルビット(登録商標))。
【図面の簡単な説明】
【0127】
実施例2で得られた複合複合粒子を染色した状態(粒子の断面)の透過型電子顕微鏡写真((日本電子(株)製、TEM、JEM−1200EXII)を用いて撮影したもの)を
【図1】に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が5重量%以下である非晶性高分子からなるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、及び極性を有する熱可塑性樹脂(B)からなる略球状の微粒子であり、その数平均粒径が1μmから5,000μmであり、オレフィン系熱可塑性樹脂(A)をコア、極性を有する熱可塑性樹脂(B)をシェルとするコアシェル状の構造を有する複合粒子。
【請求項2】
微粒子を構成するオレフィン系熱可塑性樹脂(A)の屈折率で極性を有する熱可塑性樹脂(B)の屈折率を除した比が0.98以下であるか、または1.02以上である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と極性を有する熱可塑性樹脂(B)の重量比率が、50/50〜99/1の範囲である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項4】
粒子としての吸湿率が0.5重量%以下である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項5】
エポキシ系接着剤樹脂に微粒子20重量%を分散させた際の、硬化後の接着剤の凝集破壊強度が、樹脂(A)単独からなる粒子を用いた場合と比較して、20%以上向上する請求項1に記載の複合粒子。
【請求項6】
下記の測定方法で測定した光線透過度が80%以上でかつ、ヘイズ値が60%以上である請求項2に記載の複合粒子。
(光線透過度及びヘイズ値測定方法)
極性を有する熱可塑性熱可塑性樹脂(B)を溶解しない溶媒に0.1体積%の粒子を分散させて、JIS K7361−1;1997に定めるシングルビーム測光器を用いて光路長3mmのパイレックス(登録商標)製のセルを用いて測定する。ただし、測定セルに該溶媒を充填して測定した際の光線透過度を光線透過度100%として測定に先立補正しておく。

【図1】
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【公開番号】特開2008−174706(P2008−174706A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118429(P2007−118429)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】