説明

非構造RNA切断酵素と、これを用いた非構造RNAの切断方法ならびに一塩基多型の解析方法

【課題】 種々の非構造RNAを効率よく切断(断片化)することができる、新しい非構造RNA切断酵素、これを用いた非構造RNAの切断方法を提供し、さらには、一塩基多型の解析方法をも提供する。
【解決手段】 非構造RNAを切断する活性を有するポリペプチドであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非構造RNA切断酵素と、これを用いた非構造RNAの切断方法ならびに一塩基多型の解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、RNAに作用する酵素であるtRNase Z(3’-tRNase: EC 3.1.26.11)は、tRNA前駆体、micro tRNA前駆体、これらに類似したRNA複合体等のように、高次構造を形成する構造RNAにのみ作用して切断し、これらtRNA前駆体(以下、pre-tRNAと総称することがある)を成熟RNAとすることが知られている(たとえば、特許文献1)。また、tRNase Zは、ほぼ全ての細胞内に存在し、主にtRNA 3'成熟のために作用することが報告されている(非特許文献1〜5)。通常、このtRNase Zは、pre-tRNAから識別塩基の後ろにある3'トレーラーを切断させて切り離すが、この識別塩基はtRNAヌクレオチジルトランスフェラーゼによりCCA残基が追加される部分となっている。しかし、例外的にThermotoga maritima由来のtRNase Zは、74CCA76塩基配列を含むpre-tRNAをA76残基の後ろで正確に切断させ、成熟3'-末端を形成する(非特許文献4)。
【0003】
このtRNase Zは、300-400アミノ酸により形成される短いフォーム(以下、tRNase ZS)と、800-900アミノ酸により形成される長いフォーム(以下、tRNase ZL)との2つのグループに分類することができる(非特許文献6)。そして、細菌や古細菌のゲノムに含まれるのは、tRNase ZSの遺伝子のみであり、その一方で、真核細胞のゲノムにはtRNase ZLだけをエンコードするものと、両方のフォームをエンコードするものとがある。
【0004】
tRNase ZLのC末端は、tRNase ZSの全領域に対して高い類似性がみられ、またこれらの領域には保存性の高いヒスチジンモチーフが含まれており、このモチーフがtRNase Z活性に不可欠であることがT. maritimaとDrosophila melanogaster由来の酵素について示されている(非特許文献4、7)。公知のシーケンス分析法によれば、tRNase Zはメタロ-β-ラクタマーゼスーパーファミリーに属すると考えられており、T. maritimaならびにBacillus subtilisのtRNase ZSの結晶構造は、メタロ-β-ラクタマーゼに典型的に見られる四層αβ/βαサンドイッチ折り畳み構造であることが明らかになっている(非特許文献8、9)。結晶構造では、これらのtRNase ZSはホモダイマーとして存在し、ヒスチジンモチーフを含む触媒中心に金属イオンが配位されている。提示されているpre-tRNA結合に対するモデルによると、1個ないしは2個のpre-tRNA分子が、酵素ダイマーの陽性に荷電した表面に結合するといわれている。
【0005】
また、ヒトとArabidopsis thalianaのゲノムには、tRNase ZSとtRNase ZLの遺伝子が両方とも含まれていることから、細胞内では長短の各フォームが異なる役割を果たしていると推測される。tRNase ZLは、tRNase ZSの2倍ほどの大きさを有し、またpre-tRNAのプロセシング反応に不可欠ではない特別なN末端領域を保有しているということから、長いフォームには、さらに別の役割が存在する可能性が示されるという報告がなされている(たとえば、非特許文献3)。実際に、tRNase ZLだけが、酵素と3'-欠失tRNA間で比較的安定な複合体を形成することによって4塩基を認識するRNAカッター(RNase 65)として機能することができる(非特許文献10)。
【0006】
また、アンチコドンとDアームを保有しない微小pre-tRNAと、短い二重鎖RNAは、tRNase ZLの基質ではあるが、tRNase ZSの基質ではない(非特許文献6、11)。ヒトtRNase ZLは、γ-チューブリン複合体に物理的に相互作用することが示されている(非特許文献12等)。
【0007】
酵母のSaccharomyces cerevisiaeのゲノムにはtRNase ZLの遺伝子のみが含まれている(非特許文献13)。酵母には、エキソリボヌクレアーゼを用いてpre-tRNAの3'トレーラーを除去するバックアップ系が存在すると考えられていることから(非特許文献14)、酵母のtRNase ZLは、pre-tRNAのプロセシング以外の役割を果たす可能性が考えられている。これに対して、大腸菌Escherichia coliのゲノムには、tRNase Z(または、RNase BN)のみならず5個のエキソリボヌクレアーゼに対する遺伝子が含まれており、これらは3'トレーラーの除去によるCCA末端の生成に関係している(非特許文献15、16)。E. coliのtRNase Zは、pre-tRNAを識別塩基のすぐ下流(3’側)で切断させるが(非特許文献4)、これは有核細胞のpre-tRNAのようにCCA塩基配列を持たないT4バクテリオファージpre-tRNAの3'成熟に必須である(非特許文献17)。
【0008】
しかしながら、tRNase Zの機能は、上記のとおり、構造RNAであるpre-tRNAを切断(切断、断片化)させる以外は、全く知られていない。
【特許文献1】特開平9-19289号公報
【非特許文献1】Nucleic Acids Res., 25, 1148-1155 (1997)
【非特許文献2】EMBO J., 21, 2769-2777 (2002)
【非特許文献3】Nucleic Acids Res., 31, 2272-2278 (2003)
【非特許文献4】J. Biol. Chem., 279, 15688-15697 (2004)
【非特許文献5】Nucleic Acids Res., 32, 255-262 (2004)
【非特許文献6】Nucleic Acids Res., 32, 4429-4438 (2004)
【非特許文献7】J. Mol. Biol., 350, 189-199 (2005)
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 280, 14138-14144 (2005)
【非特許文献9】Nature, 433, 657-66l (2005)
【非特許文献10】Nucleic Acids Res., 23, 3642-3647 (1995)
【非特許文献11】J. Biol. Chem., 280, 22326-22334 (2005)
【非特許文献12】Int. J. Cancer, 104, 283-288 (2003)
【非特許文献13】BMC Mol. Biol., 6, 12 (2005)
【非特許文献14】Cell, 89, 393-402 (1997)
【非特許文献15】Cell, 86, 503-512 (1996)
【非特許文献16】J. Biol. Chem., 280, 16542-16545 (2005)
【非特許文献17】Cell, 5, 389-400 (1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本願発明の発明者は、3'-tRNase(すなわち、本願発明におけるtRNase Z)についてさらに研究を続けたところ、E. coli由来のtRNase Zや、B. subtilis、T. maritima等、種々の生物種を由来とするtRNase Zが、種々の特定の高次構造が予想されない非構造RNAをin vitroで切断・断片化するという、tRNase Zの新規の機能を見出した。
【0010】
本願発明は、発明者による以上のとおりの新規な知見に基づき、種々の非構造RNAを効率よく切断・断片化することのできる、新しい非構造RNA切断酵素を提供し、また、この非構造RNA切断酵素を用いた非構造RNAの切断方法、さらには、一塩基多型の解析方法等を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、第1には、非構造RNAを切断する活性を有するポリペプチドである非構造RNA切断酵素であることを特徴とし、第2には、上記第1の発明において、少なくともCCA塩基配列を認識して、非構造RNAを切断する活性を有することを特徴とし、さらに、第3には、上記第1または第2の発明において、ポリペプチドは、好熱菌Thermotoga maritima由来であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本願発明は、第4には、上記第1から第3いずれかの発明である非構造RNA切断酵素を、非構造RNAに接触作用させることで、非構造RNAを切断する方法であることを特徴とする。また、第5には、上記第1から第3いずれかの発明である非構造RNA切断酵素を、蛍光物質で標識化されている非構造RNAに接触作用させ、この蛍光標識化非構造RNAを切断することを特徴とする。
【0013】
さらにまた、本願発明は、第6には、上記第1から第3いずれかの発明である非構造RNA切断酵素を、細胞から抽出したtotalRNAに接触作用させて切断し、電気泳動法でこの切断されたtotalRNAの切断パターンを解析することで、一塩基多型を解析する方法であることを特徴とする。
【0014】
そして、本願発明は、第7には、上記第1から第3いずれかの発明である非構造RNA切断酵素を、RNAウイルスに接触作用させ、RNAウイルスのRNAを切断し、RNAウイルスを不活化する方法であることも特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
第1から第3の発明によれば、種々の非構造RNAを効率よく切断(断片化)することができる。
【0016】
第4の発明によれば、非構造RNAを効率よく切断(断片化)することができ、さらに、第5の発明によれば、蛍光標識化された非構造RNAを効率よく切断して断片化することで、たとえば、DNA等のオリゴヌクレオチドマイクロアレイに適用可能な小さめのRNA断片を作成することができる。
【0017】
第6の発明によれば、特定の塩基配列(たとえば、T. maritima由来のtRNase Zが認識するCCA塩基配列)を認識する非構造RNA切断酵素とし、全ての細胞から抽出したtotal RNAを切断して生成物を分析することにより、前記特定の塩基配列(たとえば、前記CCA塩基配列)のコンテキスト内における単一ヌクレオチド変化を同定、すなわち、個体間における1遺伝暗号の違いを意味する一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)を解析することができる。
【0018】
第7の発明によれば、RNAウイルス、特に病原性RNAウイルスを効率よく不活化して、RNAウイルスによる疾患を予防することや、治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0020】
なお、本願発明において、「タンパク質」および「ペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。また「ポリヌクレオチド」とは、プリンまたはピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が100個以上結合した分子をいう。
【0021】
本願発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。また、本願発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。たとえば、本願発明において使用する遺伝子工学および分子生物学的技術は、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている。
【0022】
本願発明は、本発明者が、E. coliや、B. subtilis、T. maritima等、種々の生物種を由来とするtRNase Zが、特定の高次構造を予測できない非構造RNAを切断させる能力の有無について研究し、in vitroでtRNase Zが様々な非構造RNAを実際に切断させることを見出し、これに基づいてなされたものである。ここで、本願発明においての「非構造RNA」とは、たとえば、mRNA等の一本鎖RNAはもちろん、特異的構造を含めたその他のあらゆるRNAの一本鎖部分も含まれる。また、たとえば、T7 Promoterを含むDNAオリゴを鋳型として、T7 RNA polymeraseを用いてin vitro転写で合成する等のように遺伝子工学的に合成した合成RNAも含まれる。
【0023】
したがって、本願発明の非構造RNA切断酵素は、具体的には、非構造RNAを切断する活性を有するポリペプチド(tRNase Z)であることを特徴とするものである。
【0024】
あるいは、本願発明の非構造RNA切断酵素は、CCA塩基配列を含む非構造RNAにおいて、少なくとも前記CCA塩基配列を認識して、そのすぐ下流である3’側で非構造RNAを切断する活性を有するポリペプチド(tRNase Z)であることを特徴とし、このとき、このポリペプチドが、好熱菌であるT. maritima由来であることで、より確実にCCA塩基配列を認識して、非構造RNAを切断、断片化することができる。しかも、T. maritima由来のtRNase Zは、80℃条件下でも高活性であることから、変性条件下でRNAを処理しなければならない場合にも有利である。
【0025】
なお、本願発明の非構造RNA切断酵素は、上記のとおり、tRNase Zのポリペプチドであることから、非構造RNA切断酵素、ポリヌクレオチドそれぞれを、「tRNase Z」と表記することがある。
【0026】
また、本願発明におけるポリヌクレオチド(tRNase Z)は、非構造RNAを切断、断片化する活性を有していればよく、1以上のアミノ酸残基の欠失、付加、他のアミノ酸残基への置換等を含むポリペプチドをコードするものであってもよい。また、そのようなアミノ酸変異を含むものとして、人工的に合成したポリヌクレオチドであってもよい。さらに、たとえば、300-400アミノ酸により形成される短いフォーム(tRNase ZS)と、800-900アミノ酸により形成される長いフォーム(tRNase ZL)であってもよい。
【0027】
これらのポリヌクレオチド(tRNase Z)は、公知の配列情報に基づき、公知の方法で取得することができる。たとえば、B. subtilis由来(GenBank Accession No. Z99116)、ブタ由来(J. Mol. Biol., 312, 975-984 (2001))、E. coli、T. maritima、P. aerophilum、ヒトに由来する各種の組換えtRNase ZS、酵母ならびにヒトに由来する組換えtRNase ZL(Nucleic Acids Res., 31, 2272-2278 (2003)やJ. Biol. Chem., 279, 15688-15697 (2004))等が知られている。
【0028】
したがって、たとえば、本願発明におけるポリヌクレオチド(tRNase Z)をcDNAとして取得する場合には、公知の方法(Mol. Cell Biol. 2, 161-170, 1982; J. Gene 25, 263-269, 1983; Gene, 150, 243-250, 1994)を用いてcDNAを合成し、上記のような公知の配列情報に基づいて作成したプローブDNAを用いて、それぞれのcDNAを単離する方法によって取得することができる。また、プライマーセットを用い、各種細胞から単離したmRNAを鋳型とするRT-PCR法によっても各cDNAを得ることができる。得られたcDNAは、たとえば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBN(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法等の通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。
【0029】
そして、前記ポリヌクレオチドをインビトロ転写するためのベクター、あるいは適当な宿主を形質転換するためのベクターを用いて、前記ポリヌクレオチドを保有する組換え発現ベクターを作成することもできる。また、たとえば、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞に前記の組換え発現ベクターを公知の方法で導入することで、形質転換細胞も作成することができる。さらに、前記ポリヌクレオチドを、前記の発現ベクターまたは形質転換細胞からの組換えタンパク質として、公知の方法で取得することもできる。
【0030】
次に、これら発現ベクター、形質転換細胞、組換えタンパク質(すなわち、組換えtRNase Z)について説明する。
【0031】
本願発明における、上記組換えtRNase Zをインビトロ転写翻訳で発現させる場合には、前記のポリヌクレオチドを、RNAポリメラーゼプロモーターを有するベクターに挿入して組換え発現ベクターを作成し、このベクターを、プロモーターに対応するRNAポリメラーゼを含むウサギ網状赤血球溶解物や小麦胚芽抽出物等のインビトロ翻訳系に添加すれば、組換えtRNase Zタンパク質をインビトロで生産することができる。RNAポリメラーゼプロモーターとしては、T7、T3、SP6等が例示できる。これらのRNAポリメラーゼプロモーターを含むベクターとしては、pKA1、pCDM8、pT3/T7 18、pT7/3 19、pBluescript II等が例示できる。
【0032】
組換えtRNase Zを、大腸菌をはじめとする微生物で発現させる場合には、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有するベクターにポリヌクレオチドを組換えた発現ベクターを作成し、この発現ベクターで宿主微生物を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、そのポリヌクレオチドがコードしているtRNase Zを微生物中で発現させることができる。このとき、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。大腸菌用発現ベクターとしては、たとえば、pUC系、pBluescript II、pET発現システム、pGEX発現システム等が利用できる。
【0033】
組換えtRNase Zを真核細胞で発現させる場合には、前記のポリヌクレオチドを、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターに挿入して組換え発現ベクターを作成し、真核細胞内に導入すれば、tRNase Zを形質転換真核細胞で発現させることができる。発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pMSG、pYES2等が例示できる。また、pIND/V5-His、pFLAG-CMV-2、pEGFP-N1、pEGFP-C1等を発現ベクターとして用いれば、Hisタグ、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として、tRNase Zを発現させることもできる。真核細胞としては、サル腎臓細胞COS7、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHOなどの哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞等が一般に用いられるが、本願発明におけるtRNase Zを発現できるものであれば、いかなる真核細胞でもよい。
【0034】
なお、発現ベクターを真核細胞に導入するには、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を用いることができる。
【0035】
tRNase Zを原核細胞や真核細胞で発現させた後、培養物から目的タンパク質を単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。たとえば、ウレア(尿素)等の変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈殿法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0036】
なお、以上の方法によって得られる組換えtRNase Zには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。たとえば、グルタチン−S−トランスフェラーゼ(GST)や緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質等が例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたポリペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたRNase Zも、本願発明の非構造RNA切断酵素として機能するのであれば、本願発明の範囲に含まれる。このような翻訳後修飾としては、たとえば、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化等が挙げられる。
【0037】
また、本願発明は、上記のような特徴を有する非構造RNA切断酵素を、非構造RNAに接触作用させることで、種々の非構造RNAを効率よく切断することができる。
【0038】
また、上記のような特徴を有する非構造RNA切断酵素を、蛍光物質やRI等で予め標識化されている非構造RNA(標識化非構造RNA)に接触作用させ、この標識化非構造RNAを切断することで、たとえば、DNA等のオリゴヌクレオチドマイクロアレイに適用可能な小さなRNA断片を、効率よく作成することもできる。
【0039】
ここで、非構造RNA切断酵素を非構造RNAに接触作用させる際の環境条件(緩衝液の種類やpH条件、温度条件等)は、非構造RNA切断酵素の至適条件に合わせて適宜に調整することができる。また、前記蛍光物質としては、fluorescein、SYBER green、POPO-3等が例示できる。
【0040】
さらに、本願発明は、上記の特徴を有する非構造RNA切断酵素を、細胞から抽出したtotalRNAに接触作用させて切断、断片化して、この切断(断片化)されたtotalRNAを、各種公知の蛍光物質や色素物質、放射性物質(RI物質)等で標識化し、シークエンスゲル等の各種の電気泳動法を利用して、この切断・断片化されたtotalRNAの切断パターンを解析することで、個体間における1遺伝暗号の違いを意味する一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)を解析することもできる。ここで、電気泳動法とは、たとえば、ゲル電気泳動法、SDS-PAGE、キャピラリー電気泳動法等が挙げられる。
【0041】
また、特に、この一塩基多型の解析方法については、使用する非構造RNA切断酵素の由来がT. maritimaである場合、CCA塩基配列を認識して、この塩基配列のすぐ下流(3’側)で切断することから、CCAのいずれかの塩基に入った遺伝子多型を検出、解析することができる。なお、たとえば、E. coli、B. subtilis、酵母、ヒト、ブタ由来の本願発明の非構造RNA切断酵素においては、UまたはCの前後(上流(5’側)、下流(3’側))で切断が生じやすい。
【0042】
以上のように、本願発明の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、in vitroで非構造RNAを切断できることから、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)にはストレス条件下で細胞内の非構造RNAをプロセシングまたは分解する作用があるという可能性が考えられる。
【0043】
さらにまた、本願発明の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、その発現により、プログラム化細胞死を生じるE. coliトキシンMazF等のようなmRNAインターフェラーゼとして機能する可能性も考慮できる。したがって、本願発明の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、RNAウイルス、その中でもたとえば、C型肝炎ウイルス(HCV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)等の病原性RNAウイルスに接触作用させることで、RNAウイルスの遺伝情報であるRNAを切断・断片化して、RNAウイルスを効率よく不活化することができ、ひいては、病原性RNAウイルスによる疾患を予防したり、治療したりすることもできる。
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0045】
実施例1:非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の作成、精製
(1)B. subtilis由来のtRNase Zの発現プラスミドの構築
B. subtilis RNase Zの全長コーディング領域(927bp)をゲノムからPCR増幅した。プライマ対には、5'-GGATCCATGGAATTACTTTTTTTAGG-3'(配列番号1)と5'-AAGCTTTTATCAGCCTCGCGGGACGTTTA-3'(配列番号2)を用いた。増幅した遺伝子を、発現ベクターであるpQE-80L(Quiagen社製)のBamH I部位とHind III部位間でクローンニングした。そして、公知のシークエンス解析方法で、インサート領域が公知であるシーケンス(GenBank Accession No.Z99116)と同一であることを確認した。
(2)各種由来のRNase Zの発現と精製
ブタ由来のRNase ZLは、J. Mol. Biol., 312, 975-984 (2001) にしたがって肝臓から精製した。
【0046】
また、E. coli、B. subtilis、T. maritima、P. aerophilum、ヒトに由来する各種の組み換えRNase ZSと、酵母ならびにヒトに由来する組み換えRNase ZLは、Nucleic Acids Res., 31, 2272-2278 (2003)やJ. Biol. Chem., 279, 15688-15697 (2004) にしたがってE. coli細胞から生成した。
(3)切断対象(基質)となる非構造RNAの合成
切断対象となるRNAは、T7 RNAポリメラーゼ(Promega社製)を用いてプロモーターを含む合成DNAよりin vitro合成した。転写反応は、製造元であるPromega社の推奨条件にしたがって実施し、転写されたRNAはゲル精製した。
【0047】
基質となる合成非構造RNAは、図1に示したとおり、usRNA1〜usRNA10であり、さらに、図には示していないがusRNA11も合成した。
【0048】
具体的な配列は以下のとおり:
配列番号3として、usRNA1 (24 nt) : 5'-GAGUGACUACCUCCAAGGCCCUUU-3'
配列番号4として、usRNA2 (24 nt) : 5'-GAGUGACUACCUCCAAGGGGAUUU-3'
配列番号5として、usRNA3 (28 nt) : 5'-GAGAAUGCUGCCGGGCUCGCGGAUUUUU-3'
配列番号6として、usRNA4 (39 nt) : 5'-GUACAGCAUGACGGGUCAAUACCUCCAAUUACAUACACC-3'
配列番号7として、usRNA5 (26 nt) : 5'-GAGAAUGCUGCCGGGCUCGCCCAUUU-3'
配列番号8として、usRNA6 (26 nt) : 5'-GAGAAUGCUGCCGGGCUCGCUUUCCA-3'
配列番号9として、usRNA7 (24 nt) : 5'-GAGUGACUACCUCCAAGGCCCGGA-3'
配列番号10として、usRNA8 (43 nt) : 5'-GGUAACCUCCUGCUGCCGGGCUCGCGUGACAAGGCCCGGAUUU-3'
配列番号11として、usRNA9 (22 nt) : 5'-GCCUGGCUGGCUCGGUGUAUUU-3'
配列番号12として、usRNA10 (40 nt) : 5'-GAAUACGCAUGCUAGCAUGCUGCCGGUGAAAGCUUGAUGU-3'
配列番号13として、usRNA11 (182 nt) : 5'-GAGGAGUUGUGUAUUGUGGACGAAGUACCGAAAGGUCUUACCGGAAAACUCGACGCAAGAAAAAUCAGUAGAGAUCCUCAUAAAGGCCAAGAAGGGCGGAAAGAUCGCCGUGUAAUUCUAGAUCAUAGACCUGUACAAUGCUGCUGGCCGGCCGCUUCGAGCAGACAUGAUAAGAUACAUUG-3'
である。
(4)合成したRNAの標識化
転写されたRNAは、製造元であるAmersham Pharmacia Biotech社のプロトコルにしたがって、フルオレセインで標識化した。
【0049】
具体的には、微生物由来のアルカリフォスファターゼ(Takara Shuzo社製)を用いて転写物の5'-リン酸を除去してから、ATPγSとT4ポリヌクレオチドキナーゼ(Takara Shuzo社製)を用いて転写物をリン酸化した。
【0050】
次に5'-ホスホロチオエート部位に単一のフルオレセイン基を添加し、標識化を行った。この標識化したRNAは、ゲル精製した後にアッセイに用いた。
(5)RNAの切断アッセイの条件
上記のフルオレセイン標識化RNAに対するRNA切断反応は、10mM Tris-HCl(pH 8)と1.5mMジチオスレイトールとの反応液に、0-50 mM MnCl2、0-20 mM MgCl2、0-90mM NaCl、または、0-200 mMスペルミジンを添加した反応混合液(6μl)中で、各種起源のRNase Z存在下で行った。
【0051】
そして、反応産物を、10-20%ポリアクリルアミド-8M尿素ゲル上に展開してから、Typhoon 9210(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いてゲルを分析した。
(6)ゲルシフトアッセイの条件
tRNase Z/基質複合体の解離定数を検証するため、10mM Tris-HCl(pH 7.5)、1.5mMジチオスレイトール、1.0mM MnCl2を含む緩衝液(6μl)中、様々な量(0.6-320 pmol)のtRNase Z存在下で、蛍光標識化RNA(0.18-1.8 pmol)を基質とし、4℃で10分間インキュベートした。
【0052】
インキュベーション後に、上記のサンプルを等量のローディングバッファー(10mM Tris-HCl、pH 7.5、1mM EDTA、50%グリセロール)と混合し、TBE緩衝液(90mM Tris-base、90mMホウ酸、1.5mM EDTA(pH 8.3))の存在下、5%未変性ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動を行った。電気泳動後にTyphoon 9210を用いてフルオレセイン標識化RNAの定量を行った。
実施例2:基質である非構造RNAの切断アッセイ
(1) まず、24塩基長の非構造RNAであるusRNA1(図1)を基質として、E. coliヒスチジンタグ化した、本願発明の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によるin vitro切断を検証した。この基質について、RNA分子の最適および準最適2次構造を複数予測するMFoldを用いたコンピュータ計算を行ったところ、安定構造は全く予測されなかった。
【0053】
フルオレセインを用いてusRNA1を5'末端で標識し、Mn2+存在下で、非構造RNA切断酵素とともに52℃でインキュベートした。その結果、非構造RNA切断酵素は、非常に効率的に基質(フルオレセイン標識化usRNA1)を切断し、その切断位置は、21番目のヌクレオチドのシチジン(C)の下流と、12番目のヌクレオチドのウリジン(U)の少し下流であった(図2A)。
【0054】
他の非構造RNAである24-39塩基長のusRNA2-4の3種類(図1)についても同様な検証を行ったところ、これらの基質全てを切断、断片化した(図2B)。同様にさらに2種類の基質、すなわち、43塩基長のusRNA8と22塩基長のusRNA9も、本願発明の非構造RNA切断酵素によって切断された(図1と図3)。
【0055】
以上の結果から、E. coli tRNase Zは、pre-tRNA以外のRNAを切断できることが示された。
(2) そして、上記の各種非構造RNAの切断が、どのような由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によって生じるかどうか検証するため、ここでは、まず、B. subtilisとT. maritimaに由来する2種類の真正細菌のtRNase ZがusRNA1を切断するかどうかを検証した。
【0056】
いずれの酵素もusRNA1を非常に効率的に切断させたが、その部位は異なっていた(図4A)。B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素の主な切断部位は、E. coli由来の非構造RNA切断酵素の場合と同一であったが、図4における実験条件では、12番目のヌクレオチド以後のマイナーな切断は検出されなかった。
【0057】
T. maritima由来のtRNase Zは、usRNA1を複数部位で切断させた(図1)。
【0058】
また、図4Bに示すとおり、両方のtRNase Zは、usRNA2-4も切断した(図1)。さらに他の6個の基質、すなわち非構造RNA(usRNA5-10)についても、両方の酵素による切断を検証したところ、同様にこれらの基質は全て切断し、これらはほとんどの場合、複数部位であり効率は様々であった(図5)。
【0059】
B. subtili由来の非構造RNA切断酵素による切断部位は、E. coli由来の酵素の場合とほぼ同一であったが、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素による基質切断パターンは、ほとんどの基質において、前者2種類の非構造RNA切断酵素と異なっていた。
(3) さらに、基質(非構造RNA)にCCA塩基配列が含まれる場合には、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)を接触作用させると、他の部位の切断に加えて、不可避的にCCAのすぐ下流(3’側)で切断が生じた(図1)。
【0060】
以上の結果から、真正細菌由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、全般的に非構造RNAを切断する能力があるということが確認できた。
(4) さらにまた、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の切断部位の選択と非構造RNA認識のメカニズムについて考慮すると、たとえば、E. coliとB. subtilisの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)を比較した場合、本実施例で試験した非構造RNAの主な切断部位は、ほぼ同一であった(図1)。この切断部位周辺にコンセンサスシーケンスは認められなかったが、これらE. coliとB. subtilisの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)が、シチジン(C)の後ろ、または、ウリジン(U)の前で切断させる傾向がみられた。
【0061】
B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)に対するpre-tRNAドッキングモデルによれば、陽性に荷電したフレキシブルアームとT-アームの間、そして活性部位付近の陽性に荷電した表面と受容体ステム間における相互作用を介して酵素がpre-tRNAを認識すると考えられる(Nature, 433, 657-66l (2005))。酵素が、フレキシブルアームにより非構造RNAを挟むという可能性は低いため、非構造RNAは陽性に荷電した中央領域に結合することが推測される。したがって、Kd値が10倍ほど増大したのは、このように制限された相互作用が原因であることが推測できる。
【0062】
切断しやすいヌクレオチドの優先性は、切断しやすいヌクレオチドと相互作用する活性部位アミノ酸残基の性質により説明されることになる。同様に、E. coliの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、非構造RNAと相互作用することになると思われるが、これはいずれの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)も高いシーケンス類似性を有するためである。
(5) 対照的に、T. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、シーケンス優先性を示しており、基質である非構造RNAをCCAシーケンスの後ろ(下流)で不可避的に切断させるが、これはT. maritimaのpre-tRNAを切断する場合と全く同様であった。この作用は、触媒中心に位置するCCA結合ドメインに対する相互作用が原因である可能性が最も高いことが推測できる。また、B. subtilisの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)と同様に、非構造RNAは陽性荷電した酵素表面に結合することが考慮できる。
(6) そして、その由来にかかわらず、本願発明の非構造RNA切断酵素の実施形態の一つであるtRNase ZLは、非構造RNAであるusRNA1を同じ部位で切断させ、この切断はシチジン(C)の後ろ(下流)で生じた。真正細菌の非構造RNA切断酵素の実施形態の一つであるtRNase ZSと比較した切断パターンの差異は、追加されたN末端半分ドメインとの相互作用、あるいはC末端半分ドメインにある未解明の真核生物特異的なモチーフとの相互作用が一因となっている可能性があると推測できるが、これはヒトの非構造RNA切断酵素の実施形態の一つRNase ZSの切断パターンが、真正細菌と真核生物の長いフォームによるパターンを組み合わせたものになっているためである。
実施例3:非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の最適条件の検証
(1) 非構造RNA切断の最適条件を検証するため、B. subtilisとT. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)を用いて、各種濃度のMnCl2、MgCl2、NaCl、スペルミジン存在下、あるいは各種温度条件下でのusRNA1切断を検証した。
(2) B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、0-50mM MnCl2の範囲で高活性となり、1-5mM付近で最大活性を示したが、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、0.05mM MnCl2で最大活性となり、MnCl2非存在下では活性が消失した(図6A)。
(3) MgCl2に関しては、B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、0-0.2mMで高活性となったが、3mM以下の条件では非常に活性が弱くなり、同時に12ヌクレオチドの追加生成物を生じた。これに対して、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、試験範囲内でほぼ不活性であった(図6B)。
(4) B. subtilisの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による21ヌクレオチドの主要生成物は、6mM NaCl付近で最も有効に生成されたが、90mM付近で12ヌクレオチドの追加生成物が増加していた。一方、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)では、試験範囲内で12ヌクレオチド生成物がわずかに検出されるだけであった(図6C)。全体的に見て非構造RNA切断における金属イオン依存性は、E. coliとT. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によるpre-tRNA切断の場合と比べて非常に異なっていた。
(5) そして、スペルミジン存在下では、T. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による12ヌクレオチド生成物は、0.2mM条件下でわずかに確認できただけであり、B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による21番目ヌクレオチドの後の切断は、0.02-200mMの範囲内で大幅に阻害された(図6D)。この阻害効果の原因は、おそらくスペルミジンの補助による基質RNA折り畳み効果によるものであることが推測できる。
(6) さらに、活性の温度依存性を調べるため、10分間にわたり反応温度で酵素をプレインキュベートし、酵素混合液に非構造RNA基質を添加してからさらに2分間同じ温度でインキュベーションを行った。
【0063】
その結果、図6Eに示すように、65℃までは温度上昇に伴っていずれの酵素活性も増加した。
実施例4:非構造RNA切断酵素(tRNase Z)に対する非構造RNAの親和性の検証
(1) 本実施例では、シングルターンオーバー条件でのusRNA1切断に対する見かけ上の速度定数kobsと、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)/usRNA1複合体の解離定数Kdを測定した。
(2) B. subtilis由来の非構造RNA切断酵素のkobs値は、T. maritima由来の非構造RNA切断酵素の値より3倍ほど大きく、これらのkobs値は、pre-tRNA切断の場合と比較してそれぞれ2倍ほど大きいか、2倍ほど小さかった(表1)。
(3) これらの結果から、非構造RNAとpre-tRNAを基質として比較した場合、また非構造RNA切断酵素間を比較した場合に、ホスホジエステル切断段階のメカニズムには有意差がないことが示された。
【0064】
対照的に、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)/pre-tRNA複合体の値と比較して、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)/usRNA1複合体のKd値は、それぞれ約10倍と約1000倍増加している(表1)。このように、Kd値が、顕著に増加していることは、pre-tRNAトレーラーの非構造化遠位領域における切断がここでは検出できなかったと推測できる。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例5:長鎖非構造RNAを基質とした場合の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による切断反応の検証
(1) 非構造RNAを切断させる活性が、mRNAのプロセシングや分解に役立っているならば、非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、比較的長鎖の非構造RNAを切断させることもできることを考慮して、これを検証するため、180ヌクレオチド長のRNAであるusRNA11について、B. subtilisとT. maritimaのtRNase Zによる切断を検証した。
(2) その結果、上記のような長鎖RNA(すなわち、usRNA11)であっても、図7に例示したように、両方の酵素により複数部位で切断が見られ、また、切断パターンは明らかに異なっていた。特にusRNA11には、88-90ヌクレオチド部分に単一CCA塩基配列が含まれており、93ヌクレオチドのサイズ標準と比較すると、T. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、A塩基の後にあるCCA部分を切断していることが確認できた。
実施例6:由来の異なる非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の比較検証
(1) 真核生物由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)と古細菌由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)いずれもが、非構造RNAを切断する酵素活性を有するかどうかを検証するため、本実施例では、古細菌であるPyrobaculum aerophilum由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)、ヒト由来の非構造RNA切断酵素(tRNase ZS)、ならびに、酵母、ブタ、ヒト由来の非構造RNA切断酵素(tRNase ZL)それぞれについて、usRNA1に対する切断を検証した。
(2) その結果、P. aerophilumの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)を除いて、これらの酵素は複数部位でusRNA1のプロセシングを行うことが確認できた(図1と図8)。
【0067】
真核細胞の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)は、通常、この基質である非構造RNAを13番目と7番目のヌクレオチドの後ろ(下流)で切断させ、また、ヒトのtRNase ZSは、Mn2+存在条件下に限ってさらに20番目ヌクレオチドの後ろ(下流)で基質である非構造RNAを切断したが、後者の反応はE. coliとB. subtilisのtRNase ZSの作用と同様であった(図1と図8)。
実施例7:非構造RNA切断酵素の基質の確認
(1) 上記のとおり、各種生物由来の組換え非構造RNA切断酵素(組換えtRNase Z)が、pre-tRNA以外にも様々な非構造RNAを基質として、これら非構造RNAをin vitro切断できることを示したが、この酵素活性は、E. coliヌクレアーゼの混入によるという可能性も考えられることから、この可能性を除外するため、E. coli細胞から非構造RNA切断酵素(tRNase Z)のcDNAの存在しない発現プラスミドpQE-80LまたはpTYB11を含む2種類の異なるサンプルを調製してusRNA2の切断について検証した。
(2) その結果、ほとんど切断生成物を検出することができなかった(図9)。さらに、無関係のタンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)と、ヒト由来のtRNase ZLのN末端半分(pre-tRNAですら切断させることができない)をそれぞれpQE-80LならびにpTYB11発現系を用いて調製したが、これらは活性を示さなかった(図9)。
(3) さらにB. subtilisとT. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)について、競合アッセイを行ったところ、pre-tRNAの増量と共にusRNA2切断生成物のレベルが減少することが観察された(図10)。事実、T. maritimaの非構造RNA切断酵素(tRNase Z)については、調製の途中で80℃で20分間処理することによって混和したE. coliタンパク質を除去した後でさえ、非構造RNAに対する切断活性を示した。
【0068】
以上の結果を踏まえると、E. coliヌクレアーゼの混入可能性は除外されることになり、非構造RNAが非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の基質であることが確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本願発明の非構造RNA切断酵素における基質である各種の合成非構造RNAの塩基配列を例示した模式図である。番号1はE. coli、番号2はB. subtilis、番号3はT. maritima、番号4はヒト由来のtRNase ZS、番号5は酵母、ブタ、ヒト由来のtRNase ZLであり、これらによるMn2+存在下でのメジャー切断部位とマイナー切断部位を、それぞれ矢印と矢尻で示す。
【図2】E. coli由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による非構造RNA usRNA1-4の切断アッセイの結果を示した図である。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーを示す。(A)は、usRNA1は1mM MnCl2存在下、表示時間にわたり52℃条件下、酵素存在下で反応させた。(B)は、usRNA2-4は2分間にわたり同様の条件下でインキュベートした。
【図3】E. coli由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による非構造RNA usRNA8、9の切断アッセイの結果を示した図である。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーを示す。反応条件は、1mM MnCl2存在下、2分間にわたり52℃条件下、酵素存在下で反応させた。
【図4】E. coli由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によるusRNA1-4の切断アッセイの結果を示した図である。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーを示す。(A)usRNA1は1mM MnCl2存在下、表示時間にわたり52℃条件下、 B. subtilisあるいはT. maritima由来のtRNase Z存在下で反応させた。(B)usRNA2-4は2分間にわたり同様の条件下でインキュベートした。
【図5】B. subtilisならびにT. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による非構造RNA usRNA5-10の切断アッセイの結果を示した図である。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーを示す。反応条件は、1mM MnCl2存在下、2分間にわたり52℃条件下、酵素存在下で反応させた。
【図6】B. subtilisならびにT. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によるusRNA1切断の最適条件の検証結果を示した図である。usRNA1は各種濃度のMnCl2(A)、MgCl2(B)、NaCl(C)、スペルミジン(D)の存在下、2分間にわたり52℃条件下、 B. subtilisならびにT. maritima由来のtRNase Z存在下で反応させた。基質は各種温度条件下、1mM MnCl2存在下でインキュベートした(E)。なお、RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーであり、「I」は注入基質RNAを示す。
【図7】B. subtilisならびにT. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)による長鎖RNA usRNA11の切断アッセイの結果を示した図である。基質は1mM MnCl2存在下、3分間にわたり52℃条件下にて酵素存在下でインキュベートした。生成物は10%ポリアクリルアミド-8M尿素ゲル上で分析した。サイズ標準はバーで示し、CCA塩基配列における切断生成物は矢印で示している。usRNA11の不均一性は、T7 RNAポリメラーゼの固有特性により生じる3'-不均一性が原因である。
【図8】真核生物と古細菌由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)によるusRNA1の切断アッセイの結果を示した図である。基質は1mM MnCl2(A)または3.3mM MgCl2(B)存在下、2分間にわたり52℃条件下にて酵素存在下でインキュベートした。生成物は20%ポリアクリルアミド-8M尿素ゲル上で分析した。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、「L」はフルオレセイン標識化基質のアルカリラダーである。「Ec」はE. coli tRNase Z;「Bs」は、B. subtilis tRNase Z、「Tm」は、T. maritima tRNase Z;「Pa」は、P. aerophilum tRNase Z;「HS」は、ヒトtRNase ZS;「Sc」は、Saccharomyces cerevisiae tRNase ZL;「pig」は、ブタtRNase ZL;「HL」は、ヒトtRNase ZLを示す。
【図9】本願発明の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)の酵素活性は、E. coliヌクレアーゼの関与がないことを示した図である。RNA基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、また、「I」はinput RNA、「tRNase ZL (ΔC)」はtRNase ZLのN末端半分、「GFP」は緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein)を示す。
【図10】B. subtilisならびにT. maritima由来の非構造RNA切断酵素(tRNase Z)における、pre-tRNAとの競合アッセイの結果を示した図である。基質は蛍光標識化usRNA2であり、この基質と主要5'切断生成物はそれぞれバーと矢印で表示し、反応条件は、1mM MnCl2および各種濃度の非標識pre-tRNAの存在下で、2分間にわたり52℃条件下、酵素存在下で反応させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非構造RNAを切断する活性を有するポリペプチドであることを特徴とする非構造RNA切断酵素。
【請求項2】
少なくともCCA塩基配列を認識して、非構造RNAを切断する活性を有する請求項1に記載の非構造RNA切断酵素。
【請求項3】
ポリペプチドは、好熱菌Thermotoga maritima由来である請求項1または2に記載の非構造RNA切断酵素。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載の非構造RNA切断酵素を、非構造RNAに接触作用させることで、非構造RNAを切断することを特徴とする非構造RNAの切断方法。
【請求項5】
請求項1から3いずれかに記載の非構造RNA切断酵素を、蛍光物質で標識化されている非構造RNAに接触作用させ、この蛍光標識化非構造RNAを切断することを特徴とする非構造RNAの切断方法。
【請求項6】
請求項1から3いずれかに記載の非構造RNA切断酵素を、細胞から抽出したtotalRNAに接触作用させて切断し、電気泳動法でこの切断されたtotalRNAの切断パターンを解析することを特徴とする一塩基多型の解析方法。
【請求項7】
請求項1から3いずれかに記載の非構造RNA切断酵素を、RNAウイルスに接触作用させ、RNAウイルスのRNAを切断し、RNAウイルスを不活化することを特徴とするRNAウイルスの不活化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−53953(P2007−53953A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242703(P2005−242703)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(503143286)新潟バイオリサーチパーク株式会社 (6)
【Fターム(参考)】