説明

非水二次電池

【課題】 高容量で、充放電サイクル特性および貯蔵特性に優れた非水二次電池を提供する。
【解決手段】 正極合剤層を有する正極、負極および非水電解質を備えた非水二次電池であって、上記正極は、活物質として、Mgと、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とを含有する特定組成のリチウム含有遷移金属酸化物を有しており、上記正極合剤層は、密度が3.5g/cm以上であり、上記非水電解質が、スクシノニトリルを含有していることを特徴とする非水二次電池により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量で、充放電サイクル特性に優れ、安全性などの信頼性の高い非水二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、パソコンや携帯電話などの電源として、あるいは電気自動車や電力貯蔵用の電源として、なくてはならない重要な構成要素の一つとなっている。
【0003】
特に、携帯型コンピュータや携帯情報端末(Personal Digital Assistant)といった移動体通信用途において、さらなる小型化、軽量化が要求されている。しかし、液晶表示パネルのバックライトや描画制御によって消費される電力が高いことや、二次電池の容量が現状ではまだ不充分であることなどから、システムのコンパクト化、軽量化が難しい状況にある。特にパソコンにおいては、DVD(デジタルバーサタイルディスク)搭載などによる多機能化が進み、消費電力が増加する傾向にある。そのため、電力容量、特に単電池の電圧が3.3V以上における放電容量の増大が急務となっている。
【0004】
更に、地球環境問題の高まりとともに、排ガスや騒音を出さない電気自動車が関心を集めている。最近ではブレーキ時の回生エネルギーを電池に蓄えて有効利用したり、あるいはスタート時に電池に蓄えた電気エネルギーを使用して効率を挙げるなどのシステムを採用したパラレルハイブリッド電気自動車(HEV)に人気が集まっている。しかし、現状の電池では電力容量が低いために、電池の本数を多くして電圧を稼がなければならず、そのため、車内のスペースが狭くなったり、車体の安定性が悪くなるなどの問題が生じている。
【0005】
二次電池の中でも、非水電解液を用いたリチウム二次電池は、電圧が高く、かつ軽量で、高エネルギー密度が期待できることから注目を集めている。特に特許文献1で開示されているLiCoOに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質として、金属リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池では、4V以上の起電力を有することから、高エネルギー密度の達成が期待できる。
【0006】
しかし、現在のLiCoOを正極活物質として、負極活物質として黒鉛などの炭素材料を用いたLiCoO系二次電池では、その充電終止電圧は通常4.2V以下であり、この充電条件ではLiCoOの理論容量の約6割の充電量に留まっている。充電終止電圧を4.2Vよりも高くすることにより電力容量の増加を図ることは可能であるが、充電量の増加に伴い、LiCoOの結晶構造が崩壊して充放電サイクル寿命が短くなったり、LiCoOの結晶構造が安定性を欠くようになるため、熱的安定性が低下するなどの問題を生じることになる。
【0007】
この問題を解決するためにLiCoOに異種金属元素を添加する試みが多く行われている(特許文献2〜5)。
【0008】
また、電池を4.2V以上の高電圧領域で用いる試みも多く行われている(特許文献6〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭55−136131号公報
【特許文献2】特開平4−171659号公報
【特許文献3】特開平3−201368号公報
【特許文献4】特開平7−176202号公報
【特許文献5】特開2001−167763号公報
【特許文献6】特開2004−296098号公報
【特許文献7】特開2001−176511号公報
【特許文献8】特開2002−270238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
今後、二次電池に対しては、これまで以上の高容量化に加えて、従来以上の高い信頼性が要求される。通常、電極中の活物質含有比率を増加させたり、電極密度、特に正極合剤層密度を高めることで、電池容量を大きく改善することができるが、一方で、このような高容量化方法では電池の貯蔵特性などの信頼性が徐々に低下する問題がある。
【0011】
従って、高電力容量化の要求に応えるためには、LiCoOよりも高い起電力(電圧領域)でも、安全にかつ可逆性良く充放電を行うことができる結晶構造の安定な材料を用い、かつ、正極合剤層の高密度化を行っても、貯蔵時における電池膨れが生じないなどの信頼性を満足する電池が望まれている。
【0012】
また、従来のLiCoO正極活物質電池では、放電終止電圧を3.2Vよりも高くすると、放電末期における電位低下が大きいため完全放電をすることができず、充電に対する放電電気量効率が著しく低下する。そして、完全放電ができないために、LiCoOの結晶構造が崩壊しやすくなり、充放電サイクル寿命が短くなる。この現象は上記の高電圧領域ではより顕著に現れる。
【0013】
更に、満充電時の終止電圧を4.2V以上にする充電条件では、正極活物質の結晶構造の崩壊による充放電サイクル寿命や熱的安定性の低下以外にも、正極活物質の活性点の増加により、電解液(溶媒)が酸化分解して正極表面に不働態皮膜を形成し、内部抵抗が増加して負荷特性が悪くなる場合がある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高容量で、充放電サイクル特性および貯蔵特性に優れた非水二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成し得た本発明の非水二次電池は、正極合剤層を有する正極、負極および非水電解質を備えた非水二次電池であって、上記正極は、活物質として、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物を有しており、上記正極合剤層は、密度が3.5g/cm以上であり、上記非水電解質が、分子内にニトリル基を2以上有する化合物を含有していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の非水二次電池では、正極に係る正極合剤層の密度を特定値以上として、正極合剤層における正極活物質の充填量を高めると共に、高電圧での充電状態においても安定性の高い、特定の金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物を正極活物質に使用することで、高電圧での充電を可能としており、これらによって高容量化を達成している。
【0017】
また、上記の通り、本発明の非水二次電池に係る正極活物質は、優れた安定性を有しているため、電池の充放電を繰り返しても正極活物質の崩壊などが抑制される。これにより、本発明の非水二次電池では、優れた充放電サイクル特性を確保している。
【0018】
更に、本発明の非水二次電池は、非水電解質に、分子内にニトリル基を2以上有する化合物を含有しているが、かかる化合物は、正極の表面に作用して正極と非水電解質との直接の接触を防止する機能を有しており、これにより正極と非水電解質との反応を抑制して、該反応に伴う電池内でのガス発生を抑えることができる。よって、本発明の非水二次電池では、上記のニトリル化合物による正極と非水電解質との反応抑制作用と、安定性の高い正極活物質との使用による作用とを相乗的に機能させることで、充電状態の電池を例えば高温で貯蔵した場合の電池膨れを抑え、その貯蔵特性を高めている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高容量で、充放電サイクル特性および貯蔵特性に優れた非水二次電池を提供できる。本発明の非水二次電池は、例えば、正極電位がLi(リチウム)基準電位で4.35〜4.6Vとなるような高電圧充電が可能であり、より高出力が要求される用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の非水二次電池の一例を模式的に示す図で、(a)はその平面図、(b)はその部分縦断面図である。
【図2】図1に示す非水二次電池の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の非水二次電池は、例えば、正極合剤層を有する正極と負極とが、セパレータを介して重ねられた積層構造の電極体や、これを更に渦巻状に巻回した巻回構造の電極体などを、非水電解質と共に外装体内に封入した構成を有するものである。
【0022】
本発明の非水二次電池において、非水電解質としては、例えば、電気特性や取り扱い易さから、有機溶媒などの非水系溶媒にリチウム塩などの電解質塩を溶解させた非水溶媒系の電解液が好ましく用いられるが、ポリマー電解質、ゲル電解質であっても問題なく用いることができる。
【0023】
非水電解液の溶媒としては特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピオンカーボネートなどの鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルの混合溶媒;などが挙げられ、鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が特に適している。
【0024】
また、溶媒としては、上記エステル以外にも、例えば、リン酸トリメチルなどの鎖状リン酸トリエステル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ニトリル類、ジニトリル類、イソシアネート類、ハロゲン含有溶媒なども用いることができる。さらに、アミン系またはイミド系有機溶媒やスルホランなどのイオウ系有機溶媒なども用いることができる。
【0025】
非水電解液の調製にあたって溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiClO 、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO)、LiN(RfSO)(Rf′SO)、 LiC(RfSO、LiC2n+1SO(n≧2)、LiN(RfOSO[ここでRfとRf′はフルオロアルキル基]などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の電解質塩の中でも、炭素数2以上の含フッ素有機リチウム塩が特に好ましい。上記含フッ素有機リチウム塩はアニオン性が大きく、かつイオン分離しやすいので上記溶媒に溶解し易いからである。非水電解液中における電解質塩の濃度は特に限定されないが、例えば、0.3mol/l以上、より好ましくは0.4mol/l以上であって、1.7mol/l以下、より好ましくは1.5mol/l以下であることが望ましい。
【0026】
なお、本発明に係る非水電解液(非水電解質)では、分子内にニトリル基を2以上有する化合物を含有させることが必要である。
【0027】
上記のニトリル化合物は、電池の充電中(特に初期充電中)に正極活物質の表面に表面保護皮膜を形成する機能を有しており、かかる表面保護皮膜によって、正極と非水電解質との直接の接触が抑制される。そのため、分子内にニトリル基を2以上有する化合物を含有する非水電解質を有する本発明の電池は、充電状態で、例えば85℃程度の高温下で貯蔵しても、上記の表面保護皮膜による正極と非水電解質との直接の接触を抑制する作用によって、正極と非水電解質との反応が抑制されるため、かかる反応による電池内でのガス発生を抑えることができる。電池内における正極と非水電解質との反応によって生じるガスは、電池の膨れの原因となり、正負極間の距離を広げてしまうなどして、電池特性の低下を引き起こすが、本発明の電池は、上記ガスによる貯蔵時の電池膨れの発生を抑えることが可能であり、優れた貯蔵特性を有するものとなる。
【0028】
分子内にニトリル基を2以上有する化合物としては、例えば、分子内にニトリル基を2つ有するジニトリル化合物、分子内にニトリル基を3つ有するトリニトリル化合物などが挙げられる。これらの中でも、上記の作用(正極活物質表面での表面保護皮膜形成による正極と非水電解質との反応抑制作用)がより良好である点で、ジニトリル化合物(すなわち、分子内にニトリル基を2つ有する化合物)が好ましく、一般式NC−R−CN(ただし、Rは炭素数1〜10の直鎖または分岐の炭化水素鎖)で表されるジニトリル化合物がより好ましい。また、上記一般式におけるRは、炭素数1〜10の直鎖状の、または分岐を有するアルキレン鎖であることが更に好ましい。
【0029】
上記一般式で表されるジニトリル化合物の具体例としては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4−ジシアノヘプタン、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、2,6−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、2,7−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、2,8−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,6−ジシアノデカン、2,4−ジメチルグルタロニトリルなどが挙げられる。
【0030】
分子内にニトリル基を2以上有する化合物を含有する非水電解液の調製方法については、特に制限はなく、例えば、上記例示の溶媒に、分子内にニトリル基を2以上有する化合物と上記例示の電解質塩とを、常法に従って溶解させればよい。
【0031】
分子内にニトリル基を2以上有する化合物の添加量は、これらの化合物の添加による作用をより有効に発揮させる観点から、非水電解液全量中、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。ただし、分子内にニトリル基を2以上有する化合物の添加量が多すぎると、電池の貯蔵特性は改善されるものの、充放電サイクル特性が低下する傾向にあるため、これらの化合物の添加量は、非水電解液全量中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.75質量%以下、更に好ましくは0.5%質量以下である。
【0032】
更に、非水電解液(非水電解質)には、分子内にニトリル基を2以上有する化合物以外の添加剤も含有させることができる。このような添加剤としては、非イオン性の芳香族化合物が挙げられる。具体的には、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、オクチルベンゼン、トルエン、キシレンなどのように芳香環にアルキル基が結合した化合物;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼンなどのように芳香環にハロゲン基が結合した化合物;アニソール、フルオロアニソール、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼンなどのように芳香環にアルコキシ基が結合した化合物;フタル酸エステル(ジブチルフタレート、ジ-2−エチルヘキシルフタレートなど)、安息香酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステル;メチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのフェニル基を有する炭酸エステル;プロピオン酸フェニル;ビフェニル;などを例示することができる。中でも、芳香環にアルキル基が結合した化合物が好ましく、シクロヘキシルベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0033】
これらの芳香族化合物も、電池内において正極または負極の活物質表面に皮膜を形成することのできる化合物である。これらの芳香族化合物は1種のみを単独で用いてもよいが、2種以上を併用することにより優れた効果が発揮され、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、それより低い電位で酸化されるビフェニルなどの芳香族化合物とを併用することにより、電池の安全性向上において特に好ましい効果が得られる。
【0034】
非水電解液に芳香族化合物を含有させる方法としては、特に限定はされないが、電池を組み立てる前に予め非水電解液に添加しておく方法が一般的である。
【0035】
非水電解液中の上記芳香族化合物の好適含有量としては、例えば、安全性の点からは4質量%以上であり、負荷特性の点からは10質量%以下である。2種以上の芳香族化合物を併用する場合、その総量が上記範囲内であればよく、特に、芳香環にアルキル基が結合した化合物と、それより低い電位で酸化される化合物とを併用する場合は、芳香環にアルキル基が結合した化合物の非水電解液における含有量は、0.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上であって、8質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることが望ましい。他方、上述した芳香環にアルキル基が結合した化合物より低い電位で酸化される化合物の非水電解液における含有量は、0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であって、1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。
【0036】
更に、非水電解液に、含ハロゲン炭酸エステルなどの有機ハロゲン系溶媒、有機イオウ化合物、含フッ素有機リチウム塩、含リン系有機溶媒、含ケイ素系有機溶媒、上記の分子内にニトリル基を2以上有する化合物以外の含窒素有機化合物などの少なくとも1種の化合物を添加することによっても、電池の初期充電中に正極活物質の表面に表面保護皮膜を形成することができる。含フッ素炭酸エステルなどの有機フッ素系溶媒、有機イオウ系溶媒、含フッ素有機リチウム塩などが特に好ましく、具体的には、F−DPC[CCHO(C=O)OCH]、F−DEC[CFCHO(C=O)OCHCF]、HFE7100(COCH)、ブチルサルフェート(COSOOC)、メチルエチレンサルフェート[ (−OCH(CH)CHO−)SO]、ブチルスルフォン(CSO)、ポリマーイミド塩[〔−N(Li)SOOCH(CFCHOSO−〕(ただし、式中のnは2〜100)]、(CSO)NLi、〔(CFCHOSONLiなどが挙げられる。
【0037】
このような添加剤は、それぞれ単独で用いることができるが、有機フッ素系溶媒と含フッ素有機リチウム塩とを併用することが特に好ましい。その添加量は、非水電解液全量中、0.1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であって、30質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが望ましい。これは、添加量が多すぎると電気特性が低下する虞があり、少なすぎると良好な皮膜形成が難しくなるからである。
【0038】
上記の添加剤を含有する非水電解液を有する電池を充電(特に高電圧充電)することにより、正極活物質表面にF(フッ素)またはS(硫黄)を含有する表面保護皮膜が形成される。この表面保護皮膜は、FまたはSを単独で含有するものであってもよいが、FとSの両者を含有する皮膜であることがより好ましい。
【0039】
正極活物質の表面に形成される上記表面保護皮膜におけるSの原子比率は、0.5原子%以上であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましく、3原子%以上であることが更に好ましい。ただし、正極活物質の表面におけるSの原子比率が多すぎると、電池の放電特性が低下する傾向にあるので、そのS原子比率は、20原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることが好ましく、6原子%以下であることが更に好ましい。また、正極活物質の表面に形成される上記表面保護皮膜におけるFの原子比率は、15原子%以上であることが好ましく、20原子%以上であることがより好ましく、25原子%以上であることが更に好ましい。ただし、正極活物質の表面におけるFの原子比率が多すぎると、電池の放電特性が低下する傾向にあるので、そのF原子比率は、50原子%以下であることが好ましく、40原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることが更に好ましい。
【0040】
また、電池の充放電サイクル特性改善のためには、非水電解液中に、(−OCH=CHO−)C=O、(−OCH=C(CH)O−)C=O、(−OC(CH)=C(CH)O−)C=Oなどのビニレンカーボネートもしくはその誘導体;ビニルエチレンカーボネート(−OCH−CH(−CH=CH)O−)C=Oのようなビニル基を有する環状炭酸エステル;(−OCH−CHFO−)C=O、(−OCHF−CHFO−)C=Oなどのフッ素置換エチレンカーボネート;の少なくとも1種を加えることが好ましい。その添加量としては、非水電解液全量中、0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であることが望ましい。なお、上記の添加剤の含有量が多すぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるため、その非水電解液全量中の含有量は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であることが望ましい。
【0041】
本発明において、非水電解質としては、上記の非水電解液以外にも、ゲル状ポリマー電解質を用いることができる。そのようなゲル状ポリマー電解質は、上記非水電解液をゲル化剤によってゲル化したものに相当する。非水電解液のゲル化にあたっては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルなどの直鎖状ポリマーまたはそれらのコポリマー;紫外線や電子線などの活性光線の照射によりポリマー化する多官能モノマー(例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの四官能以上のアクリレートおよび上記アクリレートと同様の四官能以上のメタクリレートなど);などが用いられる。ただし、モノマーの場合、モノマーそのものが電解液をゲル化させるのではなく、上記モノマーをポリマー化したポリマーがゲル化剤として作用する。
【0042】
上記のように多官能モノマーを用いて非水電解液をゲル化させる場合、必要であれば、重合開始剤として、例えば、ベンゾイル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、ベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイド類、アセトフェノン類、チオキサントン類、アントラキノン類などを使用することができ、更に重合開始剤の増感剤としてアルキルアミン類、アミノエステルなども使用することもできる。
【0043】
また、本発明においては、非水電解質として、上記非水電解液やゲル状ポリマー電解質以外に、固体電解質も用いることができる。その固体電解質としては、無機系固体電解質、有機系固体電解質のいずれも用いることができる。
【0044】
本発明に係る正極としては、正極活物質などを含有する正極合剤層を、例えば集電体の片面または両面に形成してなる構造のものを用いることができる。
【0045】
本発明に係る正極合剤層は、その密度が、3.5g/cm以上、好ましくは3.6g/cm以上、より好ましくは3.8g/cm以上である。本発明の電池では、正極に係る正極合剤層を上記のように高密度とすることで、正極活物質の充填量を高めて高容量化を達成している。ただし、正極合剤層の密度が高すぎると、非水電解質の濡れ性が低下するので、その密度は、例えば、4.6g/cm以下であることが好ましく、4.4g/cm以下であることがより好ましく、4.2g/cm以下であることが更に好ましい。
【0046】
なお、本明細書でいう正極合剤層の密度は、以下の測定方法により求められる値である。正極を所定面積で切り取り、その重量を、最小目盛り1mgの電子天秤を用いて測定し、この重量から集電体の重量を差し引いて正極合剤層の重量を算出する。また、正極の全厚を最小目盛り1μmのマイクロメーターで10点測定し、この厚みから集電体の厚みを差し引いた値の平均値と面積から正極合剤層の体積を算出し、この体積で上記の正極合剤層の重量を割ることにより、正極合剤層の密度を算出する。
【0047】
正極合剤層が含有する正極活物質は、その少なくとも一部が、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物である。上記のような金属元素を有するリチウム含有遷移金属酸化物は、その安定性(特に高電圧での充電状態における安定性)が良好であることから、電池の充放電サイクルを繰り返したときの崩壊などが抑制されるため、かかるリチウム含有遷移金属酸化物を用いることによって電池の充放電サイクル特性を高めることができる。また、上記の金属元素を有するリチウム含有遷移金属酸化物では、その安定性が向上することから、電池の貯蔵特性や安全性などの信頼性を向上させることもできる。
【0048】
また、正極活物質は、下記の平均粒子径測定法により得られる粒度分布曲線において、d10とd90との中点dよりも大きな粒径に粒度頻度ピークを有することが好ましい。このような粒度分布を有する正極活物質とするには、平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることが好ましい。平均粒子径の大きなリチウム含有遷移金属酸化物と、平均粒子径の小さなリチウム含有遷移金属酸化物とを併用することで、正極合剤層において、粒子径の大きなリチウム含有遷移金属酸化物同士の隙間に、粒子径の小さなリチウム含有遷移金属酸化物を充填することができるようになるため、上記のように高密度の正極合剤層を容易に形成できる。
【0049】
なお、本明細書でいうリチウム含有遷移金属酸化物の「平均粒子径」とは、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」を用いて測定した粒度分布の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(d50)メディアン径である。また、同様に、d10は10%径、d90は90%径である。
【0050】
上記の「平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物」は、上記の通り、これらの混合物の粒度分布曲線において、d10とd90との中点dより大きな粒径に粒度頻度ピークを有することが好ましい(以下、粒度頻度ピークの存在する粒径をdとする)。より好ましくは、d/dが1.05以上、更に好ましくはd/dが1.2以上、特に好ましくはd/dが1.3以上である。また、d/dは、1.6以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましく、1.45以下が特に好ましい。更に、より好ましいのは、この粒度分布曲線において、2つ以上のピークが存在している場合であり、例えば、同じd/d=1.3の場合でも、粒度分布曲線において2つ以上のピークを有することで、正極合剤層の密度が0.1g/cm以上向上する。なお、このような粒度分布曲線の場合には、一般的なピーク分離方法を用いて、大きな粒径の粒子の分布と、小さな粒径の粒子の分布とに分割し、その粒径と積算体積から、リチウム含有遷移金属酸化物の各平均粒子径(d50)と、その混合比率を求めることができる。
【0051】
正極に用いるリチウム含有遷移金属酸化物のうち、最大の平均粒子径を有するもの[以下、「正極活物質(A)」という]の平均粒子径をA、最小の平均粒子径を有するもの[以下、「正極活物質(B)」という]の平均粒子径をBとしたとき、Aに対するBの比率B/Aは、0.15以上0.6以下であることが好ましい。最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)の平均粒子径と、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)の平均粒子径との比がこのような値である場合には、正極合剤層の密度をより容易に高めることができる。
【0052】
なお、正極活物質(A)については、その平均粒子径が、例えば、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましく、11μm以上であることが更に好ましい。正極活物質(A)の平均粒子径が小さすぎると、正極合剤層の密度を高め難くなる場合がある。他方、正極活物質(A)の平均粒子径が大きすぎると、電池特性が低下する傾向にあることから、その平均粒子径は、例えば、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることが更に好ましい。
【0053】
また、正極活物質(B)については、その平均粒子径が、例えば、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。正極活物質(B)の平均粒子径が大きすぎると、正極合剤層において、粒子径の大きなリチウム含有遷移金属酸化物粒子同士の隙間に正極活物質(B)を充填し難くなくなるため、正極合剤層の密度を高め難くなる場合がある。他方、正極活物質(B)の平均粒子径が小さすぎると、小さい粒子間の空隙体積が大きくなるため、密度を高くし難くなる傾向にあることから、その平均粒子径は、例えば、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましい。
【0054】
また正極活物質には、上記正極活物質(A)と上記正極活物質(B)のみの場合のように、平均粒子径の異なる2種のリチウム含有遷移金属酸化物のみを用いる他、平均粒子径の異なる3種以上(例えば、3種、4種、5種など)のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることもできる。平均粒子径の異なるリチウム含有遷移金属酸化物を3種以上用いる場合には、例えば、平均粒子径が、正極活物質(A)の平均粒子径と正極活物質(B)の平均粒子径の間にあるリチウム含有遷移金属酸化物を、正極活物質(A)および(B)と共に用いればよい。
【0055】
正極の有するリチウム含有遷移金属酸化物のうち、平均粒子径が最小の正極活物質(B)の含有量は、例えば、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。正極活物質(B)が上記の量で含有されていると、粒子径の大きなリチウム含有遷移金属酸化物粒子同士の隙間を埋め易く、正極合剤層の高密度化が容易となる。他方、正極の有するリチウム含有遷移金属酸化物中の正極活物質(B)の含有量が多すぎると、却って正極合剤層の密度を高め難くなるため、その含有量は、例えば、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
よって、例えば、正極の有するリチウム含有遷移金属酸化物が、上記の正極活物質(A)と正極活物質(B)のみである場合には、全リチウム含有遷移金属酸化物中、正極活物質(A)の含有量は、例えば、40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であって、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下であることが望ましい。
【0057】
なお、正極の有するリチウム含有遷移金属酸化物のうち、正極活物質(B)は、例えば上記の平均粒子径を有しているが、このように粒子径の小さなリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば高電圧での充電状態において、安定性が悪く、電池の貯蔵特性、安全性などの信頼性や、充放電サイクル特性を損なう原因となる。
【0058】
そこで、平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用いる場合には、少なくとも、平均粒子径が最小のリチウム含有遷移金属酸化物である正極活物質(B)に、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素Mを含有しているものを用いることが好ましい。これにより、粒径の小さな正極活物質(B)の安定性を高めて、充放電サイクル特性をより確実に向上させることができ、また、電池の貯蔵特性や安全性などの信頼性をより高めることもできる。
【0059】
なお、平均粒子径が異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物を使用する場合、これらリチウム含有遷移金属酸化物のうち、平均粒子径が最小の正極活物質(B)が上記の金属元素Mを含有していることが好ましいが、正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物[最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)や、正極活物質(A)および正極活物質(B)とは異なる平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物]も、上記金属元素Mを含有していることがより好ましい。正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が金属元素Mを含有している場合には、その安定性(特に高電圧での充電状態での安定性)が向上するため、例えば電池の充放電サイクル特性や、貯蔵特性、安全性などの信頼性を更に向上させることができる。
【0060】
正極活物質(B)としては、下記一般式(1)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。
Li (1)
【0061】
ここで、上記一般式(1)中、Mは、Co、NiまたはMnのうちの少なくとも1種の遷移金属元素、Mは、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素、Mは、Li、MおよびM以外の元素であり、0.97≦x<1.02、0.8≦y<1.02、0.002≦z≦0.05、0≦v≦0.05である。なお、zについては、0.004以上がより好ましく、0.006以上が更に好ましく、また、0.02未満がより好ましく、0.01未満が更に好ましい。これは、zが小さすぎると、電池の充放電サイクル特性などの向上効果が十分でなく、大きすぎると、電池の電気特性の低下が起こり始めるからである。
【0062】
また、正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物[正極活物質(A)を含む]としては、下記一般式(2)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物が好ましい。
Li (2)
【0063】
ここで、上記一般式(2)中、Mは、Co、NiまたはMnのうちの少なくとも1種の遷移金属元素、Mは、Mg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素、Mは、Li、MおよびM以外の元素であり、0.97≦a<1.02、0.8≦b<1.02、0≦c≦0.02、0≦d≦0.02である。なお、M、M、MとM、M、Mとについて、選択する元素種や構成比率は、平均粒子径の異なる活物質毎に異なっていても良い。例えば、正極活物質(B)では、MがMg、Ti、Alであり、他方、正極活物質(A)では、MがMg、Tiである、といった組み合わせでも良い。ただし、この例でも示したように、上記一般式(1)におけるMと上記一般式(2)におけるMとで共通の元素が少なくとも1種あることが好ましく、MとMとの共通元素は、2種以上であることがより好ましく、3種以上であることが更に好ましい。
【0064】
なお、正極活物質(A)の場合、cは、より好ましくは0.0002以上、更に好ましくは0.001以上であって、より好ましくは0.005未満、更に好ましくは0.0025未満である。また、正極活物質(A)の場合、dは、より好ましくは0.0002以上、更に好ましくは0.001以上であって、より好ましくは0.005未満、更に好ましくは0.0025未満である。これは、正極活物質(A)の粒径が大きいため、Mなどの添加量がより少なくても効果が得られるが、多すぎると電池の電気特性が低下する傾向にあるからである。
【0065】
リチウム含有遷移金属酸化物は、Coおよび/またはNiが遷移金属元素の主成分であることが好ましく、例えば、CoとNiとの合計量が、リチウム含有遷移金属酸化物が含有する全遷移金属元素中、50モル%以上であることが好ましい。
【0066】
また、リチウム含有遷移金属酸化物におけるCo比率が高いほど、正極合剤層の密度を高め得ることから好ましい。例えば、上記一般式(1)および上記一般式(2)における遷移金属元素M中のCo比率は、30モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましく、95モル%以上が更に好ましい。
【0067】
上記一般式(1)におけるx、および上記一般式(2)におけるaは、電池の充放電によって変化するが、電池製造時には、0.97以上1.02未満であることが好ましい。xおよびaは、より好ましくは0.98以上、更に好ましくは0.99以上であって、より好ましくは1.01以下、更に好ましくは1.00以下である。
【0068】
上記一般式(1)におけるy、および上記一般式(2)におけるbは、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.98以上、更に好ましくは0.99以上であって、好ましくは1.02未満、より好ましくは1.01未満、更に好ましくは1.0未満である。
【0069】
上記一般式(1)で表される正極活物質(B)、および上記一般式(2)で表される正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物では、電池の安全性向上がより効果的であることから、MおよびMとしては、Mgを含有することが好ましい。そして、上記一般式(1)で表される正極活物質(B)、および上記一般式(2)で表される正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物では、MおよびMとして、Mgと共にTi、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有していることが好ましく、この場合には、高電圧での充電状態での、これらリチウム含有遷移金属酸化物の安定性がより向上する。
【0070】
なお、正極活物質(B)においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、0.15モル%以上であることがより好ましく、0.2モル%以上であることが更に好ましい。
【0071】
また、正極活物質(B)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.05モル%以上であることが好ましく、0.08モル%以上であることがより好ましく、0.1モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(B)が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、0.15モル%以上であることがより好ましく、0.2モル%以上であることが更に好ましい。
【0072】
しかし、正極活物質(B)において、Mgの含有量が多すぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、2モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましく、0.5モル%未満であることが更に好ましく、0.3モル%未満であることが特に好ましい。
【0073】
また、正極活物質(B)において、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(B)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.25モル%未満であることがより好ましく、0.15モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(B)が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、1モル%未満であることが好ましく、0.5モル%未満であることがより好ましく、0.3モル%未満であることが更に好ましい。
【0074】
更に、正極活物質(A)においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
【0075】
また、正極活物質(A)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.005モル%以上であることが好ましく、0.008モル%以上であることがより好ましく、0.01モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(A)が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
【0076】
しかし、正極活物質(A)においても、Mgの含有量が多すぎると電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.2モル%未満であることがより好ましく、0.1モル%未満であることが更に好ましい。
【0077】
また、正極活物質(A)においても、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(A)が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.3モル%未満であることが好ましく、0.1モル%未満であることがより好ましく、0.05モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(A)が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.2モル%未満であることがより好ましく、0.1モル%未満であることが更に好ましい。
【0078】
加えて、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物を使用する場合には、かかるリチウム含有遷移金属酸化物においては、Mgを含有することによる効果をより有効に発揮させる観点から、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
【0079】
また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.005モル%以上であることが好ましく、0.008モル%以上であることがより好ましく、0.01モル%以上であることが更に好ましい。更に、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、AlまたはSnを含有する場合には、これらを含有させることによる上記効果をより有効に発揮させる観点から、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.01モル%以上であることが好ましく、0.05モル%以上であることがより好ましく、0.07モル%以上であることが更に好ましい。
【0080】
しかし、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物においても、Mgの含有量が多すぎると電池の負荷特性が低下する傾向にあることから、その含有量は、例えば、M(例えば、Co)の含有量に対して、2モル%未満であることが好ましく、1モル%未満であることがより好ましく、0.5モル%未満であることが更に好ましく、0.3モル%未満であることが特に好ましい。
【0081】
また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物においても、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有量が多すぎると、電池の容量向上効果が小さくなることがある。そのため、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、Ti、Zr、GeまたはNbを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、0.5モル%未満であることが好ましく、0.25モル%未満であることがより好ましく、0.15モル%未満であることが更に好ましい。また、正極活物質(A)および正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物が、AlまたはSnを含有する場合には、その合計量が、M(例えば、Co)に対して、1モル%未満であることが好ましく、0.5モル%未満であることがより好ましく、0.3モル%未満であることが更に好ましい。
【0082】
正極活物質(B)およびその他のリチウム含有遷移金属酸化物において、金属元素MおよびMの含有の仕方は特に制限は無く、例えば、その粒子上に存在していればよく、活物質内に均一に固溶して存在していても、活物質の内部に濃度分布を持って偏在していても、表面に化合物として層を形成していてもよいが、均一に固溶していることが好ましい。
【0083】
正極活物質(B)を表す上記一般式(1)に係る元素Mは、Li、MおよびM以外の元素であり、正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物を表す上記一般式(2)に係る元素Mは、Li、MおよびM以外の元素である。正極活物質(B)は、上記一般式(1)に係る元素Mを、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよく、含有していなくてもよく、また、正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物は、上記一般式(2)に係る元素Mを、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよく、含有していなくてもよい。
【0084】
元素Mおよび元素Mとしては、例えば、Li以外のアルカリ金属(Na、K、Rbなど)、Mg以外のアルカリ土類金属(Be、Ca、Sr、Baなど)、IIIa族金属(Sc、Y、Laなど)、Ti、Zr以外のIVa族金属(Hfなど)、Nb以外のVa族金属(V、Taなど)、 VIa族金属(Cr、Mo、Wなど)、Mn以外のVIIb族金属(Tc、Reなど)、Co、Niを除くVIII族金属(Fe、Ru、Rhなど)、Ib族金属(Cu、Ag、Auなど)、Zn、Al以外のIIIb族金属(B、Ca、Inなど)、Sn、Pb以外のIVb族金属(Siなど)、P、Biなどが挙げられる。
【0085】
なお、金属元素MおよびMは、リチウム含有遷移金属酸化物の安定性向上には寄与するものの、その含有量が多すぎると、Liイオンを吸蔵放出する作用を損なうため、電池特性を低下させることがある。最小の平均粒子径の有する正極活物質(B)は、粒子径が小さく、より安定性が低いために、安定化元素であるMの含有量がある程度高いことが好ましく、また、正極活物質(B)は、粒径が小さく表面積が大きいために、活性が高く、Mの含有によっても、Liイオンの吸蔵放出作用に対する影響が小さい。
【0086】
これに対し、比較的粒径の大きなリチウム含有遷移金属酸化物[正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物]は、正極活物質(B)に比べると安定性が高いために、正極活物質(B)に係るMほどMの含有の必要がない一方で、正極活物質(B)に比べて表面積が小さく活性が低いため、Mの含有によってLiイオンの吸蔵放出作用が損なわれ易い。
【0087】
そのため、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)の金属元素Mの含有量は、正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物のMの含有量よりも多いことが好ましい。
【0088】
すなわち、上記一般式(1)におけるzと、上記一般式(2)におけるcとは、z>cの関係を満足することが好ましい。zは、cの1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが更に好ましく、3倍以上であることが特に好ましい。他方、cに対してzが大きすぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるので、zは、cの5倍未満であることがより好ましく、4倍未満であることが更に好ましく、3.5倍未満であることが特に好ましい。
【0089】
正極に係るリチウム含有遷移金属酸化物として、3種以上の平均粒子径を有するものを用いる場合、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)以外のリチウム含有遷移金属酸化物について、最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)と、それ以外のリチウム含有遷移金属酸化物との間では、MおよびMの含有量の関係には特に制限は無く、前者の方がMを後者のMよりも多く含有していてもよく、後者の方がMを前者のMよりも多く含有していてもよく、前者のMと後者のMとの含有量が同じであってもよい。より好ましくは、平均粒子径の小さいリチウム含有遷移金属酸化物ほど、MおよびMの含有量が多くなる態様である。すなわち、例えば、3種の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物を使用する場合では、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)のM含有量が最も多く、次いで、正極活物質(A)と正極活物質(B)の間の平均粒子径を有するリチウム含有金属酸化物のM含有量が多く、最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)のM含有量が最も少ない態様がより好ましい。
【0090】
また、平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用いる場合、平均粒子径の異なるもの同士が同じ組成を有していてもよく、平均粒子径の異なるもの毎に、異なる組成を有するものであってもよい。例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が、最小の平均粒子径を有する正極活物質(B)と最大の平均粒子径を有する正極活物質(A)である場合、正極活物質(A)がLiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Al0.0008で、正極活物質(B)がLiCo0.334Ni0.33Mn0.33Mg0.0024Ti0.0012Al0.0024、というような組み合わせであっても構わない。
【0091】
上記正極活物質(リチウム含有遷移金属酸化物)は、特定の合成工程と特定の電池の製造工程を経て形成される。例えば、遷移金属元素MおよびMとしてCoを含有するリチウム含有遷移金属酸化物で、異種の粒径のものを得るためには、一般的には、Coの酸性水溶液にNaOHなどのアルカリを滴下しCo(OH)として沈殿させる。均一な沈殿を得るために異種元素との共沈化合物とした後、焼成しCoを作製することもできる。沈殿を作製する時間をコントロールすることで沈殿の粒径制御が可能であり、焼成後のCoの粒径もこのときの沈殿物の粒径が支配要因である。
【0092】
正極活物質の合成にあたっては、特定の混合条件と焼成温度、焼成雰囲気、焼成時間、出発原料と特定の電池製造条件の選択が必要である。正極活物質の合成の混合条件は、例えば、エタノールまたは水を原料粉末に加えて、遊星ボールミルで0.5時間以上混合することが好ましく、エタノールと水を50:50の容積比で、遊星ボールミルで20時間以上混合することが、より好ましい。この混合工程により、原料粉末は充分に粉砕、混合され、均一な分散液を調製することができる。これをスプレードライヤーなどにより均一性を保ったまま乾燥させる。好ましい焼成温度は750〜1050℃であり、より好ましい焼成温度は950〜1030℃である。また、好ましい焼成雰囲気は空気中である。好ましい焼成時間は10〜60時間であり、より好ましい焼成時間は20〜40時間である。
【0093】
上記正極活物質に関して、Li源としてはLiCOが好ましく、Mg、Ti、Ge、Zr、Nb、Al、Snなどの異種金属源としてはそれらの金属の硝酸塩、水酸化物または1μm以下の粒径の酸化物が好ましく、水酸化物の共沈体を用いると異種元素は活物質に均一に分布しやすくなるので、より好ましい。
【0094】
正極合剤層における正極活物質中の金属元素量は、誘導結合プラズマ(ICP)分析により、各元素量を測定することで求められる。また、Li量については、別途原子吸光などを用いて測定することができる。なお、通常、電極(正極)の状態では、粒子径の異なる正極活物質について、大粒径の活物質粒子と小粒径の活物質粒子とを、それぞれ分離して元素量を測定することは難しい。そのため、混合量が既知の活物質混合物を標準にして、EPMA(電子線微小部解析装置)などで小粒径の粒子および大粒径の粒子中の元素の含有量や含有量比の比較を行っても良い。また、電極(正極)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などで処理し、活物質粒子を電極からはがして粒子を沈殿させてから、洗浄、乾燥後、得られた粒子の粒度分布を測定したり、粒度分布のピーク分離を行い、2種以上の粒度を有していると判定した場合には、大粒径の粒子と小粒径の粒子とに分級し、それぞれの粒子群の点か元素量をICPで測定しても良い。
【0095】
なお、本明細書における正極活物質中の金属元素量を測定するためのICP分析では、活物質を約5g精秤して200mlビーカーに入れ、王水100mlを加え、液量が約20〜25mlになるまで加熱濃縮し、冷却した後、アドバンテック株式会社製の定量濾紙「No.5B」で固形物を分離し、濾液および洗液を100mlメスフラスコに入れて定容希釈した後、日本ジャーレル・アッシュ社製のシーケンシャル型ICP分析装置「IPIS1000」を用いて測定する方法を採用している。
【0096】
正極合剤層の有する上記平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物のうち、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物について、上記のICPにより分析されるMg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有率(I)と、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物以外のリチウム含有遷移金属酸化物について、上記のICPにより分析されるMg、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の含有率であって、上記含有率(I)に係る金属元素と同一の金属元素の含有率(II)との比(I)/(II)は、上述の、上記一般式(1)におけるzと上記一般式(2)におけるcとの関係に相当するものであり、(I)/(II)の値は、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることが更に好ましく、3以上であることが特に好ましい。他方、cに対してzが大きすぎると、電池の負荷特性が低下する傾向にあるので、(I)/(II)の値は、5未満であることがより好ましく、4未満であることが更に好ましく、3.5未満であることが特に好ましい。
【0097】
正極は、例えば以下の方法で作製される。まず、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物に、必要に応じて、導電助剤(例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなど)を添加し、更にバインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなど)を添加して正極合剤を調製する。この正極合剤を、溶剤を用いてペースト状にし(なお、バインダーは予め溶剤に溶解させておいてから正極活物質などと混合してもよい)、正極合剤含有ペーストを調製する。得られた正極合剤含有ペーストをアルミニウム箔などからなる正極集電体に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じて圧延する工程を経ることによって正極とする。なお、正極活物質に、平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物[例えば、正極活物質(A)と正極活物質(B)]を用いる場合には、これらのリチウム含有遷移金属酸化物を所定の質量比で混合し、この混合物に上記の導電助剤やバインダーを添加して調製した正極合剤を、その後の工程に供すればよい。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0098】
正極合剤層の厚みは、例えば、30〜200μmであることが好ましい。また、正極に用いる集電体の厚みは、例えば、8〜20μmであることが好ましい。
【0099】
そして、正極合剤層においては、活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物の含有量は、96質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは97.5質量%以上であって、99質量%以下、より好ましくは98質量%以下であることが望ましい。また、正極合剤層中のバインダーの含有量は、例えば、1質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であって、4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下であることが望ましい。そして、正極合剤層中の導電助剤の含有量は、例えば、1質量%以上、より好ましくは1.1質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であって、3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であることが望ましい。
【0100】
これは、正極合剤層中の活物質の割合が少ないと高容量化を達成し難く、正極合剤層の密度も高くし難いからであり、一方で多すぎると、抵抗が高くなったり、正極の形成性が損なわれる場合があるからである。また、正極合剤層中のバインダーの含有量が多すぎると高容量化が困難となり、少なすぎると集電体との密着性が低下し、電極の粉落ちなどの可能性が出てくるので上記の好適組成とすることが望ましい。更に、正極合剤層中の導電助剤の含有量は、多すぎると正極合剤層の密度を十分に高くし難く、高容量化が困難となることがあり、少なすぎると導電がうまく取れずに電池の充放電サイクル特性や負荷特性の低下につながるからである。
【0101】
本発明の非水二次電池は、上記の非水電解質および上記の正極を有していればよく、その他の構成要素や構造については特に制限は無く、従来公知の非水二次電池で採用されている各種構成要素や構造が適用できる。
【0102】
負極に係る負極活物質としては、Liイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料が挙げられる。また、Si、Sn、Inなどの合金、またはLiに近い低電位で充放電できるSi、Snなどの酸化物、Li2.6Co0.4NなどのLiとCoの窒化物などの化合物も負極活物質として用いることができる。さらに、黒鉛の一部をLiと合金化し得る金属や酸化物などと置き換えることもできる。負極活物質として黒鉛を用いた場合には、満充電時の電圧をLi基準で約0.1Vとみなすことができるため、電池電圧に0.1Vを加えた電圧で正極の電位を便宜上計算することができることから、正極の充電電位が制御しやすく好ましい。
【0103】
黒鉛の形態としては、例えば、002面の面間隔(d002 )が0.338nm以下であることが好ましい。これは、結晶性が高い方が負極(後記の負極合剤層)を高密度にし易いからである。しかし、d002が大きすぎると、高密度の負極では放電特性や負荷特性が低下する場合があるので、d002は、0.335nm以上であることが好ましく、0.3355nm以上であることが更に好ましい。
【0104】
また、黒鉛のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)については、70nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましく、90nm以上が更に好ましい。これは、Lcが大きいほうが、充電カーブが平坦になり正極の電位を制御し易く、また、容量を大きくできるためである。他方、Lcが大きすぎると、高密度の負極では電池容量が低下する傾向があるので、Lcは200nm未満であることが好ましい。
【0105】
更に、黒鉛の比表面積は、0.5m/g以上であることが好ましく、1m/g以上であることがより好ましく、2m/g以上であることが更に好ましく、また、6m/g以下であることが好ましく、5m/g以下であることがより好ましい。黒鉛の比表面積がある程度大きくないと特性が低下する傾向にあり、他方、大きすぎると非水電解質との反応の影響が出易くなるためである。
【0106】
負極に用いる黒鉛は、天然黒鉛を原料としたものであることが好ましく、表面結晶性の異なる2種以上の黒鉛を混合したものが、高容量化の点からより好ましい。天然黒鉛は安価かつ高容量であることから、これによりコストパフォーマンスの高い負極とすることができる。通常天然黒鉛は、負極の高密度化によって電池容量が低下し易いが、表面処理によって表面の結晶性が低下した黒鉛を混合して用いることで、電池容量の低下を小さくすることができる。
【0107】
黒鉛の表面の結晶性はラマンスペクトル分析によって判断することができる。波長514.5nmのアルゴンレーザーで黒鉛を励起させた時のラマンスペクトルのR値〔R=I1350/I1580(1350cm−1付近のラマン強度と1580cm−1付近のラマン強度との比)]が0.01以上であれば、表面の結晶性は天然黒鉛に比べ若干低下しているといえる。よって、表面処理により表面の結晶性が低下した黒鉛としては、例えば、R値が、0.01以上、より好ましくは0.1以上であって、0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下のものを使用することが好ましい。上記の表面の結晶性が低下した黒鉛の含有割合は、負極の高密度化のためには100質量%であることが好ましいが、電池容量の低下防止のためには、全黒鉛中の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。
【0108】
また、黒鉛の平均粒子径は、小さすぎると不可逆容量が大きくなるので、5μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、18μm以上であることが更に好ましい。また、負極の高密度化の観点からは、黒鉛の平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。
【0109】
負極は、例えば、以下の方法で作製できる。上記負極活物質に、必要に応じてバインダーなどを加え、混合して負極合剤を調製し、それを溶剤に分散させてペーストにする。なお、バインダーは予め溶剤に溶解させておいてから負極活物質などと混合しておくのが好ましい。上記の負極合剤含有ペーストを銅箔などからなる負極集電体に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、加圧処理工程を経ることによって負極を得ることができる。なお、負極の作製方法は、上記の方法に限定される訳ではなく、他の方法を採用しても構わない。
【0110】
なお、負極合剤層の密度(加圧処理工程後の密度)は、1.70g/cm以上であることが好ましく、1.75g/cm以上であることがより好ましい。黒鉛の理論密度から、負極合剤層の密度の上限は2.1〜2.2g/cmであるが、非水電解質との親和性の観点からは、負極合剤層の密度は、2.0g/cm以下であることがより好ましく、1.9g/cm以下であることが更に好ましい。なお、上記の加圧処理工程においては、負極をより均一にプレスできることから、一回の加圧処理よりも、複数回の加圧処理を施すことが好ましい。
【0111】
負極に用いるバインダーは特に限定されないが、活物質比率を高めて容量を大きくする観点から、使用量を極力少なくすることが好ましく、このような理由から、水に溶解または分散する性質を有する水系樹脂とゴム系樹脂との混合物が好適である。水系樹脂は少量でも黒鉛の分散に寄与し、ゴム系樹脂は電池の充放電サイクル時の電極の膨張・収縮による負極合剤層の集電体からの剥離を防止することができるからである。
【0112】
水系樹脂としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエピクロルヒドリン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル系樹脂などが挙げられる。ゴム系樹脂としては、ラテックス、ブチルゴム、フッ素ゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)などが挙げられる。例えば、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物とスチレンブタジエンゴムなどのブタジエン共重合体系ゴムとを併用することが、上記黒鉛の分散や剥離防止の観点からより好ましい。カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエン共重合体ゴムなどのブタジエン共重合体系ゴムとを併用することが特に好ましい。これは、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物が、主として負極合剤含有ペーストに対して増粘作用を発揮し、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムなどのゴム系バインダーが、負極合剤に対して結着作用を発揮するからである。このように、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル化合物とスチレンブタジエンゴムなどのゴム系バインダーとを併用する場合、両者の比率としては質量比で1:1〜1:15が好ましい。
【0113】
負極合剤層の厚みは、例えば、40〜200μmであることが好ましい。また、負極に用いる集電体の厚みは、例えば、5〜30μmであることが好ましい。
【0114】
そして、負極合剤層においては、バインダーの含有量(複数種を併用する場合には、その合計量)は、1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上であって、5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、更に好ましくは2.5質量%未満であることが望ましい。負極合剤層中のバインダー量が多すぎると放電容量が低下することがあり、少なすぎると粒子同士の接着力が低下するからである。なお、負極合剤層における負極活物質の含有量は、例えば、95質量%を超え、98.5質量%以下であることが好ましい。
【0115】
本発明に係るセパレータは、引張強度に方向性を有し、かつ、絶縁性を良好に保ち、また、熱収縮を小さくする観点から、その厚みは、5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは12μm以上であって、25μm未満、より好ましくは20μm未満、更に好ましくは18μm未満であることが望ましい。また、セパレータの透気度は、例えば、500秒/100ml以下であることが好ましく、300秒/100ml以下であることがより好ましく、120秒/100ml以下であることが更に好ましい。なお、セパレータの透気度は、小さいほど負荷特性が向上するが、内部短絡を生じ易くなることから、その透気度は、50秒/100ml以上とすることが好ましい。セパレータのTD方向の熱収縮率は、小さいほど温度上昇時の内部短絡が発生し難くなるため、できるだけ熱収縮率の小さいセパレータを用いるのが好ましく、例えば、熱収縮率が10%以下であるものがより好ましく、5%以下であるものが更に好ましい。また、熱収縮を抑えるため、あらかじめ100〜125℃程度の温度で熱処理を施したセパレータを用いることが好ましい。このような熱収縮率のセパレータを本発明に係る正極材料と組み合わせて電池を構成することで、より高温での挙動が安定することから推奨される。
【0116】
なお、セパレータのTD方向の熱収縮率は、30mm角のセパレータを105℃で8時間静置した場合の、TD方向において最大に収縮した部分の収縮率を意味している。
【0117】
また、セパレータの強度は、MD方向の引張強度として、例えば、6.8×10N/m以上であることが好ましく、9.8×10N/m以上であることがより好ましい。また、TD方向の引張強度はMD方向に比べて小さいことが好ましく、例えば、MD方向の引張強度に対するTD方向の引張強度の比(TD方向引張強度/MD方向引張強度)が、0.95以下であることがより好ましく、0.9以下であることが更に好ましく、また、0.1以上であることがより好ましい。なお、TD方向とは、セパレータ製造におけるフィルム樹脂の引き取り方向(MD方向)と直交する方向のことである。
【0118】
更に、セパレータの突き刺し強度は、2.0N以上であることが好ましく、2.5N以上であることがより好ましい。この値が高いほど、電池が短絡しにくくなる。ただし、その上限値は、通常はセパレータの構成材料によってほぼ決定され、例えば、ポリエチレン製のセパレータの場合は10N程度が上限値となる。
【0119】
従来の非水二次電池では、正極電位がLi基準で4.35V以上の高い電圧で充電し、3.2Vよりも高い電圧終止で放電を行うと、正極活物質の結晶構造が崩壊して容量低下を引き起こしたり、熱安定性が低下して電池が発熱するなどの支障が生じ、実用性を欠いていた。例えば、MgやTiなどの異種元素を添加した正極活物質を用いても、安全性や充放電サイクルに伴う容量低下が軽減できるようにはなるが、未だ不十分である。また正極の充填性が不十分で電池の膨れが生じやすい。
【0120】
これに対し、本発明は、上記構成の採用により、高容量特性、充放電サイクル特性、安全性および膨れ抑制(貯蔵特性)の各効果を高めた非水二次電池であり、通常の充電電圧(電池電圧で4.2V)でも効果は得られるが、更にLi基準で正極を4.35V(電池電圧で4.25V)の高い電圧まで充電し、電池電圧で3.2V以上の高い電圧で放電を終了しても、正極活物質の結晶構造がより安定であり、容量低下や熱安定性の低下が抑制される。
【0121】
また、従来の非水二次電池に係る正極活物質では、平均電圧が低いため、単電池の充電終止電圧がLi基準で4.35V以上の条件下で充放電サイクル試験を繰り返すと、正極が多量のLiイオンを出し入れする。これは、電池を過充電条件で充放電サイクル試験することと同じである。従って、このような苛酷な条件では、従来の正極活物質を用いると結晶構造を維持することができず、熱安定性が低下したり、充放電サイクル寿命が短いなどの不都合が生じていた。これに対し、本発明の電池に係る正極活物質を用いれば、そのような不都合が解消できるため、満充電時の正極電位が、Li基準電位で4.35〜4.6Vとなるような高電圧下でも可逆的に充放電が可能な非水二次電池を提供することができる。
【0122】
なお、上記の「満充電」とは、0.2Cの電流値で所定の電圧まで定電流充電を行い、続いて、該所定の電圧で定電圧充電を行って、該定電流充電と該定電圧充電との合計時間を8時間とする条件での充電をいう。また、例えば、本発明の非水二次電池が、満充電時のLi基準電位が0.1Vとなる黒鉛負極(黒鉛を負極活物質として含有する負極)を有する場合、電池電圧を4.45V以上で充電することは、実質的に正極電位が4.35V以上となる充電であるとみなされる。
【0123】
本発明の非水二次電池は、上記のような高電圧、高容量で、かつ貯蔵特性が良好であるという特徴を生かして、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、ポケットパソコン、ノート型ワープロ、ポケットワープロ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャ、ハンディターミナル、携帯コピー、電子手帳、電卓、液晶テレビ、電気シェーバー、電動工具、電子翻訳機、自動車電話、トランシーバ、音声入力機器、メモリカード、バックアップ電源、テープレコーダー、ラジオ、ヘッドフォンステレオ、携帯プリンタ、ハンディクリーナー、ポータブルCD、ビデオムービー、ナビゲーションシステムなどの機器用の電源や、冷蔵庫、エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、オーブン電子レンジ、食器洗い器、洗濯機、乾燥機、ゲーム機器、照明機器、玩具、センサー機器、ロードコンディショナー、医療機器、自動車、電気自動車、ゴルフカート、電動カート、セキュリティシステム、電力貯蔵システムなどの電源として使用することができる。また、民生用途の他、宇宙用途にも用いることができる。特に、小形携帯機器では高容量化の効果が高くなり、重量3kg以下の携帯機器に使用することが望ましく、1kg以下の携帯機器に使用することがより望ましい。また携帯機器重量の下限については特に限定されないが、ある程度の効果を得るためには、電池の重量と同程度、たとえば10g以上であることが望ましい。
【実施例】
【0124】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0125】
実施例1
<正極の作製>
LiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Al0.0008[平均粒子径12μm、正極活物質(A)]とLiCo0.994Mg0.0024Ti0.0012Al0.0024[平均粒子径5μm、正極活物質(B)]を質量比65:35で混合したもの:97.3質量部、および導電助剤としての炭素材料:1.5質量部を、粉体供給装置である定量フィーダ内に投入し、また、10質量%濃度のポリフッ化ビニリデン(PVDF)のNMP溶液の投入量を調整し、混練時の固形分濃度が常に94質量%になるように調整した材料を、単位時間あたり所定の投入量になるように制御しつつ二軸混練押出機に投入して混練を行い、正極合剤含有ペーストを調製した。
【0126】
また、別途上記の正極活物質(A)と正極活物質(B)をそれぞれ王水に溶解し、含有される元素の比率をICP分析と原子吸光分析で確認し、それぞれ上記組成式であることも確認した。
【0127】
次に、得られた正極合剤含有ペーストをプラネタリーミキサー内に投入し、10質量%濃度のPVDFのNMP溶液とNMPとを加えて希釈し、塗布可能な粘度に調整した。この希釈後の正極合剤含有ペーストを70メッシュの網を通過させて大きな含有物を取り除いた後、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布し、乾燥して膜状の正極合剤層を形成した。乾燥後の正極合剤層の固形分比率は、正極活物質:導電助剤:PVDF質量比で97.3:1.5:1.2である。その後、加圧処理し、所定のサイズに切断後、アルミニウム製のリード体を溶接して、シート状の正極を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.86g/cmであり、正極合剤層の厚み(両面の厚み、すなわち、正極の総厚みから正極集電体のアルミニウム箔の厚みを引いた厚み、以下同じ)は135μmであった。
【0128】
正極活物質(A)および(B)の混合物の粒度分布を、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」を用いて測定した結果、粒径5μmと12μmに2つのピークが確認できた。また、d値はdより大きく、d/dは1.4であった。
【0129】
ここで、正極活物質(A)は、Coに対して、Mgが0.08モル%であり、Tiが0.04モル%であり、Alが0.08モル%である。また粒子の断面の金属元素Mの濃度を、島津製作所株式会社製の電子線微小部解析装置「EPMA1600」を用いて測定したところ、表面部と中心部でMg、Ti、Alとも濃度差は観察できなかった。
【0130】
また、正極活物質(B)は、Coに対して、Mgが0.24モル%であり、Tiが0.12モル%であり、Alが0.24モル%であり、正極活物質(A)と同様に粒子の断面の金属元素Mを測定したが、表面部と中心部でMg、Ti、Alとも濃度差は観察できなかった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Tiが3倍、Alが3倍であった。
【0131】
<負極の作製>
負極活物質として黒鉛系炭素材料(A)[純度99.9%以上、平均粒子径18μm、002面の面間距離(d002)=0.3356nm、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)=100nm、R値(波長514.5nmのアルゴンレーザーで励起させた時のラマンスペクトルにおける1350cm−1付近のピーク強度と1580cm−1付近のピーク強度との比〔R=I1350/I1580〕)=0.18]:70質量部と、黒鉛系炭素材料(B)[純度99.9%以上、平均粒子径21μm、d002=0.3363nm、Lc=60nm、R値=0.11]:30質量部とを混合し、この混合物98質量部と、カルボキシメチルセルロース:1質量部とスチレンブタジエンゴム1質量部とを、水の存在下で混合してスラリー状の負極合剤含有ぺーストを調製した。得られた負極合剤含有ぺーストを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、ローラーで負極合剤層の密度が1.75g/cmになるまで加圧処理し、所定のサイズに切断後、ニッケル製のリード体を溶接して、シート状の負極を作製した。
【0132】
<非水電解液の調製>
メチルエチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとを体積比1:3:2で混合した混合溶媒に、LiPFを1.4mol/lの濃度になるように溶解し、これにスクシノニトリル0.2質量%、ビニレンカーボネート(VC)3質量%を加えて非水電解液を調製した。
【0133】
<非水二次電池の作製>
上記正極と負極を微孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータ[空孔率53%、MD方向引張強度:2.1×10N/m、TD方向引張強度:0.28×10N/m、厚さ16μm、透気度80秒/100ml、105℃×8時間後のTD方向の熱収縮率3%、突き刺し強度:3.5N(360g)]を介して渦巻状に巻回し、巻回構造の電極体にした後、角形の電池ケース内に挿入するために加圧して扁平状巻回構造の電極体にした。それをアルミニウム合金製で角形の電池ケース内に挿入し、正・負極リード体の溶接と蓋板の電池ケースへの開口端部へのレーザー溶接を行い、封口用蓋板に設けた注入口から上記の非水電解液を電池ケース内に注入し、非水電解液をセパレータなどに十分に浸透させた後、部分充電を行い、部分充電で発生したガスを排出後、注入口を封止して密閉状態にした。その後、充電、エイジングを行い、図1に示すような構造で図2に示すような外観を有し、幅が34.0mmで、厚みが4.0mmで、高さが50.0mmの角形の非水二次電池を得た。
【0134】
ここで図1および図2に示す電池について説明すると、正極1と負極2は上記のようにセパレータ3を介して渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状巻回構造の電極積層体6として、角形の電池ケース4に非水電解液と共に収容されている。ただし、図1では、煩雑化を避けるため、正極1や負極2の作製にあたって使用した集電体としての金属箔や電解液などは図示していない。
【0135】
電池ケース4はアルミニウム合金製で電池の外装材の主要部分を構成するものであり、この電池ケース4は正極端子を兼ねている。そして、電池ケース4の底部にはポリテトラフルオロエチレンシートからなる絶縁体5が配置され、上記正極1、負極2およびセパレータ3からなる扁平状巻回構造の電極積層体6からは、正極1および負極2のそれぞれ一端に接続された正極リード体7と負極リード体8が引き出されている。また、電池ケース4の開口部を封口するアルミニウム製の蓋板9にはポリプロピレン製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼製の端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼製のリード板13が取り付けられている。
【0136】
そして、この蓋板9は上記電池ケース4の開口部に挿入され、両者の接合部を溶接することによって、電池ケース4の開口部が封口され、電池内部が密閉されている。また、図1の電池では、蓋板9に電解液注入口14が設けられており、この電解液注入口14には、封止部材が挿入された状態で、例えばレーザー溶接などにより溶接封止されて、電池の密閉性が確保されている(従って、図1および図2の電池では、実際には、電解液注入口14は、電解液注入口と封止部材であるが、説明を容易にするために、電解液注入口14として示している)。更に.蓋板9には、防爆ベント15が設けられている。
【0137】
この実施例1の電池では、正極リード体7を蓋板9に直接溶接することによって電池ケース4と蓋板9とが正極端子として機能し、負極リード体8をリード板13に溶接し、そのリード板13を介して負極リード体8と端子11とを導通させることによって端子11が負極端子として機能するようになっているが、電池ケース4の材質などによっては、その正負が逆になる場合もある。
【0138】
図2は、図1に示す電池の外観を模式的に示す斜視図であり、この図2は上記電池が角形電池であることを示すことを目的として図示されたものであって、この図2では電池を概略的に示しており、電池構成部材のうち特定のものを示している。
【0139】
実施例2
非水電解液に、スクシノニトリルに代えてグルタロニトリルを添加した以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0140】
実施例3
非水電解液に、スクシノニトリルに代えてアジポニトリルを添加した以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0141】
実施例4
非水電解液におけるスクシノニトリルの添加量を、0.5質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0142】
実施例5
非水電解液におけるスクシノニトリルの添加量を、1.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。
【0143】
実施例6
正極活物質(A)をLiCo0.9988Mg0.0008Ti0.0004(平均粒径12μm)、正極活物質(B)をLiCo0.9964Mg0.0024Ti0.0012(平均粒径5μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.79g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Tiが3倍、Alが3倍であった。
【0144】
実施例7
正極活物質(A)と正極活物質(B)の混合比を、(A):(B)=90:10(質量比)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.75g/cmであった。
【0145】
実施例8
正極活物質に、LiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Al0.0008[平均粒径12μm、正極活物質(A)]と、LiCo0.994Mg0.0024Ti0.0012Al0.0024[平均粒径5μm、正極活物質(B)]を、正極活物質(A):正極活物質(B)=50:50(質量比)で混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.76g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Tiが3倍、Alが3倍であった。
【0146】
実施例9
正極活物質(A)をLiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Sn0.0008(平均粒径14μm)に、および正極活物質(B)をLiCo0.994Mg0.0024Ti0.0012Sn0.0024(平均粒径6μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.76g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Tiが3倍、Snが3倍であった。
【0147】
実施例10
正極活物質(A)をLiCo0.998Mg0.0008Zr0.0004Al0.0008(平均粒径13μm)に、および正極活物質(B)をLiCo0.994Mg0.0024Zr0.0012Al0.0024(平均粒径5μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.8g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Zrが3倍、Alが3倍であった。
【0148】
実施例11
正極活物質(A)をLiCo0.998Mg0.0008Ge0.0004Al0.0008(平均粒径12μm)に、および正極活物質(B)をLiCo0.994Mg0.0024Ge0.0012Al0.0024(平均粒径6μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.79g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Geが3倍、Alが3倍であった。
【0149】
実施例12
正極活物質(B)をLiCo0.334Ni0.33Mn0.33Mg0.0024Ti0.0012Al0.0024(平均粒径5μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.72g/cmであった。また、金属元素Mの含有量と金属元素Mの含有量とに関して、正極活物質(B)は、正極活物質(A)に対して、モル基準で、Mgが3倍、Tiが3倍、Alが3倍であった。
【0150】
比較例1
正極活物質をLiCo0.998Mg0.0008Ti0.0004Al0.0008(平均粒径12μm、d/d=1.0)のみに変更し、非水電解液にスクシノニトリルを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして非水二次電池を作製した。加圧処理後の正極合剤層の密度(正極の密度)は3.7g/cmであった。本比較例は実施例1における大粒径の活物質[正極活物質(A)]のみを用い、非水電解液に、分子内にニトリル基を2以上有する化合物を添加しなかった例である。
【0151】
実施例1〜12および比較例1の非水二次電池について、下記の特性評価を行った。
【0152】
<充放電サイクル後の放電容量>
実施例1〜12および比較例1の各電池について、室温で1CmAで3.0Vまで放電させた後、1Cで4.2Vまでの定電流充電と、その後4.2Vでの定電圧充電を行い(定電流充電と定電圧充電との総充電時間2.5時間)、0.2CmAで3.0Vまで放電させ、そのときの放電容量を求めた。上記と同じ条件での充放電を5回繰り返し、5サイクル目の放電容量を、充放電サイクル後の放電容量として評価した。結果を表1に示すが、これらの表では、各電池について得られた充放電サイクル後の放電容量を、比較例1の電池の充放電サイクル時の放電容量を100としたときの相対値で示す。
【0153】
<貯蔵特性評価>
実施例1〜12および比較例1の各電池について、1Cで4.2Vまでの定電流充電と、その後4.2Vでの定電圧充電を行い(定電流充電と定電圧充電との総充電時間2.5時間)、1CmAで3.0Vまで放電させた。その後、1Cで4.2Vまでの定電流充電と、その後4.2Vでの定電圧充電を行い(定電流充電と定電圧充電との総充電時間2.5時間)、電池の厚み(貯蔵前厚み)を測定した。厚み測定後の各電池を85℃の恒温槽に24時間貯蔵し、恒温槽から取り出して4時間放置した後に、再び電池の厚み(貯蔵後厚み)を測定した。上記の貯蔵前厚みと貯蔵後厚みから、下記式に従って、貯蔵による電池の厚み変化率を求めた。結果を表1に併記する。
厚み変化率(%)=(貯蔵後厚み)÷(貯蔵前厚み)×100−100
【0154】
【表1】

【0155】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の非水二次電池では、比較例の非水二次電池に比べて、放電容量、充放電サイクル特性および貯蔵特性が優れていた。
【符号の説明】
【0156】
1 正極
2 負極
3 セパレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤層を有する正極、負極および非水電解質を備えた非水二次電池であって、
上記正極は、活物質として、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物を有しており、
上記正極合剤層は、密度が3.5g/cm以上であり、
上記非水電解質が、スクシノニトリルを含有していることを特徴とする非水二次電池。
Li (1)
ここで、上記一般式(1)中、Mは、Co、NiまたはMnのうちの少なくとも1種の遷移金属元素、Mは、Mgと、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とであり、Mは、Li、MおよびM以外の元素であり、0.97≦x<1.02、0.8≦y<1.02、0.002≦z≦0.05、0≦v≦0.05である。
Li (2)
ここで、上記一般式(2)中、Mは、Co、NiまたはMnのうちの少なくとも1種の遷移金属元素、Mは、Mgと、Ti、Zr、Ge、Nb、AlおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とであり、Mは、Li、MおよびM以外の元素であり、0.97≦a<1.02、0.8≦b<1.02、0.0002≦c≦0.02、0≦d≦0.02である。
【請求項2】
正極は、活物質として、平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物を用いており、
上記平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物のうち、最小の平均粒子径を有するものが、上記一般式(1)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物であり、
上記平均粒子径の異なる2種以上のリチウム含有遷移金属酸化物のうち、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物以外のものが、上記一般式(2)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物であり、
上記最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物の上記一般式(1)における金属元素Mの含有量が、最小の平均粒子径を有するリチウム含有遷移金属酸化物以外のリチウム含有遷移金属酸化物の上記一般式(2)における金属元素Mの含有量よりも多い請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】
非水電解質が更にビニレンカーボネートを含有している請求項1または2に記載の非水二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−43814(P2012−43814A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261150(P2011−261150)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【分割の表示】特願2006−290637(P2006−290637)の分割
【原出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】