説明

非水系インクジェットコンポジット印刷法及びインクセット

【課題】非水系インクジェットコンポジット印刷法において、濃いコンポジット黒を形成する際の指針となるべきものを確立すること、及び該指針に従うインクセットを提供する。
【解決手段】黒インクと少なくとも一のカラーインクを同一の走査で吐出させる非水系インクジェットコンポジット印刷において、印刷濃度の高い画像を得る方法であって、該黒インクとして、顔料、顔料分散剤及び溶剤を含み、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、該顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、下記式(1)を満たす黒インクを用いることを特徴とする方法。

|WΔ+WΔ|<3.0 (1)

(ここで、Δ=P−P、Δ=D−D、Wはインク中の顔料の質量%、Wはインク中の分散剤の質量%であり、P、P、D、Dの単位はmeq/gである)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系インクジェットコンポジット印刷法に関し、詳細には、黒インクの酸・塩基価と、さらには黒インクとシアンインクの電位差を所定範囲にすることによって、普通紙上に印刷濃度が高いコンポジット黒を形成する方法およびインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷において、印刷濃度を高めるために、黒色に記録すべき領域の記録を行う際に、カラーインクを、記録媒体上で黒インクと少なくとも一部が重複するように、黒インクと同一の走査で吐出して黒インクとカラーインクとが混合した、「コンポジット黒」の画像を形成する方法(以下「コンポジット印刷法」という)が用いられている。
【0003】
しかし、コンポジット黒を用いた場合に、カラーインクが黒インクよりも上に浮き上がったようになり、却って画像濃度が低下する問題がある。斯かる問題に対して、本発明者らは、顔料分散剤として、ビニルピロリドンと炭素数10〜14のアルケンとの共重合体を含む黒インクと、ポリエステル側鎖がグラフトされた含窒素ポリマーを含むシアンインクの組み合わせを用いる方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−270061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記インクの組み合わせであれば、普通紙において濃いコンポジット黒を形成できる。しかし、分散剤が限定されているため、インク選択及び設計の自由度が制限される。そこで、本発明は、上記方法をより普遍化し、普通紙において濃いコンポジット黒を形成する際の指針となるべきものを確立すると同時に、該指針を満たすインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、(1)黒インク中の酸価及び塩基価の合計を所定の範囲内とすること、さらには(2)該黒インクとシアンインクの電位差を所定範囲とすることによって、濃いコンポジット黒を形成できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、下記の方法である。
黒インクと少なくとも一のカラーインクを同一の走査で吐出させる非水系インクジェットコンポジット印刷において、印刷濃度の高い画像を得る方法であって、該黒インクとして、顔料、顔料分散剤及び溶剤を含み、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、該顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、下記式(1)を満たす黒インクを用いることを特徴とする方法。

|WΔ+WΔ|<3.0 (1)

(ここで、Δ=P−P、Δ=D−D、Wはインク中の顔料の質量%、Wはインク中の分散剤の質量%であり、P、P、D、Dの単位はmeq/gである)
また、本発明は、下記のインクセットである。
黒インクと少なくとも一のカラーインクを同一の走査で吐出させる非水系インクジェットコンポジット印刷用のインクセットであって、該黒インクが、顔料、顔料分散剤及び溶剤を含み、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、該顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、上記式(1)を満たし、
少なくとも一のカラーインクがシアンインクであり、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該黒インクの電位(P(V)mV)と、シアンインクの電位(P(V)mV)が、上記式(3)を満たすことを特徴とするインクセット。
【発明の効果】
【0007】
上記指針に従い、インクにおける顔料と分散剤の種類及び量を調整することによって、或いは該指針を満たす本発明のインクセットを用いることによって、インク中の分散剤の種類に制限されることなく、普通紙上に濃く先鋭なコンポジット黒の画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のコンポジット印刷において、カラーインクとしては、マゼンタ、シアン、イエローのうち少なくとも一色が使用される。カラーインクの中でも、隠蔽力が高いシアンインクを用いることが好ましい。本発明の方法に拠れば、印刷する色の順番を問わず濃度向上の効果が見られるが、好ましくは、カラーインクよりも先に黒インクを吐出する。
【0009】
各インクは、顔料、顔料分散剤及び有機溶剤を含む。従来、顔料の分散性を高めるために、顔料と顔料分散用樹脂の酸・塩基価を指標として用いることが知られている(色材、61[12]、692-698、1988)。これに対して、本発明では、印刷濃度を高めるために、酸価と塩基価の差を指標として用いる。即ち、本発明では、顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、下記式(1)を満たす黒インクを用いる。

|WΔ+WΔ|<3.0 (1)

ここで、Δ=P−P、Δ=D−D、Wはインク中の顔料の質量%、Wはインク中の分散剤の質量%であり、P、P、D、Dの単位はmeq/gである。式(1)は、インク中の顔料と顔料分散剤に由来する酸価及び塩基価のインク中における合計が、所定値より小さいこと、即ち、できるだけ中性に近い方が良いことを示す。
【0010】
好ましくは、該黒インクは下記式(2)を満たす。

|WΔ+WΔ|<1.0 (2)

上記式(1)を満たす中性に近いインクは、その電位もゼロに近く、−175〜+175mVであり、より好ましくは−150〜+150mVであり、単色でも高い画像濃度を与える。
【0011】
カーボンブラックとしては、中性(弱酸性)カーボンと酸性カーボンが市販されている。貯蔵安定性を考えると酸性カーボン(カーボン表面の官能基量が多いもの)が好ましく、これと塩基性の分散剤または、両性(酸性、塩基性官能基を両方含む)の分散剤を組合わせて用いることによって、上記式(1)の関係を満たすことができ、引いてはインクの電位を0mVに近づけることができる。
【0012】
2種類以上の顔料及び顔料分散剤を混合して用いる場合には、各々の酸価もしくは塩基価に混合物中の各質量分率(%)を乗じた和を全体の酸価もしくは塩基価とする。
【0013】
酸価及び塩基価は、上記文献(色材、61[12]、692-698、1988)記載の方法により測定される。顔料の塩基価は、ビーカーに顔料を所定量秤量し、既知の既定度の酸、例えば過塩素酸、を加え、所定時間顔料と反応させ、顔料中の塩基によって消費されなかった酸の量を逆滴定して求めることができる。酸価は、既定度既知の塩基、例えばテトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAH)、を用いて、同様に逆滴定を行う。滴定は、自動滴定装置により、指示電極としてガラス電極、及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて行うことができる。本発明においては、京都電子工業(株)製の電位差滴定装置AT−400を用いた。また、樹脂の酸・塩基は滴定により直接的に求めることができる。滴定には、顔料の場合と同様に電位差滴定法を用いた。
【0014】
黒インク用の顔料としては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを用いる。カーボンブラックは、平均一次粒子径(電子顕微鏡観察により求められる算術平均)が、15nm〜35nmであることが好ましく、18nm〜25nmであることがより好ましく、DBP(ジブチルフタレート)吸収量(JIS K6221)が50cm/100g〜200cm/100gであることが好ましく、90cm/100g〜150cm/100gであることがより好ましい。黒インク中のカーボンブラックの含有量は、1〜20重量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点からは、5〜15重量%であることが好ましい。
【0015】
顔料分散剤としては、高分子系分散剤を用いることが好ましい。例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0016】
市販の高分子系分散剤としては、以下のものが挙げられる:ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、11200(ポリアミド系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、22000、24000、及び28000(いずれも日本ルブリゾール社製);エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、及び4055(変性ポリウレタン)(いずれもEfka CHEMICALS社製);デモールP、EP、ポイズ520、521、530、及びホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)(いずれも花王(株)製);ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)(いずれも楠本化成社製);ディスコール202、206、OA−202、及びOA−600(多鎖型高分子非イオン系)(いずれも第一工業製薬(株)製);ANTARON V216(ビニルピロリドン−ヘキサデセンコポリマー)(アイエスピー・ジャパン(株)製)。なかでも、ポリアミド系が好ましい。
【0017】
顔料分散樹脂としては、本願出願人による特開2010−1452号公報記載の、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、アミノ基と反応しうる官能基を有する反応性(メタ)アクリレートとを含むモノマー混合物の共重合体において、前記アミノ基と反応し得る官能基とアミノアルコールとの反応により、アミノ基が導入されたものが使用される。
【0018】
該アルキル(メタ)アクリレート共重合体は、以下の方法で得ることができる。第一段目において、炭素数12以上のアルキル基を備える(メタ)アクリレートモノマーを、定法に従いラジカル重合させて式(1)のポリアルキル(メタ)アクリレート主鎖を得、その際、コモノマーとしてグリシジル(メタ)アクリレートを用いる。第二段目において、第一段目で得られた、グリシジル基を有するポリアルキル(メタ)アクリレート主鎖と、アミノアルコールを反応させて得られる。
【0019】
分散剤の含有量は、インクとしての顔料の酸価及び塩基価との関係が、上記式(1)、好ましくは式(2)となるように調整する。通常、1〜10重量%程度である。
【0020】
上述のとおり、式(1)を満たす黒インクは、その電位(P(mV))が、−175〜+175mVであり、より好ましくは、−150〜+150mVである。好ましくは、該電位は、カラーインク、特にシアンインクの電位(P(mV))より低く、下記式(3)の関係を満たす。

−P>100 (3)

斯かる黒インクを用いると、塩基性シアン顔料、例えばフタロシアニン系顔料を含むシアンインクと共に用いて、普通紙上に画像濃度の高いコンポジット黒画像を形成することができる。P≧Pである場合も含め、上記電位差が100mV未満であると、シアン色が黒の上に浮き出したようになり、画像濃度が低くなる傾向がある。この理由は明らかではないが、シアンインクの電位がゼロに近い場合、静電反発による斥力が弱まるため、顔料の凝集が早まり、用紙の表面に定着することが考えられる。
【0021】
より好ましくは、黒インクとシアンインクは、下記式(4)を満たす。

250>P−P>100 (4)

−Pが250mVを超える、言い換えれば、Pの電位が低くなり過ぎると、黒インク単色の濃度が低くなり、コンポジット黒の濃度も低くなる傾向がある。
【0022】
インクの電位は、例えばガラスビーカーにインクを適当量入れ、酸価及び塩基価の測定と同様の電位差計により、指示電極としてガラス電極、及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて、測定される。参照電極の内部液としては、1M塩化リチウムエタノール溶媒を用いる。電位差計としては、種々のものを使用することができ、本発明においては、京都電子工業(株)製の電位差滴定装置AT−400を用いた。
【0023】
式(3)を満たす黒インクとシアンインクの組み合わせを用いることによって、シアンが黒の上に浮き上がることがなく、画像濃度の高いコンポジット黒画像を形成することができる。イエロー及びマゼンタインクについては、任意のものであってよく、好ましくは、黒インクに対して、シアンインクと同様の関係を満たす。
【0024】
カラーインク用顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料を用いることができ、例えば、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等;コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、を用いることができる。2種以上の顔料を組み合わせて使用してもよい。上記式(3)を満たす点から、シアンインク用顔料としては、フタロシアニンブルー(銅)が好ましい。より好ましくは、ポリエステル側鎖を有する含窒素グラフト共重合体をシアンインク用顔料分散剤として用いる。
【0025】
顔料は、その平均粒径が、吐出安定性と保存安定性の観点から300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。平均粒径は、動的光散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0026】
インク中の顔料の含有量は、通常、1〜20重量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点からは、5〜15重量%であることがより好ましい。
【0027】
カラーインク用顔料分散剤は、黒インクに関し上述した分散剤と同様のものであってよい。
【0028】
有機溶剤としては、黒、カラーインク共に、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の非極性有機溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等の極性溶媒、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0029】
脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、日本石油(株)製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxsolD40、ExxsolD80、ExxsolD100、ExxsolD130、ExxsolD140」等を挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、日本石油(株)製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」等を挙げることができる。
【0030】
エステル系溶剤としては、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ラウリル酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなど;アルコール系溶剤としては、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどが挙げられる。これらの溶剤の2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
上記各成分に加え、各インクは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、任意の成分、たとえば、酸化防止剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを適宜添加することもできる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0032】
各インクは、ビーズミル等の分散機に、上記各成分、所望により任意成分、を一括又は分割して加えて攪拌・混合し、所望により、メンブレンフィルター等によりろ過することによって得ることができる。
【0033】
該インクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、最も好ましい。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0034】
本発明の方法を用いるインクジェット記録装置は、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、高速印刷の点で、好ましくはピエゾ方式のものが用いられる。
【実施例】
【0035】
<分散剤樹脂a〜dの合成>
(1)300mlの四つ口フラスコにININ(イソノナン酸イソノニル;日清オイリオ(株)製)70gを仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。次いで、温度を110℃に保ちながら下記組成の各単量体混合物にININ 16.7g、パーブチルO(t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート;日本触媒(株)製)2gの混合物を3時間かけて滴下した。その後、110℃に保ちながら1時間および2時間後に、パーブチルOを各0.2g添加した。
単量体
べヘニルメタクリレート 50g
ドデシルメタクリレート 20g
グリシジルメタクリレート 15g
2−アセトアセトキシエチルメタクリレート 15g
(2)さらに110℃で1時間熟成を行った後、ININ 12.9gで希釈して、不揮発分50%の樹脂aを得た。
【0036】
工程(2)で、ジエタノールアミン(和光純薬工業(株)製)を2.2g添加し、110℃で1時間熟成を行った後、ININ 15.1gで希釈して、不揮発分50%の樹脂bを得た。ジエタノールアミンの量を、5.6g及び8.3gにしたことを除き、樹脂bと同様にして、樹脂c及びdを得た。
【0037】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
表1、上段に示す処方(質量%)に従い、各成分をガラス容器に入れ、これにジルコニアビーズ(φ0.5mm)を入れ、ロッキングミル(セイワ技研製 RM05S型)を用いて周波数65Hzで120分間運転した後、3.0μmのメンブレンフィルターを通して、黒又はシアンインクを調製した。表1における各成分の詳細は以下のとおりである。
MA7(商標):一次粒子径24nm、DBP吸収量60cm/100g、三菱化学(株)製
ソルスパース11200(商標):塩基性分散剤、ルブリゾール社製
ソルスパース28000(商標):塩基性分散剤、ルブリゾール社製
S5000(商標):顔料誘導体、ルブリゾール社製
オレイン酸メチル:花王社製
AF6(商標):ナフテン系溶剤、新日本石油(株)製
【0038】
顔料、分散剤樹脂、及び得られたインクについて、以下の測定を行った。
(1)酸価、塩基価の測定
<顔料>
三角フラスコに、カーボンブラックを2g秤量し、10−2Nの過塩素酸4−メチル−2−ペンタノン溶液30mlを加え、20℃に制御した超音波洗浄器中で、1時間、超音波分散した。この分散液から、カーボンブラックを遠心分離して得た上澄み液10mlを、4−メチル−2−ペンタノン100mlで希釈した後、10−2N水酸化カリウム2−プロパノール溶液で逆滴定し、消費された過塩素酸の量を求め、単位重量当たりの塩基量(meq/g)を計算した。酸価は、10−2Nの過塩素酸溶液30mlに代えて10−2NTBAH溶液30mlを用い、10−2N塩酸の2−プロパノール溶液で逆滴定した事を除き塩基価と同様にして、消費されたTBAHの量を求め、単位重量当たりの酸量(meq/g)を計算した。
<分散剤樹脂>
分散剤樹脂2gを4−メチル−2−ペンタノン100mlに溶解し、10−2N塩酸の2−プロパノール溶液で滴定した。中和に要した塩酸溶液の量より樹脂の塩基量を求めた。酸量は、10−2N塩酸の2−プロパノール溶液に代えて10−2N水酸化カリウム2−プロパノール溶液で滴定した。中和に要した水酸化カリウム溶液の量より、分散剤樹脂の酸量を求めた。
滴定は、総て電位差滴定装置AT−400(京都電子工業(株)製)により、ガラス電極、及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて行った。
【0039】
(2)電位の測定
ビーカーに、黒インク又はシアンインクを50ml入れ、攪拌しながら、電位差滴定装置AT−400(京都電子工業(株)製)により、ガラス電極、及び参照電極として銀−塩化銀電極(内部液1M塩化リチウムエタノール溶媒)を用いて測定した。
【0040】
(3)画像濃度
23℃、湿度50%の環境下において、記録解像度が300dpiであるピエゾ型インクジェット記録ヘッドを使用して、1ドットあたりの吐出量30plで、理想用紙薄口(理想科学工業(株)製)上に、黒単色印刷、又は、黒とシアンインクを同時に吐出するコンポジット印刷により、ベタ画像を印刷した。得られた画像の画像濃度をマクベス反射濃度計(RD920、グレタグマクベス社製)を用いて測定し、下記基準により評価した。C以上であれば実用上問題はない。

【0041】
(4)粘度
23℃において、ハーケ社製応力制御式レオメータRS75(コーン角度1°、直径60mm)を用いて、0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度を測定した。
【表1】

【0042】
表1から分かるように、本発明の式(1)を満たさない黒インク(比較例1〜4)では、画像濃度が低く、特に式(3)を満たさない黒インク(比較例3及び4)は、シアン色が浮き上がっていた。これに対して、実施例のインクは、単色黒もコンポジット黒も濃度が高く、なかでも式(4)を満たすインク(実施例3〜6)は、濃度が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の方法に従いインクを選択することにより、非水系インクジェット印刷において、濃度の高いコンポジット黒を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒インクと少なくとも一のカラーインクを同一の走査で吐出させる非水系インクジェットコンポジット印刷において、印刷濃度の高い画像を得る方法であって、該黒インクとして、顔料、顔料分散剤及び溶剤を含み、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、該顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、下記式(1)を満たす黒インクを用いることを特徴とする方法。

|WΔ+WΔ|<3.0 (1)

(ここで、Δ=P−P、Δ=D−D、Wはインク中の顔料の質量%、Wはインク中の分散剤の質量%であり、P、P、D、Dの単位はmeq/gである)
【請求項2】
前記黒インクが下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の方法。

|WΔ+WΔ|<1.0 (2)
【請求項3】
少なくとも一のカラーインクがシアンインクであり、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、黒インクの電位(P(V)mV)と、シアンインクの電位(P(V)mV)が、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の方法。

−P>100 (3)

【請求項4】
黒インクの電位(P(V)mV)と、シアンインクの電位(P(V)mV)が、下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項3記載の方法。

300>P−P>100 (4)
【請求項5】
黒インクと少なくとも一のカラーインクを同一の走査で吐出させる非水系インクジェットコンポジット印刷用のインクセットであって、該黒インクが、顔料、顔料分散剤及び溶剤を含み、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該顔料の酸価(P)及び塩基価(P)、該顔料分散剤の酸価(D)及び塩基価(D)が、下記式(1)を満たし、

|WΔ+WΔ|<3.0 (1)

(ここで、Δ=P−P、Δ=D−D、Wはインク中の顔料の質量%、Wはインク中の分散剤の質量%であり、P、P、D、Dの単位はmeq/gである)
少なくとも一のカラーインクがシアンインクであり、指示電極としてガラス電極を及び参照電極として銀−塩化銀電極を用いて測定される、該黒インクの電位(P(V)mV)と、シアンインクの電位(P(V)mV)が、下記式(3)

−P>100 (3)

を満たすことを特徴とするインクセット。
【請求項6】
黒インクの電位(P(V)mV)と、シアンインクの電位(P(V)mV)が、下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項5記載のインクセット。

300>P−P>100 (4)

【公開番号】特開2012−11740(P2012−11740A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152828(P2010−152828)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】